このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2024年1月13日土曜日

ペットボトルでバラの水挿し

昨年10月15日の記事:「そらの サンサーラ」で触れましたが、このブログのページビュー数が50万になりました。若い人に人気のあるサイトでは、50万アクセスなんて一晩で達成するみたいですが、このブログでは12年もかかりました:p
この期間に閲覧されたテーマのトップ3は、デービッド接ぎ、スタンダード仕立て、そして根頭癌腫病です。その中で、「水挿し」に関するページが 22,600回ほど閲覧されています。

2012年6月3日:「バラの 水挿し −2」

これは今から12年も前の、バラ栽培を始めて間もない頃の記事です。どのような方がこのページを見てあるのでしょう? 手間をかけないで挿し木を楽しめる「水挿し」の "手軽さ" がポイントなのでしょうか。

このブログは栽培ガイドではないにしろ、閲覧数に対し内容が実用性に乏しいことがずっと気になっていました。閲覧者が想定できないので参考になるのかわかりませんが、ここで現在の私の「お手軽水挿し」を紹介しておきます。手軽ですが、テストではなく本気の挿し木です。方法は12年前よりもちょっとだけ進歩していると思います。その要点は、発根部位の「水と空気のバランス」。これによって水だけの場合よりも発根と根の成長がかなり早くなりました。

バラの水挿し

バラのプロパゲーション(増殖)の手段として、挿し木は接ぎ木よりも劣るものではありません。品種や栽培目的によってそれぞれに利点があります。どうぞ "挿し木で作る自根のバラ" (Own Root Roses)の栽培をお楽しみください。


1. 特徴

  • 「少量の挿し木を手軽に確実に」がこの方法のコンセプト。大量に挿し木するのは別の方法で
  • 使用する資材が小さく清潔だから、室内での管理に適している。発芽や発根を身近で観察できる楽しみがある
  • 底面給水なので、挿し木に重要な水分が常時供給され、培土の湿り具合や水位が目視できるので管理が容易
  • 給水による過剰な水は排出され、蒸発・蒸散による水位の低下によって適度な空気が入り、それが繰り返されるので、水だけの場合と比べると発根とその成長が早い

2. 準備するもの

  1. 500㎖のペットボトル
  2. 水苔 ホームセンターや園芸店で販売しているAAクラスの普通品でOK。代用品でも可
  3. 培土 小粒の軽石または鹿沼土。あるいは赤玉土、ボラ土、川砂、籾殻燻炭など、肥料分を含まないもの
    バラ用培養土や庭土、土壌微生物が多い堆肥や腐葉土などは使用しない。発根促進剤や肥料は必要ない
  4. 必要な道具 ハサミとナイフ。カッターナイフは刃に薄く塗られている錆止めオイルを台所用洗剤で洗い流す
  5. 挿し穂 品種は大雑把に言えば何でもいい。シュラブやつるバラなどの、いわゆる "ガーデンローズ" の多くは挿し木の成功率が高く、その後の成長も良い。挿し穂の準備中は "水切れ" に注意

花屋さんで売っている切りバラの生産者は、品種によっては挿し木で母木を作ることもあるので、切りバラ品種も挿し木できると思えるが私はこれまで試したことがなかった。花屋さんで見かけた「アバランチェ⁺」という白バラが上品できれいだったので10本購入し、水挿し、ロックウール挿し、デービッド接ぎの3方法で現在テスト中。活着すれば交配親にしたい。

:挿し木や接木による株の増殖は、その品種が農水省に登録され現在もその育成者権が有効であれば、「種苗法」により、増殖した株を有償か無償かにかかわらず "譲渡" することはできません。個人が家庭内で栽培を楽しむ範囲であれば、品種の育成者権を気にする必要はないことを関係機関(農研機構)で確認しています。『品種は何でもいい』というのはバラの種類のことだけではなく、このような意味合いを含んでいます。

3. 手順

  1. ペットボトルを写真のように上下に切り分け、口を下向きに差し込んで使用する。キャップは使わない
  2. ボトルの口が底面から5㎜ほど上にくるように(水が通る隙間ができるように)切断位置を選ぶ
  3. あらかじめ微温湯で湿らせておいた水苔を、ボトルの接続面より2㎝ほど上までくるよう、軽く押し込む
  4. 水苔を使わずキャップで代用する場合は、キリで複数の小穴を開け、水は通るが培土は落ちないようにする
  5. 挿し穂を長さ20㎝程度に調整。10㎝でも可能だが、長い方が成功率が高い
  6. 調整した挿し穂基部の先端が水苔にわずかに埋もれる程度に置く。先端は満水時の水位より高い位置になる
  7. 挿し穂の周囲に、洗浄し濡れた軽石(小粒)を入れる。それによって挿し穂が固定される
  8. 最初はたっぷり灌水。ボトルの継ぎ目から過剰な水がこぼれ出るので水受け皿が必要。濁った水は捨てる

