暑い夏だったが、空の色や雲の流れに秋の気配がある9月7日に、今年最初のローズヒップの収穫をした。これらは4月末から5月初めにかけて交配したもの。収穫時期は10月と思うが、早々と褐変するものがあり、それらの整理を兼ねて、収穫適期を調べるのが今回の作業の主目的。
昨年秋の記録:2022年10月12日 バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ
今年は全部で141の交配を試みたものの、6月までに多くが落果した。その原因はまだよくわかっていない。今の時点で残っているものは1/3の50個ほど。褐変が進んでいる8個を収穫・保存し、現況を記録するとともに、一部は写真を撮った。写真のキャプションは、管理番号 ♀︎種子親 ♂︎花粉親。
順調に生育しているローズヒップ 形や熟度は様々
3-85の "♂︎1-01-01"(管理番号)は、一昨年の交配で "♀︎ダイアナ" から生まれた、私にとって記念すべき第1号花。それを花粉親にして、いわゆる 戻し交配|Wiki を試そうとしているのだが、 "♂︎1-01-01" が魅力的なので、"奇跡" が起きるのを期待。
9月18日 訂正:
今日、"1-01-01" を剪定したときに、"♂︎1-01-01" の交配親は、 "♀︎ロージークリスタル" X "♂︎コンフィダンス" だと気がついた。なので、これは「戻し交配」にはあたらない。こんなんじゃ "奇跡" は無理かもね:p
種子親として優秀な "コルデス・パーフェクタ"
上左:"コルデス・パーフェクタ" は株姿のバランスが良く強健な品種で、ステムが真っ直ぐに伸びる。種子親としての期待に違わず、受粉した4個すべてが着果した。花粉親は、衣里佳、ロイヤルハイネス、衣通姫、香具山。種子親として優秀かどうかはどんな花が咲くかによるだろうが、これらの交配からどんな花が生まれるのかは、経験が乏しい私には見当がつかない。
交配から生まれるものは「種子親」の影響をより強く受けるのだそうだ。コルデス・パーフェクタのローズヒップは、花粉親の品種にかかわらずやや扁平な形になり、色はまるで違うけどなんとなく "ロサ・ルゴサ"(ハマナス)の雰囲気があるように感じる。コルデス(独)の品種だし、ロサ・ルゴサの遺伝子が入っている可能性はあるだろうと想像するのを楽しんでいる。
上右:「花托」だった部分がオレンジに変色し始めている。これは完熟がまもないことを知らせるサインだろう。
種子親 として着果率が良いのは、他に "雪まつり" "ロージークリスタル" "イーハトーブの風" などが目立つ。
これはカイガラムシが "産卵 "した痕跡か?
このローズヒップは大きくならないうちに褐変した。廃棄するために折り取ったら、顎の下側の隠れた部分に白い粘り気のある綿状のものが。成虫は見えないが、たぶんコナカイガラムシが産卵した痕跡か何かだろう。カイガラムシに吸汁されたために大きくなれなかったのかも。これは廃棄処分した。
カイガラムシは風に乗って移動するらしい。この周囲の数株の葉柄の基部に "コナカイガラムシ" の成虫を発見し、カイガラムシエアゾール|住友化学園芸 を噴霧した。噴霧後に成虫の姿が消滅していたから、それなりに効くようだ。卵については効果がわからないので、観察を継続している。
TIPS:エアゾール缶の噴射口に "CURE CRC 5-56" のノズルを差し込むと噴気が拡散せず、ピンポイントで狙い撃ちできる。
参考:樹木の害虫「カイガラムシ」是永 龍二|公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会
このサイトの「ミカンヒメコナカイガラムシ」のページ右の写真がこの白いネバネバの正体か。このサイトの「カイガラムシの生態」から一部引用:
(カイガラムシは)分類上は半翅目に属し、糸の様な口吻を葉や茎に差し込み、樹液を吸っています。細い絹糸の様な口吻が堅い幹を通して篩菅まで刺しこまれるのが不思議です。
篩管には光合成で作られた糖等の栄養分が多く、取りすぎて糖尿病にならないようにと考えているのか、種類によってはアブラムシのように甘い汁(蜜滴、甘露、 ハニィーデューなどと呼ばれます)を排泄します。葉や幹についたこの蜜滴にすす病菌が繁殖して、葉や幹が黒く汚れます。
ミカンヒメコナカイガラムシ 発見
9月19日追記:剪定をしているときに、葉陰に成虫を発見。老眼ではぼんやりした白い小さな点にしか見えないが、不気味な姿だ。2本の尻尾のようなものが見えるので、"ミカンヒメコナカイガラムシ" のメスだろう。厄介なことに、メスだけで単為生殖するらしい。
「コナカイガラムシ」の名前の如く周囲に白い粉を撒き散らし、ほとんど動きがない。 "カイガラムシエアゾール"(上記)にノズルを取り付けてピンポイントで直噴。直後に体色が変化。数分後には白い色に戻るが、ピンセットで触ると脆く崩れた。
黒化したヒップ内の種子 未熟、完熟、それとも過熟?
