このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

お知らせ

バラの育種 を仲間と共に学びたい初心者を対象にした オンライン勉強会 を計画中です。

オンライン ミーティングシステム "Zoom" を利用して、月2回(年間20回程度)の開催で、 参加費無料の勉強会です。

内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。



2015年4月22日水曜日

Grafting Roses バラの接ぎ木

15年1月29~30日に鹿児島県かのやばら園で開催された "Gardening with David" は「バラの接ぎ木」がテーマでした。講師は デービッド・B・サンダーソン さんで、「芽接ぎ」「デービッド式 割接ぎ」そして「デービッド接ぎ」を実習しました。デービッドさんのバラの接ぎ木方法については、これまで2013年2月7日の記事:「バラの接ぎ木」などで詳しく紹介していますので、今回は デービッド式 割接ぎ をメインに紹介します。

テキスト"Grafting Roses" は 講座で使われたものです。著作権者のご了解を頂きここに転載します。
文と写真:David B. Sanderson  日本語訳:丸野里美  (C) NPO法人 ローズリングかのや

Grafting Roses

David B. Sanderson

  1. Selecting bud wood for grafting rose  バラの接木のための穂木の選び方
  2. Crown gall and Grafting Roses  根頭癌腫病とバラの接木
  3. Methods of grafting roses  バラの接木方法
発芽するバラの芽

Grafting Roses and Welding steel   バラの接ぎ木 と 溶接

When people talk about grafting roses, it always sounds so hard to do, and only highly skilled people can do it with years and years of experience! And don’t forget it dangerous you might cut your fingers off will you be ok? It makes me geeegel to hear this from people.

多くの人がバラの接木の話をする時はいつも、それが大変難しく何年も経験を積んだ熟練の人だけができることだという感じで話し、そして「それは指を切り落としてしまうかもしれない程危ないことだけど、あなたは大丈夫?」ということも必ず言っています。私は、このようなことを聞くと、クックックッと笑いたくなります。

It reminds me of my days in England when I used to have to take my peace of crap of a car in for its MOT. The Yankee mechanic used to say, “oh! Mr. your car needs a lot of welding, and it is going to cost you, because you know welding cars is such a skilled job!” I used to say to him, ”show me where it needs welding? Here and here did you say? Thank you” And I did welding by myself.

このことは、私が英国で自分のオンボロ車を車検に出さなければならない時に、アメリカ人メカニックが言ったものでした。「ォ-、お客さん、あんたの車はかなり溶接しなけりゃいけないよ。結構な料金になるよ。なぜかって?そりゃあ車の溶接ってのは熟練の技術が要るからだよ。」それに対して私は、「どこに溶接が必要だって?こことここって言った?(教えてくれて)ありがとう」そして、(彼にお金を払うことなく)私は自分で溶接をしたのです。

I started welding when I was 12 years old with my father just for having fun, I am not a pro x ray welder but I could weld and fix my old car in England, it was a Land rover. I use to use a Mig Argon shield welder and a Carbon lance, also an Arc welder for making hanging baskets for people gardens, etc.

私は12歳の時から、父と一緒に溶接を始めました。単に楽しかったからです。プロのようにはいきませんが、英国で乗っていた車(ランドローバー)の溶接や修理はできました。私が使っていたのは、ミッグアルゴン・ガス・シールド溶接機とカーボンランスでした。また人々の庭に飾るハンギングバスケットを作る為に、アーク溶接機も使っていました。

Selecting bud wood for grafting rose  バラの接木のための穂木の選び方

Back to grafting roses what I am trying to say in the above that grafting roses is not as complicated as many people would like you to think. The most complicated thing in grafting roses is the state of the bud wood that will be used. The method for selecting bud wood for grafting roses is the opposite method for pruning roses, don’t get them mixed up.

接木の話にもどりますが、上記の文章で言いたかったことは、バラの接木は多くの人があなたに思わせようとするほど難しいことではない、ということです。バラの接木の中で最も難しいのは、接木に使われる穂木の状態(選び方)です。バラの接木用の穂木を選ぶ時の手法は、バラの剪定をする時とは逆の手法なのです。どうぞ、ごちゃ混ぜにしないでください。

(If you repeat taking bud wood from the same roses year after year it will weaken them and they might only last 3 years at tops) (It is that different) From a good health roses I could get at least 100 eyes but doing this year after year I would be taken out the best growth of the rose weaken it.

もし、毎年同じバラ株から穂木を取ってしまうと、その株は弱ってしまい、おそらくわずか3年程で枯れてしまうでしょう。とても良い健康なバラ株からは、少なくとも100個の芽を見つけ(穂木にする)ことができました。しかしこのようなことをやると、最も元気なバラ株を弱らせてしまう事につながったのです。

The bud wood has to be hard when you bend it you should hear a cracking sound. The bud would should not be too old and not too young nor a new growth. Also its stems should not have had any flowers on and it should be dormant.

穂木は固くなければいけません。その目安は、曲げて折ってみたときに、折れる音がすることです。穂木は古過ぎてはいけないし、若過ぎても、また新芽を持っているものもいけません。また、その枝には花があってはいけないし、休眠状態でなければいけません。


Out of the three roses which is the best one for taken the most amount of bud wood. How many roses do you think you will be able to graft? 25 30 40 50?
この3つのバラ株で、どれが最も多くの穂木を取れる株だと思いますか?そして、その株から、何本ぐらいの接木ができると思いますか?25本?30本?40本?50本?

