このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2024年4月21日日曜日

春の開花 交配4年目のスタート

春の花が咲き始めました。

 あけぼの
 魅惑

この数年、春は交配に専念しています。今年で4年目ですが、過去3年の例では5月に咲いた花は稔性が落ちるので、今年は少し早く咲くように剪定時期を前倒し、1月下旬を中心に、すべての品種を2月11日までに剪定し終えました。

「春一番花の開花時期を決定づけるのは、剪定後の日平均気温の積算温度だけではなく、日長がより重要なファクター」というのが私の怪しげな見解。別の言い方をすれば、「剪定時期を多少ずらしても、春の一番花は毎年ほぼ同じ時期に咲く」ということ。なので、剪定を早くすることで開花時期を早めるというのは基本的に矛盾しているんですが。

でも、気温の影響を完全に無視しているのではないから、実際はどうなのか? 今年は肥培管理の方法を大きく変更したこともあり、観察と苦手な記録を怠ることなく・・と思っています。

2024 交配スタート

今年最初に咲いたのは「コンフィダンス」。もともと早咲きの品種ですが、短いステムにダブ芯で咲いてしまいました:p なので花の写真は撮りませんでしたが、パンクした花弁を取り去ると、そこには wonderful な世界が。

 コンフィダンス
 ロイヤル ハイネス

バラの栽培でいちばん楽しいこと

バラの交配(育種)を意識するようになったのは、2012年に かのやバラ園 で開催されたデービッド・サンダーソンさんの年間講座に参加したのがきっかけです。そのときのブログ記事:「バラの交配 初めの一歩」から、一部を引用。

デービッドさんに、『バラの栽培でもっとも楽しいことはなんですか?』と質問したら、「交配してできたタネを播種し、それが発芽して育っていくのを見守る時」という答えが、見守る様子の再現(少年みたいでかわいかった)とともに返ってきました。

それから10年が経過し、2021年に最初の交配を試みました。その年はビギナーズラックだったのかまずまずの数の( "質" ではない)花が咲きましたが、2年目は不調。以下は昨年秋に咲いた、この2年間の試作品種の一部です。

試作4品種
 試作品種 12月2日
試作3品種
 試作品種 12月7日
  1. 交配品種−1 (種子親:ロージークリスタル 雪まつり)
  2. 交配品種−2 (種子親:ジェミニ ロージークリスタル ダイアナ メルヘンケーニギン)
  3. 交配品種−3 (種子親:イーハトーブの風 ダイアナ 手児奈)

現在、これらの無名品種は100株(品種)ほどが実生苗のまま地植えされ、品種の特性を見るために、無農薬・有機肥料のオーガニック栽培で、前ページで紹介した "let nature run its course" が進行中です。そのうちの約50株はデービッド接ぎもされて、ポットで育っています。いずれもまもなく開花を迎えます。

昨2023年は(一昨年の不調を反省し)141の交配から48個のローズヒップを収穫して1300粒を播種。その中から現時点で200が発芽しています。3月下旬から毎日少しずつ発芽しますが、それを数えたり、初生葉(双葉)に続いて本葉(3枚葉)が展開していく様子を見るのが、この時期の毎朝の楽しみです。デービッドさんもこうだったのかなと想像しながら。

播種は96穴のプラグトレーを使っています。それを育苗箱に入れ、底面給水です。このようなセットが14個。写真は発芽数の多いトレーを撮っていますが、まったく発芽していないグループも 少なからず  たくさんあります。発芽が完了したら、問題点を調べるために詳しいレポートをまとめる予定です。

育種は奥が深そうだが、交配は簡単?

