このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2022年12月21日水曜日

バラのスタンダード仕立てを作る ③ 接木方法について

年明け1月に予定している接木は「芽接ぎ」ではなく「デービッド接ぎ」です。これは今年の接木実績でデービッド接ぎが芽接ぎよりもはるかに良い結果が出たからです。今回は「できるだけ簡単にスタンダード仕立てを作る」という発想は捨てて、少しでも成功率の高い方法に変更します。

スタンダード仕立ての接木 「デービッド接ぎ」か「芽接ぎ」か? 比較ー1

厳寒期の芽接ぎ(F芽接ぎ=貼り芽接ぎ)は、時期の問題なのか私が下手だからなのか、デービッド接ぎと比較すると成功率もその後の生育もかなり見劣りしました。以下はその一例で、ERの "ウォラトン・オールド・ホール" を "接ぎ挿し"(デービッド接ぎやF芽接ぎをしたノイバラの枝を挿木)しています。この詳細は3月27日の記事:「バラの 芽接ぎ挿し 50日後」に掲載しています。これが2月8日に "接ぎ挿し" してから50日後の生育状態です。

内容:左から
  1. デービッド接ぎ(枝無し) で接いで 挿木
  2. デービッド接ぎ(枝残し) で接いで 挿木  台木上部のカット3月15日

  3. F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木  台木上部のカット3月22日
  4. 同上

  5. F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木  台木上部のカット3月15日
  6. 同上
 2 デービッド接ぎ(枝残し) で接いで 挿木
台木上部のカット3月15日
 6 F芽接ぎ(貼り芽接ぎ)で接いで 挿木
台木上部のカット3月15日 *基部の発根無し

台木や接ぎ穂、栽培環境も同じ条件 で比較すると、デービッド接ぎが芽接ぎよりもはるかに良い結果を示しています。
ただしこれは一例にすぎず、接ぎ穂の芽の状態を考慮して接ぐと、以下のように別の結果を示します。

「デービッド接ぎ」と「芽接ぎ」 比較ー2

以下の3カットは、2022年2月8日に試みた "Stepmom 接木" の1ヶ月後の新芽の状態です。

 デービッド接ぎ 枝残し(上部カット済み)
stepmom =「メルヘンケーニギン」
 デービッド接ぎ 枝無し
stepmom =「クリスチャン・ディオール」
 F芽接ぎ(上部カット済み)
stepmom =「メルヘンケーニギン」

この事例ではいずれもHTの「あけぼの」を接いでいますが、「比較ー1」よりも充実した芽を使用しているので、F芽接ぎの生育はデービッド接ぎと比較しても何ら遜色はありません。

スタンダード仕立てには、デービッド接ぎよりも芽接ぎの方が似合う(見た目が良い)と思うけど、1月下旬〜2月上旬の厳寒期の芽接ぎには「接ぎ穂の芽の充実度」がポイントのようです。大雑把に言えば、まだ芽が小さい1月上旬よりも、芽が膨らみ始めた2月上旬が芽接ぎの好機のように思えます。
デービッド接ぎは、接木に適した芽の状態の幅が大きく、あまり時期に拘らなくても良さそうです。

番外:Stepmom 接木 その結果

Stepmom(ステップマム)接木の結果をレポートしていなかったので、ここで簡単に。

  • どの方法でも大差はなく、順調に生育し春花が咲きました。いずれもまがいもなく「あけぼの」で、内心ちょっとだけ期待していた "ヘンな花" は咲きませんでした:p 接ぎ穂の遺伝子が変わるのではないから当然の結果かもしれませんが、あまりにも平凡に「あけぼの」だったので、写真も撮りませんでした。

  • しかしひとつだけ驚いたことがあります。それは、ステップマムの「メルヘンケーニギン」や「クリスチャン・ディオール」のあまりベーサルシュートが出ない古株から、何本も勢いの良いベーサルシュートが出たこと。あたかも 接がれた異品種(パラサイト=寄生生物)に拒否反応を示し、それに対抗するために積極的にベーサルシュートを出した かのように思えました。パラサイトによって何らかの生理反応が惹起されたことは間違いなさそうです。

    初心者の頃に接木の指導をしてもらったバラ苗生産者の話によれば、台木と穂木には "相性" があるんだそうです。ノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)は日本の風土にあった優れた台木ですが、すべての品種をノイバラ台木に接ぐのではないんだとか。バラのプロパゲーション(propagation/増殖)手法は一応確立されているとはいえ、私たちは植物のことをすべて知っているわけではなく、まだまだ奥が深そうです。

