2023年3月4日 追記 デービッド接ぎ
「デービッド接ぎ」に関心を持っていただきありがとうございます。
初出の2013年から10年が経って、「デービッド接ぎ」は新しい方法に進化しています。
2021年12月30日の記事:「デービッド接ぎを見直す」をご覧ください。
最新の情報 は、2023年3月2日の「デービッド接ぎ」です。デービッドさんによる接木の手順を、YouTube動画と写真で紹介しています。
今日10月26日の午後2時の気温は7.7℃で、時雨模様の空から霰も降りました。秋のバラもピークを過ぎたこの時期になると、なんか気持ちがそわそわします。私がいちばん好きなバラの作業「接ぎ木」のシーズンが近づいているからです。
2015年のバラの接ぎ木はデービッド接ぎが主で、その他に切接ぎやデービッド式割接ぎのテスト、スタンダード台木への芽接ぎなども試みました。それらの結果は以下でレポートしています。
- 切接ぎ: 「バラの接ぎ木 小林流 接ぎ木
- デービッド式割接ぎ: 「Grafting Roses バラの接ぎ木」
- スタンダード台木への接ぎ木:「成功のツボは 蒸散 バラのスタンダード芽接ぎ挿し」
このページでは、デービッド接ぎに関する追加項目をまとめてみます。
1 デービッド接ぎ 2015
下の写真は1月19日にデービッド接ぎをした株の80日後4月12日の様子です。デービッド接ぎは安定した結果を残しました。テストを除くいわゆる「本気接ぎ」では、84本中73本が成功(率87%)でした。成功率87%では「不満」なんですが、その詳細は後述します。
デービッド接ぎに関しては過去2年間の記録があります。
- 2013年 2月「バラの接ぎ木」
- 2014年11月「初心者に優しいバラの接ぎ木 デービッド接ぎ」
- 2014年11月「穂木と台木の充実度がポイント バラの接ぎ木」
今年はそれに付け加えることはありませんが、前年までと違う点は、台木はすべて未熟な「秋挿し」を使い、接ぎ木作業に「テーブルバイス」を使用したことです。
2 秋挿し台木とテーブルバイス
秋挿し台木については2014年12月「3ヶ月で作るノイバラ台木 秋の挿し木」、テーブルバイスは「バラの接ぎ木 2015」に書いています。
テーブルバイスは「切接ぎ」を安全に行うために用意したものです。作業が安全な「デービッド接ぎ」には必要ありません。下の2枚は、デービッドさんの作業(講座でのデモ)の様子ですが、このように接ぎ木ナイフの刃の方向には手指がないので、万が一ナイフが滑っても怪我をする危険性が少ない方法です。
註:台木の枝はデービッドさんの大きな手のひらの中にすっぽり包まれていて、この写真では見えていません。
切り分けた台木の「面」が平坦なので、穂木がぴたりと合います。これは接ぎ木では重要なポイントです。
(ただし、この穂木のような「出べそ芽」は好ましい芽ではありません。発芽するとは思いますが。)
3 デービッド接ぎ テーピング
接ぎ木テープ(接木用フィルム)はデービッドさんから教えてもらった「ニューメデール」を使います。これは福岡の(株)アグリスの製品で、巻いた後に結ぶ必要のない優れものです。
何種類かの製品があるので、種類や使い方は「株式会社アグリス|ニューメデール」をご覧ください。
私は幅25mmX長さ30Mの「ミシン目無し」を使っています。デービッド接ぎの場合、1本に必要な長さは15~20cm程度なので、これで100本以上の接ぎ木ができます。切接ぎならばもっと短くてすむでしょう。ちょっとだけ長いのが作業効率が上がるので、多少のムダが出るとしても、私は20cmの長さにします。デービッドさんは50cmほどにテープを切って、それで複数の株を巻きます。これはムダが少なくなりますね。
なお、5M巻きも販売されています。(販売中止)
接ぎ木テープの巻き方
手順
- テープを適当な長さ(私は20cm程度)に切る
- 左手の親指でテープの端を押さえ、台木の基部側から、引っ張りながら巻き始める
- 台木と穂木の接合部分はしっかりと3回くらい巻き付ける
- 台木の接合部分より上側に1回巻いて、穂木側に移る
- 台木と穂木の接合部分のV字状の谷に水が入らないように注意して
- 穂木の先端まで巻いていく
- 穂木の「芽」の部分は、テープは1回だけ巻く
- 先端まで巻いたら、テープを捩って、切る
(以前は、穂木の先端の木口には、癒合を促進する殺菌剤「バッチレート」を塗っていました)
4 デービッド接ぎと「頂芽優勢」
私のメインの接ぎ木方法は「デービッド接ぎ」です。台木は未熟な「秋挿し」ですが、その台木には枝葉が残っているから光合成をするし、盛んに蒸散もしていると思います。
台木に枝葉を残す「デービッド接ぎ」で気になることは;
「頂芽優勢」によって台木の新芽により多くの養分が送られ、接ぎ穂の新芽の動きが遅くなるのでは?
