このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2023年9月1日金曜日

バラの開花を20日遅らせる − C 遮光でバラの概日時計を狂わせるーその2

この記事は、「バラの開花を20日遅らせる − C 遮光でバラの概日時計を狂わせるーその1」の続編です。

開花を遅らせる三つの方法

  1. 剪定日や方法を変える
  2. 接木による方法
  3. 遮光でバラの概日時計を狂わせる

前のページ:遮光でバラの概日時計を狂わせるーその1

  1. 金沢を基準にして考えてみる
  2. 四季咲き性バラの春一番花の開花時期に関する栽培上の "事実"
  3. 花成を制御するシステムの全体像
  4. 花成ホルモン・フロリゲンを生合成するながれ
  5. 概日時計と花芽形成

このページ:遮光でバラの概日時計を狂わせるーその2

  1. 日長を制御して、COタンパク質生合成の時期と量を金沢に合わせる
  2. 気温
  3. 概日時計を狂わせる
  4. 「C 遮光でバラの概日時計を狂わせる」のまとめ
  5. 「バラの開花を20日遅らせる」全体のまとめ

6. 日長を制御して、COタンパク質生合成の時期と量を金沢に合わせる

長いトンネルを手探りで通過して、やっと核心にたどり着いた。ここからは、「バラの春一番花の開花を20日遅くする」という具体的な方法を考える。

  • 花成ホルモン・フロリゲン(FTタンパク質)の遺伝情報はFT遺伝子に記録されている。FT遺伝子を読み出す転写因子はCOタンパク質。したがって花成プロセスはまずCO遺伝子を読み出すことから始まる。
  • 夕刻のCO遺伝子の読み出し時刻は日の出から11時間後と "仮定" する。ページ後半では、読み出し時刻を日の出から11時間30分後の場合も考慮している。
  • CO遺伝子によってできたCOタンパク質は「光」がないと分解されてしまい。その結果、FTタンパク質ができず花成プロセスは進まない。

したがって、花成時期をコントロールするには、CO遺伝子を読み出す時刻の「光」の有無を、遮光することで金沢に合わせればいいことになる。以下の表は、それに必要な遮光開始時刻と時間を示している。

備考

  • FT遺伝子の発現量は、前述NAISTの【図6】 FT遺伝子のはたらく時間帯 によれば、朝は活発にFT遺伝子が発現しているが、この機序(メカニズム)についての情報がなく、わからない。この時期の福岡の日の出は金沢より約20分遅いので、朝のFT遺伝子の発現量は「何もしなくても金沢と同じ」とみなす。
  • COタンパク質の生合成量は、CO遺伝子の読み出し時刻から日没までの時間に比例するとし、その時間を「生合成量」とみなす。"みなし量" なので特別な単位はない。
  • これには 気温や光質の影響は全く反映されていない ことに注意。
表1 COタンパク質生合成の時期と量
CO遺伝子読み出し時刻を日の出から 11時間後 とした場合
金沢福岡
2月
日の出日の入CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
日の出日の入
遮光時刻
CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
156:4217:3317:4207:0318:02
不要
18:030
166:4117:3417:4107:0218:03
18:02
18:021
0
176:4017:3517:4007:0118:04
18:01
18:013
0
186:3917:3617:3907:0018:05
18:00
18:005
0
196:3817:3717:3806:5918:06
17:59
17:597
0
206:3617:3817:3626:5818:07
18:00
17:589
2
216:3517:3917:3546:5718:08
18:01
17:5711
4
246:3117:4217:31116:5418:10
18:05
17:5416
11
276:2817:4517:28176:5018:13
18:07
17:5023
17
28剪定累積
34
剪定累積
73/34
3月
日の出日の入CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成量
日の出日の入
遮光時刻
CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成量
26:2417:4817:24246:4618:15
18:10
17:4629
24
56:2017:5117:20316:4318:18
18:14
17:4335
31
86:1517:5417:15396:3918:20
18:18
17:3941
39
116:1117:5717:11466:3518:23
18:21
17:3548
46
146:0717:5917:07526:3118:25
18:23
17:3154
52
156:0518:0017:05556:3018:26
18:25
17:3056
55
166:0418:0117:04576:2818:26
18:25
17:2858
57
176:0218:0217:02606:2718:27
不要
17:2760
205:5818:0516:58676:2318:30
不要
17:23
67

