この記事は、2022年5月30日の「授粉失敗の原因と対策」の続きです。
これまでの経緯
交配を試みた200のうち、5月末までに150を超えるものが失敗。その後もダメになるものが続き、夏までに残り20になった。夏の間にも枯れるものが出て、今日現在なんとかなりそうなものは僅かに12個(6%)。昨年は10%ほどは残ったので、何がまずいのか失敗の原因を考える必要があるのだが、今はそれを考えるのがきついので:p 今も頑張っているものを記録しておく。写真撮影:10月8日
授粉したのは5月6日。ローズヒップの初期生育は速いが、成熟するには5ヶ月以上の時間がかかる。
夏に枯れる症状は果梗の褐変から始まる。管理番号011の種子親 "クリスチャン ディオール" の果梗は8月には褐変し、9月には黒化してしまった。しかしこの場合はローズヒップまで枯れ上がることはなく、成熟しているように見える。
番号102の種子親 "香具山" は、吸肥力が弱い(多肥を好む)品種なのか、私の育て方の問題なのか、樹勢がおとなしく、ローズヒップの生育も遅れている。
番号133の "♀︎ 手児奈+♂︎ 衣里佳" はとても早熟で、秋剪定前の9月上旬に自然落果した。色づきや手触りから、腐敗しているのではないと判断し、保存した。
保存は、追熟する可能性を考慮して冷蔵はせず、ジップロックに入れて日陰に置き、たまに空気を入れ替えている。
今年の交配親は、イーハトーブの風、ロイヤルハイネス、クリスチャン ディオールの3品種が好成績。ロージークリスタルや メルヘンケーネギン は受粉後にローズヒップが膨らんだものの、夏までにほとんど落果。あけぼの や 魅惑 は最初からダメ。昨年好成績だった 雪まつり は、今年は全滅。
写真上左:夏の間に枯れたローズヒップは萼筒の膨らみがない。つまりタネができていない。これは、例えば黒カビの繁殖のような外因による失敗ではなく、受粉そのものが失敗している のではないだろうか。
『受粉に失敗すると、すぐに萼筒が落ちる』というガイドを読んだことがありそれを鵜呑みにしていたが、そうではないケース(受精しないまま萼筒だけがある程度までは大きくなる)もあるのかもしれない。
写真上右:この時期になっても特有な枯れの症状が出ている。萼筒にシワが出ているのは内部が充実していないからだろう。どうすべきか迷ったが、この 023 は収穫して乾燥保存することにした。萼筒の色付きから種子ができている可能性を否定できないし、これ以上の腐敗は食い止めたい。
失敗の原因
失敗の原因は一言で言えば「交配の知識・経験がなく、栽培が下手だから」なんだけど、それで済ませば来年も同じことの繰り返しになるので、特に拙かったと思われる事柄を思いつくまま列記する。
- 花粉の採取時期
花粉の採取は4月29日の記事:「バラの育種 2022 1. 花粉の採取」に記録。そのページで触れている「高温障害による花粉量の減少」は、私にはかなり重要なポイントのように思える。「花粉量の減少」だけでなく、「授精能力」も落ちているのではないだろうか。「高温障害」は、花粉を保存している間の気温でも起きるのかも。もっとデリケートに扱うべきだったと反省。
「高温障害による花粉量の減少」を避けるために、開花時期(剪定時期)を1〜2週間前倒しすることと併せて、4月の好天日は遮光ネットを積極的に展開することでハウス内の気温の過上昇を抑えようと考えている。 - カビの発生を抑制する
授粉直後から初夏までの期間の失敗の多くは「カビの発生」が原因と思われる。詳細は「授粉失敗の原因と対策」に記述。
これがきっかけになってうどんこ病の防除に本気で取り組むことになり、殺菌剤の使用について少し勉強したので、来年は現場で検証してみたい。栽培環境の菌密度を下げる、あるいは受粉後の胚珠に影響せずカビ菌だけを狙い撃ちするのに適した殺菌剤はどれ? - 授粉方法の見直し
いや、失敗の原因をカビのせいにするのはどうなんだろう? 受精に成功すれば子房はカビの発生を阻止するために何らかの抗菌物質を分泌するかもしれないことは、これまで見てきたうどんこ病菌と宿主植物の戦いからも類推できる。子孫を残すために宿主が真菌や細菌の侵略に対して無防備であることは、むしろありえないことのように思える。 そうだとしたら、「萼筒の腐敗に殺菌剤で対応」と短絡するのは、栽培者として恥ずかしい気がする。 ⟸ 栽培者としてちょっとだけ進歩したのかも?:P
それよりも優先すべきは、交配作業の時期や方法を見直すことで受精率を高めることなのでは。
