2017年2月25日土曜日

教科書のようには接がないバラの切接ぎ

今年2017年は107本の接ぎ木をしました。今年は「切接ぎ」一辺倒で、「デービッド接ぎ」はスタンダード長尺台木に接いだ1本だけです。このページは切接ぎ作業とその50日後までの写真記録です。

切接ぎ2年目の今年のテーマは「教科書のようには接がない切接ぎ」です。これは日本バラ会でもご活躍の福島康宏先生の言葉をヒントにしたものです。なぜ「教科書のようには接がない」のか。福島先生はご自分のことを「へそ曲がりだけん」と笑われますが、そこには何かがあると気になります。今年の私の切接ぎは「教科書」とはちょっとだけ違いますが、これは福島先生の手法そのものではありません。

「デービッド接ぎ」から始まった私の接ぎ木修行は試行錯誤のまっただ中です。この後投稿予定の別記事で、「結果」の分析と、そして「教科書のようには接がない切接ぎ」の本家本元・福島先生の接ぎ木手法に対する私なりの考察へと続きます。

私の作業机です。切接ぎには「テーブルバイス」を使います。これは不器用な私が手元を誤って小刀で怪我をしないための工夫です。

「田主丸型」の接ぎ木小刀と花鋏、接ぎ木テープは「ニューメデール」。バットは接ぎ穂を入れておくためで、湿らせた清潔なウエスが敷いてあります。

バラの切接ぎで、危険が伴い難しいのは台木に接ぎ穂を挿し込む切れ目を入れる作業です。これまで何度か紹介しましたが、地元・福岡筑後の接ぎ木職人さんたちは「田主丸型」の接ぎ木小刀を使ってこのように作業をします。参照:「接木ドットコム|接ぎ木情報と接木テープ」

しかしこれは小刀の刃が動く方向に左手があって、まんがいち小刀が滑ると危険です。本物の「田主丸型」の接ぎ木小刀にはそれを防止するための独特の工夫があるのですが、本物には滅多にお目にかかれません。私の小刀も地元・福岡産ではなく、兵庫県の「みきかじや村」で製作された「まがい物」です。「田主丸型接木小刀」と称しながら田主丸での接ぎ木方法を知らぬまま、小刀の形だけ真似をしてもそれは「本物」とは違います。

「偽物」を掴まされたのは無知だった私の落ち度ですが、それはともかく、みなさんはそれぞれ安全な切接ぎのために工夫をしてあります。

私は「テーブルバイス」を使います。姿勢も楽で、時間もかかりません。これを使ってバーバラさんもグリーンさんもつぎつぎと「バラの切接ぎ」を楽しみました。まずその様子を紹介します。撮影のために「手タレ」さんが入れ替わっているので、同じ台木を使った連続写真ではありません。

今年使用したノイバラ台木については「実生台木を作る−4 めげないゴンベエさん」を見てください。この台木はゴンベエさんが作った「胴長美人」です。

まず台木の胴の部分の汚れをきれいに拭き取ります。テーブルバイスにセットし、バッドユニオン(芽=小枝が何本も出ている部分)の直下(7〜10mm下)で切断します。

充実した台木で切断面に形成層がはっきり見えます。根に絡み付いた黒いカスは「バクテローズ」の名残です。今回は試しに「花鋏」(両刃)を使ってみたのですが、切れ味は良いものの切断面に僅かな凹凸がありますね。

形成層を意識しながら台木を切り分けますが、方法はガイド本などを参考にしてください。ここまではどの「教科書」にでも書いてあるのとほぼ同じ手順です。

でも、「全く同じ」というわけではありません。下の写真では見えづらいのですが、小刀が下へ切り進むにつれて、表皮と平行ではなく僅かに内側に入るように切り分けていきます。

このイラストが典型的な「教科書に書かれている切接ぎ手法」です。台木、接ぎ穂ともに、②のカットで現れる「形成層」を合致させるように解説されています。

以下の4枚の写真で、イラストで図示された切接ぎとの違いがわかるでしょうか?

