このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2023年1月17日火曜日

バラのスタンダード仕立てを作る ⑤ 接木

1月15日から16日にかけてスタンダード台木に栽培品種を接木しました。12月21日の記事:「バラのスタンダード仕立てを作る ③ 接木方法について」で検討した接木方法は、結局すべてが「デービッド接ぎ」の "枝残しバージョン" になりました。

鉢に植え込んだ長尺台木への接木は、接ぐ位置が作業しやすい高さになるよう鉢を倒し、もし添木が邪魔なら接木する個所を少し緩めます。台木に力がかかって根が切れないように、添木をうまく使って台木にかかる重さを逃します。

接木の方法

方法は「デービッド接ぎ」の "枝残しバージョン" と同じです。下記 "枝無しバージョン" も併せて参照してください。

  1. 切り出した穂木は、扱いやすい長さ(20〜40㎝)に切り分ける。台木よりやや細い部分を接ぎ穂にすると接ぎやすい。適切な芽を1〜2芽選び、その上下と左手で握る部分のトゲを取り除く
  2. 接ぎ穂から出る新芽の伸びる方向が台木とぶつからない角度を見つけて、接ぎ穂の基部を「楔形」(V字型)に切る。切断面(2面)に現れる形成層は放物線を描く
  3. 出来た接ぎ穂の基部を台木に合わせて、台木の切り込みの長さと幅の見当をつける
  4. 台木に切り込みを入れる。一般的な切接ぎのように表面と平行ではなく、僅かに台木の軸(中心部)に向かって切る。それで台木の形成層も放物線になる
  5. 接ぎ穂を台木に差し込み、接ぎ穂と台木の接合面に「隙間」ができていないか、形成層は合致しているかを確認
  6. 接ぎ穂の芽の上側5〜7㎜の位置で、芽の方向と平行になるようわずかに斜めに切る
  7. 接ぎ穂を差し込み、接木テープを引き伸ばす動作で接ぎ穂が動いて形成層がずれないよう注意しながらテープを巻く
  8. 接ぎ穂より上側の台木の枝葉はそのまま残す。これを切り落とすのは接ぎ穂から出た新芽が5㎝以上伸びてから

参照

この株の接ぎ穂は1本2芽です。新芽の伸びる方向が台木とぶつからないように注意して接ぎ穂の基部を切ります。台木の左上に見えるテープは、台木を切り損じた個所を修復した痕跡です。長尺台木は、このように台木の切り込みを失敗しても、その下で切り直すことができる利点がありますね。

接ぎ穂の基部の裏にある台木の芽は早い時点で「芽かき」をしています。しかし、これでは「副芽」が出そう。接木する際にあらためて「芽抜き」(接木小刀で芽を浅く削りとる)をすべきだったのに、見逃してそのまま接木テープを巻いたのが写真下左です。「副芽」が出たらそれがどのように影響するのかわかりませんが、いずれにしても、台木の切り込みをこれよりも1㎝上側にすべきだったかも。

左から2本目の接ぎ穂は2芽で、芽と芽の間隔が長いパターン。3本目は芽抜きの痕にテープを巻いていますが、どうでもいい個所を芽抜きして、肝心な個所を見逃すなんて。。この日は朝から冷たい小雨が降っていて、なんだか意識もぼんやり:p

苦戦したのが右端。台木は デルバールの "ギー・サヴォア" のシュートです。接ぎ穂の直径との差が大きくて形成層が合致するように切り込みを入れるのが難しく、確信が持てないので同じ品種の接ぎ穂(2芽)を下に足して2本にしました。なんとか無理やり接いではみたものの、テープが幾重にも巻かれて、なんとも不細工な結果に。

台木や接ぎ穂のカットをミスして形成層がイマイチ合っていないような気がする時に、テープが "厚巻" になる(テープで締め上げて無理に合わせようとする意識が働く)のは私だけ? どうもそうみたいだな。
接木職人さんのテーピング|接木.com(バラの切接ぎ/ニューメデールを使用)は、テープを引き伸ばしながら5〜6回軽く巻くだけ。現場で何回か教えてもらったし、わかっているつもりなんだけど。

切接ぎならともかく、不器用な指先の私にはデービッド接ぎの "枝残しバージョン" はテーピングが難儀で、このような作業が年々下手になっていくのを思い知らされる。見た目が悪いのは失敗する確率が高いよなぁ。 枝残しバージョンだけでなく、台木と接ぎ穂の直径が大きく異なるこのようなケースにも、私の接木手法は対応できていない。どうしよう・・。

