バラの根頭癌腫病について、その症例と私が気づいたことや見聞きしたことの記録です。病原菌の「アグロバクテリウム ツメファシエンス」に関する情報やクラウンゴール(癌腫)ができるメカニズムの紹介(リンク)、バクテローズの使用実例や、深刻なバラ根頭癌腫病の現状などにも触れています。
おことわり 長文ですが、ここにはバラの根頭癌腫病への具体的で有効な対策は書かれていません。試行錯誤の途上にあり、論旨も混乱しています。また、部分的に追記を重ねていますのでページの内容が時系列順になっていません。このページには曖昧な情報や用語が含まれており、追記や補足、修正などを繰り返していますので、引用・転載はお断りします。
なお、文中 AT と表記しているのは根頭癌腫病の病原菌 アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium Tumefaciens)のことで、「クラウンゴール」と「癌腫」は同じ意味で使っています。
1. バラの根頭癌腫病の症例
あるバラ園で見かけた根頭癌腫病。これは地表に現れたものの一部だけで、根を調べればさらに多くの癌腫があるものと予想されます。これらの発症株数やその状態、分布から考えて、植え付け場所全体が既に高度に汚染されており、それはここ2〜3年のことではないと思われます。
2. 根頭癌腫病と その発生のしくみ
2-1 基本的な知識
ウィキペディア:「アグロバクテリウム」
アグロバクテリウム(AT)についての基本知識が得られます。このページに掲載されているイラストは、ATによる根頭癌腫病発症のメカニズムを理解する上で参考になりました。
2-2 「根頭癌腫病」について少し詳しく学ぶ
「根頭癌腫病」について学ぶために私が最も的確と思う情報は、独立行政法人農業生物資源研究所 澤田宏之氏による 「いわゆる "アグロバクテリウム" について」 というpdf文書です。私には難解な用語なども含まれるのですが、そこに記述された内容は私の経験や観察とも一致しますので、これをベースにバラの根頭癌腫病を考えていきます。もしこのブログを読み進まれるのなら、その前にぜひ この「いわゆる "アグロバクテリウム" について」と、下記 タキイ種苗(株)のページを読んでください。
2-3 栽培者向けの情報
バラの根頭癌腫病に関する栽培者向けの情報です。
タキイ種苗(株)花前線 バラ類 根頭がんしゅ病 より一部引用:
発生のしくみ
病原は アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)という細菌の一種で、1~3本の鞭毛を有する 1~3×0.4~0.8μm の棹状細菌である。14~30℃で生育し、適温は22℃、死滅温度は51℃*。多くの作物に本病を引き起こす多犯性の細菌である。
病原細菌は傷口から侵入し、土壌伝染、接触伝染によって広がり、土壌中に長く生存する。したがって発病株は全身が汚染されている場合が多いので、接ぎ木用の母木には用いない。また、汚染株を切ったり掘り起こしたりした刃物やスコップなどに病原細菌が付着して、健全株の切り口などを次々に汚染する。
防ぎ方
防除法には主に次の二つがあげられる。
・耕種的防除:本病が発生した汚染圃場に新たに植物を植え付けない。発病株は抜き取って焼却する。水耕栽培で発生した場合は、使用中のロックウールなどの資材を廃棄し、新しいものと交換する。または、ロックウールが数時間65℃以上になる湯温処理を行う。
・生物的防除:苗を移植あるいは定植のたびにバクテローズに浸漬する。20~50倍希釈液に苗の根部を1時間浸漬処理し、根部が乾燥しないように速やかに植え付ける。その時、菌液を調整する水は滅菌用塩素を含まないものを用いること。
註:*「死滅温度は51℃」という記述がネット上に広がっていますが、「50℃以下では死なない」という意味ではなさそうですね。アグロバクテリウムの熱殺菌の設定温度を47℃にした論文がありました。もちろん "温度 X 時間" なんでしょう。上記のタキイ種苗(株)花前線では、 "数時間65℃以上になる湯温処理 " が推奨されていますね。
また、上記『接ぎ木用の母木には用いない』というのは、「穂木なら問題ない」という意味ではなく『台木にも穂木にも使ってはダメ』と複数のバラ苗生産者が言ってありました。理由は、根頭癌腫病が発症したバラはすでに全身が汚染されている(病原菌が株全体に廻っている)からとのことです。汚染された母木の実例を後述しています。
この "発病株は全身が汚染されている場合が多い" ということは、癌腫病対策を考える上で重要なポイントであろうと思います。詳細は後述します。それとは逆に"病原菌ATは植物体の外(土壌)にのみ生息している" という考えに基づいた対処法も、ネット上や栽培ガイド本に多く見受けられます。
3. バラの根頭癌腫病で気づいたこと
- 癌腫は地中だけにあるのではなく、地際にも、あるいは枝の中間部分(症例)にもできる。