「なんだ、そんなことか」と思われるほどの小さな「差」なんですが、両者は切接ぎについての考え方が異なります。もちろんイラストの方法でもうまくいくのでしょうが、私はこれの方が合理的で、活着率も高いと思っています。

この方法は2年目なので断言するほどの実績はありませんが、昨シーズンに福島先生の接ぎ木を見学したとき、先生がご自分の接ぎ木方法を『教科書のようには接ぎません』と言われるのを聞いて、それまで抱いていた「教科書」に書かれている切接ぎ手法への疑問が一気に消え去りました。

教科書に書かれている切接ぎ方法のどこに問題があるのかは、実際に教科書どおりに試してみればすぐにわかると思います。・・かな? (繰り返しますが)教科書に書かれた手法でも切接ぎは成功するでしょう。でも私が間近で見学させてもらった接ぎ木職人さんたちやベテラン栽培者のみなさんは教科書に書かれたような接ぎ方はしません。それぞれ内容は異なりますが、独自に工夫されたポイントがあります。

例えば、ページの冒頭で紹介した「接木ドットコム|接ぎ木情報と接木テープ」に登場する接ぎ木職人さんは(これまた私とは異なる接ぎ穂の作り方ですが)、これも「教科書」に書かれた手法とは違います。動画の解像度が低く動作が速すぎて見えにくいのですが、相違点は、(1)接ぎ穂はあらかじめ必要な長さに切ってある。(2)接ぎ穂基部の小刀の入れ方、特に接ぎ穂先端の形状に注目。これも「教科書」とはまったく異なります。

(1)は、作業手順(効率重視)ゆえと思われがちですが、それだけではありません。それを考えるヒントは、合わせるのは「形成層」だけではなくそれを含む「維管束全体」ということ。教科書には「形成層を合わせる」としか書かれていませんね。

接ぎ木テープ「ニューメデール」を、軽く引き延ばしながら台木の基部から接ぎ穂先端に向かって巻いていきます。芽の上は1回、穂木の先端まで巻いて捻り切るという方法です。接ぎロウや殺菌剤の類は使いません。

前述の動画の接ぎ木職人さん(ご夫婦)のテープの巻き方はかなり緩やかなのが見てとれます。これは接ぎ穂の先端の角度が「教科書」とは異なり、「台木が接ぎ穂を挟み込む」という角度になっているからです。教科書のように「台木の先端を斜め45度に切る」という方法ではこうはいきません。

「ニューメデール」は気温が低いと伸縮性が低下します。無加温のハウス内では夕刻になれば急に気温が下がるのでテープをポケットに入れて保温しました。明るいうちに切り上げれば良いのに、作業が楽しいからなかなか止められません(笑)。

このようにつぎつぎに接いで合計109本になりました。接いだものはその日のうちに鉢に植え込みました。

大苗生産の場合、プロはいったん地に「仮植え」し、暖かくなってから成長具合をチェックして本圃に定植するのですが、私の場合は根の長さに応じて5号か6号の鉢に植え込んで、それをハウス内で育てます。これまでの結果から、5月の時点で90%前後の成功率(活着率)になるのはわかっているので、仮植えは必要ありません。

植え込み、特に鉢のサイズについては「実生台木を作る−4 めげないゴンベエさん」にも書いていますが、わざわざ台木の根を短く切って4号鉢に植えるのは(出荷価格や、それに見合うコストを考慮せざるを得ないバラ苗生産者ならともかく)、栽培的には根拠が無いと思います。

これらは4月上旬に8号、6月中旬に12号への「鉢増し」を予定しています。しかし100株もあればとても「物入り」なのでどうなることやら。でもそれよりも、その時期までに「鉢増し」が必要なほどに根が伸びるのか、そのほうが問題ですね(笑)。

鉢に植え込むのに使った培養土は以下の2種類です。

接ぎ木苗用 培養土
TYPE-A TYPE-B
福島園芸 バラの切接ぎ苗用培養土 50% 赤玉土(小粒) 20%
赤玉土(小粒) 15% 赤玉土(中粒) 20%
赤玉土(中粒) 15% 日向ボラ土(微粒) 10%
日向ボラ土(微粒) 10% バーク堆肥 25%
籾殻燻炭+竹炭 10% 腐葉土 10%
籾殻燻炭+竹炭 10%
パーライト 2mm 5%

「福島園芸 バラの切接ぎ苗用培養土」とはバラ苗生産者が使用するものをお願いして分けてもらいました。
これにはチッソ分などは加えられていませんが、僅かに「珪酸カリ」が入れられているそうです。単用はもったいないし、保水性があり過ぎるように思えたので、赤玉土や燻炭などを加えて「ボカシ」状態にしてあります。

「TYPE-B」は自作の培土で、鉱物と有機物がほぼ半々の内容です。いわゆる「肥料」は含まれていません。
大半は植え込んでから40日以上が経過しましたが、生育具合に「TYPE-A」と「TYPE-B」の区別はつかず、「珪酸カリ」の効果も気づきません。でも・・

