生育が悪いバラを調べることになりました。そのバラは私のものではないのですが「初心者に勉強の機会を」というご配慮であろうと、非力を顧みずトライしてみることにしました。なお、場所や品種などに関しては、初心者の間違ったレポートが関係者にご迷惑をおかけすることを避けるため伏せさせていただきます。
生育が良くないバラの新苗 その状況
このバラは今年6月に新苗で植え付けられました。写真は植え付け1ヶ月後です。場所は緩やかな傾斜地にある花壇のそのいちばん下で、雨後はいつまでもジメジメするような水はけの悪い場所です。赤土混じりの固い用土で、牛糞堆肥を混ぜ込んで植え付けられました。
その後1~2回摘蕾され、夏の間は成長は緩慢だったものの少し大きくなり、8月下旬の秋剪定とウッドチップのマルチを敷いた後に急に枯れ込んで小さくなってしまいました。
異変に気づいたのは10月の始め。中旬にはあきらかに危険な状況になりました。写真は調査した10月19日の状態で、1枚目の写真とほぼ同じ角度から撮影されています。左の大きかった枝が消滅しシュロ縄が空しく残っていますね。
右の枝は2回摘蕾され、その後小さな蕾がつきましたが萎びてしまっています。害虫の被害か病気なのか、慎重に調べてみることにしました。
まず気づいたのは株元のウッドチップのマルチに糸状菌のコロニーがあることです。写真で白く見えるのがそうです。
ウッドチップの下、地面との間にこれだけの糸状菌のコロニーがありました。花壇の別の数カ所も調べましたが、大きな糸状菌のコロニーは見当たりませんでした。この場所の湿気が糸状菌が繁殖するのに適していたものと思われます。
しかし、糸状菌(カビの一種)は多種なのでこれが原因かどうかはまだわかりません。
なお土壌酸度はどこも同じで pH4.75 でした。
この株を、害虫が潜んでいるかもと広範囲に慎重に掘り起こしました。ミミズが5匹いただけでコガネムシの幼虫やネキリムシの類は発見できませんでした。
長い根もあるし根量はそれほど貧弱ではないですね。少ないですが白い新根も見えます。気になるのは台木より上にある褐変した部分です。台木や葉がある茎の部分はまだ緑色を保っているのに。(この時点で完全に枯れている枝は既に切除しています)
これは糸状菌が引き起こす「枝枯病」ですね?
さらにその部分を仔細に見ると、なんだ、これは?
なんと!接ぎ木テープが捩れ細い縒り紐状になって深く食い込んでいました(仰天)
これじゃ首を絞められているようなもので、成長が緩慢だったはずです。
さらに根部を調べると「根頭癌腫病」の瘤が。
しかも瘤は3個もありました(仰天X仰天X仰天)。
その後の経過
この株をどうするかも任されています。正しい処置はこのまま焼却処分すべきでしょうが、なんとか回復させることはできないものか、思いつくままに作業を進めました。
- 根頭癌腫病ができている根を切断
- 株全体を(枝も含めて)「石灰硫黄合剤」10倍希釈液に3分間浸漬
- 流水で洗浄し、さらに24時間水道水の汲み置きに浸漬。水は数回交換
- EM活性液の2000倍希釈液に5日間浸漬。EM希釈液は毎日交換
- これまでバラを植えたことの無い(今後も予定の無い)露地に植え付け。バーミキュライトや籾殻燻炭、特にピートモスを多めに混入し、アクアリフト300LNの希釈液を散布。無施肥
回復させるのは奇跡に近いかもしれませんが、とりあえずここまで終えました。
今後の私なりの課題
- マルチング資材の問題(このチップは評判が悪い)
- 病原菌に汚染された土壌の処理
- 枝枯病対策
- 根頭癌腫病対策
特に4)の根頭癌腫病対策については難しそうです。しかし私は台木を提供したり苗を預かったりしているので、避けては通れない問題です。
例えば、1年前に大手種苗メーカーからバラの2年生大苗(ポット入り)を購入しました。栽培地や栽培農園、栽培履歴が添付された、私にとっては高額な苗です。配達されたときはまだ花壇の準備ができていませんでしたから(これまでバラを植えたことの無い畝に)仮植えしておきました。2ヶ月後に定植しようとすると、なんと根頭癌腫病が発生しているのに気づきました。さてこの場合、問題はどこにあるのでしょう?
『バクテローズ(予防効果のある生物農薬)の都道府県別出荷量を調べて、その量が多い地域で苗を生産をしているところからは購入しない』という笑い話?もありますが、実際は病原菌が付いている苗(や土)を完全に排除するのは難しいですよね。そもそも、根頭癌腫病を引き起こす病原菌は(密度を問わなければ)どこにでも存在しているんでしょう?
とりあえず思いつく癌腫病対策
- 大苗の植え付け時期に合わせてバクテローズを購入
- 苗床にはキトサンを含む資材を投入
- 剪定ばさみなどの器具の消毒とスコップなどの洗浄
- 株の健康を維持するための肥培管理
- 根を傷つける害虫対策
- 抵抗性のあるノイバラ品種ISU60-5の入手
- アクアリフト(放線菌)の活用
情報源:
「根頭がんしゅ病ってほんとうに予防できるの?」
「バラの病気実例集」
罹病した株の回復方法よりも、どうすれば発病を防げるかが重要です。そのためには何よりもまず根頭癌腫病について勉強しなければと思います。癌腫病の病原菌は抵抗力の弱い株の根の組織に侵入してその遺伝子を書き換えるのだそうですね。その結果あの不気味な瘤ができる。病原菌は瘤の中にいるではなく、外にいて瘤を食料庫にしているのだそうです。
みなさんのバラはどうですか? 『癌腫病なんて関係ない』と思っていませんか? でも、これまで原因不明で枯れた株はありませんか? あるいは今現在育ちの悪いものは?
こわいぞ~癌腫病。。
2015年8月追記:バラの根頭癌腫病にはその後も悩まされ続けることになります。その後のより詳しい状況を「バラの根頭癌腫病 −2」にアップしています。