- 木立バラよりもツルバラ、特に、旺盛に枝を伸ばすランブラー系品種は、根頭癌腫病が発生する確率が高いように思える。ただし、ランブラー系品種は大きな癌腫ができても、それで枯れてしまった株は見たことがない。
- 植物は本来、複雑で巧妙な「自己防御機能」を持っているそうだが、品種(系統)によってはATに弱いものがあるのかもしれない。また、幼株期や、あるいは何らかの理由で強いストレスを受けると、この自己防御機能が弱められるのではと考えている。症例
- 病原菌「アグロバクテリウム ツメファシエンス(AT)」には数種類の「系統」や「変異株」があり(この部分の用語は曖昧)、その種類によって癌腫(クラウンゴール)の発生位置や形状が異なる。
症例写真の中段がその例で、同じ症状を示す別の株で専門家に尋ねたら即答で「癌腫です」。 - 病原菌(AT)は、菌密度の差こそあれ一般的な土壌ではどこにでもいると考えた方がいい。私の環境では自分で作った挿し木苗を、バラを栽培したことない場所に植えて癌腫病が出たこともある。剪定鋏やスコップなどの道具類あるいは作業靴底の消毒殺菌をはじめ、バラ苗や花苗の個人的なやりとりを避けるなど、できるだけ「外からATを持ち込まない」という配慮をしてきたつもりだが、それだけでは発症を防ぐのは難しい。
鉢替え時に新品の鉢とバラ専用培養土を使用したら、まもなくみごとなクラウンゴールができた事例もあった。「最高級バラ専用培養土」などと銘打った土でもその中にATが紛れ込んでいる場合があると思われる。もっと有り体に書けば、そのような培養土の材料の調達現場を見たことがあり、迂闊には信用できない。
- 流通しているバラ苗には、すでにATに感染した(保菌した)株がかなりの割合で存在する。
- バラ苗生産者(バラ苗販売大手の生産下請け農家)の話によれば、品質管理に厳しい販売会社があるのは事実。私がこの会社から購入した苗は数株程に過ぎないが苗の品質の良さは実感できる。逆に、生産体制(品質管理)が必ずしも徹底していないのではないかと思われる(実際に栽培してみると癌腫病が多発する)有名ブランドもある。根頭癌腫病の発生株は、大手販売会社の苗か否かは関係ない。
- 癌腫の進行速度は株の成長度合いによって異なり、幼株では半年程度で急速に進行し樹勢が著しく衰えて(間接的に)枯死に至る場合(症例)もある。植え付けた苗の生長が芳しくない場合は、根頭癌腫病が発生している事例が多い。
- 古い株では進行速度は緩慢で、発症してもシュートが出て花も咲くが、樹勢は弱い。このような株はすぐに枯れるようなことはないが、徐々に樹勢が弱っていき、やがて鑑賞上もみすぼらしい状態になる。
- 初期のクラウンゴール(症例写真の上段)は、時間の経過と共に肥大を停止して黒変し、やがて形も崩れてくる(写真下段)。宿主に組み込まれるT-DNAにはクラウンゴールがある程度以上は大きくならないように発現する遺伝子が含まれている*1。ただし宿主や栽培条件によっては複数の癌腫が癒合し、かなり大きくなることがある。私が見た地中で最大のものはクリの木にできた直径15cmの癌腫。バラの場合は10cm。
- 実験室レベルでのATの宿主細胞への感染率(ATがT-DNAを宿主細胞に送り込み、それが宿主で発現する率)は数万分の一程度らしい*2。ATが土中や植物体内にいるとしても、宿主は厚い細胞壁や細胞膜で守られているから直ちに発症するというわけではない。逆に言えば宿主組織が傷つけば発症の危険性が高まる。
- バラの根部や地際が傷つくのは幾つかの理由が考えられる。
- コガネムシの幼虫やネマトーダ(センチュウ)、テッポウムシなどによる食害
- 除草や中耕作業、剪定など人為的なもの
- 強風で株が揺すられ株元が地面と擦れて傷がつく場合
- 接ぎ木(接ぎ木した部分は、作業後半年程度はきわめて弱い状態にあるので土に埋めない)
- 土壌の菌密度を下げるには「放線菌」がある程度の効果を示す(放線菌がATを喰い殺す)らしい。バラ苗生産農家では放線菌が爆発的に増えるという「カニ殻」を畝に鋤き込む。2011年12月の記事:「根頭癌腫病にカニ殻」参照。
私の畑では、バラを栽培したことのない畝に1平米あたり0.5Kg(計20Kg)のカニ殻を入れて、外部からの菌の持ち込みがない挿し木苗(穂木は自家製)で1年間試してみたが、そこでも僅かながら根頭癌腫病が出てしまった。ただしこの結果だけでカニ殻に効果が無いと断定することはできない。例えば、植付け半年前にカニ殻を鋤き込むなどの工夫が必要なのかも。
「癌腫を削り取りそこに殺菌剤を塗布する」という対処法では効果がなく、その後、別の部分に発症した事例を複数確認した。
逆に、そうすることによって樹勢の衰えを(とりあえず)止めることができたのでは?と思える事例も複数あった。しかしそのような株がふたたび樹勢を取り戻し旺盛に生育するという事例は、残念ながら見たことがない。季節による変動はある(春先はちょっと元気になったように見える)ものの、良くて「現状維持」、徐々に樹勢が衰えていく場合が多いように思える。「現状維持」といっても、癌腫が発見された時点でバラの生育は既にいびつになっている(枝振りや根張りが偏り株全体の生育が劣っている)場合が多い。