これは8月中に失敗と判断し放置していたもの。未熟なまま枯れたのだろうと思って、廃棄する前にガチガチに硬化しているローズヒップを剪定鋏で切り分けて調べてみると、使えそうな種子がある。昨年は試しにもっと黒化した種子を播種したら、発芽するものもあった。これは種子の大きさも色艶もそんなに悪くはない。たぶんこの多くは発芽すると思う。
これは果柄の一部にまだ黄色味が残っている。萼筒もまだ完全に黒ではない。種子の色も、上の "3-49 ♀ジェミニ" と比較すると赤味が多い。この程度の熟度が適当と思えるので、今年はこれを 収穫時期の目安 にする。
"ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス" は、ローズヒップが他の品種よりも一回り大きい。このページの写真はそれぞれ拡大率が異なるので分かりづらい(ダイアナは他よりも小さく見えている)が、粒の大きさ、膨らみ具合、色艶もOK。交配親のこの組み合わせは以前にも試しているので、たぶん30粒は発芽する。フリル弁の、優雅で優しい花が咲く(だろう)と期待。
"ジェミニ" と "ダイアナ" は、種子(胚珠)が子房(萼筒)の中に収まっているが、下の "メルヘンケーニギン" は種子が萼筒の外に飛び出している。このような品種は他にも "ガーデンパーティ" "衣里佳" など幾つかあり*、これらも発芽する。2年前の最初の交配では、「種子(胚珠)は子房の中にできる」と思い込んでいた(アタマが硬い)ので、廃棄した:p
*註:ページ冒頭の "3-39" と "3-45" の ロージークリスタル のように、種子が萼筒の中にできるものと外にできるものと、同じ品種なのに "個体差" がある。この差は花粉親の影響なのだろうか。
左の写真の右奥が今回収穫したもの。萼筒の膨らみがなく、上側にこぼれるほどの種子ができている。同じ株の左側の萼筒の膨らみはふつう。この差は花粉親の違いによるのだろう。
収穫日までに腋芽が15cmほど伸びていて、その下にも腋芽が出ている。ローズヒップが未熟な頃に出る腋芽も少しはあるが、それは見つけしだい掻き取る。熟して養分が不要になると急に腋芽が出始めるようで、それが成熟したサインのひとつ。
ローズヒップのまま冷蔵保存 と 春化(Vernalization)
今回7日に種子を取り出したものは4株。ローズヒップを果柄で折り取り丸ごと保存したものが4株(以下の2株を含む)。洗ったりせずそのままジップロックに入れて管理タグと一緒に密封し、倉庫にある家庭用冷蔵庫の野菜室で 冷蔵保存 する。種子は、これから4ヶ月間の長い眠りに就く。
この「冷蔵保存」は栽培者によって異なり、収穫した種子をその日のうちに土に播く「採り播き」という方法もあるらしい。その場合、発芽するために必要な 「春化」|Wiki は、土の中で低温を経験することになる。
春化に適した温度は5〜8℃程度、期間は1ヶ月以上。私の場合は、実測値で6.5℃で、期間は4ヶ月。寒さにあわせるだけでなく、「発芽抑制物質」(アブシシン酸 or ジベレリン?)を無効化する措置(私の場合は徹底的な水洗)も必要と思う。9月に「採り播き」する理由はなんだろう?
