このページは「バラのうどんこ病についての考察(前編 Ⅰ章〜Ⅱ章)」からの続きです。
Ⅲ うどんこ病菌
Ⅲ - 1
うどんこ病の発生
「うどんこ病菌の種類と発生ーうどんこ病菌の見方ー」
佐藤 幸生(富山県立大学 工学部 教養教育)から一部抜粋
うどんこ病菌の発生(オオムギうどんこ病菌)
- うどんこ病菌の感染、菌糸生育、胞子形成については、オオムギやキュウリ、トマトうどんこ病菌で詳細に調べられている。
- うどんこ病菌の分生子は、接種2時間後頃から発芽し、10時間後には細胞壁に侵入し、16時間後には吸器に核が移行する。
- 接種20時間後には菌糸を生育しはじめる。第2次以降の吸器は、夜中に形成されて、順次菌糸を生育し、接種4日後以降に分生子を形成する。
- うどんこ病菌の感染時に、オオムギなどが示す顕微鏡レベルでの抵抗性反応
- パピラ形成
- 過敏感反応
- 吸器への壁塗り現象
- 病斑部の褐変
- 分生子が発芽後、感染し、菌糸生育し、分生子形成と進行するが、1本の菌糸に注目すると、吸器形成、分枝生育、分生子柄形成する菌糸細胞は規則的に配置されている。
- 約2週間の病斑、直径1cm程の菌叢では、約5,000個の吸器を形成し、分生子柄を約5,000個形成する。
- したがって直径約1cmの病斑が見つかったら、鎖生するうどんこ病菌では、1日に約40,000個から50,000個の分生子を形成し飛散するので、うどんこ病菌の伝染速度が相当に速いことがわかる。つまり、初期の病斑を的確に、早期に見つけて、防除対応することが重要であることを示している。
うどんこ病菌の分生子(キュウリうどんこ病菌)
Ⅲ - 2
菌糸
参照:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
関連する部分の抜粋
- 一般に菌糸と呼ばれるものは、糸状で、分枝しながら先端成長によって伸長し、その表面で周囲にある基質を分解吸収して自らの栄養とする*。糸状菌においては菌糸が本体であり、菌糸として成長し、菌糸からの分化によって様々な構造が作られ、そこで生殖も行われる。
- 菌糸は細胞からなり、その表面は丈夫な細胞壁で覆われる。細胞壁の主要な構成成分は多糖類で、その大部分はキチンである。
- 子嚢菌類や担子菌類では菌糸には規則的に隔壁があって、菌糸は細胞に分かれているが、実際にはその間に連絡があり、多数の核を含む原形質からなる多核体的な面が強い。
- 子嚢菌類の場合、隔壁は菌糸の軸に垂直な単なる細胞壁の板であるが、その中央部には1つの穴が開いている。この孔によって両隣の細胞質は連続しており、それを通じて、ミトコンドリアなどの細胞器官や核までも行き来が可能である。事実、子嚢菌に於いて、菌糸体の中を核が時速1~4cmの速度で移動することが確認されている。
- 菌糸はその先端部で新たな細胞壁が作られて、先へ伸びることで成長する。菌糸の成長部分より後方では、細胞質内に液胞があって、それが次第に拡大成長するので、これが原形質を前方へ押し出す力になっているとの説もある。
- 菌糸先端部のすぐ後方では、小胞体で細胞壁の成分が合成され、この成分は小胞の形で前方へ押し出され、新しい細胞壁の形成に使われる。それらの後方にはミトコンドリアが多数見られ、その活動が菌糸の成長に結びついている。
- 菌糸の成長は、温度によって大きく変わる。多細胞の菌糸では、菌糸先端がある程度成長した後に、その後方で核分裂を生じて新たな隔壁が作られる。
9月30日追記:*うどんこ病菌は "絶対的活物寄生菌" なので、宿主の細胞を分解吸収して自らの栄養にするのではなく、宿主の細胞を生かしたまま、「吸器」から養分を吸収する。「吸器」については、次の記事:「バラのうどんこ病についての考察・補遺」に。
Ⅲ - 3
概要
- 原核生物,真核生物を問わず生物の体は細胞が基本単位となってできており,それは菌類も例外ではない。細胞はその周囲を細胞膜と呼ばれる膜で囲まれてできている。
- 生体を構成する膜は主にリン脂質でできた二重膜にタンパク質が埋め込まれた構造をしている。物質の種類によって細胞膜を通過する際の透過性には違いがある。脂溶性の物質や気体分子は細胞膜を容易に通過することができるが,多くの水溶性の物質は細胞膜を自由に通過できず細胞膜に埋め込まれたタンパク質のはたらきによって細胞の内外へと輸送が行われる。
- 真核生物の細胞は核の他にもさまざまな細胞小器官を持っている。ミトコンドリアと呼ばれる細胞小器官の内部では酸素を利用した酸化反応を行うことで有機物から効果的にエネルギーを産生する化学反応が進行する。
- 粗面小胞体ではタンパク質の合成が行われる。菌糸の外部へカビが分泌する各種の消化酵素もここで合成され,小胞体からゴルジ体を経て輸送小胞の内部に入る。輸送小胞はタンパク質が繊維状に集まってできた微小管やアクチンフィラメントとよばれる構造物の上をたどって先端部の方へと運ばれていく。 "モータータンパク質" *
- 細胞の先端部に集まった輸送小胞は,細胞膜と融合して小胞内のタンパク質を外部へ分泌する。カビが合成する消化酵素の多くはこのようにして菌糸の先端部から外部へと分泌される。
- 動物やカビなどの従属栄養生物が生育するためには必ず外部から有機物を栄養分として摂取する必要がある。自ら動くための手段を持たないカビの場合は酵素タンパク質を体外へ分泌し,体の周囲にある有機物を基質として消化分解して得られる栄養分を体内に吸収することで生育する。
- カビは多糖類やタンパク質をそのままの形で細胞内へ吸収することができず,酵素によって単糖類やアミノ酸に分解してはじめて細胞膜を通して栄養分として吸収することができるようになる。
*モータータンパク質|理学のキーワード - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
ATP加水分解のエネルギーを使って、細胞骨格(アクチン繊維と微小管)の上を滑走し輸送に関わるタンパク質群。これを阻害するのが、FRACコード:Bの「細胞骨格とモータータンパク質機能阻害剤」。石原バイオサイエンス㈱ の「プロパティフロアブル」がこれに該当するが、残念ながらばらは適用作物ではない。
Ⅳ バラのうどんこ病殺菌剤と展着剤
Ⅳ - 1 準備中の バラうどんこ病殺菌剤
作用機構 | グループ名 | 有効成分名 | FRAC コード | 殺菌剤名 | ばらの適用範囲 | 希釈倍数 使用回数 | メーカー 情報ページ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
B:細胞骨格と モータータンパク質 |
アリルフェニルケトン | ピリオフェノン | 50 | プロパティ フロアブル |
ばら(花き類)の適用はない 内部寄生菌テスト用 | 石原バイオ プロパティフロアブル |
|
C:呼吸 | SDHI殺菌剤 | ピラジフルミド | 7 | パレード20 フロアブル | うどんこ病 黒星病 | 4000倍 3回以内 | パレード20 技術資料 |
QoI殺菌剤 | アゾキシストロビン | 11 | アミスター20 フロアブル | ばら(花き類)の適用はない | シンジェンタ アミスター20 |
||
D:アミノ酸および タンパク質生合成 | AP殺菌剤 (アニリノピリミジン) | メパニピリム | 9 | 予防 フルピカ フロアブル | 灰色かび病 黒星病 うどんこ病 | 2000〜 3000倍 5回以内 | 日本曹達 フルピカフロアブル |