- 癌腫はえぐり取ってその後再現していないのになぜ樹勢が回復しないのか、その理由がわからない。 『癌腫に養分を奪われるから樹勢が衰える』という回路の他に、癌腫ができなくてもバラを弱らせてしまうAT特有の未知のメカニズムがあるのか、あるいはバラが作った抗体が自分の成長を抑制しているのかもしれないと考えている。
私が過去2年間で購入し栽培しているバラ苗約50株のうち10%の5株で、植付け4ヶ月以内にクラウンゴールができた。これらはいずれも有名なバラ苗生産・販売会社(複数)から数度にわたり直で取り寄せた大苗(裸苗および鉢苗)で、かってバラを植えたことのない独立した3カ所の花壇で栽培中の株。購入株が最初から感染していたとは断定できないが、かなり疑わしいと思われる。
植物活力剤や発根促進剤、除草剤などに含まれる「界面活性剤」は、主成分の効力を出すために脂質でできた細胞膜を弱める目的で添加されたものがある。直接、根や地際を傷つけるわけではないが、細胞膜の防御機能が弱められる危険性がある。
情報源
*1:放送大学専門講座「植物の科学」/基礎生物学研究所・川口正代司教授の講義内容による。
*2:同上「植物における遺伝子組換え技術」/名古屋大学・武田穣教授の講義内容による。
4. バクテローズ
4-1 バクテローズ処理
バラの根頭癌腫病への対策は、私が知るかぎり「バクテローズ」を使用することです。下の写真は、上の癌腫病が発症した場所とは全く別のバラ園でのバクテローズ処理の様子です。
到着した裸苗は梱包を解かれると直ちにバクテローズに浸漬されます。浸漬時間は1時間以上。タライの中の茶色の水(モンモリロナイト由来?)がバクテローズを溶かしたものです。バクテローズは微生物製剤ですから、当然ながら塩素を除去した水を使用し、処理後は根が乾かないように注意しながら植え付けられます。
ページ冒頭の症例写真はすべて同一の苗生産業者からの株ですが、苗の生産・出荷段階でバクテローズ処理が施されたのかどうかは不明です。苗の受取と植え付けをする造園会社の担当者は「バクテローズ」を知らなかったので、植え付け時には処理されていないものと思われます。いずれにしろ、どちらかの段階で処理されていれば、このように壊滅的な被害は出なかったのでは?と思われます。
2013年2月追記:根頭癌腫病が発症したバラが植えられた花壇を調べると、その場に植えられている多くのバラで発症している例をこの半年間で何例も見ました。その多くは古い株で、どのようにして病原菌が広がっていったのか断定できませんが、私の想像ではたぶん刃物やスコップだけではなく、雨水や潅水時の水の流れに乗って病原菌が拡散していったのではないかと思います。
これに関しては、創価大学・石原 修平氏の「アグロバクテリウムを用いた植物バイオテクノロジー」の「Q1: 寄生者はどのようにして宿主を見つけるのか」を参照してください。
4-2 バクテローズは万能ではない 2013年2月追記
ATを殺菌する「K84 菌株」
バクテローズの外箱には「殺菌剤」と表記してあり、菌種は「K84」です。広島大学のpdfファイル「自然土壌細菌を利用した植物根頭がんしゅ病防除法」には、『バクテローズの主成分菌であるAgrobacterium radiobacter K84は、ノパリン型アグロバクテリウム ツメファシエンスに対する特異的殺菌物質"バクテリオシン84"を生産する』と書いてあります。また、前掲の「いわゆる "アグロバクテリウム" について 」(独立行政法人農業生物資源研究所 澤田宏之氏)には、この「K84 菌株」についてそのメカニズムの説明があります。広島大学のものとは若干名称の違いがあるようですが、たぶん同じと思われます。
きちんとバクテローズ処理した(その場に立ち会いました)大苗を植え付けたバラ園で、それにもかかわらず約6ヶ月後には根頭癌腫病が発症(多発)した株を幾つか実際に手に取って確認しました。担当者の話では、『台木の育成や接ぎ木作業の段階で病原菌に侵されれば、植え付け時のバクテローズ処理では効果が無い』とのことで、『バクテローズはノイバラ台木のタネを準備するときに使うべきなんだろうね』と苦笑してありました。冗談とも本気とも思える話ですが、そのお気持ちはよくわかります。
4-3 水道水は土壌細菌を殺すか
バクテローズを水に溶く場合、塩素を除去した水を使用します。その理由は、塩素がバクテローズの主成分菌である "Agrobacterium radiobacter K84" を死滅させるからですが、そうならば同じアグロバクテリウム属のAT(Agrobacterium tumefaciens)も、塩素を含む水道水には弱いのではないかと思うのですが、いかがでしょう?
