このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2022年2月15日火曜日

2022年 デービッド接ぎの経過 ー2

前回1月31日のレポート:「デービッド接ぎの経過 ー1」のその後の経過です。
品種や、穂木・台木の状態、接ぎ方で生育程度にはかなりばらつきがありますが、これらの写真は生育が良いものを選んで掲載しています。

デービッド接ぎ 約7週間後  接木をした日 12月25、26日

台木の枝を残すバージョンです。新梢が5cm伸びたら台木の枝を接木テープの上でカットします。その時期が近づいています。

この2株は同じ穂木から採った接ぎ穂です。枝を残すバージョンが早く成長しています。でも、これはたまたまの結果でしょう。同一品種で比較できるのがこれしかないのですが、右は接ぎ方に問題があったのかも。

デービッド接ぎで枝を残す場合、「"頂芽優勢" によって台木の芽が接ぎ穂の芽よりも優先されるのではないか?」というのは、必ずしもそうでもないことがこの3株の事例でわかるかと思います。

でも全体的に見れば、枝を残さない株の新芽は勢いがあり、成長がやや早いようです。


デービッド接ぎ 約5週間後  日付は接木をした日 「品種名」

 1月7日 「あけぼの」
 1月7日 「春芳」
 1月9日 「イーハトーブの風」
 1月9日 「エレガント レディ」

デービッド接ぎ 約1ヶ月後

 1月14日 「アンナプルナ」
 1月14日 「ペッシュボンボン」
 1月14日 「雪まつり」
 1月14日 「クイーン オブ スエーデン」
 1月14日 「ベルベット トワイライト」
 1月14日 「シェエラザード」

デービッド接ぎ 約4週間後

 1月17日 「コンテ ド シャンボール」
 1月17日 「セント セシリア」
 1月18日 「パット オースチン」
 1月20日 「ラジオ タイムス」

予期せぬ 失敗

今年のデービッド接ぎ約100株は、すべてがこのように順調に生育しているわけではありません。新芽の動きが鈍いものもあります。現時点で枯れてさえいなければ、やがて春が来れば伸び始めると期待しています。

ところが、予想外の失敗が発生しました。この2株はいずれも1月14日に接木して、その1ヶ月後2月12日の状態です。穂木は、品種は異なりますが同程度に生育しているイングリッシュローズです。

左の写真に見えるのはなんでしょう? これは、溢れ出て固まりかけた "樹液" です。台木と接ぎ穂の接合部の接木テープが内部からの圧力で膨らみ、さらにそれを破って、樹液が垂れています。接ぎ穂の先端も同様に膨らんでいます。

右は比較対象の正常に生育している株ですが、この2株は台木を植え込んでいる培土が異なっているのがわかるかと思います。左は1年前に5号ロングスリット鉢に鉢上げした挿木株で、右は同じく約1ヶ月前に鉢上げした実生株です。台木の品種は同じです。

左は鉢上げ後の約1年間は土替えをしていません。培養土は、古いだけではなく「黒土」を主体にした別の配合です。その一連の株は20鉢ほどあり、芽接ぎの台木にも使用したのですが、芽接ぎに失敗した株の根を調べてみたら、下の写真の状態でした。 これを台木にしてデービッド接ぎをし、その首を切ったらどうなるのか

接ぎ穂に台木から水分が供給されず枯れるというのはイメージできますが、まさか「過剰な水分で癒合が妨げられ、接木に失敗する」とは思いもしませんでした。 春先ならともかく、この寒い時期は休眠状態で樹液もさほど流れていないだろうと思っていたのですが、「根圧」はそれほど強いんですね。

参考:「根圧」|みんなの広場|日本植物生理学会

『樹液が溢れているみたいだな』というのは気づいていたのですが、気にせずそのまま放任。悪いことに、ハウスに行くのが遅くなった日があって、トンネル内の気温が40度Cを超えた時間帯がありました。この「水膨れ」の温度はかなり上がったのでしょう。接ぎ穂が煮しめたような色になっています。5株ほどが回復できそうもないダメージを受けてしまいました。

バラさん、ほんとにごめんなさい。

この失敗から学んだこと

鉢植え台木は接木がしやすく、接木時に台木の枝をカットすればテーピングが簡単です。でもそれではこの失敗を繰り返しそうな気がします。それを避けるためには、接木の前か、あるいは同時に「鉢増し」または「土替え」をして意図的に根を苛め、ある程度は根毛が切れた状態にしておくのがいいのかも。

参考:「根毛」  フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
:「根毛」は細い根のことでなく、裸眼では見えない微細な組織で、水や養分を吸収する働きをする。
細い根のことを「毛根」という栽培者は多いけど、植物に「毛根」というのはない ので注意。

一般的な接木方法では台木の根を切りますが、それにはこのような意味があってのことなのでしょうか。


カルスは上から

台木と接ぎ穂が接がる(癒合する)のは カルス(未分化の細胞塊)の働きですが、そのためには植物ホルモン「オーキシン」を必要とします。 オーキシンは成長を促すとともに、傷口を塞ぐ「癒傷ホルモン」でもあります。新芽で生合成され、「極性移動」で接木部分(傷口)に運ばれてきます。


極性移動なので、原則的にそれが生合成される新芽が存在する側の上方からカルスが生成され始めます。テープの下に赤く見えるのがそれで、接木後の成長が順調ならおよそ1ヶ月ほどで見え始めるようです。新芽が無い側にはオーキシンが届きにくいので未だカルスは見えていません。なので早めにテープを取り去るのは危険ですね。

中央の写真をクリックして拡大表示すると、接ぎ穂の切断面よりも台木の表皮側が少しだけ小さいのがわかります。カルスが生成され始めていることから判断すれば、接ぎ穂の外側の切断面 台木の表皮側の切断面 というサイズが好ましいように思われます。

このカルスは新梢の成長とともに肥大し、やがてそこからベーサルシュートが発生します。接ぎ穂から出る新芽のその横から出るのは「脇芽」で、ベーサルシュートではないですよね、どうなんでしょう? 私は過去記事でそれらをゴッチャにしていたみたい。

7 件のコメント:

ピリカ さんのコメント...

いつもあなた様のホームページに助けられています。私も一週間前にはじめて台木に接ぎ木をしました。が、安物のホームセンターの500円の切り継ぎ刀を購入して使用しましたが全く切れず やってしまいました。(笑)
指が深く切り継ぎ、薔薇を切り継ぎできず
指を切り継ぎになってしまいました。台木も8本もダメになってしまいましが良い経験、勉強できました。こんど台木を手に入れる事が出来れば絶対 成功させるぞー!と 思っています。
やはり、田主丸みたいに良い刀を購入しないとダメかとも思っています。
台木の購入の仕方がわからないので頑張って河川敷にある野ばらから作ってみようかと思っています。
薔薇やガーデニングに触れていると癒されます。夜はあなた様のブログを見る事が出来て安心します。投稿ありがとうございます。

そら みたか さんのコメント...


ピリカ さん
> 薔薇を切り継ぎできず指を切り継ぎになってしまいました

😅 表現は面白いけど、想像しただけで背中が凍ります。
そうなんです、多くの場合、事故は切れ味の悪い小刀で、力を込めて切ろうとする場合に起きます。
刃物は「研ぎ方」も重要ですね。今後もどうぞご用心を。

台木の入手(購入)が難しいという話はよく耳にします。

> 河川敷にある野ばらから作ってみようかと
良いアイディアです。野ばらの白い花が咲けば遠くからでもわかりますから、5月は野ばらを探すチャンスです。併せて、野ばらがどんな場所で茂っているのか観察するのも、栽培の参考になるかも。

自分で作るのもいいですよね。
① 接木講習会などで配布される台木の1株を(接木しないままで)「母木」として育て、それから「実生苗」や「挿木苗」を作る。ただしこれは2年かかります。
②ノイバラからタネを取り「実生苗」を作る。今が種を蒔く時期なんですが。。
③ ノイバラ(や台木に使えそうな品種)を挿木して台木にする。これは6〜7月に、新しく伸びた枝を挿木します。
・・などの方法もあると思います。
私は来季用の台木の準備を始めていますので、近日中にそれらの作り方に関する記事をアップする予定です。

なお、私のことは「そら」と呼んでいただき、お互いに「ピリカさん」「そらさん」でお願いします。😄

ピリカ さんのコメント...

そらさん そう呼ばせて頂きます。ありがとうございます。私もご先祖は福岡久留米市、そして鹿児島です。高校は久留米市でした。今 思えばなんであの時 石橋文化センターでもっと薔薇を見ておかなかったのかと思います。
私は今は和歌山市に住んでいますが親戚のほとんどが福岡に住んでいます。
福岡や鹿児島が薔薇に強い地域である事に嬉しく思っています。

接ぎ指の件、ご心配お掛けしました。薔薇の接ぎ木は失敗かと思いますが
人間の指は一週間で綺麗に付きました。
ありがとうございます。

台木はひとつだけ地植えしました。
台木を自分で作れたらいいな!と
思っています。

聞いた話では、種を植えて接ぎ木部分を徒長させる為に籾殻を厚く被せるとか言ってましたが。そらさんの言うように土に深く植える方が良いと思いました。
籾殻は強風で散らばったり、堆肥になるのに、時間が掛かるような気がします。

まあ、私は薔薇に興味を持って10年ですが
幼稚園レベルの体力と進歩しかしていないのですが。

まあ、楽しんで薔薇と暮らしたいと思います。
台木が増えて私も好きな薔薇を増やしてみたいです。
増えると言うより 立派に育て上げたいです。

そら みたか さんのコメント...


ピリカさん、こんにちは。

> 台木はひとつだけ地植えしました。
おっ、それはよかったです。
私の失敗経験です。『自然の中で旺盛に育つノイバラだから、植えたらほっとけばいい』と思っていました。ところが、春先のアブラムシ、続いてウドンコ病、夏にはハダニと、次々と問題が発生します。なので、栽培品種と同じくらい丁寧に管理する必要があります。植え付ける場所にもよりますが、それなりに肥料も必要ですし、過湿も嫌います。放任しても枯れることはないのですが、良い株には育ちません。

挿木台木の作り方(概略)
① 植え付けた台木から数個の芽が出て新梢が伸びる。*台木の首の切り方次第で出ない場合もある。今年は新梢には花は咲かない。病害虫の防除が重要。
② 大きく充実した株になるよう栽培品種なみの肥料を与える。6〜7月にかけて新梢の途中から脇芽が出て勢いよく伸びる(サイドシュート)。「秋挿しの台木」を作るにはこのサイドシュートを使う。風で痛まないよう適当な支柱を立てる。
③ 挿木は9月下旬から10月上旬頃。それ以上遅れると台木として充実しない。
備考:挿木するためにサイドシュートを切ってしまうと株が弱る。これが今後の "母木" になるので、今年は株を充実させることを主眼に。

実生台木
ノイバラのタネを蒔いて「実生台木」を作る際は、接木をする部分(私は "胴" と呼んでいます)ができるだけ長く真っ直ぐに伸びるように工夫をします。

① タネは深めに蒔く。ただし深すぎると発芽しない。
② 初生葉(双葉)が出るのを見計らって籾殻燻炭を被せ、さらに稲藁を敷く。
③ 定植は浅植えにする。

その具体例:
ノイバラ台木の実生苗作り(プロの場合)
ノイバラ台木の実生苗作り(プロの場合)−2

私は今年はセルトレイに蒔きましたが、② の段階で籾殻燻炭を被せる何らかの工夫が必要かも。・・それを忘れていました。ご指摘ありがとう😁

> 増えると言うより 立派に育て上げたいです。
ピリカさんはどのような薔薇がお好きなんですか?

楽しみなブログです さんのコメント...

