これは、前の記事「バラを増やす 接木と挿木」の続篇になります。挿木の方法については、2月8日の「バラの 芽接ぎ挿し」で紹介しています。
これらの挿木は「母木」になって、そこから出たシュートを再び挿木することでスタンダード仕立ての長尺台木にするとともに、デービッド接ぎのための台木も作ります。今後1年間その経過を記録していく予定です。
発根と鉢上げ
1月6日に挿木した台木品種の挿し穂を、今日3月2日に鉢上げしました。
この時期の挿木=「寒挿し」は、まず挿し穂が芽吹いて、後から発根します。ビニポットの底穴から白根が見えたので植え替えを実施しました。 挿木してから54日後になります。
挿し床は鹿沼土の単体で、使用したビニポットは 4X5X8㎝(容量150㎖)の4連。底面給水方式で、発根確認まで54日と時間はかかりましたが、まったく手間いらずでした。
発根した挿し穂はできるだけ根鉢を崩さないよう植え込みましたが、基部の状態を見るため1本だけ裸にしてみました。何本も出ている主根からは側根が出ている様子もわかります。
挿し穂の基部は一般的な「片くさび型」ですが、それに加えて剪定鋏で縦方向に割れ目を入れていて、そこから多く発根しています。「芽抜き」をした痕(左上)からも発根しています。
挿し穂は、発根を促す植物ホルモン「オーキシン」の製剤「オキシベロン®液剤」の2倍希釈液に10〜20秒ほど浸漬してから挿しています。「オーキシン」は傷口を塞ぐ「癒傷ホルモン」でもあるので、これらの "傷口" には、新梢で生合成された植物ホルモン・オーキシンが集まります。このように、発根を促すには意図的に傷をつける のも効果的です。
培養土の配合
育苗用培養土 “土太郎”
用土は、開封して使いきれなかった "残り物"の、住友林業緑化(株) 育苗用培養土 “土太郎”に、タキイ たねまき培土と鹿沼土(挿し芽用の土)を加えて使いました。
下左は、芽接ぎに失敗した株の原因を調べるために5号ロングスリット鉢から抜いた2年生台木ですが、植え込んで1年経過して、スリット部分を避けて根がぎっしり回っています。台木なので放任していたから、この根量にはちょっと驚きました。
スリット鉢の場合、根は根鉢の表面にあまり出てきません。スリット鉢の形状に沿って網目状に展開したこの根張りの良さ(典型的かつ完璧な "根詰まり" とも言える/笑)は、私が作る培養土では見かけることのない状態で、これはこの時に初めて使った「土太郎」の効果だろうと思います。
「土太郎」は、河川土の機能性を活かした“スミリン粒土”と、有用な微生物群 “デルマ菌”*という、私には聞き慣れない原料で作ってあるそうです。販売開始から20年以上というロングラン製品なのだそうで定評があるんでしょうね。
“土太郎” の特徴
写真・上左の根詰まりした株は、“土太郎” と 私が作る培養土 を半々に混ぜています。 この一連のものは約20株あり、どれも同じ状態。“土太郎” の袋には3つの特徴が記されています。
- 苗質安定
これを使った約20株すべてが、写真上左と同じ。 - 根張り抜群
写真のように「根詰まり」するほど。 - 有用微生物入り
1年経過した鉢土には、分解されてしまったのか粗大有機物の形が見えない。
有機物だけでなく赤玉土も微塵になって見えず、わずかに軽石だけが原型を留めている。
培養土の組成
“土太郎” の単用では "重すぎる" (気層が少なすぎる)と思ったので、これを基本に他の土を混ぜて使うことにしました。
"土太郎" と "タキイ たねまき培土" には、あらかじめ肥料が添加されています。
品名 | 容量 | N | P₂O₅ | K₂O | pH (H₂O 1:5) | EC (1:5) μS/cm |
---|---|---|---|---|---|---|
育苗用培養土 “土太郎” | 20㍑ | 120 | 1000 | 50 | 6.7 | 900 |
タキイ たねまき培土 | 10㍑ | 380 | 290 | 340 | ||
鹿沼土(挿し芽用の土) | 5㍑ | |||||
用土3種類の混合 | 35㍑ | 349 | 654 | 126 | 6.5* | 実測値 1872 → 1457* |