「塩素を含む水道水は土壌細菌を殺すのではないか? 井戸水を使った栽培の方が生育が良いのは、それも理由のひとつではないか?」という質問を某大学農学部の教授にしたことがありますが、とるにたらない質問だったのか、笑ってごまかされてしまいました。たぶん塩素に弱い細菌は死ぬんでしょうが、でも水道水中の塩素はすぐに消えるので全滅することは無く、生き残った細菌が再び増えて数時間〜数日の内に元の状態に戻るんでしょうね。
AT の場合はどうなんでしょう、K84とはどう違うんでしょう?
5. 深刻化するバラの根頭癌腫病
1月に福岡県のあるバラ苗生産農家を訪問しましたが、バラ苗を植える予定の畑(過去にバラを栽培したことがない)での試験栽培で根頭癌腫病が発症したということでたいへん心配してありました。その農園は、例えば関係者以外の圃場や作業場への立ち入りを禁止するなど、管理は厳しくされているのですが。。
そこで聞いたさらに恐い話。『最近、欧州から極めて感染力の強い新種の"バラ根頭癌腫病原菌"が入ったという情報が、バラ苗生産・流通関係者の間で流れている』のだとか。私には真偽のほどはわかりませんが、その方の心配そうな表情が気になりました。
バラ苗生産者にとって出荷した苗に根頭癌腫病が発症するのはまさに死活問題なんでしょうね。別のバラ苗生産者から、出荷した苗に根頭癌腫病が発症したことで裁判沙汰になった話(後述)も聞きました。事態は想像以上に深刻なようです。
6. 「ひとごと」じゃない私の状況
バラの根頭癌腫病を知ったときから、自分の園にはATを持ち込まないよう気をつけていたのですが、残念ながら複数の株で発症してしまいました。苗にも用土にもATが付いて来る(推測)のですから、前述のような「ATを持ち込まない」という配慮だけでは対応しきれません。
6-1 癌腫病が出た株は、すべて「購入株」 2015年4月追記:
最近2年間のバラ苗の購入数と、その内15年3月までに癌腫病が発症した株数を調べてみました。
- 2013年 大苗 23株 根頭癌腫病発症 4株
- 2014年 大苗 60株 新苗16株 根頭癌腫病発症 7株 他に 疑わしい株2株
発症率は11%になります。植付け後4ヶ月以内に癌腫ができたものに限れば前述のように10%でした。これによって根頭癌腫病株の多くは購入後半年程度で発症していることがわかり、病原菌は苗に付いてきているという推測ができます。
6-2 接ぎ木用の「母木」が汚染されている
これに関して、ちょっとびっくりすることがありました。2014年11月19日の「穂木と台木の充実度がポイント バラの接ぎ木」に追記として書きましたが、15年1月に、ある品種の大苗24株が急遽必要になり、バラ苗生産農家から「母木」を譲り受けました。接ぎ木作業は既に終わった時期で、枝や根を切らない「素堀り」のままで入手したのですが、その24株の母木の1株に根頭癌腫病が発症していました。接ぎ木用の採穂時には母木を掘り上げたりしませんから、生産者は根頭癌腫病の発症に気づかぬまま作業が進んだのでしょうね。
このような事態はけっこう起きているのかもしれません。2012年4月3日の記事:「"癌腫病ショック" そら復活か」に書いた、『じつは、国内で流通しているバラ苗の半数以上は根頭癌腫病に罹患している』という専門家の話(差し障りがあるので、これ以上具体的には書けません)を鵜呑みにしているわけではありませんが、ATに汚染された(保菌しているが、発症には至っていないものも含めると)かなりの量の苗が市場に出回っているのではと思われます。
6-3 癌腫発症 2015年4月追記
これら24株はすべて「鉢植え」にしました。罹患している可能性があり、地植えにするには危険だからです。案の定、植付けから3ヶ月後の4月、1株の株元にきれいなクラウンゴールができてしまいました。植付けは、もちろん新しい培養土を使い、ポットや剪定鋏、スコップなどは(頻繁に)消毒していますから、病原菌は株に付いていた可能性が高いと思われます。植付け時には気づかない程度に小さな癌腫だったのでしょう。これらの母木から生まれた数十本の接ぎ木苗は各地に出荷されて行ったのでしょうね。私の残りの22株もこれから更に発症する危険性があります。暗澹たる気分です。
6-4 えぐり取った癌腫が再発 2015年8月追記
癌腫ができたのが植付けから3ヶ月後の4月。これを丁寧にえぐり取って殺菌剤を塗布しました。
さらに3ヶ月後の7月、再発しているのを発見。予想よりはるかに早く肥大しているのに驚かされます。
この株の生育具合は「並」です。主枝のバランスは良くないですが、特に生育が劣っているとは思っていませんでした。でも、癌腫ができた側からは当然ながらベーサルシュートは出ていなくて、バランスが崩れています。表面の色や質感から判断して、この癌腫は「できたばかり」という感じはしません。写真右は癌腫をもぎ取った状態です。
左はこの癌腫の断面です。癌腫(クラウンゴール)の内部は均質ではなく、かなり複雑な形態になっているのがわかります。
この切断面は数分後に撮影したので、すでに茶褐色に変色しかけています。切断直後の癌腫内部(オパインなど)は、上の3枚の写真の右のように「乳白色」をしています。
6-5 自分で接ぎ木した株は発症していない
