2023年3月4日 追記 デービッド接ぎ
「デービッド接ぎ」に関心を持っていただきありがとうございます。
初出の2013年から10年が経って、「デービッド接ぎ」は新しい方法に進化しています。
2021年12月30日の記事:「デービッド接ぎを見直す」をご覧ください。
最新の情報 は、2023年3月2日の「デービッド接ぎ」です。デービッドさんによる接木の手順を、YouTube動画と写真で紹介しています。
バラの接ぎ木(接木)は、それ自体は難しい作業ではありません。プロの切接ぎ作業は1本接ぐのに30秒とかかりません。私は、私(たち)のようなアマチュアでもバラの接ぎ木をなにか特別に難しく危険な作業と考える必要はないと思っています。それは「デービッド接ぎ」をするからです。
デービッド接ぎは、David B. Sanderson さんが作業の安全性に配慮しながら独自に考案したバラの接ぎ木方法です。
David B. Sanderson さん
かのやばら園イングリッシュ・ガーデン
ヘッドガーデナー
2013年2月1日に かのやバラ園で開催された「デービッドさんのガーデニング講座」は「接ぎ木」がテーマでした。この時メモ代わりに撮影した写真がありますので、実際の作業手順を見てみましょう。デービッド接ぎを公開することはデービッドさんのご了解をいただいています。
デービッド接ぎ
デービッド接ぎの特徴
- 台木の枝は20cmほど残しておき、根も切らない
- 接ぎ穂の芽(左の概念図の赤丸)は横向き
- 接ぎ木テープは「ニューメデール」を使い、接ぎロウは使用しない
- 接ぎ穂より上の台木は、接ぎ穂の芽が5cm〜10cmほど伸びてから、概念図の赤ラインの位置で切る
デービッド接ぎのメリット
- 接ぎ木作業に慣れない初心者でも安全
- 接ぎロウを使用しないので準備が簡単
- オーキシンの極性移動に配慮し、接ぎ穂の活着が良い
- 作業後の株全体の活性が高く、管理が容易
デービッド接ぎのデメリット
- 台木と接ぎ穂の間にできる「V字状の谷」に接ぎ木テープを巻くのがやや面倒
- 枝や根を切らないので台木のストックにそれなりのスペースが必要
- 新梢が伸びてから台木をカットする手間がかかる
ちなみに、デービッドさんご本人がこの接ぎ木方法を「デービッド接ぎ」と言っているわけではありません。これは私がつけた「愛称」です。この接ぎ木手法そのものは、日本で昔から行われている「腹接ぎ」という手法に似ています。それを「デービッド接ぎ」と呼ぶのは、デービッドさんのこの手法によるバラの接ぎ木のトータルな考え方に共感するからです。デービッドさん自身はたんに「接ぎ木」と言いますが、他の接ぎ木方法と区別する場合は "David's Side Graft" です。
追記:
安全への配慮
この写真、デービッドさんが何をしているかわかりますか?
右手に持っているのは接ぎ木ナイフです。紫色のブロックは砥石ではなく、柔らかい材質の木片です。これに接ぎ木ナイフを突き刺して、刀身と柄のゆるみが無いか確認しているところです。万が一ここが緩いと事故につながる危険性があるからです。
このようなデービッドさんのさりげない、手慣れた安全への配慮は、彼の経験に基づいているようです。『もし怪我をすると仕事ができなくなりますからね。(接ぎ木職人さんたちの)生活がかかっているから。。』というような話を聞いたことがあります。
私たちの接ぎ木は趣味のレベルですが、それでも/だから
安全が最優先 です。また、『革手袋をしているからだいじょうぶ』というのは間違いで、革手袋は鋭利な接ぎ木ナイフに対しては気休め程度でしかないことは自分の左親指で実証済みです(笑)。
デービッドさんが使っている接ぎ木ナイフは「田主丸型」です。これは国内有数の果樹・庭木、バラ苗などの産地である福岡県の田主丸(たぬしまる)地区で古くから使われている接木小刀です。独特の刃の形状が接ぎ木に適しているので、地元のバラの接ぎ木職人さんたちはこれを使っています。
100本接ぐ毎に小刀を交換して、1日1000本を接ぐのだそうです。
「デービッド接ぎ」には田主丸型の接木小刀が必須ということではありません。また「デービッド接ぎ」は初心者にも安全な接ぎ木方法ですが、デービッド接ぎか切接ぎかを問わず『接木作業にカッターナイフを使うのは危険』という話はよく耳にします。接ぎ木は鋭利な刃物を使うので、怪我のないようにおたがいに気をつけましょう。
デービッド接ぎの手順
1 穂木(接ぎ穂)の調整
穂木はそのために育成した枝を使います。枝の両端を持って撓めると『ポキッ』と折れるような、やや硬めの枝が適当なのだそうで、秋に咲いた枝は柔らかすぎて不適です。バラ苗生産農家は(当然ですが)穂木採取専用の株を用意してあります。穂木の準備については、「穂木と台木がポイント バラの接ぎ木」で説明しています。
まず穂木のトゲを取り除きます。私はこの時だけは革手袋を使用します。鋏を使って取ってもいいのですが、私は親指を使います。トゲが外れる感触で、穂木の充実度がわかる(ような気がする)からです。古過ぎる枝はトゲを外すのが硬く、逆に若過ぎる枝は樹皮も一緒に剥がれ気味になります。
上図1の部分を一刀で切ります。このとき左手は穂木の芽が左真横になるように持ちます。
