前のページ「びっくり仰天 HelpMeFind が示すバラの系譜」からの続きです。
バラの系譜をより詳しく知りたくて、HelpMeFind の「プレミアム会員」になりました。PayPal での支払いなので安心です。 [Advanced Search] をすぐに使い始めることができ、三倍体4品種の「子孫」を調べたところ、これまたびっくり仰天:p
三倍体品種の子孫
- ①「アイスバーグ」
- 「アイスバーグ」の子孫第一世代(子)は47品種、第二世代(孫/ERのヘリテージなど)は83品種。第三世代までに誕生したイングリッシュローズは30品種以上! デビッド C.H. オースチンはよほどアイスバークが好きだったんでしょうね。 誰からも愛されるアイスバーグ、その血統を持つ品種は11世代にわたり、総数はなんと "467品種"。 「不稔性」を示すとされる三倍体品種とは思えない数です。
- ②「ラ・フランス」
- 同じく三倍体の「ラ・フランス」'La France'(Jean-Baptiste André (fils) Guillot, Fr, 1867).は子孫第一世代(子)で41品種、第二世代(孫)は115品種。子孫は27世代にわたり17,110品種にも及びます。
- 『ラ・フランスの交配は難しく、あまり子孫を残していない』と言ったのは誰だ:p
難しいのは事実らしいけど、それでも果敢に挑戦し結果を出した多くの育種者がいたんですね。 - ③「バレリーナ」
- 日本でも盛んに栽培されている三倍体の「バレリーナ」'Ballerina' (Ann & John Bentall, Hybrid Musk, UK, 1937) の子は42品種、孫は82品種です。子孫の例として、ERの 'Francine Austin' はこの「バレリーナ」を花粉親として生まれた子で、濃いピンクのFl「アンジェラ」'Angela®'(Reimer Kordes, Germany, 1975)は、別の親から生まれた孫になります。
- ④「ノックアウト」
- 同様に「ノックアウト」'Knock Out®' (William J. Radler, Us, 1988).からは、枝変わりを含み184品種が生まれました。
「倍数性」についての参考資料
'Knock Out®' シリーズのバラは、HelpMeFind では "注釈付き" で「三倍体」とされていますが、どうも「四倍体」のようです。その詳細を Ornamental Plant Research 2023, 3:10 に掲載された Davis D. Harmon et al. の論文;
Cytogenetics, ploidy, and genome sizes of rose (Rosa spp.) cultivars and breeding lines
「バラ(Rosa spp.)栽培品種および育種系統の 細胞遺伝学、倍数性、ゲノムサイズ」
で読むことができ、「倍数性」を学ぶ参考になります。
要約 (一部をGoogle翻訳から引用 改行・傍線:そら)
バラは、世界中で生産、市場、利用されている貴重な園芸作物です。バラの遺伝は、種や雑種間の倍数性の変動、非還元配偶子、不均衡な減数分裂、異数性の発生により複雑になることがあります。現代のバラの栽培品種のほとんどは、倍数性が不明で複雑な種間雑種です。育種活動のほとんどが栽培品種の交配に焦点が当てられているにもかかわらず、ゲノムサイズの情報は一般化された種レベルでしか入手できないことがよくあります。
この研究の目的は、栽培品種と育種系統を調査して相対的なゲノムサイズと倍数性レベルを決定することでした。フローサイトメトリーを使用して、シュラブ、ハイブリッド ティー、グランディフローラ、フロリバンダ、ポリアンサ、ロサ キネンシス、ロサ ルゴサ の栽培品種と育種系統の174系統の、相対的なゲノムサイズと倍数性レベルを決定しました。
(顕微鏡を使っての)染色体カウントは、相対ゲノムサイズを倍数性レベルに較正し、以前に発表された倍数性レポートを確認するために実施されました。(中略)染色体カウントにより、これらの範囲がさらに実証され、3 つの栽培品種の以前のレポートと一致しなかった栽培品種の倍数性が確認されました。
これらの結果は、バラの多様な栽培品種と育種系統のゲノムサイズと倍数性の広範なデータベースを提供し、将来のアプリケーションのためのフローサイトメトリー法を確立/検証します。
