このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2024年4月21日日曜日

春の開花 交配4年目のスタート

春の花が咲き始めました。

 あけぼの
 魅惑

この数年、春は交配に専念しています。今年で4年目ですが、過去3年の例では5月に咲いた花は稔性が落ちるので、今年は少し早く咲くように剪定時期を前倒し、1月下旬を中心に、すべての品種を2月11日までに剪定し終えました。

「春一番花の開花時期を決定づけるのは、剪定後の日平均気温の積算温度だけではなく、日長がより重要なファクター」というのが私の怪しげな見解。別の言い方をすれば、「剪定時期を多少ずらしても、春の一番花は毎年ほぼ同じ時期に咲く」ということ。なので、剪定を早くすることで開花時期を早めるというのは基本的に矛盾しているんですが。でも、積算温度を完全に無視しているのではないから、実際はどうなのか? 今年は肥培管理の方法を大きく変更したこともあり、観察と苦手な記録を怠ることなく・・と思っています。

2024 交配スタート

今年最初に咲いたのは「コンフィダンス」。もともと早咲きの品種ですが、短いステムにダブ芯で咲いてしまいました:p なので花の写真は撮りませんでしたが、パンクした花弁を取り去ると、そこには wonderful な世界が。

 コンフィダンス
 ロイヤル ハイネス

バラの栽培でいちばん楽しいこと

バラの交配(育種)を意識するようになったのは、2012年に かのやバラ園 で開催されたデービッド・サンダーソンさんの年間講座に参加したのがきっかけです。そのときのブログ記事:「バラの交配 初めの一歩」から、一部を引用。

デービッドさんに、『バラの栽培でもっとも楽しいことはなんですか?』と質問したら、「交配してできたタネを播種し、それが発芽して育っていくのを見守る時」という答えが、見守る様子の再現(少年みたいでかわいかった)とともに返ってきました。

それから10年が経過し、2021年に最初の交配を試みました。その年はビギナーズラックだったのかまずまずの数の( "質" ではない)花が咲きましたが、2年目は不調。以下は昨年秋に咲いた、この2年間の試作品種の一部です。

試作4品種
 試作品種 12月2日
試作3品種
 試作品種 12月7日
  1. 交配品種−1 (種子親:ロージークリスタル 雪まつり)
  2. 交配品種−2 (種子親:ジェミニ ロージークリスタル ダイアナ メルヘンケーニギン)
  3. 交配品種−3 (種子親:イーハトーブの風 ダイアナ 手児奈)

現在、これらの無名品種は100株(品種)ほどが実生苗のまま地植えされ、品種の特性を見るために、無農薬・有機肥料のオーガニック栽培で、前ページで紹介した "let nature run its course" が進行中です。そのうちの約50株はデービッド接ぎもされて、ポットで育っています。いずれもまもなく開花を迎えます。

昨2023年は(一昨年の不調を反省し)141の交配から50個のローズヒップを収穫して1300粒を播種。その中から現時点で200が発芽しています。3月下旬から毎日少しずつ発芽しますが、それを数えたり、初生葉(双葉)に続いて本葉(3枚葉)が展開していく様子を見るのが何よりも楽しいこと。デービッドさんもこうだったのかなと想像しながら。

播種は96穴のプラグトレーを使っています。それを育苗箱に入れ、底面給水です。このようなセットが14個。写真は発芽数の多いトレーを撮っていますが、まったく発芽していないグループも 少なからず  たくさんあります。

育種は奥が深そうだが、交配は簡単?

交配や育種についてデービッドさんから最初の手解きを受けたとき、『こんな楽しいことはガイドブックなんか読まずに(先入観を持たずに)、失敗は覚悟の上で自分でトライしよう』と考えました。読んだのは唯一、東京都立園芸高等学校のページ(タイトル不明)「都立園芸高校 バラ園公式HP」です。

講師の野村和子さんは、NPO法人バラ文化研究所理事で、オールドローズのオーソリティ。私もその著書を持っています。また、鈴木省三氏の秘書として永年ご活躍されたことも有名ですね。なので、ここに紹介されている育種方法は、数多くの銘花を作出された鈴木省三氏(同校の卒業生)の直伝である可能性が高いと思われます。前半で紹介される「5万種子を播種、2万株発芽」は鈴木省三氏の実例なんでしょう。