表の内容について

  • 2月15日 福岡のCO遺伝子の読み出し時刻は日没後なので遮光は不要。COタンパク質の生合成量はゼロ
  • 2月16日 福岡では遮光しなければ1単位のCOタンパク質ができる。18:02から1分間の遮光で生合成量はゼロ
  • 2月20日 金沢でCOタンパク質の生合成が開始。その量は2単位。福岡も2単位にするため18:00から遮光
  • 2月28日 金沢での標準剪定日。この日に福岡でも剪定をし、3月17日まで遮光を継続する
    ここが A-2. の「積算温度による剪定時期の判断」とは異なる。
  • 3月17日 金沢ではこの日の生合成量は60単位。福岡も遮光なしで60単位。この日以降、遮光は不要になる

POINT: 福岡の標準剪定日は2月15日。2月28日には剪定予定箇所の芽がかなり膨らんでいる。したがって、 標準剪定日の2月15日に、剪定予定箇所の1〜2節上の芽で予備剪定をしておく。別の言い方をすれば2月28日に切戻して本剪定とする。

* 累積 について:COタンパク質は光がないと分解されてしまうので翌日まで持ち越されることはない。COタンパク質は、花成ホルモン「フロリゲン」(FTタンパク質)を生合成するためにFT遺伝子を読み出す転写因子なので、COタンパク質の生合成量はFTタンパク質の生合成量と比例すると見なすことができる。つまり、金沢の剪定日2月28日には花成は34単位進行しており、福岡で遮光しなければ73単位進行するので、遮光によって金沢に合わせている。

本剪定日までに蓄積されたFTタンパク質は頂芽に集中しており、それは剪定によって切り捨てられる。この時点でリセットされるので本剪定日以前の遮光は不要に思えるが、遮光で概日時計のリズムの位相を金沢に合わせることが重要 ではないかと考えている。

ただし、これらは "生化学反応" なので、反応速度は温度に影響される。何度も書くが、ここでは「気温」というファクターが考慮されていない ことに注意。

遮光時間について

  • COタンパク質が分解を免れるためにどれほどの照度が必要なのか(例えば日没直後の天空光でも有効なのか)についてのデータは持っていないが、地形の影響で直射光が射す時間が短い栽培地では開花が遅れる事例をいくつか見たことがある。COタンパク質が分解されるのを防ぐのは天空光ではなく直射光のように思える

  • 福岡においてCOタンパク質の生合成が開始するのは2月16日なので、金沢に合わせるために遮光を開始する。2月16日の遮光開始時刻は18:02で、遮光時間は日没までのわずか1分間。同様に翌2月17日は日没3分前の18:02。金沢でCOタンパク質の生合成が開始する2月20日まで、COタンパク質の生合成量をゼロ単位に保つ。

  • 金沢においてCOタンパク質の生合成が開始するのは2月20日で、その量は2単位。福岡でも同様にするために、遮光開始時刻を18:00としCOタンパク質の生合成量を2単位にする。もし遮光しなければこの日のCOタンパク質の生合成量は9単位となり、金沢より早く花成が進むことになる。

  • 遮光時間を最も長くする必要があるのは2月26日前後で、その時間は6分間。それ以降は日を追うごとに遮光時間が短くなり、3月17日には遮光が不要になる。これは高緯度地域は夏に向かって季節が進むほど昼間の時間が長いことと符合する。

備考:電照菊栽培の場合、「日長」は日の出から日の入りまでの自然日長に、朝夕各20分〜30分の薄暮を加えた時間であるとされているが、ここでは日没時刻を基準に考える。

遮光開始時期について

福岡において剪定日2月28日より前の2月16日から遮光する理由は、花成のトリガーになる光受容体タンパク質「フィトクロム」がどこに存在しているのか不明だから。剪定後に展開する葉にのみ存在するのであれば剪定日前の遮光は不要だが、もしかしたら芽や枝の表皮にも存在しているのかも。だとしたら、遮光しなければ花成プロセスが進行する。

遮光方法について

  • 遮光時間は長くても6分間。夜にかけてそれより長くなってもまったく差し支えないが、翌朝までそのまま遮光状態にしておいてはいけない。
  • 遮光方法は栽培規模や環境しだいだろうが、私は通気性の良い遮光ネットを天候には関係なく「遮光時刻」の30分前から展開する予定。前倒しするのは遮光率が50%だからだけど、日没時の直射光を避けるために、西側にパネルを設置する予定。これらは照度計を使って適切な方法を探ろうと考えている。
  • 重要と思われるのは、気紛れに遮光の時間を調整しないで "リズムを刻む" ことだろう。問題は、2月16日から3月16日日までの1ヶ月間、毎夕きちんと遮光ができるかということ。

CO遺伝子の読み出し時刻を変更

これまでCO遺伝子読み出し時刻を "日の出から11時間後" と仮定して検討してきた。この "11時間後" というのには明確な根拠はない。これを "11時間30分後" に変更して、COタンパク質の生合成量を金沢に合わせるのに必要な遮光時間を検討してみる。

表2 COタンパク質生合成の時期と量
CO遺伝子読み出し時刻を日の出から 11時間30分後 とした場合
金沢福岡
3月
日の出日の入CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
日の出日の入
遮光時刻
CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
16:2517:4717:5506:4818:15
不要
18:180
0
26:2417:4817:5406:4618:15
不要
18:160
0
36:2217:4817:5206:4518:16
18:15
18:151
0
46:2117:5017:5106:4418:17
18:14
18:143
0
56:2017:5117:5016:4318:18
18:14
18:135
1
66:1817:5217:4846:4118:19
18:15
18:118
4
76:1717:5317:4766:4018:19
18:16
18:109
6
86:1517:5417:4596:3918:20
18:18
18:0911
9
96:1417:5517:44116:3818:21
18:19
18:0813
11
106:1317:5617:43136:3618:22
18:19
18:0616
13
116:1117:5717:41166:3518:23
18:21
18:0518
16
126:1017:5717:40176:3418:23
18:21
18:0419
17
136:0817:5817:38206:3218:24
18:22
18:0222
20
146:0717:5917:37226:3118:25
18:23
18:0124
22
156:0518:0017:35256:3018:26
18:25
18:0026
25
166:0418:0117:34276:2818:26
不要
17:5828
176:0218:0217:32306:2718:27
不要
17:5730
186:0118:0317:31326:2618:28
不要
17:5632
196:0018:0417:30346:2418:29
不要
17:5435
205:5818:0517:28376:2318:30
不要
17:53
37

このように、CO遺伝子読み出し時刻を 日の出から11時間30分後 としたら、遮光すべき期間が13日間と、約半分の日数に短縮された。2月28日に剪定し、3月5日に日長条件がクリアされるというのは、新芽の動きに合っていて無駄がなく、理にかなっているように?思える。
これならば、『最初のフロリゲンは枝の表皮で作られるのかも』と、怪しげなことを考える必要もない。

遮光時間は最大でも3月5日、6日の4分間。遮光が必要な3月15日までのCOタンパク質生合成の日量を累計すると、金沢は304単位。福岡で遮光しなければ337単位。う〜ん、このわずか10%の差に過ぎないなら、わざわざ遮光する意味があるのだろうか。。

この項のまとめ

金沢で2月28日に剪定し5月20日に咲く品種のバラを、福岡でも同様に2月28日(標準より2週間遅れ)に剪定しても、開花は5月20日よりかなり前(標準開花日より5日〜1週間遅れ)になる。その理由の一つは「光周性」。同じ品種のバラは開花時期が同じになるようMADSボックス遺伝子によって制御されている。したがって、概日時計の季節判断を2週間遅れにする必要がある。概日時計の周期リズムは、遮光による新しい明暗周期に徐々に同調するので、実栽培での遮光期間はかなり長期間にすべきだろう。

福岡での開花が金沢より早くなるもう一つの理由は「気温」の影響。生育適温範囲内の気温の変動リズムが、概日時計の季節判断にどう影響するのかはわからない。なので次の項では、温度が生育に及ぼす範囲になる。