顕微鏡を使った染色体|Wiki の観察は中学校「理科」の学習範囲ですが、その数を正確に調べるのはじつはそう簡単ではないということがこの論文の最後の部分を読むとわかります。それに加え、バラは長い交雑の歴史の中で、この要約の冒頭で指摘されているような複雑な変化をしているという話を、園芸作物の品種改良に取り組んでおられる農業試験場の研究員の方から聞いたことがあります。
Davis D. Harmon et al. の論文で訂正された倍数性は174系統の中の7系統のようですが、今後はここで利用されているフローサイトメトリー(その一例:フローサイトメトリー入門講座|コスモ・バイオ㈱ )を利用して調べるのが主流になるのでしょう。そうなれば倍数性が訂正される品種もありそうです。
この論文は昨年2023年に発表されたものですが、[Advanced Search] の ['Knock Out ® rose References] で知りました。HelpMeFind が新しい情報も取り込んでいる(データベースとして積極的に活動している)のがわかります。
まとめ
今回調べた三倍体は4品種だけですが、それでもこれだけ子孫が多ければ、もはや『三倍体のバラは不稔性』とは言えません。
しかしそれだけでは『三倍体のバラは稔性が劣る』ということまでは否定できませんね。
例えば、四倍体の「ピース」 'Peace' (Francis Meilland, Fr, 1935) は、花が魅力的で交配も容易だったからか(アイスバーグとは品種の特徴や時代背景など多くが異なるので単純な比較はできないものの)、子孫第一世代で386品種が生まれ、それは三倍体「アイスバーグ」(47品種)の8.2倍にあたり、総計では23世代で 9,377品種(同・27倍)の子孫を残しているそうです。
でも(回りくどい言い方ですみません)、時代を遡って「ラ・フランス」の場合は。。
三倍体の「ラ・フランス」から生まれた第一世代(子)は41品種、子孫は27世代にわたり17,110品種にも及ぶので、やはりこのような比較は無意味なのかもしれませんが、注目すべきは子孫第一世代(子)の数の差 です。
品種名 | 育種者 発表年 |
種子親 花粉親 |
倍数性 | 子孫第一 (子)世代 |
子孫第二 (孫)世代 |
子孫品種 総計 |
---|---|---|---|---|---|---|
HT ラ・フランス | Jean-Baptiste André (fils) Guillot (France) 1867年 |
Madame Falcot の実生 *異説あり | 三倍体 | 41 | 115 | 17,110 |
HT ピース | Francis Meilland (France) 1935年 |
George Dickson × Souvenir de Claudius Pernet Joanna Hill × Charles P. Kilham |
四倍体 | 386 | 837 | 9,377 |
Fl アイスバーグ | Reimer Kordes (Germany) 1958年 |
Robin Hood Virgo |
三倍体 | 47 | 83 | 457 |
このように比較すると、やはり 三倍体品種は稔性が劣る ようです。これをカバーするために三倍体品種、特に「ラ・フランス」の子孫=ハイブリッド ティは 中間株 をうまく利用することから生まれたのでしょう、たぶん。 それがモダンローズの圧倒的な人気を生み出した。 ‥それにつけても、数多くの育種者がこれらのバラの魅力(魔力?:p)に引き込まれていったんですね。 バラというのはじつに不思議な存在です。
結論
- バラの三倍体品種は「稔性」を示す場合がある。
- バラの「倍数性」は一般の栽培者にとって重要なものではなく、またそれを調べるのも容易ではない。
- HelpMeFindによれば、倍数性がわかるのは、カタログ化されたバラの品種数「38,000種類以上」の約10%、4,000品種に過ぎない。国内で作出された品種のほとんどは倍数性が調べられていない。
- 交配親に予定している品種の「子孫」を調べれば稔性の見当がつくが、新品種のほとんどが交配親も公開されない現状では、その方法も有効ではない。
- したがって、育種者は実際の交配結果から、その品種の交配親としての特性を調べるより他に方法はないと考えている。・・だけど、それとても簡単なことではない。その試行錯誤を次のページ「2023年 交配記録」に掲載。
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