Crown gall and Grafting Roses 根頭癌腫病とバラの接木

One more thing I nearly forgot was crown gall ( Agrobacterium tumefaciens ) and grafting roses.

もうひとつ、忘れかけていた事があります。それは、癌種病(病原菌のアグロバクテリウム・ツメファシエンス)と、バラの接木についてです。

Most commercial root growers pre dip their root stocks at the seed stage or cutting stages. Any part of a rose infected with crown gall you cannot use for grafting roses. Do you know why?

ほとんどの台木育苗業者は、その種の段階もしくは台木苗を切る段階で(殺菌剤・バクテローズ)に漬けます。
バラのどの部分においても、癌種病が発生してしまったらそのバラは接木には使えません。なぜかわかりますか?

Methods of grafting roses that we will do today 本日の講座で行う接木の手法

Eye grafting, split graft and David’s Side graft. 3 types.

(左から)「芽接ぎ」「デービッド式 割接ぎ」そして「デービッド接ぎ」の3つの手法の実習を行います。

:「デービッド接ぎ」というのは私がつけた愛称で、デービッドさんご本人はそういう言い方はしません。直訳すれば「横継ぎ」または「腹接ぎ」でしょうが、あえて「デービッド接ぎ」と呼ぶのは、デービッドさんが独自に考案したその方法の特徴を意識するからです。

『なぜかわかりますか?』という問いへの私の答えは、「バラの根頭癌腫病 -2」にまとめています。

接ぎ木実習

3つの手法のうち、「芽接ぎ」と「デービッド接ぎ」は既に紹介しています。その主なものは;

デービッド式 割接ぎはデービッド接ぎと同じ手順ですが、台木の枝を残しません。ここでは「デービッド式 割接ぎ」の手順を紹介しますが、基本はデービッド接ぎと同じなので、例えば接ぎ穂の調整などは、デービッド接ぎを紹介したページを参照してください。

デービッド式 割接ぎ

デービッドさんが手にしているのが「デービッド式 割接ぎ」です。一般的な「切接ぎ」とは接ぎ穂と台木の接合関係が異なります。また、台木の枝は切除するので「デービッド接ぎ」とも違います。

"デービッド式" と呼ぶのは、台木の枝を残したまま作業することや台木の根を切らないなど、工夫された独自の方法だからです。ちなみに "Eye grafting"(芽接ぎ)は一般的な方法なので、「デービッド式」とは言いません。

1 接ぎ木小刀を研ぐ

まず小刀を研ぎます。下の2枚の写真はデービッドさんによるデモで、この小刀は「田主丸型」です。これは果樹や庭木などの苗生産が盛んな福岡県田主丸(たぬしまる)地区で昔から使われている接ぎ木用小刀です。刃が独特の形状をしているので、研ぎ方にもちょっとしたコツがあるようです。

砥石の端を使い、「刃の一部だけを研ぐ」というつもりで部分的に研いでいきます。そのようにして刃の切っ先まで全部を研いだら、小刀を返して、今度は(部分的にではなく)刃の裏側全面を研ぎます。

2 台木の準備

この台木は鳥取県の台木専門農家が育てた「A苗」だそうです。2014年夏の西日本地区は雨が多く、どこのバラ苗生産者も高品質な台木の確保に苦労されたと聞きました。

3 台木の調整

まず、台木の首をウエスで拭いてきれいにします。この時点では台木の枝や根は切りません。つぎに、台木の枝を握って、接ぎ穂を差し込む部分に「切れ目」を入れます。
ナイフの持ち方や、「切れ目」の作り方はデービッド接ぎと同じですから、「バラの接ぎ木」を参照してください。

4 穂木の選択と接ぎ穂の調整

穂木の選択は、接ぎ木の大事なポイントです。テキストを参照してください。また、2014年11月19日の記事:「穂木と台木の充実度がポイント バラの接ぎ木」に、私なりの方法を書いています。

穂木の芽を確認し、「接ぎ穂」を調整します。この作り方は「バラの接ぎ木」を参照してください。

5 接ぎ穂のセットとテーピング

作った「接ぎ穂」を台木の切れ目に差し込んで、隙間無くきれいにフィットするか、形成層は合致するか、確認します。このまま接ぎ木テープを巻けば「デービッド接ぎ」になります。

「デービッド式 割接ぎ」は、テープを巻く前に台木を首の部分で切断し枝を切除します。切る位置は、デービッドさんの左人差し指の爪のすぐ上に台木の色が変わっている部分が見えますが、その上あたりです。バッドユニオン(枝が何本も出ているところ)からみれば、この場合はその下5〜7mm程度の位置です。

台木を切ったら、接ぎ木テープを巻きます。テープは「ニューメデール」を使います。デービッドさんが使っているこのテープは剥離紙のある(古い)タイプです。

接ぎ木テープは基部から引き延ばしながら巻き始め、接いだ部分がズレないように、芽の上は1回だけ、そして接ぎ穂も含めて全体を巻きます。巻き終わりは引きちぎるように強く引けばテープどうしが密着して切れます。結ぶ必要はありません。

