このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2023年12月24日日曜日

2023年秋の ひとりバラまつり(まとめ)

10月28日の「2023年秋の ひとりバラまつり スタート」からおよそ2ヶ月が経過し、今秋のバラまつりは本日で終了。最後の開花は「あけぼの」になった。

あけぼの
 あけぼの 12月24日

バラまつり期間中に撮った写真は、以下のように仕分けて、別ページに移動。

註:言わずもがなですが、これらの写真は "自分にはどう見えたか" を記録したもので、花の形や色などにバラ図鑑的な客観性はありません。栽培に有用な情報もありません。
また、サイズの大きな画像を多用しているので、従量制で課金される通信環境での閲覧はご注意ください。


試作4品種
 試作 4品種 12月2日
試作3品種
 試作 3品種 12月7日
2023年 秋 開花記録(開花日基準)
開花日ハイブリッド ティ試作品種Topic
10月28日メルヘンケーニギン
10月29日1-08-01 1-08-05
10月30日ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス2-53-16 1-N2-01
10月31日2-05-01 2-05-02
2-53-16
11月1日メルヘンケーニギン イーハトーブの風 魅惑1-07-01
11月2日イーハトーブの風 ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス
ホット神崎(二花) 魅惑 クリスチャン ディオール
11月3日ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス(一花 二花)
クリスチャン ディオール(一花 二花)
開花ピーク
ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス
11月4日ジェミニ ホット神崎1-06-04 1-03-05
2-133-12
11月5日フロージン '82 雪まつり ファーストレディ アキエ1-03-03 2-53-09
1-07-01 1-03-05
この日までに全体の約1/3が開花
11月6日魅惑 あけぼの コンフィダンス
フロージン '82(一花 三花)
1-02-02開花ピーク
メルヘンケーニギン フロージン '82
11月7日手児奈 ジェミニ カノープス ホット神崎(一花 三花)
コンフィダンス(五花) フロージン '82
2-133-14 2-133-15
1-03-11
開花ピーク
コンフィダンス ホット神崎
11月8日フロージン '82(三花) 雪まつり あけぼの
11月9日クリスチャン ディオール ガーデンパーティ
ロージー クリスタル
1-03-02 1-03-09
Unknown 1-02-03
11月10日イーハトーブの風 ジェミニ フロージン '82 魅惑
あけぼの ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス
この日までに全体の約1/2が開花
ハウス内の見通しが良くなってきた
11月11日ロイヤルハイネス(一花 三花)1-03-04 1-02-01開花ピーク・ロイヤルハイネス
11月12日蒼い月
11月13日衣通姫2-53-08 2-133-20
11月14日カノープス ロイヤルハイネス
ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス 雪まつり
ジェミニ
1-01-13 1-03-17
1-02-04 2-133-13
2-133-20 1-05-03
11月15日魅惑 手児奈 ロイヤルハイネス ジェミニこの日までに全体の約2/3が開花
少し寂しくなってきた
11月17日1-01-13 1-03-17シュラブなどで盛花の習作
盛花を生けるのは数年ぶり。楽しい
11月18日あけぼの昨夜の強風でハウスの天井ビニールが
大きく破損。X'masのバラは無理かも
11月19日マヌーメイアン 衣通姫 スーパー ロージー
雪まつり メルヘンケーニギン
11月20日雪まつり ロイヤルハイネス クリスチャン ディオール
魅惑
2-133-17 2-133-03
11月21日ラ マルセイエーズ ジェミニ年内に咲く可能性があるHT成株の蕾は
残り100個程度
11月22日ラ マルセイエーズ ジェミニ クリスチャン ディオール2-133-03 2-133-17
11月23日叶絵 ロッシ⁺ ジェミニ1-01-01 1-04-06
1-02-06
11月24日ロッシ⁺(三花)1-04-11
11月25日ロッシ⁺(二花) クリスチャン ディオール
11月26日ジェミニ1-04-09 1-04-11
11月27日カノープス1-03-12ひとりバラ祭り 1ヶ月経過。
残すは "雪まつり" "あけぼの" "手児奈" など
70蕾ほど。直会はしばらく後になりそう
11月28日雪まつり 雪まつり(二花/同2日後)
11月29日蒼い月
11月30日ジェミニ(一花 二花)1-N2-02 1-08-01
12月2日雪まつり(一花 五花)1-N2-02 1-07-02
2-02-03 四花
12月4日ジェミニ ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス
12月5日雪まつり( 五花・投入れ習作) ラ・マルセイエーズ
フロージン '82 ジェミニ
1-08-05 1-03-07
12月6日あけぼの ジェミニ強風で破損したハウスのビニールの
張り替え終了。一安心
12月7日ジェミニ1-07-02 1-01-10
1-02-02 三花
12月8日ロイヤルハイネス 手児奈 メルヘンケーネギン
あけぼの ホット神崎
1-06-01 1-N1-01
1-04-07
12月9日ジェミニ メルヘンケーネギン 雪まつり アンナプルナ開花待ちは30ほど。来年も栽培する品種や
その土替えの時期が気になり始めた
12月10日ジェミニ メルヘンケーネギン2-133-18 1-03-06
2-53-08 2-05-03
2-133-24 1-03-05
1-02-06 1-02-02
12月11日雪まつり ジェミニ  コルデス パーフェクタ あけぼの
12月12日ホット神崎
12月13日イーハトーブの風 あけぼの1-01-08 1-02-02
1-03-13 1-06-05
試作品種の鉢を並べている育苗ハウスに
うどんこ病発生。殺菌剤を散布した。
14日15日は多忙で、ハウスに行けない
12月16日ホット神崎 スーパーロージー 叶絵1-01-03 1-03-06
2-53-09
やっとこの季節らしい寒さになってきた
12月17日手児奈 あけぼの撮影中は小雪が舞った。シャッターを押す
指先が悴む。"冬薔薇" の季節になった
12月18日ロージークリスタル あけぼの
12月19日あけぼの 手児奈1-02-07 1-03-10試作品種の秋の開花はほぼ終了
HT成株の残りは10花程度
12月20日あけぼの
12月22日あけぼの全国的に寒波到来。時折雪が舞う
秋のバラもそろそろ終了
12月24日イーハトーブの風 手児奈 あけぼの(一花 五花)2023年 秋のバラまつり 終了
  • 日付をクリックするとその日のページが開きます。
  • ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス(エレガント レディ)を "ダイアナ" と略記している場合があります。
  • 昨年秋の開花記録は、「2022年 秋のバラ 一覧ページ」

 "花の中に御坐す(おわします)ほとけ" に出会えたのか

今年の秋のバラは良くなかった。佳花が咲かないとバラまつりも楽しいだけではない。苦しく反省することが山ほどある。最も拙かったのは秋口の肥培管理。その記録が、10月7日の記事;「リセットの9月, リカバーの10月」と、その続編の 10月27日;「リカバーの10月 pHとECの推移」に残っている。

このグラフでは数値が見づらいが、EC値(縦軸 / 培養土中の肥料濃度、特に硝酸態チッソのイオン濃度を反映 / 単位:㎲/㎝ )が3回急上昇し、10月15日には極端(3000㎲/㎝超)に上がっている。これはそれぞれの直前に即効性の肥料を与えたから。花芽形成期に施肥するなんてまったく呆れた栽培者だが、その経緯・詳細(本人は、迷いつつも真剣だった)は、前掲ページに記録。

 ECの推移 2023年9月〜10月

失敗の "ほんとうの原因" がどこにあるのか、来年以降の栽培をどうするのか、時間をかけて考えてみたい。先人に頼らず、「失敗から学ぶ」ことが私の流儀なんだから、

"心ひるむことなく(snip)犀の角の如く、ただ独り歩め。" (釈尊の言葉から。10月15日: "そらの サンサーラ" 参照)

・・と、落ち込みそうになる自分を鼓舞:p

バラまつりでは紹介しなかったが、今秋は交配してできたローズヒップがたくさん獲れた。秋口まではそれを優先する管理をしたので、秋の花まで多くを求めるのは欲張りすぎだろう。しかしそうだとしても、やはり自分は栽培が下手だね。特にヤバイと感じるのは、年々ますます下手になってきていること。歳をとるにつれて体力や知力、感受性が衰えるのは致し方ないとしても、それと佳花が咲くかどうかは直接的な関係はないはず。何かもっと大事なものを失いかけているのでは。