G:細胞膜の ステロール生合成 | DMI殺菌剤 | トリホリン | 3 | サプロール乳剤 | うどんこ病 黒星病 | 1000倍 5回以内 | クミアイ サプロール乳剤 |
トリフルミゾール | 3 | トリフミン水和剤 | うどんこ病 | 3000〜 5000倍 5回以内 | 日本曹達 トリフミン水和剤 |
||
テトラコナゾール | 3 | サルバトーレME | うどんこ病 黒星病 | 3000倍 7回以内 | アリスタ サルバトーレME |
||
H:細胞壁生合成 | ポリオキシン | ポリオキシン (農薬用抗生物質) | 19 | ポリオキシンAL 水溶剤「科研』 | 灰色かび病 黒斑病 うどんこ病 ハダニ類(幼虫若虫) | 2,500倍 8回以内 | 科研 ポリオキシンAL水溶剤 ポリオキシン特設ページ |
U:作用機構不明 | フェニルアセトアミド | シフルフェナミド トリフルミゾール | U6 | パンチョTF 顆粒水和剤 | うどんこ病 | 2000倍 5回以内 | 日本曹達 パンチョTF |
未分類 | 炭酸水素ナトリウム | NC | 初期治療 ハーモメイト 水溶剤 | うどんこ病 灰色かび病 | 800倍 ー | 日本曹達 ハーモメイト水溶剤 |
|
M:多作用点 接触活性化合物 |
有機銅剤 | DBEDC乳剤 | M1 | 予防 サンヨール乳剤 (春秋用) |
うどんこ病 |
500〜 1000倍 8回以内 |
米澤化学 サンヨール乳剤 |
灰色かび病 黒星病 アブラムシ類 ハダニ類 チュウレンジハバチ | 500倍 8回以内 |
||||||
フタロニトリル | TPN (SH酵素阻害) | M5 | 予防 ダコニール1000 (春秋用) | 黒星病 うどんこ病 斑点病 | 1000倍 6回 | ダコニール倶楽部 | |
BM:生物製剤 | 微生物(生芽胞) | バチルス ズブチリス HAI-0404株 | BM2 | 予防 アグロケア水和剤 | うどんこ病 | 1000〜 2000倍 ー | ニッソーグリーン |
註:表の左半分:FRACコード表日本版(2023年8月)より抜粋 参照:「農薬の剤型による分類」|農薬の基礎知識|日本農薬(株)
参考: バラ(花き類・観葉植物)に登録がある殺菌・殺虫剤の一覧
「防除指針 令和4年(2022年)オンライン版」|農林水産|東京都産業労働局 から
Ⅳ - 2 準備中の展着剤
種類 | 展着剤名 | メーカー | 成分 | 使用 倍数 |
湿展性 | 付着性 | 浸透性 | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一般展着剤 (スプレッダー) |
マイリノー | 日本農薬㈱ | ポリアルキレングリコール アルキルエーテル 27.0% |
5000~ 10000倍 |
◎ | 抗生物質剤や銅剤などの殺菌剤 低起泡性 |
||
シリコン系展着剤 | まくぴか | 石原バイオ サイエンス㈱ |
ポリオキシエチレン メチルポリシロキサン 93.0% |
3000~ 10000倍 |
◎ | 最後に添加 | ||
機能性展着剤 (アジュバント) |
アプローチBI | 花王ケミカル 丸和バイオ ケミカル㈱ |
ポリオキシエチレンヘキシタン 脂肪酸エステル 50.0% |
1000倍 | ◎ | ワックスを溶かさないので高濃度 でも展着剤そのものの薬害が少ない。 土壌浸透性も高まる |
||
スカッシュ | ソルビタン脂肪酸エステル 70.0% (食品添加物) ポリオキシエチレン樹脂酸エステル 5.5% |
1000〜 2000倍 |
◎ | クチクラワックスを軟化。 病原菌体への浸透作用。 とくに殺虫剤やダニ剤への加用で 薬効を安定 |
||||
ドライバー | ポリオキシエチレン 脂肪酸エステル 24.0% デシルアルコール 40% |
1000~ 5000倍 |
◎ | ⃝ | 疎水的な表面を持つ病原菌体にも 効果的に浸透し殺菌剤の効果を向上 |
|||
パラフィン系 | アビオン-E | アビオン㈱ | パラフィン 24% 乳化剤及び水等 76% | 500~ 1000倍 |
◎ | 安定した付着性と優れた耐雨性 日本農林規格(有機JAS)適合 |
註:表中の「機能性」と「特徴」は、製品カタログに記載された内容及び使用実感による私の印象で、比較できるほどの客観性はない。
より客観的なデータは、展着剤用界面活性剤の分類と一般的な特性/主要展着剤の分類|農薬の系統別分類|グリーンジャパン を参照
参考
- 展着剤の種類と必要性| JA全農東京
- 展着剤の分類とその機能|JA全農ちば 営農支援部
- 展着剤の役割と使い方 関連用語の解説集|日本農薬㈱
- 展着剤|「クミアイ農薬総覧」から|長野県
- 機能性展着剤(アジュバント) | 花王ケミカル
「アプローチBI」「スカッシュ」などの機能性展着剤は、丸和バイオケミカル㈱が販売する製品だが、開発は 花王ケミカル。
アプローチBI:浸透に特化 ニーズ:殺菌剤に特化 スカッシュ:殺虫剤に特化 ドライバー:濡れに特化
花王の機能性展着剤(アジュバント)とは | 機能性展着剤(アジュバント) | 花王ケミカル から引用
Ⅳ - 3 機能性展着剤(アジュバント)の葉面への浸透 「農薬情報」|グリーンジャパン から引用
考察
「スカッシュ」は浸透性が強いので、クラックが無い害虫やダニ(外殻は主に "キチン")の殺虫剤に適しているらしい。
「 アプローチBI」の、"ワックスを溶かさないので展着剤そのものの薬害がない" という部分に注目。これは逆に言えば、ワックスを溶かすタイプの展着剤は「展着剤そのものの薬害が出やすい」ということだが、これまでは『展着剤の加用量など適当でいい』と "展着剤の薬害" など意識しないで使用していた。:p それは昔から使われている一般展着剤(スプレッダー)の場合で、機能性展着剤は気をつけるべきなんだろう。
殺菌剤の有効成分は病害菌か宿主細胞かを区別しない(区別できない)と考えている。機能性展着剤は殺菌剤の有効成分の効果を高めるだろうが、展着剤の使用を前提としないで設計された殺菌剤に機能性展着剤を加えると、健全な宿主細胞まで影響を与える(薬害が出る)危険性があるのでは・・と危惧する。
Ⅳ - 4 殺菌剤と展着剤の組み合わせ
展着剤の選択は、「殺菌剤の有効成分が菌体のどこで作用するのか」を考慮する必要があると考えている。細胞質の中にあって二重膜で囲まれたミトコンドリアに作用する剤と、菌体の細胞膜の外側で作用する剤は、当然ながら、展着剤に求められる機能が異なるだろう。
『(殺菌剤名)は薬害が出やすい』という話は、バラ仲間から何度も聞いたことがある。展着剤の選択が不適切で薬害が出たという可能性もあるのではないか。例えば、主剤が炭酸水素ナトリウムの「ハーモメイト水溶剤」。この作用様式 から、強い浸透性を持つ展着剤は不適だと思う。
高気温の栽培環境で薬害が出やすいと悪評が高いTPN剤。薬害が出たのは事実だろうが、真夏の茶畑で使用されている実績(後述)もあり、これももしかしたら不適切な展着剤の使用と関係しているのかもしれない。
展着剤も化学物質であり、「化学的に合成された薬剤はできるだけ使用しない」という前提も重要だろう。そのような観点から、バラうどんこ病殺菌剤と展着剤の組み合わせを考えてみた。