「デービッド式 割接ぎ」と「デービッド接ぎ」の 分かれめ

写真上左:前述のように、このまま接ぎ木テープを巻けば「デービッド接ぎ」になりますが、でもこの台木はデービッド接ぎには使えません。なぜなら、重要 デービッド接ぎの台木は 長さ20cm程度の枝 があり、そこから接ぎ穂と台木の癒合に必要な養分などが供給されることが前提です。

この台木はバラ苗栽培農家の切接ぎ用に生産されたもので、圃場から機械で掘り上げるために、切接ぎに不要な枝はあらかじめ短く切除されています。参照:その作業の写真

今年の講座で提供された台木は特に枝が短いです。作柄なのか、枝を切る機械の設定なのか。 この状態でデービッド接ぎをすれば、まず台木の枝から多くの芽が出て、接ぎ穂の芽はその勢いに負けデービッド接ぎのメリットが生かせません。

左の写真がその実例です。講座から1週間後の2月6日に、講座で提供された台木に ERの「ムンステッド・ウッド」をデービッド接ぎして、その1ヶ月後3月6日の状況です。
接ぎ穂の芽も僅かに動いてはいますが、台木の芽の勢いにはかないません。

上の写真の撮影後、台木を首の部分で切断しました。デービッド接ぎの場合、接ぎ穂の新梢が5cmほど伸びてから台木をカットするのですが、このままでは台芽に負けると思ったからです。

結果的には正解で、この株は5月1日現在2本の主枝が30cmほど伸び、その先端には蕾を付けています。

この台木に接ぐ前には(あたりまえ過ぎて)あまり意識していなかったのですが、デービッド接ぎの特徴を活かすには、台木の枝から養分などが供給されることが必要です。それが期待できないこのような台木では、初めから「デービッド式 割接ぎ」をするのが良いと思います。

この台木なら枝葉からの養分の供給が無くても、台木自身が内包しているもので充分だからです。

6 接ぎ木した株の植付け

さて、デービッドさんの接ぎ木講習会にはこれまで5回ほど参加したのですが、接ぎ木した株の植付けについて具体的な指導があったのは今回が初めてのような気がします。

そのポイントは(写真のように)、接ぎ木テープを巻いた部分が土に埋まらぬよう「浅植え」することです。接ぎ木部分から、株を痛める雑菌が入らないようにするためです。

写真上右:接ぎ木後約2週間が経過した割接ぎ苗。接ぎ木テープを突き抜けて新芽が伸び始めています。

雑菌・雑感

土壌微生物と接ぎ木

九州大学農学院の金澤晋二郎教授(「土の薬膳」の開発者)の講義によれば、一般的な土壌1グラム中には10億という(信じられない)数の微生物がいるのだそうです(仰天)。そしてその種類は2万種におよぶのだとか(仰天 X 仰天)。もし6号ポットに植付けると、その数「」(絶句)。私の畑全体では? 桁がわからん(気絶)。

金澤教授は2013年の記事「2月3日 快晴」の中でも紹介していますが、気さくで、そして粋な方です。10億という数を聞いたとき、私は露骨に『え〜? 信じられん』という反応をしたのですが、じつは金澤先生は、2015年7月に福岡市で開催される「第13回 微量元素の生物地球化学に関する国際学会(ICOBTE 2015 FUKUOKA)」のChair(理事長)という偉い方なのでした。国際学会のロゴが「博多人形」というのが、三味線を持ってきれいどころと一緒に「博多どんたく」に参加されるという、金澤先生らしいですね。偉い先生だから説が正しいと言うのではありませんが(笑)、土壌微生物関連学会の別の先生が書かれた論文には「14億」という数字がありました。

ただし、土壌微生物(バクテリア)の種類数については諸説あり、同定されている種類に限定するとその数は僅かなのだそうです。ゲノムの解析によって同定するのでしょうが、あるバクテリアの遺伝子を解析できるほどに集めることも厄介な作業なんだとか。

(閑話休題)例えば、バラの根頭癌腫病の病原菌 = Agrobacterium tumefaciens(アグロバクテリウム・ツメファシエンス)はふだんは土の中にいて、株の傷口から浸出する低濃度のフェノール性物質「アセトシリンゴン」に誘引されて集まり、さらに宿主の組織内に侵入して宿主細胞の遺伝子の一部を自分にのみ有利なように組替えます。その結果が癌腫(クラウンゴール)ですね。したがって、接ぎ木した部分が完全に固まる(1年後?)その前に土に埋めるのは危険です。

それが気になるのは「潅水時」です。接ぎ木テープ「ニューメデール」を引っ張りながら巻けば、その伸縮性で密着し容易には水を透さないと思います。でも もし僅かな緩み(隙間)があれば恐いですね。なにしろ「1グラムの土に 2万種 10億」ですから。中にはアグロバクテリウム・ツメファシエンスのように鞭毛を動かして水の中を泳ぐヤツもいるし。

私のように秋挿しで作った台木を使う場合、根は柔らかい細根ばかりなのでこのような「浅植え」ができません。やむを得ず接ぎ木テープを巻いた部分が土に埋まってしまうのですが、そこから侵入したのかもしれない雑菌によると思われる接ぎ穂の枯れ(褐変)が何例かありました。

