この記事は、2015年5月12日に投稿した「南大隅の薔薇」の続編です。
今年2016年は、5月18日と11月30日の2回、鹿児島県南大隅町の「花の木農場」を訪問しました。
今回11月の訪問は、そこで開催される講座 "Gardening with David in 花の木農場" に参加するためです。今回の講座のテーマは「バラと宿根草」ですが、それは別記事「バラと宿根草 Rose and Perennials」にまとめることにし、ここではデービッドさんと仲間たちが手がけている花の木農場のバラの春と秋の様子などを写真で紹介します。
2016年5月
2015年の秋に、「鐘」のある新しい花壇と仲間たちの新しい居住棟(右)が完成しました。
バラを植え付けてから15ヶ月後。2015年の大隅半島の夏は天候不順でデービッドさんもバラの管理に気を揉んだようです。
安藤君も元気です
2014年秋の整地作業から翌年2月のバラの植付け、その後の管理まで熱心に取り組んだ安藤君。
デービッドさんも彼がガーデナーとして自立できるよう期待していたのですが、農場側の人員配置の関係で現在は厨房の仕事をしています。『またいつかバラの仕事に戻りたい』のだそうです。
2016年11月
2015年から16年にかけて花の木農場内の整備が進みました。デービッドさんや仲間たちの手で現在も進行中です。花が少ないのは台風16号の影響(後述)です。
左:ERのランブラー「モーヴァン・ヒル」 南国の大隅半島ではやや白っぽく咲くようですね。5月の写真と見比べると、1メートルほど伸びているのがわかります。
デービッドさんも元気です
「イングリッシュローズは深植え」
イングリッシュローズの植付け方法について、特に植え付ける深さについて、2015年5月の「南大隅の薔薇」で詳しく紹介しています。そのように植えたバラのその後の様子を紹介します。
この写真は2015年2月の植付け作業時の様子です。
どのように植えるか、デービッドさんが仲間たちに説明しています。
ポイントは苗を植える「深さ」で、デービッドさんは強くこれに拘ります。具体的には、定規が地表面で
デービッドさんの左手親指の下に接ぎ木部分があり、土を入れると写真のように「深植え」になります。
この深植えされた株からどの程度ベーサルシュートが出ているのか、それを確認するのも今回の訪問の楽しみのひとつでした。
この写真に見える「土」に注目。詳細は後述します。
深植えの結果
2015年5月6日
植付けから3ヶ月後。ウッドチップが厚く敷かれた地際から、数多くのシュートが出ているのがわかります。
これは「プリンセス・アレキサンドラ・オブ・ケント」です。(この3枚の写真はデービッドさんの撮影)。
支柱は植付け時から1本もありません。上右の写真で支柱のように見えるのは宿根草の花茎です。
2016年11月30日
『深植えするとベーサルシュートが出ない』というのは、少なくともイングリッシュローズに限って言えば、 間違った認識だということがわかります。
バラに支柱は要らない
今年9月20日の0時、台風16号が大隅半島に上陸し、幹線道路が寸断されるなど甚大な被害を与えました。
台風の中心は花の木農場のある南大隅町のほぼ真上を通過し、そのときの気圧は955hPa、最大風速は40Mの強い台風でした。
花の木農場は丘の上にあるので特に風が強かったのでは。大きな樹木や石碑などが倒れたそうですが、バラは葉が傷んだだけで、株が倒れたり枝が折れるような被害は無かったそうです。
台風の後始末:尿素200倍液肥
この3枚の写真、11月30日の撮影にしてはバラの葉が瑞々しくきれいですよね。現地でこれを最初に見た時、自分が管理しているものと較べてショックを受けました。
でも話を聞いてみると、台風の風で葉が傷んで(飛んで)しまい、これらはその後に出た新葉なんだそうです。よく見ると古い葉はほとんど無いので、いかに風が強かったのか想像できます。
対策として、尿素を 200倍の液肥 にして土壌潅注して新葉の展開を促したのだとか。9月20日ということからすれば、これは秋の花のためというより秋に株を充実させて来年に備えるためなんだろうと思いました。
スパーキーも仲間たちも元気です
デービッドさんの愛犬スパーキーが今日もみんなの仕事を見ています。
『ペットじゃないよ、トモダチだよ』
スパーキーは "Diabetic Alert Dog" になるトレーニングを受ける計画があるのだとか。偉いぞ、スパーキー!
写真上:農場の入り口付近には、新しいレストランとそれに付随して、野菜やハーブ類を供給するキッチンガーデン(?)の工事が始まっています。
ユンボを操作しているのはバラ苗を一緒に植え付けたクリスさん。植付け後に丁寧に地面を均していたMORIさんはビーバー(エンジン草刈り機)を操作するのが大好きで、今はもっぱらビーバーで山仕事なんだそうですが、仕事の合間に、はにかみながら、挨拶に来てくれました。
海を渡った薩摩硫黄島の大火砕流
NHKの番組やネットの情報によれば、薩摩硫黄島を含む鬼界カルデラの二度の大爆発(7300年前と6300年前)では巨大な火砕流が海を渡って大隅半島に達し、またその噴出物は南部九州一帯に厚く降り注ぎ、この地の縄文文化に壊滅的な打撃を与えたのだとか。
この火山灰は 「鬼界アカホヤ火山灰」(Wikipedia)と呼ばれ、「白色または淡褐色(オレンジ色)を呈し、農業には適さない」とされているのだそうです。
『地元の人は "かまつち"と呼んでいる』とクリスさんに教えてもらいましたが、左の写真の中央部に見えるのがそれ。水はけが悪そうで空気も含みにくい、いかにも農業には適さない土のように見えます。かのやばら園も「心土」はこの土のようです。焦げ茶色のものは堆肥、白い粒はゼオライトです。
デービッドさんはこの「農業には適さない」土にバラを育てるために、新しい花壇を作る場合は半年前からかなり大量の牛糞+豚糞堆肥(花の木農場で生産)を投入し、ユンボを使って深耕しています。
すでにバラを植えている花壇には、マルチングを兼ねて大量の粗大有機物*と堆肥を投入します。一見雑に見える程の量ですが、それくらい投入しないと「かまつち」の土壌改良は進まないのだろうと思います。
*そういえばエコパーク水俣のバラ園もかのやばら園も、マルチングにはかなり粗い有機物を大量に使用します。『たまたまそうなのか』と思っていましたが、鬼界アカホヤ火山灰帯には有効なことなのかも。
この石垣は花壇を造成した時に出た石だそうですが、たぶん鬼界カルデラの大爆発にともなうものでしょうか、そんな色をしています(素人の推測/笑)。
大隅半島の気候風土。梅雨期の大量の降雨、真夏の酷暑と乾燥、秋の台風。英国とは大きく異なる環境でバラや宿根草を育てるのはけっして容易なことではないのでしょうね。
花の木農場の秋の夕暮れ
花の木農場を訪問した日は、夕暮れになるとなぜか妙にせつない気持ちが胸をよぎります。
それはたとえば、遠く離れた知らない町を車で走っていて夕暮れになり、車窓から人家の灯りが見えて、
『ああ、ここにも人々の暮らしがあるんだな』
と思う、そのような「人恋しさ」にも似た感覚です。
花の木農場の夕暮れは、ここに暮らす仲間たちや、とりわけデービッドさんのことを想って、より感傷的になるのかも。
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