殺菌剤 | 展着剤 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
作用機構 | グループ名 | FRAC コード |
殺菌剤 | 殺菌剤メーカーが 言及する展着剤*1 |
私が選択した 展着剤*2 |
種類 | 特徴 |
B:細胞骨格と*3 モータータンパク質 |
アリルフェニルケトン | 50 | 石原バイオ プロパティフロアブル *ばらの適用はない |
ー | アプローチBI | アジュバント | 展着剤の薬害が 少ない |
C:呼吸 | SDHI殺菌剤 | 7 | 日本農薬 パレード20フロアブル |
マイリノー 10000倍 |
ドライバー | アジュバント | 濡れに特化 |
QoI殺菌剤 | 11 | シンジェンタ アミスター20フロアブル *ばらの適用はない |
ー | アプローチBI | アジュバント | 展着剤の薬害が 少ない |
|
D:アミノ酸および タンパク質生合成 |
AP殺菌剤 | 9 | 日本曹達 フルピカフロアブル |
ー | ドライバー | アジュバント | |
G:細胞膜の ステロール生合成 |
DMI殺菌剤 | 3 | クミアイ サプロール乳剤 |
ー | 使用しない | ||
トリフルミゾール | 3 | 日本曹達 トリフミン水和剤 |
ー | まくぴか | シリコン系 | ||
テトラコナゾール | 3 | アリスタ サルバトーレME |
ー | 使用しない | |||
H:細胞壁生合成 | ポリオキシン | 19 |
科研製薬 ポリオキシンAL水溶剤 |
ー | アプローチBI | アジュバント | |
U:作用機構不明 | フェニルアセトアミド | U6 | 日本曹達 パンチョTF顆粒水和剤 |
ー | ドライバー | アジュバント | |
未分類 | 炭酸水素ナトリウム | NC | 日本曹達 ハーモメイト水溶剤 |
ニーズ | マイリノー or アビオン-E |
スプレッダー | 主剤を細胞内に 入れる必要はない |
M:多作用点 接触活性化合物 |
有機銅剤 | M1 | 米澤化学 サンヨール乳剤 |
展着剤の必要なし | 使用しない | ||
フタロニトリル | M5 | ダコニール1000 | ー | 使用しない or アビオンーE |
葉の表面に 主剤の膜を作る |
||
BM:生物製剤 | 微生物(生芽胞) | BM2 | ニッソーグリーン アグロケア水和剤 |
多種類の展着剤OK ニーズ X |
使用しない or 濡れ性優先 |
*1:「殺菌剤メーカーが言及する展着剤」とは、説明書の記述、またはメーカーが実施した殺菌剤の効果試験に使用された展着剤。
"ー" は、展着剤に関する記述が無い。
*2:「私が選択した展着剤」は、今はテスト段階 で、圃場での気まぐれで変更する可能性あり:p
*3:モータータンパク質|理学のキーワード - 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
ATP加水分解のエネルギーを使い、細胞骨格(アクチン繊維と微小管)で輸送に関わるタンパク質群。
「Ⅲ-3 菌糸先端部の構造と機能」を参照。
Ⅴ章 バラのうどんこ病殺菌剤の使い方を探す
Ⅴ - 1 殺菌剤の防除率は100%ではない
ネット上にあるウドンコ病殺菌剤の資料を参照する。残念ながらバラのうどんこ病に関する資料は主要な農作物と較べると極めて少ない。うどんこ病の病原菌は宿主によって菌株が異なるので、その特性や殺菌剤の効果も違ってくると思われるので注意。
タバコうどんこ病の発生生態とサルバトーレMEによる防除効果
日本たばこ産業㈱ 鹿児島葉たばこ技術センター
農薬ガイドNO.95/F (2000.4.1)|アリスタ ライフサイエンス㈱ より一部引用(傍線:そら)
タバコうどんこ病の発生生態と防除
タバコうどんこ病の発生に最適な温度は16~24℃であるが、自然条件下では日中の温度が26℃以上になっても、夜間に19℃以下に下がれば激しい発病が見られる。したがって、盛夏より初夏の発生が多い。分生胞子の発芽に最適な湿度は60~80%で、90%以上あるいは50%以下では急激に低下する。
発蕾期以降のタバコ畑の中は、風通しが悪く蒸し暑く、うどんこ病の発生に最適な環境となる。このため、できるだけ通風の良い畑を選び、畦間に雨水が溜まらないように排水を心がけるとともに、風通しを悪くする大柄なタバコを作らないことが重要である。うどんこ病菌は直射日光に弱いため、カボチャのうどんこ病のように太陽の直射光のもとで旺盛に発病することはなく、日陰となる下位葉で発病することが多い。胞子は 照度40,000lux の直射光で 3時間以内に死滅する。
自然条件下のタバコ株間で上部、中央部、下部の照度を測定すると下部ほど照度は低く、下位葉ほど発病に好条件であることが分かる。また、タバコが大柄になるとさらにこの傾向は強くなるので、大柄なタバコの下位葉に発病が多く見られるのは当然である。本病は降雨後に曇天が続くような気象条件の時多発する傾向が見られる。激しい降雨にあうと、葉の表面の菌糸と胞子が洗い流されて白粉がなくなり、後に褐色の斑点が現れるが、天候が回復すると残った吸器から菌糸が伸長し、胞子を形成して元の状態に戻る。
また、降雨によって洗われたタバコ葉面ほど分生胞子の発芽率が高く、その後の菌糸の伸長も早く、胞子形成量も多くなることが知られている。このように、降雨は発病助長の一要因と考えられるので、降雨後は薬剤散布の適期だと考えられる。サルバトーレMEによる防除効果
- 左:タバコの下葉1~2枚にうどんこ病の小斑点が認められる初発生時に1回目の散布を行ない、その1週間後に2回目の散布を行なった。
無処理区では急激な病勢進展が見られたにもかかわらず、サルバトーレMEの3,000倍および4,000倍希釈液散布区は、対照薬剤のトリホリン乳剤と同様な高い防除効果が認められた。- 右:薬剤散布時期がやや遅れ、1回目の散布前にはすでに症状が進んでおり、下から5枚程度の葉に病斑が見られ、重症葉も見られる状況下で試験を開始した。
その結果、サルバトーレME2,000倍液散布は病勢の進展を抑えているが、サルバトーレME3,000倍液散布区と対照薬剤のトリホリン2,000倍液散布区では病勢の拡大を抑えきれなかった。- サルバトーレMEには、治療効果もあるとされているが、急激な病勢進展や多発条件下でも、十分な効果を引き出すためには、初発時の適期散布に心がけることが大切であると思われる。
考察
これは、2箇所のJT葉たばこ技術センターが行ったタバコうどんこ病の防除効果テストの結果。詳細は引用元の「農薬ガイド」NO.95/F (2000.4.1) を参照していただくとして、このデータからいくつかの参考になることが読み取れる。
- 対照薬剤のトリホリン乳剤とは「サプロール乳剤」と推測。これは「サルバトーレME」と同じ FRACコードG:細胞膜のステロール生合成の脱メチル化酵素を阻害するDMI殺菌剤。ただし「サプロール乳剤」の適用作物には "たばこ" の登録はない。
- 右グラフの "サルバトーレME/2,000倍/1週間後" で「発病度」が低下している。(・・ということはマイナスの指標もあるわけで)それ以外は 発病度が増加 している。「無処理」と比較すれば「発病度」の増加率はやや低いが、これで『高い防除効果が認められた』と言えるのだろうか?
