このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2024年12月24日火曜日

2023年交配の記録

これは、2023年春に交配し、栽培を継続しているバラの実生株の記録です。 個人的な記録で汎用性はありません。
このブログは "スマホフレンドリー" ではありません。スマホでアクセスされた方、ごめんなさい。

交配3年目の 実生苗の秋の花

2023年春は150ほどを交配し、50個のローズヒップを収穫。24年2月に1300粒を播種。発芽率は17%(不良)。
200株を鉢上げし、12月時点で150株を栽培中。交配親はすべてハイブリッド ティ。写真はその秋の花の一部。

 11月30日
 12月 5日
 12月12日


2023年 交配3年目の記録
収穫したローズヒップの発芽率とその後の生育データ

No.

管理番号

交配日

種子親

花粉親

播種数

発芽数

発芽率%

鉢上げ数

継続数

1

3-9

4/30

225 雪まつり

(自家授粉)

27

1

3

1

1

2

3-11

5/4

226 雪まつり

115 C.ディオール 43

24

5

20

5

4

3

3-12

5/4

226 雪まつり

115 C.ディオール

24

4

16

4

2

4

3-13

5/5

226 雪まつり

423 あけぼの 2

32

2

6

2

0

5

3-14

5/2

226 雪まつり

  11 C.ディオール

13

0

0



6

3-17

5/1

  48 ホット神崎 N/A

338 コンフィダンス 16

17

6

35

5

2

7

3-33

5/3

354 S.ディオール

  67 コンフィダンス

32

5

15

5

5

8

3-35

5/3

133 R.クリスタル N/A

  67 コンフィダンス

24

13

63

11

9

9

3-38

5/4

133 R.クリスタル

115 C.ディオール

24

11

45

9

8

10

3-39

4/30

  16 R.クリスタル

329 コンフィダンス

32

3

9

3

3

11

3-43

4/30

  18 R.クリスタル

329 コンフィダンス

40

17

42

16

14

12

3-45

5/3

371 R.クリスタル

372 ロイヤルハイネス 39

24

10

41

8

6

13

3-47

5/4

134 R.クリスタル

  11 C.ディオール

30

11

36

7

5

14

3-49

5/3

  22 ジェミニ 60 四倍体

331 コンフィダンス

29

6

20

6

3

15

3-50

5/1

    7 ジェミニ

338 コンフィダンス

25

13

52

13

7

16

3-51

5/1

    7 ジェミニ

  23 あけぼの

29

10

34

8

8

17

3-57

5/8

    3 魅惑 N/A

404 雪まつり

16

0

0



18

3-62

5/3

  sm  手児奈 N/A

  11 C.ディオール

8

0

0



19

3-64

5/2

  57 メルヘンケーネギン 10

  53 衣里佳 N/A

32

1

3

1

1

20

3-69

5/8

  42 メルヘンケーネギン

116 C.ディオール

40

8

20

6

4

21

3-70

5/1

124 メルヘンケーネギン

  16 R.クリスタル

31

0

0



22

3-71

5/2

  59 メルヘンケーネギン

  53 衣里佳

56

5

8

4

4

23

3-72

5/1

120 メルヘンケーネギン

108 あけぼの

48

1

2

1

0

24

3-73

4/27

120 メルヘンケーネギン

338 コンフィダンス

40

0

0



25

3-74

5/2

415 ダイアナ 11

329 コンフィダンス

40

23

57

17

12

26

3-76

4/30

219 ダイアナ

338 コンフィダンス

19

0

0



27

3-84

4/27

128 ダイアナ

338 コンフィダンス

40

2

5

2

1

28

3-85

4/30

128 ダイアナ

01-1-1

14

0

0



29

3-86

4/30

202 コルデス P. 64

331 コンフィダンス

16

1

6

1

0

30

3-87

5/3

223 コルデス P.

  50 衣里佳

26

0

0



31

3-88

4/30

223 コルデス P.

102 衣通姫 1

32

0

0



32

3-89

5/2

223 コルデス P.