保存中に種子が干からびるのを恐れて水を加えたりしない。湿気があると抗菌ジップロックに入れての冷蔵でもカビが生える。種子は乾燥にはとても強い。ローズヒップは種子を取り出すのにペンチを使うほど硬くなるけど、問題はない。
上右の "3-106 ♀イーハトーブの風" はまだ黒化していないが、この状態でもカッターナイフの刃が立たないほど硬い。でも、畑に植えている原種系の "ツクシイバラ" のローズヒップは、初冬に完熟すると果肉がジャムのように柔らかくなって、それを小鳥が食べて "播種" を手伝う。春の"授粉" はマルハナバチが担当。ツクシイバラは子孫を残すのにヒトの手を必要としない。
花粉親として優秀な "コンフィダンス"
このページの花粉親は "♂︎コンフィダンス" が多いが、これは好きな品種というだけでなく、多量の花粉が得られ、その「花粉稔性」が良いことが関係している。"♂︎コンフィダンス" の遺伝子の影響が強いのか、多くは花弁数の少ない品種が生まれる。また、不思議なことに私の場合は "♀種子親" としては全滅する。
「花粉稔性」についての参考:花粉の高温耐性を強化する|農業電化協会
私は「教科書」( "方法" についてのガイドブック類)を見ないことにしている。なので失敗も多いのだが、そのデータから "花粉は高温に弱い" ことに気づいた。これは、交配の成功率を上げるには重要なポイントだろう。花粉親として "♂︎コンフィダンス" の結果が良いのは、開花時期が他品種よりも(わずか1週間ほどだが)早いことが関係しているのかも。逆に、ゴールデンウイーク後に咲く品種の花粉は成功率が低い。
別ページで「春一番花の開花を20日遅らせる」ことを考えているが、栽培のメインはむしろ逆方向で、高温に弱い花粉を守るために、来期は開花を無理のない範囲で早めたい。同時に、採取した葯が開裂するまで適温で保管する方法も探したい。
"駄花" なんてあるのかな?
今年の交配はまだ結果が出てはいないが、結果率が昨年よりもかなり改善した。技術的な検討はすべてを収穫した後にするとして、このまま推移してローズヒップを50個収穫できたら、播種数は1500粒を超えるだろう。発芽率を控えめに30%と見込んでも450株になる。とても楽しみだが、管理するスペースをどうしよう?という嬉しい悩み・・も、さることながら、あまり欲張ると体力が保たないぞ。程々にして、なるべく手間のかからない栽培法を工夫しなければ。
甘々の選別を経て現在生育中の交配株は、一昨年に交配したものが73株、昨年のは48株で、計121株。"121品種" と言えなくはないが、実際は似かよったものもあれば、成長に応じて同じ株からちょっと違った印象の花が咲いたりしている。それらは今、夏の花の真っ盛り。どのような品種になるかは、接木することも含めて数年は育ててみないとわからないだろう。これらの株は9月20日頃に剪定し、秋の花を見て選抜するつもりではいるけど、うどんこ病に弱い株以外は捨てられそうにない。
「農薬を使わないと育たないようなバラは、今後は品種の登録を認めない」というEUの方針には賛同。"登録" なんて及びもつかない自分でも、そのようなものを残さないようにしようと思う。でもそれ以外では、そもそも、"駄花" なんてあるのかな?
大量に播種するナーセリーは "育種のテーマ" があって、選択基準も明確なんだろう。交配の手ほどきを受けたデービッドさんから、『大事なのはテーマを決めること』と教えてもらった。そうだろうな。交配して新しいバラ?を咲かせるのは、それだけなら、じつは簡単なこと。"育種" とはそんなことではないだろう。私も自分なりのバラを探したい。それが最大の楽しみ。個性的な花を咲かせる株を選抜し、年明けには30~40株ほどを接木する予定で、台木の手配もした。
これからもバラに生かされる日々が続く。感謝。
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