このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

お知らせ

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内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。



2024年9月17日火曜日

私のスリップス対策 2024

スリップス(アザミウマ)雑感

私のハウスにもスリップスがいます。春は黄色粘着トラップにいっぱいくっ付いたし、白や明るいピンクの花の中にもいます。濃赤系の花にはいませんね。授粉のために花粉を採取するとき、例えば花弁数40の高芯のバラなら、2〜30枚を外した頃からスリップスが飛び出してきて、指で潰そうとしてもピョンと跳ねて逃げます。花芯の深いところ=蕊(しべ)の周辺に潜んでいるようです。

私の環境では、花弁数が少ない平咲き品種は高芯咲き品種よりも頭数が多いようで、濃赤系でも、平咲きやカップ咲きで黄金色の雄ずいが綺麗な花にはスリップスが潜んでいます。そのような花でも一見して特に被害があるようには見えないのが逆に怖いと思います。

ふと10年も前のことを思い出しました。 当時私は福岡県立・福岡魁誠高校の非常勤講師として、生徒さんたちと一緒にバラの栽培をしていました。育てたバラでジャムなどの地域特産品を作る総合学習の時間です。高校がある地域は、戦後いち早くバラの切り花栽培を始めた、西日本有数の生産地でした(残念ながら過去形)。

2015年10月のページ:「美しい 10月」の中にその記事があります。

  • 10月  2日:自分たちが栽培したバラで「バラジャム」作り
  • 10月23日:NHK総合「おはサタ!」取材
    *取材の都合で作業場で加工していますが、実際は衛生管理された調理室でバラジャムを作ります。
  • 10月24日:NHK総合「おはサタ!」で、無農薬栽培のバラと、それで作った「バラジャム」が紹介されました

品種は師匠デービッドさんに教えてもらったERです。赤花ですが、香りに誘われるのか、数は少ないけどスリップスが来ます。もちろん化学農薬は一切使いません。清潔で、安全・安心なバラジャムを作るために、害虫や病気にどう対処するか。

放送で紹介されると多くの反響があったのですが、その中に、『無農薬栽培できれいなバラが咲くはずがない』とNHKに電話をかけてきた方があったんだそうです。 ・・:p

 「きれいなバラ」の基準が違うんでしょうが、無農薬栽培なら そのまま生でも食べられるほどきれいなバラ が咲くんですよ。

放送ではスタジオに持ち帰ったバラを、レポーターとキャスターが実際に "生食" しました。もちろんそれは安全性に対する "しつこいほど徹底的なリサーチ" があってのことです。報道にかけるNHKの姿勢を見直しました。

NHKの他にも、民放局や新聞社(一般紙・農業新聞)、雑誌社の取材も。ちなみに、地元企業がこのバラで作ったローズビネガーが、フードグランプリ(東京ビッグサイト)・ビバレッジ部門で "グランプリ" を受賞しました。

あれから10年。この間、多くを学び経験しましたが、混迷の度は増すばかり:p 「私は何をしているのだろう」と自問せざるを得ませんが、今は、かすかに予感するゴールに向かってひた走るのみ ・・です。


スリップスの防除

閑話休題。今栽培しているのは食用バラではないけれど、8月23日の:ChatGPTがアドバイス「バラのスリップス対策」 質問6 へのChatGPTの回答と、高知県農業技術センター が推奨するスリップス対策を参考に、自分でもできそうなことをリストアップしました。これで準備万端、かな?

参照:ミカンキイロアザミウマ(症状 発生条件 対策)|こうち農業ネット

現状

育苗ハウスは実生苗の二番花が花ざかり。白花系を数輪、花弁を外して調べてみたが、スリップスは目視できなかった。これまで農薬の散布は不定期で、殺虫剤は、8月に一度「スピノエース顆粒水和剤」を散布している。

秋になって周囲の雑草は枯れ始めているが、バラは新鮮な枝葉が伸び始めたので、スリップスはこれを目指して集まってくるのだろう。庭植えの開花したバラ(無農薬栽培)にはスリップスが跳梁跋扈しているのを目撃。

耕種的防除

  • 雑草にも寄生するので、ハウス周辺の雑草を除去する。これはハダニ対策にもなる。
    雑草に覆われた私の畑では、赤とんぼ(アキアカネ)がたくさん飛び回っている。これは雑草から飛び出したスリップスを含む羽虫(翅によって飛び回る小型昆虫類)を捕食しているのかも。
  • 花殻や落ち葉、咲かせる予定のない蕾は早めに除去し、ハウス外に持ち出して処分する。
  • ハウスの側面や入り口などの防虫ネットを点検し、野外からの侵入をつとめて防止する。私のハウス内では中央部よりも周辺部の密度が高いので、1mm目合いの防虫ネットを潜り抜けて侵入している可能性が高い。
  • 蛹化を少しでも防止するために、鉢土表土をできるだけ頻繁に浅く中耕する。表土の交換も意識している。

