このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2022年12月21日水曜日

バラのスタンダード仕立てを作る ③ 接木方法について

年明け1月に予定している接木は「芽接ぎ」ではなく「デービッド接ぎ」です。これは今年の接木実績でデービッド接ぎが芽接ぎよりもはるかに良い結果が出たからです。今回は「できるだけ簡単にスタンダード仕立てを作る」という発想は捨てて、少しでも成功率の高い方法に変更します。

スタンダード仕立ての接木 「デービッド接ぎ」か「芽接ぎ」か? 比較ー1

厳寒期の芽接ぎ(F芽接ぎ=貼り芽接ぎ)は、時期の問題なのか私が下手だからなのか、デービッド接ぎと比較すると成功率もその後の生育もかなり見劣りしました。以下はその一例で、ERの "ウォラトン・オールド・ホール" を "接ぎ挿し"(デービッド接ぎやF芽接ぎをしたノイバラの枝を挿木)しています。この詳細は3月27日の記事:「バラの 芽接ぎ挿し 50日後」に掲載しています。これが2月8日に "接ぎ挿し" してから50日後の生育状態です。

内容:左から
  1. デービッド接ぎ(枝無し) で接いで 挿木
  2. デービッド接ぎ(枝残し) で接いで 挿木  台木上部のカット3月15日

  3. F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木  台木上部のカット3月22日
  4. 同上

  5. F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木  台木上部のカット3月15日
  6. 同上
 2 デービッド接ぎ(枝残し) で接いで 挿木
台木上部のカット3月15日
 6 F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木
台木上部のカット3月15日 *基部の発根無し

台木や接ぎ穂、栽培環境も同じ条件 で比較すると、デービッド接ぎが芽接ぎよりもはるかに良い結果を示しています。
ただしこれは一例にすぎず、接ぎ穂の芽の状態を考慮して接ぐと、以下のように別の結果を示します。

「デービッド接ぎ」と「芽接ぎ」 比較ー2

以下の3カットは、2022年2月8日に試みた "Stepmom 接木" の1ヶ月後の新芽の状態です。

 デービッド接ぎ 枝残し(上部カット済み)
stepmom =「メルヘンケーニギン」
 デービッド接ぎ 枝無し
stepmom =「クリスチャン・ディオール」
 F芽接ぎ(上部カット済み)
stepmom =「メルヘンケーニギン」

この事例ではいずれもHTの「あけぼの」を接いでいますが、「比較ー1」よりも充実した芽を使用しているので、F芽接ぎの生育はデービッド接ぎと比較しても何ら遜色はありません。

スタンダード仕立てには、デービッド接ぎよりも芽接ぎの方が似合う(見た目が良い)と思うけど、1月下旬〜2月上旬の厳寒期の芽接ぎには「接ぎ穂の芽の充実度」がポイントのようです。大雑把に言えば、まだ芽が小さい1月上旬よりも、芽が膨らみ始めた2月上旬が芽接ぎの好機のように思えます。
デービッド接ぎは、接木に適した芽の状態の幅が大きく、あまり時期に拘らなくても良さそうです。

番外:Stepmom 接木 その結果

Stepmom(ステップマム)接木の結果をレポートしていなかったので、ここで簡単に。

  • どの方法でも大差はなく、順調に生育し春花が咲きました。いずれもまがいもなく「あけぼの」で、内心ちょっとだけ期待していた "ヘンな花" は咲きませんでした:p 接ぎ穂の遺伝子が変わるのではないから当然の結果かもしれませんが、あまりにも平凡に「あけぼの」だったので、写真も撮りませんでした。

  • しかしひとつだけ驚いたことがあります。それは、ステップマムの「メルヘンケーニギン」や「クリスチャン・ディオール」のあまりベーサルシュートが出ない古株から、何本も勢いの良いベーサルシュートが出たこと。あたかも 接がれた異品種(パラサイト=寄生生物)に拒否反応を示し、それに対抗するために積極的にベーサルシュートを出した かのように思えました。パラサイトによって何らかの生理反応が惹起されたことは間違いなさそうです。

    初心者の頃に接木の指導をしてもらったバラ苗生産者の話によれば、台木と穂木には "相性" があるんだそうです。ノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)は日本の風土にあった優れた台木ですが、すべての品種をノイバラ台木に接ぐのではないんだとか。バラのプロパゲーション(propagation/増殖)手法は一応確立されているとはいえ、私たちは植物のことをすべて知っているわけではなく、まだまだ奥が深そうです。