ともあれ、花芽形成期に EC=3000㎲/㎝超 というとんでもない環境に置かれても(ごめんなさい)、健気に咲いてくれたバラたちに感謝。 ありがとう。

私はバラに生かされていると思う。それは、心待ちにしている  "花の中に御坐すほとけとの出会い"  とは異なることだが、それもまた ほとけの慈悲 なのかも。

2023年11月12日日曜日

唐杉純夫 2023年秋のばら個展

 熊本県・南関町でバラ栽培を続けてある唐杉純夫さんの「2023年秋のバラ個展」に出品されたばらの一部を写真で紹介するページを作りました。内容は唐杉さんのホームページ「ばらつくりのよろこび」で見ることができます。

唐杉さんは、福岡バラ会や九州バラ研究会、日本ばら会でご活躍された大先輩。ご縁をいただいて、ホームページの制作やばらの写真撮影を手伝っています。

2023年10月28日土曜日

2023年秋の ひとりバラまつり スタート

秋のバラが咲き始めた。今秋最初の一輪は「メルヘンケーニギン」。

考えながら写真を撮りたいので、一斉に咲くのは扱いに困るし、晩秋のバラも見たい。なので、遅かった昨年よりもさらに遅らせて9月15日から27日にかけて剪定。開花はボチボチと11月いっぱい続くだろう。少なからぬ本数が "クリスマスのバラ" になりそう。

 メルヘンケーニギン

今年の ひとりバラまつり

春は「交配」に専念。その後の肥培管理がいい加減で、夏の状態は良くなかった。ボーッとしていて、剪定時にやっとそれに気づく始末で、慌ててリカバーしたが、さてどんな花が咲いてくれるだろう。

今秋は、以前から栽培しているHTだけでなく、交配して咲いた花(交配親はHT)も幾つかお披露目する予定。

この数年来、「コンテスト基準のバラの見方から距離をおきたい」と考えている。気持ちや言葉ではなく、写真を撮りながら "自分なりのバラの世界" を探りたいのだが、難しい。

それはとりも直さず "コンテスト基準" の完成度が高い ということ。70年80年というばら会の歴史の中で、多くの優れた栽培者によって築き上げられてきた世界なので、当然のことなんだけど。 でも、もし薔薇を観る眼までも画一的になってしまったら?

昨秋、熊本県・南関町の唐杉純夫先輩のばら個展を撮影したとき、無意識のうちにコンテスト基準で唐杉先輩のばらを見ている自分に気づき、愕然とした。これはまずい。

 "花の中に御坐す(おわします)ほとけ" や "究極の真理" は、それを見たいと希求しなければ見えないもの だと思う。なので、まずは自分の意識や感性の問題なのだが、自然が相手だし、何を見ることができるのかは見当がつかない。

また、そのような "こだわり" が眼を曇らせる要因かもしれず、己が "感性" などたかが知れているという思いもある。要するに何も見えていないのだが、バラを見つめる時間が楽しいかどうかをとりあえずの基準にして、前に進む。

祭りの後の "直会"(なおらい/自己批評)は、主な品種が咲き終える1ヶ月後になるだろう。それまではノーコメント(言い訳なし)で写真のみを掲載する。いずれの写真もクリックで拡大表示。

2023年10月27日金曜日

リカバーの10月 pHとECの推移

9月と10月の肥培管理の記録。このページは10月7日の記事:「リセットの9月, リカバーの10月」の続き。

この間、二人のバラ仲間がハウスに来られた。栽培状況を見たら、お世辞にでも "何かいいところ" を見つけて褒めるのが挨拶だろうが、お二人からはついにその言葉がでなかった(苦笑)。

ま、言い訳をすると、11月はじめのコンテストに出品される予定のお二人から見れば、11月中旬の開花を目指している私のステムはまだ短いし。。でも、やはり生育が劣っているのは間違いない。原因の考察は花後にするとして、とりあえず今は9月と10月の肥培管理を記録しておく。

概要

  • 鉢植えで栽培している主な19品種(各2〜7株程度)の排水をまとめて、品種ごとにpH(水素イオン濃度)とEC(電気伝導率)を計測。排水を計測するので、培養土が含有している肥料分を正確に反映しているとは言えない。しかし毎回同じ方法で計測すれば、数値はともかく、全体の傾向は把握できるのではと考えている。
  • 同一品種の各鉢は(基本的に)ほぼ同じ施肥量・灌水量。
  • 秋の開花目標は11月中旬。剪定期間は 9/15〜9/27。福岡での標準的な剪定日より1週間〜10日以上遅いと思われる。
  • グラフの横軸は計測日が不定期なので、実際の変化のリズムを正確には反映していない。
  • 前のページ:「リセットの9月, リカバーの10月」に書いたpHを6.5以下にするというのは、無理をしてまで必要なことではないから、10/10にとりあえず断念。灌水用水は(農業用水ではなく)水道水を用い、pHを6.8に微調整。
  • 排水のpHとECを計測する現在の方法では、培養土との誤差が大きいかもしれないと考え、培土に含まれている水分を集める器具 "ミズトール(ポット用)Z" |大起理化工業㈱ を使い始めて、これまでの方法との誤差を確認中。
 ミズトール(ポット用)Z
左の白い"多孔質素焼管" を培土に埋め、強力なシリンジで水分を時間をかけて吸引。
  • 培土が乾き気味だと計測に必要な量を集水するのに一晩かかる。これでは実用的ではないので、排水とミズトールの集水との数値を比較して、その関係を調べている。灌水2時間後(排水は出尽くした状態)と、ミズトールで集水した結果は以下のような傾向を示す。
    • 灌水から2時間後までの排水 pH6.8、EC2140㎲/㎝
    • ミズトール(灌水から2時間後に30分間集水)pH6.5、EC2520㎲/㎝
    ミズトールの集水の方が 低pH 高EC になる。この傾向は毎回同じなので、これを踏まえれば、排水をチェックする簡易な方法でもOKだと確認できた。

pH(水素イオン濃度)

  • 縦軸はpH値で、横軸は日数に比例していないことに注意。クリックで拡大表示。
  • 9月5日以前から一部の品種にMg欠が出ていることに気付いていたので、用水のpHを下げる、あるいはキーザーマグ(キーゼライト/硫酸マグネシウム)を加えるなどで対応していたため、品種間のバラツキが大きい。
  • 9月末は用水のpHを5.5以下にしていたが、無理に急激に下げるメリットはないと考え直し、用水をpH6.5~6.8程度に変更した。そのため10月からは穏やかな変化になっている。
  • 9月30日を底に、再び僅かながら上昇したのは、10月2日と5日の施肥の影響と思われるが、詳しいことは不明。
  • 10月27日にわずかに上昇したのはpH7.2の水道水を使用したから。pH7.0をオーバーしたくないので、今後も徐々に下げていく。

EC(電気伝導率)

  • 縦軸はEC値で、単位は ㎲/㎝ 。1000㎲/㎝ = 1ms/㎝ 横軸は日数に比例していないことに注意。
  • 剪定が終わった株から順次 "リキダス" (1/2濃度)と "ハイポネックス原液" (規定濃度)を施肥。
    9月24日の急上昇はこれの影響。

  • 樹勢から判断して "チッソの吸収不足" が疑われるので、以下のように追肥;

    1. 10/2  千代田化成550 | サンアグロ㈱ (超即効性・高度化成肥料 N:P:K=15:15:10 粉体を液肥化)
    2. 10/7  パワフルアミノ631(ペレット)|昭光通商アグリ㈱ 30㌘/10号鉢 (N:P:K=6:3:1+α)
    3. 10/10  ハイグリーン | エムシー・ファーティコム(ペレット)10㌘/10号鉢 (微量要素)

  • ハイポネックスと千代田化成(いずれも液肥)のECの予想以上の下降の速さに驚かされる。これは "肥効が持続しない" ということ。
    パワフルアミノ631はペレットなので、最初しばらくは上昇し、その後ゆっくり下降する。
  • 当面のEC値を 2000㎲/㎝ に設定。例年ならこの時期は 1500㎲/㎝ 程度で、開花期に向かって1200㎲/㎝ 程度に、ゆっくり下がっていくのだが。。。
  • 肥料過多、特にチッソ過多の場合は三枚葉に「八手葉」が出る。すでに幾つか目につくようになった。一部の品種は新葉も超デカい:p しかしうどんこ病もなく、葉はとてもきれい。