水が上がらず接ぎ穂が枯れる(単純な水不足、導管に気泡が入る、あるいは繁殖した雑菌が導管を塞ぐ)場合と、雑菌による接ぎ穂の腐敗(褐変)は、ある程度は見分けがつきますが、雑菌の仕業によると思われる接ぎ木の失敗は、私の場合は意外に多いです。バラ苗生産農家は水に浸けた濡れた台木ではなく、土ぼこりが立つかと思えるほど乾いた台木を使いますが、これは(たぶん意識されていないと思うけど)雑菌対策でもあるのかも?
参照:"接木ドットコム"のYouTube動画「バラの切接ぎ方法~穂木の作り方と接木テープの巻き方」

デービッドさんは、台木の首(接ぎ木する部分)をきれいなウエスで拭います。これも雑菌対策なんでしょうね。

デービッドさんはイングリッシュ・ローズを植付けるときはかなり「深植え」するので、この接ぎ木苗の極端とも思える浅植えは、私にはとても印象的でした。イングリッシュ・ローズにはいわゆる「新苗」というのはありません(販売されていません)が、新苗の植付けについて別の機会にデービッドさんの話を聞いたことがあります。新苗も同様に「接いだ部分を土に埋めない」とのことでした。これは多くの栽培者が実践してあることですね。

デービッドさんの新しいプロジェクトで、2015年2月鹿児島県大隅半島にある「花の木農場」の花壇に、イングリッシュ・ローズ250株ほどが植付けられました。

手製の50cm定規が地表面、そしてデービッドさんの左親指と人差し指の間が接ぎ木した部分です。深植えの程度がわかるかと思います。

この植付け作業を手伝いながら写真を撮っていますので、イングリッシュ・ローズの植付け方法の具体例を、後日アップする予定です。

追記:イングリッシュ・ローズ植付けの実例を「南大隅の薔薇」にアップしました。

台木の(短期)保管

前述のように、バラ苗生産農家は圃場に植えた数万本の台木を機械を使って掘り上げます。その時期は11月下旬から12月です。接ぎ木のシーズンは1月ですから、そのあいだ台木はどのように保管されているのでしょう? 

掘り上げた株の根を(自根株だけでなく接ぎ木された株でも)そのまま水に浸けておいても、厳寒期ならば1ヶ月程度は特に問題ないと思われます。何回かそのような経験があるし、そういう話も聞いたことがあります。台木の場合はどうなんでしょうね。

掘り上げや保管の作業現場を見たことはないので詳しいことは知りませんが、バラ苗生産農家の接ぎ木作業を見学させてもらったことなどから推察すると、それは水には浸さないで「冷蔵保管」なのでは?と思われます。

機械堀りした台木の根を一定の長さに切り揃え、それを束ねて発泡スチロールの(リンゴ箱程度の大きさの)箱に入れ、濡らさないまま密閉し、軽く休眠する程度に温度設定された農業用の大型冷蔵庫(保管庫)で、接ぎ木するまでの短期間保管する。台木の根は(根の表面や切り口は)乾くけど、根や台木そのものが枯死するほど内部の水分が奪われることはない。ただし細根の先端部分は枯れる(弱る)ので、保管のスペースの問題もあり、これは初めから切って保管する・・と思われます。

これはあくまでも「推測」です。プロの真似をしようとは思いませんが、根を水に浸け置きするか、あるいは水気無しの冷蔵か、どちらがバラのために良いのか技術的な興味があります。

台木の根を切るか否か

デービッドさんの接ぎ木の特徴のひとつは「台木の根は切らない」ということです。デービッドさんによれば、「台木の根を切るのは、保管スペースや鉢上げしたときの培養土の量、鉢上げに要する手間、輸送コストなど生産者の都合に過ぎず、バラのためには良くない」という考えです。

バラ苗栽培農家の新苗生産の場合、台木は接ぎ木前に根を切られ、接ぎ木後4号ポットに植えられてハウスで4月まで養生された後に出荷されるのですが、4号ポットでも数万株となれば、必要な培養土は中型ダンプ1台分ほどにもなります。デービッドさんは一時期バラ苗生産に従事していたことがあるそうなので、「生産者の都合に過ぎない」という意見は説得力があります。

私のこの台木の場合、根を切らなければ先端部分は6号深鉢の底に着きます。面倒でしたが、根は切らないまま緩やかに曲げて植付けました。3ヶ月ほどで地に降ろす予定なので、その間に曲がったまま硬くなることもなかろうと考えて。。

もしこの台木を4号ポットに植えるなら、根の半分は切り捨てることになりますね。切っても枯れることはないでしょうが、『バラのためには良くない』のではと私も思います。

ただちょっと気になるのは、「根の先端部分は、新しい根を出やすくするために切った方が良い」という意見も(特に他の園芸作物の場合などに)多く見受けられます。スペースやコストを気にする必要の無い私たちアマチュアは「バラのために」という視点で考えればいいのですが、台木の根を切るべきか否か、どっちなんでしょう?

その答えを得るのは簡単。台木の保管や根の処理は 自分で試してみればいい のですよ、そらさん。

7 接ぎ木後の管理

2014年度の1年間、鹿屋市の かぜさんえっちゃん が、研修生としてデービッドさんの指導でバラ栽培の勉強をされました。これは、お二人が接ぎ木したデービッド接ぎ(左)とデービッド式 割接ぎ(右)の一部で、ハウス内で管理されています。1月29日(接ぎ木から約20日後)に撮影。pFメータ(テンシオメータ/土壌水分計)がセットされており、鉢土の上には "IB化成" が置いてあるのが見えます。

培養土はデービッドさんの処方ですが、一般的な用土の他に "ゼオライト" が配合されているのが特徴です。

培養土の配合
品名 混合量(L)   割合  
 鹿沼土 45  3 
 ピートモス 30  2 
 バーク堆肥 15  1 
 軽石 22.5  1.5 
 バーミキュライト 7.5  0.5 
 籾殻燻炭 7.5  0.5 
 苦土石灰 500g   
 ゼオライト 1800g   

メインは鹿沼土で赤玉土が使われていません。これをデービッドさんに確認したところ、『地元で容易に入手できる土を使ったから』とのことでした。ならば「軽石」はパーライト?

註:「混合量」は、130Lモルタル・ミキサー使用の場合

写真左:かぜさんの割接ぎ。 接ぎ木からおよそ2ヶ月後の3月13日撮影。浅植えされた台木から、新梢が大きく伸びています。蕾もついていますね。この株だけではなく、多くの株が太くたくましい新梢を伸ばしています。

写真下:かぜさんとほぼ同じ時期に接いだ、私の株の2ヶ月後です。2株とも同じ品種で、左はデービッド接ぎ、右がデービッド式 割接ぎです。デービッド接ぎは既に台木がカットしてあります。

品種が異なるので単純な比較はできませんが、かぜさんが接いだ割接ぎの生育の良さが目立ちますね。その差はどこから生じるのでしょう? 理由は3つあると考えています。

  1. 接ぎ木後の温度管理 かぜさんはハウスで私は露地
  2. 台木の充実度 私の台木は充実度の低い秋挿し台木
  3. 肥料の種類と施肥のタイミング

かぜさんは液肥 "OK-F-12" と "IB化成 IB-S1号" を組み合わせて使われたようです。私は "パワフルアミノ" を植付け1ヶ月後から使いましたが、それでは遅過ぎたのかも。

「デービッド式 割接ぎ」と「デービッド接ぎ」の比較テストを含む今年の私の接ぎ木作業とその結果は、後日、別記事で投稿する予定です。

2015年11月追記:「デービッド接ぎ」のまとめとして「デービッド接ぎ 補遺」をアップしました。

デービッドさんと スパーキー

デービッドさんの愛犬(ともだち)スパーキーです。

この後私は、鹿児島県大隅半島の「花の木農場」や、香川県小豆島のオリーブ公園のバラの手入れに、スパーキーと同行することになります。

小豆島は かぜさんやえっちゃんと一緒でした。

小豆島での一夜、かぜさんとビールを飲みながら「デービッド接ぎ」や「デービッド式 割接ぎ」、あるいは一般的な「切接ぎ」について話が盛り上がりました。私はこの数年「デービッド接ぎ」一辺倒で、かぜさんの方法は「デービッド式 割接ぎ」がメインです。

違いは「台木の枝を残すか切るか」だけなんですが、その違いはどんな結果を生むのでしょう。

かぜさんは(研修生とはいえ)しっかりした考えをお持ちで、バラ苗の促成栽培ではなく、どうすれば太くて丈夫な苗ができるか、テストや結果の分析など、熱心に取り組まれています。とても良い研修だったようで、今後が楽しみです。

えっちゃん、かぜさん、ありがとう。必ずまたご一緒に。
2015年3月2日 小豆島オリーブ公園「ハーブガーデン」にて

2015年4月21日火曜日

バラの接ぎ木 小林流 接ぎ木

自分に適したバラの接ぎ木方法を探すため、1月24日に 北九州市の「グリーンパークバラ園」で開催された接ぎ木講習会に参加しました。講師は 同バラ園技術顧問の小林博司先生 です。先生の接ぎ木方法は独自に工夫された要素も多く、バラ苗生産農家の方法とは微妙に異なる方法です。バラ苗生産農家の方法を「切接ぎ」と呼ぶなら、小林先生の方法は「割接ぎ」と呼ぶべきかもしれませんが、ここでは「小林流 接ぎ木」とさせていただきます。

ページ後半は、私の「切接ぎ」の手順と、その後の経過をレポートします。

バラ苗生産農家の切接ぎに関しては、「接木ドットコム|接ぎ木情報と接木テープ」のページにその様子を紹介した動画「バラの切接ぎ方法~穂木の作り方と接木テープの巻き方」があります。この動画のモデルになった接ぎ木職人さんは、私に切接ぎを教えてくれた◯◯さんかな?と思うほど、手順も服装や道具、ハウス内でラジオを聞きながらという作業環境もそっくりです。まず間違いなく、福岡県田主丸(たぬしまる)のバラ苗生産農家での収録でしょう。

田主丸地区にはバラの接ぎ木をされる方が少なくとも数十名はいるでしょうから、中には自分なりに工夫された接ぎ木方法もあるでしょうね。でもこの動画で見る方法が標準的なものだろうと思います。ナイフの持ち方、ナイフの刃先の位置、手の使い方、特に左手の指1本1本の位置とその役割を考えながら見ると、安全性と効率を両立させるための接ぎ木職人さんたちの工夫がわかると思います。

グリーンパークバラ園 小林博司先生

小林先生はバラ栽培歴50年。北九州市の職員としてのお仕事をされながら、独学でバラの栽培に取り組んでこられました。「グリーンパークバラ園」が開設されてからは、その責任者としてすばらしいバラ園を作り上げられ、また講座の開催は600回にもおよぶというという熱心な指導者でもあります。

私は、現在グリーンパークバラ園で毎月開催されている先生のバラ栽培講座を受講しています。過去数年、何度も先生の講座に参加し、また個人的にご指導を受けたりもしました。2011年11月20日の記事:「小林さんの笑顔」に、先生に初めてお目にかかったときの印象を書いています。

その後、2013年4月から1年間にわたり、粕屋町バラサークルの主催で開講した「環境に優しい オーガニック バラ栽培講座」の開講記念講座の講師は、小林先生にお願いしました。

グリーンパークバラ園は「オーガニック栽培」ではありませんがそのような違いを超えて、『先生のバラ栽培にかける熱意やお考えは、私たちアマチュアのお手本』と思ったからです。

小林流 接ぎ木の手順

さて、公開のお許しいただいているので、小林流 接ぎ木の手順を追ってみます。写真はそれにそって並べますが、何回かのデモの写真が混ざっています。多数の方々が参加した講座の進行の邪魔にならぬよう撮ったので、説明不足やわかりづらい点があるかもしれません。

穂木について

接ぎ木に使う穂木の採りかたについての説明とデモ。先生が持ってあるのが採取した「穂木」です。

バラ苗栽培農家のように母木からではなく、ふつうに栽培している株から穂木を採ります。

2014年11月19日の記事:「穂木と台木の充実度がポイント バラの接ぎ木」にも書きましたが、穂木の採取は『主枝を株元近くから惜しげもなく切る』という大胆さが必要です。

でも、自分のではないバラをそう簡単には切れませんよね。みなさん、遠慮して先端部分をちょっと切るんですが、それでは穂木が未熟で使えません。

台木の根の処理

室内に戻り、接ぎ木作業の開始です。

まず「台木」の根を切りそろえます。根の部分を握って、その下からはみ出すような根は、太根も細根も切り捨てます。

備考:これまで何度か紹介してきた「デービッド接ぎ」では、根は切りません。

台木と接ぎ穂

台木と穂木の「下準備」ができました。

形成層の説明

表皮と木質部の間にある「形成層」の説明。台木も接ぎ穂も、形成層と木質部の境目にナイフを入れ、台木の形成層と接ぎ穂の形成層を合わせます。

形成層

実際の台木の切断面です。

とても充実した台木で、「髄」の部分がまったく無く、中心はすべて木質部になっています。かなり厚い形成層がはっきり見えています。

この形成層と木質部の境目にナイフを入れるんですが、これほど明瞭だと迷うことはありません。

これと比較すると私が挿し木で作っている台木は未熟であることがわかります。ただ惜しむらくは、この台木は(長期間水に入れられていたのか)やや弱っているように見えます。

台木の切り分け

ここが「小林流 接ぎ木」のユニークなところです。前述の動画で見るバラ苗生産農家の方法とは、台木の持ち方、ナイフの使い方が大きく異なります。

この角度から見ると『恐い』ですよね。ちょっとナイフが滑ると、左手親指や人差し指を「ザックリ」なんてことになりかねません。そのように見えます。

逆側(先生の目線)から見ると。。

なるほど。両手の親指に力を入れて、ナイフが滑らないようにブレーキをかけているんですね。

特に左手の親指はしっかりと台木を押さえています。ナイフを大きく動かして一気に切るのではなく、左親指の力の入れ具合を加減しながら、少しずつ切り下げていきます。
「切り分けて」または「切り裂いて」という表現の方が適切でしょうか。

ナイフを入れる位置は、形成層と木質部の境目よりもやや内側(木質部側)のように見えます。

接ぎ穂のトゲを外す

台木の準備ができたら、つぎに接ぎ穂の調整をします。まずはさみを使ってトゲを外していきます。

長めの接ぎ穂も小林流の特徴でしょうか。大量に生産する苗生産農家は限られた量の穂木からより多くの接ぎ木苗を作る必要があるので、ふつう1芽だけの(短い)接ぎ穂を使います。

接ぎ穂の調整

接ぎ穂基部の調整は、まず一刀で斜め切りし、つぎに逆側から形成層に沿って削る という一般的なものです。これも前述の動画を参考にしてください。

接ぎ穂を差し込む

小林流接ぎ木のもうひとつの特徴は、調整した接ぎ穂を 台木に差し込む という印象の接ぎ方です。台木と接ぎ穂の向きが一般的な方法とは逆になっています。

一般的な切接ぎでは、接ぎ穂の斜め切りした側は、台木の外側(外向き)になります。左親指が台木の中心側で、接ぎ穂の斜め切りした部分がその方向を向いています。

この部分だけを見れば、 これは「デービッド接ぎ」あるいは「デービッド式 割接ぎ」と同じです。

一般的な方法とデービッド接ぎ、どちらが活着が良いのか。「上手な人の手にかかれば、どっちでも同じ」なんでしょうが、さて、あまり上手じゃない自分むきの方法は?

接ぎ木テープ

接ぎ木テープは「ニューメデール」ではなく、従来型の結ぶタイプのものです。基部から巻き始めます。

接ぎ穂の調整もユニークです。穂木のいちばん下に「良い芽」があるのはよくあることで、しかも良い芽が短い間隔で数個あることも。ふつうの切り方をするとこの芽は使えません。でも、もう一段下の枝から切れば、この「良い芽」を活かすことができるんですね。

下から巻き始め、上まで巻いたら下に戻って結ぶというやり方です。ちょっと力を入れて締め付けるように巻き、最後も緩まないようにギュッと固結びします。

写真を見て気づいたのですが、この接ぎ穂(上の写真と同じもの)には4か5個の芽が付いていますね。

接ぎロウ

接ぎロウは、蜜ロウかカスタードクリームみたいな色でした。これは特殊なものではなく園芸店で売っているものだとか。接ぎ木テープを巻き終えたら、刷毛を使ってたっぷりと、台木のかなり下の部分まで塗ります。

これは、講習会場で私が接いだものです。小林流ではなく一般的な「切接ぎ」で、接ぎ穂は1芽です。

受講者にはあらかじめ切られた台木が配られました。台木の長さは15cmです。

接ぎロウは先生が塗ってくれたんですが、塗り具合がわかります。私は接ぎロウを使った経験が無く、『こんなに厚く塗るのか』とちょっとびっくり。

先生の接ぎ木ナイフ

小林先生が愛用する接ぎ木ナイフは、私は初めて見る形状で、これは「T芽接ぎ」にも便利に使えそうですね。特注品だそうで、『後藤みどりさんからのプレゼントなんです』と嬉しそうに話してくれました。

そらの 切接ぎ 2015年1月27日

接ぎ木講習会では、バラの接ぎ木は初めてという参加者のお手伝いをさせてもらったので、自分のものは1本しか接ぎませんでしたが、3日後の1月27日、テーブルバイスを使って4本ほど切接ぎをしました。 その方法は「小林流」ではなく、一般的な「切接ぎ」です。それを確認したかったからです

台木の調整

この台木は講習会で提供されたものです。作業にはテーブルバイスを使いました。まず台木をきれいに拭いて(小林先生は拭きません)、台木の木口を僅かに斜めに切り落とします。その部分の形成層と木質部の境目にナイフを入れ、形成層に沿って切り下げていきます。

接ぎ穂をセット

写真左:これが一般的な(私がバラ苗生産農家に教えてもらった)切接ぎです。これは2芽ある接ぎ穂ですが1芽でも同じです。

ここがポイントなので繰り返しますが、この写真で台木と接ぎ穂の「向き」がわかります。接ぎ穂の斜め切りした側が台木の外側にありますね。小林先生の方法ではこれが内側になります。デービッド接ぎも内側です。
『どっちでも同じだろう』って? そうでしょうか。。

接ぎ木テープは「ニューメデール」です。私は「接ぎロウ」を持っていないので、その代用として「エコピタ液剤」の原液にドブ漬けしました(写真右)。「エコピタ液剤」は有機JAS適合の殺虫・殺菌剤ですが、主成分が「還元澱粉糖化物」で「乾くと固まる」という性質に期待して使ってみました。接ぎ穂の先端の木口には「バッチレート」を塗っています。

切接ぎ作業 終了

6号プラ鉢に植え込みました。右から3株が接ぎ木講習会で提供された台木に接いだものです。接ぎ穂のカバーには「エコピタ」か「接ぎロウ」を使い、奥にあるのは全体をニューメデールで巻いています。

左の2株は自作の秋挿し台木に接いだもので、これにもニューメデールを巻きました。

これらを庭に置きました。日当りは悪くありませんが、建物の間から風が吹き抜ける場所です。保温や保湿のための処置は何もしていません。

なぜか芽の動きが遅過ぎる 3月7日

3月になる頃やっと芽が動き始めましたが、これでは遅過ぎると思います。厚く塗られた接ぎロウは、芽に押されて自然に剥げ落ちました。エコピタを塗ったもの(写真下右)の芽の動きも(遅いという以外は)別に問題は無いと思います。

なんと 切接ぎ失敗8株も! 4月21日

今年はこの5株を含め全部で10株の切接ぎをしました(切接ぎとは別にデービッド接ぎを100株ほど)。接ぎ木作業からおよそ3ヶ月が経過した4月20日現在、これら切接ぎの結果が見えてきました。残念ながら、ここで紹介した2株以外は芳しくありません。と言うか、「絶不調」です。

:誤解は無いと思いますが、絶不調なのは「小林流 接ぎ木」ではなく、秋挿し台木を使った私の「切接ぎ」です。

失敗した1株(上の左端)です。接ぎ穂が持っている水分とエネルギーでいったんは発芽したものの、台木と癒合ができず、そのため台木からの補給が無く力尽きたという感じです。しかも、台木の地際が褐変しているのが見えますが、これはたぶん「根腐れ」していますね。

この株の作業中の写真を撮っていたので、それ(下2枚)を見ながら原因を考えてみます。

  • 使用した自作の秋挿し台木がきわめて貧弱
    講習会で提供された台木と較べると一目瞭然
  • 形成層が薄くて台木の切り分けが浅過ぎる(左)
  • 台木と接ぎ穂の接合部の長さも短い(右)

台木の充実度の重要さ

ページを編集しながら思い出したのですが、この台木は10月に試みた「T芽接ぎ挿し」に失敗した穂木(挿し木は発根したけど、T芽接ぎは発芽しなかった)を、今度は台木として使い回ししたものです。『枝葉を残したままのデービッド接ぎとは異なり、切接ぎに枝は不要だからこれでも使えるんじゃないか』と。だから台木としては劣悪な状態だったんですね。

この話には「伏線」があって、それは2014年12月18日の記事:「3ヶ月で作るノイバラ台木 秋の挿し木」でノイバラの秋挿し3ヶ月後の例をあげ、『この程度の根量でも(デービッド接ぎの)台木として使うことができます』と書いています。これを実証するためのテストでした。でも、成長途上の元気な根ならともかく、T芽接ぎ挿しに失敗して疲労困憊の根(内包しているエネルギーを使い果たした未熟な台木 with 食べ残しの細麺焼きそばみたいな根)では、「切接ぎ」は無理でした。

気持ちの中のどこかに『接ぎ木なんて簡単』という慢心があったようで、深く反省。台木の充実度の重要さを再認識させられた、痛い経験でした。

デービッド接ぎとの比較

右の接ぎロウを使った株は(前述の)講習会で接いだもの。左の白プラ鉢は2月7日に作業したデービッド接ぎです。ふたつとも同じ品種(ER の "W.S. 2000")です。左の白プラ鉢は右の切接ぎしたものより10日後の作業なのに、4月20日には成長度合いが完全に逆転しています。

デービッド接ぎの "W.S. 2000"は、秋挿し台木に3株接ぎましたが、どれもほぼ同じ生育状況です。こうして並べて比較すると、切接ぎの株はちゃんと育つのか、いささか不安もある状態ですね。

この例だけで「デービッド接ぎ」の優位性を言うつもりはありません(笑)が、たぶん次のシーズンは、秋挿し台木にデービッド接ぎはしても、それに切接ぎをすることは無いと思います。

2015年 「切接ぎ」のまとめ

このように、10本の「切接ぎ」を試みながら8本は失敗という散々な結果になりました。自分なりにまとめてみます。

  • 小林先生の接ぎ木方法は、バラ苗生産農家の切接ぎよりむしろ「デービッド式 割接ぎ」に似ているのが興味深い
  • 接ぎ穂の調整は1芽に拘る必要は無く、穂木の状態で自由に
  • 台木の根を切るか否か、その優劣はまだ不明だけれど、長過ぎる根は切ってもいいのでは
  • 切接ぎがうまくいくには台木の充実度が重要
  • 自作の秋挿し台木は充実度が低く(形成層が薄過ぎて)切接ぎにはむかない。デービッド接ぎには使える
  • 接ぎロウの準備は面倒だとしても、接ぎロウならではのメリットもあるのでは
  • 接ぎロウの代用として「エコピタ」も使えないことはない
  • テーブルバイスは思っていた以上に便利だった
  • 接ぎ木作業後に株を寒い場所に置くのは、接ぎ穂と台木の癒合が難しいのでは

小林先生がバラの栽培を始められた50年前は、栽培講座はもちろんガイドブックも無く、すべて独学で勉強されたのだそうです。そのような熱心な方ですから、一般的な切接ぎの方法をご存じないはずがありません。先生のこの接ぎ木方法は、たぶん幾つもの方法での接ぎ木作業の経験から生まれた結果なのであろうと思います。

先生の接ぎ木方法はデービッドさんの接ぎ木とよく似ています。台木カットの手順が異なりますが、小林先生とデービッドさんという、尊敬するお二人の接ぎ木方法が共通しているのは、たんなる偶然なんでしょうか。

今回もっとも勉強になったのは、 台木の充実度 です。各地の接ぎ木講習会で使う台木はそのほとんどが専門農家が栽培した台木なので、台木の育て方が話題になることはありませんが、私にとってはこれが問題です。

この後レポートする「デービッド接ぎ」では、秋挿し台木でもそこそこの結果(テストを含め107本中80本成功で、率は75%)が出ています。でも「だから秋挿し台木でOK」とするのではなく、より高品質な台木を作る必要性を強く意識し始めました。小林先生の講習会で提供された台木(実生台木)=髄がまったく無くて形成層が厚い台木は、主に挿し木台木を使う私にはショックでした。

もうひとつ、これは切接ぎに限らずデービッド接ぎでも割接ぎでも、あるいはスタンダード台木への芽接ぎでも、
接ぎ木作業後の管理(防寒と保湿)が重要 と再認識しました。1月26日の記事:「バラの接ぎ木 2015」でも触れましたが、小林先生のアドバイスは『日当りの良い暖かい場所に置く。夜間に室内に入れる必要は無く、できるだけ自然のままで』ということでした。しかし私の環境は寒すぎたようです。