この2年間のデータを振り返ってみて驚いたのですが、2014年までの3年間に自分で接ぎ木した株(数えていませんが、たぶん100株程度)には根頭癌腫病が発症した記憶がありません。挿し木株はランブラー系などに何株か発症しました(これは私の栽培環境にもATがいる証拠です)が、もし接ぎ木株で発症したことがあったとしても、それは記憶に残らないほどの僅かな数の筈です。私の場合、購入苗は10%程度の率で癌腫病が発症していますから、この差は使用している台木の品種(ノイバラ=ロサ・ムルティフローラではなく、台木用に育種されたハイブリッド台木)に因るのでしょうか。
先日、根頭癌腫病が発症した2年生の購入株を抜き取り焼却処分しました。その場所にはATがウジャウジャいる(菌密度が高い)はずなので、そのままそこに自作の接ぎ木苗(廃棄したものと同品種)を植えてテストしてみようと思います。また、今年2015年はこのハイブリッド台木で50本以上の接ぎ木苗を作ったので、根頭癌腫病に注目しながら栽培してみようと考えています。
7. 「殺菌剤塗布」か「焼却処分」か 2015年追記
発症率は10%超ですから効果的な対策が急がれるのですが、残念ながら未だそれを見つけられずに右往左往しています。
7-1 泣く泣く焼却処分
先日、あるバラ園(症例写真のバラ園とは別)の管理責任者の方から根頭癌腫病の話を聞く機会がありました。
バラの根頭癌腫病を気にする必要はありません。癌腫を削り取って殺菌剤を塗ればいいんです。焼却処分すべきという意見もあるけど、そんなことをしたらこのバラ園にはバラは1本も無いことになりますよ(笑)
この方は熱心な指導者でファンも多く、管理してあるバラ園もすばらしいものです。何度も通い生育状況をある程度は知っていますが、実際に癌腫病の発症を見たのは3株だけです。これは栽培初心者に心配させないためのオーバーな言い方なんでしょう。私が知らないだけという可能性もありますが。
これと同様な意見は書籍やネット上で目にします。特にバラ苗販売業界のみなさんに多いように思います。
このとき一緒に話を聞いたバラ仲間から、『節約して憧れのバラ苗をネットで購入したら、癌腫が付いた苗が届いてしまって、泣く泣く焼却処分しました』という話を聞きました。苗の交換を求めることもしなかったそうで、その悔しい悲しい気持ちは、私にも痛いほどわかります。私も、ネットで注文した裸苗に癌腫をえぐり取った痕がある株が届いた経験があります。2012年4月9日の記事:「バラ苗が枯れたら交換します」は良心的か? 試験的に植え付けましたが、すぐダメになり焼却処分しました。大苗の段階で発症している株を、健全な株と同じように育てるのは難しいと思います。
私のこのブログの毎日のページビュー数は 3~400程度( "Google Analytics" による解析)と少ないのですが、その中で年間を通してアクセスが多いのは デービッド接ぎを紹介した2013年2月の記事「バラの接ぎ木」と、このページです。 そのアクセスは北関東以西の各地域から、検索サイトを経由してのものがほとんどで、一般のバラ栽培者に根頭癌腫病が問題になっているのであろうことが推測されます。
7-2 『こぶをえぐり取るだけでよい』
上田善弘、河合伸志 監修「別冊趣味の園芸 バラ大百科」(NHK出版 編)第1刷の「病気と害虫について」のQ&A 371ページに、次のような記述があります。
Q4 根頭がん腫病にかかったら焼き捨てるの?
根頭がん腫病にかかった株は直らないと聞きます。患部をえぐり取っていますが、焼き捨てなくてはなりませんか? ほかの株に伝染することはありませんか?
A こぶをえぐり取るだけでよい
頭がん腫病は完治しにくいですが、その病気のために株が枯死することはめったにありません。可能であればこぶ状の患部をナイフなどでえぐり取り、そのまま栽培することをおすすめします。根頭がん腫病は同じ株での転移や、隣の株への転移はめったにありません。そもそもの発生を抑えるためには、なるべく堆肥などの有機物を多くすきこみ、土壌の有用微生物をふやして地力の向上を図り、土壌微生物全体のバランスを整えることです。(河合)
これは河合伸志氏による回答でしょうが、「枯死や転移はめったにありません」というのはバラ苗販売業界に共通した意見とも思えます。ページ冒頭で引用したタキイ種苗(株)の解説=「発病株は抜き取って焼却する」と、この河合氏のアドバイス。これがバラの根頭癌腫病をめぐる「現実」なのでしょう。
私の観察結果は河合氏の見解とは大きく異なります。しかし誤解の無いように書き添えますが、河合氏の見解を間違っていると言っているのではありません。栽培環境や方法で根頭癌腫病の発症率は異なるでしょう。例えば、河合氏の栽培環境は土壌中のネマトーダの密度が私が住む九州とは違うでしょうし、また、バラはATに対し何らかの防御機能を持っており、その機能はバラの生育状態に応じていると思います。ゆえに何らかの理由でストレスの多い状態のバラは、根頭癌腫病の発症率が高いと考えています。したがって、バラの根頭癌腫病をめぐる「現実」は、白か黒かというような単純なものではありません。
7-3 河合氏の回答への疑問
『地力の向上を図り、土壌微生物全体のバランスを整えること』の重要さについては、私もそうだろうと思います。しかしこの文章には、根頭癌腫病の発症原因を栽培者に転嫁する 響きがありはしませんか?
