前のページ「バラの倍数性を HelpMeFind で調べる」からの続きです。ページが大きくなり過ぎて閲覧に不便なので分割しました。なお、ここで取り上げている「倍数性」や、「HelpMeFind」の使い方などは前のページを参照してください。
1. 「系譜」を調べる方法
育種にあたっては交配親の倍数性のチェックもさることながら、交配親の系譜が重要と聞いています。HelpMeFind の "Rose Lineage Information" は、プレミアム会員のみが閲覧できる情報ですが、そのサンプルとして FLの 'Betty Boop™' の系譜を見ることができます。
まず、左のメニューから [SEARCH / LOOKUP] をクリックして品種を検索する画面を開き、Name 欄に 'Betty Boop' と入力。下のように開いた画面上部・メニューバーの左から3つ目 [Lineage] (系統)を選択します。
2. 先祖を調べる
◉「親木」(PARENTAGE TREE)ボタンを選ぶと、このような系統図が表示されます。(日本語で表示しています)。この図では、交配親の上側が ♀︎種子親で 'プレイボーイ'、下側は ♂︎花粉親で 'ピカソ' です。両親の系統がそれぞれ4世代前まで示されていて、一般的な系統図とは逆に、画面右側ほど世代を遡ることになります。
この系統図は詳しいだけでなく、それぞれの品種ページにハイパーリンクしているので、書籍に比べると圧倒的に便利ですね。次に◉PARENTAGE BY GENERATION(世代による親子関係)のボタンを押してビックリ!
交配親の数があまりにも多いので、5世代前の途中から21世代前までは省略。
5世代前までは遺伝したゲノム量がパーセント表示されていますが、これは単純計算で、バラの遺伝はもっと複雑な構造を持っているのではないでしょうか。。
ちなみに10世代前には54種類の交配親が記録されていて、その中には三倍体品種の「ラ・フランス」(Jean-Baptiste André (fils) Guillot, Fr, 1867)も。交配が難しいとされる「ラ・フランス」も、少なくとも一度は交配親になったみたいですね。
*12月10日訂正:「ラ・フランス」の子孫を調べてみると、第一世代(子)は41品種もあり、子孫は27世代にわたって17,110品種にも及びます。「三倍体のバラは交配親にはならない」という思い込みが恥ずかしい:p
'Betty Boop' の起源は24世代前の 'Rosa multiflora'(ノイバラ)まで遡り、先祖として計206品種が記載されています。しかしこのような古い時代のことをどうやって調べたんでしょうね? 「ラ・フランス」が誕生した19世紀中葉には、すでに人工交配の手法は確立していたのだそうですが、それでも「自然交雑」による育種も多く行われていて、確かな系譜が残っていない品種も多いはず。ましてや、それ以前のことなど。。
しかし、栽培品種の主流が「ハイブリッド パーペチュアル」から「ハイブリッド ティ」に移行した前後の育種の歴史は、英国などで詳しく調べられているようですから、HelpMeFind はそのようなデータを参照しているのかも。詳しいことは分かりませんが、この系譜データはとにかく「すごい!」としか言いようがありません。
3. 子孫を調べる たぶんこれで 問題解決 ・・か?
'Betty Boop' の詳細ページには「倍数性」は記載されていません。でもこの品種からどのような子孫が産まれたのか、それが判れば交配親に使えるかどうかの目処がつくだろうと思います。
メニューバーの [Lineage] から、◉DESCENDANTS BY GENERATION(世代別の子孫)を選択。
『この植物には27個の固有の子孫が存在します』と表示され、上の画面のように子孫第1世代には11品種が掲載されています。その内訳は、枝変わり2品種、花粉親として9品種です。種子親に使われた例はありませんが、これも貴重な情報!
育種に当たっては「倍数性」そのものではなく 交配親(種子親あるいは花粉親)として子孫を残せるかどうかが重要 です。もし'Betty Boop™' を交配に使いたいなら、倍数性は不明でも、少なくとも9品種の花粉親になっているので、『不稔性かも知れない』という心配からは解放されて、試みる価値は大いにあります。種子親として使いたい場合は "チャレンジ" ですけどね:p
ちなみに、『種子親としては結果が良くないけど、花粉親としてなら優れた特性を示す」という品種は、私が栽培中の数少ない品種の中にもいくつかあります。HTの「クリスチャン・ディオール」や「ガーデンパーティ」、「コンフィダンス」など(いずれも倍数性不明)ですが、それは倍数性の問題だけではないだろうと考えています。
*12月18日追記:これら3品種の子孫を調べてみると、数は多くはありませんが「種子親」として使われている場合もありました。 例えば「クリスチャン・ディオール」の蕊(ずい)の構造は奇形とも言えるほど特殊なんですが、それでもなんらかの工夫をすることで利用できるんですね。先人の工夫と熱意に脱帽します。
まとめ
私にとってはこれで "とりあえず" 問題解決の目処が立ちました。豊富な情報を効果的に組み合わせた HelpMeFind に感謝。
この Advanced Search を使い続けるならプレミアム会員になる必要がありますが、気になるのは、日本国内で栽培されているバラを、新品種やマイナーな品種も含めて、HelpMeFind はどの程度データ化しているのか?ということ。大手ナーセリーの中には、『自社で育種した品種の交配親についての情報も知的財産である』として近年は非公開の事例も多く、育種に関心のある栽培者には楽しくない状況下で HelpMeFind のデータはいかほど実用的なのか。。
また、"とりあえず" と歯切れが悪いのは逆のケースもありえるからです。HelpMeFind のデータに子孫が記録されていない品種があったとしても、それだけでは「不稔性」とは断定できませんよね。 交配親の選択については次ページ以降で、交配の実際に沿って「倍数性」さらに「系譜」の側面から考えてみたいと準備中です。
この記事は、次のページ「バラの三倍体は不稔性とは言えない」に続きます。
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