接ぎ木ナイフを持った右手を腰のあたりに固定し、接ぎ穂を持った左手を後に引いて切ります。写真は、そうやって切った直後の反動でナイフがやや前に出ています。
つぎに穂木を180度回転し、ナイフの刃先で逆サイドを薄く削ぎ取ります。概念図の2。このとき、「形成層」の現れ方が適切な状態になるまで少しずつ2〜3回ナイフを入れてもOKです。それくらい慎重に形成層を見極めます。
このときは前段階とは異なり、ナイフを動かして削ぎます。理由は、力の入れ加減が違うからです。
この作業時は、穂木は長いままです。1〜2芽であらかじめ切ってしまうと作業がやり難く、怪我をしやすくなります。穂木を切断する(図−3)のはこの後です。プロの接ぎ木職人さんは逆で、量が多いので効率優先(小刀と鋏を持ち替えるのでは非効率)で、先に穂木を切断しておきます。
補記:この作業の様子がよくわかる動画があります。
「接木ドットコム|接ぎ木情報と接木テープ」「バラの切接ぎ方法~穂木の作り方と接木テープの巻き方」
穂木を 芽の上7mm(程度)で切断し、接ぎ穂ができました。一般的な「切接ぎ」のそれとは芽の位置が90度ずれている(横向きになっている)のがわかるでしょうか。
1本の穂木から何個も接ぎ穂が取れますので、必要な数だけ作っていきます。接ぎ穂が乾燥しないように湿った布や新聞紙を被せておき、つぎに台木の調整をします。
注意:この接ぎ穂はデモ用なので芽がやや伸びすぎています。このように先端が尖ったいわゆる「タケノコ芽」では、接合面が癒合する前に接ぎ穂自体が持っている養分と水分で芽が伸びてしまい、発芽してもやがて枯れてしまいますので、丸っこい芽を選びます。ただし、これに拘ると1本の枝にそう多くあるわけではないので、プロは埋もれたような小さな芽やタケノコ芽でも接ぐんでしょうね。
芽が2個ある接ぎ穂にすることもできます。その場合主枝が2本出てきますが、それが有利かどうかよくわかりません。「初心者に優しいバラの接ぎ木 デービッド接ぎ」に実例があります。
2 台木の準備
この台木は根量が豊富ですね。デービッドさんは根を切りません。『根を切り詰めるのは培養土の量や輸送コストなど生産者の都合に過ぎず、バラのためには良くない』という考えです。
台木の首の部分が長く素直に伸びていることも重要です。HT品種を接ぐ場合、台木の太さはタバコ程度か、それよりやや太めが作業しやすいと思います。穂木はそれよりやや細めが最適ですが、サイズが違っても不可能ではありません。品種によっては、あるいは入手した接ぎ穂用の枝が細い場合もありますから、いろんなサイズの台木が準備できればベストです。
まず台木の首の部分をきれいにします。土汚れを落とし、茶色の薄皮も拭い取ります。接合する部分の汚れは接ぎ穂と台木の癒合を妨げる大敵です。
台木の調整
台木の枝の部分を持ち、ナイフの刃先を使って、台木の表皮を形成層が見える深さ2mm程度に切り分けます。深さは台木の太さによって微妙に異なりますが、極端でなければ、これにあまり神経質になる必要はありません。
ナイフの持ち方や指の使い方に注目。右手には力を入れず、左手の親指でナイフの背を押しながら台木を切り下げていきます。切断面がスムースであることが活着を良くするために重要です。そのためには、よく切れる接ぎ木ナイフと適度な硬さの台木が必要です。
一般的な「切接ぎ」では、左手で根を持つのでここが最も危険な作業です。デービッド接ぎでは左手で枝の部分を握っているので、ナイフの刃が動く方向には手(や指)がありません。だから革手袋が不要なんです。
接ぎ穂の斜めの切断面(概念図の1)よりもやや長めに切り分けます。
(くり返しますが)右手に力を入れて切るのではなく、右手はナイフを保持しているだけで、左手の親指で接ぎ木ナイフの背を押して切るのです。この作業は革手袋をしない方が力の入れ加減が分かりやすいと思います、
「切接ぎ」のためのヒント
一般的な「切接ぎ」では、台木の枝は最初に切り捨てますから、この段階では左手で根部を持って作業します。その場合、ナイフの刃先が左手に向かっていますので危険です。
もうおわかりでしょう、安全な「切接ぎ」のためには、この後で台木の首を切断すればいいのです。プロがそうしないのは、たぶん作業効率と省スペースのためでしょうね。
3 形成層を合わせる
接ぎ穂を差し込みます。このとき形成層を合わせますが、台木と接ぎ穂のサイズが異なる場合は、片側だけでもきちんと合わせます。
接ぎ穂の芽が横向きになっているのがわかりますね。こうしておけば、接ぎ穂から新芽が出ても台木の枝とぶつかりません。接ぎ穂に2芽あったとしても(それはほぼ180度逆側ですから)同様です。
注:台木と接ぎ穂の関係がわかりやすいこの写真は、一連のものとは別の台木で、デービッド式「割接ぎ」(Split Graft)のデモ中のものです。この後に、台木の二股に分かれた首の部分の下で切断すれば、デービッド式「割接ぎ」になります。
前述のように、これを応用すれば、従来の「切接ぎ」でも接ぎ穂を差し込む部分を安全に切ることが可能です。デービッドさん、ほんとに知恵がありますね。
4 接ぎ木テープ
接ぎ木テープは「ニューメデール」を使います。基部からテープを引き伸ばしながら巻き付けていきます。基部は何重か巻いてもだいじょうぶなので、台木と接ぎ穂の間に隙間ができぬよう、そして(もちろん)合わせた形成層がズレないようきつめに巻きます。
なぜ斜めに接ぐのか?