考察

上のグラフから、今秋の生育状況が特徴的な4品種をピックアップしてみる(グラフの配色が上図とは異なる)。

  生育状況
    良好:フロージン'82(黄緑)
    普通:メルヘンケーニギン(灰)
    不良:コルデスパーフェクタ(橙)
    劣悪:ロージークリスタル(青)
      ーー:全19品種の平均値(赤)
  
  • ロージークリスタル(青) は新芽が動かず、高ECの悪影響がモロ高ECだと新芽が動かないことに初めて気付いた。
  • フロージン'82(黄緑) の生育は良好で、私の環境・方法では、例年と同じこの程度のECが適当だと再確認。

  • 10/7の時点で全株平均(赤) のECは1616㎲/㎝。これはこの時期としては標準的な数値。なので、10/7のパワフルアミノ631と、10/10のハイグリーンは過剰な施肥だったかもしれない。その結果3514㎲/㎝まで急上昇。
    追肥したのは、全株のステムの中にはかなり弱小なものも少なからずあったので、迷った挙句の判断。結果はバラが教えてくれる。

  • 10月28日追記:この秋、最初に咲いたのは メルヘンケーニギン(灰) 。これを次のページ:「2023年 秋のバラ 10月28日」で紹介している。高ECの影響が出ているのかどうか、微妙。 ・・たぶん出ているのだろうが、どうしても贔屓目に見てしまって、自分では判断できない:p

解決できていない疑問

  1. 9月13日の全株のEC平均値は 1713㎲/㎝
  2. これに、リキダス(1/2濃度)=EC1401㎲/㎝ と ハイポネックス原液(規定濃度)=EC1218㎲/㎝ を 灌水で施肥
  3. その結果、24日には 全株の平均値で 2372㎲/㎝ に上昇

元よりも低いEC値で灌水したのに、排水のEC値は元よりも高くなる。これは今回だけではなく毎回同様で、なぜこのように変化するのか、その理由がよくわからない。培養土にはゼオライトを多めに入れているので、その影響(効果)なのか?

もしかしたら、私が認識できていない化学反応が起きてイオンが生成されているのか、あるいはこれがイオンの特性なのかも。


千代田化成550 液肥の作り方

水道水1ℓ に千代田化成550を100㌘投入。水溶性だが、完全には溶解せず薄茶色に濁る。よくシェイクした原液60㎖ を、8ℓ ジョウロに入れ農業用水で希釈。pH6.8, EC1500㎲/㎝ 程度になるので、これを灌水に使う。やや高濃度なので、80㌘がいいかもしれない。

千代田化成550は NPK以外を含まないため、微量要素も加えるなら、水道水1ℓ に千代田化成550を80㌘+ハイグリーン20㌘を溶かせば、使用液でpH7.0、EC1300㎲/㎝ になる。

参考:「温室バラロックウールを利用した溶液栽培」|谿 英則・長谷川清善|滋賀県農業試験場研究報告第34号pdfファイル

この中で、「水耕栽培で、バラはアンモニア態窒素を優先的に吸収し、培養液の総窒素量中に占めるアンモニア態窒素の割合が25〜50%のときによく生育し、チッソ吸収量も多くなる」という、竹田・片岡の研究結果を紹介している。

千代田化成550のチッソ成分はアンモニア態チッソのみ、瞬発力を期待するのには良いかもしれないと考えて、過去数年間この時期にのみ使用している。10月2日に、これを溶かして灌水に混ぜて全株に使用。当然ながら一気にECが上がり、そして急速に下がった。まさに緊急対策用。

「千代田化成」をこの時期の芽出し肥に使うことは、北九州グリーンパークバラ園の小林博司先生に教えてもらった。JAで購入できる。「発売開始から90年」という超ロングセラーの高度化成肥料で、本来は水稲の追肥用なのかも。地植えのバラに使用する場合は薄く均等に散布し、すぐに大量の灌水をするのがポイント。鉢植え向きではない。

パワフルアミノ+ハイグリーン

あらかじめ予定していたパワフルアミノ(窒素全量6%、内アンモニア態窒素3%)とハイグリーンを、粒状のまま施肥。これも自分にとっては定番の肥料だが、肥料バランスが崩れてしまったように思えるこの状態を、どこまで回復できるものなのか。


失敗から身を以て学ぶバラ栽培

いつも一人で「犀の角」を気取っていると、どうしても眼が鈍って判断を誤る。 このような状況で、どんな新葉が展開し、どんな花が咲くのか、最後まで見届ける。明日10月28日にはこの秋の最初の花メルヘンケーニギンが一輪咲く。今日はハウスの中に撮影セットを仮設した。『バラ栽培は楽しく』という、グリーンパークバラ園・小林先生の言葉が脳裏をよぎる。

2023年10月20日金曜日

唐杉純夫 2023年秋のばら個展・ご案内

唐杉純夫さんは、福岡バラ会や九州バラ研究会、日本ばら会でご活躍された大先輩です。熊本県南関町で、今もお元気にバラ栽培を続けてあります。

秋のばら個展のご案内

これは唐杉さんの「2023年秋のばら個展」のご案内ポストカード(原稿)です。

唐杉純夫 ホームページ「ばらつくりのよろこび」

「南國のばら作り、あれこれ」

私は唐杉さん個人や、唐杉さんが参加されていた九州バラ研究会の、バラ栽培についての意欲やユニークな発想に憧れ、遅ればせながらせめてその一端にでも触れさせていただけたらと、唐杉さんのウェブページ制作などを手伝っています。

唐杉さんのホームページに掲載した「ばらと遊ぶ12ヶ月」に加えて、それに先立つ1999年(平成11年)に日本ばら会の会報「ばらだより」に6回にわたり連載された「南國のばら作り、あれこれ」を追加しました。内容は、トップページの「Ⅳ ばらについての著作」の表をご覧ください。

2023年10月15日日曜日

そらの サンサーラ

「自分はどこからきてどこへいくのか。自分はなにものなのか」

 "サンサーラ" は サンスクリット語またはパーリ語で、原義は「彷徨うこと、歩き回ること」
仏教では「輪廻転生」を意味する。

このブログのページビュー数が50万を超えた。 が、その実感はない。継続することの苦手な自分が、ブログは何度かの長い中断がありながらも、バラ栽培を12年間も続けてきたことに驚く。

"50万ページビュー" というのは、自分が見た回数をカウントしない "Block Cookie" を設定しているので、ほぼ実数。閲覧者の多くはスマホを使って検索サイトから来られるのだが、"デービッド接ぎ" 以外は、たぶん探してある情報は見つからないだろうし、"スマホフレンドリー" ではないことも気になる。が、このサイトには別の目的がある。

「ローズそらシド」の最初の記事は、今から12年前 2011年7月の「ブログなんか大嫌い」。そこに自分がとりあえず進む方向らしきものを書いている。

『表現に値する自己などあるのか?』と自分自身を嘲笑しつつも、私が探し求めているテーマは、バラの栽培方法ではなく、「自分はどこからきてどこへいくのか。自分はなにものなのか」ということなのではないかと思います。それを見つけていくためには「書く」こともひとつの有効な手段ではなかろうかと思うのです。

これが自分の輪廻転生の何回めかのスタート点。サンサーラは、「そらのメメント・モリ」を経て、今に続く。
バラに生かされてきたこの期間に、得たものもあったが、途上で何が大事なものを失ったような気もしている。

  Paul Gauguin,   "D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?"
『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』1897年 - 1898年 ボストン美術館・蔵
Public domain, via Wikimedia Commons

六道輪廻

仏教徒ではないし、そもそも信仰心もないが、「色即是空 空即是色」(般若心経)に象徴される仏教の世界観や、一神教の「神」のような絶対的な存在に頼らない釈尊の教えには、どこか惹かれるものがある。

ただし「空」という言葉は般若経など大乗仏教のもので、最も古い仏教経典集で釈尊の言葉に近い「阿含経」に出てくるだろうか? 「空」という概念は、阿含経の「無」の発展系ではなく、対立する世界観なのかもしれない。
また、大乗仏教は絶対的(救世主的)な存在として例えば「阿弥陀如来」などを説くようだが、『南無阿弥陀仏』と唱えることで極楽往生するというような、"信仰" の世界は自分には無縁のもの。

衆生 は死んだらまた生まれ変わるという輪廻転生を繰り返す」と仏教は説く。 によって 六道(天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道)のいずれかに生まれ変わり、そして、そこでも死に、また生まれ変わる。それを繰り返す。釈尊はこの果てしない輪廻転生を「苦」と捉え、"自分を見つめること" でそこから解脱する道を説いた。

仏滅からおよそ1000年後、ペシャワールの僧・ヴァスバンドゥ(世親)によって記された「阿毘達磨倶舎論」の中の「世間品」には仏教の宇宙観と六道が具体的に述べられている。1500年も前に描かれたワンダーランドの見取り図はじつに壮大で、中でも地獄道の描写は想像力豊かで圧巻。逆に、天道はいささか退屈な世界か?