『そもそもの発生を抑えるために』まず何より必要なのは、根頭癌腫病原菌に罹患していない健全なバラ苗の生産と販売だと思うのですが。
7-4 AT は どこで どのように 悪さ(遺伝子の一部組換え)をするのか
さて、「殺菌剤塗布」については、私は「根を洗ってチェックし、癌腫を丁寧にえぐり取り殺菌剤を塗布する。新しい培養土を使って隔離栽培し、その後の経過を観察する」という方法しか思いつきません。2015年春現在そのような株を、鉢植えで3株試験栽培中(前述のように、1株で再発)です。
でもこれは癌腫が株元近くに1〜2個できている場合に限られた話です。私が調べた事例では、株元附近に1個あれば太根の中間部分にも複数の癌腫があるケースが多く見受けられました。それらの癌腫をえぐり取ることや、癌腫ができた太根の切除は(不可能ではないにしろ)株に与えるダメージが大きく、焼却処分せざるを得ませんでした。
地際にできたクラウンゴールのみをえぐり取り殺菌剤を塗布してそのまま栽培を続けるという方法も、地植えの5株で1年前から試験栽培中です。1年経過して枯れてはいませんが、同時に植えた同一品種の別の株と比較すると、成長はかなり緩慢(生育不良)な状況です。
そもそも、この「殺菌剤塗布」という方法は「ATは植物体の外側(表面)にいる」というのが基本的な考えなのでしょう。でもATのサイズ= 1~3 × 0.4~0.8μm を根の組織の細胞構造やそのサイズと比較してみてください。
前述の、独立行政法人農業生物資源研究所 澤田宏之氏による 「いわゆる "アグロバクテリウム" について」 という文書から、その一部を引用します。(改行とナンバリング:そら)
遺伝子組み換え バラの根頭癌腫病の発症メカニズム
- 土壌中に生息する本菌は,宿主植物の傷口から分泌されるアセトシリンゴンなどの植物因子に誘引されて傷口に到達した後,植物細胞の細胞壁に付着する.
- 菌側の2 成分制御系によってこれらの植物因子が感知されると,そのシグナルが伝達されることによって vir 領域内の各遺伝子群(virD,virE,virB など)の発現が誘導される.
- その結果として,まず VirD1/D2 タンパク質の働きによって T-DNA 領域の両端の RB と LBに切れ目が入れられ,T-DNA がプラスミドから 1 本鎖の DNA 断片として引き剥がされる.
- 切り出されたT-DNA は VirD2 や VirE2 タンパク質とともに,タイプⅣ分泌系によって宿主植物の細胞内へと送り込まれる. VirD2 や VirE2 タンパク質は核移行シグナルを有しており,これらの先導によって T-DNA は植物細胞の核内へと輸送され,染色体へと挿入されて転移が完了する.
- T-DNA 上には植物ホルモン(オーキシンとサイトカイニン)の合成酵素遺伝子(iaaM,iaaHと ipt)が存在しており,T-DNA の染色体への挿入後,これらは植物細胞からの制御を受けずに構成的に発現するようになる.
- その結果,植物ホルモンが過剰生産されてバランスが崩れ,感染部位が異常増生し,こぶとして肉眼的に認められるまでに肥大していく.
- また,T-DNA 上には「オパイン」と総称される特殊なアミノ酸誘導体の合成酵素遺伝子(nos,acs など)があるので,がんしゅ組織では植物ホルモンとともにオパイン類も盛んに生産されるようになる.
- 一方,Ti プラスミド上にはオパイン代謝に関わる遺伝子群(noc,acc など)があるため,がんしゅ組織が生産したオパインを根頭がんしゅ病菌は炭素源として独占的に利用することができる.
- すなわち,本菌は植物細胞をがんしゅ化することによって自分専用の食料生産工場に作りかえてしまうことから,本病は「遺伝的植民地化」とも呼ばれている.