  62 ロイヤルハイネス

8

4

50

4

2

33

3-90

5/2

223 コルデス P.

sm   香具山 N/A

27

0

0



34

3-91

5/2

  72 ガーデンパーティ 25

  18 R.クリスタル

22

1

4

1

0

35

3-94

5/3

302 ロイヤルハイネス

307 ロイヤルハイネス

37

0

0



36

3-101

5/3

373 ロイヤルハイネス

  11 C.ディオール

16

0

0



37

3-103

5/8

441 ゲーテローズ N/A

215 衣通姫

3

1

33

1

1

38

3-104

5/1

211 イーハトーブの風 N/A

  23 あけぼの

13

6

46

6

6

39

3-105

5/1

211 イーハトーブの風

  67 コンフィダンス

32

3

9

2

1

40

3-106

5/4

211 イーハトーブの風

115 C.ディオール

12

0

0



41

3-116

4/27

  53 衣里佳

338 コンフィダンス

23

13

56

13

12

42

3-117

5/1

  50 衣里佳

  23 あけぼの

13

2

15

1

0

43

3-124

5/1

155 手児奈

318 コンフィダンス

24

8

33

7

7

44

3-126

5/4

155 手児奈

115 C.ディオール

26

7

23

7

6

45

3-127

5/3

  33 手児奈

  11 C.ディオール

8

1

12

1

1

46

3-128

5/8

  33 手児奈

402 雪まつり

16

5

31

4

4

47

3-130

5/4

471 イーハトーブの風

115 C.ディオール

8

0

0



48

3-131

5/3

471 イーハトーブの風

  11 C.ディオール

19

8

42

8

7

49

3-133

5/4

473 イーハトーブの風

115 C.ディオール

32

3

10

3

3

50

3-146

5/10

  sm  フロージン'82 3

  67 コンフィダンス

36

0

0



51

3-147

5/10

  sm  R.クリスタル

329 コンフィダンス

24

8

33

7

6

52

番外


01-1-2

(自然交雑)

8

0

0



53

番外


01-4-6

(自然交雑)

10

2

20

2

0

54

番外


ラ・マルセイエーズ 2

(自然交雑)

16

0

0



55

番外


W.アダムス

(自然交雑)

6

0

0



 計





1323

230

17

202

155


表の内容について

  • この表の管理番号の欠番(例えば 3-1 ~ 3−8)は、交配に失敗しローズヒップが収穫できなかったから。このような失敗が全体の2/3の100もある。
    交配親としての適性を見るには、むしろ失敗例が参考になるのかも知れないが、失敗の原因はいくつもありうるので、それで品種の特性を把握するのは難しい。

  • この表の結果だけでは、交配親としての品種の特性の判断はできない。例えば、No.47〜No.49の「イーハトーブの風 X C.ディオール」は、交配親は同じ品種なのに発芽率が大きく異なる。そのような事例は他にもあるが、その原因は交配親の品種特性よりも、交配や播種の技術に問題があると考えるべきだろう。

  • 品種名のリンク先は "HelpMeFind" の該当ページ。数字は子孫第一世代(子)の品種数で、N/Aは情報が無い。
  • 交配親にしたこれらの品種のうち、HelpMeFindで倍数性がわかる品種は「ジェミニ」(四倍体)1品種のみ。

  • 品種名の「ダイアナ」は 'Diana, Princess of Wales ™'。「C.ディオール」は 'Christian Dior'。「S.ディオール」は 'Super Dior'(福島園芸)。 「R. クリスタル」は 'ロージー クリスタル'。「コルデス P.」は '「コルデス パーフェクタ'。 'sm' は (stepmom/継母) の略で、栽培品種の枝に別品種を接木したもの。

  • 品種名の番号は「株番号」。小さい数ほど古い株。「同じ品種でも株によって遺伝子がわずかに異なるのではないか?」という(根拠のない)理由で区別している。
  • No.35(管理番号3-94)は、異なる株の「ロイヤルハイネス」を両親にしているが、これも『自家授粉』になるのだろうか? タネはたくさんできたけど、発芽率はゼロ。
  • 右欄は、生育不良の株のみを廃棄して、現在も栽培を続けている株数。このうち30株程度は「一季咲き」。
  • 「番外」は自然交雑で結蕾したもの。ハウス内という栽培環境からして「自家受粉」の可能性が高い。
  • No.1(管理番号3-9)の「雪まつり」(HelpMeFindに登録がない)は手作業で「自家受粉」させた結果。最初の年に好結果が出たので、2年目も狙ったがハズレ。今回もハズレっぽい。「自家受粉で好結果」は記録ミスかも。育種には「正確な記録」が重要と痛感。

