このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2022年2月17日木曜日

鉢植えバラの 土替え−2 pHとEC

この記事は2月11日の「鉢植えバラの 土替え」の続きですが、個人的なデータなので汎用性はありません。


1 ECで肥培管理

ガーデニングの才能= "green thumb" を持っていない私は、メーターで "pH" や "EC" を計測し肥培管理の参考にしています。これはその実例で、2019年5月下旬から7月末までのデータです。

栽培中の18品種から、その品種で平均的な生育を示している1株を選んでチェックの対象にしています。
表は肥料を与えた日と肥料の種類、グラフはそれによるECの変化を表しています。この期間は二番花を咲かせず、ベーサルシュートを出すためにかなり(ヤバイほど)高いECで管理しています。5品種が特に高いECになっていて、それが平均値を引き上げていて、全株のEC平均値は 1951㎲/㎝ です。

グラフ化すれば肥料分の変化が視覚化でき、品種ごとの施肥タイミングや、肥料の種類、量の判断材料にしています。

数年間この方法を続けていますが、バラの生育は数値でコントロールできるほど単純なものではありませんね。わからないことも多く、まだ確立したものにはなっていません。競技バラの栽培は終わりましたが、この管理方法まで止めてしまってはあまりにも中途半端なので、もう少し続けてみようと新しいメーターを購入しました。

左が pHメーター、右は ECメーターですが、同じデザインで紛らわしいからシールを貼って区別しています。
小瓶には「校正液」が入っています。

pHの管理も重要

ECだけでなくpHの管理も重要です。例えば、pH7.0前後の水道水やそれ以上のpHを示す水で灌水を続けると、土壌がアルカリに傾きFe欠乏状態になってクロロシスが発生しやすくなります。

私は農業用水を使用していますが、植物は硝酸態窒素を好んで吸収するので、その結果「水素イオン」の濃度が下がり、用水はアルカリ性になるのだそうです。使っている農業用水がpH8前後であることに気付かなかった時期は、クロロシスに悩まされました。

用水のpHを下げる私の方法は、用水の計測値が6.0〜6.5になるように「2%クエン酸水溶液」を加えています。これでクロロシスの問題は解決しました。なので私にはpHメーターは必需品です。*私が使っているのは「土壌酸度計」ではありません。

2 計測

  • 対象は鉢植えなので、灌水後に鉢底から流れ出る排水の pH(水素イオン濃度指数)と EC(電気伝導度)を計測し、それによって培養土の酸度や含まれている肥料分を "間接的に" 把握する。
  • この簡易なメーターでは、EC はトータルで表示され、例えば栽培に大きな影響を及ぼす硝酸態窒素(硝酸イオン)、あるいはリン酸イオンだけなど、個別のチェックはできない。
  • トータルなECは、バラにとって有効な肥料分を反映しているとは限らない。例えば、堆肥や腐葉土は高いEC値を出す。ECで肥培管理をするなら、培土はロックウールのようなニュートラルな資材が好ましい。
  • 圃場では使用する器具をその都度洗浄するなどの丁寧な計測は難しく、数値の正確性は乏しい。でもこれは化学実験的なものではないから、継続的に多数回チェックすることで、全体的な傾向がわかればOK。
  • 実際には、幾つかの選択した鉢を週一回チェックするのがやっと。大事なのは計測した数値ではなく、それと生育状態との関係を把握することだと思っている。

3 計測結果 2月16日

鉢植え培養土 2022   pH  &  EC
鉢番号品種名土替えpHEC ㎲/㎝備考
校正中性リン酸塩pH標準液6.8OK
水道水7.6158公共水道
農業用水7.9179
用水6.5175+クエン酸2%水溶液
174手児奈YES6.5968新土95%
接木苗グランブルー新土6.61995N培土 +マグァンプK
接木苗ガーデンパーティ新土6.81136N培土 +マグァンプK
接木苗あけぼの新土7.62150
接木苗春芳新土7.71613
42メルヘンケーネギンNO7.21434(stepmom)
124メルヘンケーネギンNO7.3840(stepmom)
129エレガント レディYES7.62280新土40%
219エレガント レディYES7.81454新土60%
145ホット神崎NO6.93380
233ホット神崎NO7.8930
106あけぼのYES7.61584新土40%
107あけぼのYES7.22130新土40%
244魅惑NO7.7598
245魅惑YES7.42320新土40%
62ロイヤルハイネスNO7.81014
303ロイヤルハイネスYES7.41808新土70%
204イーハトーブの風YES7.71871新土50%
211イーハトーブの風YES7.42750新土50%
351フロージン '82YES7.72140新土60%
  • 例えば「新土40%」とは、根鉢を完全には崩さず、鉢土の4割程度を新しい土に入れ替えたということ。
  • メーターには「自動温度補正機能」がなく、この表の数値は計測時の温度によるズレを補正していない。
  • 数値は、チェックするサンプルの取り方次第でかなり違いが出る。

手順と、結果の考察  ECの単位は㎲/㎝

  1. pHメーターを「pH6.86 中性リン酸塩pH標準液」で校正。
  2. 農業用水はいつも中性よりも高いpH値を示す。正確な理由はわからない。ECは毎回ほぼ同じ数値になる。
  3. pH7.9の農業用水8ℓに「クエン酸2%水溶液」40㎖を加えて pH6.5に下げる。その結果、ECも僅かに下がってしまったが、これは毎回そうなる。

