このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2021年12月23日木曜日

台木の鉢上げ

台木の保管

1月に予定している接木のために台木を鉢上げしました。

バラ苗生産者はこの時期に台木を掘り上げますが(機械掘り)、掘り上げた台木は接木作業の当日まで農業用冷蔵庫(または冷暗所)に保管します。私はこれまで購入した台木は;

  1. 台木の根を濡らした状態でビニール袋に包み冷暗所に保管
  2. 根を土に埋めておく(一時的に植え戻す)
  3. 根をバケツの水に浸しておく

などの方法で対処しました。
「バケツの水に根を浸しておく」というのはありがちな方法ですが、これはその期間が長いほど台木が痛むような気がします。私が見た範囲では、バラ苗生産者はそんなことはせず、根が乾いた状態を気にすることなく、発泡スチロールの箱に入れて冷暗所に保管されていました。

接木のベスト時期

バラ苗生産者は12月下旬(今の時期)から2月上旬にかけて接木作業をします。これは数万本という「量」に対応するためで、せいぜい100本程度しか接がない私(福岡市近郊に在住)にとって接木のベストの時期は「厳寒期」つまり1月下旬と考えています。まだ1ヶ月先です。この間に寒さに遭って穂木がより充実します。接木で重要なことの一つは「穂木の充実度」ですから、この1ヶ月は大事な期間で、慌てて接木する必要はありません。

後半で触れる福島先生の場合、接木時期は1月中旬~2月下旬です。「元祖 教科書のようには接がないバラの接ぎ木」で紹介している接木の作業日は2月27日です。

ただしER(イングリッシュローズ)は別で、私の環境では2月では遅過ぎてもう芽がかなり動いています。

接木より先に鉢上げする理由

これまでは「接木した台木をポットに植え込む」という手順だったのですが、今年の1月のシーズンに「ポット植えの台木にデービッド接ぎをする」という方法を試したところ、これが予想外にやり易く、安全で、結果も悪くないことを見つけました。このときは福岡バラ会の会員2名と作業したのですが、これは3名の一致した感想です。

台木

今年の私の実生台木は手入れが悪くて細いものが多く、HTを接げる太さの台木は30本程度、挿木台木は残り数が少ないのでどうしたものかと思っていたのですが、バラ仲間のNさんのお世話で立派な台木を20本入手することができました。

これが入手した台木。「胴」が長く太くHT品種でも接ぎやすそう。太根が長いので6号ロングスリット鉢を使用。これの容量は3.5L。例年は5号ロングスリット鉢(容量1.9L)を使っています。

「台木の根はできるだけ切らない」というのが私の方法ですが、長くて硬い太根2本の先端を鉢に合わせてカット。胴の部分にある小さな根も切除。3箇所の赤ラインがカット位置。長くても細い根は切りません。「根を切るとそこから新根が出るので、切った方が良い」という意見があるのは承知していますが。

『根を切って小さなポットに植えるのは、用土や運送のコストを考えたバラ苗生産者の都合に過ぎない』という意見に、私は同感です。

みなさんはどうされますか? 私の周りの栽培者の多くは、4号ロングポットの高さに合わせて根を切るようです。もちろん、それでもOKなんですが。

話が脱線しますが、福岡県久留米市田主丸は「田主丸型接木小刀」の名称由来の地で、近郊はバラ苗生産が盛んです。そこの最大手の代表者(もはやバラ苗生産農家レベルではない)から聞いた話ですが、量販店向け新苗(販売価格1000円前後)の出荷価格は1株250円なんだそうです。この価格では、用土や運送のコストを考えたら根を切って小さなポットに植えざるを得ませんよね。それでも売れる新苗を作る技術には一目置きますが、私がそれを真似して植える理由はありません。

鉢上げ用土

台木鉢上げ用土 2022
資材 量(20鉢分)
単位:リットル
容量比 %
赤玉土・中 14 11
赤玉土・小 28 22
鹿沼土 14 11
軽石・小 10 8
ゼオライト 2 1.5
牡蠣殻石灰 少々 -
牛糞堆肥 16 13
バーク堆肥2419
籾殻燻炭108
ピートモス108

赤玉土などの無機物とバーク堆肥などの有機物がほぼ50%の割合です。

6号ロングスリット鉢の容量は3.5Lなので、20鉢に必要な用土量は70Lですが、バーク堆肥などの容量が目減りしているのか、あるいは突き固めがキツすぎたのか、実際には130L必要でした。