交配や育種についてデービッドさんから最初の手解きを受けたとき、『こんな楽しいことはガイドブックなんか読まずに(先入観を持たずに)、失敗は覚悟の上で自分でトライしよう』と考えました。読んだのは唯一、東京都立園芸高等学校のページ(タイトル不明)「都立園芸高校 バラ園公式HP」です。

講師の野村和子さんは、NPO法人バラ文化研究所理事で、オールドローズのオーソリティ。私もその著書を持っています。また、鈴木省三氏の秘書として永年ご活躍されたことも有名ですね。なので、ここに紹介されている育種方法は、数多くの銘花を作出された鈴木省三氏(同校の卒業生)の直伝である可能性が高いと思われます。前半で紹介される「5万種子を播種、2万株発芽」は氏の実例なんでしょう。

もしこのブログを見て育種に関心を持たれたなら、この東京都立園芸高等学校のページをご覧ください。育種の概略を知るのに参考になると思います。

しかし、ヘソ曲がりの私はこの方法の "猿真似" はしません。したがって(当然ながら)自分では容易に解決できない問題が次々に出て、「育種」に至る前段階で失敗の連続:p

 交配から数週間後、萼筒に輪紋が現れ、拡大する
 その内部 子房の腐敗が始まっている

これまで3年間の実績は、結果率(収穫できたローズヒップ/交配した数)は25%程度。今年の発芽率(発芽数/播種数)は200芽/1300粒=15%。納得のいくレベルではありません。以下は問題の把握に苦慮する記録(過去記事の一覧)です。同じ轍は踏みたくないので、自分の方法を見直すのに都合がいいように表にしました。

バラの交配 過去記事
投稿日タイトル主な内容
2012年6月30日バラの交配 初めの一歩
  • 交配のテーマをきめる
  • バラの栽培でいちばん楽しいこと
2021年4月30日バラの交配・1
  • 最初の難関 「三倍体」
  • 蕊(しべ)の様子
    ロージー クリスタル ロイヤル ハイネス
5月  5日バラの交配・2
  • 花の器官とABCモデル
  • ホメオティック遺伝子
5月12日バラの交配・3
  • 八重咲きの花弁は雄蕊(おしべ)が変化したもの
  • 花の中に花が咲く?
5月21日バラの交配・4
  • 育種|都立園芸高校 バラ園公式HP
  • 交配に必要なもの
5月23日バラの交配・5
  • 受粉に失敗
  • 受粉に成功か
8月19日バラの交配・6
  • 色づき始めたローズヒップ
  • 枯れてしまったローズヒップ
9月13日バラの交配・7
  • 失敗の原因は 雑菌?
  • もしかして、授粉そのものに失敗?
9月18日バラの交配・8
  • 子孫を残すのは簡単なことじゃないんだ
  • "William Adams" の自然受精したものが自然に落果
2022年2月19日バラの交配・9
  • 採種
  • 発芽抑制物質の水洗
  • 播種
4月29日バラの育種 2022 1. 花粉の採取
  • 花粉親「あけぼの」の場合 [YouTube]
  • 種子親「魅惑」の場合 [YouTube]
  • 意外に少ない花粉の量
  • 自家不和合性
  • 雌雄異熟と花粉の保存可能期間
5月 3日バラの育種 2022 2. 授粉
  1. 乾燥した葯から花粉を取り出す
  2. 雌ずいの状態を確認する
  3. 授粉する [YouTube]
  4. 交配親を記したタグを付ける
5月 5日バラの交配・10
  • 交配してできた種子の発芽数
  • 発芽率 Best 3|変異株
  • 開花に要する時間がバラついた原因は?
  • 「自家不和合性」について
5月 7日バラの交配・11
  • バージンフラワーの開花
5月10日バラの交配・12
  • バージンフラワー第2陣
5月17日バラの育種 2022 3. 授粉 終了
5月30日バラの育種 2022 4. 授粉失敗の原因と対策
  • 症状
  • 原因を探す
  • 対策
10月12日バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ
  • 現況
  • 失敗の原因
  • 昨年の交配株 その後の成長
2023年9月10日ローズヒップの収穫 スタート
  • 順調に生育しているローズヒップ 形や熟度は様々
  • 黒化したヒップ内の種子 未熟、完熟
    それとも過熟?
  • ローズヒップのまま冷蔵保存 と 春化
  • "駄花" なんてあるのかな?