- 両剤ともに、初発生時に1回目の散布をすれば、"高い" 防除効果が認められる。しかし専門家が試験圃場にて散布した結果にもかかわらず 防除率100%ではない ことに注目。
- すでに症状が進んでいる状態で散布しても、あまり効果がないことにも驚かされる。
防除価(薬剤散布を行わなかった場合と比較して、どの程度防除できたのかを示す値)が100ではないという結果は、他の殺菌剤でも見受けられる。
考察
「防除効果試験」などをキーワードに検索すれば各地の農業試験場などでの結果がたくさんヒットするが、防除価は概ね "90前後" のようだ。B剤のべと病とうどんこ病に対する防除価の低さは、耐性菌あるいは低感受性菌が発生しているのかも。
それにしても、なぜ防除価は100ではないのか?
理由はいくつか考えられる。病原菌の細胞内に入った殺菌剤の有効成分は、Ⅰ - 7 膜輸送(まとめ)で触れた "ABC トランスポーター" の働きで細胞外へ排出される。外来の薬物を認識した細胞は、DNAに記録されているABC トランスポーターの遺伝子を読み出し、それを強く発現させる(排出ポンプをフル稼働する)ことで薬物に対抗する。
研究室でシャーレの培地に接種した菌に対する殺菌率が100%であっても、実栽培では丁寧に散布しても幾分かの薬量の散布ムラは生じるだろう。もし実栽培で防除率100%の殺菌剤があるとしたら、それはちょっと怖いものかもしれない。何度も書くが、殺菌剤の機作は "生化学反応" であり、ターゲットが病害菌か宿主か、それを選んでいるわけではない。農薬はその効果と共に安全性を優先して設計されており、薬害を出さないことも重要な条件。「殺菌剤の防除率は100%ではない」ということは念頭においておこう と思う。
例5:秋芽生育期のダコニール1000+DMI 系剤混用散布病害防除効果試験結果・総括(防除率)
茶/炭疽病
「予防的殺菌剤と治療的殺菌剤の混用による新防除技術」 |茶病害虫防除情報|鹿児島経済連・肥料農薬課 より引用
備考:ダコニール1000(FRAC M5) インダーフロアブル(FRAC 3) オンリーワンフロアブル(FRAC 3)
考察
これは茶の炭疽病の事例だが、予防的殺菌剤としてダコニール1000が、治療的殺菌剤としてインダーフロアブルかオンリーワンフロアブルが "混用" されていて、慣行防除法以上の優れた効果が出ている。
ダコニール1000の原体メーカー ㈱ エス・ディー・エス バイオテックの製品情報ページの 「安全使用上の注意」 には、"夏期高温時は使用しない" と記載されている。
茶の栽培暦「茶園の管理ごよみ」|鹿児島県姶良地区茶業振興会 を見ると、秋芽生育期の2~3葉期、3~4葉期は8月中旬から9月中旬。まさに "夏期高温時" にあたるし、しかも希釈倍率は(炭疽病の設定範囲内ではあるが)700倍という "高濃度散布"。茶の栽培にとって薬害はまさに命取りだろう。鹿児島の8月、秋芽2~4葉期。これで薬害が出ないのはどのような工夫がしてあるのだろう?
Ⅴ - 2 うどんこ病菌の動きは速い。対策のキモは "予防" の徹底
ページを書き進めながら思うのは、うどんこ病に侵されていない綺麗な葉を展開させるには、治療的な殺菌剤の散布ではムリ。吸器が形成されたら細胞は菌が分泌する酵素によって分解され*、葉裏は赤褐変し、その影響で葉は捩れてしまう。それは治療剤では元には戻せない。
したがって、防除の好機は付着器のメラニンドームができる前まで。うどんこ病菌の分生子は葉面に接触後20秒以内にECM(Extracellular Matrix)を接触面に分泌する。(Ⅱ章 - 1 うどんこ病菌の分生子|久能 均 三重大学)
ECMは表皮細胞壁表面のワックス層を分解する酵素を含んでいて、分生子は分解した成分を自身の栄養にするとともに、発芽菅を伸ばして吸着器を作るかどうかの判断をする(らしい)。
*9月6日追記(訂正):「吸器」を調べてみると、吸器は宿主の細胞を分解・吸収するのではなく、生かしたままでそれを "栄養供給源" として利用しているということがわかった。これに関しては、関連する情報を次の記事「バラのうどんこ病についての考察・補遺」でレポートする定。
さらにⅢ章 -1の「うどんこ病菌の種類と発生ーうどんこ病菌の見方ー」佐藤 幸生(富山県立大学)教授によれば;
うどんこ病菌の分生子は、接種2時間後頃から発芽し*、10時間後には細胞壁に侵入し、16時間後には吸器に核が移行する。
この時点までに防除するのが最も効果的。そのためには あらかじめ葉面に殺菌剤の薄膜を作っておく のがベストだろうと考えている。
*註:飛散する分生子は乾燥している。葉面に付着しても水分を吸収しないと発芽できない。そのための時間は必要。
私が理想とするバラのうどんこ病予防剤
- 葉の表裏両面で、分生子が 付着する/発芽管を伸ばす/吸着器を形成する のを阻害
- 殺菌剤のターゲットは病原菌だけで、葉の細胞内に浸透せず細胞基質に影響を与えない
- 殺菌剤の薄膜が光合成を妨げない
- 葉の美しさを損なわない
- 成長中の若葉に物理的なストレスを与えない
- 化学物質ではなく、栽培者や環境への影響が少ないゆえにカウント(削減)対象にならない
- 効果が持続し、連用が可能で、安価
これに近い予防剤はなんだろう? 化学合成農薬だが、予防剤として多くの栽培シーンで使われているのは「ダコニール1000」のようだ。夏期高温時での薬害ゆえに「ダコニール1000」を嫌う(敬遠する)バラ栽培者は少なくない。しかし、緑茶の生産量全国2位の鹿児島県の茶栽培農家は真夏に使用しているのだから、使い方しだいなのかな?
