この記事は2022年2月19日の「バラの交配・9 播種」の続きです。
2月14日に播種したタネ計283粒は、極端に乾燥し、中には黒化したものもあって発芽するか危ぶまれたのですが、その25%ほどが発芽しました。発芽に要する期間は同じ交配親でも差が極端で、早いものが開花しそうになっている時期に、やっと発芽するものもあるという状況でした。
以下、その状況を考察しますが、多くの誤謬を含むと思われます。このブログは "試行錯誤の記録で、ガイドではない" ということをご理解ください。
番号 | 種子親 | 花粉親 | 播種数 | 発芽数 | 発芽率% | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ロージークリスタル | コンフィダンス | 21 | 14 | 66 | |
2 | 雪まつり | ー | 29 | 11 | 38 | 自家受粉 |
3 | 雪まつり | 衣里佳 | 53 | 17 | 32 | |
4 | ジェミニ | 香具山 | 32 | 12 | 37 | |
5 | ユートピア | C. ディオール | 15 | 7 | 46 | |
6 | エレガントレディ | ロイヤルハイネス | 16 | 5 | 31 | |
7 | ジェミニ | ロイヤルハイネス | 15 | 3 | 20 | |
8 | ロージークリスタル | 香具山 | 12 | 5 | 41 | |
9 | メルヘンケーネギン | ホット神崎 | 26 | 2 | 7 | |
10 | シャリファ アスマ | ー | 11 | 1 | 9 | 自家受粉 |
11 | シャリファ アスマー2 | ー | 8 | 0 | 0 | 自家受粉 |
12 | ウイリアム アダムス | ー | 32 | 0 | 0 | 自家受粉 |
13 | メアリーローズ | ー | 4 | 0 | 0 | 自家受粉 |
14 | 品種名不明 | ー | 9 | 0 | 0 | 自家受粉 |
計 | 283 | 77 | 27 |
発芽率 Best 3
発芽率41%の "♀︎ ロージークリスタル+♂︎ 香具山" は、タネを取り出すのにナイフの刃が立たずペンチで潰してタネを集めるほど固くなっていた。このような極端な乾燥は、収穫時期が遅れたのが原因。左の "♀︎ ロージークリスタル+♂︎ コンフィダンス" は、内部の水分が抜けてシワが寄っているが、まだナイフで切り分けられる硬さ。この程度に果肉が柔らかみを失わない時期に収穫するのが良さそう。
休眠打破は、収穫したローズヒップをそのままジップロックに入れて、70〜100日間冷蔵保存した。
変異株
この77株の他に、発芽はしたものの葉緑体が欠損していて1週間ほどで枯れたものが2芽、それと、理由は不明だが子葉(双葉)が開かないまま立ち枯れたものが2芽あった。
(写真を撮り逃したが)子葉が展開しなかった新芽は先端が尖った棒状の茎になり、これは植物ホルモン「オーキシン」の極性移動に関与する "PIN1(pin-formed 1)" タンパク質分子をコードする遺伝子が壊れたモデル植物「シロイヌナズナ」の変異株と類似。これらの例のほかにも、壊れている遺伝子*が、発芽やその後の成長に少なからず影響しているだろうと推測している。
写真右:萼(がく)は柳葉や花弁との区別ができないことがままあるが、これはそれがかなり極端な事例。
*バラは長年にわたり交雑を繰り返してきたのでそのゲノムはかなり分断していて、ホメオティック遺伝子の発現やDNAからmRNAへの転写の際に、エラーが起きる可能性があるのだそうだ。
開花に要する時間がバラついた原因は?
発芽が早かったものは播種から5週間後で台木品種より1週間ほど遅く、最も遅かったのは播種から10週間後。
発芽が極端に遅れた株は交配親の品種には関係がない。またその後の成長も遅いので、遺伝子が関係する何らかの欠陥の可能性がある。
播種した深さは10㎜。播種して3〜4週間後に培土の表面に細かなコケが密に生え、これでは開花を促す "赤色光" が届きにくいと判断し、コケが生えた表土を3㎜ほど取り除いた。その後の発芽状況から、これは正しい判断だったと思うが、表土が薄くなったので種皮をうまく脱げないまま発芽する「皮被り」が幾つか発生した。
コケが生えたのは農業用水とその貯水タンクが原因。播種のような細かな作業では水道水を使うべきだったと反省。
光発芽種子には波長600〜650㎚の「赤色光」が必要だが、播種した種の一部には種皮が黒ずんでいたものがあった。これも発芽が遅れたり発芽しなかった一因だろう。今回はテストなので全部のタネを蒔いたが、無駄を避けるためには黒化したタネをあらかじめ除外しておくのがいいかもしれない。
使用した「タキイ たねまき培土」や、200穴のセルトレイは適切な選択だった。本葉2〜3枚が展開してから鉢上げするのも問題はなかった。
種皮に含まれる発芽抑制物質(アブシシン酸)を洗い流すために、冷蔵庫から取り出して3日間水洗したが、これはタネが乾燥していない台木品種の基準で、極端に乾燥しているタネは種皮が完全に水を含むまで浸漬すべきだった。この場合は台木品種とは異なり、『水に浮くタネは発芽しない』という常識が正しいのかもしれない。「発芽(発根)を確認するまで明所で水洗し続ける」という方法でも良かったのかも。あるいは「ジベレリン処理」? いやそれ以前に、収穫時期や保存方法を見直すべきだろう。
「自家不和合性」について
この表の「自家受粉」とは、人による交配をしないまま結実した という意味。ノイバラやツクシイバラは自分(自家)の花粉でも受精し、結実し、そして発芽することができる。栽培品種はいつから自分の花粉を拒絶する「自家不和合性」を獲得したのだろう。この区分は、時代あるいは系統によって明確なんだろうか。
『受粉(受精)に失敗すれば、子房は枯れて落ちる』と聞いたことがあり、結実し成熟するまで落果しなければ、受精はできていると思い込んでいた。表の#2「雪まつり」は自家受粉だが高率で発芽しているし、ERの「シャリファ アスマ」は1芽だけだが、これも発芽している。でもこの2例以外はすべて "発芽率ゼロ" 。やはり「バラの栽培品種は自家不和合性がある」と考えるべきなんだろうか。
#2「雪まつり」の "自家受粉" は偶然の産物ではなく意図的なテスト。間違いがないように慎重に作業したつもりだが、取り違えの可能性が全くないとは言い切れない。気になるので、「自家不和合性」を実際の栽培で調べるために、今年の交配で自家受粉させる花をいくつかの品種に設定した。
5月9日追記:日本植物生理学会|みんなのひろば|植物Q&A|に、「自家不和合性」に関する興味深い記事がある。
やはり「自家不和合性の反応は100%完全ではない」ようだ。1芽だけ発芽した「シャリファ アスマ」がそれに当てはまるのかもしれない。
三倍体と不稔性
この表には記載されていないが、交配は約80の組み合わせを試みた。でもその多くは成熟する前に枯死してしまった。その経過を以下のページでレポートしている。
原因は以下のように推測している。
- 花粉の採取や授粉の、技術の未熟さ
- 黒カビの発生
- 交配親の染色体が「三倍体」で、これは「不稔性」になる
参考 (コトバンク|日本大百科全書 へのリンク)
三倍体 | 不稔性
そのバラが三倍体なのかどうかをどのように調べるか。そのバラがいずれかの品種の「交配親」になっていれば三倍体ではない。情報源の定番は "American Rose Society Encyclopedia of Roses" だろうか、残念ながら私は持っていない。
私の方法は泥臭く非効率な方法だが、手元の品種を交配親として試してみる。結実し発芽すれば、その品種は三倍体ではないと言える。逆の発芽しなかった品種は、原因が他にも考えられるから、それだけで三倍体だとは判定できない。
染色体が三倍体ではなく「稔性」があると推測できる品種
ロージークリスタル コンフィダンス 雪まつり 衣里佳 ジェミニ 香具山 ユートピア C. ディオール エレガントレディ ロイヤルハイネス
三倍体のバラは、花粉も胚嚢も共に配偶子としての能力がないのだろうか。どちらか一方は機能するという可能性は?
たぶん三倍体は、花粉母細胞も胚嚢母細胞も最初の「減数分裂」で失敗して有効な配偶体は作れないのかもしれないが、今は実栽培でそれを経験的に学ぶことが目的なので、三倍体かどうかを考慮せずに交配している。
ただし実際の作業では、三倍体と思える品種は花粉が出ない(僅かに、それらしき微粉末が出る)ので、花粉親としての交配には至らない。種子親には花粉が出ない品種も使っている。
発芽した品種は、いずれも花粉が出る量が比較的多い。今年の交配をしながらそれに気づいた。小さく一歩前進。
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