これはほとんど独学で交配を試みた3年間の記録で、検証も極めて不十分、たぶん多くの間違いがあるでしょう。その一例:2022年5月3日の「バラの育種 2022 2. 授粉」で、『交配した後の "袋がけ" は有害無益』と言い切っています。もちろん私なりの論拠があってのことなんですが、でも今はそうは考えていません。記事はそのままで、訂正はしていません。批評的に読んでいただければと思います。

"駄花" なんてあるのかな?

上記のように、これまでは「交配」に関する栽培技術の問題に終始し、「育種」に関してはほとんど手付かずでした。
2022年10月の 「バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ」 に、それまでに咲いた花の印象を記述しているので、その一部を(加筆して)引用します。交配親は、すべて HT(ハイブリッド ティ)です。

これまでにも生育が良くない株を処分してきて、現時点で74株残っている。幼苗だし、夏の花なのでまだ判断するのは早計だが、花型や花弁数、色は様々。中には『おっ!』と思わせる花もある。しかし概括的には以下のような特徴がある。

  • 花弁数が少なく、弁質が弱い(薄い)
  • 剣弁が多いのに、芯が低く平咲きになり、花型が乱れがち。高芯になっても、胴の締まりが悪い
  • ニュアンスカラーが多く、"昭和のバラ" という古臭い印象
  • バラの命とも言える "芳香" がない(弱い)
  • 一季咲き品種がかなりの割合で生まれる(先祖返り?)
  • うどんこ病に弱い。極端に弱いものもある
  • 「矮性」というか、成長が遅いものがある。逆に、つるバラのように伸びるものもある
  • "MADSボックス遺伝子"(Wiki) の異常による "ABCモデル"(Wiki) の乱れ(写真:下右)が出ることも

長年にわたり交雑を繰り返してきたバラは、花の形や色に関する遺伝子が驚くほど多様なようだ。育種初心者の私にとっては、これが面白い。

親とはまるで似つかない "へんてこりんな" 花が咲いた。『個性的で、いいよ!』と褒めてあげよう。

"奇跡のバラ" が生まれるか 交配4年目の目標は?

このように咲いた花を見ながら、公開されているバラの "完成度の高さ" に、あらためて感心させらされます。

"品種の完成度" について。  仏映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」をご覧になった方も多いでしょう。
紹介サイト:ローズメイカー 奇跡のバラ|映画.com   予告編:(配給 松竹株式会社公式サイト)

ラスト近くのシーン。栽培の経験がない "ど素人" の3人の男女が、見様見真似で育種したバラが紹介されます。

健康な葉。光沢があって、病気もない。
花付きも良い。美しい花形、どれも満開。鮮やかな赤と透き通る白の2色。波打つ花びら。
強い香り。最初はバニラとレモン。それからエキゾチックな香り、パイナップルだ。最後はミロ、じゃなくチョコ。

このバラがバガテル国際バラコンクールで◯◯という筋書きですが、それはともかく、健康な樹勢、美しい花、強い香り。この3つが育種のための重要なポイントなんでしょう。"耐病性" がまず問われるのは、いかにも欧州らしいですね。日本(私)なら、まず "花" でしょうか。 これに先立つシーンで、病気にやられているバラは、『そんなのダメ、ゴミよ!』と 切り捨てられています。

欧州委員会は、農薬を使用しなければまともに咲かないバラは、今後は新品種登録を認めない方針だそうで(根拠曖昧)、『花が綺麗でも、耐病性のない品種ではまず売れませんからね』と、欧州のバラ事情に詳しい有島薫さんから聞いたことがあります。

デービッドさんから、『大切なのは、交配の "テーマ" を決めること』とアドバイスを受けているのですが、私はまだそれを見つけることができていません。

2012年6月の「バラの交配 初めの一歩」に書いている私のテーマ;

高温多湿に弱いERの "サマーソング" を(あの色のバラを)九州でもきれいに咲かせたい。そのために、交配の相手は暑さにも強い、同じくERの "メアリーローズ" を選ぶ

