このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2024年3月17日日曜日

ペットボトルでバラの水挿し その後

春になりました。

今春はバラの生育が順調です。デービッド接ぎ203本のうち、失敗(お地蔵さん状態)は6本で、成功率は97%という好結果。交配してできたタネは1300粒を播種して、発芽が始まりました(写真上右のトレイ)。これらは別ページで記録する予定です。

1月13日の記事:「ペットボトルでバラの水挿し」で紹介した水挿しも小さな新葉が展開し始めました。観察や水の交換などがしやすいように、育苗ベンチの手前側にペットボトルを横に並べています。

水挿し その後

水挿しの結果を云々するのはまだ早いのですが、途中経過を記録しておきます。写真は、挿し木から約7週間後の3月10日前後に撮影したものです。

発根を確認

 "あけぼの" など、HT3品種
 ボトルの口の部分に白根を確認

挿し木したのは1月13日なので、新根が見えるようになるまでに(根長は7㎝程度か)7週間ほどかかりました。育苗ハウスがある場所は、最低気温が最寄りの福岡管区気象台のデータよりも3〜4℃ほど低く、この期間のハウス内の最低気温はマイナス2℃でした。室内での水挿しなら、発根はもう少し早いと思われます。

この2本もHTで、"ジェミニ" と "ダイアナ" です。上の3品種と異なるのは、挿し穂が秋に出たシュートで若い葉が残っていること。新根の長さは同程度ですが、葉柄が残っていると新葉の展開は遅くなるようです。でも新芽は勢いがあります。

失敗事例ー1

水挿しは25本を試みて、現時点での失敗は1品種2本。1月13日の記事:「ペットボトルでバラの水挿し」で紹介した実例の3本は、シュラブ、HT、ERの3種類でした。未熟と思えるHT(真ん中)が成功するか些か心配でしたが。。 ところが予想に反して、表皮の色付きから充実した挿し穂と思ったシュラブ(左)が失敗。

 1月13日
 3月9日

挿し穂の基部から上に向かって暗褐色に変色しています。この挿し穂はそれがかなり進んでいて、展開しかけた新葉もすでに萎れています。挿し木にありがちな失敗例で、原因はわかりません。もし道管に気泡が入り水の凝集力が切れて水が揚がらなくなったのなら、挿し穂が "上部から黄色く" 枯れ込みます。「雑菌が繁殖して道管を塞いだ」というのでもないと思います。その場合は挿し穂の基部に特有の "ヌメリ" が出ます。この挿し穂にはカルスが全くできていないのが特徴です。

失敗事例ー2

これも上と同じ品種で、1株から2本の挿し穂を作りました。2本とも同じ症状なので、失敗の原因は穂木になんらかの "生化学反応"(酸化)が起きているのだろうとみています。

 3月9日
 カルスが僅かしかできていない
 変色した部分を切り捨て、
ロックウールに挿し直す

この挿し穂の上半分はまだ緑色を残していたので、それをロックウールに挿し直しました。それによって葉も僅かに元気になったようですが、新梢の先端が枯れているし、原因もわからないままなので対応のしようがなく、復活は難しいかも。

デービッド接ぎとの比較

デービッド接ぎと水挿しを同時進行しました。いずれも同じ品種・穂木なので、それぞれの生育程度が比較できます。

デービッド接ぎは、五枚葉が5〜6節展開した時点でピンチを終えています。このような生育差があります。挿し穂には根が無いので当然なんですが、見較べると、『バラの増殖は接木がベター』と誰でもそう思うでしょうね。私も競技用のバラ株を挿し木で作ろうとは思いませんが、でも数年後にどんな花が咲くか、それはやってみないことにはわかりません。

切りバラ品種も試みる

花屋さんで見かけたスタンダードタイプの切りバラ "アヴァランチェ+"(Avalanche+/オランダの種苗会社・LEX社)が上品できれいだったので、これで増殖を試すことにしました。

挿し木や接木をしたのは、HTやシュラブなどから1ヶ月遅れの2月17日で、下は挿し木から約3週間後の3月9日に撮影したものです。

 水挿しとデービッド接ぎ 
 ロックウール挿し

切り花品種の本気挿しは初めてです。ステムの長さは60㎝と充分でしたが、意外に未熟で、穂木に使える部分の葉も痛んでいて、その品質にちょっと驚きました。それでも10本の開花枝から、水挿し5本、デービッド接ぎ4本、ロックウール挿し6本(写真右)を作ることができました。もしうまくいけば、これを交配親にという目論見があってのことなんですが。。

生育は良好とは言えません。特に、最初に大きくなるはずのデービッド接ぎが見劣りします。2月17日の時点では、すでにすべての接木が終わっていて、この台木は根が貧弱で捨てていたものを拾い出して使いました。穂木が未熟、台木も貧弱と言い訳していますが、写真を(クリックして)拡大表示すると、芽のある側の形成層が1㎜ズレているように見えます:p