まず自分のバラにダコニール1000を散布し、私の栽培環境での薬害発生の実際を経験してみようと考えている。他にもこの条件に近い予防剤があるかもしれないが、すぐに思いつくのは「微生物殺菌剤」。
Ⅴ - 3 "葉面微生物で" バリアを作る
「うどんこ病菌の発芽を許さない」という予防効果を期待し、今回新しく準備したのは バチルス菌(枯草菌)を使った生物農薬。微生物殺菌剤で、ばらのうどんこ病に適用があるはの以下の2種類。
- 「インプレッションクリア」(バチルス アミロリクエファシエンス AT-332株)|㈱エス・ディー・エス バイオテック
- 「アグロケア水和剤」(バチルス ズブチリス HAI-0404株)|㈱ニッソーグリーン
参照1:葉圏(葉面)微生物| (Wiki) から一部を抜粋し引用
葉圏には細菌や酵母、糸状菌、真菌、植物ウイルス、古細菌、粘菌、緑藻類、コケ、地衣類、シダ、原生動物などが生息する。葉圏微生物で最もバイオマス量が大きいのは細菌である。その存在量は、培養可能な細菌だけでも一般的な植物の葉の表面積1㎠ 当たり10⁶-10⁷cells(百万〜千万匹)に及ぶ。
葉圏の細菌群は多様であり、植物病原菌、拮抗菌、植物ホルモン産生菌、フェノール分解菌、窒素固定菌などを含む。これら細菌群の分布と細胞数は植物の健康や生態系での物質循環に重要であると考えられている。
葉圏には インドール酢酸 (IAA/植物ホルモン・オーキシン) 生産能を持つ細菌が多い。IAAは植物の細胞壁を弛緩させ、多糖類を遊離させる。IAA生産菌はIAAを葉面に暴露し、栄養素を溶出させて獲得していると推測されている。
ある種の葉面細菌(菌株不明)は生物界面活性剤(バイオサーファクタント、biosurfactant)を産生・分泌することで、葉面への定着能を高めている。
参照2: バチルス菌(枯草菌)| (Wiki)
バチルス菌(枯草菌)は、土壌中や植物体に普遍的に存在し空気中にも飛散している常在の 細菌(バクテリア)。
好気性、グラム陽性の桿菌(かんきん)で単細胞。大きさは 0.7~0.8 X 2~3 ㎛。下の電顕写真3で、糸状菌の胞子との大きさの比較ができる。真菌と比べると、細菌ははるかに小さい。
㈱エス・ディー・エス バイオテック つくば研究所 山中 聡
「新規微生物殺菌剤:バチルス ズブチリス剤新菌株の特性とその使い方」|「植物防疫」第58巻 第8号(2004年)から引用
- バチルス菌に覆われた葉面上で発芽抑制されている ボトリチス(灰色かび病の病原糸状菌)胞子
- 胞子の発芽部位でバチルス菌が増殖。植物への侵入阻止をする
- 上記拡大図
写真ー1で、胞子の周辺に見えるモヤモヤしたもの、葉の表面構造(クチクラ層の最外部のワックス層)ではなさそうだし、気孔や孔辺細胞が無いので裏面でもない。写真ー2が葉の表面だろうが、写真ー1はバチルス菌が葉の表面を埋め尽くした状態なんだろうか? もしそうだとしたら、ゾッとするね。こんなの、あんまり使いたくないかも:p
備考:バチルス・ズブチリスとバチルス・サブティリスは、 "Bacillus subtilis" のカタカナ表記の違い。
Ⅴ - 4 インプレッション水和剤
作用機作 上記「新規微生物殺菌剤:バチルス ズブチリス剤新菌株の特性とその使い方」|「植物防疫」第58巻 第8号(2004年)から引用
バチルス ズブチリス (Bs)菌は多くの植物病原性糸状菌に対して拮抗的作用を示すことが知られているが、その防除メカニズムと多様な作用機作は、各種の寄主植物ー病原微生物系でそれぞれ明らかにはされていない。
基本的に、Bs菌の拮抗的作用には、空間競合、栄養競合、植物病原性糸状菌への付着、寄主植物体内の生理学的抵抗性の誘導、競合微生物を排除するための抗菌物質の放出等いくつかの種類がある。
新規微生物殺菌剤バチルス ズブチリス剤(インプレッション水和剤)の作用で明らかになっているものは、作物葉面上での空間・栄養の競合、さらに植物体の全身抵抗性の誘導、病原性糸状菌の付着器の侵入阻害などであり、まとめると以下のようになる。
- 作物葉面に物理的バリアーを形成し、植物病原性糸状菌の付着を阻害する。
- 葉面上に植物病原性糸状菌が付着した場合には、栄養分の競合により菌の生育を阻害する。
- 植物病原性糸状菌の胞子の発芽を停止させ、発芽管や菌糸の生長に対し集団を形成して破壊する。
本剤をより効果的に使用するためには、Bs菌が植物葉面上で定着し増殖するための環境条件(温度、湿度)を整え、植物病原性糸状菌の感染前に処理(予防)することにより安定して高い防除価が得られる。
防除効果
- うどんこ病に対する防除効果において、作物で若干の振れはあるものの発病率40%以下に抑えることが可能である。
- うどんこ病に対する防除試験では、対照剤である化学合成殺菌剤の効果と比較して、その試験例数の7割で同等かそれ以上の効果を示している。
- 本剤処理における発病率をより小さく抑えるためには、発生程度の少ない時期における使用が効果的であるといえる。90%以上の高い防除効果が要求される果樹等の作物においても、発生前〜初発の時期に処理することで十分な効果を期待することができる。
体系 | + 0 | + 10 | + 17 | + 27 | + 34 | + 45 | + 52 | + 61 | + 67 防除価(%) |
+ 73 防除価(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
① TPN + インプレッション | TPN | Bs | TPN | Bs | TPN | Bs | TPN | Bs | 100 | 99.8 |
② トリフルミゾール+インプレッション | TRF | Bs | TRF | Bs | TRF | Bs | TRF | Bs | 100 | 93.1 |
発病葉率 | 0% | 0.6~17.5% |
体系 | + 0 | + 10 | + 20 | + 31 | + 40 | + 52 | + 61 | + 67 防除価(%) |
+ 73 防除価(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
③ 化学農薬慣行 | TRF | MEP | TRI | TEC | QME | TRF | MEP | 100 | 99.8 |
④ 無処理区 発病葉率 | 78.3% | 100% |
記号 | 殺菌剤の種類 | FRACコード | 薬剤名(推定) |
---|---|---|---|
TPN | TPN フロアブル | M5 | ダコニール1000 |
Bs | インプレッション水和剤 | BM2 | インプレッション水和剤 |
TRF | トリフルミゾール水和剤 | 3 | トリフミン水和剤 |
MEP | メパニピリム水和剤 | 9 | フルピカフロアブル |
TRI | トリホリン乳剤 | 3 | サプロール乳剤 |
TEC | テトラコナゾール ME | 3 | サルバトーレME* |
QME | キノキサリン系水和剤 | M10 | モレスタン水和剤 |
註:殺菌剤の希釈倍率はそれぞれの規定濃度。幅がある場合は高濃度で使用
*テトラコナゾール ME剤が「サルバトーレME」なら、きゅうりの登録はない。
考察
- 防除価(%)は、薬剤散布を行わなかった場合と比較して、どの程度防除できたのかを示す値。数値が大きいほど防除効果が高い。①②区の+73日(最終散布から2週間後)の防除価(%)と発病葉率の関係は私にはよく理解できないが、発病葉があってもキュウリ(果実)が綺麗なら防除できたとするのかな?