  • 平凡な「あけぼの」の枝は切り捨て、新しく出たベーサルシュート(Stepmomの品種)を咲かせました。その結果がこれ「2022年 秋のバラ 品種別−3 メルヘンケーネギン」です。
    これまで "10花" を組むほどに同一品種が咲き揃うことがなかったけど、これは嬉しい驚きでした。

  • ノイバラ台木そのものではなく、ノイバラ台木に接いだ栽培品種を台木にして、それに異品種や同一品種を接木するという方法は、(私の場合は異品種だけですが、それを "ステップマム接木" と呼んでいます) それはずっと以前から意欲的なバラ栽培者によって試みられていることのようです。

    そのお一人が 10月25日「秋晴れ 百壷百花 バラ展」で紹介した 唐杉純夫 さん。
    「デービッド接ぎ」の基本は古くから日本で行われている「腹接ぎ」と同じですが、唐杉さんのある年の主だった品種の腹接ぎ数は ナント 500!「あけぼの」だけでも175も接いであります。たぶん、これは栽培株数を増やすための接木ではなく、唐杉さんならではの目的があるのだろうと思います。

    年明けには唐杉さんを訪問し、接木を見学させていただくことになっているので、とても楽しみです。

デービッド接ぎ 枝を残すか否か 比較ー3

スタンダード仕立てではなく普通の接木の今年の結果は、デービッド接ぎの「枝残しバージョン」よりも、接いだ部分より上の枝葉を接木直後に切り捨てる「枝なしバージョン」がより早い生育を示しました。デービッド接ぎを始めた初期の頃は露地植えしていたのですが、ハウス内のポット植えで管理するようになった今は「枝なしバージョン」が良さそうです。デービッドさんも、現在の方法では台木の枝葉を残していません。

その実例を 2022年2月24日の「デービッド接ぎの経過 ー3 2ヶ月後 台木のカット」に記録していますが、それらの写真を再掲します。

枝を残さないバージョン

枝を残すバージョン

接木2ヶ月後の時点では、このように「枝を残さないバージョン」の生育が優れています。しかしスタンダード仕立てでは状況が異なります。接木する部分が150㎝の高さになると、根圧だけで長尺台木を水分が "転流" するのか。台木と接ぎ穂(芽)を癒合させるオーキシンの生合成やその極性移動も併せて考慮すると、どちらが良いのでしょう?

スタンダード仕立ての過去の失敗事例を振り返ると、それを成功させるには、台木上部に枝葉があり、そこで "蒸散" していることが重要と思われます。まったく葉が無い長尺台木でも成功したことはありますが、より確実に接ぐにはやはり「枝を残すバージョン」が良さそうです。

これは「芽接ぎ」をする場合も同様、いや、より重要ではないかと考えています。

註:この生育差はすぐに気づかない程度になります。接木2ヶ月後の芽の生育の早さを云々するのは意味のないことかも。
それよりも、しっかりしたベーサルシュートが2本は出るような株に育てることが重要なのは云うまでもありませんね。

芽接ぎの 芽の大きさ

厳寒期の芽接ぎには、デービッド接ぎに使う芽よりも充実して赤くぷっくり膨らんだ芽を使う必要がありそうです。下はその例で、このような芽を使うとデービッド接ぎと遜色のない生育を示しました。逆の言い方をすれば、小さな芽を使ったF芽接ぎは、「比較ー1」のように生育が好ましくありませんでした。

 2月上旬 F芽接ぎ 品種は "手児奈"
 左の芽接ぎから2ヶ月後

条件が異なるので単純な比較はできませんが、ここに掲載した接木2ヶ月後の事例ではこの芽接ぎ株が最も良い生育を示しています。うどんこ病の初期症状が出ているけど:p
この秋に咲いた "手児奈" は「2022年 秋のバラ 品種別−5 手児奈」で紹介していますが、どの花がこの株のものか、古株の花とまったく見分けがつきません。