  • 交配3年目なので、過去2回の結果から交配親を選んでいる。例えば、蕊(しべ)が奇形で結果が出なかった「クリスチャン ディオール」は花粉親としてのみ使っている。同様に、花粉親として好成績だった「コンフィダンス」を多用しているが、種子親としてはよくなかったので使っていない。でも、HelpMeFindでこれらの子孫を調べてみると、いずれも種子親としての実績があり、先人の努力に脱帽。
  • 好きな品種で、種子親&花粉親としても優れている「ジェミニ」は、昨年春は生育不良で交配にはあまり使えなかった。「メルヘンケーネギン」はタネは多くできるけど、発芽率が良くない。子孫は7品種(有名な品種としては少ない部類)で、子に「ストリーム」、孫に「First Lady A」がある。親によく似ているので、花の形質に関する遺伝子の多様性は少ないのかも。
  • 素直な樹勢と照り葉が綺麗な「コルデス パーフェクタ」は、種子親として多くのタネを作ったが、期待に反して発芽率が悪かった。しかし1年だけの結果ではその特性はわからないから、今年もテストを続けている。
    HelpMeFindで、子孫第一世代(子)を 64品種も残していると知って(この表では最多。優秀とされるジェミニを上回っている!)、来年も続けようとやる気が出る。

12月29日追記:発芽率が低い原因は「底面給水」による水分過剰か?

交配に初めてチャレンジした時の記録:2022年5月「バラの交配・10 発芽」を見直して、ちょっと驚いた。
3年目の今回の発芽率は17%とお粗末な結果で、自分では『率なんて気にしない』と思っていたが、この最初の年は34%なので、今回の倍の高率だ。

発芽率17%は「底面給水」による水分過剰(根腐れ)が原因なのではないか? 鉢上げ後は底面給水でも問題ないように思えるが、播種用のプラグトレーではさすがに水分過剰だったか。底面給水にした理由は、播種数が増えて灌水が面倒になったのが主な理由だけど:p、これは猛省すべきことかも。

栽培状況

選抜で捨てきれず、12月現在も栽培を継続している150株はこのような状態。10cm角ポットで、底面給水。ステムは長いもので 120cm、短いのは 70cm。平均すれば 100cmほど。ステム数は1〜3本。 生育が順調な株(ステムの太さ5mm~7mm)は、年明け1月にデービッド接ぎをする。

鉢上げ数202が、現在も栽培してる株数155に減っているのは、生育不良の株を処分したから。「駄花なんて無い。駄な生命いのちなど無い」という思い込みで、花による選抜はしていない。
「駄花なんて無いが、駄な栽培者はいる」かも。私のことだ:p

今年は肥培管理の方法を変更し、「養液耕まがい」の底面給水で苗を育てた。この効果は期待以上で、過去2年間と比べるとステムの伸びや花色、花の大きさが一段と良くなったように思える。前年まではくすんだ印象の花色が多かったけど、今年の花は上掲の写真のように色鮮やかだ。まだ接木していない実生苗でも、それなりにしっかりした花を咲かせる。

残念なのは、バージンフラワーでは何種類もあった「一重咲き」が、秋には一つも咲かなかったこと。一季咲きに "先祖がえり" しているのだろう。

花弁が7〜8枚という中途半端なのはさておき、すっきりと5枚の花弁で咲く花には「これぞ薔薇!」といった独特の魅力があって捨てがたい。そのようなのが数株あったが、それを記録し損なってどの株かわからなくなり:p しかたがないのでとりあえず全株を育てることにしている。

ところで、両親がHTならそれから生まれた子もHTに分類されるんだろうが、まさか先祖がえりしたものまで「ハイブリッド ティ」じゃないよね?

バラの四季咲き性の起源はわずか千年あまり前のことだそうで、それに関する岩田 光氏(Hikaru Iwata et al.)の研究論文を、「春の開花 交配4年目のスタート」の後半で紹介している。

考察

すでに交配4年目のローズヒップを収穫した後なのに、今さら3年目の「考察」とは、あまりに間が抜けているので、これからのことを考えてみたい。

1. 交配親の「倍数性」は気にしない

「三倍体の植物は不稔性を示す」(その典型は種無しスイカ)ということで、交配親を選択する際に気になっていたが、複雑な交雑の歴史があるバラの場合は「倍数性」のチェックは簡単ではないのだそうだ。

