このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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11月23日追記:勉強会で使用するテキストに関して重要な変更をしています。



2013年2月18日月曜日

バラ 秋の挿し木の鉢上げ

秋でも可能なバラの挿し木。10月16日に秋のバラの挿し木をしました。それが4ヶ月後には「鉢上げ」の時期を迎えたので、2月16日と17日にそらの畑で作業をしました。バラの栽培品種の「秋挿し」とその結果から、改善すべきことを考えてみます。

私の場合バラの挿し木は畝に挿していくのですが、昨年の秋の挿し木では挿す部分の土を別に用意しました。
その理由は、2011年の結果を参考に、雑菌の仕業による失敗をできるだけ少なくしたいと考えたからです。

そらの畑でバラの挿し木の準備作業 バラの挿し木用土作り

挿し木畝はベッド幅90cmの長さ12Mで、株間30cm、4条の千鳥植えで、約160本挿すことができます。マルチに穴を開け、そこに挿し床になる深さ15cm程度の穴を(器具を使って)掘って、無菌の土を入れました。
土は、赤玉土をメインに、鹿沼・バーミキュライト・籾殻燻炭を適当に配合したものです。
註:「無菌の土」というのは厳密な意味ではなく、購入したばかりの未開封の土を使ったということです。

挿し木作業 バラの挿し穂

挿し木作業は、まず挿し穂を入れる穴を開け、水極め(みずぎめ)で挿し穂を固定していきますが、早い時期に失敗したものを調べてみると、挿し穂の基部の土が緩すぎて空隙ができてしまい、その結果水の吸い上げが不足して枯れたように思える事例が多かったです。2011年秋の挿し木は畑土を使い、時期は10月上旬で、その年は気温が高く、雑菌の仕業で枯れたのではないかと思われる事例が多かったのですが、今回はそれは皆無に近いようでした。

挿し木の結果は挿してから2ヶ月程度でだいたい見えてきますが、このようなトンネルで冬を過ごしました。園芸用の不織布とビニールの2枚重ねです。裾には隙間もあって風も抜けるのですが、霜さえ防げればそれくらいルーズなものでも良さそうに思えます。換気の手間も要りませんし(笑)

バラの挿し木畝のビニールトンネル 秋の挿し木の掘りあげ

この日の朝も霜が降り溜まり水は氷結していました。トンネルを撤去しマルチを剥いで、丁寧に掘りあげていきます。
小学生の愛◯ちゃんが、カッターナイフを持ってマルチを剥ぐお手伝いをしてくれました。ありがとうね。

バラの秋挿しの結果

これが掘りあげた挿し木苗です。もっと貧弱な根量かと想像していましたが、なかなかどうして。私のものではなく IWさんの挿し木ですが、この時期の4ヶ月間でこれほどに育つなら立派なものです。品種は CLの「羽衣」(左)と、HTの「バレンシア」です。挿し木が成功しやすい CL品種は、さすがにその根の生育もしっかりしています。

秋挿しの根長を計測

私のものも含め、2012年秋の挿し木(栽培品種のみ)の成功率は約60%でした。しかしこの数字にはあまり意味がありません。クライミングやランブラー、あるいはシュラブ(イングリッシュ・ローズを含む)は成功率が高いので、それらが多いと数値が上がります。

1 挿し木失敗の原因 

雑菌の繁殖による挿し木の失敗事例

挿し木に失敗した原因は挿し穂の状態からある程度推測できます。

  • 雑菌が繁殖した場合:挿し穂が艶のある黒褐色になり水ぶくれ状態になる。左の写真がその一例です。
  • 水が上がらず枯死する場合:挿し穂の色はまず黄色みを帯び、やがて茶褐色になって縮み、縦にシワができる。症状は「根腐れ」に似ているが、より早く枯れていく。

2012年秋は無菌の土を使ったので雑菌の繁殖によると思われる失敗事例はありませんでした。無菌の土でも水に雑菌が入っていれば意味がないので、初期だけは水道水を使いましたが、畑には水道が無いのでポリタンクで運び込みました。そこまでする意味があったのか、今でもちょっと疑問です(笑)

前述のように、失敗したものは挿し穂の基部の土が緩すぎて空隙ができてしまい、その結果水の吸い上げが不足したのが原因だと思います。畑土に挿す場合は、左手に挿し穂を持ち右手のジョウロで水を注いでいくと、挿し穂の基部に土がなじむのが左手の指の感覚でわかるのですが、今回の用土ではそれがわかり難かったですね。挿し穂の基部の土に空隙ができていると気づいたのは数日後で、すぐ手直しはしたのですが「時既に遅し」でした。今回のように、畑土の中に異なる性質を持つ土を入れるのも考えものです。ていねいにロータリー耕した畑土は膨満ですが、挿し木穴に入れた用土となじみがよくありませんでした。

2 「挿し木の基本」 

水が上がらず枯死する場合のもうひとつの原因は穂木を採取した後から挿すまでの管理の拙さです。10月中旬のこの時期はバラはまだ活発に水を吸い上げて(蒸散して)いますから、採穂後の管理には注意が必要です。また、長時間(1日以上?)水に入れておくのも拙いようです。これら挿し木に関する情報は、岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室の福井博一教授「挿し木の基本」をご覧ください。バラに特化されているのではありませんが、とても参考になります。

3 秋挿しの時期 

挿し木をしたのは10月16日でしたが、(福岡県の)私の環境ではこれは適切だったと思います。それから1週間〜3週間遅れて挿したものは、2月16日の鉢上げ時には成長度合いが見劣りしましたし、成功率もやや低いように思われました。冬野菜を栽培される方はよくご存知でしょうが、この時期の1週間〜2週間の差は収穫時には1ヶ月以上の差になります。でも、だからといって時期を前倒しすれば高温下で雑菌が繁殖しやすく、また穂木の充実度の問題もありますから、自分の環境や方法に合った時期を試行錯誤するのがいいのでしょうね。

