このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2024年12月6日金曜日

バラの倍数性を HelpMeFind で調べる

前のページ「三倍体のバラは育種に使えるか?」からの続きです。このページでは、HelpMeFind の使い方を学び、そこに展開されるデータをバラの育種にどう生かすかを検討します。

「三倍体の植物は不稔性を示すため育種には使えない」とされています。'アイスバーグ' は三倍体のバラに分類されていますが、デビッド C.H. オースチンが育種した品種を含め、200品種近い子孫を残しているのだそうです。'アイスバーグ' はほんとうに三倍体なのでしょうか? あるいは、三倍体のバラは育種には使えないのでしょうか。

備考:「オールドローズと現代バラの系譜」|バラの系譜編集委員会|誠文堂新光社 の記載による。
HelpMeFind のデータでは、'アイスバーグ' の子孫は457品種に及ぶ。

HelpMeFind は、ChatGPT から教えてもらった、インターネット上のデータベースです。これを使って 'アイスバーグ' の「倍数性」の確認と、他にもどれほどの数の三倍体品種があるのかを調べ、データを育種に活用する方法を考えてみます。なお、HelpMeFind のサイトは英語ですが、Webブラウザ(Google Chrome)の翻訳機能で 日本語表示が可能です。

ChatGPTによる 機能の説明:
HelpMeFind / Roses はバラの品種情報を網羅した世界的なデータベースで、倍数性の情報も含まれています。検索機能で「三倍体(triploid)」を指定したり、色や香り、育成者、栽培難易度などでフィルターをかけて検索できるため、特定の条件に合う三倍体バラを探すこともできます。
HelpMeFind/Roses とは  HelpMeFind.com から一部引用:
インターネットのガーデニング リソースである HelpMeFind/Roses は、バラの詳細な説明、およびバラのナーセリー、庭園、協会、イベント、育種家、出版物、著者、評価などに関する情報を提供する、インターネットで最も包括的でインタラクティブな情報源です。このWebサイトにはベテランの愛好家にも初心者にも役立つ情報が満載です。

HelpMeFind は1997年に2人の人物によって設立されました。1人は熱心で情熱的なバラ園芸家、もう1人はコンピュータ ソフトウェア エンジニアです。2人は協力してバラに関するあらゆる情報とバラに関するデータベース主導のインターネットサイトを構想し、世界中の企業や個人の知識と専門技術を収集、整理、提示しました。

HelpMeFind の使い方

1. HelpMeFind.com に登録する

HelpMeFind は匿名のままで利用できますが、ニックネームとメールアドレスを登録(無料)すれば、登録済みベーシック会員として自動サインイン(ログイン情報を記憶)がオンになり、匿名ゲストには利用できない機能が利用できます。
プレミアム会員(24ドル/年)になれば、品種の詳細な系統なども閲覧できるようで、その例をページ後半で紹介します。

2. HelpMeFind / Roses を開く

HelpMeFind / Roses のトップページ:https://www.helpmefind.com/gardening/roses.php 。このような画面が開きます。
今回は「アイスバーグ」を調べます。

赤ライン(実際にはありません)の部分の Name 欄に半角英字(大文字と小文字は区別されない)で "iceberg" と入力し、その右の [SEARCH] をクリック。

「品種名」の入力について

註1:例えば "icebarg" とスペルを間違えてもヒットする場合もあるようですが、'アイスバーグ' と日本語カタカナで記入しても動作しません

日本で作出された品種、例えば「聖火」や「魅惑」、「あけぼの」は、'seika', 'miwaku', 'akebono' とローマ字表記で入力すればヒットします。でも残念ながらそれらの倍数性は表示されません。掲載するための信頼できる情報がないのでしょう。

註2:品種名の英語(ローマ字)表記は、バラ苗販売サイトの品種紹介ページを使えば品種名がコピーできるのでキーボードで入力する手間が省けます:p 私は コマツガーデンオンラインショップ を利用しました。

註3:ロサオリエンティスの 'オデュッセイア'は、日本語(カタカナ)で記入しても動作します。註1との差は、HelpMeFind が情報源として「バラの家/楽天市場」の一部の品種情報を参照し、'オデュッセイア'='Odysseia' と紐付けしていることから生じるようです。なお、'オデュッセイア' の交配親(や倍数性)は未発表なので、表示されません。