・・何処からともなく『このまま ほっとけ』という声が聞こえる。  釈然としないけど、まぁ、いいか。:p 

スタンダード株の列の奥は「デービッド接ぎ挿し」(下記)の4株。そしてハウス専用の結露防止用石油ストーブ。  
スタンダード株の後ろにあるのは一昨年交配して育った実生苗。甘々の選抜に残ったものが 60株、つまり 60品種。

デービッド接ぎ挿し も試みる

バラ仲間がノイバラの長尺枝を提供してくれたので、3人で4本の短いスタンダード仕立てを試みました。

このサイズは日本では一般的ではありませんが、英語圏では "tree rose" と言うようで、接木方法を紹介する海外のYouTube動画で何度か見たことがあります。その一例を昨年10月2日の記事:「T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.」の "Commercial rose budding grafting" で紹介しています。T芽接ぎなので、地植え台木の枝葉はもちろん残したままです。

この長尺枝はあるベテラン栽培者からの貰い物なんだそうで、切り出されてから後の管理は不明ですが、さほど品質の劣化はなさそうでした。でも輸送中などに道管に空気が入っている可能性があり、しかも先端に枝葉はありません。スタンダード仕立てを作る多くの方は先端の枝葉には無頓着なようです。それで "接ぎ挿し" がうまくいくならいいのですが、私は何本も失敗したので自信がありません。先端に枝葉を残すことの重要性は 大野耕生さん に教えてもらったのですが、それを聞いたときは失敗続きの最中だったので、背筋から脳天に稲妻が走りました:p

それはともあれ、せっかくのチャンスです。台木になる長尺枝は私のハウスに持ち込まれた後、水切りして基部を一晩「クリザールフラワーフード」に浸漬し(たぶんほとんど吸い揚げていない)、新聞紙に包んで軽く湿らせたものをサランラップで巻いて数日間保存。幸いなことにこの間は天気が悪く、保存中の枝の温度はさほど上がらなかったと思われます。

「接ぎ挿し」はまず長尺台木に接木をして、それを挿木するという手順になります。接木の方法は、葉が付いていない先端を残すのはあまり意味がないと考え、3人とも手慣れたデービッド接ぎの "枝無しバージョン" で接ぎました。

台木と接ぎ穂の癒合に必要な植物ホルモン「オーキシン」は接ぎ穂の新芽から供給されるだろうと判断。
しかし、「植物におけるオーキシンの生合成とその調節機構」笠原博幸(東京農工大学)|化学と生物 Vol. 55, No. 7, 2017pdfファイル には、オーキシンの生合成は教科書に書かれてるように茎頂や新芽・新葉だけではなさそうだとの指摘がある。おもしろい。

デービッド接ぎ 枝なしバージョン

前述の「枝残しバージョン」とほぼ同じで重複しますが、若干補足します。

  1. 【長尺台木の接木する位置の太さ】より少し細い穂木を用意すると接ぎやすい。適切な芽を1〜2芽選ぶ
  2. 穂木の基部を「楔形」(V字型)に切る。切断面(2面)に現れる形成層は放物線を描く。この時点では、芽のある枝先側は切らないままにしておく
    :デービッドさんの接ぎ穂基部はV字型ではない。V字型にする場合は穂木を180度回転して同じ方法で切る。
  3. 出来た接ぎ穂の基部を台木に合わせて、台木の切り込みの長さと幅の見当をつける
  4. 台木の「芽抜き」(接ぐ箇所だけ)をして、切り込みを入れる。一般的な切接ぎのように表面と平行ではなく、僅かに台木の軸(中心部)に向かって直線的に切る。切り込む途中で刃の向きを変えることはしない。それで台木の切断面が平坦になり、形成層も放物線になる
  5. 接ぎ穂を台木に差し込み、接ぎ穂と台木の接合面に「隙間」ができていないか確認する。もし隙間があれば、その原因となっている部位を切り直す。この時点までに接ぎ穂を短く切ってしまっているとこの修整がしづらい。台木の切り込みに修整できない問題があるなら、1節下で切り直す。
    形成層の放物線の頂点部分は合致していなくてもOK。放物線(形成層)の縦の部分を合わせる ことが重要

    備考:接ぎ穂の切断面が平面ではない(僅かに波打っている)のは、接木小刀の使い方を間違っているから。
    「デービッド接ぎを見直す」の「接ぎ穂の作り方」を参照。このように小刀を持ち、左手を後ろに引いて一気に切る。多くの人は包丁を使うときのように小刀を持ち右手を前に動かして切るが、それでは平坦に切るのは難しい。