  • ホリバー:高性能粘着トラップ(イエロー・ブルー) | アリスタ ライフサイエンス㈱ を設置し、成虫の早期発見と捕獲に努める。同社によれば、ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマなどのアザミウマ類の捕獲用としてはブルーを推奨しているが、私の場合、捕獲数の95%はイエローなので、その大部分はアザミウマ以外の、例えばハナバエ類やアブラムシ類などの有翅成虫なのかも。
    参考:ハナバエ図鑑|岐阜聖徳学園大学教育学部川上研究室

  • 粘着トラップによるモニタリングの判断は意外に難しい。この春はバラ仲間からいただいたイエローの新製品を育苗ハウスで試用したが、設置して2週間の捕獲数はほとんどゼロ。この結果から、有翅虫の密度は低いと判断したのは早計で、ある時期から徐々に増え始め、その2週間後には激増した。完全に手遅れ状態になってしまった。粘着トラップに捕獲された虫は何種類もあって、変形し変色しているので、目視で種類を特定するのは容易ではない。
 9月19日追記:ホリバー粘着トラップ(イエロー・ブルー)を設置した。
  • ハウスの通路上部にステンレス針金を張り、黄青交互に約80㎝間隔で設置。新梢は現在平均20㎝で、すぐに80㎝になるが、剪定位置が不揃いなので、設置する高さの調整が難しい。昇降式だと便利なんだけど。。
  • 9月25日追記:設置から1週間後。イエローのシートにはスリップスらしき小さな虫が、1シートの片面に平均3匹程くっ付いている。殺虫剤散布のタイミングなのかも。

薬剤による防除

多発してからの薬剤防除は難しいので、発生初期の防除に努める。「こうち農業ネット」の情報によれば、ミカンキイロアザミウマの場合、1世代に要する期間は、25℃で約12日、30℃で約10日と短いので、これから開花までの期間に少なくとも3回程度の散布が必要になってくると思える。

散布予定の殺虫剤:

「ダントツ水溶剤」の有効成分 "クロチアニジン" は、EUでは使用禁止になったネオニコチノイド系。
強い浸透移行性と長い残効性で幼虫の密度を抑制する 効果があるが、環境への影響も大きく、できれば使いたくはないのだけど。。蕾や花の深い部分に侵入した幼虫の駆除のために、とりあえず準備はしている。

『ネオニコ系殺虫剤は使わない』ときっぱり断言するバラ栽培者もいるのに、自分はなぜ逡巡しているのか、禁止薬物(EU / 下記)を使ってまで、何を実現しようとしているのか。

参考

RACコード(農薬の作用機構分類)|農薬情報局|JCPA農薬工業会
現時点で 最新の「コード表日本版」 が掲載されています。日本版には農薬名が掲載されているので便利です。

RACコード別農薬名(有効成分名・商品名)一覧

シンジェンタ「薬剤耐性・抵抗性管理」 | シンジェンタジャパン㈱
このページには、『薬剤耐性・抵抗性管理の考え方に基づく防除には、作用機構が異なる複数の有効成分の混合剤 を使用することも有用』と書いてありますが、その効果やバラが受けるストレスの程度はどうなんでしょう?

殺菌剤+殺虫剤の混合は珍しくありませんが、殺スリップス剤の二種 or 三種混合は試したことがありません。 これはChatGPTに質問することではなく、自分で確かめればすむことですね。モニタリングの結果次第では試してみようかな。
ネオニコチノイド系農薬問題の概要|㈳アクト・ビヨンド・トラスト
ネオニコチノイド系の殺虫剤の使用について考えるために参考になるサイトです。下記「考察」で触れる、アセチルコリン(神経伝達物質)とアセチルコリン受容体、それにネオニコチノイドが作用して、神経伝達を撹乱させる(神経毒)メカニズムがわかりやすく説明されています。

ダントツ水溶剤(クロチアニジン)以外にも、バラ栽培に使われることも多い ベニカXガード粒剤(クロチアニジン)ベストガード水溶剤(ニテンピラム)スタークル粒剤(ジノテフラン)は、いずれも "IRACグループ4Aのネオニコチノイド系殺虫剤" です。ネオニコ系殺虫剤は他にもありますが、 住友化学㈱の製品が目立ちます。