・・そうだと思うけど、具体的に何をどうすればいいんだろう? 師匠や仲間もガイド本もない独学なので、これといった方策が思い浮かばない。 - 肥培管理
『私のバラ栽培は肥料のやり過ぎ』という反省があるのでそれを確かめるべく、今年は施肥量をかなりセーブした。施肥量の管理は鉢底から流れ出る排水のECを計測するが、これまでは1200㎲/㎝以上のことが多かったのに、今夏は600〜800㎲/㎝程度。樹勢、特に "葉の大きさ" から判断して、これでは肥料不足だった。*
結実したステムは腋芽をすべて掻き取って養分を集中させたつもりだが、それでも不足だったかもしれない。
*註:8月に追肥したので、秋剪定時のECは平均で 1300㎲/㎝ 前後。花蕾が膨らみ始めた現時点では 1100㎲/㎝ 程度で、これは開花に向かって灌水のたびに徐々に下がっていく。もちろん品種によって肥効や生育程度が異なるので、展開中の新葉の状態で判断して、追加の施肥量や灌水頻度と量を(大雑把に)コントロールしている。これができるのが鉢栽培のメリット。
(* この EC値 は、私の栽培品種や目標、環境、方法の場合であり、一般性はありません) - 灌水
鉢植えでもHTの成株が水不足で萎れてしまうようなことは滅多にないが、今夏は何度か「水不足」を引き起こしてしまった。一度はかなりの乾燥状態になって、これは拙かった。 - 交配親の幼若性
「幼若性」(Juvenility)という言葉は、岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室・福井博一教授のサイトにある「挿し木の基本」というページで、10年ほど前に知って以来このブログでも度々(10回ほども)紹介させてもらっている。挿し穂や接ぎ穂を準備するときは常にこれを考慮しているが、今年の交配結果では、結実している種子親は2〜3年生の若い株が多く、逆に古株は夏頃までにほぼ全滅。交配でもこの "幼若性" が重要なのではないか と気づいた。これは私にとっては新鮮な発見で、ちょっと驚いた。
ただし例外もあり、102 香具山 や 116 ガーデンパーティ は6年生株。これは「挿し穂は当年枝が結果が良いが、古枝でもできないことはない」というのと同様なんだろう。
昨年の交配株 その後の成長
昨年(2021年)に交配してできた実生苗の記録は、5月10日の「バラの交配・12 バージンフラワー第2陣」。その後もほぼ順調に生育し、現在は5号ロング鉢で、樹高の平均が80㎝ほどになった。伸びの良い株は120㎝、悪いものも数株あってそれは40㎝程度。好ましくない株は秋の花を確認した後で廃棄されることになるだろう。
これまでも生育が良くない株を処分してきて、現時点で74株残っている。幼苗だし、夏の花なのでまだ判断するのは早計だが、花型や花弁数、色は様々。中には『おっ!』と思わせる花もある。しかし概括的には以下のような特徴がある。
- 花弁数が少なく、弁質が薄い
- 剣弁が多いのに、芯が低く平咲きになり、花型が乱れがち
- ニュアンスカラーが多く、"昭和のバラ" という古臭い印象
- うどんこ病に弱い。極端に弱いものもある
- 「矮性」というか、成長が遅いものがある。逆に、つるバラのように伸びるものもある
- MADSボックス遺伝子"(Wiki) の異常による花の乱れ(= "ABCモデル"(Wiki) の乱れ 写真:下右)
長年にわたり交雑を繰り返してきたバラは、花の形や色に関する遺伝子が驚くほど多様なようだ。育種初心者の私にとっては、何よりこれが面白い。これから開花する秋花は写真を撮って、選抜の参考にするために記録する予定。
樹高120㎝になった株でも、接木苗や挿木苗と見較べると、ステムの太さやベーサルシュートの勢いはかなり劣る。鉢増し(計3回)のタイミングや肥培管理には気をつけたつもりだが、実生苗1年目の生育はこんなものなんだろう。これを接木する台木を準備しているが、繁殖するのはもう1年先のことになるのかもしれない。
今後の作業
昨年のHTの収穫数は10。今年もたぶん同じだろう。花粉症に悩まされながら頑張った割には失敗数があまりに多いのは "今後の改善目標" にするとして、完熟したローズヒップが10個収穫できればOKだ。
収穫時期、保存方法、芽出し処理、播種 が昨年よりは少しはマシになるだろうから、私にとってはそれで十分。播種数 200、発芽数 100 が期待値。それ以上だと手に余るし、なにより、バラ栽培の楽しみは "数" ではない よね。:p
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