バラの遺伝は、種や雑種間の倍数性の変動、非還元配偶子、不均衡な減数分裂、異数性の発生により複雑になることがあり、現代のバラの栽培品種のほとんどは、倍数性が不明で複雑な種間雑種です。

出典:Davis D. Harmon et al. の論文
"Cytogenetics, ploidy, and genome sizes of rose (Rosa spp.) cultivars and breeding lines"
「バラ栽培品種および育種系統の 細胞遺伝学、倍数性、ゲノムサイズ」

HelpMeFindのデータを調べても、私が交配親に使っている品種のほとんどは倍数性が不明。倍数性どころか新品種の交配親さえ公開されなくなってしまった現状では、データではなく、実際の結果から交配親としての特性を調べていくしか方法はない。

その場合重要なのは、「交配のテーマ」を持つことだろう。デビッド C.H. オースチンが三倍体の「アイスバーグ」を交配親に利用したように。参照:12月2日の記事:「三倍体のバラは育種に使えるか?

でないと、私のように右往左往するだけで終わるかも知れない危険性がある:p  「テーマ」を絞らなければ道を迷うほど、バラの世界はあまりにも広いようだ。

2. 「多産系のローズヒップ」 データに頼らずに「稔性」を調べる

種子親にしたい品種の稔性が不明な場合、その「子房」を観察すれば、おおよその見当がつく。これらは秋の二番花(12月開花)の萼筒。(画像クリックで拡大表示) 春は子房の形状などが少し違うかもしれないことに注意。

 HT「フロージン '82」 ローズヒップが小さく内部の
構造が特殊で、子房が小さく、長い花柱も弱々しい
 HT「ジェミニ」 交配親として優れた実績がある
子房の形が見えていて、花柱もしっかりしている

種子親には、萼筒(ローズヒップ)が大きくて丸っこい、いわゆる「多産系」が適している。すべての品種がそうなのかは不明だけど、「フロージン '82」 のように小さなヒップは子房が未発達なようだ。このような品種は他にもある。また、雌ずい(めしべ)が異形なものはやはり稔性に劣るものが多い。もちろんすべてに例外はあるのだろうけど。

注意すべきは、種子親としては不適でも花粉親としては優れた品種もあるので、交配した結果で確かめるしかない。

備考:「フロージン '82」は表のNo.50に記録がある。このような子房&長花柱でも結実している例だが、その発芽率はゼロ。花粉親は高稔性の「コンフィダンス」なので、やはり種子親としては難しいのかも。 ちなみに HelpMeFind のデータでは子孫第一世代(子)に1品種の登録がある(少ない)。

3. 技術的な問題の解決は?

150の交配を試み、収穫できたローズヒップは50個。その発芽率は17%。これはやはりお粗末すぎる。育種の楽しさは「率」や「量」には関係ない と確信するけど、でも「自分の技術の拙さ」を克服するにはどうすればいいのだろう? 以下は、今年、新たに学んだことの例。

1) 花粉と面相筆

花粉は単なる物質ではなく "生命体" だが、これをできるだけ痛めないようにとの配慮から、これまで授粉に使っていた綿棒を "筆" に変更した。授粉のたびに筆を洗浄するのが面倒に思えて、手間を省くため穂がナイロン製の安価な筆を多数準備したが、妻が持っていたイタチ毛の面相筆を試用してびっくり。ナイロン製の穂は静電気で花粉が逃げる(それが肉眼で見える)のに反し、イタチ毛は逆に花粉を吸い寄せる感じ。特に、少量の花粉しか出ていない場合は、断然「面相筆」が便利だ。 雌ずいの柱頭は繊細でかなり高低差があるけど、面相筆・小の先の細さと適度な腰の強さとが相まって使いやすい。それを褒めたら、妻が新しい面相筆(広島県・熊野筆)をプレゼントしてくれた(嬉)。

2) 授粉は複数回

また、数十もある雌ずいの成熟程度はバラツキがあり、授粉はその日1回限りではなく、翌日も、場合によっては翌々日も繰り返す。デビッド・オースチン・ロージズ社の育種圃場(UK) ではそうすると師匠のデービッドさんから教えてもらった。これは日本でも行われているテクニックらしいが、私は知らなかった(思いつかなかった:p)。

左はHT「衣里佳」のいわゆる "見頃" で花弁を外した直後の状態。葯はまだ花粉を出す状態ではなく、雌ずいの柱頭の膨らみも不足気味。いずれも1〜2日後に適期になるが、この間、柱頭の湿り気に指で触ってわかるような変化はない。

拡大鏡を使った観察(すべてHT)では、柱頭の変化は "湿り気" ではなく、"餃子" のような形の柱頭がぷっくり膨らんで花粉を待ち受ける状態になる。
奥まった雌ずいはそれが遅れるので、場合によっては数日間にわたって授粉するのは効果的なのだろう。

来年は、授粉は少なくとも二度 試みる。

ただし、ローズヒップに30個の子房があるとして、それが全部タネになる必要があるのかは疑問。多くのタネができると嬉しいけれど、数が少なければ粒が大きいなどの例もあるので、そう単純な話ではない。より重要なのはタネの数より充実度だろう。

葯から花粉が出始めるタイミングと柱頭が待ち受け状態になるのはほぼ同時なので、バラは「雌雄同熟」だろうと考えている。しかしそれは私が栽培中のHT(高芯で花弁数が多く、満開時でも蕊は花弁で幾重にも包まれている)に限った話で、「平咲き」などの品種では「雌雄異熟」なものもあるのかも知れない。薔薇の世界はじつに多様で、自分の範囲だけで考えるのは間違いが生じることも多い。

3) スリップス対策

受粉に失敗すると、まず子房を内包している萼筒の一部が褐変し、それが全体に拡大するが、そのパターンは少なくとも2種類ある。その一つは花弁と雄ずいの基部だった部分から褐変し始めるケース。もう一つは下の写真のように萼筒に「輪紋」が現れるケース。私はこれによる失敗も多いのだが、原因がわからず3年間苦慮していた。

 交配から数週間後、萼筒に輪紋が現れ拡大する
 その内部 子房の腐敗が始まっている

あるときふと『もしかして、これは吸汁害虫(カメムシかスリップス)の悪さかも?』と疑いを持ち始めた。ネット上で同じような指摘があるのを見て得心。私の環境ではスリップス(あるいは、その口吻から伝染する菌かウイルス)の可能性が高い。来年はその対策として「赤色・高輝度LED+太陽光パネル」による防除装置を "自作" する計画を進めている。昼間に赤色光(ピーク波長 約660nm)を連続照射するスリップス防除法は、二人のバラ栽培者からその実績を教えてもらった。

これらは微々たる進歩にすぎないけれど、これまでのような独学では学べなかったこと。 「面相筆」にはイタチの毛が使われていて、それゆえに「顔料の乗りが良い」ことなど知りもしなかった。問題意識を持ち続けていれば、解決策は向こうからやってくるようだ。

4. 育種のキーポイントは「テーマ」の設定

そうはいかないのが、育種の「テーマ」。 これは自分で見つけるべきもの。 私はまだそれを見つけられずにいるが、その重要性は4年間の試行錯誤の中で少しづつ分かりかけてきた。「テーマ」はあらゆる形で自由に発想していいと思うし、未だテーマが見つかっていないとしても焦る必要はない。

育種を『新しいバラを創る』と表現する育種家もいるが、「創る」という言葉は、自然に対し傲慢であるように思え、私にはその意味するところを理解できずにいる。育種は奥が深そうだから、私にはまだ見えていない、「創る」という言葉にふさわしい世界があるのだろうか。

師匠のデービッド サンダーソンさんは、①自然の生命力を信じる ②育種のテーマを持つ ③交配親の系譜を調べる

ことの重要性を指摘する。それは朧げながらもわかるような気がするけど、「育種のテーマ」とはバラの形質に関する何らかの新しい「成果」をもたらす品種改良を意味するのだろうか?・・それとも。。

私にとっては、「成果」よりもその過程の中に自分が探しているものがあるような気がしている。師匠の言葉を私なりに解釈すれば、最も大切なのは「自然への敬意」だ。
なんとも偏屈な自分を嗤うしかないが、いずれにしろ、「テーマ」は自分にこだわり抜くところに見つかる のだろう。これは作出した品種の評価(市場性など)をまったく気にする必要のない アマチュア育種家の特権

「自分にこだわり抜く」とは、己に纏わりついている不純なものを削ぎ落としつつ、「見たい」と思うものに向かって進んでいくこと。急ぐことはない。「奇跡のバラ」はその行程のどこかに咲く。

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