*備考:pH(水素イオン濃度指数)の計測に使った用水は pH6.5 でしたが、用土によるpHの変化はありませんでした。
また、植え込み直後の排水のEC値:1872μS/cm は、水やりを繰り返すことで低下し、現在値:1457μS/cm は私の栽培環境では Good! です。
いずれの用土も肥効は約1ヶ月。これは短期間で植え替えする「育苗用培養土」なのでしょう。1ヶ月後には5号ロングスリット鉢へ鉢増しする予定なので好都合。 それにしても、“土太郎”のリン酸の多さは目立ちます。推測ですが、「土太郎」の真っ黒な土= “スミリン粒土” は「リン酸吸収係数」が高く、このように多量のリン酸の添加を必要とするのかも。ともあれ、同じく肥料分が添加されている「タキイ たねまき培土」と混合するので、追加の施肥などの調整は不要でしょう。
*「土太郎」が含む微生物群 “デルマ(derma)菌” というのは、タキイ種苗の “ダルマ菌” と同じものかと思われます。同社の場合は「バイオダルマ」という商品名です。
関連情報
- 有用微生物資材 "スミリンユーキデルマ" | 住友林業緑化株式会社
- 「バイオダルマ」って? |タキイ種苗株式会社
- バイオスティミュラントとしてのトリコデルマ菌の利用|「アリスタ通信」
母木を育て、スタンダード(長尺)台木を作る
挿木した「母木」候補のうち、2品種計16本を鉢上げしました。残りはまだ発根が不十分です。
前の記事で触れた「メアリーローズ」5本も鉢上げしました。奥に見えているのがそれです。挿木時期が台木より1ヶ月ほど早い12月3日だったので、しっかりした根でした。
スタンダード仕立てを作る 今後の予定
- 3月上旬 挿木し発根した母木の鉢上げ 今回の作業(予定の半数を終了)
- 4月上旬 鉢増し
- 5月 畝に定植。その後、積極的な肥培管理と主枝のアーチングでサイドシュートの発生を促す
- 夏 病害虫の防除と支柱立て。葉を落とさない管理と、サイドシュートを直立させるのがポイント
スタンダード仕立てを作る方法はいくつかあり、条件が整えば以下の ① 〜 ⑤ を試みる
- 10月上旬 ①母木から切り離さないままサイドシュートに芽接ぎ ②長尺枝の挿木 ③芽接ぎ挿し
②の「長尺枝の挿木」の一例:「ミニバラ用スタンダード台木の挿し木」
①と③の「芽接ぎ」は、"F芽接ぎ"(貼り芽接ぎ)と "T芽接ぎ" を試みる - 来年1月 ①を母木から切り取って挿木 ④10月に挿木した②の長尺枝に芽接ぎ ⑤芽接ぎ挿し
1月に挿木した新苗から10月上旬に長尺枝を得るには積極的な肥培管理が必要で、そう簡単なことではありません。これも 『新苗で秋に勝負』なんですが、条件に合った長尺枝ができるか、いささか心配です。今回のように二度も鉢増しをするのは、できるだけ成長を促すための試みで、これまではそんな面倒なことはしたことがありません。:p
本来なら母木はゆっくり育て、その 成株の低い位置から出たサイドシュートを採ればOK です。
土手などに自生しているノイバラをスタンダード台木に使うには、福岡市郊外に在住の私の場合は、10月上旬に長く伸びたシュートを切ります。遅れると挿木の発根量が少なく、その後の接木が少し難しくなります。
庭植えのツルバラを使う場合は上記「今後の予定」の夏以降と同じで、太いワキ枝ができないようにシュートを垂直に誘引し、枝先の葉をできるだけ落とさないように管理します。・・が、冬まで活性のある葉を残すのはツルバラの性質上かなり難しいですね。別の方法(10月に "芽接ぎ挿し" をするとか)を考えた方がいいのかもしれません。
どのような長尺枝、あるいは時期であれ、枝先に健全な葉を残しておくのは、挿木や接木を成功させるためにとても重要なポイントです。葉がなくてもうまくいくこともありますが、成功率はかなり落ちます。これは過去の失敗経験から断言できます。😅
ちょっと「先走り」し過ぎました。:p それぞれの時期に具体的に検証したいと思いますが、ひとつ蛇足。自生しているノイバラを使う場合、5月の開花時期は白い花が遠くからも目立つので、旺盛に育っている株に目星をつけておきます。
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