- 「インプレッション水和剤」は薬斑による汚れが嫌われ、現在は「インプレッションクリア」に。菌株も「バチルス アミロリクエファシエンスAT-332株」に変わっている。
- バチルス ズブチリス菌(ズブチリスは現在 "バチルス アミロリクエファシエンス" で分類されている)の製剤は、『効力が不安定で保存性が劣り、使用方法が難しく気象条件に影響を受け易いなど 多くの欠点 が挙げられ、農家が積極的に使用するに躊躇する面がある』のだそうだ。引用元:「農薬時代」第192号(2010)
しかし、農薬使用回数にカウントされないなど利点もあるので、化学農薬と併用されることが多いようだ。 - この表の①はTPN剤とバチルス ズブチリス(Bs)剤を交互に散布。②はトリフルミゾール剤とBs剤。化学農薬の散布10日後にBs剤を散布し、その後は7日後に化学農薬のを散布するというパターンで、計8回の散布。
最終散布は+61日目で、その1週間後の防除価(%)はいずれも100。2週間後はTPN+Bs=99.8、TRF++Bs=93.1。
化学農薬との併用で、化学農薬のみの慣行防除と同等の結果が出ていて、Bs剤の使用によってカウント数の削減に寄与しているのがわかる。しかし、カウント数(化学農薬の使用回数)の削減だけが微生物資材の使用目的なら、何かイマイチ釈然としない。 - ③化学農薬慣行は10日毎の散布で計7回。
(論点がズレるけど)FRACコードで見れば 3-9-3-3-M10-3-3。コード3は「DMI殺菌剤」で、作用機作は「G:細胞膜のステロール生合成」。これが防除のメインターゲットなのかな、耐性菌の問題はどこに行った?:p
Ⅴ - 5 インプレッションクリア
「インプレッションクリア」は、バチルス アミロリクエファシエンスAT-332株の生芽胞(5×10⁹CFU/g)を有効成分とする微生物殺菌剤。「インプレッション水和剤」の欠点(作物の汚れ)を改善した後継剤なのだろう。
インプレッションクリア|製品情報|㈱エス・ディー・エス バイオテック
参照4:グリーンジャパン|農薬情報|殺菌剤|微生物|インプレッションクリア に詳しい情報がある。
以下のデータ(グラフおよび電顕写真)は上記グリーンジャパンからの引用。
考察
- 化学農薬と比較すれば、生物農薬一般の防除価はかなり落ちることがわかる。押し並べて言えば『化学農薬と同等の効果!』とは思えない。また、前に見てきたように化学農薬一般も100%の防除率ではないのだから、過剰な期待をしないでおこうと思う。
- 「インプレッションクリア」の場合も、成分数のカウント削減や耐性菌リスク対応が、この生物農薬を使うメリットとして明記してある。
- 『作物上における病原菌との空間競合・栄養競合が主たる作用機作である』とされているが、この2枚の電顕写真では「競合」ではなく「攻撃」しているように見える。
Ⅴ - 6 アグロケア水和剤
参照4:「Bacillus subtilisを有効成分とした新規微生物殺菌剤 "アグロケア水和剤" について」
- アグロケア水和剤 の連続散布区は、化学農薬の体系防除区と比較し、灰色かび病防除効果は低くなる傾向にあったが、アグロケア水和剤と化学農薬との体系防除区は、化学農薬の体系防除区とほぼ同等の灰色かび病防除効果を示した。
- このように、アグロケア水和剤と化学農薬を体系防除することにより、アグロケア水和剤のみの連続散布より病害防除効果を高め、化学農薬の体系防除と殆ど遜色のない病害防除効果が得られることが明らかとなった。
- 作用機作:本剤を散布すると有効成分である "B. subtilis HAI-0404株" が作物の表面を覆って病原菌と競合し、その栄養と生息場所を奪うことにより病害を予防すると考えている。
考察
- 「Ⅴ - 1 殺菌剤の防除率は100%ではない」の例1〜例5で取り上げた殺菌剤は、概ね90%程度の防除率を示している。防除率90%の化学殺菌剤を1週間間隔で6回散布すれば、7週目の発病率は限りなく0に近い数値になると思うのだが。それと比較すると、この「ナス灰色かび病」に対する殺菌剤の防除試験の結果はかなり低い。それほどに殺菌剤が効きにくい病気なのだろうか?
- アグロケア水和剤と化学農薬3種類を交互に散布した「アグロケア体系区」は、化学農薬体系区とほぼ同等の防除効果。これは前掲の「インプレッション水和剤」や「インプレッションクリア」の混用事例と同じような結果で、化学農薬使用回数や量の削減には効果があると思われる。
- しかし逆に言えば、「微生物資材で化学農薬の代行ができる」というだけのことかと、既に「アグロケア水和剤 」を購入している私にはちょっと失望感もある:p
微生物資材に何を期待しているのか自問しても答えがわからないが、例えば、米糠や油かすなどの有機物を微生物資材で発酵させ、それを施肥すると、化学肥料で栽培した野菜にはない風味が出る。これは断言できる。
過去記事 手作り有機肥料について:2011年10月3日「鈴木ぼかし作り開始」
- バチルス菌に軽い失望感があるのは、放線菌(wiki) のような、積極的な防除効果を期待していたのかも。
例えば、バラの根頭癌腫病の病原菌*は "アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)" という細菌だが、バラ苗生産農家はこれの防除のために台木や大苗の養生畝に「カニガラ」をすき込む。これはカニガラに含まれるキチン質が大好物である "放線菌" を土中に大量に増やすため。アグロバクテリウム ツメファシエンスの外殻(細胞壁)もキチン質が成分なので、増殖した放線菌(菌株不詳)がキチン分解酵素「キチナーゼ」を分泌して攻撃し、餌にしてしまう。
バラ苗生産が盛んな福岡県田主丸の園芸農家対象の資材店「スワ肥料店」には(私が知る10年以上の期間)「カニガラ」が常備してある。バラ苗生産農家がこれを使い続けているのは、癌腫病菌の密度を下げる効果があるからなのだろう。過去記事 カニガラについて :2011年11月7日「カニ殻とキトサンと放線菌」 根頭癌腫病について:2012年2月20日「バラの根頭癌腫病 −2」
- *脱線:細菌(バクテリア)は小さいけど、賢い
バラ根頭癌腫病の病原菌 "アグロバクテリウム ツメファシエンス" は「遺伝子組み換え」によってバラに癌腫を作る。そのプロセスを、独立行政法人農業生物資源研究所 澤田宏之氏による 「いわゆる "アグロバクテリウム" について」 という文書から引用して、「バラの根頭癌腫病 −2」の「遺伝子組み換え バラの根頭癌腫病の発症メカニズム」という文にまとめている。細菌恐るべし。 - 「アグロケア水和剤」の "HAI-0404株" は放線菌と比較するとかなりおとなしい性質のようだ。「作物の表面を覆って病原菌と競合し、その栄養と生息場所を奪うことにより病害を予防する」というのはインプレッション2種と同じだが、インプレッション水和剤にはある「発芽管や菌糸の生長に対し集団を形成して破壊する」という機作については言及がない。
養分や生息場所の競合はしても、「喰い殺す」(分解酵素を出し、エンドサイトーシスで喰ってしまう)などの積極的な攻撃はしないようだ。でも、自分よりも数百倍も大きいうどんこ病菌の分生子(生きているが移動できない)に集団でまとわりつく(細菌には鞭毛や線毛があり動くことができる)のは、より怖いかも。「葉の表面積1㎠ 当たりの細菌数は百万〜千万匹」(Wiki)。これだけでも十分怖いけど;p ちなみに、健康な若い女性の顔の肌1㎠ 当たりの常在細菌数は? 検索すればすぐにわかります。
超好熱菌の発酵力を利用して「土の薬膳」という有機肥料を開発された九州大学の金澤晋二郎教授(土壌微生物学)から、『地球の主人公は、じつは真正細菌(バクテリア)や古細菌(アーキア)など、いわゆる "菌" なんです』という話を聞いたことがあるけど、まさに。 - バチルス菌は7~10日間隔での散布が推奨されていて、これも意外。微生物にとって葉面は養分が少なく住みごごちも良いとは言えない "月の砂漠" というのをどこかで読んだが、バチルス菌の繁殖力がさほど強くはないのか、あるいはエサが不足しているのか。もし活力剤などを葉面散布したら、月の砂漠はオアシスになるのかな?
・・というのは、先日、福岡バラ会の星隈会長の地植えのバラを拝見して、その葉の美しさを改めて認識。星隈会長は「ビタナール」という "植物の活性エキス" を葉面散布されていて、私もこれを試してみようかと購入した。「ビタナールがバチルス菌の餌にならないか」というのが(密かな)狙い。 - 葉面微生物は多種類で多数。たぶんお互いにバランスをとりながら生息しているのだろう。国内で採取された菌株とはいえ、自然なバランスを人為的に操作するのはちょっと引っかかるものがある。 "土着の放線菌" を米糠(など)で培養し、それを葉面散布しているバラ栽培者もいらっしゃるだろう、たぶん。・・今思い出したけど、鹿児島のお茶栽培農家にそういう方がいらっしゃったな。
Ⅴ - 7 細菌を殺さないうどんこ病殺菌剤もある
バチルス菌を使おうと考えたとき気になったのは、化学殺菌剤を散布したら葉面にいるバチルス菌までも殺してしまうのではないか?ということ。しかしそれは杞憂に過ぎないようだ。
理由は、「糸状菌(真菌/真核生物)とバチルス菌(細菌/原核生物)はまるで別の生物」と言っても間違いではないほど大きな違いがあるから。
参考
- 生物の分類|3ドメイン説 (Wiki)
- 細菌の概要|水浄化フォーラム -科学と技術- 村上定瞭(水浄化フォーラム)
註:この2枚のイラストはスケールが異なる。実際の大きさは上掲のバチルス菌の電顕写真を参照。
バチルス菌の体積は真核細胞の数百分の1以下。
うどんこ病殺菌剤が細菌を殺さない一例:
ほとんどの真核生物の細胞にある "ミトコンドリア(Wiki)" は、電子伝達系でプロトンの濃度勾配を作り、それを利用してADPとPi(リン酸)からATPを合成(好気呼吸)する。ミトコンドリア電子伝達系|前編 Ⅰ - 3
FRACコード表「C:呼吸」に分類される多数の殺菌剤は、このミトコンドリアの電子伝達系複合体で作用する酵素の働きを阻害する(呼吸できなくする)ことで機能する。原核生物にはそもそもミトコンドリアが存在しない から、FRACコード表「C:呼吸」の殺菌剤は機能しようがない。
原核生物にも影響する殺菌剤 は、FRACコード表「M:多作用点接触活性化合物」の、キャプタン(オーソサイド水和剤80)やマンゼブ(ジマンダイセン水和剤)、TPN(ダコニール1000)など。ただしコード:Mの殺菌剤であっても一概には言えないかもしれないので注意。
参照:「アグロケア 混用事例」
(引用 有効成分とFRACコードは そら による追記)
記号説明:◯印 混用により、アグロケアの有効成分菌HA1-0404株の生育に影響がない薬剤。
注意事項:下記は混用によりアグロケアの効果が低下する可能性が高いため、混用をさけたほうがいいと思われる薬剤。下記薬剤と同じ有効成分を含有する剤(単剤、混合剤)も同様。
オーソサイド水和剤80(キャプタン/M4) カーゼートPZ水和剤(マンゼブ/M3) ジマンダイセン水和剤(マンゼブ/M3) ダコニール1000(TPN/M5) ベフラン液剤25(イミノクタジン酢酸塩/M7) ベルクート水和剤(イミノクタジンアルベシル酸塩/M7) ベルクートフロアブル(イミノクタジンアルベシル酸塩/M7)
アイヤーエース ニーズ
混用をさけたほうがいいと思われる薬剤はすべて "FRACコード:M(多作用点接触活性化合物)" に分類される。
8月6日の記事で、「ベテラン栽培者の予防散布:葉の表面に "農薬の薄膜" を作る」という事例を紹介したが、それに利用されるのが、マンゼブ/M3、キャプタン/M4、 TPN/M5 など、 "FRACコード:Mの殺菌剤" だ。これらは細菌・真菌を問わず葉の表面での殺菌力が強いのだろう。だから予防剤としての効果が大きいのだと思う。
アイヤーエースとニーズは展着剤だが、使えない理由については説明がない。
*重要
「インプレッションクリア」は上記とは異なる作用機作があるのか、「アグロケア水和剤」では混用すると『効果が低下する可能性が高い』とされる "FRACコード:M" の殺虫・殺菌剤との混用が可能らしい。理由は私にはわからない。「インプレッションクリア」は菌株が "バチルス アミロリクエファシエンス AT-332株" なので、それゆえなのかも。
ゲスな私は、この表を見て『これは実栽培で確認されたデータなんだろうか?』と疑ってしまった:p
でもよく見ると、『±:軽微な汚れの可能性あり』と、実際にテストしなければわからない結果が記載されている。ならば、使われることが多いオーソサイド水和剤80やダコニール1000との混用事例だけでも具体的なデータを公開してほしいものだ
表の◯印は、「インプレッションクリアと化学殺菌剤が、お互いの影響を受けることなくそれぞれの効果を発揮している」という意味だと解釈するが、・・でも、その影響は◯印か無印かで割り切れるものなんだろうか?
例えばパレード20フロアブルとの混用は、イチゴ、トマト、ミニトマト、ナス、キクで◯印だが、ピーマン、キュウリ、メロン、スイカなどでは無印。これはどのように理解すればいいのだろう?
「混用」とは具体的にどうしたのか、試験方法や影響度の判定基準などについて何も説明が無いのが残念。IPMの理念に沿って栽培をするには、使用する農薬の詳しいデータが必要だ。積極的な情報公開を期待したい。
Ⅵ バラのうどんこ病についての考察 まとめ
この夏はうどんこ病について私なりの考察を続けてきた。ありがたいことに、ネット上にはうどんこ病やその殺菌剤についての多くの情報がある。そのいくつかを読んだが、データや論文の選択は恣意的なもので、結果として「まとめ」を書くほどの認識には至っていない。一栽培者として、きれいなバラを咲かすことができればそれでいいのだが、でも納得のいかないまま薬剤を使用するのはどうしても抵抗感がある。IPMやSDGsを持ち出すまでもなく、 "生理的にイヤ" なのだ。特に『殺菌剤は病原菌だけでなく、宿主の細胞も痛めつけているのではないか?』という当初からの疑問は依然として解決できていない。
季節は移り、はや秋の気配。現状は「バラの病虫害 防除記録 2022夏」に書いているように、栽培品種からはうどんこ病の菌叢は消えた。
これは散布した殺菌剤の効果もさることながら、季節的な要因=高温・強光線による殺菌(静菌)効果も大きいのだろうと思われる。今、うどんこ病菌は分生子(や内在型の菌糸?)の状態でおとなしくしているだけで、やがて気候が良くなれば再発生してくるに違いない。
うどんこ病対策を、「殺菌剤を使用する」という側面から考えた今回の自学で、特に興味を持ったのは 8月6日の記事:「ベテラン栽培者の予防散布:葉の表面に "農薬の薄膜" を作る」で紹介した、筑波大学生命環境系 石賀 康博 氏の「天然素材を利用してダイズの病気を防ぐ ~植物病原菌に葉面を認識させないカモフラージュ作戦~ 」。これは従来の "殺菌剤" という枠を超えた発想だと思う。以下に再掲する。
天然素材を利用してダイズの病気を防ぐ ~植物病原菌に葉面を認識させないカモフラージュ作戦~
筑波大学生命環境系 石賀 康博(筑波大学 2021年9月7日のプレスリリースから一部引用)
ダイズ葉表面をセルロースナノファイバー(CNF)で覆った際のダイズ葉とダイズさび病菌に与える影響を示した。まず、葉面をCNFで覆うことで、ダイズ葉表面の特性が疎水性から親水性に変化する。これにより、ダイズさび病菌の付着器形成に必要なキチン合成酵素遺伝子の発現の抑制が起こり、ダイズ さび病菌の付着器形成率が低下する。その結果、ダイズさび病菌の感染行動が抑制され、病気の発生が減少する。
参考: CNFとは - セルロースナノファイバーの基本|環境省
比較的新しく開発された殺菌剤が、病原菌の呼吸や細胞膜の生合成など生命機能の核心部分をピンポイントで阻害するのに対し、これは病原菌の「付着器の形成」という、特徴的だが限られた機能を阻害する。しかも物理的な障害を作るのではなく、「必要な酵素の遺伝子の発現を抑制する」という機作。これは宿主だけでなく環境に対しても影響が少ない(無い)のではと思う。
ちょっと驚いたのは、「葉表面の特性が疎水性から親水性に変化する」ことで作用するということ。飛散するうどんこ病の胞子は乾燥していて、葉面に付着した後に発芽管を伸ばすには、葉面や空気中から水分を吸収する必要があるが、「分生子は過剰に水を含むと膨張し、原形質膜が破れて死ぬ事があり、発芽率が低下する」という指摘との共通性だ。出典:「うどんこ病」(Wiki)
上図の [ CNF ] に殺菌効果があるのではない。CNFの "親水性" 、つまり葉面が水分を保持しているということだけで遺伝子の発現が抑制されるということなのだ。このような、遺伝子の発現を抑制するCNF(水)に相当する物質は他にないものだろうか。FRACコードの「作用機構」で調べても、病原菌の生命活動に必要な酵素を "遺伝子レベル" で阻害するという剤を見つけることができなかった。あるのかもしれない、あるいは多くの剤がそうなのかもしれないが、入手できる限られた情報では知る術がない。
「遺伝子の発現を抑制」というレベルではないが、「生物間の生存の拮抗」を利用する微生物資材を、予防剤のメインにしてみようと考えている。作用機作はまるで違うが、これで [ CNF ] に代わるバリアを作るという目論見。
バチルス菌はCNFとは違い、分生子を攻撃する能力があると思う。そして自体がある程度の水分を保持しているだろうし、さらにその餌として何らかの有機物を定期的に葉面散布すれば、増殖した菌が葉面を覆い尽くし、さらには散布した水分が分生子をパンクさせる効果もあるのでは? と、ちょっと恥ずかしい幼稚な発想だけど。:P でも、対策はシンプルで(が)いいのだ。「水で、付着器形成に必要な酵素の遺伝子の発現が抑制される」なんて、誰が想像できただろう。やってみなければ、結果はわからない。
Ⅵ - 1 検証は、実栽培の結果で
- 目標:栽培中の品種からうどんこ病を根絶し、美しい葉を展開させたい。
(雑記)コンテストに出品できる品質の花を目指すが、コンテストの基準には縛られない。この夏、HTの「魅惑」の三番花を放任して(バラ会では嫌われる "マツバ箒" 状態で)咲かせたら、『これがあの "魅惑" なの?』と驚くほど魅力的で、あたかもフレンチの新品種かと思うほど新鮮な印象のフリル弁の花がいっぱい咲いた。
葉もとてもきれい。残念なことにその写真を撮っていない。「魅惑」の三番花はスリップスの生息数を確認するために咲かせたもので、どんな花が咲くかには(見慣れているし、夏の花だし)まったく関心がなかった。妻がひと抱えもあるほど切り出し、それを活けているのを見て、『これはなんという品種? どこで入手したと?』と聞く始末:p フリル弁は夏の暑さや肥料バランスの影響だろうと思うが、仕立て方次第で花の印象が変わるのを知って嬉しい。
- 基本:IPMの理念に沿って、農薬だけに頼らない防除方法を考え、実行する。
キモは、 "十分に光にあて雨にも打たせる" という、屋外栽培の状態に近づけること。 - ハウス内で栽培している株数の削減。生育不良株を廃棄し、台木類をハウス外に移動。これによって株間が広くなり、陽当たりが幾分か改善した。
- 紫外線による殺菌効果を期待し、週に1〜2回は全日にわたり強光線を遮光をしない。
- バチルス菌の餌、および分生子をパンクさせる目的で、週に1回ハウス内に霧雨を降らせる。
- ハウス内清掃のために電動ガーデンクリーナー(落ち葉を吸引/吹き飛ばす)を準備したが、効果は?:p
- 肥料:施肥はこれまで通りの方法で行う。
- 『窒素過多と風通しの悪さがうどんこ病の主な原因』と言われることが多いが、それは私の環境には当てはまらない。肥料分はECメーターによるチェックと、三枚葉にヤツデ葉が出るかどうかで判断。それをチェックするためのステムを、開花枝とは別に、各品種ごとに1本以上は用意する。
- 細胞壁を強化する "ケイ酸" を多く含む土壌改良資材「ニュートリスマート」を追加した。
参考:ケイ酸の効果とは?| minorasu|BASFジャパン㈱
注目 "英語版の "Wikipedia | Powdery mildew" には以下のような記述がある。"Silicon helps the plant cells defend against fungal attack by degrading haustoria and by producing callose and papilla."
その機作の詳しい説明はないが、「ケイ酸は細胞壁を強くする」とはこのようなことなんだろう。何人かの栽培者からうどんこ病に対するケイ酸の効果を聞いたことがあるので期待したい。バラ友のNさんは、わざわざ「ケイ酸カリ」を持ってきてくれた。ありがとう。
(ケイ素は、吸器を分解すると共に、カロース(Wiki) と パピラ を生成することにより真菌の攻撃から宿主を防御する)
花の発色を良くするために「珪酸塩白土・ミリオン」 珪酸(SiO2)含有量72.96% を開花前に使うが、今秋はこれをうどんこ病予防の目的で早めに投入してみようと考えている。 - 農薬:予防を重視。定期散布はしない。8月末までに使用した農薬のカウント数は8。カウント数を30以下にする。
Ⅵ - 2 今後の予定
- 手順:分生子は強固な細胞壁に守られているので、直接作用する殺菌剤は無いと思う。あれば理想的な予防剤なんだが。したがって、一次発芽管(や付着器)を潰す機作のある殺菌剤を使用する。
- 9月上旬 うどんこ病菌は "日和見"。まず、どこかに隠れているのであろう菌糸を "パンチョTF顆粒水和剤" (FRAC:U 作用機構不明)で叩く。
- 9月中旬 秋の花のための剪定
- 剪定後 1. の殺菌剤を潜り抜けた菌糸や、細胞間隙に隠れているかもしれない内部寄生型の菌糸を "パレード20フロアブル" (FRAC:C 呼吸阻害)で叩く。これには発芽を阻害する機作もある。
- 発芽管(や付着器) を潰すための メインの予防剤 は "アグロケア水和剤"(FRAC:BM バチルス菌製剤)。前掲の資料によればバチルス菌の防除価は高くはないので、併用する化学農薬も準備している。
高温による障害がなければ、ダコニール1000 (TPN/FRAC:M5) か、サンヨール乳剤 (DBEDC有機銅/FRAC:M1) も良さそうに思えるのだけれど。。アグロケア水和剤の効果が芳しくなければ、切り替えるかも。この辺りは状況次第で柔軟に対応したい。 - 経過を注意深く観察し、菌叢の発生(その前兆としての葉の捩れや葉裏の赤変)があれば以下を順次 併用。
- "フルピカ フロアブル" (FRAC:D アミノ酸およびタンパク質生合成阻害)
- "サルバトーレME" (FRAC:G 細胞膜のステロール生合成阻害)
- "ポリオキシンAL水溶剤「科研』" FRAC:H 細胞壁生合成阻害)
これを実行すれば、そのローテーションは U→C→D→G→H になる。でもそれでは「負け」になる気がして、5. フルピカ以降を使わなくてもいいほどバチルス菌が頑張れる、そのような使い方を探ってみたい。
経過は「バラの病虫害 防除記録 2022秋」に記録する予定。
9月6日追記(重要な訂正):病原菌の「吸器」について調べてみると、吸器は宿主の細胞を分解して吸収するのではなく、生かしたままでそれを "栄養供給源" として利用しているということがわかった。これに関連する情報を、次の記事「バラのうどんこ病についての考察・補遺」でレポートする。