ということです。その実証試験をしてみました。
左は1月20日に接ぎ木して約50日後の3月10日の様子です。秋挿し台木にはきれいな新葉が展開し、穂木も新芽が2cmほどになりました。そろそろ台木を接合部分の上で切る時期です。
下表の#1〜3の各2鉢は、デービッド接ぎで接いだ同じ品種を同じ条件で管理し、「頂芽優勢」の影響を見ています。(画像クリックで拡大)
3月10日 2鉢ともほぼ同じ新芽。右の台木をカット
3月23日 2週間後 (撮影後、左の台木もカット)
4月12日 さらに20日後の、新梢の状態
結論
これら3品種6鉢の結果(実際は5品種10鉢でテスト。同じ結果なので掲載を省略)から、
「頂芽優勢」がデービッド接ぎに悪影響を与えることはない
ことがわかりました。「頂芽」は台木と穂木の両方に存在すると理解すればいいでしょうか。
(2芽ある穂木の場合、必ずしも上の芽から先に発芽するわけでもありません。その理由はよくわかりません)
したがって、台木のカットを急ぐ必要はなく、接ぎ木60日後、新梢が5cm伸びてから切ってもその後の生育に問題はない・・というか4月12日ではむしろ大きく育っているようにも見えます。推測ですが、台木の新葉が展開した分、根の生長も活発だったのではないでしょうか。
デービッドさんの指導は、「新芽が5cm伸びたら台木をカット」です。納得。
逆に見れば、穂木が発芽した後は、デービッド接ぎが他より特に優れているわけでもない のがわかります。
デービッド接ぎの特長は台木と穂木が癒合するまでの期間に発揮されると思います。これについての考察は、2013年2月の記事:「バラの接ぎ木」の後半に書いています。
5 デービッド接ぎとデービッド式割接ぎ
今年2015年の「デービッド接ぎ」の結果は、35品種107本を接いで80本が成功し、率は約75%でした。2014年の「デービッド接ぎ」は13品種43本全部が成功(ただし台木は、秋挿しよりも根量が多くより充実した緑枝挿しがメイン)でしたから、この75%という結果も「暗い春」の原因になりました。
「デービッド接ぎ」に失敗したのは、①テスト用に未熟な穂木を使用した ②10月に挿した「秋挿し台木」の一部に未熟なものがあった このふたつが原因です。
テストを除くいわゆる「本気接ぎ」では、84本中73本が成功(率87%)でした。それでもまだ90%には達していませんので不満ですが、その直接の原因は「バッチレート」の誤使用だと思われます。それは・・
気の迷いとバッチレートの悪戯?
今年1月のデービッドさんの接ぎ木講座に参加して『あれっ?』と思ったことがあります。それは「見本」に用意されたもの(写真下左)が「デービッド接ぎ」ではなく「デービッド式割接ぎ」だったことです。
理由を考えることもないままその事実だけが私の中に強く残り、いったんデービッド接ぎをした10株程度の台木(写真下右がその一例)の枝を、接ぎ木2〜3週間後という、台木と接ぎ穂がまだ癒合していない時期に切除して、そこに「バッチレート」を塗布しました。接ぎ木テープを(追加して)巻くのではなく、接ぎ穂の接合部分のすぐ上に殺菌剤を塗ったのです。これが大失敗でした。殺菌剤が接合部に染み込んで癒合を妨げ、接ぎ穂を枯らしてしまいました。・・と思われます。
穂木の先端の木口に癒合を促進する殺菌剤「バッチレート」を塗るのは、福岡県筑後のバラ苗生産農家に教えてもらった方法です。この農家も「ニューメデール」を使用し「接ぎロウ」は使用しません。そのような使い方ではもちろん問題はありません。
写真上右は、デービッドさんの接ぎ木講座で提供された台木に私が「デービッド接ぎ」した株です。この台木は未確認ですが、たぶん「ノイバラ品種 K-1」だと思います。この台木の短い枝の状態は「デービッド接ぎ」には不適です。これについては4月22日の 「Grafting Roses バラの接ぎ木」で触れています。このような状態(枝葉の無い台木の芽が大きく動き、接ぎ穂の芽は動きが見えない)では台木を切るしかないですね。切って、切り口に殺菌剤を塗りましたが、充実した台木だったので初めから「デービッド式割接ぎ」にすべきでした。
右上のような状態になったら躊躇うことなく台木をカットしますが、順調に生育している(台木も接ぎ穂も新芽が動き始めた)デービッド接ぎでも、例年より早めに台木をカットしました。特にシーズン後半の2月中旬に接いだものがそうです。その理由は、「デービッド接ぎ」と「デービッド式割接ぎ」の生育具合の途中経過にさほどの差が無い(どちらも同じ)ということから、『同じなら台木の枝葉は要らない』と思ったからです。切って、殺菌剤を塗りました。
念のために、「デービッド接ぎ」と枝葉を切除して(結果的に)「デービッド式割接ぎ」になったものを各6株を比較栽培してみましたが、切って殺菌剤を塗った「デービッド式割接ぎ」は4株の接ぎ穂が枯れ、残りの2株も生育が良くありませんでした。
6 自分に合った接ぎ木方法を探す
このような「気の迷い」によるミスはあったものの、「デービッド接ぎ」はそこそこの結果が出ました。充実度の低い秋挿し台木を使う私の場合、「デービッド接ぎ」の優位性は、私の今年の「切接ぎ」の結果 と比較すれば歴然としています。秋挿しの未熟な台木でも使えるのは、枝葉があって台木の活性が高いデービッド接ぎの優位性の証左 です。
デービッドさんの「接ぎ木の要点5項目」を満たせば、どの方法であろうと大きな差は無いのは言うまでもありません。私は作業の安全性や、秋挿し台木でも使える活性の高さから「デービッド接ぎ」を高く評価しますが、でも接ぎ木方法の優劣はその株が2年3年と育っていく過程も含めて検討すべきことなのかもしれません。
その評価のポイントは、台木と接ぎ穂の「維管束」のつながり具合です。もちろん外からは見えませんが、これがきれいにつながれば接ぎ穂はぐんぐん成長します。逆の場合は、枯れはしないものの成長は緩慢です。
「維管束」の「篩管」。例えばコトバンクのデジタル大辞泉 では以下のような説明がありますが、これは必ずしも正確な記述ではありません。
植物の維管束の篩部を構成する主要素。葉で作られる同化物質を下へ流す通路で、細長い細胞が縦につながった管状の組織をなす。細胞の境の膜(篩板)に多数の小孔がある。
導管は上へ流す一方通路ですが、篩管は状況次第でシンクとソースの位置が変わるので、動きは上下両方向です。切接ぎの場合は台木の根部に蓄えられた養分が篩管内を上に移動します。貼り芽接ぎやデービッド接ぎでは両方向(これが、成功率が高い理由)です。
参照:「師管の物質輸送機構について」 (日本植物生理学会|みんなのひろば|植物Q&A)
さて、「切接ぎ」と「デービッド接ぎ」では、どちらが「維管束」がつながりやすいのでしょう?
