このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2022年2月19日土曜日

バラの交配・9 播種

この記事は2021年9月13日の「バラの交配・7」の続きです。

その後の経過

9月13日のページで紹介している「色づき始めたチビちゃんたち」は、秋が深まるにつれてそれぞれ成熟していきました。逆にダメになっていったものも幾つもありました。収穫のタイミングはよくわからなかったのですが、意図的に遅くしたものも含め11月末までに収穫し、ジップロックに入れて冷蔵保存しました。冷蔵期間は70〜100日になります。

これを播種するために、2月10日に冷蔵庫から取り出してタネの様子を調べました。
タネを丸3日間水洗して、2月14日に播種しました。以下はその記録です。

:写真クリックで拡大表示。撮影時の拡大率がカットごとに異なるので、大きさの比較はできません。


1 採種 2月10日

1 ♀︎ ロージークリスタル ♂︎ コンフィダンス

♀︎ ロージークリスタル ♂︎ コンフィダンス(2)

これは意外な "結果" でした。実は色づいているのに、何が原因なのかタネは成長していません。

2 ♀︎ 雪まつり(自家受粉)

「雪まつり」は高く伸びて純白の花が咲くHTです。この写真ではローズヒップが小さく見えますが、実際はかなり大きくて、中に30粒のタネを持っていました。これも半数以上のタネは生きていると思います。

「自家授粉」とは、開花してもそのまま手をかけず(私の手による交配をせず)結実させたものです。ハウス内での栽培なので花粉を運ぶ昆虫はいないから、他株の花粉による受精の確率はゼロに近いと思います。

3 ♀︎ 雪まつり ♂︎ 衣里佳

「雪まつり」は「種子親」に選んだ品種で、大きな実に多くのタネができるのが確認できて嬉しいです。発芽するかどうかはまだわからないけど、半数は大丈夫なんじゃないかな。自家受粉のタネとは形がかなり異なっているのは気になるけど、花粉親が違うのだから当然のことなのか。

4 ♀︎ ジェミニ ♂︎ 香具山

5 ♀︎ ユートピア ♂︎ C. ディオール

今回結実した中ではこれがいちばん綺麗なローズヒップです。果肉はまだ柔らかく、カッターナイフで容易に切れました。受精していれば(枯れなかったので、受精しているはず)高い確率で芽吹くだろうと期待しています。

「ユートピア」は、今は「プライミニスター・アベ」という名前に変わっています。近畿財務局の赤木俊夫さんの無念さ、権力の卑劣さをを想えば、こんな名前のバラは栽培したくないので廃棄する予定でしたが、「ファーストレディ・アキエ」と同じく、バラ自体には関係のないことなので、種子親にしようかと、無節操にも迷っています :p 
でも、バラ界の一部に見える、このような権力に阿る(おもねる)体質は嫌いです。

6 ♀︎ エレガントレディ ♂︎ ロイヤルハイネス

7 ♀︎ ジェミニ ♂︎ ロイヤルハイネス

これも乾燥して実が硬くなってしまっています。ペンチで潰すと細かく砕けました。でもまだ生きているタネもあるかもしれないと思って全部を播種しました。甘い期待でしょうか :p

8 ♀︎ ロージークリスタル ♂︎ 香具山

実が乾燥して硬くなってしまっている事例です。ナイフでは切り分けられないので、ペンチで潰してタネを取り出しました。 タネの外見から、タネはまだ生きているのでは?と思います。

9 ♀︎ メルヘンケーニギン ♂︎ ホット神崎

最も乾燥して実が硬くなってしまっている事例です。粒の半分が黒化しているタネもあります。野菜や草花のタネなら乾燥して黒くなるものもあるので、これらの中から発芽するものがあるかどうか、興味があるところです。


10 シャリファ・アスマ−1(自家受粉)

採果時期はやや遅い程度かと思います。タネは問題なさそうに見えます。

11 シャリファ・アスマ−2(自家受粉)

採果時期がさらに遅くなった事例です。上と較べると、果肉だけでなくタネの色が濃く黒くなっています。タネの大きさは同じ(写真の拡大率が異なる)ですが、表面の「皺」が増えているようです。たぶんタネの内部の水分が減少しているからでしょう。

12 ウィリアム・アダムス(自家受粉)

「ウィリアム・アダムス」は、福島康宏先生が数年前に交配・育種されたFLの新品種です。1個は自然に落果したので、それに合わせて他も採果しました。タネは実の3個分ですが、大粒のきれいなタネですね。これが発芽しないはずがないと思っていますが、発芽はしても、それに「ウィリアム・アダムス」が咲くとは限りません。

参考:メンデルの法則|遺伝学の歴史|遺伝学電子博物館

福島先生が交配してできたタネが F1 で、それを播種して花を咲かせ選抜したのが「ウィリアム・アダムス」。それを接木で増やしたのが私の手元にある株です。
それを自家受粉させて出来たこのタネは F2 になります。これを播種して開花させるとどんな花が咲くのでしょう。

参考:F1種子って何だろう?|末吉商店

自然交雑の夢

ご存知のように、最初のハイブリッドティーローズ「ラ フランス」は、1867年にフランス人のJean-Baptiste André (fils) Guillotによって作出されました。

当時「人工交配」の技術は確立されていたのだそうですが、ギヨーは交配したい品種を近くに植えて「自然交雑」によって「ラ フランス」を作出したんだそうですね。「マダム・ファルコ」というティーローズの実生なんだとか。

その場合でも、自家授粉を避けるために、種子親は雄蕊を取り去るんでしょうね。授粉者が自分かそれとも花粉媒介昆虫かの違いだけなのかな。授粉はかなりデリケートな作業みたいなので、私のように下手に綿棒で触るよりもマルハナバチに任せるのがいいのかも:p 「自然交雑」ってなんか夢があっていいなぁ。


台木用 原種系ハイブリッド種(F2)

これは私が台木に使っている原種系ハイブリッド品種のローズヒップです。交配親は不明ですが、ノイバラ(ロサ・マルティフローラ)ではなく、入手経路や花から推測して、この地で旺盛に生育する「ツクシイバラ」とクライミング系の交配種ではないかと思っています。母木は F1 ですが、それから採ったこのタネは F2 に相当し、「ツクシイバラ」の形質がより強く出るようで、やや大粒で色艶が綺麗なローズヒップです。「ノイバラ」のローズヒップはこれより小さく、「トゲなしノイバラ」はさらに小さいです。

*註: F2 で間違いないのか自信がありません。F2 だったら、ある割合で違う形質を持ったものが出現するはずですが、このタネから生まれるものはみんな同じ形質です。何かを誤解しているのか、それとも観察が不十分なのか。

過去に、これの発芽テストをしたことがありますが、12月に収穫したものがベストでした。たわわに実った枝先をそのままジップロックに入れ、2月まで冷蔵庫の野菜室で保存します。実を枝から外したり濡れ新聞紙で包んで湿度を保つのは不要で、それをすると冷蔵保存でもカビが生えます。

これは、ここで紹介している他の品種とは異なって果肉が硬くなることはなく、過熟すると柔らかなまま黒くなって発酵(自然の中では落果)していきます。果肉はケチャップみたいな状態で、指にベタベタとくっつきますが、そこには「発芽抑制物質」(具体的な物質名は不詳。ABA=アブシシン酸かも)が含まれているので、時間をかけて丁寧に水洗します。果肉や果皮、繊維などを取り除くので、かなり面倒な作業です。私は3日間ほど水洗(汲み替え水洗と流水の併用)をしています。

ノイバラの場合、知り合いのバラ苗生産農家の方法は、まだ実が硬いうちに収穫し、それを「麺棒」でゴリゴリ押しつぶしてタネを取り出し、水洗してきれいになったタネを冷蔵するのだそうです。デービッドさんも同じく水洗後に冷蔵です。