4. 挿し穂の調整

  • 花の直下にある柳葉や三枚葉の部分は使わない。葉があれば上部の2枚程度を残す。冬季は葉が無くてもOK
  • ナイフやハサミは清潔な状態(例:家庭用アルコールスプレーを吹きかけた後に水洗い)で使用する
  • 挿し穂を水から出すと導管に空気が入り、水の凝集力が途切れ水揚げに失敗する。作業は手早く
  • 挿し穂に3〜4芽ある長さが適当。長さ20㎝にすれば3〜5芽程度はあるだろう。節間が短ければ15㎝にする
  • 上から2芽を残し、下は「芽抜き」をする。「芽抜き」は、ナイフで芽を浅く削り取る
  • 芽抜きした位置が培土の中なら、下右の写真のように、そこからも発根する
  • 基部のカットは、「水平切り」(枝に対し直角に切る)以外は、どのようにでも好きなように
  • ハサミを使って、イラストのように 縦に割れ目を入れる。これが重要で、ここから多く発根する
 基部の調整
バラの水挿し
 「割れ目」を入れた基部の発根例

5. 管理

  • 挿木後1ヶ月は水切れに特に注意。乾燥した室内に置けば蒸発による水位の低下が早いので、毎日チェック
    ただし常に満水状態を保つ必要はない。水の増減で空気が出入りし、それが好結果につながる
  • 水やりは、挿し穂が動かないように優しく培土の上から。水が濁ったら早めに新鮮な水に交換し、ついでに底部も洗浄。底部を余分に作っておくとこの作業に便利。用水は水道水が良く、雑菌が多い溜め水は失敗の原因になる
  • 直射光や強風を避け、室温程度で管理する。明るい室内(窓辺)に置くなら、保湿・保温のためのビニール袋がけは必須ではない。短時間での気温の急変や、底部に直射光が長時間当たるとぬるま湯になることに注意
  • 挿し穂の状態や環境次第だが、寒い時期は発根まで5週間以上かかるだろう。暖かい時期で4週間程度が目安
  • 発根を確認するために挿し穂を抜いたりしない
  • 冬は発根よりも先に発芽する。葉が展開しても、根がボトルの口から出てくるまでは鉢上げしない
  • 発根後、根は底部の水中で5㎝ほどの長さまで伸びるので、鉢上げが遅れると根量が多くなり取り出すのが厄介になる。
    水苔でなくキャップを使用する場合は、根を切らないと取り出せなくなるので注意
  • 発根を確認したらポットに鉢上げ。水苔に絡んだ根は解さないままで、培養土は一般的なものでOK。
    2〜3ヶ月後に地植えするか大きいポットに鉢増し

  • POINT: 挿し木で作った自根のバラ(Own Root Roses)の1年目は "じっくり" 育てる。1年目は接木株に見劣りするが、2〜3年でしっかりした株になる。早く大きくしようと、過剰な肥料を与えたりしない

自根バラは深植えすると、地中からシュートが多く出るようです。接木した大苗を意図的に深植えして、接いだ品種から自根の発生を促す方法もあり、それを2016年12月の記事:「南大隅の薔薇 2016年」の中の「イングリッシュローズは深植え」で、 David Sandersonさんの作業(植え付け、途中経過、結果)を記録しています。
次の項で紹介するYouTube動画の "The Difference Between Own Root and Grafted Roses" で、Paul Zimmermanさん(サウスカロライナ)も同じことを指摘していて、『Own Root Rose は地中から次々と新しい Canes(シュート)が出て、見事なブッシュを作る』と言っています。自根のバラはもっと評価されてもいいのかも。

 今春の "本気挿し" 25本の一部。葉がついている真ん中の挿し穂は
バラ仲間から頂いた穂木でやや未熟だが、何とかなるだろうと期待

6. 挿し木に関連する主な過去記事と参考ページ

  • 2012年4月:「ロックウールを使った バラの挿し木(2)」 切りバラ栽培の事例で、挿し穂の長さ僅か5㎝!

  • 2014年11月:「秋にもできるバラの挿し木 栽培品種の秋挿し」 大量に挿し木する方法の一例。
    記事中の YouTube(リンク)で、Paul Zimmermanさんの事例を紹介。"Own Root Rose" (挿し木で作る自根バラ)の品種がガーデンローズなら、接木株に引けを取らないどころか、むしろメリットがあることを力説。併せて、『違法な増殖をしてはいけません。ブリーダーやナーセリーの生活がかかっているんだから』とも。挿し木や接木によるバラの増殖と品種育成者の権利については別ページで考えてみたい(準備中)。

  • 2022年10月:「バラのスタンダード仕立てを作る ① 台木の秋挿し」 「水苔+鹿沼土&底面給水」で長尺挿し木の実例を少し詳しく紹介。

  • 参考:「挿し木の基本」岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室 福井博一教授の公式個人サイト
    これまでにも何度も紹介してきましたが、とても参考になるページです。

追記

2024年2月12日:ここに書いていた「品種育成者の権利(PBR:Plant Breeder's Right)の尊重」は、内容が膨らみすぎたので、独立したページ(次のページ/準備中)に移動しました。

2024年3月18日:この水挿しのその後は、3月17日の記事:「ペットボトルでバラの水挿し その後」に続きます。

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