状況
育種2年目の今年は計200の授粉を試みました。交配に使用した品種はHTローズで、ハウス内での鉢植え栽培。受粉の期間は4月25日から断続的に約3週間です。ところが、最後の授粉を終える前に失敗したものが続々と発生し、5月末にはその数が150(75%)を超えました。
失敗した萼筒(子房)には特有の症状が現れます。これは前年と同様で、その原因と対策をしっかり考えなかったことが悔やまれます。
以下、失敗の原因と対策を私なりに考察しますが、これは「育種」について知識も経験もない初心者の試行の記録で、客観的なデータとしては内容が乏しいことをご承知ください。
目的と方法
2021年10月15日の記事: 「真理は美しい」に書いた「宿る命の美しさ、生きとし生けるものの切なる営み」について、それが例えば バラの繁殖の仕組み なら、「S座遺伝子群の働きによる自己受粉の判断」や、その後の「花粉管ガイダンス」「重複受精」など、"生命の緻密で巧妙な仕組み" に驚かされる。
交配に取り組むのは、『自分が作出した、世界で一つだけのバラ』を喜ぶ、そのような "結果" を出すのが目的ではなく、失敗も含め、その過程を通して「神の数式」に一歩でも近づくこと。
「S座遺伝子群」や「花粉管ガイダンス」「重複受精」などは「高校生物」の教科書にも出てくることなので「神の数式」とは大袈裟すぎるが、そのような自然の摂理を、カビが生えた柱頭さえも、『美しい!』と感じてしまう:p
昨年の記録
- 2021年5月21日 バラの交配・4
このページに「新しいバラを作る(育種)/都立園芸高校 バラ園公式HP」へのリンクを置いている。 講師の野村和子さんはオールドローズの研究家としても有名だが、鈴木省三さんの秘書を永年勤められた方。ここに紹介されているのは、多くの銘花を作出された鈴木省三さんの方法でもあるのだろう。 - 2021年5月23日 バラの交配・5
- 2021年8月19日 バラの交配・6
- 2021年9月13日 バラの交配・7
失敗数の推移
失敗したものは、授粉から10日〜2週間ほどでその兆候が現れ、萼筒全体に枯れが広がる。昨年は、授粉後1ヶ月以内に失敗したものが約60%で、夏までにさらに20%が、秋にも10%ほどが枯れてしまい、結局収穫できたローズヒップは交配数の10%ほど。
今年は昨年よりも丁寧に作業したつもりだが、より早いピッチで失敗が続発している。やばい状況で、今後もさらに失敗が増えるだろうから、今年の収穫数はかなり少なくなるかもしれない。
今年の方法
- 花粉の採取 4月29日 バラの育種 2022 1. 花粉の採取
- 授粉の方法 5月3日 バラの育種 2022 2. 授粉
1 症状
初期症状ー1 子房を内包している萼筒(がくとう)に "輪紋" が現れる
私の受粉方法は、5月3日の記事:「バラの育種 2022 2. 授粉」で紹介しているが、授粉したものの中には、授粉後1週間ほどを経過すると萼(がく)の内側が赤みを帯び始め、2週間も経つと萼筒の表皮に黒褐色の輪紋が現れ、それが数日〜1週間のうちに萼筒全体に拡大する。雌ずいの柱頭にはカビの胞子が見え始める。この段階では既に萼筒内部(子房)の腐敗が進行している。これが典型的な失敗事例。(画像クリックで拡大表示。方眼の間隔は5mm)
輪紋ができた萼筒の内部の子房と胚珠の状況。輪紋の部分を中心に、萼筒の表面部分だけではなく胚珠を包んでいる子房の、特に基部(花床)が酷く腐敗している。凛紋は腐敗の原因ではなくその結果に過ぎないようだ。
雌ずい(めしべ)の柱頭と胚珠を結んでいる花柱の一部が褐変していて、菌は雌ずいから侵入したように見える。
初期症状ー2 萼の基部が褐変する
もう一つの典型的な事例。萼の内側が赤みを帯びるのは同様だが、萼の基部から褐変が始まっている。
この事例で最も腐敗が進んでいるのは、褐変した萼の内側で、ここは花弁があった部分。
末期症状
褐変が萼筒全体に拡大。蕊(しべ)の部分には多数のカビの胞子が見える。
褐変は花柄まで進行し、三枚葉の基部まで達したらそこに離層が形成されるのか、進行が止まり枯渇して落果する。
2 原因を探す
このような症状の原因は何か。思いつくままに列挙すると以下の4項目。
- 水や肥料の過不足など肥培管理の拙さによる栽培的要因
- 花粉の採取や授粉技術の拙劣さによる "受精失敗" で、壊死(ネクローシス)が発生
- 交配した品種が「三倍体」であることによるプログラム細胞死(アポトーシス)
- カビ(糸状菌など真菌類)あるいは大腸菌のようなバクテリア(真正細菌)などの "菌" の仕業
- 同じように授粉し管理しているすべてが失敗しているのではないから、1と2の可能性は小さい。
- 失敗したものには「三倍体」ではないことを確認できている品種も含まれるので、3はあり得ない。
- 最も可能性があるのは4の "菌" の仕業。
では、その菌はどのような経路で胚珠のある子房に侵入するのだろうか?
推測ー1 組織を腐敗させる原因菌が、雌ずい(めしべ)から侵入
萼の内側が赤くなるのは受粉失敗の兆候。雌ずいには多数のカビが繁殖する。胞子の色から判断して「黒カビ」が多いが、他にも白や緑色の胞子も見える。
病原菌に対して宿主細胞が持っている防御機能(ファイトアレキシン|Wikipedia)から類推して、柱頭は付着した真菌(カビ)を排除する何らかの防御機能を備えているはずと推察しているのだが、真菌類の繁殖が原因で子房が腐敗したのか、受精に失敗し防御機能を喪失した後からカビが繁殖したのか、その因果関係は不明。
写真上左の茶色のシミは、雄ずいの基部にある蜜腺から滲み出た花蜜が乾燥した痕跡。これが出るのは2割程度で、どの個体から出るか特定できていない。
子房の内部
カビが雌ずい(めしべ)の柱頭に繁殖した子房(左)を分割して、その内部を観察する。
輪紋の内側が腐敗し、それはカビが繁殖している柱頭に繋がっているように見える。柱頭に付着したカビが菌糸を伸ばし、養分が豊かな胚珠基部に到達すると、酵素を出して有機物を分解しているのだろう。
子房の内部はオープンスペース
この事例では柱頭のカビがさらに増えている。花柱とそれにつながる胚珠はまだ変色していないものが幾つか残っている。胚珠の表皮には何らかの防御機能があるのだろう。花床は胚珠に養分を供給する "美味しい" 部位なのか、特に腐敗が進んでいる。
子房の内部は胚珠が並んでいて、品種にもよるがその数は20個以上もある。1個の胚珠からは1本の花柱が伸びて、それらが緩い束になって外に出ている。この子房の構造には内外を区切る(例えば表皮とか膜のような)構造物が存在しない。いわば "オープンスペース" のような空間で、これはあまりにも無防備なのではないか。そしてこれは収穫時になっても閉じることはない。ゆえに、カビの侵入によると思われる子房内部の腐敗の危険性は秋まで続くことになる。
萼筒上部が開いたままのHT(ハイブリッド ティ)に較べ、原種系の "ツクシイバラ" は雌ずいがあった部分が硬く締まっていて、菌の侵入を簡単には許さない構造になっており、高い着果率と発芽率を示す。シュラブやフロリバンダのローズヒップはその中間程度になるようだ。
複数の胚珠を包む子房、その構造全体を支えている萼筒が閉じていない構造になっていることが、後述する「農薬の散布」の判断に大きく影響した。
柱頭や花柱は菌糸の侵入をブロックする?
花粉を受け止める柱頭と胚珠を繋ぐ "花柱" には、好ましからざる侵入者(例えば糸状菌の菌糸)をブロックする機能を備えているらしい。なので、子房(特に栄養豊富な花床)を分解する菌は、花柱の内部ではなく花柱と花柱の隙間から侵入するのでは?と推測しているのだが、柱頭に近い部分が枯れて褐変した花柱もあり、それが生理的要因によるものなのか、菌に犯された結果なのかは不明。花柱の基部よりも花床の腐敗が進んでいることに注目。
推測ー2 原因菌が花弁の離層の傷口から侵入
輪紋が現れた萼筒の内部を調べると、 腐敗の進行が偏っていることに気づいた。下の2枚は輪紋の真ん中で切り分けた内部の様子。
構造は、外側から萼(がく)・花弁・雄ずい・雌ずいの順になっているが、これは授粉のために花弁と雄ずいが除去されている。最も腐敗が進んだ部分から菌が侵入したと考えるのが自然で、それは花弁と雄ずいがあった部位。
交配に使用したのは HT(ハイブリッド・ティ)の高芯剣弁咲き品種。花弁数が60〜80前後と多く、コンテスト基準で見ればいわゆる「パンク」した開花状態だが、それでもまだ多くの花弁が蕊を覆っている花を「種子親」にする。当然ながら、そのような開花状態の花弁には「離層」が形成されていないのが花弁を外す「手応え」でわかる。それを横方向に捥ぎ取るように外した。
下の2枚は別の個体だが、やはり花弁の離層部分の腐敗が最も進んでいて、菌は画面の左側から侵入したと思われ、子房を回り込むように腐敗が進行している。
下左:柱頭は死んでいるようだが、一部の花柱や子房もまだ幾分かは健全さを保っている。これらは、原因菌の侵入経路が雌ずい(めしべ)ではないことが強く推察される事例。
下は雌ずいが雄ずいよりもやや高い位置に展開する "長花柱型" の蕊(ずい)。花弁と雄ずいを除去した萼の基部が褐変している。この例では花柱や子房に腐敗は見られないので、菌の侵入経路は花弁をもぎ取った傷口からだと確信した。
まとめ: 菌の侵入経路は複数。菌の正体は?
菌の侵入経路を単一と考えるべき理由はない。条件が合えば菌はどこからでも侵入し菌糸を伸ばすのだろう。
このように組織を腐敗させる原因菌の種類は?
原因菌は "真正細菌" (Bacteria) の可能性も考えられる。バクテリアの場合の主な感染経路は「接触感染」であろうから、作業中はできるだけ頻繁に器具や指先をエタノールで消毒した。
でも、発生頻度から推測して、空中に多数の胞子(分生子)を飛散させる「真菌類」の可能性が高いと思っている。萼筒内部の腐敗は "真菌類" (Fungi)が繁殖し、有機物を分解し自分の栄養源にするために多量の酵素を出した結果なのだろう。
参考:菌類 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
真菌類には "うどんこ病菌"(糸状菌/子のう菌類)も含まれ、私のハウス内はこのような「風媒伝染菌」が蔓延しているに違いない:p
3 対策
では、どのような対策が可能か。殺菌剤の使用を意識しなかったわけではないが、殺菌剤が雌ずいの柱頭やそこに付着した花粉、あるいは子房に対する影響を漠然と懸念して農薬は使用しなかった。しかしこのように失敗事例が多いと殺菌剤の使用を含め、何らかの対策を考慮せざるを得ない。
対策ー1. 殺菌剤の使用
野菜や果樹栽培の場合、「受粉時には農薬の散布はしない」というのが常識だろう。例えば「ナシ」の場合;
- 「ナシ花粉の発芽・・受粉時の農薬散布の影響」 佐賀果試研報(1996)
- 「ニホンナシ人工受粉期間中におけるチウラム散布が花粉発芽と着果率に及ぼす影響」 千葉県農林総研研報(2013)
これらによると、いずれも「受粉当日を避ければ、農薬の散布は問題ない」という結論になっている。逆にみれば、受粉時の散布は問題があるということ。バラの場合はどうなんだろう? 果樹に比べると人工受粉が少ないからか、参考になるデータを見つけることはできなかった。
でも、花粉が柱頭に付着し水分を得て膨らみ、「S座遺伝子群の働きによる自己受粉の拒絶」を受けなければ、ナシと同様に5時間程度で、遅くとも半日程度で、農薬の影響を受けない位置にまで花粉管を伸ばすと推察できる。
"傷口" への農薬散布の影響
真菌と植物の細胞構造は同じ。殺菌剤の作用機構(メカニズム)はいくつかあるが、病原菌だけを高精度で狙い撃ちできる殺菌剤は少なく(皆無?)、多くは「濃度」によって影響する対象を区別しているのではないか*。
受粉直後に農薬を散布すると花粉発芽と着果率にモロに影響(上記データ参照)するのは、単に花粉が洗い流されるからだけではなく、殺菌剤が花粉や柱頭の組織(機能)を部分的に壊しているからだろう。
*例えば "作用機構 G" のエルゴステロール生合成阻害剤(EBI剤)。G3グループの中で過去に使ったことがあるのは、STサプロール乳剤、トリフミン水和剤、サルバトーレME(いずれもDMI殺菌剤)で、これらは真菌に効果的に作用し菌糸の伸長が停止するようだが、でも真菌と宿主植物の違いは、細胞膜である脂質二重層の "エルゴステロール含有量(必要量)" の差。それは決定的な差異ではなく "程度の差" で、薬剤の濃度や量、展着剤の浸透性能、散布時の気温などの外的要因、植物の生育ステージや部位とその状態、これらの条件=程度によっては植物細胞にも影響(それがいわゆる "薬害" )が出るのでは?
花粉管が胚嚢に到着し受精が成立すれば(遅くとも受粉翌日)、花柱や柱頭は用済みなのでそれへの影響は無視できる。また、胚珠は種皮によって保護されているので影響を受けにくいだろうが、でも子房内の他の部位、例えば最も腐敗している花床や、胚珠と花床をつないで水分や栄養分を供給する( "へその緒" みたいな役割の)組織に対する影響は?
そして、傷口となった花弁の離層部分への影響は?
わからないことは自分で試す
多くのことが "推察" で、よくわからないことばかり。しかしながら現状のままでは授粉した多くが腐敗しているのだから、農薬の使用を嫌っているだけでは進歩はない。殺菌剤の影響は自分で試してみればわかること。でも強い殺菌剤の使用で交配が全滅するのはあまりにも怖い:p ので、とりあえず「エコピタ液剤」と「カリグリーン」(いずれも有機JAS適合)の混合液を、最後の授粉から1週間後の5月24日に1回散布した。効果はこれだけではわからないが、今後何度でも試すことができる。二番花を使って交配する予定はなかったが、カビ対策に的を絞ってテストしてみようと考えている。
対策ー2. 種子親の花弁を除去しない
枝を切れば癒傷ホルモンでもあるオーキシンの作用で傷口が塞がれる。オーキシンは新芽や茎頂などの成長点で生合成されるが、離層ができていない花弁を無理に引きちぎってできた傷口はどのように塞がれるのだろうか。腐敗した萼筒を見る限りでは、花弁の離層部分に菌の侵入を防ぐのに有効な手段が備わっているようには思えない。
ならば、「交配時に花弁を取り外さない」という方法は?
そのように考えて、5月20日に、最後に開花した「あけぼの」の花弁を蕊が見えるようにハサミでカットした。
面倒だったが、雄ずいも除去した。
取り置きしていた花粉はもう残っていなかったので、授粉はしないまま。
5日経過しても雌ずいはまだ生きているように見える。光を受けて花弁が開いて赤みを増し、意外なことに雌ずいの柱頭にカビの発生が見られない。何らかの防御機能が働いているのか、それとも柱頭に付着した菌の胞子が発芽し、裸眼でも見える程度の大きさになるまでこの程度の時間がかかるものなのか。
このまま花弁が自然に散るのを待ってみようと思っている。わずか1例だが、もしこれが有効なら殺菌剤を使わなくても済むのだが。
5月31日 追記:
花弁を切って雌ずいを露出させてから11日後。花弁が褪色し始めた。25日にはまだ生きていると思われた雌ずいにも変化が現れた。柱頭に黒カビが発生し、柱頭に近い花柱が赤変し始めている。
花柱の赤変は生理的なものなのか、侵入してきたカビの菌糸とのせめぎあいの状態なのか。花柱が枯れて欠落した花頭も見える。花柱の枯れは、もしかしたら、菌糸の侵入をそれ以上許さないためのアポトーシス(自律的細胞死)なのかも。
現時点では萼筒に枯れの兆候は出ていない。受粉翌日あるいはカビが発芽する前に、不要になった雌ずい(柱頭)を切除するという方法はどうだろう? これも自分で試してみればいいことだ。
対策ー3. 紫外線の殺菌力
受粉した種子親の多くが腐敗している原因が「カビ」(糸状菌など真菌類)だとしたら、カビが増殖できにくい環境を用意すればいいのではないか。陽当たりや風通しがよく、乾燥した場所にはカビが生えにくい。バラのうどんこ病菌は ウドンコカビ科に属する子嚢菌 (しのうきん/ "糸状菌" は形態上の名称で分類名ではない) というカビだが、『私の庭にはうどんこ病は出ない』という栽培者も多く、その環境は "陽当たりが良い" というのが共通している。
妻が自宅の庭で無農薬で育てている20株ほどのバラも、うどんこ病など見かけたことがない。ところが私のハウスで栽培している約100株の鉢植え(農薬の予防散布はしていない)はうどんこ病に悩まされ続けている。そして、同じハウス内でもうどんこ病が発症しやすい場所とそうでもない場所がある。この違いは何なのか。
① 遮光ネット
私のハウスは強光線による活性酸素の発生から葉を守るために、照度が5万ルクスを超えると遮光率50%のネットを展開するようにしている。それ以下の照度では遮光ネットを巻き上げているのだが、その構造上、巻き上げたネットが真昼の光を遮る場所ができる。うどんこ病が発生しやすいのはこの場所。そして、交配に失敗した鉢を置いている位置が、うどんこ病が発生しやすい場所と重なっている ことに気づいた。
② ハウス用ビニール
使用している農業用ビニールフィルムは、三菱ケミカルアグリドリーム(株)の「ノービエースみらい」だが、以下のような注意書きがある。
「厚さ0.13mmと0.15mmのものは紫外線の一部をカットしますので、ナス栽培とミツバチを利用する栽培には使用できません」
私のは厚さ0.1mmだが、折りたたんだ状態では薄い黄色なので紫外線の一部をカットしているかもしれない。0.1mmと、0.13mmや0.15mmのものとの違いは材質ではなく、厚みによる紫外線カットの "程度" なのだろう。
同社のサイトから、紫外線をカットするビニールフィルムの光線透過率曲線を引用する。この資料は私が使用しているものとは別の製品のものだが、農業用紫外線カットフィルムはどれもほぼ似たような性能で、波長380~400ナノメートル以下の紫外線がカットされている。高機能のフィルムほどシャープカットされるようだ。私の0.1mmのフィルムは、一般農ビとの中間程度の性能なのだろう。
紫外線がカットされることによる栽培上のメリットは大きい。私のバラは鉢植えとしては枝葉の伸びが良いと言われることが多いが、これは遮光ネットで強光線を減光して活性酸素の発生を抑える効果と、さらには紫外線カットフィルムで紫外線の量が削減されることによる効果だろうと思っている。その検証のために一部の鉢をハウス外に持ち出すと、数ヶ月でハウス内の株との生育差が歴然としてくる。
参考:紫外線カットフィルム|ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
紫外線をカットすることで灰色かび病や菌核病に対して抑制効果があるとされるが、同じ病原糸状菌でもうどんこ病菌などのカビに対しては、逆に 紫外線を照射することで殺菌する 効果がある。
紫外線の殺菌効果
以下のページに、紫外線が殺菌するメカニズムの説明と、殺菌するための紫外線量の詳しいデータがある。
参考:紫外線による殺菌・不活化 | 紫外線殺菌 | 岩崎電気
紫外線がDNAを破壊し、菌は死滅する。ウイルスやバクテリアと比較して、真核生物のカビのDNAは核膜に包まれているので紫外線に対する耐性が強い。それでも強い自然光にカビを抑える効果があるのは、生活の中で実感できる事実。このデータには「バラのうどんこカビ菌」は含まれていないが、自然光(太陽の直射光+天空光)がうどんこカビ菌の活動を抑制する効果があるのは実栽培で経験済み。
6月12日 追記:専門家による実証試験
紫外光照射(UV―B)によるバラうどんこ病の発病抑制|「植物防疫」第68巻第2号|日本植物防疫協会
興味深いのは(一部引用);
紫外線がうどんこ病菌に直接作用しうどんこ病の発生を抑制するだけでなく、むしろ,UV照射によって活性化される宿主植物の防御反応( PAL および CHS 遺伝子が発現することでできるフェニルプロパノイド系の代謝物)が、うどんこ病の抑制に重要な役割を担っている可能性が高いと考えられる。
なんと! 紫外線の殺菌効果だけではないんだ。バラ自体が、紫外線で励起される防御機能を遺伝子レベルで持っているのか。驚き。
受粉前後は自然光で滅菌
ハウスの中にうどんこ病が出やすい場所がある反面、バラがよく育つ場所もある。それはハウスの東南側。朝日がよくあたり、午後は天空光が降り注ぎ、西日は弱い。巻き上げた遮光ネットの影響も受けにくく、風通しが良い。しかも午前中の光が当たるこの位置のハウス側面には、紫外線を透過する一般用の農業用ビニールフィルムを張っている。
以前、このハウス内にバラ仲間のみのるさんとみどりさんの鉢を置いたとき、そこはみのるさんの鉢が並んだ場所で、生育が良く「初恋」などいくつかの品種で素晴らしい花が咲いた。今回の交配でも、そこに置かれた種子親は失敗がかなり少ない。うどんこ病が出やすい場所は1株を残して全滅。
- メリットが大きい紫外線カットフィルム(紫外線の一部は透過する)は今後も使い続ける
- 種子親にする株を絞り込み、それを陽当たりの良い(失敗が少ない)東南側に集中して並べる
- 遮光ネットを展開する時間はできるだけ短くする
- 受粉後の種子親は可能な限りハウス外に持ち出して光に当てる
- 常識とは逆に「袋がけ」はしない
対策ーまとめ
効果的な対策はやはり殺菌剤の使用だろうか。剤の選択と散布方法を誤らなければ問題ないようにも思えるが。。
次々に枯れてゆく萼筒を横目で見ながら、殺菌剤を使用しないでも済む方法があれば・・と、悪あがきは続く:p
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