でも、天道も「欲界」の一部。美しい天女たち(薔薇)に囲まれて幸せな日々だが、その色香に迷わされ我欲が生じると、畜生道のチュウレンジハバチか何かに生まれ変わって、バラを栽培する人間に捻り潰されるか農薬を浴びせられて、理由もわからないまま殺される。

チュウレンジハバチが "今生で善業を積んで" 他の道へ転生できる可能性は極小さいのだから、人間道にいる衆生は今こそ輪廻転生から解脱する機会であること、それに至る方法(人として歩むべき道)を「戒・定・慧(三学)」(など)と釈尊は説いている。教えの核心は、自分中心のものの見方からの脱却。 "自己中" な自分には耳が痛い教え。

 世親 像|運慶|興福寺 写真:藤本四八 Public domain, via Wikimedia Commons
 六道輪廻図(チベット仏教の仏画)。「死」が輪廻世界を支配している
Stephen Shephard, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

輪廻図に描かれた六道は、上から時計回りに 天、人間、餓鬼、地獄、畜生、修羅。
天や地獄を含むこれら六道のすべての衆生は、やがて死に、そしてまた生まれ変わる。

でも、もしかして、六道いずれかへの転生はこの肉体が死んでからのことではなく、今のこの時空が
六道そのものなのでは。多次元で、人間道も天道も地獄道もすべての道が混在して、今 ここにある。
    

そらの宇宙(そら)

 多次元の宇宙をあえて2次元化すると

左上の、境界が曖昧な黒点が自分。修羅道か孤地獄道あたりを彷徨っているようだが、自分をなす汚濁の闇があまりにも深く、周りはほとんど見えていない。中心に何かがあるのはなんとなく感じるが、それを遠巻きに一周するのに何年もかかった。現在地や宇宙の大きさ、中心との距離感を掴めないまま、同じようなところをノロノロと何度か周回している。元に戻っても生まれ変わるわけではないので、輪廻とは呼べないかも。

自分のこの肉体が死んだら、"自我" を含め「自分」を構成していた要素のすべてが微塵に砕け、やがて、中心部に吸い込まれて光になって無限の空間に消える、と思っている。死後に「自分」は存在しないから、転生はない。

釈尊(ゴータマ・シッダールタさん)が生きた2500年前も、自分を唯物論的に捉え『死後の世界などなく、輪廻転生はない』という世界観を持った人々がいたらしく、彼らは仏教徒から "外道" と呼ばれたそうな:p

外道の私には、死はこの時空と自分からの "他律的だが、絶対的な解脱"。今のサンサーラは、たぶん最後の一廻りになるだろう。さて、どのような境地でバラ栽培を仕舞うことができるだろうか。

諸行無常 諸法無我

「ブッダ 100の言葉」  佐々木 閑 訳・監修 宝島社 から引用

諸行無常

「因果関係によって作り出されたすべてのものは無常である」
と智慧によって見るとき、
人は苦しみを厭い離れる。
これが、人が清らかになるための道である。
                     —— ダンマパダ 277
    

一切皆苦

「因果関係によってつくりだされたすべてのものは苦である」
と智慧によって見るとき、
人は苦しみを厭い離れる。
これが、人が清らかになるための道である。
                     —— ダンマパダ 278
    

諸法無我

「すべての存在に、自我なるものはない」
と智慧によって見るとき、
人は苦しみを厭い離れる。
これが、人が清らかになるための道である。
                     —— ダンマパダ 279
    
佐々木 閑 「ブッダ100の言葉」 より引用

 無明に支配されている人は「諸行無常」が理解できず、そのために「自分=自我」というものに対して誤った認識を持つ。「この世には自分という、不変の実体が存在している」という思い込みである。そしてその思い込みを土台にして世界観を創作し、自分に都合のいいようにものを見る。

 しかし、ブッダは、そもそも自分などなく、自分中心に世界をとらえるのは、愚かの極みだと説いた。

薔薇と諸法実相

一輪の薔薇も、自分も、この世のすべては諸行無常。この歳になればそれは実感としてわかるし、自己中が愚かの極みだということも、自分のことなので、分かっているつもりだ。

「諸法無我」については、大乗仏典の「法華経」(鳩摩羅什・訳『妙法蓮華経』)は「諸法実相」を説く。

諸行無常の中にあっても、生命の美しさに心揺れる一瞬は、諸法実相 — 真実の姿 究極の真理 ほとけ —  の顕現なのではないだろうか。

それは  "五感と意識の刹那的なもの"  に過ぎない ーーとして、釈尊は「諸行無常  一切皆苦  諸法無我」を説いたのであろう。

でも、いつか一瞬なりとも、「花の中に御坐すほとけ」に出会いたいと願う。

それもまた凡夫の愚かな執著に過ぎないかもと嗤いながら、無明の孤地獄にいて、進む道は見えていない。ただ、一筋の光明があるとすれば、それは (前掲の) ダンマパダに説かれた「人が清らかになるための道」。

犀の角の如く

釈尊は諭す。

  究極の真理へと到達するために精励努力し、
  心ひるむことなく、行い、怠ることなく、
  足取り堅固に、体力、智力を身につけて、
  犀の角の如く、ただ独り歩め。
  
                 —— スッタニパータ 第1ー68 佐々木 閑:訳 
    

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2023年10月7日土曜日

2023年 夏・秋 農薬散布記録

サイドに防虫ネットを張ったハウス栽培なので、黒星病や各種害虫類の被害は少ないが、毎年「うどんこ病」には泣かされる。今年は6月以降その発生がなく、これが秋の開花まで続くといいのだけど。

今日、育苗ハウスの1株に "うどんこ病の予兆" を発見。気温が下がってきて、うどんこ病のシーズン到来か。この後、開花までの散布を記録(この表に追記)していく。

なお、うどんこ病についての自習ノートは、2022年8月15日:「バラのうどんこ病についての考察・前編(Ⅰ章〜Ⅱ章)」などの一連のページにまとめている。

2023年 夏秋 殺菌・殺虫剤の散布記録
散布日 散布前の発生程度
散布目的
殺菌剤
殺虫剤
散布5日後
状況
主剤名
主剤作用機作(阻害)
FRAC
IRAC
展着剤
種類
カウント数
累計
備考
1 5/8 うどんこ病拡大 パンチョTF顆粒水和剤 効果大 フェニルアセトアミド
トリフルミゾール
作用機構不明
FRAC U6 まくぴか
シリコン系
2 1
2 6/7 一部の苗に激発 ミラネシン水溶剤 効果大 ミルディオマイシン
細胞壁生合成
登録失効 アプローチBI
機能性展着剤
3 2
3 6/12 わずか サンヨール乳剤 ほぼ消滅 DBEDC
多作用点接触活性
FRAC M1 4 3
アファーム乳剤 エマメクチン安息香酸塩
神経、筋肉作用
IRAC 6 5
4 6/19 うどんこ病
痕跡程度
アミスター20フロアブル 消滅 アゾキシストロビン
呼吸
FRAC 11 6 4
5 7/30 ベト病?発生 ベンレート水和剤
落葉し消滅 ベノミル
細胞骨格, Mタンパク
FRAC 1 ドライバー
ポリオキシエチレン
7 5
コナガ, ヨトウムシ
殺虫
アファーム乳剤 被害拡大停止 エマメクチン安息香酸塩
神経、筋肉作用
IRAC 6 8
6 8/11 うどんこ病予防 サルバトーレME うどんこ病
視認なし
テトラコナゾール
細胞壁生合成
FRAC 3 9 6
7 8/20 うどんこ病,
ハダニ類予防
ポリオキシンAL水溶剤 ポリオキシン複合体
細胞壁生合成
FRAC 19 まくぴか
シリコン系
7
8 8/31 ポリオキシンAL水溶剤 ポリオキシン複合体
細胞壁生合成
FRAC 19
アザミウマ類,
コナガ予防
スピノエース顆粒水和剤 スピノサド
神経作用
IRAC 5
9 9/10 予防
ハウス内殺菌
ダコニール1000
僅かな薬害
TPN
作用点不明
FRAC M5 10 8
10 9/13 サンヨール乳剤
僅かな薬害
DBEDC
多作用点接触活性
FRAC M1 11
11 9/26 うどんこ病予防 アグロケア水和剤 うどんこ病
視認なし
バチルス ズブチリス
病原菌の胞子を食害
FRAC BM2 まくぴか
シリコン系
9
12 10/5 フルピカフロアブル 育苗ハウス
うどんこ気配
メパニピリム
AP殺菌剤
FRAC 9 12
13 10/10 うどんこ病初期
黒星病わずか
プロパティフロアブル 目立つ変化なし
被害の拡大はない
ピリオフェノン
細胞骨格とMタンパク
FRAC 50 13
14 10/17 うどんこ病初期
黒星病・わずか
パレード20フロアブル 目立つ変化なし
効果は認められず
ピラジフルミド
SDHI殺菌剤(呼吸阻害)
FRAC 7 14
15 10/21 黒星病・わずか
うどんこ病 視認なし
アグロケア水和剤 目立つ変化なし バチルス ズブチリス FRAC BM2 ドライバー
コナガ, ヨトウムシ
殺虫
アファーム乳剤 新たな被害なし エマメクチン安息香酸塩
神経、筋肉作用
IRAC 6 15

