1月15日から16日にかけてスタンダード台木に栽培品種を接木しました。12月21日の記事:「バラのスタンダード仕立てを作る ③ 接木方法について」で検討した接木方法は、結局すべてが「デービッド接ぎ」の "枝残しバージョン" になりました。
鉢に植え込んだ長尺台木への接木は、接ぐ位置が作業しやすい高さになるよう鉢を倒し、もし添木が邪魔なら接木する個所を少し緩めます。台木に力がかかって根が切れないように、添木をうまく使って台木にかかる重さを逃します。
接木の方法
方法は「デービッド接ぎ」の "枝残しバージョン" と同じです。下記 "枝無しバージョン" も併せて参照してください。
- 切り出した穂木は、扱いやすい長さ(20〜40㎝)に切り分ける。台木よりやや細い部分を接ぎ穂にすると接ぎやすい。適切な芽を1〜2芽選び、その上下と左手で握る部分のトゲを取り除く
- 接ぎ穂から出る新芽の伸びる方向が台木とぶつからない角度を見つけて、接ぎ穂の基部を「楔形」(V字型)に切る。切断面(2面)に現れる形成層は放物線を描く
- 出来た接ぎ穂の基部を台木に合わせて、台木の切り込みの長さと幅の見当をつける
- 台木に切り込みを入れる。一般的な切接ぎのように表面と平行ではなく、僅かに台木の軸(中心部)に向かって切る。それで台木の形成層も放物線になる
- 接ぎ穂を台木に差し込み、接ぎ穂と台木の接合面に「隙間」ができていないか、形成層は合致しているかを確認
- 接ぎ穂の芽の上側5〜7㎜の位置で、芽の方向と平行になるようわずかに斜めに切る
- 接ぎ穂を差し込み、接木テープを引き伸ばす動作で接ぎ穂が動いて形成層がずれないよう注意しながらテープを巻く
- 接ぎ穂より上側の台木の枝葉はそのまま残す。これを切り落とすのは接ぎ穂から出た新芽が5㎝以上伸びてから
参照
- 接ぎ穂の調整: 「「デービッド接ぎを見直す」」 "接ぎ穂の作り方"
- 台木に切り込みを入れる:「デービッド接ぎと 田主丸型 接木小刀」 "『刺身を引く』ように、台木を切り込む"
- テーピング:「デービッド接ぎ 補遺」 "接ぎ木テープの巻き方"
この株の接ぎ穂は1本2芽です。新芽の伸びる方向が台木とぶつからないように注意して接ぎ穂の基部を切ります。台木の左上に見えるテープは、台木を切り損じた個所を修復した痕跡です。長尺台木は、このように台木の切り込みを失敗しても、その下で切り直すことができる利点がありますね。
接ぎ穂の基部の裏にある台木の芽は早い時点で「芽かき」をしています。しかし、これでは「副芽」が出そう。接木する際にあらためて「芽抜き」(接木小刀で芽を浅く削りとる)をすべきだったのに、見逃してそのまま接木テープを巻いたのが写真下左です。「副芽」が出たらそれがどのように影響するのかわかりませんが、いずれにしても、台木の切り込みをこれよりも1㎝上側にすべきだったかも。
左から2本目の接ぎ穂は2芽で、芽と芽の間隔が長いパターン。3本目は芽抜きの痕にテープを巻いていますが、どうでもいい個所を芽抜きして、肝心な個所を見逃すなんて。。この日は朝から冷たい小雨が降っていて、なんだか意識もぼんやり:p
苦戦したのが右端。台木は デルバールの "ギー・サヴォア" のシュートです。接ぎ穂の直径との差が大きくて形成層が合致するように切り込みを入れるのが難しく、確信が持てないので同じ品種の接ぎ穂(2芽)を下に足して2本にしました。なんとか無理やり接いではみたものの、テープが幾重にも巻かれて、なんとも不細工な結果に。
台木や接ぎ穂のカットをミスして形成層がイマイチ合っていないような気がする時に、テープが "厚巻" になる(テープで締め上げて無理に合わせようとする意識が働く)のは私だけ? どうもそうみたいだな。
接木職人さんのテーピング|接木.com(バラの切接ぎ/ニューメデールを使用)は、テープを引き伸ばしながら5〜6回軽く巻くだけ。現場で何回か教えてもらったし、わかっているつもりなんだけど。
切接ぎならともかく、不器用な指先の私にはデービッド接ぎの "枝残しバージョン" はテーピングが難儀で、このような作業が年々下手になっていくのを思い知らされる。見た目が悪いのは失敗する確率が高いよなぁ。 枝残しバージョンだけでなく、台木と接ぎ穂の直径が大きく異なるこのようなケースにも、私の接木手法は対応できていない。どうしよう・・。
・・何処からともなく『このまま ほっとけ』という声が聞こえる。 釈然としないけど、まぁ、いいか。:p
スタンダード株の列の奥は「デービッド接ぎ挿し」(下記)の4株。そしてハウス専用の結露防止用石油ストーブ。
スタンダード株の後ろにあるのは一昨年交配して育った実生苗。甘々の選抜に残ったものが 60株、つまり 60品種。
デービッド接ぎ挿し も試みる
バラ仲間がノイバラの長尺枝を提供してくれたので、3人で4本の短いスタンダード仕立てを試みました。
このサイズは日本では一般的ではありませんが、英語圏では "tree rose" と言うようで、接木方法を紹介する海外のYouTube動画で何度か見たことがあります。その一例を昨年10月2日の記事:「T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.」の "Commercial rose budding grafting" で紹介しています。T芽接ぎなので、地植え台木の枝葉はもちろん残したままです。
この長尺枝はあるベテラン栽培者からの貰い物なんだそうで、切り出されてから後の管理は不明ですが、さほど品質の劣化はなさそうでした。でも輸送中などに道管に空気が入っている可能性があり、しかも先端に枝葉はありません。スタンダード仕立てを作る多くの方は先端の枝葉には無頓着なようです。それで "接ぎ挿し" がうまくいくならいいのですが、私は何本も失敗したので自信がありません。先端に枝葉を残すことの重要性は 大野耕生さん に教えてもらったのですが、それを聞いたときは失敗続きの最中だったので、背筋から脳天に稲妻が走りました:p
それはともあれ、せっかくのチャンスです。台木になる長尺枝は私のハウスに持ち込まれた後、水切りして基部を一晩「クリザールフラワーフード」に浸漬し(たぶんほとんど吸い揚げていない)、新聞紙に包んで軽く湿らせたものをサランラップで巻いて数日間保存。幸いなことにこの間は天気が悪く、保存中の枝の温度はさほど上がらなかったと思われます。
「接ぎ挿し」はまず長尺台木に接木をして、それを挿木するという手順になります。接木の方法は、葉が付いていない先端を残すのはあまり意味がない*と考え、3人とも手慣れたデービッド接ぎの "枝無しバージョン" で接ぎました。
*台木と接ぎ穂の癒合に必要な植物ホルモン「オーキシン」は接ぎ穂の新芽から供給されるだろうと判断。
しかし、「植物におけるオーキシンの生合成とその調節機構」笠原博幸(東京農工大学)|化学と生物 Vol. 55, No. 7, 2017 には、オーキシンの生合成は教科書に書かれてるように茎頂や新芽・新葉だけではなさそうだとの指摘がある。おもしろい。
デービッド接ぎ 枝なしバージョン
前述の「枝残しバージョン」とほぼ同じで重複しますが、若干補足します。
- 【長尺台木の接木する位置の太さ】より少し細い穂木を用意すると接ぎやすい。適切な芽を1〜2芽選ぶ
- 穂木の基部を「楔形」(V字型)に切る。切断面(2面)に現れる形成層は放物線を描く。この時点では、芽のある枝先側は切らないままにしておく
註:デービッドさんの接ぎ穂基部はV字型ではない。V字型にする場合は穂木を180度回転して同じ方法で切る。 - 出来た接ぎ穂の基部を台木に合わせて、台木の切り込みの長さと幅の見当をつける
- 台木の「芽抜き」(接ぐ箇所だけ)をして、切り込みを入れる。一般的な切接ぎのように表面と平行ではなく、僅かに台木の軸(中心部)に向かって直線的に切る。切り込む途中で刃の向きを変えることはしない。それで台木の切断面が平坦になり、形成層も放物線になる
- 接ぎ穂を台木に差し込み、接ぎ穂と台木の接合面に「隙間」ができていないか確認する。もし隙間があれば、その原因となっている部位を切り直す。この時点までに接ぎ穂を短く切ってしまっているとこの修整がしづらい。台木の切り込みに修整できない問題があるなら、1節下で切り直す。
形成層の放物線の頂点部分は合致していなくてもOK。放物線(形成層)の縦の部分を合わせる ことが重要
備考:接ぎ穂の切断面が平面ではない(僅かに波打っている)のは、接木小刀の使い方を間違っているから。
「デービッド接ぎを見直す」の「接ぎ穂の作り方」を参照。このように小刀を持ち、左手を後ろに引いて一気に切る。多くの人は包丁を使うときのように小刀を持ち右手を前に動かして切るが、それでは平坦に切るのは難しい。
台木の切り込みを平坦に切るコツは、前述の「デービッド接ぎと 田主丸型 接木小刀」の「刺身を引くように、台木を切り込む」を参照。これはデービッドさんの切り方とは異なるが、自分に合った安全で操作しやすい方法 を見つける。
穂木、台木いずれの場合も 切る途中で刃の向きを変えたり止めたりしない のがポイントだが、小刀の操作を躊躇うと切断面に歪みが出ることが多い。慣れるまで、不要な枝で練習するのも効果的。 - OKならば、接ぎ穂の芽の上側5〜7㎜の位置で、芽の方向と平行になるようわずかに斜めに切断
- 台木を【切り込みを入れ始めた箇所】で切断する。これが一般的な切接ぎの手順とは異なる
- 接ぎ穂を差し込み、台木の根元側から接木テープ「ニューメデール」を引き伸ばしながら巻き始める。接いだ部分は2〜3回、接ぎ穂の芽の上は1回巻く。芽の真上にテープのシワが被さらないよう注意。接ぎ穂の先端は木口をカバーしてから捻り切る
長尺枝の挿木
長尺台木の挿木は、昨秋10月22日の記事「バラのスタンダード仕立てを作る ① 台木の秋挿し」で紹介した方法とまったく同じです。鹿沼土(挿し芽用土)は前回より少なめですが、水洗して微塵抜きをしっかり行ったので、水受け皿の水が澄んでいるのがわかります。水受け皿に「珪酸塩白土・ミリオンA」を20㌘投入したのも前回と同様。
穂木が充実し雑菌の繁殖も少ない「寒挿し」の季節だし、接木方法は比較的容易な「デービッド接ぎの枝無しバージョン」。二人ともデービッドさんの接木講座の受講者で、接木の腕前は既に初心者の域を超えているから、道管に空気が入っていなければ先端に枝葉が無くても「水苔と底面給水」の効果でなんとかなるんじゃないかと期待。