方法についての結論

スタンダード仕立ての接木は、今は「デービッド接ぎ 枝残しバージョン」でと考えていますが、最終的には 接木時点での芽の状態で判断する ことになるでしょう。


穂木の準備

接木1ヶ月前になったら穂木の準備をします。スタンダード仕立てにする品種は "好み" で良く、重要なのは穂木の直径と充実程度。私の今年の台木は直径10㎜程度なので、穂木にはひとまわり細い直径7〜8㎜の枝を選びます。充実程度は、葉色やその大きさ、枝の表皮の色、トゲの外れ具合で判断します。充実した部位のトゲはポロッと外れるが、未熟だと表皮とくっついて外れ難いので、見た目での判断が難しい場合には一応の目安になります。また、接ぎ穂を切る剪定バサミの感触でもわかりますね。充実した枝は切った瞬間に『パチン』と音がします(これは、デービッドさんの受け売り:p)

接ぐ品種は何でもいいのですが、個人的には "セルフ・クリーニング性" がある品種(咲き終えると手を入れなくても花弁がきれいに落ちる)が好きです。咲き終えた花弁が汚いのは見苦しいし、花弁が自然に散って花殻摘みを急がなくてもいいのは、高く仕立てる場合には助かります。また、秋の開花が返り咲き程度なら、黄葉がきれいな品種がいいですよね。

『接ぐ品種は何でもいい』と言っても、スタンダード仕立てに直立性の品種を接ぐ人はいないでしょうね。私は穂木を取り違えて、直立性のER「クイーン オブ スウェーデン」を接いでしまったことがあります:p 
福岡県・粕屋町の「駕与丁公園 バラ園」には、広島バラ園が仕立てたスタンダード株が多くあるのですが、ステムの伸びが悪く花数が少ない品種はやや見劣りするようです。

この時期に施肥すべきかどうかは一概には言えません。一般的には、施肥するなら『チッソ分は控えめで、リン酸とカリ成分が多い肥料を使う』ということになっていますが、どうなんでしょう? 秋に通常の肥培管理をしているなら、この時期に施肥してもその効果(や害)はさほど実感できないと思います。

秋の2番花を咲かせるかどうかも、どっちでもよくて、もし気になるなら摘蕾でしょうが、開花した段を穂木にするのではなくその下の段を使うので、開花は穂木の充実度にはあまり関係ないと思っています。要は、短期間に急に何かしてもさほどの効果はなく、自然に任せる(ほっとけ)がベスト・・かな?:p

また、この時期に石灰硫黄合剤を散布する栽培者もあると思いますが、接木をするときに穂木を拭うので、薬剤を散布しても差し支えありません。

ウィーピング系品種

まず、つるバラの12月剪定と同様に先端30㎝程度を切り詰めておきます。先端に近い部分はすでに小枝になっているので、穂木に使うのは元枝に近い部分ですが、そこを緩やかに曲げて穂木に適した太さの部分が頂点になるように誘引します。もしその部分の芽が小さければ、日当たりの良い上側の葉柄を付け根からもぎ取れば、その刺激によって芽が動き始めます。

この写真は同じ枝の隣り合わせの2芽です。右は、葉柄が自然に落ちて、既に接木できるほどに芽が充実しています。芽の基部が大きく厚いので、芽接ぎは難しそう。
左は枝先側で、黄葉が残っていた葉柄をもぎ取った直後。この芽は横向きゆえに陽当たりが半分で、まだ未熟です。

1月下旬の接木では品種によっては芽が動きすぎているかもしれないので、芽の状態の変化に注意し、上右のように芽が充実しているなら、それ以上大きくならないように、切り出して 冷蔵保存(下記)します。

シュラブ系品種

まず穂木を太さや充実度で選抜します。太さは台木よりもやや細いのが接ぎやすく、秋の開花枝の下の段の場合が多い。予備剪定で迷わず切り捨てるような細く弱い枝、病虫害のある枝は不適です。

枝の充実度は太さの他に樹肌の色で判断。品種にもよりますが赤花系では陽が当たった側が赤みを帯びた枝が好ましく、瑞々しい緑色の樹皮なら若すぎます。ただし白花系では充実しても表皮は赤くなりません。

その段の中程に、やや節間が詰まった "sweet point"(スウィートポイント)があります。それがわからない品種もあるけど、要は段の中程の陽が当たった側(表皮が赤みを帯びている)の芽がより充実しているようです。もちろんバラ苗生産農家はどんな芽でも使いますが。三枚葉の芽は(プロでも)使いません。

候補の芽の状態を見て、接木1ヶ月前の今の状態で芽が小さい場合は、その位置にある葉柄をもぎ取ります。逆に(私が住んでいる九州・福岡では)特にイングリッシュローズの大部分の品種は芽の動きが他の品種よりも早いので注意。