FRACコード表日本版(2023年8月)pdfファイル  IRACコード表 国内向け(2021年9月版 Ver10.1)pdfファイル
「特別栽培農産物表示ガイドライン」において節減対象とならない農薬pdfファイル

農薬の定期散布はしない

ハウス栽培なので、うどんこ病対策をメインにすればよく、農薬の定期散布は必要ない。

バラ栽培における農薬散布については、自分がとるべき方法を 2022年6月28日の:「バラのうどんこ病対策」で考察している。ストイックに "無農薬栽培" にこだわることはないが、農薬の使用はできる限り削減すべきと考えている。だからと言って、農薬の定期散布を云々するつもりはない。それは栽培者個々が決めること。

使用する農薬の節減は、FRACコードを参照しながら "うどんこ病菌の生育ステージに合わせた薬剤の選択" がポイントだろうと思うが、メーカーの説明では作用機作がよく理解できない農薬もあって、これの判断が難しい。

農薬の説明文にFRACコードや作用機作を記載せず、『百姓の爺さんが知りたいのは "効くか効かないか" で、主材の作用機作を説明しても意味がない』とのたまう大手農薬メーカーもある。そのような業界体質が「農薬嫌い」を生んでいる一因なのでは? 農薬メーカーは、より詳しく正確な情報を、わかりやすく、積極的に公開してもらいたい。その好例は、パレード20フロアブル | 石原バイオサイエンス㈱ のリーフレットpdfファイル。今回、いくつかのサイトを見直したが、この1年で幾分かは改善されたメーカーもある。

農薬散布カウント数

節減対象農薬の今年のカウント数の累計はできれば 15以下 に抑えたい。開花まであと5週とすれば、ちょっと微妙な状況だ。もちろん、「カウント数よりも発生させないことを優先」する。なお、この表で節減対象から除外される(カウントされない)農薬は、ポリオキシンAL水溶剤、スピノエース顆粒水和剤、アグロケア水和剤 の3種類。

備考(表・右欄の番号)

  1. 一番花後にうどんこ病が発生。交配作業がほぼ終了するのを待って、パンチョTF顆粒水和剤を散布。その効果は大きくうどんこ病が消えた。受粉した雌ずいを薬品から守るため、袋をかけたままで散布。パンチョTF顆粒水和剤の主剤は "シフルフェナミド" と "トリフルミゾール" の2種類なので、これを1回散布すればカウント数は2になる。
  2. 育苗ハウスの一部の株にうどんこ病が激発。発症株だけに、とっておきの専門薬「ミラネシン水溶剤」を散布。これも治療薬として薬効絶大で、うどんこ病がほぼ消滅。散布量は少しだが、量に関係なくカウントされる。この薬剤の登録失効はとても残念。私の "偏見" を「バラのうどんこ病対策」の3章「バラのうどんこ病殺菌剤」に書いている。
  3. 葉にわずかな食害痕があったので殺虫剤を散布。
  4. うどんこ病は(肉眼視できる範囲では)消滅した。季節的な要因もあってか、この後の発生は見受けられない。
  5. 育苗ハウスにベト病発生。幼苗5株ほどの被害株は数日で落葉。被害は拡大せずに被害株の落葉で消えた。
  6. 秋の剪定に備えて、予防散布をスタート。
  7. うどんこ病だけでなく、ハダニ類の予防にも効果があるとされる「ポリオキシンAL水溶剤」を散布。これはカウント対象の農薬ではない。10日間隔で2回続けて使用しているが、「耐性菌などそんなに簡単にはできない」と考えている。
  8. ハウス内の菌密度を下げる目的で、「ダコニール1000」と「サンヨール乳剤」を連用。いずれも高温期の使用を避けるべき薬剤だが、葉がカールして液が溜まった部分に僅かな薬害が出た。
  9. 芽が動き始めたので化学農薬ではなく、うどんこ病の分生子(胞子)を食い殺すバチルス菌製剤を散布。だが、これは無意味な選択:p

うどんこ病の初期症状?

10月9日 気温が下がって、うどんこ病菌が活動し始めたようだ。

 感染した部位の葉縁が捩れて波打つ
 葉裏にもシミのような変色が
 透かして見ると 既にかなりの細胞が損傷

細胞内に菌糸がかなり広がっているように見える。8月9月は予防散布をしたつもりだったが、相手は手強く一枚上のようだ。表在性の菌糸や分生子柄はまだ出ていないようなので、さっそく明日10日に殺菌剤を散布する。

ただし、この症状がうどんこ病菌の侵入によるものかどうかは確認できていない。菌糸や分生子柄が見えないので、糸状菌ではなく微量要素の過不足かもしれないし。でもその場合は葉の捩れ(よじれ)は出ないだろうし、よくわからない。

内部寄生性のうどんこ病?

防除が困難な 内部寄生性のうどんこ病 というのがあるらしい。そういう情報を見たことがあるだけで実物は知らないが、もしかしてこれがそうなのか?と思える病葉(写真・右下)を見つけた。内部寄生性でも、分生子(胞子)は表に出るはずだ。

 これは紛れもなくうどんこ病菌 表在性の菌糸が見える
 菌糸らしきものが少しはあるようだが・・(クリックで拡大表示)

同じような症状の葉が隣り合わせで4枚あった。散布後の状態なので、菌糸や分生子柄がはっきりとは見えず、うどんこ病菌かどうかは判断できない。しかし、うどんこ病でなければ何だろう? 葉の痛み具合や白粉の密度から推測して、発症はかなり前からのようだ。もしこれが内部寄生性のうどんこ病菌の分生子なら、既に飛散したのは物凄い数だろう。恐ろし。

『観察が最も重要』と言いながら、こんなことでは情けない。生命あるものに関わっているという緊張感に欠けている。

「バラにも内部寄生性のうどんこ病があるんじゃないか?」と考えていたので、それに効果があるという プロパティフロアブル | 石原バイオサイエンス㈱ を予め準備しておいた。バラは適用作物の登録にはないが、満を持して?:p テストしてみよう。


リセットの9月, リカバーの10月

このページは、前ページ「曼珠沙華が咲いて 秋剪定終了」の続篇です。前ページの内容の一部「Mg欠乏症とその対策」に関する部分が膨らみすぎたのでページを分割し、後半部分のMg欠乏症に関する記述をこのページに移動しました。

このページでは、5月以降の肥培管理などの問題点をどのようにリカバーするかについて検討し、経過と結果を記録します。
なお、内容の一部は "書きかけ" で、今後、頻繁に修正や追記を重ねることになります。「液肥の作り方」などガイド的な内容もありますが、それも含め "個人の作業記録" です。データの客観性は保証できません。

内容

  1. マグネシウム欠乏症
  2. マグネシウム欠乏症の原因
  3. マグネシウム欠乏症の対策 固形肥料から緊急対策用の液肥を作る
  4. 微量要素だけでなく 肥料三要素も溶脱か
  5. 肥培管理 pHとECの推移(別ページ:「リカバーの10月 pHとECの推移」に移動)

1. マグネシウム欠乏症

バラがこの季節に葉を落とす原因は、夏の間の水不足や黒星病などいくつかあるが、今回は「マグネシウム欠乏」が原因だと思われる。クロロシスを引き起こす原因は「鉄欠乏」もあるが、その場合は必ず上位葉から症状が出るので、"鉄欠" ではないことは確か。