  • 平凡な「あけぼの」の枝は切り捨て、新しく出たベーサルシュート(Stepmomの品種)を咲かせました。その結果がこれ「2022年 秋のバラ 品種別−3 メルヘンケーネギン」です。
    これまで "10花" を組むほどに同一品種が咲き揃うことがなかったけど、これは嬉しい驚きでした。

  • ノイバラ台木そのものではなく、ノイバラ台木に接いだ栽培品種を台木にして、それに異品種や同一品種を接木するという方法は、(私の場合は異品種だけですが、それを "ステップマム接木" と呼んでいます) それはずっと以前から意欲的なバラ栽培者によって試みられていることのようです。

    そのお一人が 10月25日「秋晴れ 百壷百花 バラ展」で紹介した 唐杉純夫 さん。
    「デービッド接ぎ」の基本は古くから日本で行われている「腹接ぎ」と同じですが、唐杉さんのある年の主だった品種の腹接ぎ数は ナント 500!「あけぼの」だけでも175も接いであります。たぶん、これは栽培株数を増やすための接木ではなく、唐杉さんならではの目的があるのだろうと思います。

    年明けには唐杉さんを訪問し、接木を見学させていただくことになっているので、とても楽しみです。

デービッド接ぎ 枝を残すか否か 比較ー3

スタンダード仕立てではなく普通の接木の今年の結果は、デービッド接ぎの「枝残しバージョン」よりも、接いだ部分より上の枝葉を接木直後に切り捨てる「枝なしバージョン」がより早い生育を示しました。デービッド接ぎを始めた初期の頃は露地植えしていたのですが、ハウス内のポット植えで管理するようになった今は「枝なしバージョン」が良さそうです。デービッドさんも、現在の方法では台木の枝葉を残していません。

その実例を 2022年2月24日の「デービッド接ぎの経過 ー3 2ヶ月後 台木のカット」に記録していますが、それらの写真を再掲します。

枝を残さないバージョン

枝を残すバージョン

接木2ヶ月後の時点では、このように「枝を残さないバージョン」の生育が優れています。しかしスタンダード仕立てでは状況が異なります。接木する部分が150㎝の高さになると、根圧だけで長尺台木を水分が "転流" するのか。台木と接ぎ穂(芽)を癒合させるオーキシンの生合成やその極性移動も併せて考慮すると、どちらが良いのでしょう?

スタンダード仕立ての過去の失敗事例を振り返ると、それを成功させるには、台木上部に枝葉があり、そこで "蒸散" していることが重要と思われます。まったく葉が無い長尺台木でも成功したことはありますが、より確実に接ぐにはやはり「枝を残すバージョン」が良さそうです。

これは「芽接ぎ」をする場合も同様、いや、より重要ではないかと考えています。

註:この生育差はすぐに気づかない程度になります。接木2ヶ月後の芽の生育の早さを云々するのは意味のないことかも。
それよりも、しっかりしたベーサルシュートが2本は出るような株に育てることが重要なのは云うまでもありませんね。

芽接ぎの 芽の大きさ

厳寒期の芽接ぎには、デービッド接ぎに使う芽よりも充実して赤くぷっくり膨らんだ芽を使う必要がありそうです。下はその例で、このような芽を使うとデービッド接ぎと遜色のない生育を示しました。逆の言い方をすれば、小さな芽を使ったF芽接ぎは、「比較ー1」のように生育が好ましくありませんでした。

 2月上旬 F芽接ぎ 品種は "手児奈"
 左の芽接ぎから2ヶ月後

条件が異なるので単純な比較はできませんが、ここに掲載した接木2ヶ月後の事例ではこの芽接ぎ株が最も良い生育を示しています。うどんこ病の初期症状が出ているけど:p
この秋に咲いた "手児奈" は「2022年 秋のバラ 品種別−5 手児奈」で紹介していますが、どの花がこの株のものか、古株の花とまったく見分けがつきません。