    台木の切り込みを平坦に切るコツは、前述の「デービッド接ぎと 田主丸型 接木小刀」の「刺身を引くように、台木を切り込む」を参照。これはデービッドさんの切り方とは異なるが、自分に合った安全で操作しやすい方法 を見つける。

    穂木、台木いずれの場合も 切る途中で刃の向きを変えたり止めたりしない のがポイントだが、小刀の操作を躊躇うと切断面に歪みが出ることが多い。慣れるまで、不要な枝で練習するのも効果的。

  6. OKならば、接ぎ穂の芽の上側5〜7㎜の位置で、芽の方向と平行になるようわずかに斜めに切断
  7. 台木を【切り込みを入れ始めた箇所】で切断する。これが一般的な切接ぎの手順とは異なる
  8. 接ぎ穂を差し込み、台木の根元側から接木テープ「ニューメデール」を引き伸ばしながら巻き始める。接いだ部分は2〜3回、接ぎ穂の芽の上は1回巻く。芽の真上にテープのシワが被さらないよう注意。接ぎ穂の先端は木口をカバーしてから捻り切る

長尺枝の挿木

長尺台木の挿木は、昨秋10月22日の記事「バラのスタンダード仕立てを作る ① 台木の秋挿し」で紹介した方法とまったく同じです。鹿沼土(挿し芽用土)は前回より少なめですが、水洗して微塵抜きをしっかり行ったので、水受け皿の水が澄んでいるのがわかります。水受け皿に「珪酸塩白土・ミリオンA」を20㌘投入したのも前回と同様。

穂木が充実し雑菌の繁殖も少ない「寒挿し」の季節だし、接木方法は比較的容易な「デービッド接ぎの枝無しバージョン」。二人ともデービッドさんの接木講座の受講者で、接木の腕前は既に初心者の域を超えているから、道管に空気が入っていなければ先端に枝葉が無くても「水苔と底面給水」の効果でなんとかなるんじゃないかと期待。

2023年1月9日月曜日

バラのスタンダード仕立てを作る ④ 台木の鉢上げ

昨秋10月18日に挿木したスタンダード仕立てのための長尺台木を、およそ80日後の1月7日に鉢上げしました。
台木になる長尺枝の挿木は、10月22日の「バラのスタンダード仕立てを作る ① 台木の秋挿し」に記録しています。

予想以上に根が張っていて、ビニールポットを切り開いて根鉢を取り出しました。根鉢の下部1/3が水苔です。 その中のわずかに緑色がかっている部分は(台木ではなく)スリット部分に藻類が発生した痕跡です。スリット鉢なので、伸びた根はトグロを巻かず上方向に伸びています。

同じ品種の長尺台木2本もほぼ同程度の根量です。この結果から見れば、10月10日頃に挿木して年末(75日後)に鉢上げするのが最適だったかも。しかしその辺は適当でいいのでしょう。根鉢が膨らみ過ぎて取り出せない(無理をすれば根が切れそう)ということを除けば、上々の出来です。

いかがです? 難しいと言われる長尺挿木も水苔と底面給水でこのとおり。まさに『水苔には不思議な力がある』の実例です。基部に割れ目を入れることやオキシベロンの使用など、私なりの小さな工夫はあるのですが・・と自画自賛:p

クリスマス寒波とその強風でハウスのビニールが破れて慌てましたが、幸い被害は少なく、台木の葉もまだかなり残っています。無加温ハウス内の気温は0℃〜26℃(晴天/サイド半開)の範囲内なので、これだけ葉があれば少しは光合成や蒸散も行われ、長尺台木を養分を含む水が揚がっていくと思われます。

鉢上げに使用したのはリッチェルのバラ鉢10号です。鉢は "宙吊り式" になっていて、水受け皿の排水でECとpHを計測し肥培管理の目安にしています。鉢上げ直後はバーク堆肥に含まれる牛糞の影響を受けて高EC値を示しますが、たっぷりの灌水と排水を数回繰り返すことで徐々に安定します。

培養土の組成は以下のようなもので、今回は "元肥入り" です。

培土
資材容量(㍑)
無機物(鉱物)赤玉土(中粒)14
赤玉土(小粒)14
鹿沼土(普通品)7
軽石(小粒)8
くみあい ゼオライト(小粒)7
Sub Total50㍑(50%)
有機物バーク堆肥「コンパ」
多木化学㈱
10
バーク堆肥「グリーンソイル」
九州バーク㈱
20
籾殻燻炭10
ピートモス5
水苔(AAクラス 鉄力あくあF10 含浸)5
Sub Total50㍑(50%)
Total100㍑(約6鉢分)