私は切接ぎの経験が少ないので判断しかねますが、2015年4月の「バラの接ぎ木 小林流 接ぎ木」で紹介した北九州市グリーンパークバラ園の小林博司先生の方法は、台木と接ぎ木の接合面の関係が「デービッド接ぎ」と同じだったのが印象的でした。
地元のバラ苗生産農家は「切接ぎ」です。それが優れた方法であることは言うまでもありません。でも、熟練した接ぎ木職人さんでも成功率は90%程度と聞いていますし、いわゆる「B苗」も発生しています。「切接ぎは 効率を優先した接ぎ木方法かも。。接ぎ木後の生育が最も良い(=シュートが多く出る)のはどれか?」ということもテーマのひとつとして、私の接ぎ木方法はまだまだ研究の余地がいっぱいあると思っています。
特に、これまであまり意識しなかった「接ぎ木後の幼苗の管理」は(私にとっては)重要な課題のひとつです。
2016年の接ぎ木
来シーズン(2ヶ月後なんて、すぐですね)は台木を購入することになりました。注文した台木はバラの根頭癌腫病に抵抗性のある「ノイバラ品種 K-1」で、バクテローズ処理済みと聞いているので楽しみです。もしそれが細く短い枝の台木(写真上右)だったら、「デービッド式 割接ぎ」にします。「デービッド接ぎ」よりもやや活性が低い(と思われる)のをカバーするために、「接ぎ木の要点5項目」の "good bud wood" と "with a bit of warmth" の2条件を満たすことも考慮しなければなりません。特に温室のビニール張りを急がなければ。。
11月28日追記:「福岡バラ会」に入会させていただきました。11月の月例研究会に参加しましたが、さすがにレベルの高い内容でした。来月は「切接ぎ基礎講座」として実習が予定されています。どのような方法が紹介されるのか、とても楽しみです。
12月11日追記:ビニールハウスに使うビニールと防虫ネットが届きました。フレームはできているので、なんとか年内にビニールを張り終えて、接ぎ木作業は寒くない環境でと思っています。
今年は台木を注文しましたが、100本だけなので、大量に注文されるところにお願いして便乗させてもらいました。台木生産農家からは既に届いていて、現在は農業用大型冷蔵庫で保管されているそうです。
12月19日追記:「福岡バラ会」の12月の月例研究会は「切接ぎ基礎講座」で、講師は吉田博美先生でした。
メソッドは「切接ぎ」ですが、接ぎ木小刀による事故を防ぐため独自に考案された手法でした。
特に興味深かったのは、台木の「顎」の部分の重要性についてチラリと言及されたことです。たぶん大勢の参加者が聞き逃したのでは?と思いますが、私は最前列のかぶりつきにいましたから、先生のつぶやきも聞き逃しません。この「顎」というのは、私が今とても興味深く読んでいるブログ "boketanの 「徒然なるままに・・・どくまん生活」" の2012年2月28の記事でも言及されています。
貼り芽接ぎはT字芽接ぎと切り接ぎの中間的な性質で、苗の生育がいいと思います。顎の部分を切り接ぎっぽくきっちり合わせることが重要で、ここの断面があっているとカルスの盛り上がりも芽の生育も断然いいです。隙間が空いていても活着はしますが・・・ただの芽接ぎですね。
boketanさんは「貼り芽接ぎ」です。その一連の方法がブログに詳しく書いてあり、またその動画もありますから、とても参考になります。たぶん、このブログを読むよりはるかに参考になると思います。笑。
「台木と接ぎ穂の形成層を合わせる」のは接ぎ木の常識ですが、じつはそれだけじゃなく「維管束」のつながりを良くするポイントはこの 顎の部分 ではないかと思います。吉田先生は「顎」という言葉は使われませんが、この部分に差し込む接ぎ穂の先端がきれいに尖っていることの重要性を強調されます。
ちなみに、デービッド接ぎはこの「顎」の部分の形成層(篩部)の構造を考慮し、それをより積極的に応用した接ぎ木方法です。デービッドさんからそのような説明を聞いたことはありませんが、何本もデービッド接ぎをやってるうちに、そう思うようになりました。単純に台木と接ぎ穂の維管束の位置関係を見れば「貼り芽接ぎ」(このブログの過去記事ではたんに「芽接ぎ」と書いています)が最も繋がりやすいでしょうね。過去記事で、「接ぎ木初心者には芽接ぎの成功率が高い実績がある」と書いていますが、頷けます。
今日の吉田先生のお話の中で、私が聞き耳を立てたもうひとつのこと。それは接ぎ木作業後の「養生」(接ぎ木苗の管理方法)です。もう少し詳しく聞くために、明後日に吉田先生の別の接ぎ木講座にもお邪魔する予定。
ビニールハウス(5.4m X 12m)の自力設置工事も再開したし、嬉しい季節になりそうです。
接ぎ木シーズン開幕
12月29日追記:今シーズン最初の接ぎ木作業をしました。「切接ぎ」で12株です。台木があらかじめ切接ぎ用に調整されたものだったので、芽接ぎやデービッド接ぎの選択の余地はありません。切接ぎでも、「テーブルバイス」を使うので作業は安全で確実(革手袋不要)です。福岡バラ会の接ぎ木講習で学んだことに、自分なりの工夫をひとつ加えてみました。培養土のテストも兼ねており、結果がどうなるかはさておき、接ぎ木作業はやはりとても楽しいです。
でも、ビニールハウスがまだ完成していないので、夜間の低温にどう対処すればいいか。。とりあえず「不織布」でも被せるかな。