そらさん、ご親切な返信ありがとうございます。台木の育て方や、また台木の作り方まで細かく丁寧に記載下さり感謝いたします。文章とそれにお心遣いも大切にさせて頂きます。

こんな、素人の私にも好きな薔薇を聞いて頂きまして嬉しゅうございます。

好きな薔薇は 素直に答えますと
イングリッシュローズの
ストロベリーヒル です。
匂いがたまりません、たぶんミルラ香とか言うのかも知れません。

あと、河本バラ園のクチュール・ローズ・チリア
です。

もちろん他にもたくさんありますが。

最近は ばら会の方々のコンテストに出品される
剣弁高芯咲きの腰のしまったスタイルや、不動なる魅力にはまりかけています。

ただ、好きと上手く育てられるとは違うようで
まだまだ私のばらのお勉強不足なんですが。

そらさんは、好きな薔薇はなんですか?
薔薇に興味を持つきっかけはなんですか?

ピリカ

そら みたか さんのコメント...


ロシアのウクライナ侵攻。・・・・滅入ってしまいます。

> イングリッシュローズのストロベリーヒル
私も最初に購入したイングリッシュローズはストロベリーヒルでした。v(^^)

バラの美しさに気づいたのは10年ほど前のクリスマスの頃で、夕暮れの闇に枝葉は沈んで、たくさんの白い花がぼんやりと浮かび上がっている幻想的な光景を見た時です。後で知ったのですが、そのバラは「シュネービッチェン」(白雪姫/登録名:アイスバーグ)でした。それが薔薇に興味を持つきっかけになりました。

好きな薔薇は、コンテストで天賞(1等賞)を受賞したときの自分のバラです(爆)。

バラ仲間を見て時々(いつも)思うのですが、私はそれほどバラが好きなわけではないみたい。四六時中バラにかまけていて、妻からは『バラのことしか考えていない』と怒られますが、私がバラにのめり込んでいるのは、もしかしたら何かの "代償行為" なのかも。最近は作業をしながら「私のバラ栽培は、悔恨の多い私の人生を(無意識のうちに)自浄しようとしているんだな」と思うことが多いです(笑)。いや、"衒い" で言うのではなく、ほんとうににそう感じています。

そんな私ですが、この10年ほどの間に二度、感動で思わず涙が溢れそうになったバラに出会いました。何か特別なバラということではありません。畑の隅にひっそりと咲いていたバラです。それをもう一度見たくて栽培を続けています。

楽しみなブログです さんのコメント...

美しい~っ! なんと美しい! そらさん、感動したよ!
今日はこちら関西は晴れて花の世話頑張ったんで腰痛と身体が重くてくたばっておりましたが、
なんと! 美しい御心のお方か!
感動して、びっくりシビレて 腰痛もぶっ飛んだよ!

優しい方、美しい心の方、そして聡明で
神童が大人になった方です。

私は最近 やっと美しい方に出会えました。
ありがとうございます。美しい心の方、自然や平和を愛する方と出会えるのが最近は一番嬉しいです。

そらさんの薔薇の隙になったお話を教えて頂きまして感謝いたします。その時の光景が目に浮かびました。
心に飛び込んで来て一瞬ではまりますよね。自分でも気付かなかった何かを薔薇が見抜いてつかんだみたいな!

自然や生き物、草花を人間の魂レベル、全身全霊でお付き合い出来るって 私にとってはお友達で宝物、寂しくなくて 別の世界を持てたみたいで、最近は百舌鳥さんがなついてくれて自然に感謝しています。

そらさんが畑で そーっと咲いていた薔薇を見て涙が出そうになると聞いて 言葉では伝えれないけど 清い、美しい! この地球で絶対に大事な感覚ですよね。

なんか、今回は興奮して何をしゃべってるかわからん私ですが、そらさん、うつくしをありがとー! 私の心のお薬になりました。

あっ、そらさん、、そらさんは薔薇好きだよ! 「バラは好きではないかも」なんて
ご家族や友人に言ったら びっくりするよ!

知能の高いそらさん、賢いそらさん、
そして 優しいそらさん、、美しい心のそらさん、ぜひ、ご自愛くださいね。

接ぎ木のブログもありがとう。

一番賞の薔薇、おめでとうございます。
調べてみます。ピリカ