「培養土は無肥料で」はほんとうなのか、どういう条件でそうなのか。 鉢サイズと同じく、へそ曲がりな私の次のテーマです。

福島園芸さんの話によれば、温度管理は12℃から24℃の範囲だそうです。もちろん夜間温度はそれより下がりますから、バラ苗生産者はハウス内を重油ボイラーで加温します。デービッドさんは私の状況を見て『家庭用のホットカーペットがいいよ』とアドバイスしてくれましたが、でも畑には電源が無いし・・。ハウス栽培で恐い「ベト病」の原因は「低温+過湿」なので、その対策のためにも電源が必要かなぁ。

さて、以下は今年の接ぎ木の中でも生育の良い株たちです。撮影:2月25日

「手タレ」のバーバラさんは2本だけ切接ぎをしました。彼女の切接ぎ経験は2年目ですが、テーブルバイスのおかげで怪我の心配もなく、上の写真のようにきれいにできました。

接いだのはイングリッシュローズの「コンテ・ド・シャンパーニュ」です。1月6日に接いで、2月14日に初めてご対面。「うれし〜い!」 写真下左は2月14日(40日後)、右が2月25日(50日後)です。

3月16日追記:1月6日にバーバラさんと一緒に接ぎ木をしたグリーンさん。その後の接ぎ木作業も含めて購入台木やゴンベエ台木で20本ほど接がれたでしょうか。今日その後の様子を聞きましたが『接いだ全株がうまく育っている』と嬉しそうでした。話題ははや『いつ鉢増しをするか』です。

嬉しそうなお話を聞くのは、(別に私の手柄ではないけれど)嬉しいものです。

これは5株とも同一品種です。穂木は採穂後2週間ほど冷蔵庫で眠っていました。使い残しの細い(胴の直径が7mm)ごんべえ台木に接いでいます。穂木も6mm以下と細かったのに、元気よく新芽を伸ばしています。

イングリッシュローズは挿し木でも比較的容易に活着する品種が多いので、そのような系統は接ぎ木も活着率が高いようです。

左の2株は「1芽接ぎ」で、中央と右側の3株は「2芽接ぎ」です。写真でわかるように「2芽接ぎ」でも一概に新芽の成長が劣るとは言えません。それはイングリッシュローズだけのことだけではなく、HTでもFLでも同様です。前掲の「ジェミニ三兄弟」の左側3−3がそうです。また、「2芽接ぎ」の場合「頂芽優勢」も100%そうなるわけではなく、この写真の右端の株のように下の芽が早く大きくなることもたまにあるので、これらは接ぎ穂の個々の芽の状態次第なんだろうと思います。

細い枝にもきれいな花が咲くイングリッシュローズなので枝数が多いのは好ましいのですが、1芽だけ接いでもすぐにシュートが出るので、「2芽接ぎが有利」とは必ずしも言えません。HTの場合(特に競技花の場合)は別の考え方が必要なのかも。私の場合いずれも、良い芽が2個近接してある場合に(もったいないので/笑)「2芽接ぎ」にすることが多い、それだけの理由です。

これらは1月17日に接ぎ木したHTの一部です。充実した新鮮な穂木で、ぷっくりしたきれいな芽が付いていました。各品種を数株ずつ接ぎましたが、品種毎にみごとに発芽が揃いました。このような穂木を作るには秋以降の肥培管理が重要なのは言うまでもありませんが、もうひとつコツがあるようです。これは「新苗で秋に勝負 1月」を参照してください。

このような充実した穂木を使うと、なんだか自分の接ぎ木技術が上達したように思え、嬉しいものですね。

この章の冒頭に書いたように、これらは切接ぎした107本+2本の中で特に良好な生育状態の株です。今月末には1回目のピンチができそうな株もあり、日ごとに成長する様子を見るのは朝一番の楽しみです。

2月25日の時点では新芽が萎れたり枯れたりした株は1本もありません。しかし他方、芽の動きが極めて緩慢なものが数株と、成長がゆっくりなのが全体の1/4=25株ほどあります。

接ぎ木後40日が経過した時点で芽の動きが小さなものは「活着不良」=「接ぎ木失敗」と判断すべきなのかもしれません。でも、「そんなに急いで大きくならなくてもいいよ」とも思うので、もう少し様子を見てからその原因を考えてみようと思っています。「接ぎ木職人になりたい」と憧れている私の修行はまだ途半ばです。

2月27日には今年も福島先生を訪問し、その『教科書のようには接がない』接ぎ木作業をじっくり拝見する予定です。できれば私もその場で接ぎ木をさせていただいて・・と楽しみにしています。

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