必要な芽の数

スタンダード仕立ての場合、接木する芽数は "2芽" にするのが一般的でしょう。販売されているものは「芽接ぎ」ですが、3芽接いであるものを見たことがありません。私も2芽接ぎますが、1芽は "保険" 的な意味合いです:p  1芽だけでもすぐに分枝し、やがてシュートも出るので1芽でも問題ないと思います。

接ぎ穂から出る最初の枝は やがて切り捨てる

接ぎ穂から出る最初の芽は、ベーサルシュートを出すために必要な糖などを供給する "光合成枝" になります。これはどの接木方法でも、あるいは実生苗でも同じです。自分自身はあまり大きく伸びようとはせずにせっせと養分を供給してベーサルシュートの発生を促す健気な働きをするのですが、この枝はベーサルシュートが出揃った秋(遅くとも冬の剪定時)までには切り捨てます。シュートの出が悪い場合や、逆に生育旺盛なイングリッシュローズの場合は残すこともありますが、接ぎ穂から出た最初の芽をそのまま翌年以降も主枝として育てるのではありません。これは誤解しやすいので注意。

ホームセンターなどで売られている大苗の中には、枝数を多く見せるためにこの枝を残したものもあります。しかしその後の成長が期待できる良苗は、枝数の多い株ではなく、がっしりしたベーサルシュートが3本あるものですね。

このように、接ぎ穂の芽は "光合成枝" になるので複数の芽を接ぐ必要性は低いのですが、デービッド接ぎの場合、節間の詰まったスウィートポイントの2芽を接ぎ穂にするのは、品種によっては有効(悪くはない)かもしれません。下の3株は品種が異なりますが、いずれもデービッド接ぎ90日後、台木上部のカットから50日後の状態で、右側がデービッド接ぎの 接ぎ穂を2芽 にした実例です。ベーサルシュートは出ていませんが、ウィーピング系やERなどのスタンダード仕立てには向いているかもしれません。芽接ぎを2箇所するより簡単 にできますしね。

左は 1芽の接ぎ穂 ですが、支柱に結んでいるのが最初に出た「光合成枝」です。その右がベーサルシュートで、ステムが伸びる勢いが違う のがわかります。もう1本ベーサルシュートが出てそれが伸びたら、この光合成枝は切り捨てられることになります。残しても生育のスピードが鈍り佳花は咲きません。3本目のベーサルシュートを出すためにも光合成枝は切除するのがベターだと思います。

真ん中の株(ベーサルシュートが出始めている)も 1芽 で、この枝を「光合成枝」と呼ぶのが適切か微妙です。この枝は冬剪定まで残したかも。2014年の株なので覚えていませんが、何事にも "例外" はあります:p

複数の品種を接ぐ

1本の長尺台木に2品種以上を接ぐことも可能です。北九州・グリーンパークバラ園で3品種が接いである株を見たことがあります。しかし一般的には、複数の品種を接げば数年後にはその中で最も強い品種だけが残ることが多いのだそうです。これは吸肥力の差以外に、前述のステップマム接木のような何らかの生理反応が起きていると考えることもできます。

芽数も大雑把にいえば、『お好きなようにどうぞ』ということでしょうか。自分が好きなように接いで、そして "失敗" する。失敗から何かを学べるはずだし、成功を目指すその過程がバラ栽培の楽しさだと思っています。

穂木の保存

切り出した穂木は冷蔵保存すればある程度は保存が効きます。私が知っているバラ苗生産農家は前日夕方か当日朝に切ることが多いようです。長尺台木の場合とは異なり、穂木を長時間水に浸漬するのはまずい と思います。
参照:「挿し木の基本」|岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室・福井博一教授

何らかの理由で保存する必要があるなら、穂木を短く切らず、デービッドさんのように切った穂木の両端をロウ付けするか、バッチレートなどの保護材を塗布して、穂木の水分が抜けるのを防ぎます。薬剤などは使わずに、穂木の両端に接木テープ「ニューメデール」を巻く方法が簡単でベターかも。

いずれの場合もジップロックに密封して表皮から水分が抜けるのを防ぎ(加湿は必要ない)冷蔵保存します。家庭用冷蔵庫の野菜室(3〜8℃)は冷蔵室よりやや温度や湿度が高く、冷気の直射もないので、保存に適当なんだそうです。ただし、野菜や果物から出るエチレンガスの予期せぬ影響を避けるためにも密封した方がいいでしょうね。
参照:「植物ホルモンとしてのエチレン」|Wikipedia (En)