  4. 鉢番号174の「手児奈」は2月11日に土替えをしたもの。全部の土は落とせなかったが、この土替えによってpH6.5 EC=968 と、予想していた結果になった。これを「標準」とする。

  5. 接木苗の「グランブルー」と「ガーデンパーティ」は、バラ友・Nさんの株。培養土もNさんが作ったもので、「マグァンプK」が少し加えてあるそうだ。土壌酸度は適正で、さすがに上手に作ってある。
  6. 同じく接木苗の「あけぼの」と「春芳」は私の株。その培土の組成は、2021年12月23日:「台木の鉢上げ」で紹介している。「あけぼの」がEC=2130と高い数値になっているが、その理由はわからない。このような場合、この数値だけでなく、次回の結果も併せて判断する。

  7. 鉢番号42と124の「メルヘンケーネギン」は土替えをしていない。同じ品種、同じような肥培管理でも、鉢によってこの程度の差が出るのはそれほど珍しいことではない。
  8. 鉢番号129の「エレガント レディ」は土替えをしたが、根鉢を完全に解いてはいなくて古土も残っており、それに含まれている肥料分の影響が出ていると思われる。

  9. 鉢番号145と233の「ホット神崎」は差が大きすぎる。これは2鉢ともに土替えをしていないが、「古土」ならEC=1000前後が妥当な数値だと思うので、145のEC=3380は異常な数値。pH6.9と7.8も差が大きすぎる。再計測しても同様なら何が原因か調べる必要があるだろう。

  10. 107「あけぼの」EC=2130、245「魅惑」EC=2320、211「イーハトーブの風」EC=2750、351「フロージン '82」EC=22140 などと高いEC値になっている理由はわからない。
    244「魅惑」や62「ロイヤルハイネス」の古土が、さほど肥料分を残しているわけでもないので、古土の影響とは言えない。
    これらはすべて新しい培土なので、そこに含まれている牛糞堆肥やバーク堆肥の影響だろうと思うが、でもそれなら、新土95%の #174「手児奈」の EC=968 の説明がつかない。

    つまり、これは私のこの管理方法が その程度に曖昧なものだ ということを如実に示している(爆)
    この曖昧さを回避するには、正確なメーターとロックウール培地が必要なんだろう。

高pHの原因

pH7.9の農業用水にクエン酸2%水溶液を 40㎖/8ℓ 加えることでpH6.5に調整して灌水に使っている。その排水がpH7前後を示すのは、土壌がかなりアルカリ性に傾いているのが理由と思われる。

  1. 昨年10月下旬の「ばら展」以降は、pH8前後の農業用水を調整しないままで灌水していた。
  2. 秋の花が開花する前に肥料を切ったが、培養土に含まれていた「硝酸態窒素」がより多く吸収されて、その結果「水素イオン濃度」が下がって、アルカリ性に傾いた。
関連情報
  • ハウスは「雨除け栽培」なので、酸性雨の影響は受けない。雨水のpHを実測すると、そのときにより多少の違いはあるが、pH6前後、たまには酸性雨(pH5.6以下)に近いこともある。
  • 雨除け栽培で、水道水のみで灌水する場合は注意が必要。水道水のpH7はバラには最適ではない。
  • クエン酸2%水溶液を作るのは簡単だし清掃用のクエン酸を使えば費用も安くてすむが、それが面倒なら食酢(安価な"穀物酢"が良い)を、水道水8ℓに20㎖ほど加えれば(400倍)OK。
  • 水のpHを計測するメーターは、Amazonなどのネット通販で安価なものは¥2000以下で購入できる。ECメーターも同様。ただし「耐久性」は期待できないようだ。

4 今後の肥培管理

  • 剪定をするこの時期に、まず全鉢を計測し、それに基づいて個別に肥培管理する。
  • ECが1200㎲/㎝ を切るまでは施肥しない。
  • EC1200㎲/㎝以下の接木苗には、新芽の動きを見ながら、薄い液肥を与え始める
  • pHを急に下げる必要はないので、灌水にはクエン酸2%水溶液を加えてpH6.0~6.5に調整した水を使う。

 EC 1200㎲/㎝

バラのロックウール溶液耕の肥料=愛知園研バラ処方(夏用)の三要素合計は414.9ppm、微量要素も加えた合計は613.95ppmです。ppmと㎲/㎝は意味が違うので換算はできませんが、栽培上の経験から600ppmは1200㎲/㎝相当なんだそうです。1200㎲/㎝はこれを意識したものですが、EC(電気伝導率)は肥料分のみを計測するものではないし、しかも私の場合は「廃液」を計測しているので、数値と生育の具合を合わせて自分なりのスケールを作る必要があります。面倒だけど、漫然と肥料をやる栽培よりおもしろいと思っています。


鉢植えは灌水するたびに肥料分が流亡しますから、肥培管理は地植えよりも難しいと思います。計測した数値に振り回されることなく、バラの状態を見るだけで肥培管理ができる、そのような "green thumb" を持った栽培者になりたいというのが夢です。

0 件のコメント: