有機JAS適合資材で作るバラの殺菌・殺虫剤「デービッド丸3型」の処方と、それを自分なりにアレンジした「デービッド丸そら型」を紹介します。3型はそれまでの「マシン油乳剤」に替えて有機JAS適合の殺虫・殺菌剤「エコピタ 液剤」を使います。
デービッド丸3型について
「マシン油乳剤」には、原材料になるマシン油に不純物(添加剤)が含まれていることがあり、それが薬害を引き起こすきっかけになるという記事を読んだことがあります。実際に、デービッド丸 1型を使ってマシン油乳剤が原因と思われる薬害(葉焼け)が出たという報告がありました。私もそうでした。私の場合は古いマシン油乳剤を使ったのが悪かったと思います。
そのような予想外のケースや希釈倍率のミスによる事故を避けるために「 デービッド丸3型」処方になったそうです。
マシン油乳剤を使うこれまでの処方や効果・薬害などについては2012年6月1日の記事:「デービッド丸 2型」をご覧ください。
エコピタ 液剤
「エコピタ 液剤」は還元澱粉糖化物(食品)が有効成分で、有機JAS適合資材です。見た目は無色透明の "液体糊" あるいは "水飴" そっくりで、舐めてみると水飴のように甘い味がします。薄い水飴と言ってもいいのでしょうか、界面活性剤は入っていますが。
関連情報
「還元澱粉糖化物液剤の製品特性と施設園芸作物での使用場面」 農畜産業振興機構
エコピタ 液剤の作用や特徴が、「総合的病害虫管理(Integrated Pest Management)」と関連づけて、わかりやすく具体的に説明されています。
2022年6月追記:
「エコピタ液剤」が、2022年製造品よりり『有機JAS適合資材』として使用できなくなりました。
協友アグリ株式会社からの情報
「エコピタ液剤の有機農産物の日本農林規格への非適合化について」
デービッド丸 処方
デービッド丸 3型
水 1000cc
重曹 10グラム 下記の「重要:重曹の濃度」を読んでください。
エコピタ液剤 10cc(100倍)
ニームオイル 2cc(500倍)
尿素 5〜10グラム
デービッド丸 2型
水 1000cc
重曹 10グラム
マシン油乳剤 5〜10cc(200〜100倍)
ニームオイル 2cc
尿素 5〜10グラム
デービッド丸 1型
水 1000cc
重曹 10グラム
マシン油乳剤 5〜10cc(200〜100倍)
ニームオイル 2cc
製品安全データシート
使用するにあたっての留意点
以下はデービッドさんの指導・指摘そのものではなく、それを基に私が経験したことがらに、バラサークルメンバーの使用結果を加えたものです。
- 使用する時期や天候あるいは時間帯、散布方法と量、そしてバラの生育状況、前回も使用していればその結果に応じて、希釈率を変更してください。
- バラは品種によって、あるいはその生育ステージによって、薬剤に体する感受性が異なることを忘れないようにします。
- 予防のための散布は、細かな霧が葉の両面にくまなく付着するように撒布します。
- ウドンコ病の発生初期には、洗い流すようなつもりでやや多めに散布するとすぐに消えますが、翌日には再発します。1回の撒布だけでは不十分です。使用回数の制限はないので繰り返しの使用で、徐々に菌密度を下げていきます。
ただし(当然のことながら)ウドンコ病が進行して葉色が灰色になった病変部位の治癒はできません。
- ウドンコ病や灰色カビ病の病原菌に対する殺菌効果は、ホームセンターなどで販売している化学農薬と同じく、さほど顕著ではありません。病原菌の菌糸の伸長や胞子の拡散を押さえる程度です。黒点病に対しても同様です。
- 尿素入りの処方は株が弱ったときに使用するためのものです。これの多用と尿素の高濃度(10グラム/リットルはやや高濃度)には注意。株が元気ならば、尿素(や液肥)を混ぜる必要はありません。
- 黒点病が発生している場合の「有機液肥」の葉面撒布は菌の活性を助長するようです。液肥の葉面撒布はやむを得ない場合に限定すべきでしょうね。
- アブラムシ、ハダニ、チュウレンジハバチとイラガの幼虫の駆除は重曹とエコピタの併用で可能ですが、スリップスの駆除は難しいというのが実感です。撒布の方法や回数が問題なのかもしれません。
- デービッドさんによれば、この処方は成分が安定しているので必ずしも当日に使いきる必要はなく、翌日でもOKとのことです。
処方を公開することはデービッドさんのご了解を頂いていますが、ご使用にあたっては「自己責任」でお願いします。
2014年追記:重要:重曹の濃度
重曹(炭酸水素ナトリウム)を使った有機JAS適合農薬に「ハーモメイト水溶剤」があります。これはバラの「ウドンコ病」と「灰色カビ病」に適用があるのですが、指定の希釈倍数は800倍です。ハーモメイト水溶剤は、重曹80% +トリポリ燐酸ナトリウム10%に、10%の油脂・界面活性剤を加えたものですから、成分はほぼ同じと考えて差し支えないと思われます。これに較べデービッド丸の希釈倍数は100倍なので、高濃度による薬害が心配されます。
この2年間、私は家庭用の重曹やハーモメイト水溶剤を希釈倍数約300倍(3グラム/リットル)で使用しています。
300倍ではどのバラの品種・時期でも薬害が出たことはありません。所定濃度800~1000倍を厳守する、あるいは使用しない注意が必要なのは、例えば「ニガウリのある特定の品種」*だそうです。バラも品種や生育ステージ、気温によって「感受性」が異なりますので、まずは安全と思われる800倍程度で使用して様子をみてください。