2022年11月27日日曜日

バラのスタンダード仕立てを作る ② 台木の秋挿しが発根

この記事は10月22日の「バラのスタンダード仕立てを作る ① 台木の秋挿し」のその後の経過です。挿し木してから1ヶ月が経ち、長尺枝から発根しているのを確認しました。この1ヶ月間はたまに補水する程度で何もしていませんが、これらはスタンダード仕立てのバラを頼まれて作っている台木なので、発根が確認できて一安心です。この間の経過と現状を記録しておきます。


長尺台木の挿し木に栽培品種を追加

長尺枝が3本ではあまりにも物足りなかったので、妻が庭植えで育てている デルバールの "ギー・サヴォア" のシュートをもらって、数日遅れで挿木しました。長さが2メートルの、旺盛に伸びた枝です。トゲも多く、スタンダード台木に適しているかちょっと疑問ですが、太いシュートなので支柱を必要としない自立するスタンダード台木になるかもと考えてのテストです。

使用した用土やポット、挿木の方法は前と全く同じです。挿木後に小枝の先端に蕾ができたので、それは摘蕾しました。写真は挿木してからほぼ1ヶ月後の11月26日に撮影したものですが、ほとんど黄葉・落葉することもなく、あたかも根がある株のように生育しています。

挿し木した長尺台木の発根を確認

最初に挿した3本の現状です、写真は上の葉の状態と下のポットが同じ株です。
発根してポットの外まで伸びている白根が見えています。今はまだ数本だけですが、根長は10〜20㎝ほどでしょう。

挿木とオートファジー

この秋は暖かい日が多かったとは言え、季節ははや11月下旬。枝先の葉もわずかに黄みを帯び始めています。左右の長尺枝の落葉は1/3以下、中央の枝は2/3程度を落としています。これは水不足や気温の問題ではなく、発根するために オートファジー (Autophagy)  (Wiki) が発生したと推測しています。

長尺挿し穂が生命を維持したり新根を生成するために必要なエネルギーや物質は、自身の組織内に蓄えています。光合成産物の糖(ATPを作る材料になるほかに、有機物の骨格に必須の "炭素" を提供する)はデンプンとして「アミロプラスト」(光合成事典)に、バラの場合はその他にも「ソルビトール」(Wiki)などの糖アルコールとしても転流させています。無機物質などは「液胞」(光合成事典)の中に蓄えられているのですが、新たな成長のために養分不足状態になると、葉の細胞質成分(主にタンパク質)を分解して、物質のリサイクルを行うのだそうで、それがオートファジー (自食作用)ですね。

したがって一般論として、オートファジーによる挿し穂の葉の黄変や落葉(これは "萎れ" や "枝の褐変" を伴わない)は、挿木の深刻な失敗症状ではありません。でも、できるだけ充実した穂木を準備するのが重要なのはもちろんです。

挿木の "深刻な" 失敗症状については、3月16日の「挿木した栽培品種の鉢上げ」の「挿木に失敗」で触れています。

"水苔の不思議な力" と底面給水で、長尺挿木は手間いらず!

挿木から発根確認までの経過は以下のようなものでした。

毎朝、葉の状態と水位の下がり具合を確認します。この期間は「ひとりバラ祭り」と重なったのでほとんど放任でしたが、二度補水した以外は何もすることがありません。ルーティン作業が苦手な私のような栽培者にとって、水苔と底面給水の効果は絶大です。

日付 水受け皿の水深/㎝作業内容備考
10月16日穂木の採取穂木の基部30㎝を浸漬48時間
18日4挿木穂木の木口をオキシベロン2倍希釈液に5秒浸漬
19日3.5水の交換水受け皿に溜まった鹿沼土の微塵を除去
21日3.5根腐れ防止対策「珪酸塩白土・ミリオンA」を20㌘投入
25日2.0 → 3.5水の交換「ミリオンA」を20㌘追加投入
11月1日2.0 → 3.5水の交換「ミリオンA」を20㌘追加投入 合計60㌘/1鉢
5日1.0 → 3.5補水
10日2.0 → 3.5補水最後の補水
22日0 〜 0.2発根確認
26日0 → 2写真記録(上掲)この後、液肥を標準濃度の4倍希釈で鉢土表面から施肥

このように、水受け皿の水の交換が初期に3回、蒸散や蒸発によって下がった水位を戻す補水(水受け皿に給水)が2回です。11月10日(挿木してから約3週間後)に補水した後は、自然に水位が下がるのに任せて発根を促します。

予想どおり、秋の長尺挿木は挿木後1ヶ月を目処に底面給水を徐々に減らしていくことで発根 しました。

『長尺台木の挿木は難しい』という話はベテラン栽培者のみなさんからもよく聞きます。いかがでしょう、この方法は "難しい" でしょうか?