同じくロサオリエンティスの 'シェエラザード' は、カタカナではヒットしませんが、'Sheherazade' と記入すればヒットし、ロサオリエンティスのページでは「未発表」とされている交配親を見ることができます。このことは HelpMeFind が複数の情報源を持っていることを示唆します。でもこれも倍数性は表示されません。

註4:バラの品種名(商品名)が、それより前に公開され「商標登録」もされている品種名と同じになっていたり、後発なのに同名で「商標登録」がされているようなケースがいくつか存在しているのに気づきました。「同じ名前なのに別の品種」という事態を避ける手立てはないのでしょうか。

註5農水省の品種登録データベース の「登録(出願)品種名称」でもヒットします。例えば、ロサオリエンティス( 有限会社キムラ企画)の「シルクロード」は、'Silk Road' か、登録(出願)品種名称の 'KIMmangifera' でもOKです。これは「商品名」とは異なり世界中で通用する名称のようです。なので、もちろんイングリッシュローズなどでも同様に登録品種名称でヒットします。

ちなみに「シルクロード」は石井 強さんが2001年に「日本ばら会新品種国内登録」に登録(登録番号271)してありますが、農水省の品種登録データベースではヒットしません。HelpMeFind では両方がヒットしますが、HelpMeFind は「日本ばら会新品種国内登録」は参照していなくて、情報源は別であるように見受けられます。

「日本ばら会新品種国内登録」や「農水省の品種登録データベース」には、交配親の項目はありません。 新品種の登録には、倍数性はともかく交配親を表示するのが必要条件のように思えるのですが。。

2018年以降の「日本ばら会 国内登録品種一覧表」には交配親が表示されています。でも品種名の英語表記や農水省の「登録(出願)品種名称」が無いので、どこかで紐付けされない限り HelpMeFind では検索する方法がありません。

註6:HelpMeFind の詳細情報などのページからこの品種検索画面(/ Roses のトップ画面)に戻るには、画面左のメニュー PLANTS から [SEARCH / LOOKUP] をクリックします。

3. "iceberg" を含む一覧が表示される

Name 欄に記入し、その右側にある [SEARCH] をクリックすると、'Iceberg (floribunda, Kordes 1958)' や 'Burgundy Iceberg' など、"Iceberg"  という文字列を含む14品種がヒットし、一覧表示されました。'Burgundy Iceberg' は 'pink Iceberg' の枝変わり(Sport)で、'pink Iceberg' は 'Iceberg (floribunda, Kordes 1958)' の枝変わりだそうです。

4. Icebergを詳しく調べたい

一覧表示の中から、"Iceberg (floribunda, Kordes 1958) " をクリックすると、詳細ページが開きます。

ブラウザ(Google Chrome)の翻訳機能を使って 日本語表示 にしました。画面下部の赤ライン(実際にはありません)の部分に「三倍体」と表示されていますね。

Icebergの交配親;
'Robin Hood' (二倍体, Hybrid Musk, Pemberton, 1927)  ×  'Virgo'(倍数性の記述なし, Hybrid Tea, Charles Mallerin, 1947)。

ChatGPT は前のページ「3倍体のバラは育種に使えるか?」で、以下のように言っています。

三倍体植物は完全に不稔というわけではありません。一部の配偶子(花粉や卵細胞)は染色体数が不完全でありながら、二倍体や四倍体の配偶子と組み合わせることで交配が成功する場合があります。この現象を「部分稔性」 といいます。

アイスバーグは特定の条件下で有効な配偶子を形成できる可能性がある 特例的な三倍体 で、部分的稔性や優れた形質の遺伝力を持ち、特定の交配条件で成功を収めていると考えられます。育種家の技術と、バラという種が持つ独自の遺伝的柔軟性がうまく組み合わさった結果 ですね。

なお、品種の詳細ページには他にどのような情報があるのか、閲覧するのは簡単なのでご自分で。日本で作出された品種の情報は乏しく、いささか寂しい思いがします。育種者のみでなく、栽培者も情報提供すべきなんでしょうが。。
文中の「USDA ゾーン」の参考資料:USDA ゾーン「植物耐寒性ゾーンマップ」|2023 USDA Plant Hardiness Zone Map