考察

ここではネオニコチノイド系殺虫剤の使用の是非ではなく、使用予定の殺虫剤の作用機序について考察します。

IRACグループ:4Aのネオニコチノイド系 クロチアニジンと、IRACグループ:5 スピノシン系 スピノサド は、いずれも ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR) をターゲットにし、神経伝達を攪乱する作用をします。

スピノサドが有効成分の「スピノエース顆粒水和剤」は、有機農産物の日本農林規格(有機JAS規格:JAS法)に定められた有機栽培に使用可能な殺虫剤であるのに対し、アセタミプリド以外のネオニコチノイド系殺虫剤は、EUでは使用禁止になっています。この大きな差はどこから生じるのでしょう?

これは アロステリックモジュレーター(調節因子) |Wiki の違いによるのだろうと思いますが、その詳細がわかりません。ChatGPTに質問してみましょう。

ChatGPTロゴ ChatGPT:興味深い質問ですね。スピノサドとネオニコチノイド系殺虫剤はどちらもニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)をターゲットにしていますが、その作用機序にはいくつかの重要な違いがあり、これが規制上の扱いの違いに影響していると考えられます。

1. 作用機序の違い:
ネオニコチノイド系殺虫剤(IRACコード: 4A)は、nAChRのアゴニストとして作用し、受容体を過度に活性化させることで神経伝達を攪乱し、最終的に害虫を麻痺させます。これらは受容体の特定の部位に結合し、持続的な興奮を引き起こします。

一方、スピノサド(IRACコード: 5)は、nAChRに結合しますが、ネオニコチノイドとは異なる部位に作用します。スピノサドはアロステリック部位に結合し、受容体の反応を変化させることで神経伝達を妨害します。このアロステリック調節の違いが、受容体に対する作用の選択性や影響範囲に関わっている可能性があります。
2. 安全性と生分解性:
ネオニコチノイド系は、特に蜂などの非標的昆虫に対する毒性が高く、環境中での残留性も高いことが指摘されています。そのため、EUでは多くのネオニコチノイド系殺虫剤の使用が制限されています。

これに対し、スピノサドは有機物質から生成され、環境中で比較的速やかに分解されるため、非標的生物に対する影響がより少ないとされています。この特性が、有機農産物の日本農林規格(JAS規格)において使用が許可されている一因です。
3. アロステリックモジュレーションの違い:
スピノサドがnAChRのアロステリック部位に作用するため、神経伝達に対する影響がネオニコチノイド系と異なる可能性があります。特に、スピノサドのアロステリック作用は、標的とする昆虫種に対して高い選択性を持ち、非標的昆虫への影響が少ないことが報告されています。この選択性の違いが、EUなどの規制においてスピノサドがより受け入れられている理由の一つかもしれません。

詳細なメカニズムについては、研究によって少しずつ明らかにされていますが、アロステリックモジュレーターの特定の作用点の違いが安全性と選択性にどのように寄与しているかを解明するためには、さらに深い分子レベルの研究が必要です。

これまではキーワードを手掛かりに「検索」でシコシコと調べていましたが、時間がかかる割には要領を得ませんでした。このような質問にも即答するChatGPTの能力の高さに、ただただ感心するばかりです。「アロステリックモジュレーターの特定の作用点の違い」を詳しく聞きたかったのですが、賢いChatGPTは断定を避けつつ、「詳細なメカニズムについては (snip) さらに深い分子レベルの研究が必要」と、きれいに交わされてしまいました:p

私は『ネオニコチノイド系殺虫剤はEUでは使用禁止』と書いていますが、ChatGPTは『EUでは多くのネオニコチノイド系殺虫剤の使用が制限』と言っています。EUで現在使用が認められているネオニコチノイド系農薬はアセタミプリドのみで、その他は "実質的に禁止" なんですが、慎重に言葉を選ぶChatGPTの賢さ(回答の正確さ)がわかる内容です。
なお、アセタミプリドが有効成分であるネオニコ系殺虫剤は、国内では モスピラン顆粒水溶剤 | 日本農薬㈱  があります。


秋花のための剪定で枝葉を剪り詰めた今が防除のチャンス。春に目撃したスリップスを思い返しながら、できる限りの対策を‥と考えています。

 ハウスの入り口で風に揺れながら、飛び込んできそうな羽虫に睨みをきかすオニヤンマ・モドキ
これをプレゼントしてくれた息子の話では、羽虫はトンボの姿にビビって逃げるらしい。 :p