追記:アヴァランチェ+その後

  • 3月25日:水挿し5本のうちの1本に発根を確認。水挿しをしたのは2月17日なので、発根確認までに6週間かかりました。ロックウール挿しはまだ根が見えません。
  • 3月26日:デービッド接ぎ4本のうち2本は、接ぎ穂が水挿しの失敗例(上掲の別品種のシュラブ)と似た暗褐色に変色したので、後日の検討材料にするために細部の写真を撮ってから、廃棄しました。この失敗で今年のデービッド接ぎの成功率は199本/207本になり、96%にダウン。← 成功率を云々するのはアホですが、90%超えは初めてのことなので、嬉しい:p
  • 3月29日:ロックウール挿し6本のうち1本の発根を確認。

施肥を開始

発根が確認できた水挿しは、薄い液肥(規定の1/4濃度)を与え始めました。今しばらく根の充実を待って、鉢上げします。この後の経過は随時記録する予定です。


PBRについて

(この項は、前ページ「品種育成者の権利(PBR:Plant Breeder's Right)の尊重」の続きです)

LEX社のバラは名前の右上に小さな "+" が付いています。かって "ロッシ+" という黄色のバラがありました。輝くような透明感のある黄色が美しいバラで、「バンビーノ・デ・オーロ(黄金の子)」と称賛されたサッカー選手のパオロ・ロッシに捧げて名付けられたのだそうです。今は権利が他社に移って品種名も変わってしまったようで、残念。
同様に、今はデルバールの商品になっている "ラ ドルチェ ヴィータ" も、以前はLEX社の "Dolce Vita+" だったように思います。品種の育成者権もビジネスの対象になるんでしょうね。仏映画「ローズメイカー 奇跡のバラ」で痛烈に揶揄される架空の大手バラナーセリー "Lamarzelle社" は、魅力的な品種を作出するナーセリーを囲い込んで支配しようとします。これは現実の◯◯社への当て擦り?

現在書きかけの前ページ:「品種育成者の権利(PBR:Plant Breeder's Right)の尊重」の「種苗法」的には、購入した切りバラを、この "アヴァランチェ+" ように増殖しても、その株を家庭内で栽培を楽しむ範囲にして、譲渡(有償・無償を問わず)さえしなければ、種苗法には抵触しない ということを、「農研機構」(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構/NARO)に電話で問い合わせて、確認しています。

備考:品種登録を管轄するのは農水省ですが、NAROは登録申請のあった品種の試験栽培など、許諾のための実務を担当する組織です。

・・それはそうなんでしょうが、「個人が家庭内で栽培を楽しむ範囲であれば増殖は自由」というNAROの解釈(もちろんそれは農水省も同じ)は、種苗法の目的(第1条)「品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする」にかなうことなのか? 私はまだ得心がいきません。ちなみに欧州では個人が家庭内で栽培するのであっても、栄養繁殖する植物の、許諾の無い自家増殖は禁止されていると聞いています。農水省もその方向を向いているように思えますが、日本の農業文化や、あるいは政治的・政策的に、配慮することも諸々あるのでしょうか。

参照:「登録品種の種苗は適正に利用しましょう」|農水省 のパンフレット pdfファイル

農業者ではなく、趣味でバラを栽培する私にとって、「外に出さない限り自家増殖は自由」とするNAROや農水省の説明は都合がいいのですが、でも作業をしながら、このような増殖は(これが登録品種なら/未確認)PBR の侵害なのでは?と思ってしまいます。「交配親にするための試験栽培」という目的も "言い逃れ" とも言えますしね。農水省やNAROの解釈の前提にあるのは、挿し木や接木の技術を持っているアマチュア栽培者は少ないし、家庭内に限定すれば増殖する数もたかが知れているだろう(無視しても構わない数量)という認識なんでしょう。でもバラ苗の場合は1株が高価で、多品種・少量生産なので、自家増殖の影響は小さくないように思えます。趣味として栽培されるバラは、主に農業者によって栽培される穀物や野菜、果樹など他の植物とは異なる側面があるのでは?

 登録品種であることを表示するために、農水省令で定められているPVP(Plant Variety Protection)マーク
種苗法改正とPVPマークなどの種苗業界の取り組みについて|農畜産業振興機構 から引用

デルバール社は、「ブランドバラ苗の種苗登録・商標登録等の表記について」 | デルバールJAPON の中で;

登録品種  権利者の許可なく増繁殖、譲渡、販売は出来ません

と言っています。同様に、デビッド・オースチン・ロージズ社は「バラ苗を許可なく増殖並びに販売することは固く禁止されています」とラベルに表記しています。これらは明らかに農水省の説明と矛盾します。農水省の説明では、登録品種は権利者の許諾なく無償譲渡や販売が出来ないのはもちろんですが、個人の範囲(展示も含まれる)での増殖は自由です。この差をどう理解すればいいのか、自分の考えをまとめるのにもう少し時間がかかりそう。

「何が正しいのかを判断するのは、種苗メーカーでもNAROや農水省でもない(それは裁判所が審理する)。栽培者にとって大事なのは、"自分はどうするか" を考えること」と思うヘソ曲がりなので、始末が悪い:p