*情報源:ハーモメイト水溶剤のチラシ
2015年4月追記:重要な変更「ハーモメイト水溶剤は、300倍ではどのバラの品種・時期でも薬害が出たことはありません」と書いていますが、発芽したばかりの接ぎ木の新芽に薬害が出たのでは?と疑わしい事例がありました。これはそのような新芽に撒布したのではなく、隣にあった成株にアブラムシが発生したのでその防除のためにエコピタ液剤と混ぜて撒布したハーモメイト水溶剤がかかってしまったという事例です。
これだけで薬害とは断定できませんが、このような予期せぬ事態に備えて、ハーモメイト水溶剤の希釈倍数はやはり800倍にすべきかと思います。もしかしたら、300倍でも800倍でもその効果はさほどの差はないのかも?しれません。
デービッド丸 そら型
私は現在「デービッド丸3型」の基本はそのままで、重曹の希釈倍率を300倍(800倍に変更)に、尿素を液肥に替えた「デービッド丸 そら型」を使っています。
デービッド丸 そら型
水 1000cc
重曹 または ハーモメイト水溶剤 3グラム(約300倍) 変更ーー>1.25グラム(約800倍)
エコピタ液剤 10cc(100倍)
アビオン - E 2cc(500倍)
ニームオイル 2cc(500倍)
液肥(神協液肥N4号) 2cc(500倍)*ニームオイルと液肥は状況に応じて使用
界面活性剤を含む「ハーモメイト水溶剤」ではなく、家庭用の重曹を使うときには「アビオン - E」を加えています。
これはパラフィンを主成分とし日本農林規格(有機JAS)に適合した展着剤です。デービッド丸 3型の「エコピタ液剤」には展着剤が含まれていますから家庭用の重曹でも展着剤を加える必要はないのですが、雨の多い時期には重曹の効果を守るのではと期待しています。実際はどうなのか、これは比較テストをしていないのでよくわかりません。
「デービッド丸 そら型」の効果
ハンコが必要な化学合成農薬を使うか、有機JAS適合農薬にするか、あるいはいっさいの農薬を使わないか、それは栽培者の判断ですね。私は花壇の一部に「食用バラ」を栽培しているので、「デービッド丸 そら型」以外の農薬をほとんど使いません。したがって自分の栽培事例で「デービッド丸 そら型」の効果を他と比較することができません。
重曹・ハーモメイト水溶剤・エコピタ液剤・アビオン−Eは いずれも有機JAS適合ですが、有機JAS適合といえども「農薬」の使用はできるだけ避けたくて、撒布(噴霧)は不定期に年間7〜8回程度、いわゆる「予防的な定期撒布」ではなく、アブラムシの発生が見られるときなどに被害株とその周辺に使用しています。年間を通してまったく撒布しない株も多数あります。
福岡県内外のバラ園では病虫害がほとんど出ていないところもありますが、管理者のお話を聞いてみると週一回の予防的撒布が欠かせないようで、ローテーションに組み込む薬剤の中にはハンコが必要なものも含まれるそうです。そのようなバラ園で使用されている薬剤と「結果」を比較すると、「デービッド丸 そら型」の効果は低いと言えます。特に「黒点病」に対しては(もともと適用対象ではないのですが)この処方では限界を感じています。しかし『秋には葉が落ちてしまって丸裸』といったほどではなので、病原菌の拡散を押さえるそれなりの効果はあるのでしょう。
「デービッド丸 そら型」の 秋の実例
2015年10月26日 追記 これは福岡県立 福岡魁誠高校の花壇です。バラジャムなどを作るための栽培なので、収穫期を避けて4月・6月・7月に各1回の計3回「デービッド丸 そら型」を撒布した花壇の、10月26日の状況です。
夏は黒点病も出て、現在はチュウレンジハバチの幼虫もナナホシテントウもカマキリもいます。ほぼ毎日、満開前の花の収穫をしているので写真に写っている花数は多くはありませんが、作柄は「並」です。関連記事は「リセットの9月」および「美しい10月」をご覧ください。
バラの病気の「治療薬」は無い
あるとき、知人の雨避けハウス内で栽培されている大量のバラにウドンコ病が激発してしまい、その防除作業の応援に2週間ほど通ったことがあります。「デービッド丸 そら型」や「カリグリーン水溶剤」、あるいは「サンヨール」、「パンチョTF顆粒水和剤」などの化学農薬をローテーションで撒布したのですが、その時の印象は『デービッド丸も他の薬剤も同じ。ほとんど効かない』というものでした。
最終的には(季節の変化もあって)目立つウドンコ病は消えたのですが、何が効いたのかよくわかりませんでした。たぶんどれも(それなりに)効いたのでしょうね。
『ホームセンターで販売しているような農薬はバラの病気には効かない』という話は何度か聞いたことがありますが、たぶん「デービッド丸 そら型」も似たようなものでしょう。アブラムシやチュウレンジハバチの幼虫に効果があるのも他と同じようなものです。
私のバラ花壇には黒点病もあるし(ウドンコ病は、陽当たりの悪い密植畝に出るか購入苗に付いてくる程度でほとんど無い)、チュウレンジハバチの幼虫もその時期にはいますが、撒布しながら『まぁ、こんなものか』と納得しています。「デービッド丸」の最大の効果(特徴)は 使用にあたっての安心感 でしょうか。
撒布回数は少ないものの「デービッド丸」の効果なのか、私のバラの病虫害は少しずつ減っていると感じています。