4 挿し穂の調整 

挿し穂は多くのみなさんが20cm程度に調整してありましたが、これは正解だったと思います。プロ(バラの切り花栽培農家)が短い挿し穂を作るのは、たぶん生産効率を考えてのことでしょう。その一例:2012年4月25日の記事「ロックウールを使った バラの挿し木(2)」。同じ品種を何本も挿すプロとは違って、私たちは少ない本数でいいのですから、あえて短い挿し穂にする理由はありません。

また、上の挿し木作業の写真に写っているように、挿し穂の葉は(緑枝挿しとは違って)必要ありません。枝の葉がある部分はこの時期の挿し穂としてはやや未熟(別の言い方をすれば"成長中")で、もちろん使えないわけではありませんが、そのぶん発根や発芽が遅れる(品種や栽培状況にも依る)ようです。自然に葉柄が落ちた長い挿し穂のほうが、発根するのに必要なより多くの養分(タンパク質や成長ホルモンを作るためのアミノ酸、あるいは光合成で作った糖質など)を内包しているように思います。

回りくどい言い方ですみません、要するに「挿し穂にする枝の基部と先端部は使わない」ということです。

5 挿す深さ 

挿す深さは、私は根拠も無く挿し穂の長さの1/2の10cmにしますが、もう少し浅めでも良いのかもしれません。マルチを張っていますから土壌の水分は安定していますし、簡易ながらも防寒のトンネルを設置しますから土壌の凍結もないし、風に挿し穂が動かされることもありません。条件は異なりますが、30cmの挿し穂を5cmの深さに挿して成功した事例も知っています。短い挿し穂を使うバラの切り花栽培農家の場合は『挿し穂には必ず葉を付けておく』のが大切なんだそうですが、発根・発芽のために光合成で糖質を作る必要があるからでしょう。

長い挿し穂のもうひとつの利点は『挿し穂(茎)も光合成をする』ということです。ゆえに、長い挿し穂を浅めに挿すのがベターかもしれません。ただし、浅いと用土の水分管理が難しくなります。プロが使う短い挿し穂は、ロックウール挿し木では「ドリップ灌水装置」、ポットの場合は「ミスト灌水装置」を備えたハウス栽培ですね。

6 長尺挿し木 

スタンダード台木にする長尺挿し木は、栽培品種と同じ10月16日に、テストも含め3品種計60本を5号ロングポットに挿しました。簡易な小型ビニールハウスの中に支柱を組んで、ポットの下は籾殻を厚く敷いて保温しています。
結果は2013年1月27日の記事「バラの接ぎ木 台木の準備」の後半に写真がありますが、発根させるだけなので、外見は挿し木時とほとんど変化がありません。

スタンダード仕立てノイバラ台木のセット スタンダード仕立て用のノイバラ台木

長尺挿し木は枯れるような失敗をした挿し穂はありませんでしたが、2週間ほど遅れて挿したものに発根が不十分なものがありました。これはポットに挿すので雑菌が繁殖する心配が少ないから、根の伸び具合を考慮すれば10月上旬が挿し木の適期であるように思われます。栽培品種も長尺台木もいずれも無施肥でしたが、挿し木後1ヶ月を経過した時点で少し肥料をやったほうが良かったかもしれません。

7 秋の挿し木のメリットは? 

私の栽培品種の挿し木苗約20株は養成畝に移植しました。順調に生育しています。接ぎ木苗のように旺盛な生育状態ではありませんが、じっくりゆっくり育ってくれれば良いので、とりあえずこれで満足しています。「とりあえず」という意味は、秋の挿し木が他のシーズンより利点があるのか、今の時点ではよくわからないからです。掘り上げる直前に蕾が付いていた株がいくつかありましたが、2月ということを考えれば、それは自然なことのようには思えません。

今年も秋の挿し木をするか、現時点ではわかりません。旺盛に生育する接ぎ木苗を見ると『もう栽培品種の挿し木は要らないかな』とも思います。

2014年追記:『もう栽培品種の挿し木は要らないかな』…と思ったけど、5月下旬撮影のこの写真を見てください。3株のうち左が2013年10月31日に秋挿しした挿し木苗(7ヶ月)です。前年までのような畑での挿し木ではなく、特殊なプランターに挿しました。その中でも特に良好な生育を示した挿し木を選んで撮っています。

中央は14年2月のデービッド接ぎ(3ヶ月)、そして右は購入新苗(芽接ぎ・たぶん7ヶ月)です。3株とも既にピンチしてあります。

挿し木は品種による生育の差が大きいのですが、挿し木にむいた品種であれば秋の挿し木でも、接ぎ木苗と較べて遜色ありませんね。 :品種が異なりますので大きさの単純な比較はできません。

挿し木苗と接ぎ木苗の比較

画面中央の10個のコンテナに入っている苗が2013年の秋挿しの結果です。2013年10月31日に挿し木、14年4月6日に鉢上げ、そしてこれを撮影したのが5月22日です。この"特殊なプランター"を使った挿し木の方法は、2014年11月13日:「秋にもできるバラの挿し木 栽培品種の秋挿し」をご覧ください。

秋の挿し木の結果

右奥に見えるのは14年2月下旬のデービッド接ぎと芽接ぎでできた苗です。この写真ではわかりませんが、全体的に見れば秋挿し苗よりもデービッド接ぎの苗が大きく育っています。「デービッド接ぎ」については、2014年11月9日の記事:「初心者に優しいバラの接ぎ木 デービッド接ぎ」をご覧ください。

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