このバーク堆肥は1年前に購入したもの。この間に発酵が進み過ぎていました。これはよろしくないです。

写真上・右は7号菊鉢に植え込んだNさんの台木で、30鉢あります。これに接いだHTを、福岡バラ会のばら展の展示花(コンテストの出品花ではない)にするのだとか。これまでそれを提供されていたみなさんにこれ以上負担をかけてはいけないとのご配慮からで、Nさんのその心意気や佳し、俯いて手元に集中する接木作業が健康上の理由で難しいNさんに代わって、及ばずながら私が接木作業をすることになりました。

Nさんの用土はご自身のお手製で、私のものとは若干異なります。私のは今年は無肥料ですが、Nさんのには「マグァンプK」が少し入れてあるそうです。5号→8号→10号という2段回鉢増しではなく、6月になったら10号鉢に鉢増しを予定。鉢増し時は根鉢を壊さないから、この用土はそのまま使うことになるので、仮植え用土ではなく「本気モード」の配合です。

私の施肥は用土に混和ではなく、ペレットの肥料をティバッグに詰めて表土に浅く埋める「ティバッグ式」を試みます。施肥量の把握を少しでも確かにしたいからなんですが、さて。

植え込み

植え込みは「台木の接木する面と穂木の角度」を考慮しており、必ずしも鉢の真ん中に真っ直ぐではありません。

芽接ぎをしていて気付いたのですが、クラウン(台木の枝が何本か出ている部分)直下に接ぐ場合、その位置はどこでも良いわけではなさそうです。例えば、下図は剪定後にまれに起きる「枯れ込み」を示した概念図ですが、枯れ込みは必ず枝(芽)の反対側に起きます。これには2つの理由があります。

幹から枝先に向かう水分の流れ。枯れ込みが発生するのは、この部分の水分の流れが減るか、ほぼ止まるからでしょう。

もう一つの重要な理由は、植物ホルモン・オーキシンの流れです。オーキシンは成長を促す働きと同時に、傷を癒す働きをするホルモンでもあり、枝先や新芽の部分で生合成され、下部に向かって極性移動(シンプラスト経路で、師管ではない)します。枯れ込む部分はこのオーキシンが届きにくい位置にあるので、雑菌が繁殖しやすくなるのだろうと思います。

オーキシンは、台木と穂木を癒合するカルスの生成に必要不可欠で、発芽にも植物ホルモン・サイトカイニン(根で生合成され、水と共に道管流に乗って地上部に移動する)と合わせて重要な働きをします。このことから、芽接ぎや切接ぎをする場合、AかBのどちら側に接ぐのがベターなのかが分かります。

植え込みは、A側の面がやや上を向くように、そしてデービッド接ぎの穂木ができるだけ垂直になり、そこから出た新梢がポットの中央にくるように、意図的に位置と角度をずらしています。(・・そんなにうまくいくかな? 笑)

接木テープの巻き上げやその後の潅水のやりやすさのために、もちろん「浅植え」ですが、師匠のデービッドさんはこれよりもっと浅植えです。

12/26 追記 ポット台木の植え込みの深さ

25日にNさんの台木15本に接木をしました。私としては「浅植え」にしたつもりだったのですが、作業の結果から、もっと浅植えにした方がよかったと思いました。以下の2枚の写真は、デービッドさんが台木を植え込む深さを説明しているものです。右手の指で挟んだ部分が表土で、この程度に根が見えるほどの浅植えが作業がやりやすいと思います。

私が植え込んだものがデービッドさんより深くなった理由は、根の上部に細根が多かったからで、植え込み後に土が少し沈むだろうし、それでも深かったら表土を減らせばいいだろうと安易に考えたんですが、しっかり突き固め植えしたので水やりしても土が沈みませんでした。7号鉢に上の写真のような深さで植えると、田主丸型接木ナイフの柄がポットの縁に当たって接木作業がやりづらいことまで気が回りませんでした : p それは表土を減らしても解決しませんね。


12/29 追記 今シーズン最初のデービッド接ぎ

これが25日に接いだNさんのバラ15本のうちの2本です。台木の枝を残す「デービッド接ぎ」です。

写真で見直すと問題になるような深植えでもありませんね。私は浅植えが好きじゃないのでこの程度でOKです。ただし、水やりの際にウオータースペースに水が溜まるようなやり方はしません。