Hiroyuki Sawada National Institute of Agrobiological Sciences
このように、ATは植物体の傷口などから植物体内部(破壊された細胞組織や細胞間隙、篩部)に侵入して、やがて(破壊されていない、健全な細胞の)細胞壁に付着しますが、侵入しなければ(健全な状態の)植物体の外からは宿主細胞にT-DNAを送り込むことができないのは、この沢田氏の文書で理解できます。
切り出されたT-DNA は VirD2 や VirE2 タンパク質とともに,タイプⅣ分泌系*によって宿主植物の細胞内へと送り込まれる
*註:タイプⅣ分泌系に関しては、「病原細菌のⅣ型分泌系」(大阪大学 微生物病研究所 永井 宏樹氏)が参考になります。私には難解ですが、ATがT-DNAを送り込む方法はイメージできます。要は、ATは植物体の外からではなく内部に侵入して悪さをするということです。もちろん、できた癌腫内部の組織や間隙にもATがいます。
そして、それらのATは維管束を経由して植物体全体に拡散します。だから、
- 剪定鋏で伝染する(複数の実例写真あり)
- 剪定鋏が入っていない枝の途中でも癌腫ができること=転移がある(これも複数の実例写真あり)
- 株元に1個あれば太根にも複数の癌腫があるケースがほとんどで、これも "転移 " とすれば、
前述の河合氏の見解とは真逆で、「根頭がん腫病は 同じ株で転移しないことはめったにない」 - 「こぶをえぐり取って殺菌剤を塗布する」というのは、根本的対策としては無意味
- タキイ種苗やバラ苗生産農家の指摘のように、接ぎ木用の母木には使えない
7-5 根頭癌腫病が剪定鋏で伝染する実例
この5枚の写真はすべて同じ株の枝に発生した癌腫です。
上右は癌腫の色から判断してやや古いもので、下の写真の右2枚は、剪定鋏で伝染した(と思われる)比較的新しい癌腫です。
下左の黒くて大きな癌腫は上右と同じものですが、この画面には新旧の癌腫が4カ所に見えています。どこにあるかわかるでしょうか? 画像クリックで拡大表示します。
この隣に植えてある株の枝先にも3カ所に癌腫がありました。これもまず間違いなく剪定鋏で伝染したのでしょう。まず上の株で剪定が行われ、鋏に付着したATがこの株に伝染したのだろうと思われます。
剪定鋏による根頭癌腫病の伝染の事例は「噫、バラの根頭癌腫病」にも写真を掲載しています。
7-6 根頭癌腫病が転移する実例
転移が激発している事例です。節ごとに癌腫ができています。このような実例写真を複数撮っており、もっと多くの癌腫が株全体に発生している例もあります。それらはすべてがツルバラ系で、木立バラの枝ではこのような事例は見たことがありません。理由はわかりませんが、ツルバラ系は細胞壁や細胞膜が弱いのか、あるいは侵入してきたATに対する自己防御機能(ファイトアレキシンの生合成)が遺伝的に未発達=そのような遺伝子を持っていないのかもと想像できます。*
*註:細胞壁とファイトアレキシンについては、日本植物生理学会「みんなの広場」の 植物Q&A「細胞壁と液胞」 が、わかりやすく参考になります。
ただし、ATに対するファイトアレキシンは(私が知るかぎり)まだ特定されていないようです。弱った株や若い株に癌腫ができやすい事実から、健康なバラは ATに対する何らかの自己防御機能を持っていると思われるので、研究の進展が待ち望まれる分野です。
殺菌剤の塗布は植物体の表面(外部)にくっついているATを殺すだけです。問題は組織内部に潜り込んだATを如何に殺菌するかです。植物体には害を与えずATだけを選択的に殺菌するものがあればいいのですが、残念ながら現時点ではそのようなものは製品化されていません。前述のように「バクテローズ」にもその機能は期待できません。したがって癌腫ができたバラは、特にそれが防御機能が未発達の苗や幼株なら、焼却処分するしかないと考えています。
成株の場合は癌腫をえぐり取って殺菌剤を塗布し大量の化成肥料を与え続ければ、たぶん数年間はそれなりの花が咲くでしょう。でも次第に枝(花)の数が減り、株の形はいびつになってくるし、数年後には貧弱な株になって、けっきょく廃棄処分せざるを得ません。その間のATの菌密度の増大を考えれば賢いやり方とは思えません。このページ冒頭の症例写真がその実例です。
根頭癌腫病を『たいした問題ではない』と捉えるか、あるいは『深刻な問題』と捉えるか、その違いは栽培者の価値観に依るのでしょう。症例写真のバラ園の管理者は、『たいした問題ではない。バラは枯れるときには枯れる。枯れたら植え替えればいい』とのことでした。その話を聞いたときは驚きましたが、でも結果から見れば、「発見すれば直ちに焼却処分する」というのと違いはありません。違いは、癌腫の発症に伴う 土壌中のAT菌密度の増加 ですが、これとても「程度の差」に過ぎないのかもしれませんね。
とは言え、この「程度の差」というのは、栽培者の 価値観の反映 なのかも。以下はその(極端な)例。
7-7 癌腫病が出たバラ苗を生産・販売した者に対し、損害賠償請求の訴訟を起こす
この話は、自分が生産・販売したバラ苗に癌腫病が出た結果、その責任を問われて損害賠償を請求されたご本人から聞きました。気の毒で私からあれこれ質問するのは憚られ、自分から話してくれた内容しか知りませんが、私が驚いたのは訴えた方についてです。
この訴訟に勝つには、(1) 癌腫病の発症原因がバラ苗にあること、(2) 健全なバラ苗を生産・販売する注意義務に瑕疵があったこと(このケースではバクテローズは使用せず、それも争点になったらしい)、および(これが重要ですが)(3)自分の栽培環境には病原菌が存在せず、栽培方法にも落ち度はないことを立証する必要があると思うのです。
これって、すごいことだと思いません? 私には到底できることではありません。でも実際に「自分の栽培環境には根頭癌腫病の病原菌は存在しない」と自信を持って栽培している人がいるんですね。◯◯バラ会のメンバーだそうですが、たぶんそのための努力も惜しまず、だから、賠償請求の訴訟を起こすことになったのでしょう。ちなみにこのケースは「水耕栽培」などではなく「土耕」なのだそうです。根頭癌腫病とは無縁の栽培も、やろうと思えば
・・・と、ここまで書き進めてふと、『も し か し て、クロルピクリン?』という疑念が生じてきました。
「自分の栽培環境には根頭癌腫病の病原菌は存在しない」と主張するには、土壌燻蒸以外の方法を思いつきません。水稲を連続して5年以上栽培した水田には根頭癌腫病の病原菌はいないのだそうですが、このケースはそうではありません。そういえば、『和解条件のひとつにクロルピクリンによる土壌燻蒸というのがあった』と話してくれたのを思い出しました。その話を聞いたときは『苗に付いてきたATに土壌を汚染されたから(やむを得ず)土壌燻蒸するのだろう』と思いましたが、そうではなく以前から土壌燻蒸していたのかも*。。
もしそうだとしたら、前言「すごいことだ」は取り消します。すごいのはすごいけど、私には絶対マネすることのできない 凄さ です。
*:鹿児島県指宿市の樹木医・秋元さんに、ハウス内での野菜や花苗栽培の例として教えてもらったのですが、土壌燻蒸をすれば(毒ガスですから)すべての土壌微生物が死滅します。その後その土壌には偏った種類の微生物がドッと繁殖してしまうので極端にバランスが崩れ、一度土壌燻蒸をすれば毎年やる必要があるのだそうです。恐ろし。
クロルピクリンガイド | 技術情報 | 三井化学アグロ株式会社
7-8 もしみんなが損害賠償請求の訴訟を起こしたら
クロルピクリンの使用についてはともかく、もしみんなが癌腫病が出たバラ苗を生産・販売した者に対し損害賠償請求の訴訟を起こしたら、どうなるんでしょうね?
私には理解できないんですが、これが他の業界だったら、深刻な影響をもたらす製品を販売するなんて考えられますか? そのような企業は当然ながら社会的な制裁を受けるでしょう。『根頭癌腫病なんて、たいした問題ではない。こぶをえぐり取るだけでいい』と言うバラ苗販売の関係者はたぶん、自分の責任ではない と考えているんでしょう。
『節約して憧れのバラ苗をネットで購入したら、癌腫が付いた苗が届いてしまって、泣く泣く焼却処分しました』という話を、どう聞くんでしょうか。
8. 2014年追記:植物根頭がんしゅ病防除の未来は明るい?
右往左往していますが、しかし私はバラの根頭癌腫病の防除について、その可能性に期待しています。
- 耕種的防除方法の研究と実践(情報の共有)
- ATに汚染されていないバラ苗の生産(生産方法の改良)
- 根頭癌腫病に強い耐性のある(台木)品種の育種
- アグロバクテリウムに関する研究の発展
- ATを選択的に殺菌する殺菌剤(微生物製剤を含む)の開発と実用化
- and more
ネット上の関連情報などを読むと、宿主細胞のDNAの一部を書き換えるというアグロバクテリウム属の特異な機能は30年ほど前に明らかにされたそうですが、近年「分子生物学」が急速に発展しまた植物の遺伝子組換え技術の進化に伴って、そのベクター(運び屋)であるATの研究も進んでいるようです。
例えば、目的の遺伝子(T-DNA)を送り込んだ後のATは不要ですから、それを取り除く必要がありますが、それは比較的簡単に殺菌剤で殺すことができるのだそうです。その殺菌剤は特殊なものではなく、しかも(当然ながら)宿主細胞には害は与えないのでしょうから、そのような遺伝子組換えの研究で得られた知見を、植物の根頭癌腫病対策にも応用できないものだろうかと期待するのは浅はかでしょうか?
バラの根頭癌腫病についての研究が進み、有効な対処法が開発・実用化されるのを促進させるためには、
私たち栽培者が根頭癌腫病の被害の実態について、もっと声を上げることも必要ではないか と考えます。『臭いものにフタ』では技術の進歩は期待できないのでは。
言わずもがなですが、専門家に期待するだけでなく、自分にできることは(例えば "耕種的防除" などは)今後もやっていくつもりです。前述の「アグロバクテリウムを用いた植物バイオテクノロジー」には、『細菌(AT)は糖やアミノ酸には正の、またアルコールや有機酸には負の走化性を示すことが分かっている』とあります。代表的な有機酸の「クエン酸」を(私の環境では摘果した柑橘類を)バラの株元に撒けばATが逃げ出すかも・・と想像するだけでも痛快です。具体的な条件などはわかりませんが、これなどは私のようなアマチュア栽培者でもテストが可能かもしれません。