このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2022年2月11日金曜日

鉢植えバラの 土替え

鉢植えの土替えはこれまで12月〜1月上旬にすることが多かったのですが、今年は遅れて1月末に実施しました。

経緯:『もうコンテストの時代ではない』

これは、ある尊敬するバラ栽培者から、昨年暮れに聞いた言葉です。言外に、『もう』ではなく『とっくに』というニュアンスが込められていました。

バラ会に所属し、コンペティション・ローズ(競技バラ/コンテストに出品することを主な目的にするバラ)を栽培するのはとても楽しかったし、勉強にもなりました。でも、コンテストに出品することが自分のバラ栽培のゴールとは思えません。人生の残りの日々も少ないし、自分は同時に一つのことしかできないので、本当にやりたいことに専念しようと考え、コンペティション・ローズの栽培はやめることにました。

2020年の栽培結果

昨2020年秋のバラは、自分では『まずまずの出来だろう』と思いましたが、日頃ハウスに様子を見に来てくれる複数のバラ仲間は逆で、『今年は出来が悪い』との厳しい評価でした。 「バラ会を退会し、コンペティション・ローズの栽培も続けない」というのは昨年の早い時期から考えていたので、今にして思えば、その頃から私の中で何かが変化し始めていたのかもしれません。それは例えば、栽培にあたっての「緊張感」のようなものです。

バラ仲間からは『このままやめてもいいのか? それではあまりにも "中途半端" だろう』という意味の(実際の言葉はもっと柔らかな表現でしたが)アドバイスをいただきました。確かに、「バラ会」から離れることはその価値基準にも距離を置くということなので、今からは自分一人でそれを探さなければなりません。それはとても難しいことのように思えます。実際、今も具体的な目標が見つからないまま、中途半端な気持ちで日々の作業を続けています。鉢植えバラにはとても重要な「土替え」が遅れてしまったのも、そのような迷い=緊張感の欠如がもたらしたのかもしれません。

株の選択

コンペティション・ローズの栽培は終わりなので、これまで育ててきたHT品種を次のように振り分けました。

  1. 今後もこのまま鉢栽培を続けたい品種を選ぶ
  2. 貰い受けてくれる希望者があれば積極的に里子に出す(既に幾鉢も貰われて行きました)
  3. 交配用の「花粉親」にするため、各品種を1株だけ残す
  4. 同じく「種子親」に選んだ株はそのまま残す
  5. 健全に育っているその他の株は花壇に地植えする
  6. 幾つかは廃棄処分に

今回の土替えは 1. の「今後も栽培を続けたい品種」が対象です。3.と4.も土替えした方がいいのでしょうが、体力・気力不足で手抜きをしました。


1 土替え前の状態

これはHT(ハイブリッド・ティ)ローズの「手児奈」(てこな)です。昨秋は多くのみなさんの「手児奈」が綺麗に咲いたようです。自分としては「まずまずの出来」です。これは、2. 交配用の「花粉親」にする予定の株ですが、根の状態を見るために鉢から抜きました。

 2021年10月15日
 2022年2月5日

4年生株です。2本の長いステムは1段切り戻しています。短い(弱い)2本のステムは、花殻を取り去った状態です。このように裸の状態では痩せっぽちですが、私のバラでは標準的なサイズです。

バラ仲間の評価では、私のバラは「鉢植えとしては大きく育っている」のだそうで、「ステムの伸びの良さ」を指摘されることが多く、『どんなドーピングをしているの?』と聞かれます(笑)。
これは何か秘密の増強剤があるわけでもなく、「ハウス栽培だから」としか答えようがありません。
でも、2本の短いステムは弱すぎますね。私の方法ではステム3本が限界のようです。

2 鉢の内部と根張り

鉢は知り合いの園芸店から譲ってもらった中古のプラ鉢です。元はインドア・プランツをリースするのに使う鉢だったそうで、バラ鉢や菊鉢と較べると水捌けはよくありません。

この鉢を使った最初の年は、根鉢の中心部が過湿で土が腐り気味、根も黒くなっていました。それを改善するために、鉢底にステンレスのザルを入れることを思いつきました。

ザルの直径18cmは鉢底より少し小さく、中央部に伏せるように置いてその表面と周囲にボラ土を入れています。このため鉢の容量の1/5程度は培養土が無い空間です。

根の状態を見るために根鉢を崩しましたが、簡単には解けず難渋しました。根鉢中心部の過湿はある程度改善されています。根鉢はザルの形状の影響をモロに受けていて、長く伸びた根は僅かで、根鉢の表面に見える白根も少ないです。培土の状態も見ると根鉢全体がまだ過湿状態です。根量は「貧弱」ではないにしろ、「多い」とは言えません。

でも1本1本の根は "たくましい"(短いけど、太くて締まっている)と思います。培土が黒いのは数日前に水やりしたのが乾いていないからで、土が腐っているのではありませんが、それに近い危ない状況ではあります。

もう一つの特徴は「根が鉢の上半分に集中している」こと。鉢全体にぎっしりと満遍なく根が伸びているような株(その好例がboketanさんの株/「新苗で秋に勝負 11月」)と比較すると、ずいぶん見劣りします。

評価

5年ほどこの方法でやってきたのでこの根量は想定の範囲内です。鉢はこのほかにハイグレードのスリット鉢やリッチェルのバラ鉢を(ザルを入れずに)使っています。それぞれ根鉢の状態が違いますが、鉢の種類や容量、培養土の内容、そしてそれらを反映している "根量" が、私の栽培目的である「気品のあるバラを咲かせる」ことに直結するのかどうかは、わかりません。端的に言えば、「関係ない」と思うようになりました。

3 培養土の組成

土替えをするにあたっては;

  1. 1年間の栽培を振り返り問題点を洗い出す
  2. 根鉢を観察する
  3. これらの結果を踏まえて、新しい培養土の組成を考える

という手順を踏むべきなんでしょうが、この数年ほぼ同じで、変わりばえのしない内容です。つまりこれらの手順をすっ飛ばしています。

鉢植え培養土 2022
資材量 単位:リットル容量比(概算)%
赤玉土・中1310
赤玉土・小2620
鹿沼土1410
軽石・小107
ゼオライト21.5
牡蠣殻石灰10.8
牛糞堆肥1610
バーク堆肥2418
籾殻燻炭107.5
ピートモス107.5
水苔107.5
合計136リットル100%
  • 無機物(鉱物):有機物=48%:52%
  • 各資材の配合割合は何かのデータに基づくものではなく、かなり適当。赤玉土や鹿沼土は風袋単位で投入して、計量する手間を省いている
  • 今回から、NPKを含む肥料分は一切入れていない。別途「置き肥」と「液肥」を与える
  • 牛糞堆肥はいろんな種類があるが、これは水に溶かした牛糞を枯れ草や剪定クズとともに発酵させたもの。商品名「すえっ肥」 ふくおか良質堆肥コンクール金賞受賞
  • 水苔は、堆肥やピートモスが早いうちに分解されてしまうのに対し、1年後もほぼその形状を保っている。これは保水性だけでなく、鉢土の内部に気相を作る良い資材ではと思い、この数年は毎回使っている
  • バーク堆肥は1年前に多めに買っていたものが残っていたのでそれを使ったが、分解が進みすぎてバーク(樹皮)ではなくなってしまっているのが気になった。それはマズイのだけど。。

今回はこれを2回作りました。計270リットルで、この数年では最少の量ですが、それでも「土替え」はやはり重労働ですね。競技バラの栽培がメインだった2〜3年前は、1000リットル以上の培土を混ぜるのに「コンクリート・ミキサー」を使っていました。それが遥か昔のことのように思え、気持ちが離れつつある自分に気づかされます。

培土は何でもいい

バラの溶液耕の培地はロックウールが一般的ですが、その他にも有機物・無機物いろんなものが利用されます。私は籾殻燻炭やボラ土などの単体や、それら2〜3種類の配合を使ってテストしたことがありますが、その結果から「施肥や灌水が適切に行われるなら、培土は何でもいい。培土と肥料は分けて考える」という方法もあると思っています。

その具体例としてバラの切り花生産の現場を、2012年4月25日の記事:「ロックウールを使った バラの挿し木(2)」で紹介しています。写真で見えるように1株のロックウール培地の大きさは10号鉢よりかなり小さいのに、ステム長80cmのスタンダードバラを年間20本も(あるいはそれ以上を)切り出します。これが「培土は何でもいい」と考える根拠の一つです。

でも、現状の配合はこれまた「曖昧」です。それは「溶液耕で気品のあるバラが咲くのか?」という漠然とした疑問があるから。これは、「溶液耕のトマトと土耕のトマトはどちらが美味しいか」「土耕でも、化成肥料と有機肥料ではトマトの味が違う」といったレベルの意識で、バラの気品とトマトの味を同列に考えています (笑)。要するに、確信めいたものは何もなく、迷っています。

参考:「バ ラ(養液栽培)」|花き栽培の手引き | アップルネット 青森県農業情報サービスネットワーク

4 植え付け

鉢底に入れるステンレスのザルは、口径18cmと21cmの2種類を用意してします。前回は18cmをうつ伏せにして使いましたが、根域の制限量が多すぎるので、今回は21cmを上向きに入れる最初の頃のやり方に戻しました。これで鉢底はリッチェルのバラ鉢のような「お椀型」になり、鉢の容量も増えます。

