このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2022年3月16日水曜日

挿木した栽培品種の鉢上げ

3月2日の 台木の鉢上げ に続いて、挿木した "栽培品種" 14本の鉢上げをしました。これらは1月中旬に挿木したものです。挿木してから 約60日後です。

挿木の方法は、台木品種の挿木や 芽接ぎ挿し と同様です。

私の挿木方法

『バラの挿木なんて簡単。庭の隅にでも、ちょこっと挿しておけばいい』と言う栽培者は多いです。それを実際に拝見したことも何度かあります。・・が。。 これは私なりの方法(楽しみ方)です。

殺菌

  • 挿木失敗の最大の原因は、挿し穂を腐らせる菌の繁殖と、それによる維管束の閉塞。面倒でも、道具類を "ベンザルコニウム塩化物液 オスバンS" で殺菌し、菌密度を下げる。
     "オスバンS" は殺菌消毒剤(逆性石けん液)で、剪定鋏、接木小刀、ポットなどの洗浄に使用。

挿し穂

  • バラの挿木を成功させるには穂木の選択が重要。生育が悪い母木からの採穂や、古い枝、細い枝(4㎜以下)や太すぎる枝(10㎜以上)も挿木の成功率が落ちる。これは接木の場合の「接ぎ穂」の選択と同じ。
  • 穂木は前日(枝が短ければ数時間前)に切り出し、雑菌の繁殖を抑制して水揚げを促進する「切り花鮮度保持剤」"クリザール フラワーフード"(または類似品)に漬けて、十分に水を吸わせる。
  • 挿し穂の長さは20cm前後。1節=3cm程を用土に挿す。挿し穂の先端は「片クサビ型」で、縦方向に割れ目  を入れる。基部の芽は「芽抜き」=芽をナイフで削ぎ取る。それ以外の芽やトゲはそのままにしておく。

挿し床

  • 挿木用土は、無菌で、保水性と通気性が有るのが重要。今回は「鹿沼土」単体の微塵抜きを使用。
    過去のテストでは、赤玉土、ボラ土(細粒を、洗浄して使用)、バーミキュライト、川砂、あるいはそれらの混合でもOKだった。ただし「底面給水」の場合、例えば鹿沼土でも粒が大きいと間隙がありすぎて「毛管現象」で水が上がる位置が低く、水分不足になりがち。
    これまでの結果から注目している培地は、籾殻燻炭と水苔。今年のスタンダード台木の挿木はそれを使うことを考えている。
  • ビニールポットのサイズは4X5X深さ8cm。挿し穂の基部先端とポットの底面の間は5cm。

発根促進

  • 発根を促す植物ホルモン「オーキシン」の製剤「オキシベロン®液剤」の2倍希釈液に、挿し穂基部を10秒ほど浸漬してから挿す。
    オーキシンの過剰は逆効果なんだそうだが、20~30秒ほど浸漬しても特に問題があるようには思えなかった。

管理

  • 用水は清潔な水(水道水)を使い、「底面給水式」(深さ1㎝に水を入れたバットにポットを並べ、「毛管現象」を利用して水を供給)で、水の腐敗防止に珪酸塩白土の「ソフトシリカ・ミリオン」を混入。量は適当:p
  • この時期、灌水(水やり/水換え)は必要無い。バットの水が徐々に減っていくが、それが挿し穂の根の成長に好都合なので、水の減り具合や培土の湿り具合の観察を怠らない。基本的に補水は不要だが、水分過剰で発根が遅れるよりも、不足で枯死するのが怖いので、私はいつも水分過剰気味に管理している。

  • 最低気温2度C程度の無加温ハウス内で養生。できるなら12〜24度Cの範囲で管理。それが無理でも、乾いた寒風(木枯らし)に吹きさらされることがないよう注意。
  • 挿し穂を触らない。根よりも先に芽が伸びるので、小葉が展開してもまだ発根はしていない。

参考:岐阜大学 応用生物科学部 園芸学研究室 福井博一教授 挿し木の基本

バラに特化されているのではないけれど、示唆に富む内容です。私の方法はすべてがこれと同じではありませんが、精読して、自分の方法を実栽培の中で検証すべきと思っています。挿木だけでなく、接木の参考にもなります。

鉢上げに使用したポットや培養土も "台木の鉢上げ" と同じです。

発根の程度は品種により差がありましたが、未発根でもカルスはしっかりできていたので、かまわず鉢上げしました。

でも、前述の福井教授の「挿し木の基本」に、ちょっと気になる指摘があります。

厳密にはカルス形成と根原基の形成とは無関係であり、カルスは切口の保護のためには必要であるが、発根過程においては必ずしも不可欠とはいえず、過度のカルス形成は発根を阻害することが多い。

ドキッ。・・ま、いいか。"過度のカルス形成" がどの程度のものか、どうコントロールすればいいかもわからないし、できちゃったモノは仕方ない :p それよりも、一部の葉色が「肥料不足」と思われるのが気になる。根が無くても、カルス(未分化の細胞群)の細胞膜からダイレクトに養分を吸収できるはずだよね?

