このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2021年10月2日土曜日

T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.

雲ひとつない秋晴れ。今日は嬉しいことがふたつあった。まず、雑草に覆われている畑の除草や片付けを始めたら、これが意外に楽しいことにあらためて気づいた。来年はコンペティション・ローズの栽培は(少なくとも、どこかのコンテストに出品することは)ないのでガーデンローズにシフトするか迷っていたけれど、ちょっと先が見えてきたかも。

もうひとつは、Amazonで注文していた「T芽接ぎ用ナイフ」が予想外に早く届いたこと。今年は方法のテストをするのが目的だが、私が使っている台木は10月中旬になると樹液の流れが減り、T芽接ぎの重要なポイントである「表皮を捲る(めくる)」ことが難しくなってくるので、T芽接ぎシーズンにギリで間に合った到着は1年得した気分。

念願のT芽接ぎ専用ナイフを入手

T芽接ぎ専用ナイフ

この「形」に憧れ、以前から探していたが見つけられず、持っていたステンレスの折りたたみナイフをグラインダーで削って形の再現を試みたりもしたけど、切れ味が(笑)。

このナイフはゾーリンゲンのロバートクラス社製、全鋼で刃渡り約6cm、グリップは自然木巻の3リベット留めで、とてもしっかりした作り。先端上部の丸い突起は「T」に切った表皮を捲るための「ヘラ」のようなもの。
片刃なので、右利きと左利きの区別があるのは「田主丸型」と同様。

肝心の「切れ味」は? まだ試し斬りをしていないが、刃は剃刀のような "尖った鋭さ" はないようだ。「切れ味」は研ぎ方次第、使い方次第なんだろう。

T芽接ぎの方法をYouTubeで

以下の2本のYouTube動画は、オースアトラリアのバラ苗生産者・rotaryhoes(ロータリーホー)さんのチャンネルへのリンク。最初のは「T芽接ぎの紹介」で、2本目はその具体的な方法についての解説。

欧州でもバラの接木は「T芽接ぎ」なので、台木の長短によって、あるいは接木職人さん固有の方法で、微妙な違いはあるものの、ほぼ同じ。しゃがみ込んで作業する日本式とは異なり、台木の上側から覗き込むようにして接ぐ。

"Commercial rose budding grafting"

Professional budder の Stuart Taylor さんによるT芽接ぎ。1日で平均3,000本!1本接ぐのに10秒、その早技、そして美しさに感嘆。rotaryhoesさんの圃場では年間50,000本を接ぐのだそうです。再生時間 2:02

台木は "Dr. Huey"(ドクター ヒューイ)。ナイフは、rotaryhoesさんによれば "made by TINA and is German, very expensive, about $160!" だそうで、髭剃りができるくらいシャープに研いでおくのがとても重要と(2本目の動画やコメントで)力説しています。

"Dr. Huey" の場合の芽接ぎ成功率は98%なんだそうです。50,000本の98%。『なんだ、1000本は失敗するのか』と思いがち?ですが、生産現場では扱いが難しい芽も使うのです。国内のバラ苗生産者の切接ぎの場合は成功率が90%程度ですから、98%は素晴らしい数値です。台木がFortuniana(フォーチュニアナ)の場合は85%程度だそうです。

備考:

  • この動画でT芽接ぎされている台木は "tree rose" と呼ぶ仕立て方みたいで、日本では "低いスタンダード" として扱われますね。順に、bush rose、tree rose、standard rose となり、"standard rose" は高さが背丈ほどかそれ以上のものを指すようです。
    下の2本目の動画で挿木の方法が紹介されている台木(一般的な "bush rose"用)とは長さが異なります。品種は同じ "Dr. Huey" で、たぶん基部の調整方法も同じだろうと思います。

  • Taylorさんの接木シーンでは1芽だけですが、ラストシーンでは2芽接ぎした株の発芽の様子が紹介されています。2芽接ぎの株の方が購入者には歓迎されるそうですが、『2芽接いでも、いずれ優劣の差が出るので、栽培的には1芽を元気よく伸ばすのが良い』と(コメント欄で)言っています。

"Rose budding, how to bud or graft a rose bush."

rotaryhoesさん自身によるT芽接ぎの方法の解説。挿木台木の作り方、芽接ぎ用の穂木の選択、T芽接ぎの方法、接木した品種の枝葉が伸び始めた後の台木カットまで。再生時間 13:50