長尺挿木の要点

  • 病虫害のない充実した当年生または2年生の長尺枝を選び、先端の葉と茎頂(成長点)は必ず残しておく
  • 切り出した長尺枝の道管に空気を入れない配慮と、手早い作業
  • ポットや水受け皿、培土や用水は清潔なものを使う。根腐れ防止にケイ酸塩白土を使用
  • 培土は、菌密度が低いことや、保水性と通気性を考慮。底面給水では水苔がベスト
  • 挿木後1週間は「水挿し」しているつもりで水受け皿の水位を高めに保つ。私の場合は4㎝
  • 水受け皿の水位が蒸散や蒸発によって日々下がる "程度" をチェックし、最後の補水から2週間後(挿木から5週間後)に水位がゼロになるよう給水を加減。これはおよその目安で、厳密にやる必要はない

「水耕栽培」や「水挿し」の事例からもわかるように、"水分の過剰" が根腐れの直接的な原因ではない。地植えの株が水分過剰で根腐れするのは、培地の養分過剰、それに伴う雑菌の繁殖、酸欠や有害ガスの発生が主な原因。底面給水の場合は、ケイ酸塩白土はその予防効果が大きく、雑菌の繁殖による水の濁りは見受けられない。

今後の管理 長尺台木にできるだけ葉を残す

発根を確認した4日後、標準濃度の4倍に希釈した薄い液肥を与えました。急いで施肥する必要はないと思うけど、液肥は今後も週1回のペースで続けます。

使用したのはハイポネックスの2種類の製品ですが、これを選んだ理由は特にありません。あえて言えば、これまで「リキダス」などを使用してきた経験から、肥料に関する同社の研究は一歩先んじているという実感があるから。コリンやフルボ酸を含む「リキダス」に他社の代替品はないけど、液肥は微量要素入りなら他社製品でも同じようなものでしょう。

画像はクリックで拡大表示されますが、上左手前側の水受け皿はミリオンAの間に白根が元気よく伸びているのが分かります。「根は水の中で腐ることはない」という証拠です。これら水受け皿の中に伸びた根は、水受け皿を外せば枯れて消滅します。せっかく伸びたのにもったいない気はするけど、ポット内の根を充実させるのが優先です。1月下旬に、"デービッド接ぎの枝残しバージョン" で接木をする予定ですが、それまではこのポットのままの状態で、根量を増やすための「鉢増し」はしません。ただしポット上部の鹿沼土は鉢植え用の培養土に交換するかも。

26日に液肥を与えたのは、発根した白根から二次根の発生を期待するからだけでなく、茎頂に残っている葉のためです。外部から養分を与えることでオートファジーを阻止し、1枚でも多くの葉を残します。前の記事にも書いたように、この葉は1月に予定している栽培品種の接木のために重要な働き=バラのスタンダード接木成功のツボは  蒸散  だからです。
本格的な寒さの到来でやがて大部分の葉は落ちるでしょうが、乾いた寒風を避けて管理すれば、少しは緑葉のまま越年できるかも。そうなれば後は手慣れたデービッド接ぎだし、スタンダード仕立ての成功は間違いなし。かな?:P

台木の根量とその活性について

経験が少なく断言はできませんが、台木の根量とその活性は "ほどほどでいい" と考えています。接木をしたときに台木の根が旺盛に水を吸い上げる(根圧が高い)状態だと、その水は行き場がありません。その具体的な失敗例を、2022年2月15日の記事:「2022年 デービッド接ぎの経過 ー2」の中の「予期せぬ 失敗」で紹介しています。

要は、"接ぎ穂と根の活性のバランス" ですね。 例えば一般的な切接ぎでは、根量も貧弱で干からびたような根の台木を、さらにその根の先端を切って使用しますが、それでも接木は成功します。接ぎ穂の水分要求量が少なく根の吸水量に見合っているからです。スタンダード仕立ての長尺台木の場合は、その長い枝に水を転流させるために一般的な切接ぎよりも水の要求量が多く、それに見合う根の活性が必要でしょうが、台木がまったく発根していない「芽接ぎ挿し」でも成功するので、この時期に長尺台木の根量を増やすことに特別な措置は必要なく、"成り行き任せ" でいいと考えています。