どちらがベターなのかはテストしていません。たぶん同じような結果だろうと思っていますが、麺棒を使う方法ならベタつく果肉の扱いづらさは軽減され、冷蔵保存中にカビが生えることもないでしょう。発芽抑制(休眠)を打破するためにもその方がいいのかもしれません。・・が、自分のスタイルでいきます。


2 発芽抑制物質の水洗 丸3日間

ローズヒップ(実)から取り出したタネは、品種ごとに台所の流しで使う「水切りネット」に入れ、ラベルをつけて水洗します。水洗は、流水の掛け流しよりも「汲み替え」が効率的で、水の節約にもなります。タネの表面の「発芽抑制物質」を洗い流すだけでなく、今回は乾燥して硬くなったタネ(種皮)に水を含ませ緩める目的もあるので、ぬるま湯で時間をかけて洗いました。

台木品種の場合は「発芽抑制物質」を洗い流すために水洗は必須です(ただし私は実証テストはしていない)が、タネが乾いている栽培品種ではどうなんでしょう? 「発芽抑制物質」が何なのか、その抑制の機序がどうなっているのか、乾燥させて冷蔵保存中にすでに分解されている可能性もあるかもしれません。ちょっと検索してみます;

参考:発芽促進物質について | みんなのひろば | 日本植物生理学会

これによると「発芽抑制物質」は ABA=アブシシン酸 のようです。ABAは種皮に含まれていると考えれば、乾燥したタネはやはり長時間の水洗が必要だろうと思われます。


3 播種 2月14日

台木以外のタネは僅か300粒しかありません。交配してできたタネはさらに少ないので、これを丁寧に播種しました。数が少なく寂しいので、今年は作らないと考えていた台木品種のタネも蒔きました。

培土「タキイ たねまき培土」を使用。これまでも何度も使っていて信頼できる培土だと思っています。

セルトレイはサイズが色々あって選択に迷いましたが「200穴」にしました。1穴のサイズは 22mm X 22mm X 深さ40mm です。ちなみに、セルトレイとはこのようなものです。タキイ 根巻防止ワンウェイ・セルトレイ

私が使った200穴のトレイはホームセンターで売っている安価な製品で、タキイのトレイにそっくりだけど根巻防止の機能はないかも。発根・発芽すれば早めに(根巻きする前に)少し大きなセルトレイに植え替える予定です。

培土をしっかり充填してから、深さ1cmを目処にタネを埋めました。一般的に深さはタネの直径の2〜2.5倍程度なので、1cmはやや深めです。

特に台木用は浅くならないよう気をつけました。バラは「好光性種子」なのだそうで、深く蒔くのは発芽率が落ちると気にはなるけど、できるだけ「胴」の長い台木にしたいからです。必要量の数倍は蒔いたので、発芽率が少々落ちても構いません。

参考:「好光性種子」タネの発芽と光の関係 | 話のタネ | 株式会社トーホク

乾いた培土に播種し鎮圧してから、底面給水と霧吹きで水を与えました。ジョウロでは水流でタネがずれるかもと心配したからです。培土が十分に水を含んでから、バットの水を捨てました。トレイは無加温のハウス内に置いています。昨日の最低気温は0度Cでしたが、たぶん大丈夫と(さしたる根拠もなく)思っています。

これで、栽培品種300粒、台木用260粒の播種ができました。あとはバラの生命力を信じて発芽を待つだけです。


バラの育種には基礎になる栽培技術が二つあります。「実生苗を育てる」と「選抜した株をクローン(挿木や接木)で繁殖させる」こと。まだまだ道半ばですが、これを学ぶのに10年もかかってしまいました。:p

「交配」については、これまであえてガイド本を読まずに進めてきました。わからないことがいっぱいあります。でもこんなに楽しいことを、<誰かの後を追っかけて>やろうとは思いません。発芽するかどうかもわからないけど、ここから私の「バラの育種」がスタートすると思っています。

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