バラ栽培を始めて10年以上が経過しているのに、こんなことでは情けない(恥ずかしい)かぎりだが、まず症状の進行程度を複数の株から選んで、順に記録する。

 1 症状は下位葉の葉縁部と、葉脈の間が黄変し始める
 2 黄変がひどくなっても葉脈はまだ緑色を残している
 3 黄変が点から面に広がり、葉縁部はすでに枯死
 4 枯死した葉は個別にあるいは葉柄ごと落ちる

追記:右上の写真2は、1,3,4 の「マグネシウム欠乏症」とは異なり、別の要素の欠乏症を併発しているかもしれない。後述するが、今回の症状は肥料成分の流亡による可能性があり、マグネシウムだけが欠乏したのではないだろう。

オートファジー

この症状は、下位葉の葉緑体などを分解して得たマグネシウムを、より重要な茎頂部に転流させるための "オートファジー (Autophagy) " が起きているのが原因と考えている。

参考:「植物の必須栄養素から考える植物オートファジーの重要性」 吉本 光希|明治大学農学部生命科学科 

この論文の冒頭部分を、「生化学」Vol.91 No.5|公益社団法人日本生化学会 から一部引用。 改行と傍線:そら

独立栄養生物である植物は,土中から無機栄養素を吸収し,太陽光のエネルギーを最大限利用して化学エネルギーに変換することで無機物から有機物を獲得する.植物は動物とは異なり,無機栄養素だけで生育することが可能である.(snip)

これら無機栄養素の欠乏は(またはその種類によっては),移動することのできない植物に過度なストレスを与える.最近になって,植物がさまざまな無機栄養素の欠乏時に "自己成分分解" を発動し,ストレス応答している ことが明らかになってきている.

この "自己成分分解"(自食作用)がオートファジー。植物は、ストレスにさらされても生き延びて子孫を残す知恵を備えている。

 細胞基質や葉緑体が分解され、内容物が回収された状態
回収し終えると葉柄が褐変し、基部に離層ができて落葉する

これは、マグネシウムに限らず茎頂で再利用できる物質=タンパク質を分解したアミノ酸(肥料成分を含有する)や脂質、糖をほぼ回収し終えた状態。病害虫による被害葉ではないので綺麗な黄葉になって、この2日後に落葉した。


2. マグネシウム欠乏症の原因

ではなぜ マグネシウムが不足 したのか。自分の栽培環境で考えられる理由;

  1. 灌水用水の高いpH(水素イオン濃度)
  2. マグネシウム施用量の不足
  3. 灌水の不適切さで生じた根痛みによる吸肥力の低下
  4. マグネシウムの培土からの溶脱
  5. 高pHによるマグネシウムの不可給化
  6. 他の肥料成分とのバランスの悪化、あるいは拮抗作用

マグネシウム不足を引き起こした原因はまず何より自分の迂闊さにあるが、具体的にはこれらの項目のいずれの場合もありうるので、それに応じた対策を項目ごとに考えてみる。ただし 6. については経験や知識がないので、関連情報の引用のみ。

1. 灌水用水のpH

灌水に使用している農業用水は pH8.0〜8.5。このようなpHでは微量要素が吸収されにくくなるのだそうだ。問題の元凶は、この農業用水の高いpH。数カ所の農業用水路の水質(水素イオン濃度と電気伝導度)をチェックしたが、どこでも似たような結果。降雨はpH6.0前後、日によってはそれ以下のこともあるのに、雨が流れ込む用水路はpH8.0。これは、森林や水路の微生物や水棲植物が吸収する硝酸イオンの割合が多いことで生じる結果らしい。水道水はpH7.2前後だが、畑に水道はないので、農業用水を使わざるを得ない。

この用水を pH6.5 程度に下げるために、"クエン酸2%水溶液" を添加 している。後述するが、これも栽培状況(今回の問題)に大きく影響している。なお、pHメーターは随時校正しており、計測値は栽培用としては信頼できる。

2. マグネシウムの施用量の不足

マグネシウム(Mg)供給のために使用している主な肥料は以下の2種類。もちろん、NPKを供給する肥料が有機質なら、それにも幾分かのMgは含まれている。

1. マグホス

マグネシウムは、"マグホス" (苦土過燐酸石灰/く溶性)を、クエン酸2%水溶液で溶解し、それを原液として用水に混ぜて希釈して、不定期(1〜2週間に一回程度)施用。pHとECはチェックするが、施用量は適当:p 『多少のことではMg過剰障害は出ない』という認識もあり、十分な量を入れているつもりでいた。"マグホス" の保証成分、含有成分は次のようなもの。

苦土過石:マグホス|アグリ事業 肥料 カタログ|事業情報|多木化学㈱ から図の一部を引用

苦土は "マグネシウム"、過石は "過リン酸石灰"。福岡・田主丸で、バラ苗や果樹、庭木類の栽培農家を対象にした「スワ肥料店」さんのお勧めもあり、リン酸を含む成分もバラ栽培に適していると思うので、何年も安心して使用している。

根酸によって分解される "く溶性" なので、鉢植えの追肥には使いにくい。これを用水の酸度調整に使用しているクエン酸2%水溶液で溶解すれば一石二鳥で、それを希釈したものを使用液として灌水している。使用液のpHとECは機に応じてチェックしている。

マグホスの "ホス" はリン酸 (phosphoric acid)で、マグはもちろんマグネシウムだが、その含有量はネーミングされた割には "く溶性クド3.5%" と少なめ。たぶんリン酸と苦土のバランスはこの程度が良いのだろう。

2. ハイグリーン

もう一つの微量要素の供給源として、エムシー・ファーティコム㈱の "ハイグリーン" も1シーズンに1回、年3回程度、粒状のまま鉢土表面に施用。これは苦土(Mg)を14%含み、 "水溶性" なので使い勝手が良い。同社資料から成分表を引用;

ハイグリーン 成分表
銘柄名 クド マンガン ホウソ 亜鉛 モリブデン コバルト コロイドケイ酸
 成分(%) 14.0 0.40 0.30 1.20 0.02 0.030 0.004 0.004 16.0
クド・マンガン・ホウソは保証成分。銅・亜鉛・モリブデンは効果発現促進材として登録成分

水溶性なので、多量に追肥すると成分が一気に溶け出して過剰障害が起きる心配がある。鉢植えの追肥に使用する場合は少量・多回数の施肥がポイントか。これを液肥にすると濃度を計算、あるいは計測できるメリットがある。

中量・微量要素の供給源はこの二つがベース。『マグホスはやり過ぎかも』と思っていたので、葉の異常に気づいたときも、欠乏ではなく "過剰" を疑ったほど:p

しかし問題は「不定期に施用し、その量は適当」という部分。もちろん当初はそれなりに計算して定期的に使用していたのだが、いつの間にか慣れてしまって、いい加減になっている:p 猛省すべきだが、でも、今回の症状の原因が "Mg施肥量の不足" とはまだ断定はできない。

3. 根痛みによる吸肥力の低下

春の花後から夏にかけて適切なタイミングで灌水をすることができず、乾燥と過湿を繰り返した。この期間の灌水作業は、午前中から38°C超えのハウスの中で毎日2時間以上かかる。給水だけならまだしも、鉢受け皿に溜まった排水を処理するのが苦行。体力の衰えをカバーし熱中症を避けるために「どうやって手抜きをするか」が優先した:p たぶん、この間に傷んだ根があっただろうと思われる。

4. 肥料分の培土からの溶脱

前述のように、使用している農業用水の高pHに対応するため "クエン酸2%水溶液" を添加している。クエン酸はpHを調整するだけではない。

Importantクエン酸の発根作用機作 | みんなのひろば | 日本植物生理学会

この記事で指摘されているように、クエン酸(などの有機酸)はマグネシウムなどの無機塩類を根が吸収できるよう "遊離可溶化" する。その効果は試験栽培でも確認されているが、でもこれは逆に言えば、培土から "溶脱させる" ことでもある。鉢栽培なので流亡も多いし、施肥量のすべてを利用できるわけではない。

無駄な溶脱を防ぐために、潅水量を控えめにしたり、あるいは排水の再使用も試みたが、結果的にこのような症状を引き起こして、これらの試みは失敗だった。クエン酸は用水のpH調整のため今後も使わざるを得ないのだが、灌水方法とそのタイミングや量は見直す必要がある。

5. 高pHによるマグネシウムの不可給化

今年は「元肥一発方式」を試みるべく、培養土に天然有機石灰の "粒状セルカ" |卜部産業㈱pdfファイル を混入した。鉢栽培を始めた頃、Ca不足によるチップバーンに悩まされた経験がトラウマになっていて、pHが上がるのを承知で入れた。これが今回のトラブルのもう一つの元凶

培養土を作りながらチラリと悪い予感はしたが:p 微量要素が豊富なのもセルカを加えた理由。今にして思えば、Caやその他の微量要素の供給源はいくつかあり、例えば上記マグホスは26%の石灰(カルシウム)を含んでいるので、あえて "アルカリ分47%" の資材を使う必要はなかった。

粒状セルカ 成分表
アルカリ分NPKMgFeBMnZnCuMo
47%0.34%0.29%0.7%0.8%0.9%390ppm1400ppm84ppm12ppm8ppm

JA全農の資料によれば、セルカの特徴として『酸度のおだやかな矯正をします』とのこと。これは別の言い方をすれば、『酸度を急に変化させることはできません』という意味なのかも。その影響なのか、クエン酸2%水溶液で調整したpH6.0の用水を何度か灌水しても、鉢底から流れ出る排水は今でもpH8.1程度。pH8.0を6.0にするには、"水酸化物イオン濃度" を1/100にするということ。水酸化物イオンはセルカから "おだやかに" 供給され続けているのか、なかなか下がらない。

高pH(アルカリ性)の培養土だと、なぜマグネシウムの吸収が阻害されるのか、残念ながらその詳しい理由がわからない。鉄(Fe)の場合は、以下のページに説明がある。

カルシウム過剰による鉄欠乏症状 | みんなのひろば | 日本植物生理学会

このタイトルは質問者によるのもので、回答者によればカルシウム過剰と鉄欠乏症は関係ない。ここではマグネシウムについての記述はないが、鉄(Fe)の場合は、植物が吸収できる二価鉄がアルカリ性土壌では植物が吸収できない三価の水酸化鉄、さらには不溶性の酸化鉄になると説明されている。マグネシウムにも何らかの反応が起きて、バラが吸収できない状態にあるのかもしれないことは想像できる。

ここでもう一つの疑問が生じる。培養土の高pHが原因でマグネシウム欠乏症が出たのだとしたら、なぜ同様に鉄欠乏症が出なかったのか?

その答えは、うどんこ病対策に散布した殺菌剤に、鉄力アクアF10|愛知製鋼 を混入していたから。
5月からの散布は「2023年 夏秋 殺菌・殺虫剤の散布記録」にある。今まで12回の散布のうち10回は "鉄力アクアF10" を規定濃度で混入している。これには二価鉄(15,000mg/L)の他に マグネシウム(Mg 3,000mg/L)も含まれてはいるが、それではMg欠の発症を防ぐほどの量ではなかったと推測される。

実栽培で土壌酸度を下げるのは難しい。例えばpH8.0のA資材とpH6.0のB資材を同量混ぜれば中和されてpH7.0になるような気がするが(そんな浅はかなのは自分だけか:p )、そう単純にはいかない。注目しているのは "硫酸マグネシウム" 。Mgを供給しつつ、土壌酸度も下げる両狙い。次の3章でその方法を検討する。

6. 他の肥料成分とのバランスの悪化、あるいは拮抗作用

参照:要素欠乏症状の対策|野菜栽培技術指針|秋田県野菜栽培技術指針:農林水産省(元データ)pdfファイル から引用

マグネシウム

(Mg欠乏症の応急対策は)1~2%の硫酸マグネシウム溶液を1週間おきに3~5回葉面に散布する。

土壌中の置換性Mgが10mg以下の場合はMg資材を施用する。土壌pHが高い場合は硫酸マグネシウムを施用する。土壌中にMgがあっても、KやNが過剰の場合や、Pが不足の場合にはMgの吸収が悪くなるので、養分間のバランスを適切にするような施肥を行う。

「1~2%の硫酸マグネシウム溶液」なんて、とんでもない高濃度 だが、この指摘は正しいのだろうか?

肥料取締法に基づく普通肥料の公定規格では、硫酸マグネシウム肥料は「含有すべき主成分として、水溶性苦土は11%以上なければならない。遊離硫酸は0.5%以上であってはならない」と規定されている。1%の硫酸マグネシウム溶液は10,000ppm。その内、水溶性苦土の含有量が11%としても、Mg濃度は1,100ppmになる。後述するが、溶液耕・園試処方のMg濃度は 80ppm。溶液耕と葉面散布は、吸収率や吸収に要する時間が異なるから同列には比較できないにしても、桁があまりにも違いすぎる。誤記ではないだろうが、これでは説明不足で理解できない。


3. マグネシウム欠乏症の対策

手持ちの肥料で「硫酸マグネシウム」を含むのは「キーザーマグ」と「ハイグリーン」の2種類で、いずれも 水溶性。これを使って、① 緊急対策 ② 秋の開花までの対策 の二つに分けて考える。

:以下、液肥の作り方ガイドのような説明になるが、もしこのような液肥を作るなら "自己責任" で。
それ以前に、"単肥を使う栽培" は(一般的には)賢い方法ではない ことを考慮すべき。「マグ欠によるクロロシスが出たら、硫酸マグの施肥」というのは間違いではないにしろ、植物の生理はそんな単純なものではなさそうだ。

① 緊急対策 液肥を作る

硫酸マグネシウムは水溶性。最も即効性があるのは「葉面散布」だろうが、経験がなく適正な濃度がわからない。上記の "指針" は信用できない。粒状のまま散布するのでは効果が出るまでやや時間がかかりそう。マグネシウムは植物体内での移動が比較的速やかなそうなので、粒状肥料から液肥を作って土壌灌注 でもOKなのではないか。

問題はその使用液の濃度。参考にしたのは ハイポネックスの活力剤「リキダス」。それを超えない濃度で施用する。

中量・微量要素 液肥
資材原液 使用液(水8ℓ)
リキダス規定濃度pH5.9, EC1401㎲/㎝
キーザーマグ100㌘/水1ℓpH2.3, EC19990㎲/㎝原液60㎖+クエン酸2%水溶液40㎖pH5.2, EC1094㎲/㎝
ハイグリーン100㌘/水1ℓpH3.6, EC19990㎲/㎝原液60㎖+クエン酸2%水溶液40㎖pH5.9, EC  713㎲/㎝
マグホス250㌘/*2%capH3.2, EC17120㎲/㎝原液60㎖pH5.8, EC  608㎲/㎝
備考:EC19990は計測範囲オーバー マグホス液肥(原液)については以下の「原液の作り方」を参照
使用液のpHは農業用水を使用した場合。水道水ではクエン酸2%水溶液を加えない
表の説明

EC(電気伝導度 Electrical Conductivity "導電率" と同じ)の単位は "㎲/㎝"。農業分野では "㎳/㎝" が使われることが多い。

1000㎲/㎝=1㎳/㎝

水には物質を溶かす(イオン化する)性質があり、水中のイオンが増えると電気が流れやすくなる。その電流を計測すれば、水の中にどれくらいの物質(この場合は肥料成分)が溶け込んでいるかを示す指標になる。

"リキダス" は活力剤で微量要素肥料ではないが、リキダスを規定どおりに希釈すると、pH5.9, EC1401㎲/㎝ になる。使用した用水のpHやECを加味すると、設計値はたぶん pH6.5, EC1200㎲/㎝ 程度かと思われる。液肥の ハイポネックス原液 もほぼ同様で、pH7.0, EC1218㎲/㎝ になる。HYPONeX製品は他社の液肥と比較するとやや高めの濃度設定のようだ。

手製の液肥を使用する際は、溶液耕の肥料成分表や市販液肥のデータから、"濃度の安全圏は EC1000㎲/㎝ 以下" とすれば 浸透圧" による濃度障害の心配はない。これが粒状肥料を液肥にするメリットの一つ。ただし、濃度と量は別の概念で、適正濃度でも量が多すぎれば過剰障害が出ることに注意。

クエン酸2%水溶液の作り方

水の重量の2%に相当するクエン酸を溶かす。水1ℓ だとクエン酸20㌘。 溶解後は pH2.2, EC3410㎲/㎝ 前後になり、このpHは植物の根から分泌される "根酸" やレモン果汁と同程度なので、危険性はない。 クエン酸は、ホームセンターなどで購入できる安価な "清掃用" でOK。