2016年12月24日「スタンダード芽接ぎ挿し 8/18」 この年の私のスタンダード芽接ぎ挿しの成功数は9本中8本。

2023年1月追記:その後の生育は、1月9日の「バラのスタンダード仕立てを作る ④ 台木の鉢上げ」へ続く


スタンダード仕立て 過去記事

接木シーズンが近づいて、このところデービッド接ぎやスタンダード仕立て関連のページが閲覧される割合が増えているようです。

それらのページは、「テーマ別 記事一覧」にまとめています。スタンダード仕立て関連は以下の3記事です。

これらは何年も前の記事で、基本は同じでも現在とは方法が異なり、その内容は「芽接ぎ挿し」です。試行錯誤の記録というか、我がことながら読み返すのも苦しい "失敗の実録" です。見直してみると、例えば芽接ぎでは、『これではうまくいくはずがない』というような芽の貼り付けをしている事例もあります:p

そのような記事がスタンダード仕立て作りに関心のあるみなさんのご参考になるか疑問ですが、批評的に読んでいただければ、スタンダード仕立て作りに何が大事なのか、それを見出すヒントは提供できるかもと思い、何より私が多くのことを忘れてしまっているので、ここに再掲します。

スタンダード芽接ぎ挿し 8/18 2016年12月24日

2016年の「スタンダード芽接ぎ挿し」は3人で計18本を試みて、そのうち8本がうまくいきました。成功率が44%と極めて不本意な結果ですが、その原因を考えてみます。

成功のツボは「蒸散」 バラのスタンダード芽接ぎ挿し 2015年7月13日

今年2015年のバラの接ぎ木作業の総括です。今年はこれまでの「デービッド接ぎ」だけではなく、一般的な「切接ぎ」や「デービッド式割接ぎ」、そして「スタンダード仕立ての接ぎ木」も試みました。全部で120株程度で、結果は成功率70%程度でした。「デービッド接ぎ」が比較的好成績だったのに比べて、切接ぎやスタンダード仕立てへの接ぎ木は惨憺たる結果になりました。

1月26日の記事「バラの接ぎ木 2015」の中で、『成功率などを気にするのはつまらない』と書いたものの、接ぎ木に失敗して枯れていく株を見るのは苦しく、今年の春は寒く暗いものになりました。80株ほどは成功しているのですが、それがさほど嬉しくもありません。

でも(負け惜しみではなく)この失敗は貴重な経験になりました。このページでは、主にスタンダード仕立ての接ぎ木失敗の原因究明(とその対策)をまとめてみます。

挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て 2015年2月5日

ガーデンに華やかさと変化をもたらすスタンダード仕立てを、挿し木台木に芽接ぎで作る作業記録です。

スタンダード仕立ての台木を作る「長尺枝の挿し木」は品種と時期を選べば意外に簡単で成功率も高く、「芽接ぎ」もバラの接ぎ木では簡単な方法です。

このページはその主な工程を追記の形式で記録していきます。自分に合った方法を探るのが主な目的で、スタンダード仕立て作りのガイドとして適切ではありませんのでご承知ください。