接いだ後に穂木ができるだけ垂直になるよう、あらかじめ台木を斜めに植え込んでいますが、ポットの中央にほぼ真っ直ぐに立っています。そんなこと重要な問題じゃないんですけどね : p

これも「デービッド接ぎ」で、こちらは枝を残さないバージョンです。

接木テープで見えにくいですが、穂木の基部の切り方が一般的な「切接ぎ」とは異なります。穂木だけ見ればこれは福島先生のやり方(基部を楔形にする)に近似しています。

この方法のメリットは、枝を残すバージョンに比べて、接木テープが巻きやすいこと。

さて、この2本の「武州」は台木も穂木もほぼ同じ条件ですが、枝を残すのと切除するのでは、どちらが良い生育を示すでしょう、みなさんはどう思われますか?

植え込み後は、充分な水やりをしてから「リキダス」1000倍液を与えました。台木の掘り上げから24時間以内に植え込んだので、活着は早いだろうと思います。「芽接ぎ」ほどではないにしろ、接いだ部分に必要な水分が供給されるのは、とても重要なこと。そのためには根の活性が高い方が良いと思うけど、でも、細根が干からびた台木に、これまた乾燥してシワが見えるような穂木で上手に接ぐ人もいるから、一概には言えないかも。ま、他の人はともあれ、私は私なりに。

接木の方法

これまでに、接木職人さんやバラ苗生産農家など幾つかの接木方法を見せてもらったことがありますが、その方法は千差万別。上手な人の手にかかれば、どんな方法でも立派な苗ができます。最近拝見した中で特に優れていると思ったのは宇部バラ会の岡原さん。新苗が、秋には勢いのあるシュートが何本も出ている立派な株になっていました。そうなんです、接木の方法はそれぞれがやりやすいものでいい。大事なのは「それがどう育つか、どんな花を咲かせるか」なんだろうと思います。

私の今シーズンの方法は、たぶん「デービッド接ぎ」と「バラの接木・福島流」の折衷的なものなるでしょう。

バラの接木・福島流

2017年3月5日の記事「元祖 教科書のようには接がないバラの接ぎ木」にも書きましたが、私の師匠・デービッド サンダーソンさんと福島康宏先生は一緒にバラ苗の生産をされていた時期があり、接木の方法も共通する部分が多くあります。このページに福島先生の接木方法を紹介しています。

ちなみに、福島先生の講義録「新苗を植えて秋には一人前」が、福岡バラ会のアーカイブスにあり、「2 目的とする品種養成(新苗作り)」に接木に関する説明があります。

私は福島先生からも直伝で指導を受けたことがあるのですが、生意気にも、先生の猿真似はしません。これは自分の方法に自信があるという意味ではなく、全く逆で「これという納得のいく方法を未だ見出せていない」からです。

でも今回はテストではなくNさんのために接ぐ。責任があるのでちょっと緊張しています(笑)が、台木や穂木の状態に合わせて方法を微妙に変えるかも。

『100%の成功率ではないからね』と、既に防御線を引いています(笑笑)。

接木の予定数

Nさんは既に30株の接木予定リストができているそうで、4日後の26日には、既に穂木が切ってある品種10株程度を接ぐ予定。穂木の冷蔵保存もできるけど、接木の準備ができているなら、冷蔵庫に入れておくより早く接いだほうがいいと私は思っています。

  • Nさん用 7号菊鉢(写真奥側) 30株
  • Nさんと同じ台木 6号ロングスリット鉢(写真中間部分) 20株 主にHT
  • 実生台木 5号ロングスリット鉢(写真手前側の枝葉が残っているもの) 30株 ER、Sなど
  • 挿木台木 5号ロングスリット鉢(この写真には写っていない)20株 主にHT

私のは70株程度になりそう。Nさんのと合わせて100株。そのほかに、廃棄予定のHTのステムを台木に見立てた「パラサイト接木」も試してみたいが、その場合はもう少し数が増える。接木作業は1月中旬にするが、今のところ接木予定リストも未完成で、気分任せの出たとこ勝負?

接いだ鉢はこの台に並べますが、これには「ビニール・トンネル」を設置する予定。夜間はその中にキャンドルを灯します。闇夜の畑のハウスの中に小さな光。幻想的できれいだろうな。施肥は「ティバッグ式」の置き肥を考えているので、キャンドルやティバッグを注文しなければ。いろいろ忙しくなりそうだ。嬉しい。


0 件のコメント: