このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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2021年10月9日土曜日

バラの「台木」について

10/02の記事「T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.」で取り上げたオースアトラリアのバラ苗生産者・rotaryhoes(ロータリーホー)さんは、年間5万本のバラ苗を生産するそうだが、その台木は「挿木」で作られる。日本国内のバラ苗生産者の場合は、台木は "ノイバラ"(ロサ・マルチフローラ)の「実生」なので、この違いの理由は何なのか。

私は台木は挿木でも実生でも作るが、ロータリーホーさんの挿木台木を考えるうちに、自分の大きな「誤り」に気づいた。以下はそれについての自分なりの考察。

:ロータリーホーさんに関する部分は、彼のYouTubeビデオのコメントをベースにした推測に過ぎません。この記事の本旨はロータリーホーさんの台木についてではなく、「自分の台木を見直す」ことにあります。


rotaryhoesさんの台木は "Dr. Huey"

バラ苗生産量年間5万本というのは(ロータリーホーさん自身も言うように)やや小規模なナーセリーだが、その台木を「挿木」で作るとなると、しかも挿し穂の長さはbush roseで1ft(30cm)、他にtreeやstandardもあるので、挿し穂にする枝の量は半端ではなく、大量の母木(台木の生垣)を植えているのだそうだ。 なぜ「挿木」なのか?

  1. ロータリーホーさんによれば、"ノイバラ" は、彼が住んでいる西オーストラリア州ではうまく育たない
  2. "Dr. Huey"(ドクター ヒューイ/英語発音では"ユーイ")は「固定種」ではないから、実生台木が作れない

これが理由なのでは・・と推測する。

"Dr. Huey"

  • 系統:Hybrid Wichuraiana    Large-Flowered Climber
  • 交配:Ethel & times X Gruss an Teplitz
  • 作出者:Captain George C. Thomas
  • 作出年・国:1914年 アメリカ

"Dr. Huey" は "Ethel & times X Gruss an Teplitz" の組み合わせから生まれた「交配種」(F1=Filial 1 hybrid)
なので、"Dr. Huey" を自家授粉させてタネを採取しても、親と同じ形質を持つ個体になるとは限らないから、実生苗で台木を作ることは基本的に問題がある。一方、挿木は「クローン」なので母木と同じ形質が現れる。

ロータリーホーさんの2本目のビデオのコメントに、『実生も試してみたがうまくいかなかった』という主旨の書き込みがあったような曖昧な記憶が。ただしそれは栽培上の問題で、ハイブリッド種の先祖返りとは無関係かも?

しかし・・ でも・・ かも? かも?

しかし、この推測は間違っているのではないか?
なぜなら、"Dr. Huey" はアメリカでは最もポピュラーな台木。それが「挿木台木」だとは私の感覚では考えにくい。

‥自分の感覚など何の根拠にもならないが、「実生台木」を作るのはそれなりの技術と手間が必要。でも「挿木台木」ならミスト灌水設備があれば比較的簡単だ。

以前にも紹介したことのあるPaul Zimmermanさん(Paul Zimmerman Roses)のYouTubeビデオ:

"The Difference Between Own Root(挿木) and Grafted(接木) Roses"

これはガーデンローズを挿木で作る事例だが、これと似たような方法で台木も作るのかも。

挿木に関するシーンは4:16〜6:50。じつに手慣れた手際の良さで、簡単そうに見える。その前の2:45からのT芽接ぎの説明シーンに使われている台木は "ノイバラ"(ロサ・マルチフローラ)だが、枝の出具合や節間の様子から推測して、これも実生ではなく挿木で作った台木のようだ。アメリカのバラ苗生産の状況を全く知らないが、もしかしたら挿木で作る台木は珍しいことではないのかも。


ノイバラの種からはノイバラが生まれる

国内のバラの接木に使われる台木の "ノイバラ"(ロサ・マルチフローラ)は「固定種」。ノイバラの種からはノイバラが生まれる。「交配種」(F1=Filial 1 hybrid)の種から生まれた株には親とは違う形質が現れることがある のは事実。「メンデルの法則」出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

でもその「先祖返りの程度」というのは様々なんだろう。以下に私の実例を紹介するが、"Dr. Huey" の実生はどのようになるのか。1914年に作出されてから100年以上が経過。もしかしたら既に「固定種」に近いのかもしれない。これは是非とも試してみたい。

先祖返りするハイブリッドの実生

私が現在主に使っている台木は、この地で旺盛に生育する赤花品種と白花品種のハイブリッド種で、赤花が咲く。「交配種(F1)」という言葉は知っていたが、迂闊にもノイバラと同じようにこのハイブリッド種を扱っていた。

入手した最初の年は挿木で育て、生育した株から挿木にする穂木や実生苗を作るタネを採取した。挿木した株には赤花が、実生苗から育った株には白花が咲いた。恥ずかしい話だが、このとき白花が咲いた株(F2に相当)は「先祖返りしている」ということに気づかず、『どこかで取り違えたのだろう』というほどの認識しかなかった。

台木としての使いやすさは赤花株が優っていたので、その後は赤花株からタネを採取し続けたが、年々台木としての優れた形質が失われていき、いつの間にか白花になっていて、ついには枝が暴れ回るジャングルと化した。

台木としての優れた形質

ノイバラは台木としての優れた形質を持つが、台木はノイバラに限られるわけではない。私が使いやすいと思う台木の特徴は;

  • 節間が長く、スタンダード台木にも使えるほど旺盛に伸びる
  • 表皮が滑らかで、トゲが無いか極少ない
    これはスタンダード台木には重要な条件
  • HTの切接ぎができる程度に太く育つ
    台木生産農家が作るものは、生産量が圧倒的に多いシュラブを意識してか、細いものが多い
  • 晩秋まで黄葉(落葉)しない=樹液の流れが止まらない
    私が現在使っているものは黄葉する時期が早いので、T芽接ぎには使い辛い
  • サッカー(台芽)が出にくい。欧州で台木に使われるロサ・カニーナは台芽が出やすい

穂木との親和性は私にはわからない。数品種しか使ったことがないが、接木や挿木の成功率(活着率)に特に差があるとは感じなかった。

根頭癌腫病に対する抵抗性を持つとされる「K1台木」(静岡農試などが開発)もあるらしいが、入手する方法がわからない。

台木の耐久性

台木を考える上でもう一つ重要なことは "耐久性" だが、これについてもデータを持たない。私はむしろ "own root"(自根)の方が好ましいのではないかと考えている。その方法は2年生接木苗(大苗)を深植えして自根を出させること。バラ栽培の教科書はどれも「接木した部分を埋めないように植え付ける」と書いてあるが、私はそれには疑問を持っている。詳細は、2016年12月の記事「南大隅の薔薇 2016年」を。

そして、今頃やっと気づいたが、このF1からの実生苗(F2 or F3)には赤花系も出現した。大きく伸びる両親とは似ても似つかぬ矮性種で、それを見つけた時もF2なんだとは気づかなかった。『あれっ、この赤のミニバラ 、どこから来たんだろう? 可愛いじゃないか」ってな感じ。全く、不明を恥じるばかり。この赤のミニは今も白花系のジャングルの端っこに3株ほどあるはず。3株がどの程度の割合を示すのかは、母数が曖昧なので不明。

10月10日追記:この赤の矮性種は、何個かの実をつけて雑草と白花種の藪の中でしぶとく生きていた(嬉)。大きくなって「ミニ」とは呼べないサイズに。施肥どころか何の手入れもしていないのに、逞しい。

母木を復活(若返り)させる

私がこのハイブリッド種を入手したのは10年ほども昔のこと。その株は今も畑の隅で雑草に覆われてかろうじて生きている。今年もこの株からローズヒップを採取するつもりでいたが、それは中止。幸いなことに(?)これを台木として使っている古いスタンダードから旺盛にサッカー(台芽)が出ているのを見つけた。これは元のハイブリッド種そのもの(クローン)なので、この枝を来年1月に「挿木」して「母木」を復活させるとしよう。元々の母木を使うことも不可能ではないが、母木は若いほうが挿し穂の発根率が良いみたいだから。



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