もしこのブログを見て育種に関心を持たれたなら、この東京都立園芸高等学校のページをご覧ください。育種の概略を知るのに参考になると思います。

しかし、ヘソ曲がりの私はこの方法の "猿真似" はしません。したがって(当然ながら)自分では容易に解決できない問題が山積し、「育種」に至る前段階で失敗の連続:p

 交配後、萼筒に輪紋が現れ、拡大する
 その内部 子房の腐敗が始まっている

これまで3年間の実績は、結果率(収穫できたローズヒップ/交配した数)は25%程度。今年の発芽率(発芽数/播種数)は200芽/1300粒=15%。納得のいくレベルではありません。以下は問題の把握に苦慮する記録(過去記事の一覧)です。同じ轍は踏みたくないので、自分の方法を見直すために一覧表にしました。

バラの交配 過去記事
投稿日タイトル主な内容
2012年6月30日バラの交配 初めの一歩
  • 交配のテーマをきめる
  • バラの栽培でいちばん楽しいこと
2021年4月30日バラの交配・1
  • 最初の難関 「三倍体」
  • 蕊(しべ)の様子
    ロージー クリスタル ロイヤル ハイネス
5月  5日バラの交配・2
  • 花の器官とABCモデル
  • ホメオティック遺伝子
5月12日バラの交配・3
  • 八重咲きの花弁は雄蕊(おしべ)が変化したもの
  • 花の中に花が咲く?
5月21日バラの交配・4
  • 育種|都立園芸高校 バラ園公式HP
  • 交配に必要なもの
5月23日バラの交配・5
  • 受粉に失敗
  • 受粉に成功か
8月19日バラの交配・6
  • 色づき始めたローズヒップ
  • 枯れてしまったローズヒップ
9月13日バラの交配・7
  • 失敗の原因は 雑菌?
  • もしかして、授粉そのものに失敗?
9月18日バラの交配・8
  • 子孫を残すのは簡単なことじゃないんだ
  • "William Adams" の自然受精したものが自然に落果
2022年2月19日バラの交配・9
  • 採種
  • 発芽抑制物質の水洗
  • 播種
4月29日バラの育種 2022 1. 花粉の採取
  • 花粉親「あけぼの」の場合 [YouTube]
  • 種子親「魅惑」の場合 [YouTube]
  • 意外に少ない花粉の量
  • 自家不和合性
  • 雌雄異熟と花粉の保存可能期間
5月 3日バラの育種 2022 2. 授粉
  1. 乾燥した葯から花粉を取り出す
  2. 雌ずいの状態を確認する
  3. 授粉する [YouTube]
  4. 交配親を記したタグを付ける
5月 5日バラの交配・10
  • 交配してできた種子の発芽数
  • 発芽率 Best 3|変異株
  • 開花に要する時間がバラついた原因は?
  • 「自家不和合性」について
5月 7日バラの交配・11
  • バージンフラワーの開花
5月10日バラの交配・12
  • バージンフラワー第2陣
5月17日バラの育種 2022 3. 授粉 終了
5月30日バラの育種 2022 4. 授粉失敗の原因と対策
  • 症状
  • 原因を探す
  • 対策
10月12日バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ
  • 現況
  • 失敗の原因
  • 昨年の交配株 その後の成長
2023年9月10日ローズヒップの収穫 スタート
  • 順調に生育しているローズヒップ 形や熟度は様々
  • 黒化したヒップ内の種子 未熟、完熟
    それとも過熟?
  • ローズヒップのまま冷蔵保存 と 春化
  • "駄花" なんてあるのかな?

これはほとんど独学で交配を試みた3年間の記録で、検証も極めて不十分、たぶん多くの間違いがあるでしょう。その一例:2022年5月3日の「バラの育種 2022 2. 授粉」で、『交配した後の "袋がけ" は有害無益』と言い切っています。もちろん私なりの論拠があってのことですが、でも今はそうは考えていません。記事はそのままで、訂正はしていません。批評的に読んでいただければと思います。

"駄花" なんてあるのかな?