そう考えて、それを確かめる意味もあって "未発根でもカルスはしっかりできている挿し穂" を鉢上げしました。結果は後日レポートします。

 スタンダード仕立て用 ウィーピング2品種
 HT「アンナプルナ」 接木と挿木の比較

「アンナプルナ」は同じ穂木から採った接ぎ穂と挿し穂ですが、そうとは思えないほど差があります。挿木株は内包しているエネルギーで展開した葉。挿木株の1年目の生育が接木株より遅れるのは、このようにスタート時に大きな差があるから。

でも、この挿木株は発根しているので、これからは培養土の養分を吸収して大きく伸びるでしょう。2年目は接木株に追いつき、その後は遜色ない株に育つと思っています。もちろん「品種しだい」なんでしょうけど。

肥培管理

培養土は 台木の鉢上げ で使っているものと同じです。用土にはあらかじめ肥料が添加されているので、1ヶ月間は施肥不要と思われます。3月2日に鉢上げした台木品種はとても良い葉色で成長しています。少量の「パワフルアミノ」をやりたくなる誘惑 には、我慢:p


挿木に失敗

今日までに台木3品種28本と栽培品種21本の計49本を鉢上げしましたが、残念ながら栽培品種の2本を失敗。

葉はまだ完全には枯れていないものの、挿し穂基部から茶褐色に変色が進んでいます。水が揚がらなくなり葉と枝の黄変が始まっています。基部にはカルスがまったく生成されていません。

失敗の原因 はよくわかりませんが、"水不足" ではありません。水不足で枯れる場合は、葉があればまず葉が黄変し、枝は褐変ではなく黄変して、やがて縦皺が出ます。この2本のように "艶のある褐変" は、基部の酸化あるいは雑菌が繁殖したのだろうと考えています。その結果、水が揚がらなくなり黄変が始まっています。"基部の酸化" については、福井教授の「挿し木の基本」に指摘がありますが、その理由を知らないので、対策がわかりません。

「基部の酸化」の原因についての "怪しげな" 推測

褐変が発生するのは、挿木後すぐにではなく、50日程度経過してからのことです。挿し穂が弱ったから褐変するのか、褐変したから弱るのかは "微妙" です。気がつけば、その症状は同時に進行しています。

  1. 増殖する雑菌によって糖が分解され、酸性の物質が生成する
  2. 発芽など、挿し穂の細胞が活動(代謝)することで何らかの「老廃物」、あるいは「根酸」が生成され、それを効果的に排出する経路がなく 挿し穂の基部とその周囲の培土 に蓄積する
  3. 展開したばかりの幼葉での光合成が機能不全で、活性酸素が発生し、細胞が酸化される
  4. ポリフェノール オキシダーゼ(酸化酵素)の働き

褐変は基部から始まることから 3. の「活性酸素」は考えにくく、また、挿木後50日も経過しての褐変なので 4.の可能性は低いと思われ、2. の「老廃物」が主犯ではないかと考えているのですが、どうでしょう?

「挿木用土を含む挿し穂の基部に老廃物が蓄積される」と仮定したら、水の動きが少ない「底面給水方式」一辺倒を見直して、週に一回程度は「掛け流し」をした方が良いのかも。

でも(論旨がブレますが)挿し穂が褐変したのは挿木51本中のこの2本だけ。それが特に弱い挿し穂だったことを考えれば、迂闊に判断することはできません。要するに、何もわかっていないんです:p

反省

  • この2本の挿し穂は、直径が4㎜以下と細い。この枝を見れば分かるように、親株の生育も良くなかった。生育が悪い株から穂木を採ると成功率が落ちるのは、接木の場合と同様。
  • 採穂して直ぐに接木し、残った穂木の枝先側を、クリザールやオキシベロンに浸漬しないで挿木した。
  • 挿し穂の基部は「片楔形」で、縦方向の割れ目  を入れていない。

穂木の残りがもったいないからと、ついでに挿木するのはやめたほうがいい。いい加減にやってもそれなりの結果しか出ないし、楽しくもない。


今後の予定

今シーズンの挿木は100本ほど。まだ鉢上げが終わっていないのは、スタンダード用台木品種と「芽接ぎ挿し」などの一連のテスト。「芽接ぎ挿し」は2月8日の作業なので、鉢上げするのは2週間後か。

鉢上げしたこれらの挿木株は、この後5号ロングスリット鉢に鉢増しして、順調に育てば5月に地植えしたいと考えています。でも、思惑どおりに進むのかな? :p

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