交配が難しいとされる 'La France' も「三倍体」と表示されました。ただし、「三倍体」とされている 'Knock Out' や 'Double Knock Out' は、2023年の参考文献には異なる倍数性が示されているそうで(詳細不明)、注意が必要かも。ChatGPTは『HelpMeFind のデータは複数の専門家が検証しているので信頼できる』と言っていますが、倍数性の正確さを検証するには具体的にどうしているのでしょう? まさか実際に顕微鏡を覗いているのではないと思うけど。。:p

12月10日追記:染色体数の確認は従来の顕微鏡を使う方法(熟練した技術を要する)に代わって、最近は「フローサイトメトリー」が利用されるそうで、関連情報を12月10日の記事:「バラの三倍体は不稔性とは言えない」で紹介しています。


5. 「三倍体」の品種を一覧表示するには

交配親の倍数性、特に「三倍体」であるかどうかは交配を試みる際に気になるところです。「アイスバーグ」のほかにどのような品種が三倍体なのかを調べてみます。

まず画面上部メニューの [Advanced Search] (詳細検索)を選択し、左のリストから "Ploidy"(倍数性)をクリック。サブウインドウが開くので、"Triploid" (三倍体)を選択し、サブウインドウ下部の [CONTINUE] をクリックします。

元の画面に戻り、Ploidy(倍数性)を Triploid(三倍体)に指定してあるのが赤文字になっているので確認できますね。

Preferencesも(自動的に)Omit breeding stock となっていますが、もちろんこの omit(省略)フィルターを外すこともできます。Google翻訳はこれを「繁殖用家畜を省略する」と訳しますが:p  "breeding stock" とは何でしょう、前ページで触れた「中間株」のことでしょうか?

この画面右上にある [SEARCH] をクリックすれば、以下のような検索結果が一覧表示されます。

この一覧表示から品種名(青色太文字)をクリックすれば詳細情報ページが開きます。右の画像をクリックすれば拡大した写真を見ることもできます。写真はページを開く毎に入れ替わるようです。

一覧表示ページには1ページに24品種が掲載されており、それが32ページ(breeding stock を含めると34ページ)あるので、三倍体としてリストアップされた品種は750以上あることになります。

ただし同じ品種を 'Iceberg', 'Schneewittchen'、あるいは白のHT 'John F. Kennedy' を 'JFK', 'John Kennedy' でもリストしているので、正確な数をチェックするのは面倒、というか意味がないですね:p とにかく「三倍体品種はいっぱいある」という印象ですが、HelpMeFind は 38,000種類以上のバラをカタログ化しているそうなので、三倍体は750品種とすると、わずか2%になります。・・が。。

6. 他の倍数体の品種数を調べる

では他の倍数の品種数はどうなのか調べてみます。参考:倍数性|Wiki

三倍体の場合と同様に [Advanced Search] を選択し、左のリストから Ploidy(倍数性)をクリックして、調べたい倍数性を選択するだけの簡単な操作です。このような結果になりました。

HelpMeFind が表示する倍数性
倍数 ページ数 品種数(概算)
diploid 二倍体 52 1284
tryploid 三倍体 32 768
tetraploid 四倍体 67 1608
pentaploid 五倍体 131
hexaploid 六倍体 143
octoploid 八倍体 1品種のみ
decaploid 十倍体 2品種のみ
varies - see references (倍数性:様々) 99
unknown (倍数性:不明) 72
references vary (参考文献は様々) 98

倍数性が表示された品種の合計数はおよそ4,000なので、HelpMeFindがカタログ化したバラの品種数「38,000種類以上」の約10%です。新旧を問わず多くの品種の倍数性は調べられていない ようです。一般の栽培者にとって品種の倍数性データは利用価値がない(?)ので、当然のことなのかな。

この表では三倍体768品種は全体の約20%に相当し、二倍体よりも四倍体が多いことも合わせて、この程度の割合で存在しているということをアタマの隅に入れておきます。同時に、「バラの場合、三倍体は稔性が劣る可能性がある(?)ものの、100%の不稔性を示すのではない」ということも。

ちなみに、倍数性が表示されていない「聖火」や「魅惑」、「あけぼの」は、"varies" や "unknown" には含まれていません。倍数性が非公開の品種や、あるいは調べられていない、異数性の発生(など)により調べるのが難しい、存在が資料でのみ知られているが現存していないので調べようがない、そのような品種が万単位であるのでしょうね。

この記事は次のページ「びっくり仰天 HelpMeFind が示すバラの系譜」に続きます。

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