上記のように、これまでは「交配」に関する栽培技術の問題に終始し、「育種」に関してはほとんど手付かずでした。
2022年10月の 「バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ」 に、それまでに咲いた花の印象を記述しているので、その一部を(加筆して)引用します。

これまでにも生育が良くない株を処分してきて、現時点で74株残っている。幼苗だし、夏の花なのでまだ判断するのは早計だが、花型や花弁数、色は様々。中には『おっ!』と思わせる花もある。しかし概括的には以下のような特徴がある。

  • 花弁数が少なく、弁質が弱い(薄い)
  • 剣弁が多いのに、芯が低く平咲きになり、花型が乱れがち。高芯になっても、胴の締まりが悪い
  • ニュアンスカラーが多く、"昭和のバラ" という古臭い印象
  • バラの命とも言える "芳香" がない(弱い)
  • 一季咲き品種がかなりの割合で生まれる(先祖返り?)
  • うどんこ病に弱い。極端に弱いものもある
  • 「矮性」というか、成長が遅いものがある。逆に、つるバラのように伸びるものもある
  • MADSボックス遺伝子"(Wiki) の異常による "ABCモデル"(Wiki) の乱れ(写真:下右)

長年にわたり交雑を繰り返してきたバラは、花の形や色に関する遺伝子が驚くほど多様なようだ。育種初心者の私にとっては、これが面白い。

親とはまるで似つかない "へんてこりんな" 花が咲いた。『個性的で、いいよ!』と褒めてあげよう。

いつの日か "奇跡のバラ" が生まれるか 交配4年目のテーマは?

このように咲いた花を見ながら、公開されているバラの "完成度の高さ" を思い知らされます。デービッドさんから、『大切なのは、交配の "テーマ" を決めること』とアドバイスを受けているのですが、私はそれを見つけることができていません。

2012年6月の「バラの交配 初めの一歩」に書いている私のテーマ;

高温多湿に弱いERの "サマーソング" を(あの色を持つバラを)九州でもきれいに咲かせたい。そのために、交配の相手は暑さにも強い、同じくERの "メアリーローズ" を選ぶ

これはいかにも初心者らしい発想で、バラの育種を、あたかも "メンデルの法則" |遺伝学の歴史|遺伝学電子博物館  のエンドウマメようなものだろうと考えていました:p

もちろん "メンデルの法則" は現在でも間違いではないのでしょうが、バラは2千年を超える交雑の歴史で、その遺伝子は分断されて、複雑に絡み合っているのだそうで、表面に現れる形質も多彩です。 同じ交配親から、まるで違った印象の花が生まれてきます。以下はその実例。

咲き始めたバラのバージンフラワー

交配親は ♀︎ ジェミニ X ♂︎ 香具山 で、同時に生まれた子供たちです。バラが持っている遺伝子の多様性に驚かされます。

 バラの遺伝子数はヒトよりも多いのはご存知でしょうか。
 (研究機関 論文の著者 *数値は諸説あります)

ホモ・サピエンス(ヒト)の遺伝子数 21,306
(ジョンズ・ホプキンス大学 S・サルツバーグ教授 et al.)

ロサ・キネンシス(庚申バラ)の遺伝子数 36,377
(リヨン高等師範学校 M・ベンダマン教授 et al.)

ロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)の遺伝子数 67,380
(かずさDNA研究所+サントリーGIC㈱+名古屋大学)

 ゲノムサイズは、 庚申バラ5億塩基対、ノイバラ7億塩基対に対し、ヒトは31億塩基対です。

これが何を意味するのか、よくわかりませんが:p

ご存じのように、庚申バラ(そのスポーツ)は「四季咲き性」、ノイバラは「多花性」という、いずれも栽培上の優れた形質をバラの世界にもたらしました。

これまでの私の作業は「育種」とは言えません。さほど多くはない栽培品種の中から、たまたまタイミングが合ったものを掛け合わせただけ。そのようにして生まれたこの3花に、上記の特徴がいくつか見えています。

‥ここからどこへ向かおうとしているのか。それは今はわかりません。とりあえずの目標は技術的な失敗を減らすことで、これまでとは少し違う方法を模索中。 いまだ見つけられずにいる "テーマ" は、作業の中で時間をかけて探します。たぶんバラが教えてくれるでしょう。遅々たる歩みながらも、その行程が楽しい のです。