方法についての結論

スタンダード仕立ての接木は、今は「デービッド接ぎ 枝残しバージョン」でと考えていますが、最終的には 接木時点での芽の状態で判断する ことになるでしょう。


穂木の準備

接木1ヶ月前になったら穂木の準備をします。スタンダード仕立てにする品種は "好み" で良く、重要なのは穂木の直径と充実程度。私の今年の台木は直径10㎜程度なので、穂木にはひとまわり細い直径7〜8㎜の枝を選びます。充実程度は、葉色やその大きさ、枝の表皮の色、トゲの外れ具合で判断します。充実した部位のトゲはポロッと外れるが、未熟だと表皮とくっついて外れ難いので、見た目での判断が難しい場合には一応の目安になります。また、接ぎ穂を切る剪定バサミの感触でもわかりますね。充実した枝は切った瞬間に『パチン』と音がします(これは、デービッドさんの受け売り:p)

接ぐ品種は何でもいいのですが、個人的には "セルフ・クリーニング性" がある品種(咲き終えると手を入れなくても花弁がきれいに落ちる)が好きです。咲き終えた花弁が汚いのは見苦しいし、花弁が自然に散って花殻摘みを急がなくてもいいのは、高く仕立てる場合には助かります。また、秋の開花が返り咲き程度なら、黄葉がきれいな品種がいいですよね。

『接ぐ品種は何でもいい』と言っても、スタンダード仕立てに直立性の品種を接ぐ人はいないでしょうね。私は穂木を取り違えて、直立性のER「クイーン オブ スウェーデン」を接いでしまったことがあります:p 
福岡県・粕屋町の「駕与丁公園 バラ園」には、広島バラ園が仕立てたスタンダード株が多くあるのですが、ステムの伸びが悪く花数が少ない品種はやや見劣りするようです。

この時期に施肥すべきかどうかは一概には言えません。一般的には、施肥するなら『チッソ分は控えめで、リン酸とカリ成分が多い肥料を使う』ということになっていますが、どうなんでしょう? 秋に通常の肥培管理をしているなら、この時期に施肥してもその効果(や害)はさほど実感できないと思います。

秋の2番花を咲かせるかどうかも、どっちでもよくて、もし気になるなら摘蕾でしょうが、開花した段を穂木にするのではなくその下の段を使うので、開花は穂木の充実度にはあまり関係ないと思っています。要は、短期間に急に何かしてもさほどの効果はなく、自然に任せる(ほっとけ)がベスト・・かな?:p

また、この時期に石灰硫黄合剤を散布する栽培者もあると思いますが、接木をするときに穂木を拭うので、薬剤を散布しても差し支えありません。

ウィーピング系品種

まず、つるバラの12月剪定と同様に先端30㎝程度を切り詰めておきます。先端に近い部分はすでに小枝になっているので、穂木に使うのは元枝に近い部分ですが、そこを緩やかに曲げて穂木に適した太さの部分が頂点になるように誘引します。もしその部分の芽が小さければ、日当たりの良い上側の葉柄を付け根からもぎ取れば、その刺激によって芽が動き始めます。

この写真は同じ枝の隣り合わせの2芽です。右は、葉柄が自然に落ちて、既に接木できるほどに芽が充実しています。芽の基部が大きく厚いので、芽接ぎは難しそう。
左は枝先側で、黄葉が残っていた葉柄をもぎ取った直後。この芽は横向きゆえに陽当たりが半分で、まだ未熟です。

1月下旬の接木では品種によっては芽が動きすぎているかもしれないので、芽の状態の変化に注意し、上右のように芽が充実しているなら、それ以上大きくならないように、切り出して 冷蔵保存(下記)します。

シュラブ系品種

まず穂木を太さや充実度で選抜します。太さは台木よりもやや細いのが接ぎやすく、秋の開花枝の下の段の場合が多い。予備剪定で迷わず切り捨てるような細く弱い枝、病虫害のある枝は不適です。

枝の充実度は太さの他に樹肌の色で判断。品種にもよりますが赤花系では陽が当たった側が赤みを帯びた枝が好ましく、瑞々しい緑色の樹皮なら若すぎます。ただし白花系では充実しても表皮は赤くなりません。

その段の中程に、やや節間が詰まった "sweet point"(スウィートポイント)があります。それがわからない品種もあるけど、要は段の中程の陽が当たった側(表皮が赤みを帯びている)の芽がより充実しているようです。もちろんバラ苗生産農家はどんな芽でも使いますが。三枚葉の芽は(プロでも)使いません。

候補の芽の状態を見て、接木1ヶ月前の今の状態で芽が小さい場合は、その位置にある葉柄をもぎ取ります。逆に(私が住んでいる九州・福岡では)特にイングリッシュローズの大部分の品種は芽の動きが他の品種よりも早いので注意。