これはいかにも初心者らしい発想で、バラの育種を、あたかも "メンデルの法則" |遺伝学の歴史|遺伝学電子博物館  のエンドウマメようなものだろうと、漠然と想像していました:p

もちろん "メンデルの法則" は現在でも間違いではないのでしょうが、バラは2千年を超える交雑の歴史で、その遺伝子は分断され複雑に絡み合っているのだそうで、発現する形質も多彩です。同じ交配親からまるで違った花が生まれてきます。以下はその実例で、2月に播種し5月に咲いたバージンフラワー。♀︎ジェミニ X ♂︎香具山 の交配親から同時に生まれた子供たちです。バラが持っている遺伝子の多様性に驚かされます。

咲き始めたバラのバージンフラワー

 バラの遺伝子数はヒトよりも多いのはご存知でしょうか。
 (研究機関 論文の著者) *数値は諸説あり

ホモ・サピエンス(ヒト)の遺伝子数 21,306
(ジョンズ・ホプキンス大学 S・サルツバーグ教授 et al.)

ロサ・キネンシス(庚申バラ)の遺伝子数 36,377
(リヨン高等師範学校 M・ベンダマン教授 et al.)

ロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)の遺伝子数 67,380
(かずさDNA研究所+サントリーGIC㈱+名古屋大学)

 ゲノムサイズは、 庚申バラ5億塩基対、ノイバラ7億塩基対に対し、ヒトは31億塩基対です。 
これらが何を意味するのか、私はわかっていませんが:p

遺伝子とゲノム|国立遺伝学研究所

ノイバラの遺伝子数が多いのを見れば、「交雑によって分断された結果」というのではありませんね。ちなみに、庚申バラ(そのスポーツ)は「四季咲き性」、ノイバラは「多花性」という、いずれも栽培上の優れた形質をバラの世界にもたらしました。バラの全ゲノム解析をするのに、これらの品種を選んだ研究者の慧眼に感心。

M・ベンダマン教授の論文 "The Rosa genome provides new insights into the domestication of modern roses"( "バラのゲノムは、モダンローズの栽培に新たな視点を提供する")は、Nature Genetics 30 April 2018 で読むことができます。
私には超難解ですが、「Google翻訳」を利用すればなんとか日本語としての意味は伝わり、ゲノム解析の最前線を覗き見ることができます。研究者の関心が強いのは、栽培者と同じで「色」と「香り」のようです。「耐病性」に関しては関連する遺伝子が多すぎて、まず問題を切り分ける必要があるのでしょう。遺伝子レベルで見れば、私たちはバラのことをよく知っているわけではない・・というか、研究もほとんど手付かずの状態みたいです。理由は、遺伝子が複雑すぎるからだとか。

師匠のデービッドさんは、育種のテーマを持つこと、そして交配親の系譜を調べること の重要性を指摘します。
不肖の弟子は、『同じ交配親から、てんでバラバラの子供たちが生まれるのに、親の系譜にどんな意味があるの?』と怪訝な面持ち。 しかし、親を意識しながらよくよく眺めてみると、どこか似ている気がしないでもない:p いかがです?

これまでの私の作業は「育種」とは言えません。さほど多くはない栽培品種の中から、たまたまタイミングが合ったものを掛け合わせただけ。(そのようにして生まれたこの3花に、上記の特徴がいくつか見えている)

‥ここからどこへ向かおうとしているのか。それは今はわかりません。とりあえずの目標は技術的な失敗を減らすことで、これまでとは少し違う方法を模索中。 いまだ見つけられずにいる "テーマ"、例えば、「青いバラ」とか「和風のバラ」というのは立派なテーマですが、私が探しているものとは次元が違う気がします。私のテーマ=進む方向は、作業の中で時間をかけて探せば、そのうちバラが教えてくれるでしょう。

遺伝子組換え、ゲノム編集の時代に、このように怪しげな歩みながらも、"バラの栽培で最も楽しいこと" が進行中です。

2024年4月9日火曜日

ペットボトルでバラの水挿し 鉢上げ

前回のレポート(3月17日/前のページ)から4週間ほど経過しました。福岡の今年の3月は天候不順、やや低温傾向で、桜の開花も少し遅れましたが、バラの生育はそこそこ順調です。ハウスに来たバラ仲間から、『今年の生育はいいね』と褒め言葉が。そんなことは私のハウスでは滅多にないことです。昨秋の肥培管理の失敗に懲りて、今年は栽培方法を大きく変えました。もちろん、その結果はまだわかりませんが、とりあえず嬉しい:p

水挿しの発根 そして新葉の展開

さて 水挿し ですが、水挿しは1月13日前後に計25本を試みました。そのうちの2本は失敗して既に廃棄し、あとの23本は4週間でこの程度に成長しました。

3月9日 "あけぼの" など、HT3品種
4月6日 左同 "あけぼの" "手児奈" "魅惑"
3月10日に "ジェミニ" の発根を確認
左同 4週間後4月6日の状態

ジェミニの挿し穂は秋に出たシュートです。挿木した時点でまだ葉が残っていました。葉柄が残っていると、新芽が展開せずにまず発根するようです。根がボトルの口から出る程度(8㎝程度)に伸びると芽が膨らみ始め、葉柄が落ちます。

発根を確認してから、規定濃度の1/4に薄めた液肥を与え始めました。使用したのは私の定番の リキダス|㈱ハイポネックスジャパン を2回と、今年から使い始めた タンクミックスA&B|OATアグリオ㈱ です。生育は旺盛です。

失敗事例ー3

この挿し穂は、前のページで取り上げた失敗株とは症状が異なります。原因は特定できませんが、挿し穂の両端が褐変していることから、鋏や小刀から菌が入った可能性もありそうです。発根量はまずまずで新芽も元気ですが、変色はゆっくりと拡大傾向にあるので、この先が期待できないと思い廃棄しました。

デービッド接ぎとの比較

3年前から育種を試みていますが、これまでに咲いたバラはいずれも香りがないのが残念。なので、香りの良いバラを交配親にすべく、今春は10品種あまりの穂木をバラ仲間からいただきました。いずれもPBR保護期間切れの古い品種で、このパローレもその一つです。*ちなみに、交配に使用する場合は、種苗法第21条「育成者権の効力が及ばない範囲」の規定によって、PBRが生きている品種でも、育成者権者の了解を得ることなく利用することができます。

パローレはやや未熟な穂木かと思ったのですが、デービッド接ぎ、水挿しともに元気よく成長しています。

大輪・強香のHT "パローレ" 3月9日
左同 4月6日
3月12日 HT "ジェミニ"
左:デービッド接ぎ 五枚葉6節でピンチ後
左同 4月7日 左:2段目(赤い葉色)が伸びている
株元をよく見ると、早々とベーサルシュートが。

Root Ball

今回の「ペットボトル&水苔」の環境でできた "Root Ball"(ルートボール/根鉢)は、挿してから約10週間後でこのような状態です。根長は、長いもので8㎝程度でしょうか。

ペットボトルから取り出すときは、根鉢が膨らんでいるので、その圧で簡単には動きません。挿し穂を無理に引き抜くと根が切れます。ボトルを逆さまにして、ボトルの口から棒を差し込んで根を切らないように慎重に押し下げます。「根毛」(Wiki)  が痛むのをできるだけ少なくするために根鉢の水苔をほぐすこともせず、そのまま植え込みます。

水と無機養分を吸収する根毛は、根の表皮細胞が変化したもので直径は0.01㎜。肉眼で見える白根の先端付近から多く出ています。根毛は切れてもまた生えてくるんですが、その間はバラの生育が停滞気味になるので、根を痛めないように取り扱います。

白根の周りの緑色は、シアノバクテリアなどの 藍藻類(Wiki) だろうと思います。 見た目が綺麗ではないけど、根に寄生しているのではないから、光合成をして酸素を供給してくれていると思えばいいのかな。養液耕・アーチング栽培をしている切りバラ生産者の培地(ロックウール)はもっと濃い緑色を呈していることもあります。でも、それを気にしているようには見えません。その一例を2012年4月の記事:「ロックウールを使った バラの挿し木(2)」で紹介しています。

