このページは、6月28日の記事「バラのうどんこ病対策」 から、「防除記録」を移動させたものです。私の基本的な考えはそこに書いています。
今後、うどんこ病の他にハダニやスリップスなどの防除も併せて順次追記していきます。ガイドではなく記録なので、内容は随時更新 or 訂正されます。
私の栽培環境
- 福岡市近郊の山間の畑地に、雨除け・虫除けの小型農業用ビニールハウス2棟。すべて鉢植えで栽培。
- 品種は、HT(ハイブリッドティ)競技用品種の2〜6年生株70鉢をメインに、シュラブやフロリバンダの新苗、台木用の幼苗や交配した実生苗など、大小300鉢?ほど。
- 防除すべき病害虫は、うどんこ病、ハダニおよびスリップスとコナガなど。雨除けハウスなので黒星病は発生しない。
- バラ会を退会したので今後はコンテストに出品することはないが、「気品のあるバラを咲かせたい」という目標に変わりはなく、コンテストに出品できる品質のバラを栽培したいと思っている。
しかし、今後はその品質基準から離れ、無農薬でもきれいに咲かせることができるバラの栽培へ変わっていくかもしれない。
農薬使用回数の削減
前ページの冒頭で触れたように、意欲的な農家は農薬・化学肥料の50%削減に取り組んでいる。バラ会のコンテスターの殺菌剤・殺虫剤・殺ダニ剤を合わせた慣行レベルは 60カウント以上なので(推測だが、ほぼ間違いない)、「コンテストに出品できる品質のバラを栽培」という前提で、農薬の総使用回数の50%削減="カウント数 30以下" を目標にする。
「50%削減」は散布をしなければ簡単に達成できるが、問題は「コンテストに出品できる品質のバラ」という前提。カウント数には当然ながら殺虫剤や殺ダニ剤も含まれる。スリップスやハダニの対策も必要だから、目標の達成は簡単なことではなさそうだ。私なりのIPMプランの具体化を進めなければ。
"慣行レベル" など他の栽培者を基準にするのではなく、「自分の前年のカウント数を下回るように」という目標設定もある。バラ栽培の目的、環境や品種などはそれぞれ異なるのだから、他の栽培者との比較はあまり意味がない。IPMの理念に沿った栽培方法を進めることで、自分のカウント数をいかにして減らすか が重要だ。
しかし(恥ずかしながら)前年のデータを残していない。まず「ハウスで栽培中のバラのうどんこ病を根絶する」というブレない目標を定め、今年のデータを正確に記録することから始めようと思う。
参照:農薬使用者が遵守すべきこと ~農薬取締法上において~|京都府
回 | 散布日 | 散布前の 発生程度 | 殺菌剤 | 散布3日後 状況 | 作用機作 グループ名/主剤 | FRAC コード | 展着剤 倍率 種類 | カウント数 累計 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 4月下旬 | ハーモメイト水溶剤 (+エコピタ液剤) | 未分類 (なし)/炭酸水素ナトリウム | NC | アビオンE 1000倍 パラフィン系 | 1 | 1 | ||
2 | 5月上旬 | トリフミン水和剤 | G:細胞膜のステロール生合成 DMI殺菌剤/トリフルミゾール | 3 | まくぴか 5000倍 シリコン系 | 2 | |||
3 | 5/24 | 3.5 | ハーモメイト水溶剤 | 3.2 | 未分類 (なし)/炭酸水素ナトリウム | NC | マイリノー 5000倍 | ー | |
4 | 6/7 | 3.2 | トリフミン水和剤 | 2.7 | G:細胞膜のステロール生合成 DMI殺菌剤/トリフルミゾール | 3 | まくぴか 5000倍 | 3 | 今期 2回目 |
5 | 6/14 | 2.7 | アミスター20フロアブル | 2.5 | C:呼吸 QoI殺菌剤/アゾキシストロビン | 11 | アプローチBI 1000倍 スプレー・アジュバント | 4 | ばら 適用外 |
6 | 6/24 | 2.5 | サルバトーレME | 1.0 | G:細胞膜のステロール生合成 DMI殺菌剤/テトラコナゾール | 3 | (使用せず) | 5 | |
7 | 6/28 | 1.0 | 水道水 | 0.7 | 分生子に水を吸わせ 浸透圧でパンクさせる? :p | ||||
8 | 7/6 | 0.2 | 水道水 | 0.2 | 葉面にシャワー | 2 | |||
9 | 7/10 | 0.2 | フルピカフロアブル | 0.1 | D:アミノ酸およびタンパク質生合成 AP殺菌剤/メパニピリム | 9 | (使用せず) | 6 | 3 |
10 | 7/17 | 一部の株 3.5 | ハーモメイト水溶剤 (+エコピタ液剤) | 3.7 | 未分類 (なし)/炭酸水素ナトリウム | NC | マイリノー 10000倍 | 7 | 4 |
11 | 7/28 | 強光線/高気温 | 最高値:82000 lux / 40.2°C | 5 | |||||
12 | 8/10 | 一部の株 3.8 | ポリオキシンAL水溶剤 | 3.5 | H:細胞壁生合成 規定濃度 / 散布時の気温28.6°C | 19 | まくぴか 5000倍 | 6 | |
13 | 8/25 | 移動/観察 | 根絶 | 7 |
備考(表1:うどんこ病)
- ハーモメイト水溶剤はカウント対象外だが、殺虫殺菌剤のエコピタ液剤(還元澱粉糖化物液剤)はカウント対象になるようだ。同じデンプン系の殺虫剤「粘着くん液剤」も削減(カウント)対象。「粘着くん水和剤」は削減対象ではないが、ばら(花き類)の適用がない。(何故だろう?)
