9月と10月の肥培管理の記録。このページは10月7日の記事:「リセットの9月, リカバーの10月」の続き。
この間、二人のバラ仲間がハウスに来られた。栽培状況を見たら、お世辞にでも "何かいいところ" を見つけて褒めるのが挨拶だろうが、お二人からはついにその言葉がでなかった(苦笑)。
ま、言い訳をすると、11月はじめのコンテストに出品される予定のお二人から見れば、11月中旬の開花を目指している私のステムはまだ短いし。。でも、やはり生育が劣っているのは間違いない。原因の考察は花後にするとして、とりあえず今は9月と10月の肥培管理を記録しておく。
概要
- 鉢植えで栽培している主な19品種(各2〜7株程度)の排水をまとめて、品種ごとにpH(水素イオン濃度)とEC(電気伝導率)を計測。排水を計測するので、培養土が含有している肥料分を正確に反映しているとは言えない。しかし毎回同じ方法で計測すれば、数値はともかく、全体の傾向は把握できるのではと考えている。
- 同一品種の各鉢は(基本的に)ほぼ同じ施肥量・灌水量。
- 秋の開花目標は11月中旬。剪定期間は 9/15〜9/27。福岡での標準的な剪定日より1週間〜10日以上遅いと思われる。
- グラフの横軸は計測日が不定期なので、実際の変化のリズムを正確には反映していない。
- 前のページ:「リセットの9月, リカバーの10月」に書いたpHを6.5以下にするというのは、無理をしてまで必要なことではないから、10/10にとりあえず断念。灌水用水は(農業用水ではなく)水道水を用い、pHを6.8に微調整。
- 排水のpHとECを計測する現在の方法では、培養土との誤差が大きいかもしれないと考え、培土に含まれている水分を集める器具 "ミズトール(ポット用)Z" |大起理化工業㈱ を使い始めて、これまでの方法との誤差を確認中。
- 培土が乾き気味だと計測に必要な量を集水するのに一晩かかる。これでは実用的ではないので、排水とミズトールの集水との数値を比較して、その関係を調べている。灌水2時間後(排水は出尽くした状態)と、ミズトールで集水した結果は以下のような傾向を示す。
- 灌水から2時間後までの排水 pH6.8、EC2140㎲/㎝
- ミズトール(灌水から2時間後に30分間集水)pH6.5、EC2520㎲/㎝
pH(水素イオン濃度)
- 縦軸はpH値で、横軸は日数に比例していないことに注意。クリックで拡大表示。
- 9月5日以前から一部の品種にMg欠が出ていることに気付いていたので、用水のpHを下げる、あるいはキーザーマグ(キーゼライト/硫酸マグネシウム)を加えるなどで対応していたため、品種間のバラツキが大きい。
- 9月末は用水のpHを5.5以下にしていたが、無理に急激に下げるメリットはないと考え直し、用水をpH6.5~6.8程度に変更した。そのため10月からは穏やかな変化になっている。
- 9月30日を底に、再び僅かながら上昇したのは、10月2日と5日の施肥の影響と思われるが、詳しいことは不明。
- 10月27日にわずかに上昇したのはpH7.2の水道水を使用したから。pH7.0をオーバーしたくないので、今後も徐々に下げていく。
EC(電気伝導率)
- 縦軸はEC値で、単位は ㎲/㎝ 。1000㎲/㎝ = 1ms/㎝ 横軸は日数に比例していないことに注意。
- 剪定が終わった株から順次 "リキダス" (1/2濃度)と "ハイポネックス原液" (規定濃度)を施肥。
9月24日の急上昇はこれの影響。 - 樹勢から判断して "チッソの吸収不足" が疑われるので、以下のように追肥;
- 10/2 千代田化成550 | サンアグロ㈱ (超即効性・高度化成肥料 N:P:K=15:15:10 粉体を液肥化)
- 10/7 パワフルアミノ631(ペレット)|昭光通商アグリ㈱ 30㌘/10号鉢 (N:P:K=6:3:1+α)
- 10/10 ハイグリーン | エムシー・ファーティコム(ペレット)10㌘/10号鉢 (微量要素)
- ハイポネックスと千代田化成(いずれも液肥)のECの予想以上の下降の速さに驚かされる。これは "肥効が持続しない" ということ。
パワフルアミノ631はペレットなので、最初しばらくは上昇し、その後ゆっくり下降する。 - 当面のEC値を 2000㎲/㎝ に設定。例年ならこの時期は 1500㎲/㎝ 程度で、開花期に向かって1200㎲/㎝ 程度に、ゆっくり下がっていくのだが。。。
- 肥料過多、特にチッソ過多の場合は三枚葉に「八手葉」が出る。すでに幾つか目につくようになった。一部の品種は新葉も超デカい:p しかしうどんこ病もなく、葉はとてもきれい。