鉢上げ

ボトルの口から白根が出たHTやシュラブを "鉢上げ" しました。

ポットは5号ロングスリット鉢で、培土は以下のような組成です。

水挿しの鉢上げ培土
資材容量(リットル)容量比(%)
赤玉土1435
鹿沼土1435
軽石12.5
ゼオライト12.5
ピートモス512.5
籾殻燻炭512.5

有機物の割合が少なく、一般的な培養土に使われる腐葉土や堆肥類は入っていません。これは、今年は「養液耕」(まがい)の栽培を試したいと考えているからです。

土と有機物、そして土壌微生物の働きを利用した正統的な栽培法に代え、すべての株を「養液土耕(隔離栽培)」で育てます。通常の「養液耕」はそのための給液装置が必要なんですが、そのような設備は私のハウスには無いので、底面給液で代用します。"まがい" というのはそのような意味です。

養液肥は前述の タンクミックスA&B|OATアグリオ㈱ を使っていますが、今のところ生育は順調です。冒頭で紹介したバラ仲間の褒め言葉は、私の技術が向上したのではなく、これの効果なんでしょう。

溶液耕の培地は様々な資材が工夫されているようです。私の「養液耕・まがい」には何が適当なのか、接木した新苗でテストを始めています。この組成は "とりあえず" のものですが、このように12株を鉢上げをして、育苗ハウスから栽培ハウスに移動しました。この状態で2ヶ月間ほど育て、その後は地植えにする予定です。


アヴァランチェ+ その後

"アヴァランチェ+" はスタンダードタイプの切花品種です。花屋さんで10本購入し、HTなどよりも1ヶ月遅れの2月17日に、水挿し、ロックウール挿し、デービッド接ぎの3種類の方法を試みました。充実度が低い(肥料と加温で無理に咲かせた感のある)開花枝でしたが、スローペースながら成長しています。

3週間後 3月9日
左同(+ロックウール挿し) 4月6日
水挿し 4月6日
デービッド接ぎ 4月6日

"アヴァランチェ+" の水挿しは、発根しているのは見えていますが、まだ鉢上げするほどには伸びていません。鉢上げを済ませたHTなどより1ヶ月遅れて挿したので、たぶんあと2週間ほどで鉢上げできるでしょう。

水挿しの改善点

  • 水挿し3本の右の培土(軽石)の色が違うのは、手元を誤ってひっくり返し、溢れた分を新しい軽石に入れ替えたからです。この方法の欠点の一つはペットボトル容器が不安定なことで、改善する必要があります。挿し穂の長さを(20㎝ではなく)2節=10㎝程度にすれば安定性が増すかも。

    2節にする場合は、「葉がある枝を挿し穂に選び、上側の節にある芽の状態を確認して葉柄は残す。下の節は芽抜きをして、1芽だけ伸ばす」という方法です。梅雨の時期に挿す「緑枝挿し」や10月初旬の「秋挿し」の挿し穂は、2節がベターでしょうね。切りバラ生産者の挿し穂は1節ですが、大量に挿すので穂木の節約という側面もあるようです。

  • もう一つ改善すべき点は緑藻(藍藻類)対策。除草剤的な "殺藻剤" は使いたくない(良いものを知らない)ので、とりあえず手持ちの "アクアリフト 300LN" の試用(貯水タンクに投入)を始めました。これは "放線菌"(推測/菌株は未公開)がメインの微生物資材で、水質浄化専用ではないけれど、溜池などに繁茂するアオコ対策にはある程度の効果があり、貯水タンクの水も透明度が増します。

  • さらに、重要な改善点として、今回使った軽石よりも鹿沼土がベターかも。軽石は(鹿沼土と比べて)、中に含まれている 空気⇔水 の入れ替わりに時間がかかる(軽石の名の如く吸水し難い粒がある)のがその理由です。