バーク堆肥が2種類なのは在庫の都合で、意図したものではありません。ほぼ同様のバーク堆肥(樹皮+牛糞)ですが、「グリーンソイル」の方が「コンパ」よりも分解が進んでいる(分解し過ぎている)ように見えます。これは在庫期間の影響なのかも? 備考:バーク堆肥は、微生物の働きで分解が進むように風袋に空気が通る小穴が開けてあります。

乾燥・圧縮された水苔(200㌘)を戻す際に、鉄力あくあF10(愛知製鋼㈱)を標準濃度で希釈した水を使用。水苔にどれほどの保肥力があるかは不明だけれど:p
保肥力(塩基置換容量=CEC)の大きいゼオライトは、重量比ではなく容量比で7%にしました。かなり大量です。

肥料・土壌改良材
資材 重量(㌘)備考
土の薬膳(ペレット)30水溶性・緩効性の有機肥料
金澤バイオ
アルギット®ぼかし30海藻入り特殊肥料
神協産業㈱
ニュートリスマート30酵母入り土壌改良資材
住商アグリビジネス㈱
くみあい セルカ(粉体)50牡蠣殻有機石灰(含・微量要素)
卜部産業㈱/(JA)
マグホス50苦土過燐酸石灰(+微量要素)
多木化学㈱
Total190㌘/15㍑(10号鉢)EC=1240㎲/㎝(実測値)

この培養土は、スタンダード仕立ての株だけではなく今シーズンの鉢植え全株に共通したものです。排水が EC=1240㎲/㎝ になるのは私の栽培環境では平均的な数値で、これは培養土の肥料濃度をほぼ反映していると見ています。バラの切り花栽培(溶液耕の "給液")では EC=800㎲/㎝ 程度が標準でしょうか、私の設定はそれよりは高めです。品種によって吸肥力(肥効)が異なるので、鉢土の交換時に元肥の量を200%〜50%の範囲で増減し、時期および生育程度を観察して、ECが 800㎲/㎝〜1500㎲/㎝ になるように、灌水(用水に2%クエン酸水溶液を少量加えpH=6.0前後にすることで、過剰な肥料分を溶脱させる)または追肥でコントロールします。

バラ会で語られる鉢植えの施肥は「月1回の置き肥、週1回の液肥」、または「マグァンプKの混和」です。長い歴史の中で示されている方法なのでそれが "正解" なんでしょうが、それではへそ曲がりの私には面白くない:p
土の薬膳」はバラ栽培を始めた頃から使っていますが、「アルギット®ぼかし」と「ニュートリスマート」は今回が初めて。それがどのような結果を示すのか興味津々。しかしこれらの配合量では少な過ぎてその効果についてはわからないかも。これらは通常の鉢植え株で比較検証する準備ができていますが、テーマが異なるので別記事で。

栽培品種を使った長尺台木も順調

今シーズンはノイバラ系の長尺台木がわずか3本しか準備できず、それでは物足りなくて、妻が庭で栽培している デルバールの "ギー・サヴォア" のシュートも数日遅れで挿木しました。ノイバラ系と比較するとやや根の伸びが遅いようですが、逞しい新根が出ています。葉も残っているので、スタンダード仕立てにするのに問題はなさそうです。

これで台木の準備が整ったので、今週は接木作業に取り掛かります。楽しみです。

秋の挿木 雑感

10月18日に挿木したノイバラ系と、それから3日遅れで挿した "ギー・サヴォア" の根の伸張を見較べて、秋の挿木は10月10日頃がベストだと再認識しました。私が住んでいる福岡市近郊では、10月10日というのは栽培上の "ターニング・ポイント" だと思います。このように挿木が3日遅れれば、根の伸張は1週間遅れますが、これは「秋剪定が適期より3日遅れれば、開花は1週間遅れる」のと同様ですね。

"ギー・サヴォア" の 根の逞しさ にも注目。ノイバラ系の根よりも力強く伸びようとしているのがわかります。この種の苗を作るのに、わざわざノイバラ台木に接木するのはなぜでしょうね? :p


1月11日追記:今朝、これらの長尺台木に接ぐ栽培品種(4品種)を採穂しました。接木作業は15日の予定なので、穂木の両端を「ニューメデール」でカバーして冷蔵保存。

それとは別に、バラ仲間がノイバラ系の長尺枝を提供してくれるようなので、「接ぎ挿し」(芽接ぎかデービッド接ぎをした長尺枝を挿木する=接木と挿木が同時進行)を仲間3人で一緒に試そうと準備中です。「接ぎ挿し」は今シーズンは諦めていたのですが、ありがたいことに、これでまた楽しみが増えます。