このパターンでは鉢底石は不要なんですが、ステンレスでも3年も使っていると、根が分泌する「根酸」で錆びて破れてしまいます(根酸のpHはレモン果汁と同じ pH=2.x 程度)。その破れから培土が溢れ出ないように鉢底石を入れています。

「ウオータースペース」というほどのものはありません。それが必要なのは灌水方法が拙いか、あるいは培土の排水性が不適なのでは?と思いますが、「置き肥」などの固形肥料を使う場合は、ある程度の時間は水が滞留する必要があるのでしょうか。

また、バラ会で常識のように語られる「浅植え」にもしません。私は浅植えには合理的な理由がないと考えているへそ曲がりですが、「元祖・へそ曲がり」の福島先生は「元祖・浅植え」でもあります。これに関して、福岡バラ会の会報「ローズ・ふくおか」のアーカイブスに面白い記事があります。

「バラの浅植について一言」   原田民雄   昭和57年/1982 掲載

40年も前の記事ですが、当時のバラ会やバラ栽培に熱心に取り組んでいるみなさんの雰囲気が伝わります。個人名が出てきますが、みなさんは日頃から交流のある関係で、その親しさの中での議論(喧嘩を売っているような、あるいは恨み節のような文章は、筆者・原田さんならではの "ユーモア" )です。

5 未解決の問題:鉢の下半分が常に過湿気味

鉢は「宙吊り」で、地面から鉢底まで20cmほどの高さがあり、できるだけ空気(湿気)が流れるようにしているのですが、それでも鉢の下半分が常に過湿気味です。逆に見れば、鉢の上半分は蒸発もあって乾きやすく、それに合わせて灌水するので、前掲の根の写真のように、そこの根(だけ)が発達して盛んに水分を吸収し、ますます乾くというマズイ構造になっています。

鉢の下半分の培土の組成を「排水性重視」の別のものにしたこともあるのですが、面倒な割にさほどの効果もなかったので今は単一な培土になっています。鉢数が減ったので、今後はもう一度それを試してみようかと思っていますが、とりあえず今年は灌水の量と回数を減らしてみることと、鉢土の表面からの蒸発を少なくするための「マルチング」を考えています。

pH と EC と pF

鉢底から流れ出る排水は皿に受けますが、100鉢もあると、この排水の処分が一仕事。でも、鉢ごとに排水のpHとECを計測する のは、私の栽培方法では大事な要素なので省略できません。

EC:電気伝導度/肥料は水に溶けイオン化された状態で根に吸収される。イオンは電気を通すので、排水の電気伝導度を計測することで、培養土に含まれている現在の肥料分を "間接的に" 把握することができる。

この鉢の排水は pH 7.3でした。ECは、久しぶりに計測しようとしたら電極が錆びて壊れていて、計測不能:p
今度は安価なメーターではなく、校正液を含む中級品を注文しました。今年は施肥を「ティーバック式」にしてみようと考えているので、ECメーターは必需品です。

この項目は、2月17日の「鉢植えバラの 土替え−2 pHとEC」に続きます。

土壌の水分を測る "pFメーター" もいろんな種類のものがあります。写真はデービッドさんのハウスで使用されているもの。苗の管理を手伝っている人のために準備したんだそうです。2015年1月撮影。

確かに、苗の管理には向いてるかも。しかし成株は品種ごとに、あるいは成長程度で水分要求量が異なり、そのような条件では土壌水分の計測は時間がかかって簡単じゃなさそう。

それに「鉢土の水分ぐらいはメーターに頼らないで』と、水管理が下手な自分だから余計にそう思います。

参考:土壌水分計 pFメーター (株) 竹村電機製作所


6 考察 鉢植えの根量が多いのは好ましいことか?

バラは根域を制限した栽培をすれば根量(根の密度)が増える

根の状態がまるで異なるこの2本の台木は、じつは同じ品種です。
左は実生を地植えで栽培した株。右は挿木で、遮根シート(防根透水シート)を使った「根域制限栽培」で育てました。その培土は、赤玉土・小粒6:パーライト3:ピートモス1 というシンプルなものです。赤玉土100%でも結果は同じようなものでしょう。

ノイバラは(たぶん他の品種も)根を伸ばせる範囲を制限すれば、このように多くの細い根を出す形質を持っています。鉢植えは、根を長くは伸ばせない「根域制限栽培」なので、多くの細い根を出す=根量が多いのは何も特別なことではありません。

ここで検討したいテーマは、根量の多さが佳花を咲かせるための絶対条件かということです。

自分的には意味のあるテーマと思うのですが、私の場合「佳花」は "気品のある花" という意味です。それが抽象的・主観的ゆえに、どのように考えていけばいいのか、その道筋がまとまりません。今は問題提起だけにして、これは提出期限なしの「宿題」とし、具体的な作業の中で考えていきたいと思います。

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