デービッド接ぎは、質が悪く捨てていた台木を20日後に拾い出して、計4本接ぎました。でも台木は瀕死状態だったので新根が出なくて、かろうじて1本だけが(ちょっと "いじけて" いるけど)なんとかなりそうな気配です。

この培土には腐植が見当たらず、まるで小石の中に植え込んでいるかのよう。養液耕(まがい)なので、成株の10号鉢も含め、すべてがこのような培土です。EC(電気伝導度)で肥培管理する養液耕に、CEC(保肥力)が高い腐葉土や堆肥類は無用で、それらを抜くと EC値とバラの生育状態(肥効)がすっきりと比例している ように見えます。 ←怪しい:p

試みている 成株の養液耕 については、一番花の後にその内容を検討したいと考えていますが、現時点では良好な生育を示しています。ポイントは "気品のある花" が咲くかどうか。

アヴァランチェ+ ロックウール挿し

元記事のテーマは「手軽に挿し木栽培を楽しむ」ということでしたが、「手軽さ」ということでは、「ペットボトル+水苔」よりこのロックウール挿しが優っているかも。でもあまりにも手軽で、何もすることがなく、変化も見えず、栽培として面白いとは思えません:p

実用性の面からは、ロックウール挿しは切りバラ生産者や一部のバラ苗生産者が採用しているので、優れた方法なんでしょう。来年の台木はロックウール挿しで作ろうと、その挿し穂を得るための母木(癌種病抵抗性あり)を10株あまり地植えしました。枝の成長程度を見て、7月か、あるいは10月に挿す予定です。

葉柄がいつまでも残っていて、芽の動きもないが・・
左同(3月29日に最初の発根を確認して10日後)
ロックウールの一部をむしり取り、この状態で植え込む
根がしっかりしているので、今後が期待できる

挿木で母木を作ることもある切りバラ生産者から、『挿し穂には必ず葉を1枚つけておく』と教えてもらったことがあります。発根する前に展開した新葉は大きくなりません。このロックウール挿しのように、まずしっかりした根が伸びてから、その後に新芽が展開するのがベターなんですね。 それはそうなんでしょうが、勝手に葉柄が落ちるのはどうしようもない:p

これを逆に見れば、挿し穂に最適な充実度はしっかり葉が残っているやや未熟な程度がいいのかも。その典型は前掲のパローレやジェミニです。このアヴァランチェ+も葉柄が残っているので、その新芽がどのように展開するのか興味津々。これが今回の一連の結果から学んだことの一つです。

アヴァランチェ+は、このままいけば10株は増殖できそう。交配親にしたり、養液耕や1本独鈷のテストに使うつもりです。

4月20日追記:アヴァランチェ+10株 鉢上げ完了

接木苗や実生苗がぐんぐん大きくなり育苗ハウスが手狭になってきたので、「アヴァランチェ+」をすべて鉢上げしました。

 水挿し
 ロックウール挿し

結果

活着数 10 / 試みた本数 15

左:水挿し 5/5 1本の生育がやや遅れ気味だが、安定した結果を示した。久留米市・大洋グリーンの馬場店長から聞いた『水苔には何か不思議な力がある』 の好例。

右:ロックウール挿し 4/6 成長は芳しくない。水苔と比較するとそれがよくわかる。生育が特に遅れ気味の2本は廃棄。葉柄が残っている1本も、まだ新芽が動いていない。

ロックウールは点滴灌水で使用されるシーンが多く、底面給水では水分過剰だったと反省。『ロックウール挿しはあまりにも手軽で・・』という前言は取り消し。:p 予定している挿し木で作る台木は、ロックウール挿しから水苔挿しに変更する。

中:デービッド接ぎ 1/4 3本は失敗。この1本にはベーサルシュートが出ている。

アヴァランチェ+ デービッド接ぎの失敗例 3月30日

失敗した3本には共通して接ぎ穂の変色が見られる。この症状は「お地蔵さん状態」とは異なり、原因はわからないが、台木に新根の発生が少ないのが気になる。台木の「胴」の部分が短く、接木がやり難かった。通常ならこんな接ぎ方はしない。

PBRの保護に関して

書きかけのテーマ:「品種育成者の権利の保護」の観点から、このような増殖がPBRの保護期間内にある品種であるとしても、「種苗法」では、有償・無償を問わず譲渡しない限り種苗法には抵触しない(何株増殖しても、数は問題ではない) のだそうです。栽培者としてはありがたいことなんですが、これを品種育成者の側から見ればどうなんでしょう?