2022年11月26日土曜日

2022年 秋のバラ 11月26日 まとめ

"ひとりバラ祭り" 終了

10月27日から開花し始めた秋のバラは、ちょうど1ヶ月後の今日11月26日に最後の花が満開になりました。

 名残の5花

下手な栽培にもかかわらず綺麗に咲いてくれたバラに感謝しながら、これで2022年秋の "ひとりバラ祭り" を終了します。

ありがとう

この期間にブログに掲載したバラは120花ほどになり、それらは以下のように分類して、別ページに移動しました。

秋のバラ 開花日
日付をクリックするとその日のページが開きます。
開花日品種
10月27日ロイヤルハイネス
28日ロイヤルハイネス  雪まつり ダイアナ プリンセス オブ ウェールス
29日魅惑 衣里佳  魅惑
30日雪まつり ホット神崎 ガーデンパーティ 雪まつり5花
11月1日メルヘンケーニギン ホット神崎 衣通姫2花
2日メルヘン ケーネギン5花
3日イーハトーブの風 イーハトーブの風3花
4日イーハトーブの風 ロイヤルハイネス2花 コンフィダンス  あけぼの
5日ジェミニ コンフィダンス  雪まつり2花 ロイヤルハイネス
6日メルヘン ケーネギン メルヘン ケーネギン10花
7日メルヘン ケーネギン3花 雪まつり 雪まつり2花 雪まつり3花
8日ダイアナ プリンセス オブ ウェールス コンフィダンス3花 ロージークリスタル
9日 メルヘンケーネギン あけぼの ダイアナ プリンセス オブ ウェールス
10日あけぼの5花 あけぼの2花 あけぼの 魅惑 ロージークリスタル クリスチャン ディオール ダイアナ プリンセス オブ ウェールス
11日手児奈  あけぼの  ロージー クリスタル
12日手児奈 クリスチャン ディオール3花  魅惑 ロージー クリスタル5花
13日手児奈 コルデス パーフェクタ クリスチャン ディオール
14日手児奈  クリスチャン ディオール イーハトーブの風 異種3花
15日手児奈  ホット神崎
16日あけぼの コルデス パーフェクタ
19日ダイアナ プリンセス オブ ウェールス ジェミニ ダイアナ & ジェミニ2花
20日ダイアナ プリンセス オブ ウェールス フロージン '82 あけぼの スーパー ディオール
21日フロージン '82 スーパー ディオール カノープス 蒼い月 ホット神崎 異種5花
24日スーパー ディオール スーパー ディオール2花
25日イーハトーブの風 イーハトーブの風
26日異種5花 (このページ)

秋のバラ 組花一覧
2花〜10花までの "組花" を1ページにまとめています。 組花一覧ページを開く

秋のバラ 品種別の開花日
左欄の "品種名" をクリックすると、その品種を開花順にまとめたページが開きます。
品種名剪定日
9月
到花
日数
2728293031  1  2   3  4  5  6  7  8  9 10111213141516 17181920212223 242526
R. ハイネス21日38
雪まつり18日43
ダイアナ13日58
魅惑18日54
ホット神崎16日53
ガーパー16日45
メルヘン16日52
衣通姫21日44
イーハトーブ16日48
コンフィダンス18日47
品種名剪定日到花
日数
2728293031  12 3456789 10111213141516 17181920212223 242526
あけぼの16日56
ジェミニ13日57
ロージー16日58
C. ディオール16日58
手児奈13日61
コルデス P.11日66
S. ディオール16日70
フロージン '8211日76
カノープス11日72
蒼い月16日69
品種名剪定日到花
日数
2728293031  12 3456789 10111213141516 17181920212223 242526
剪定日を基準にした品種別の開花日
品種名剪定日
9月
到花
日数
2728293031  1  2   3  4  5  6  7  8  9 10111213141516 17181920212223 242526
コルデス P.11日66
フロージン '8211日76
カノープス11日72
ダイアナ13日58
ジェミニ13日57
手児奈13日61
ホット神崎16日53
ガーパー16日45
メルヘン16日52
イーハトーブ16日48
品種名剪定日到花
日数
2728293031  12 3456789 10111213141516 17181920212223 242526
あけぼの16日56
ロージー16日58
C. ディオール16日58
S. ディオール16日70
蒼い月16日69
雪まつり18日43
魅惑18日54
コンフィダンス18日47
R. ハイネス21日38
衣通姫21日44
品種名剪定日到花
日数
2728293031  12 3456789 10111213141516 17181920212223 242526

備考

  • 薄いサーモンピンクはブログに掲載した花が咲いた日。濃いサーモンピンクはそれ以外の花も含めた "開花中心日"。
  • 開花日に大きなズレがあるのは、開花が集中しないように意図的に剪定日をずらす、あるいは剪定位置を下げた枝があるため。"切戻し剪定" も多数あるが、それはこの表の剪定日には反映されていない。
  • 同一品種でも株の樹齢や生育程度に差があり、それが開花日のズレに影響している。
  • 「早咲き品種」「遅咲き品種」は、ほぼその傾向を示したが、このデータの「到花日数」は汎用性のあるものではない。

ひとりバラ祭り 直会

祭りは "自然の恵みに感謝の気持ちを表す" 行為だろうと思う。

祭りの後の直会(なおらい)では いっぱい "反省文" を書くことになるのだろうと思っていたが:p 今は何も語ることはない。咲いたバラと向き合って幸せな秋を過ごすことができた。ひとり静かに、心の中に浮かんでくることを受け止めている。