考察
上のグラフから、今秋の生育状況が特徴的な4品種をピックアップしてみる(グラフの配色が上図とは異なる)。
生育状況
良好:フロージン'82(黄緑)
普通:メルヘンケーニギン(灰)
不良:コルデスパーフェクタ(橙)
劣悪:ロージークリスタル(青)
ーー:全19品種の平均値(赤)
- ロージークリスタル(青) は新芽が動かず、高ECの悪影響がモロ 。高ECだと新芽が動かないことに初めて気付いた。
- フロージン'82(黄緑) の生育は良好で、私の環境・方法では、例年と同じこの程度のECが適当だと再確認。
- 10/7の時点で全株平均(赤) のECは1616㎲/㎝。これはこの時期としては標準的な数値。なので、10/7のパワフルアミノ631と、10/10のハイグリーンは過剰な施肥だったかもしれない。その結果3514㎲/㎝まで急上昇。
追肥したのは、全株のステムの中にはかなり弱小なものも少なからずあったので、迷った挙句の判断。結果はバラが教えてくれる。 - 10月28日追記:この秋、最初に咲いたのは メルヘンケーニギン(灰) 。これを次のページ:「2023年 秋のバラ 10月28日」で紹介している。高ECの影響が出ているのかどうか、微妙。 ・・たぶん出ているのだろうが、どうしても贔屓目に見てしまって、自分では判断できない:p
解決できていない疑問
- 9月13日の全株のEC平均値は 1713㎲/㎝
- これに、リキダス(1/2濃度)=EC1401㎲/㎝ と ハイポネックス原液(規定濃度)=EC1218㎲/㎝ を 灌水で施肥
- その結果、24日には 全株の平均値で 2372㎲/㎝ に上昇
元よりも低いEC値で灌水したのに、排水のEC値は元よりも高くなる。これは今回だけではなく毎回同様で、なぜこのように変化するのか、その理由がよくわからない。培養土にはゼオライトを多めに入れているので、その影響(効果)なのか?
もしかしたら、私が認識できていない化学反応が起きてイオンが生成されているのか、あるいはこれがイオンの特性なのかも。
千代田化成550 液肥の作り方
水道水1ℓ に千代田化成550を100㌘投入。水溶性だが、完全には溶解せず薄茶色に濁る。よくシェイクした原液60㎖ を、8ℓ ジョウロに入れ農業用水で希釈。pH6.8, EC1500㎲/㎝ 程度になるので、これを灌水に使う。やや高濃度なので、80㌘がいいかもしれない。
千代田化成550は NPK以外を含まないため、微量要素も加えるなら、水道水1ℓ に千代田化成550を80㌘+ハイグリーン20㌘を溶かせば、使用液でpH7.0、EC1300㎲/㎝ になる。
参考:「温室バラロックウールを利用した溶液栽培」|谿 英則・長谷川清善|滋賀県農業試験場研究報告第34号
この中で、「水耕栽培で、バラはアンモニア態窒素を優先的に吸収し、培養液の総窒素量中に占めるアンモニア態窒素の割合が25〜50%のときによく生育し、チッソ吸収量も多くなる」という、竹田・片岡の研究結果を紹介している。
千代田化成550のチッソ成分はアンモニア態チッソのみ、瞬発力を期待するのには良いかもしれないと考えて、過去数年間この時期にのみ使用している。10月2日に、これを溶かして灌水に混ぜて全株に使用。当然ながら一気にECが上がり、そして急速に下がった。まさに緊急対策用。
「千代田化成」をこの時期の芽出し肥に使うことは、北九州グリーンパークバラ園の小林博司先生に教えてもらった。JAで購入できる。「発売開始から90年」という超ロングセラーの高度化成肥料で、本来は水稲の追肥用なのかも。地植えのバラに使用する場合は薄く均等に散布し、すぐに大量の灌水をするのがポイント。鉢植え向きではない。
パワフルアミノ+ハイグリーン
あらかじめ予定していたパワフルアミノ(窒素全量6%、内アンモニア態窒素3%)とハイグリーンを、粒状のまま施肥。これも自分にとっては定番の肥料だが、肥料バランスが崩れてしまったように思えるこの状態を、どこまで回復できるものなのか。
失敗から身を以て学ぶバラ栽培
いつも一人で「犀の角」を気取っていると、どうしても眼が鈍って判断を誤る。 このような状況で、どんな新葉が展開し、どんな花が咲くのか、最後まで見届ける。明日10月28日にはこの秋の最初の花メルヘンケーニギンが一輪咲く。今日はハウスの中に撮影セットを仮設した。『バラ栽培は楽しく』という、グリーンパークバラ園・小林先生の言葉が脳裏をよぎる。
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