挿木で作る台木

私がこのビデオで特に関心を持ったのは「挿木で作る台木」です。「T芽接ぎの方法」については後日別記事で。

私は実生でも挿木でも台木を作りますが、実生でなければならない理由は無いと思っています。rotaryhoesさんの挿木台木の作り方は、YouTubeのコメント欄にもいくつかかなり具体的な説明があります。ビデオでは語られなかった「挿し穂の基部に傷を付ける」というのもおもしろいし、そのほかrotaryhoesさんならではの工夫を知ることができます。

YouTubeのコメント欄を見るには、この上左の [ 見る ▶️YouTube ] をクリックして、rotaryhoesさんのチャンネルを開きます。

YouTube動画の解説やコメントを日本語で読む方法

  1. YouTubeの画面右下の記号  …  を左クリックして「文字起こしを開く」を選択
  2. 文字起こし画面下部の「英語(自動生成)」を右クリックし、「日本語に翻訳」を選択
  3. 文字起こし画面とコメントが日本語に翻訳されて表示される

rotaryhoesさんの挿木の成功率は、「良い年に約99.9%、悪い年に95%」だそうです。これも素晴らしい数値です。この動画で大量の台木の鉢が並んでいる光景は壮観です。「比較テストしたが効果が確認できないので、発根を促すホルモン剤は使わない」そうです。以下はコメント欄からの引用。和訳は、rotaryhoesさんの他のコメントを参照して私なりに解釈したもの;

To prevent waterlogging use 40% peat and 60% course perlite as a mix. Plant the cutting three inches deep into this mix in a small pot. I know the media will look chunky and like it wont be any good but trust me it works really well. I have also had good luck with seed raising mix that has no fertilizer in it. Also at the bottom of the cutting make a cut 3cm long down to the bottom of the stick about 2mm deep, you can do two cuts, one on opposite sides of the stick and this is where your roots will develop from. You can decrease the amount of times a day you water them when you see roots come out the bottom of the pots which will take from 6 weeks to 12 weeks generally.
湛水(鉢の水捌けが悪い)を防ぐために40%のピートと60%の粗いパーライトを混合して使用します。 小さな鉢(7号鉢)に入れたこのミックス培土に、3インチの深さで穂木を挿します。この培土が厚ぼったく発根やその後の成長に何の役にも立たないように思えるでしょうが、しかしそれが結構うまくいくのです。 肥料を含まない種まきミックス(種播き培土)も効果的です。
発根を促すために、挿し穂の下部に深さ約2mm、長さ3cmの傷(切れ目)を入れます。挿し穂の両側に計2つの切れ目を入れることができます。この切れ目から発根します。 6週間から12週間経過して鉢の底から根が出てくるのが見えたら、1日に水をやる回数(3回/スプリンクラー自動灌水)を減らすことができます。
  • course perlite → coarse perlite  誤記だろうと思う
  • (カッコ内)はそらによる補足
  • 挿木シーンでの培土は、ここで説明されたピートとパーライトではなく汎用の培養土が使われています。矛盾していますが、rotaryhoesさんもその年によって培土が違うのかもしれないし、「真似」をするのではなく彼の方法を参考に自分の培地を考えるのだから、私は気にしません。

私の挿木台木

「挿し穂の長さが1フィート(30cm)、挿し穂の基部に傷を付ける」というのは初耳ではありません。このブログ「ローズそらシド」の10年前の記事ですが;

当時は露地(畝)に挿木していました。現在はハウス内でポットに挿しています。挿し穂は穂木の節間が長い部分を選び、3節で10cmほどの長さです。ちなみに、国内の切りバラ生産者のロックウール挿しでは2節7cm程度。

このように、挿木の穂木の長さは挿木苗を管理する環境によってかなり異なります。大量の穂木を準備できるなら、穂木はrotaryhoesさんのように長い方が内包する養分や水分も多いので、生育が安定するようです。培土は極端な過湿にせず、空中湿度と気温は高めに管理し、光に当てる。これが挿木が成功するポイントと彼は指摘していますね。

T芽接ぎに適した台木の品種

rotaryhoesさんが台木にするために挿木しているのは "Dr. Huey"(ドクターヒューイ)です。
2015年1月と5月 北九州市の「グリーンパークバラ園」で撮影。