(でもそう思うとしても、このような増殖は止めておこうとは思わないので、身勝手なものです:p)

切りばら生産者が、いわゆる「パテント料」(1株100円程度〜)を支払って挿し木で母木を増殖するように、私のようなアマチュア栽培者のための何らかの別のシステムがあって、それで品種育成者の権利が保証されるのがいいのかなと思っています。


まとめ "Root first, top second." 

さて、このように "Own Root Roses" の栽培がスタートしました。

最初のページ末尾の「参考」で紹介した Paul Zimmerman さんが、"Your Own Root Roses' First Season" というタイトルのYouTubeで、"slow"  "less" をキーワードに、自根バラ1年目の育て方を説明しています。以下、その一部を超意訳。

挿し木(自根)バラの栽培で最も大事なことは  "patience"(我慢・根気)。"absolutely patience"(と強調)。例えば、早く大きくしたい欲求にかられて肥料をどんどんやりたくなるのを  "我慢"  するとか。

オーガニック栽培(コンポストなどの"slow"な肥料)で、"less" 農薬で病害虫に対する免疫を獲得し、過剰な灌水や剪定を避けて、"Root first, top second." を。

私のこのでかい手のひらも赤ん坊のときは小さかった。時間をかけて、自然の成り行きに任せて、赤ん坊のバラが育っていく、その道程をエンジョイしてください。

いいね 😀

自然の成り行きに任せて = let nature run its course を、それと同じ意味でしょうが、私の師匠のデービッドさんは、 バラが自分の力で成長しようとする、その生命力を信じて と表現します。

・・私が栽培者として至らぬ点は、この境地には遠く及ばないこと。 今年のテーマは「養液耕・隔離栽培」ですが、それは、"nature" とはほぼ真逆なことをやろうとしています。自分にとっては "避けては通れない通過点" と思っているのですが。。

でも、アヴァランチェ+以外の水挿しした株は 地植えにして、自分の栽培の原点に回帰する・・と言えば大袈裟:p ですが、

"let nature run its course"

これに沿った栽培も再(犀)スタート。
目指すゴール( ➞ 「そらの サンサーラ」)は、どこか遠いところにあるのではなく、"今ここに" ある と思っています。たぶん栽培方法はさほど重要ではなく、眼を曇らせている意識の濁りを拭い取ることができれば、それが見えてくる・・はず。

書き進めるにつれ、テーマが元記事から逸れてしまいました:p 批評的に読んでいただいて、叩き台にでもしていただければと思います。ほんとうに大事なことは人から教えてもらうのでは得られず、 自分で見つける ものですね。

*TIPs: YouTube の自動翻訳の設定

Paul Zimmerman さんは、stand-up comedy artist (wiki) だったんだそうです。なるほど。 説明を日本語に翻訳するには;
Google Chrome バージョン: 124.0.6367.62 (Mac) の場合;

YouTube画面下端の "設定"(歯車のアイコン)で、|字幕|英語(自動生成)|自動翻訳|日本語 の順に選択
または、ブラウザで、設定|ユーザー補助機能|自動字幕起こし [ON]|リアルタイム翻訳 [ON]|訳文の言語:日本語

Pruning(剪定)に関する説明で、『deadwood(枯れ枝のことか?)も剪定するな』と言っているようですが、これは誤訳? それとも "deadwood" は枯れ枝ではなく、バラの樹形を整える(見た目を良くする)のに邪魔な枝のこと?

my advice is don't prune it deadwood absolutely I know that maybe some twiggy growth but you want that rose to get to size remember we're still concentrating on that root ball getting it going it needs this foliage

自根バラ1年目の育て方は、徹底して "Root first, top second." なんですね。