必要な芽の数

スタンダード仕立ての場合、接木する芽数は "2芽" にするのが一般的でしょう。販売されているものは「芽接ぎ」ですが、3芽接いであるものを見たことがありません。私も2芽接ぎますが、1芽は "保険" 的な意味合いです:p  1芽だけでもすぐに分枝し、やがてシュートも出るので1芽でも問題ないと思います。

接ぎ穂から出る最初の枝は やがて切り捨てる

接ぎ穂から出る最初の芽は、ベーサルシュートを出すために必要な糖などを供給する "光合成枝" になります。これはどの接木方法でも、あるいは実生苗でも同じです。自分自身はあまり大きく伸びようとはせずにせっせと養分を供給してベーサルシュートの発生を促す健気な働きをするのですが、この枝はベーサルシュートが出揃った秋(遅くとも冬の剪定時)までには切り捨てます。シュートの出が悪い場合や、逆に生育旺盛なイングリッシュローズの場合は残すこともありますが、接ぎ穂から出た最初の芽をそのまま翌年以降も主枝として育てるのではありません。これは誤解しやすいので注意。

ホームセンターなどで売られている大苗の中には、枝数を多く見せるためにこの枝を残したものもあります。しかしその後の成長が期待できる良苗は、枝数の多い株ではなく、がっしりしたベーサルシュートが3本あるものですね。

このように、接ぎ穂の芽は "光合成枝" になるので複数の芽を接ぐ必要性は低いのですが、デービッド接ぎの場合、節間の詰まったスウィートポイントの2芽を接ぎ穂にするのは、品種によっては有効(悪くはない)かもしれません。下の3株は品種が異なりますが、いずれもデービッド接ぎ90日後、台木上部のカットから50日後の状態で、右側がデービッド接ぎの 接ぎ穂を2芽 にした実例です。ベーサルシュートは出ていませんが、ウィーピング系やERなどのスタンダード仕立てには向いているかもしれません。芽接ぎを2箇所するより簡単 にできますしね。

左は 1芽の接ぎ穂 ですが、支柱に結んでいるのが最初に出た「光合成枝」です。その右がベーサルシュートで、ステムが伸びる勢いが違う のがわかります。もう1本ベーサルシュートが出てそれが伸びたら、この光合成枝は切り捨てられることになります。残しても生育のスピードが鈍り佳花は咲きません。3本目のベーサルシュートを出すためにも光合成枝は切除するのがベターだと思います。

真ん中の株(ベーサルシュートが出始めている)も 1芽 で、この枝を「光合成枝」と呼ぶのが適切か微妙です。この枝は冬剪定まで残したかも。2014年の株なので覚えていませんが、何事にも "例外" はあります:p

複数の品種を接ぐ

1本の長尺台木に2品種以上を接ぐことも可能です。北九州・グリーンパークバラ園で3品種が接いである株を見たことがあります。しかし一般的には、複数の品種を接げば数年後にはその中で最も強い品種だけが残ることが多いのだそうです。これは吸肥力の差以外に、前述のステップマム接木のような何らかの生理反応が起きていると考えることもできます。

芽数も大雑把にいえば、『お好きなようにどうぞ』ということでしょうか。自分が好きなように接いで、そして "失敗" する。失敗から何かを学べるはずだし、成功を目指すその過程がバラ栽培の楽しさだと思っています。

穂木の保存

切り出した穂木は冷蔵保存すればある程度は保存が効きます。私が知っているバラ苗生産農家は前日夕方か当日朝に切ることが多いようです。長尺台木の場合とは異なり、穂木を長時間水に浸漬するのはまずい と思います。
参照:「挿し木の基本」|岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室・福井博一教授

何らかの理由で保存する必要があるなら、穂木を短く切らず、デービッドさんのように切った穂木の両端をロウ付けするか、バッチレートなどの保護材を塗布して、穂木の水分が抜けるのを防ぎます。薬剤などは使わずに、穂木の両端に接木テープ「ニューメデール」を巻く方法が簡単でベターかも。

いずれの場合もジップロックに密封して表皮から水分が抜けるのを防ぎ(加湿は必要ない)冷蔵保存します。家庭用冷蔵庫の野菜室(3〜8℃)は冷蔵室よりやや温度や湿度が高く、冷気の直射もないので、保存に適当なんだそうです。ただし、野菜や果物から出るエチレンガスの予期せぬ影響を避けるためにも密封した方がいいでしょうね。
参照:「植物ホルモンとしてのエチレン」|Wikipedia (En)

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