彼は『その地で旺盛に生育する品種なら台木はなんでも良い』と言っていますが、重要なポイントとして「台芽」が出難い品種を選ぶことを勧めています。

バラ苗生産者の中には、接ぐ品種と台木の「親和性」を問題にする人もいます。でもこれは私(たち)には実際にやってみないとわかりませんね。尋ねても教えてくれません(笑)当然ですよね。自分で見つけるしかないのです。

挿木の時期

バラの挿木は梅雨の時期(緑枝挿し)や秋にも可能ですが、rotaryhoesさんは「厳寒期」(彼のナーセリーがある地域=西オーストラリア州の最低気温は−3°C程度)に挿すそうです。

旺盛にまっすぐ枝を伸ばし、節間が長く、トゲが少なく、ツルッと滑らかな緑色の木肌で、表皮がめくりやすく、台芽が出難い品種。bushにもtreeにもstandardにも使える。「ドクターヒューイ」がその典型ですが、どこかで苗を見つけたら即購入する予定。そのほかに1品種用意しているので、来年が楽しみ。


YouTubeの英語を翻訳する

YouTubeは解説音声を英語や日本語に「文字起こし」する機能を備えています。しかし、rotaryhoesさんはオーストラリアのバラ苗生産者で発音が米国英語と微妙に異なり、解説には専門用語も含まれるので、シーンによっては珍妙な(面白い)ことになります。例えばこのビデオの冒頭いきなり;

> so this is just a video on how to butter rosebush to
え? これを翻訳させると、『ローズブッシュにバターを塗る方法についてのビデオ』

この butter は、bud か budder でしょうか? 早口で私にはよく聞き取れません。

YouTubeの翻訳AIは "how to bud"「芽接ぎの方法」という言葉を知らないかも。rose graft を rose craft と認識するシーンもあれば、「台芽」= sucker を「吸盤」と訳します。でも、この「文字起こし」と「翻訳」は便利です。英語が分からなくても芽接ぎの方法は画面を見ればわかりますが、詳しいことは、たくさんのコメントへのレスを含めて「翻訳」すれば、理解できる範囲が広がります。さらに、文字起こしされた英文を整理し「Google翻訳」で和訳すれば、逐語的に翻訳するYouTubeよりも正確な日本語になるようです。

AI翻訳には難しいかもしれない単語

rosebush バラの株  bud, bud eye 芽  budding 芽接ぎ  budder 芽接ぎする人  grafting 接木  stick 枝  rootstock 台木  bud wood, stock 穂木  stem 枝(開花枝)  cutting 挿木の穂木  fertilizer 肥料  petal 花弁(時期によっては花殻)  bark 表皮  back 木質部  patch 接木テープの役割を果たす伸縮性のあるパッチ  cambium layer 形成層  prune 剪定  callus カルス(未分化の植物細胞の塊)  sucker 台芽

Dr. Huey ドクターヒューイ(台木に使われるバラの品種名)  Fortuniana フォーチュニアナ(同じ)

standard rose Google翻訳はこれを「標準的なバラ」と訳しますが、これは標準的とは言えない「スタンダード仕立てのバラ」のことですね。この部分は内容を誤解する可能性があるので注意。

備考

  • 挿木用土については "general purpose potting mix"(汎用培養土)と説明されているが、コメントでは "seed raising mix or propagating mix" と訂正されている。
    "seed raising mix" は「種まき培土」だが、"propagating mix" と "general purpose potting mix" の違いは私にはわからない。"propagating mix" は「苗の出荷時にポットに充填するチッソ分を含まない用土」と解釈すれば、挿木用土に使えるかも。
  • 挿木の穂木の調整シーンの品種は Fortuniana(フォーチュニアナ/Misc.OGR/1840年 英 Robert Fortune)片親がモッコウバラなので、葉や枝が似ている。
  • 芽接ぎのシーンで使用されている台木品種は Dr.Huey(ドクターヒューイ/Hybrid Wichuraiana/1914年 米 Captain George C. Thomas)で、スタンダード台木の定番。
  • 穂木の品種はシーン別に、Sun King, Princess de Monaco, Eiffel Tower の3種類だそうだ。

YouTUbe動画の引用について

このページのように、他者(この場合はrotaryhoesさん)がYouTubeで公開している動画を、自分のページにリンクして表示することは著作権に抵触しないのかお尋ねがありました。専門家ではないので断言は避けますが、結論を言えば「問題ない」そうです。
ただし、この動画をダウンロードしそれを自分のチャンネルに入れて、あたかも自分の動画であるかのように扱うのは、もちろん著作権法に違反する行為ですね。



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