7. 気温

表1と2を作って、FTタンパク質の生合成量を金沢と合わせるために 遮光すべき時間と期間の短さ に驚いた。しかし、CO遺伝子読み出し開始日は2〜5日間の差しかないわけだし、遮光時間と期間はこの程度のことなのかもしれない。

つぎに、福岡と金沢のこの時期の気温を調べてみる。気象庁|過去の気象データ検索 から、半旬ごとの平年値を拾ってグラフ化した。

金沢で花成の日長条件がクリアされる2月20日の平年値は、平均気温4.2℃、最高気温7.8℃、最低気温1.0℃。
CO遺伝子の読み出しから始まる一連の花成プロセスは夕刻から夜にかけて行われるので、この気温では実際に生合成されるフロリゲン(FTタンパク質)はほとんどゼロに近いのではないかと思われる。

平均気温18.3°Cで、私のところは開花中心日の5月1日、金沢はばら展初日の5月20日になっている。福岡と金沢の平均気温のズレは20日。開花日のズレとピタリと符合する。やはり春一番花の花成時期は気温が最大の要因だろうと思える。

考察

日長の差の小ささと比べると気温の差は大きい。剪定予定日の2月28日の気温差は3.8°C。期間を平均すると差は3°Cにもなる。日長を金沢と揃えても(あるいは短くしても)、気温が3°Cも高いのなら、酵素反応や転写因子となるタンパク質の生合成などがより早いテンポで進行し、けっきょく開花も早まるという結果になりそう。この差を埋める(気温を下げる)にはどうすればいいのだろう?

気温を下げる有効な方法は?

  • 私の畑は福岡の気象の観測地点より東側15Kmほどの山間地にあり、冬の最低気温は気象台より2°Cほど低い。
  • 5月20日の開花を試みる鉢をハウス外に移動する。これで朝の気温は2°Cだけ金沢に近づく。
  • 鉢を置くハウス外の温度を下げるには、①風通しを良くする ②昼間の強光線は遮光する。

ちなみに4月の日照時間の平年値は、金沢184.8時、福岡188.1時(気象庁|過去の気象データ検索)で、福岡が僅かに多い程度だが、福岡の4月の晴天日の昼は照度が実測値で60Klxを超える。昼間の強光線は、遮熱・遮光シートで赤外線の輻射熱をカットすることで幾分かは下げられそうな気がする。昼間の強光線を遮光しても光合成に問題がないことは何年も経験済み。


8. 概日時計を狂わせる

「表1」「表2」では「夕刻の遮光によって金沢と福岡のCOタンパク質生合成の時期と量を合わせる方法」を考えたが、開花時期に大きく影響する気温を金沢に合わせるのは難しい。

ならば、遮光をもっと早めることで概日時計を狂わせるのはどうだろう? 遮光開始時刻を "金沢の日の入" に合わせる。日の出は福岡のまま。それで日長が30分ほど短くなるが、これでバラは季節を誤認し、開花を遅らせる・・だろうか?

表3 遮光開始時刻を金沢の日の入に合わせ、日長を30分短くする
金沢福岡
3月
日の出日の入CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
日の出日の入
遮光時刻
CO遺伝子
読み出し時刻
COタンパク質
生合成の日量
16:2517:4717:5506:4818:15
17:47
18:180
0
26:2417:4817:5406:4618:15
17:48
18:160
0
36:2217:4817:5206:4518:16
17:48
18:151
0
46:2117:5017:5106:4418:17
17:50
18:143
0
56:2017:5117:5016:4318:18
17:51
18:135
0
66:1817:5217:4846:4118:19
17:52
18:118
4
76:1717:5317:4766:4018:19
17:53
18:109
0
86:1517:5417:4596:3918:20
17:54
18:0911
0
96:1417:5517:44116:3818:21
17:55
18:0813
0
106:1317:5617:43136:3618:22
17:56
18:0616
0
116:1117:5717:41166:3518:23
17:57
18:0518
0
126:1017:5717:40176:3418:23
17:57
18:0419
0
136:0817:5817:38206:3218:24
17:58
18:0222
0
146:0717:5917:37226:3118:25
17:59
18:0124
0
156:0518:0017:35256:3018:26
18:00
18:0026
0
166:0418:0117:34276:2818:26
18:01
17:5828
3
176:0218:0217:32306:2718:27
18:02
17:5730
5
186:0118:0317:31326:2618:28
18:03
17:5632
7
196:0018:0417:30346:2418:29
18:04
17:5435
10
205:5818:0517:28376:2318:30
18:05
17:5337
12

備考

  • CO遺伝子の読み出し時刻を 日の出から11時間30分後 に仮定
  • 剪定日は、COタンパク質の生合成が可能になる日よりも5日前に設定。金沢2月28日、福岡3月11日
  • 福岡での剪定日が金沢より10日ほど遅いのは、気温差を考慮するから
  • 遮光期間は、冬至の12月22日から開花日まで

9 「C 遮光でバラの概日時計を狂わせる」のまとめ

このような方法でバラが季節をどう判断するかは、『やってみなきゃわからない』。なぜなら、バラの生理は私のアタマほど単純じゃない。『なんかヘンだな』と感じたバラは、なんらかの "補償回路" ?を機能させるかも。

  • 同じ品種のバラを少しずつ時期をずらして剪定しても、どの個体もほぼ同じ時期に花を咲かせる
  • 剪定時期を大幅に遅らせると、小さいままなるべく急いで開花しようとする

四季咲き性バラの春一番花のこのような「光周性」についての詳しいメカニズムは結局わからないまま:p したがってデータを集めることが必要だが、実栽培での大問題は "自分"。毎日定められた時刻に遮光ができるのか自信がない。まだ寒い時期のもの寂しい夕暮れに、ひとりポツンと畑にいるのは楽しくない。隣接する山では、土の中で太り始めたタケノコを狙うイノシシや、シカの気配もするし。襲っては来ないけど、夕闇の中で突然出くわせば、驚かされる。

これまで「遮光ネットの展開時間で日長をコントロールする」という方法を考えていたが(自分では良いアイディアだと思った)、自宅の庭ならともかく、畑ではいささか(かなり)無理っぽい。概日時計が狂うより先に私のアタマが:p

来春は「5月20日の開花」にこだわらず、「日長が短い栽培地は開花が遅れる」という事実をベースに、日の出入時の、特に "赤色光の割合が多い直射光" が当たり始める時刻を遅らせるパネル(か何か)を設置して、まずデータ取りの栽培から始めようと思いついた。固定した装置ならば、ルーティン作業が苦手な自分でもできそうな気がする。

9月11日追記:畑には大小2棟のビニールハウスが10mほどの間隔で建っている。ハウスは南北方向なので、ハウスとハウスの中間部分は日の出が遅く日の入が早い。これを活用すれば手間要らずでテスト栽培ができそう。


10 「バラの開花を20日遅らせる」全体のまとめ

この数ヶ月、花芽形成と概日時計のシステムを自習してきた。いまだに理解できないことも多々あるけど、楽しかった。研究成果を公開されている研究者やそれを紹介している諸機関に感謝。

でも、肝腎要の「光周性」のメカニズムやMADSボックス遺伝子の詳細は全く理解できていない。まだ読み込めていない論文や記事もいっぱいあるので、これからも修正や追記を重ねていくことになるのだろう。しかし、仮定に仮定を重ねる今の方法では如何にも無理がある。「実栽培で考える」というのが栽培者の "正道" なんだろうと思う。

ただし「開花時期をコントロールする」というのは最終目的ではないので、予定している実栽培でのテストはそう多くはない。春の開花を遅らせる方法は、「新梢の五枚葉5節でピンチ」が本命かと考えていたが、それでは当たり前すぎて、なんかつまらない。今は「接木新苗の1本独鈷」が良さそうに思えてきた。少量(4リットル以下)の培土で、底面給水方式の溶液耕。どんな花が咲くかはやってみなきゃわからないけど。わからないから、おもしろそう。

今回痛感したのは、「自分はバラのことをほとんど知らないのだ」ということ。植物生理学的なことだけでなく、例えば「剪定後に最初の三枚葉が展開するのは何日後か」ということすら観察できていない。

数日後には秋の剪定を始める。今回学んだことを思い浮かべながら、膨らんでくるバラの芽に、『そんなにおチビちゃんなのに、君はほんとにすごいんだね』と語りかけるのを楽しみにしている。

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