「エコピタ液剤」も「粘着くん液剤」も主成分はデンプン。デンプンは水に溶けない。「粘着くん水和剤」は水に溶かすのではなく、水に "懸濁" させて使用する。水に溶けないデンプンを液剤にするにはヒドロキシプロピル基と反応させるが、このヒドロキシプロピルが化学物質なので、削減対象になるのだそうだ。
ならば、化学物質なのは展着剤も同様で、グリーントップ本渡(熊本県)のように一部を除いて削減対象にすべきだろう。しかし、展着剤を加用しないと充分な効果が発揮できない剤もある(逆に言えば、展着剤の加用で主剤を減量できる)ので、判断が難しい。 - 7/6に発生程度が0.2(菌叢がほぼ消えた)になったのは、12日前の6/24に散布したサルバトーレMEの効果と、強光線、高温などの季節的な要因もあるのだろう。
内部寄生型のうどんこカビ菌の存在確認のための準備として「鉄力あくあF10」3000倍を加用。この詳細は後日。 - 菌叢は消えたが、うどんこ病菌の "気配" が残っているような気がして:p「根絶」とは言い難い。
被害葉の凹面に、サルバトーレMEやフルピカフロアブルの乾燥した痕跡がある。これは水のシャワーでは簡単には除去できない。気にしない栽培者も多いが、私は嫌だな。展着剤を使っていれば軽減できたのかも? - 台木品種の挿木苗に、うどんこ病とナミハダニ&カンザワハダニが発生。被害株とその周辺に散布。
うどんこ病は、密に並べた台木品種の鉢植え株の、その小さな葉裏に発生。葉が重なり合って殺菌剤がかからなかった可能性が高い。3日後の発生量はむしろ増加している。今やるべきことは再散布よりも、早急に地植えにして密植状態を解消することなんだが。。 - クリアな真夏の青空で朝から強烈な日差し。露地植えならこの日差しは特別ではないかもしれないが、これまではこのような強光線の日は遮光していた。バラの場合、光飽和点は 50000lux 程らしいので、それを超える強光線は光合成速度を上げる効果はないが、今日は4、5時間ほど意図的に強光線に曝露させた。
狙いは強い紫外線によるうどんこ病菌の殺菌。紫外線の殺菌力については、2022年5月30日の記事:「バラの育種 2022 4. 授粉失敗の原因と対策」の 対策ー3. 紫外線の殺菌力で触れている。『露地栽培ではうどんこ病なんか出ないのに、ハウス内だとなぜ発生するのか?』がキモ。 - 日の出の時間帯に散布。ポリオキシンAL水溶剤「科研」は生物由来の抗生物質なので、カウント対象にはならない。
散布3日後はほとんど変化が見られない。 - ポリオキシンAL水溶剤の作用機作は、FRACコード:Hの「細胞壁生合成」。菌糸が伸びている状況ではないので、このタイミングで "ポリオキシンAL水溶剤「科研」" が効くのかわからなかったが、2週間後には栽培品種からうどんこ病の気配が消えた。これは薬剤散布の効果だけではなく、強光線・高温の影響も大きいのだろうと思う。涼しくなれば再発するのは間違いないだろうし、疑っている "内在性うどんこ病菌" についてはまったく進展はないが、とりあえず栽培品種は「根絶」宣言 :p
また、うどんこ病が最も発生していた台木用のノイバラ苗(鉢植え)はハウス外に移動した。ハウス内で軟弱に徒長した枝にあったうどんこ病っぽい葉は、強光線という環境の急変で葉を落としてしまった。
交配してできた実生苗は現在2〜3番花が咲いている。育種では耐病性が重要なチェックポイントなので、これまで農薬の散布をしないできた。約80株あった新株のうち生育が芳しくない15株程を廃棄し株間を広げた。生育が良くて花も綺麗な株のうち6株にうどんこ病が出ている。これらはハウス外に持ち出して強光線に暴露中。
回 | 散布日 | 散布前の 発生程度 | 駆除方法 薬剤 | 散布3日後 状況 | 作用機作 グループ名/主剤 | IRAC コード | 展着剤 倍率 種類 | カウント数 累計(合計) | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 7/22 | ハダニ 台木用幼苗 6頭/100葉 | シリンジング 農業用水 | (下記) | 1 | ||||
2 | 7/25 | 観察 ルーペ | ハダニ 台木用ノイバラ幼苗 3頭/200葉 スリップス 20頭/10花(白花系HTの二番花)見逃した可能性大なので、実際はもっと多いはず | ||||||
3 | 8/1 | スリップス モニタリング | ホリバー | 粘着トラップ | 色:ブルー | ||||
4 | 8/4 | スリップス モニタリング | ホリバー 目視 | 2頭/3シート 9頭/20花 | 2 | ||||
5 | 8/5 | スリップス モニタリング | ヨーグルト トラップ | 捕獲0 | ヨーグルト、ハチミツ、 ごま油の水溶き | 3 | |||
6 | 8/30 | ハウス周りの雑草 | 除草剤* プリグロックスL | 8 | 4 |
IRACコード表 国内向け(2021年9月版 Ver10.1)
備考(表2:害虫類)
- ハダニが発生しているのは、台木にするためのノイバラ系品種の挿木苗。実生苗には発生していない。挿し穂にハダニが付着していたのだろうか? 発生したハダニの数はまだ多くはなく、下位1葉あたり0〜2頭程度。うどんこ病防除も兼ねて7/17にエコピタ液剤を散布した。翌7/18にはカンザワハダニは固着(死滅)していたが、数頭のナミハダニが動いていた。これは散布後に孵化した個体かも。
7/20に再チェックしたら、動いているハダニはいなかったが、見落としている可能性もある。
7/22に100葉を調べたら、カンザワハダニ4頭、ナミハダニ2頭がいた。防除するのは今で、放っておけば爆発的に増えるだろう。さて、どのような方法で駆除するのが良いか。
動噴の水圧を利用して "シリンジング" で吹き飛ばそうとしたけど、軟弱に徒長した枝がひ弱すぎて水圧に耐えられない:p それでも3日後には数が1/4に減っているので、それなりの効果はありそうだ。いつも気なるけど、水に吹き飛ばされたハダニはその後どうなるんだろう、死ぬのか?
この暑さの中で咲いている花は少なく小さいので目立たないが、スリップス が看過できない程度に発生している。 - 粘着シート(トラップ)"ホリバー" にくっ付いたのはわずかに2頭。開いている20花の花弁をほぐして調べたら9頭ほどを発見。白い紙の上を1㎝ほど動いて止まり、ぴょんと跳ねる。まさに "アザミウマ" 。花弁内部のくぼみに、フンか、もしかしたら卵かもしれない薄茶色の物体がどの花にもある。ハダニは、約100葉を調べたが発見できず。
- トラップの結果
左:スリップスはいるのに粘着シートには来ない。黒い小さな点はハエの類。くっついたのはこのほかに "ハゲ頭" が1頭。
右:水溶きヨーグルトに雑菌(カビ)のコロニーができた。色が異なるので数種類の菌が繁殖したものと思われる。放置していたら水分が乾いてこのような模様になった:p - ハウスの周囲の雑草は草刈機で切るのだが、刃が入れにくい部分に除草剤を使用。過去の経験から、ハダニは周辺の草を伝ってハウス内に侵入すると思われるので、周辺の除草はハダニ防除のための重要なポイント。
*9/1 追記:除草剤・プリグロックスL(パラコート5.0%、ジクワット7.0%の混合液剤)は 危険!。
参照:パラコート(Wiki) に無知だったことが恥ずかしい。「除草剤を使わないことがオーガニック栽培の基本」と考えていた時期もあったのに、いつの間にかすっかり堕落している。反省。
表の内容
散布日 『スケジュール散布』か『的確なタイミングでの散布』か
環境省及び農林水産省は、「農薬のスケジュール散布はやめよう」と呼びかけている。
- 「農薬飛散による被害の発生を防ぐために」 水・土壌・地盤・海洋環境の保全 | 環境省
- 「農薬に関するよくある質問」 消費・安全局農産安全管理課農薬対策室|農水省
(問14の答から 一部引用) 総合的病害虫・雑草管理(IPM)の推進や、発生前の予防的な農薬散布による防除(スケジュール防除)から発生予察情報に基づく適時・適切な防除への転換などを通じ、防除に必要な量だけを的確なタイミングで使用する
農水省の指針とは逆に、「病害虫防除のために農薬の定期的な予防散布はあたりまえ」とされているバラ栽培。コンテストでは、病痕や食害痕があるだけでも上位入賞は望めず、傷んだ植物細胞は元に戻ることはないので、発生初期の治療的散布では対応できない。バラ会で推奨されている「発生前の予防的な農薬散布による防除(スケジュール防除)」というのには根拠がある。
- 被害発生後に「治療的散布」をするのはかなり厄介で、予防的散布よりもむしろ多くの薬剤を必要とするケースが多い。
- バラには多種類の病害虫が存在するので、「発生予察情報に基づく適時・適切な防除」というのは、実際は「スケジュール防除」とほぼ同じこと。ならば、判断が難しい「的確なタイミング」よりも、「スケジュール防除」した方が確実。
しかし、スケジュール散布の有効性はわかるが、でもそれが唯一の合理的な方法か?と自問すれば疑問が残る。
『必要な量だけを的確なタイミングで』というのは私には難題で、どうするか迷うが、耕種的防除の実践を踏まえ、状況の観察や季節的要因を加味した予察によって殺菌剤の種類や散布のタイミングを判断し、農薬の定期散布はしない ことに決めた。観察や予察こそ栽培に重要なことで(私はそれが足りていない)、もし防除に失敗しても、それも勉強だ。
発生程度 状況
- うどんこ病の菌叢(菌そう=菌糸や分生子柄、分生子などの塊り。いわゆる "うどん粉")発生量の、見た目による印象評価(10段階) 9 激発〜0 根絶 主観的なもので、客観性のあるデータではない。
この「発生程度」には、「内部寄生型うどんこ病」(かと思われる症状)は加えていない。 - ハダニやスリップスなどの害虫は別の尺度で表記する。
展着剤
- 使用したものが最適な選択か不明。今後の課題。
参考:
- 展着剤の基礎知識|JA 全農 農薬研究室
- 展着剤の種類と必要性| JA全農東京
- 展着剤の役割と使い方 関連用語の解説集|日本農薬㈱
- 展着剤|「クミアイ農薬総覧」から|長野県
カウント数累計
- 殺菌剤・殺虫剤・殺ダニ剤・除草剤の有効成分の総使用回数。展着剤はカウントしない*。1回の散布に3種類の農薬を混合したらカウント数は3になる。
*農薬取締法の定義では「展着剤」は "農薬" として分類される。しかし農水省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A」では、展着剤は主剤の物理性を増強し効果を高めるための "補助剤" と位置づけ、カウント対象にはならない。
この「特別栽培農産物」での カウント対象=削減対象 の範囲は、地方自治体が独自に定める農薬使用基準があり、下の「グリーントップ本渡(熊本県)」のように、カウント対象にしない展着剤を「カゼイン、又はパラフィンを有効成分とするもの(アビオン-Eなど)に限る」と、より厳しくする場合もある。
デンプン液剤はカウント対象にするのに(下記)、展着剤を一律に対象から除外するのは化学的に矛盾していると思うが、私が栽培するバラはもちろん "農産物" ではないし、展着剤はカウント対象外 にする。ただし、展着剤を闇雲に使用するのではなく、薬害を避けながら主剤の有効成分が十分に機能するための展着剤の選択を(使わないことも含めて)学びたいと思っている。
- 2種類の有効成分を含んでいる殺菌剤、例えば「パンチョTF顆粒水和剤」の主剤は、シフルフェナミド3.4%と、トリフルミゾール15.0%だが、これを1回散布すればカウント数は2になる。
- 殺虫剤の「オルトランDX粒剤」も同様で、有効成分はアセフェート(有機リン系 IRAC-1B)とクロチアニジン(ネオニコチノイド系 IRAC-4A)の2種類だから、カウント数は2。
これの1回の使用量を3回に分けて施用した場合、有効成分の延べ使用回数をカウントするので、カウント数は計6になる。「量」を反映していないのは合点がいかない。回数の削減もさることながら、量の削減が重要なのでは?(と、自分に言い聞かせる) - 薬剤の使用量は、①規定濃度を遵守 ②二度がけをしない ③かけ漏れを出さない を基本に、株数に応じた量を、動力噴霧器(散布効率が良く、使い方を工夫すれば液量の削減ができる)で散布。
- 使用を予定している殺菌剤のうち、ハーモメイト水溶剤(特定農薬)、ポリオキシンAL水溶剤(生物由来 抗生物質)、アグロケア水和剤(微生物製剤)はカウント対象外。同じく殺虫剤では、スピノエース顆粒水和剤がカウント対象外。
参照:
「特別栽培農産物表示ガイドライン」において節減対象とならない農薬|グリーントップ本渡