このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

お知らせ

バラの育種 を仲間と共に学びたい初心者を対象にした オンライン勉強会 を計画中です。

オンライン ミーティングシステム "Zoom" を利用して、月2回(年間20回程度)の開催で、 参加費無料の勉強会です。

内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。



2021年11月4日木曜日

花の中に何が見えるか

コンテストに出品し始めて2年目の頃、審査後の個別の講評で、福岡バラ会の小林正子会長が次のように言われた。

『ばらを見ると、その出品者がどのように栽培に取り組んできたかがわかる』

『えっ、すべてお見通しなの?』とビックリしたが、でもその指摘を私の専門である写真撮影に置き換えてみれば、そうかもしれないと思った。写真専門学校の講師だった頃や、その後も若い写真家たちと一緒に写真表現を考えてきた中での経験だが、「作品」と呼べる写真には撮影者の技量や感性はもちろん、撮影に取り組む姿勢、注ぎ込んだ時間、その世界観や生き様までもが見える。正確に言えば「見えるような気がする」のだが、それが的外れだったことはない。

長年にわたりバラ栽培に取り組んでこられた小林会長からすれば、私のような初心者が栽培したバラには、様々な失敗や迷い、わかっていないこと、あるいはちょっとした喜びも含めて、栽培の全てが "モロ見え" なんだろうと思う。

作品の中に作者が見えるなら、その作品はまだ「表現」にはなっていない。表現と自己表現はまるで別物で、優れた作品からは作者の姿は背後に消え、見る側はそこにある世界とストレートに向き合う。

たびたび引用するが、映画「花戦さ」での 池坊専好(初代)の言葉(映画の中の"セリフ"/原作:鬼塚忠 脚本: 森下佳子)「花の中にはほとけがいてはる」というのは至言だ。花の中に見えるのは、作者の池坊専好ではない。

「ほとけ」は私にとっては「真理」あるいは「美」と同意語。同じ花を見てもそこに見えるものは人によって違う。「見よう」と積極的に探さなければ、「花の中のほとけ」は見えてこない。

私は何を見ることができるだろう。



2021年11月2日火曜日

「パパメイアン」の芽接ぎ

福岡バラ会の「秋のばら展」に出品されたNさんの「パパメイアン」の深い発色とビロードの花弁が美しいと会員の間で評判になった。

「パパメイアン」はバラ栽培者なら誰でも知っている赤黒バラの銘花。メイアン(仏)1963年作出。ダマスク・モダンの香りも素晴らしく、1988年世界バラ会連合殿堂入り。畑にも自宅の庭にも植えているが、Nさんの花はまったく日焼けしていなくて、でも黒に近いほど色が濃く、これほど美しい「パパメイアン」はかって見たことがなかった。

PBRの保護期間は過ぎているので自由に増やすことができるから、接木する穂木の希望者が続出。昨日、その1枝をお手伝いさんが誤って切ってしまったそうで、「芽接ぎ」をするために、ポット台木を持っている私のところに急遽持ち込まれた。

24時間バケツに入っていた開花枝は、花は既に萎れていたが、2芽は何とか使えそうだったのでF芽接ぎをした。

 左:葉柄の基部をわずかに切り残した          右:葉柄を取り除いた   

「葉柄の基部を残した方が良いのか?」のテストも兼ねている。ステムが細かったのでうまくいくかどうか。葉柄の上にもテープを巻いたので「葉柄がポロリと落ちる」ことはないが、これもテストの範囲。

ばら展後には、小林 彰先生(福岡バラ会)に以前からお願いしていた「ラ マルセイエーズ」(デルバール1976年作出/PBRの保護期間切れ)を1枝頂いて接がせてもらった。今のところ芽の黒変はないから、うまくいっているのかも。ポット台木を常備しておけば、F芽接ぎは手軽で便利だなと実感。「うまく接がれば」の話だけど。

註:PBR(Plant Breeder's Right/品種育成者の権利) 詳しくは「種苗法」を参照。


「とつけむにゃ」

「とつけむにゃ」または「とつけむにゃあ」は熊本弁で「とてつもなく(すばらしい)」という意味。

熊本・宇土市在住の福島康宏先生が作出されたFL。その名の如く "とつけむにゃあバラ" で、多花性で極めて花持ちがいい。3株あるので、途切れることなく年中咲いている感がある。長い開花期間に花色がピンク〜赤〜ピンク〜白と微妙に変化するのも美しい。花色だけでなく、花弁の形も時間とともに複雑に変化して、まるで別の花であるかのような様相を現す。

画面中央で横に4輪並んで咲いている花は、10/22のばら展初日には既に満開を過ぎていたので出品しなかった花。12日後の今日もその美しさが崩れていない。まさに、とつけむにゃあ!

この写真では見えにくいが、奥には同じく福島先生が作出されたFLの「ウイリアム・アダムス」が咲いている。
これも花期がとても長く、満開を過ぎても花弁の色が濁らず綺麗なままで散る。最高の "セルフ・クリーニング" 性。これの「赤」に魅力を感じているのだが、秋はそれが深まってなんとも美しい。秋のバラはいいなぁ。


明日は久しぶりに本業の仕事で、「第55回 福岡市華道展」に参加する幾つかの流派の出瓶作品を撮影する。どんな花が見れるのか、「作品と対峙するときの心地良い緊張感」が楽しみ。