中量・微量要素液肥 原液の作り方

水道水と1.5ℓ 入りのペットボトルを用意する。三ツ矢サイダーのボトルは品質が良く、手に馴染んで扱いやすい。

  • キーザーマグ(硫酸マグネシウム25%/水溶性)
    水1ℓ をペットボトルに入れ、キーザーマグ100㌘を投入し撹拌(シェイク)する。無色透明な原液ができ、沈殿物はわずか。実測値で "pH2.3" になる。ECはメータの計測範囲オーバー。

  • ハイグリーン(硫酸マグネシウム14%/水溶性)
    同様に、水1ℓ に100㌘を投入。"pH3.6" になる。沈殿物が薄茶色を帯びるので、沈殿物を懸濁させて使用。pHがキーザーマグより高いのは、含有している硫酸マグネシウムの量が少ないからだろう。

  • マグホス
    "く溶性" なので、クエン酸2%水溶液1ℓ にマグホス250㌘を投入。かなりの沈殿物ができて、何日経っても完全には溶けない。溶解しない成分は、水に溶けない 炭酸カルシウム(CaCO3) がメインか。

沈殿物のある原液は、使用直前にボトルに入れたままシェイクする。白濁するので、濁った成分も含めて使用する。

固形肥料から液肥を手作りする場合は、ECメーター(TDSメーター) と pHメーターは必需品だろう。Amazonに千円台の普及品を含め何種類かあるが、普及品は耐水性がないからか1年ほどで壊れた。現在のメーターは3本目で、2022年2月17日の記事:「鉢植えバラの 土替え−2 pHとEC」で紹介している。
栽培用の本格的なメーター類は、HORIBA 水・液体計測 または 農業現場測定 - 大起理化工業㈱ を参照。

使用液の調整

この原液 60㎖ とクエン酸2%水溶液 40㎖ を、8ℓ ジョウロに入れ農業用水で希釈。キーザーマグ原液を希釈した使用液はpH5.2, EC1094㎲/㎝ になる。ハイグリーンは pH5.9, EC 713 と、キーザーマグよりやや控えめ。マグホスはクエン酸2%水溶液で溶解しているので添加する必要はない。

クエン酸2%水溶液を加えるのは、用水をpH6.0以下にして排水も6.5以下にするのが目的。用水をpH5.xにするには、クエン酸2%水溶液の量を増やす。キーザーマグ水溶液を増やしてもpHは下がるが、ECが上がりすぎる。

:使用している農業用水はpH8.2程度。水道水はpH7.2前後なので、水道水ではクエン酸2%水溶液によるpH調整は不要。マグホス+水道水の場合は、原液の量を40㎖に減らす。濃度は400㎲/㎝ 程度になる

使用液のMg濃度

10号鉢にたっぷり灌水すると8ℓで5鉢分。これを基に計算すると1回の潅水で施用するキーザーマグの施用量は1鉢あたり1.20㌘。キーザーマグのMg含有率は25%なので、1鉢の潅水量1600㎖中に0.3㌘のMgが含まれる。これは 187.5 ppm。ppmの約2倍が㎲/㎝と見做せるので 375㎲/㎝ になる。キーザーマグ使用液のEC1094㎲/㎝の約半分弱がMgで、残りは他の微量要素。

同様に、ハイグリーンのMg含有率は14%なので、1鉢あたりの灌水量1600㎖中に0.168㌘のMg。これは105ppm=210㎲/㎝ になる。 (計算を間違えてないよな? 算数苦手:p )

POINT:溶液耕の標準培養液のMg濃度との比較

標準培養液の濃度|OATハウス肥料シリーズ|製品情報|OATアグリオ㈱

これによれば、溶液耕の標準培養液・大塚A処方のMg濃度は 60ppm=120㎲/㎝、B処方(園試処方)では 80ppm=160㎲/㎝。
常用し、かつ吸肥しやすい溶液耕の肥料濃度は、土耕よりやや低めに設定してある。

今回の処方でキーザーマグのMg濃度は 375㎲/㎝、ハイグリーンは 210㎲/㎝ 。これは園試処方よりは高濃度だが、 "鉢植えのMg欠乏症の緊急対策用として許容範囲" と考えている。どうだろう?

使用量

濃度は「リキダス」と同程度だし、溶液耕の標準培養液と比べても問題はない。問題は「量」と「使用頻度」

今回はMg供給の他に「土壌酸度を下げる」という緊急の目的もあるので多少厄介だが、pH6.5以下になるまで、2日に1回の灌水に混ぜて使用。
今後継続的に使用する場合は(他にMgの供給源がない場合は)、流亡する分を考えても2週間に1回(あるいは原液の量を1/2にして週1回)施用すれば充分ではなかろうか。

鉢栽培での使用量は、吸収根の状態や培土の保水性、保肥性(CEC)も影響するだろうし、栽培の途中でMgの過不足を判断するのは容易ではなさそうだ。答えはいずれバラが教えてくれるだろうが、施肥の記録と新葉の観察を重ねて、自分の目を鍛えたい(バラの声が聞こえるようになりたい)と思う。

改善目標

今の状況を改善するためのとりあえずの目標は、特定の葉を継続的に観察しながら、健全な上位葉に MG欠の予兆の黄斑点 が出ないように、そして新葉にはそれがまったく出ないように、まず排水のpHを6.5以下にすること。

これを実現するために、①キーザーマグ水溶液、②ハイグリーン水溶液、③マグホス・クエン酸水溶液、④クエン酸2%水溶液の順に、いずれも給水時で pH5.5 を目処に灌水。排水がpH6.5以下になれば通常の肥培管理に戻す。

ただしこのプロセスには問題があって、酸+アルカリの中和反応 ⇒ 水+塩類 が生成され、これによってEC値が上昇する。現在使っているECメーターはイオンの総量を計測するもので、チッソ肥料の含有量を示す "硝酸イオン" だけを計測することはできない。したがって、このメーターでは培養土中のチッソの量を正確には測れず、高いEC値だけどチッソ不足という事態も生じうる。

② 秋の開花までの対策 粒状のまま使用

10月10日までにはpH6.5以下にしたい。それができたら "ハイグリーン(粒)" を10号鉢あたり10グラム(忘れないよう単純な語呂合わせ:p )鉢土表面にばら撒いて、軽く中耕する。微量要素の追肥(液肥)は、生育の様子を見て "勘" で判断するしかないが、まず必要ないだろう。


4. 微量要素だけでなく 肥料三要素も溶脱か

用水のpHを下げるために加えたクエン酸によって溶脱したのは Mg だけではないだろう。クエン酸の作用機作や、葉の色や大きさなどの "樹勢" から、他の微量要素やNPKも溶脱したと見るのが妥当。

これも一部の株に発生している症状。葉脈間に、濃紫〜黒のアントシアニン(推測)が蓄積している。Mg欠が下位葉に黄変が出るのに対し、これは場所を選ばない。この葉は剪定位置の五枚葉で、後ろに新芽が見えている。剪定時にはこれほどの症状ではなかったはずだが、新芽の伸長に伴って酷くなってきた。これも肥料の欠乏、特に "チッソ欠乏" ではないか?と考えている。それは複数の株におよび、株によっては以下のような症状が出ている。

  • 葉脈間にアントシアニンが蓄積(フロージン'82, あけぼの, ダイアナ など)
  • 全体の葉色が黄色っぽくなる(手児奈, イーハトーブの風. ロッシ⁺, ダイアナ, メルヘン, 魅惑 など多数)
  • 葉のサイズが小さく、ステムが伸びない(ほとんど全株、特に、雪まつり, 衣通姫 など)
  • 五枚葉が少ないまま早く結蕾してしまう(あけぼの, 魅惑 など)
  • 葉柄に勢いがなく、垂れ下がる
  • ベーサルシュートが出にくい
参照

依然として排水のECが高い状況が続いている。当初は、高EC値ゆえ『チッソは足りている』と思い込んでいた。しかし、その高いEC値はバラにとって有効な肥料成分のイオン濃度を反映していない可能性があることに気づいた。

発芽と花芽形成のこの重要なタイミングに、微量要素の追加だけでは不充分だろうと思うので、肥効が早い "アンモニア態チッソ" を主成分とする水溶性の配合肥料・ "千代田化成550" |サンアグロ㈱ で作った手製液肥の追肥を始めた。が、発芽のタイミングにやや遅れてしまった感がある。

でも、まだ秋の佳花が咲く可能性はあると思うし、もしここで見限ったら、それこそバラに申し訳ないことになる。できる限りの手は尽くしたい。

リカバーの10月 pHとECの推移」に続く