デービッド式では、なぜ接ぎ穂を斜めに接ぐのでしょうか? 普通の「切接ぎ」のように台木と接ぎ穂の軸を平行に揃えないのはなぜでしょうか?
たぶんそれは、台木と穂木の有効な接合面が2面あり、ゆえに普通の「切接ぎ」よりも形成層が合致した部分が多いからと思うのですが、いかがでしょう? また、接ぎ穂の導管の位置(角度)もポイントでしょうね。一般的な「切接ぎ」よりも水が上がりやすいと思いませんか。
テープは接ぎ穂にも巻いていきますが、芽の上は1回だけにし、接ぎ穂の先端の木口までテープで完全に覆ってしまいます。接ぎ穂からの蒸散を防ぎ接ぎ穂を守るためです。
これはデービッド接ぎではなく、デービッド式「割り接ぎ」のテーピングの様子です。いずれの場合も接ぎ穂全体(先端の切断面=木口も覆うよう)にテープを巻きます。ゆえに、「接ぎロウ」は必要ありません。
私は今年は先端にはテープを巻かず「バッチレート」を試しています。これは福岡県筑後地方のバラ苗栽培農家に教えてもらった方法です。
この農家は多くのプロがそうであるように「切接ぎ」です。接ぎ木テープは「ニューメデール」なんですが、接ぎ穂先端の処理は接ぎロウではなく「バッチレート」をフタ付きの容器に移して平筆でサッとひと塗り。合理性と作業時間の短縮を考えてあるようでした。
できあがり。簡単でしょ? 作業が安全でおもしろいから、50本接いでももっとやりたい気分。
それはバラサークルのメンバーも同様らしく、「台木が残っていますか?」という問い合わせが数件ありました。「花*薔薇*会」の徳田さんは、『接ぎ木を覚えたらバラの栽培はもっともっとおもしろくなる』と言ってありますね。まったく同感。
品種作出者の権利保護と接ぎ木
台木といえば、かのやバラ園でのデービッドさんのガーデニング講座の受講生のみなさんからは「台木をどうやって入手したらいいのか」という話題が出ていました。ノイバラ台木のネット通販はどこからか圧力がかかっていて難しいのだそうです。
PBR(品種作出者の権利)の保護には全く異論はないのですが、もしその「圧力」が事実とすれば、ちょっと割り切れぬものがあります。でもまぁ自分で育てればすむことですしね、ノイバラの花もかわいいですよね。
台木のカット
デービッド接ぎ60日後
2012年4月14日の記事「デービッド接ぎ 2ヶ月後」に、12年のデービッド接ぎの2ヶ月後の写真があります。テーピングの様子もわかりますが、これはやや巻き過ぎかも?(笑)でも、これくらいきっちり巻いておけば、接合面がズレたり水がしみ込むことはなさそうです。
デービッドさんに確認した上で『新梢が手のひらサイズ(10cm)になったら台木を切る時期』と書いていますが、ここまで待たなくても新梢が5cm以上になったら切っても良さそうです。デービッドさん、今年は『5cm以上』って言ってましたね。
この株は、接ぎ木2ヶ月後にしてはやや生育が遅いと思います。理由は「台木の切断が遅れた」ことでしょう。
ちなみに、この台木には3カ所の切断痕跡が見えます。下のは接ぎ木の作業に邪魔だから切ったもの、真ん中と上は新梢の伸びに従って、その邪魔にならぬよう切ったものですが、この例の場合、もう少し早め早めに台木の枝を切っても良かったように見えますね。右下の赤いラインで切るつもりだったのですが、実際はもっと下で水平に切りました。
追記:これはデービッド接ぎを習った最初の頃の作業記録で、現在はそのような分けた切り方はしません。新梢が5cm伸びたら台木を接合部のすぐ上から切ってしまいます。
生育が遅い原因は「肥料不足」にもあると思います。(接ぎ木2ヶ月後の)4月のこの時期には、バラ苗生産農家ではまもなく新苗の出荷を迎えようとしていますから、それと較べればこれでは生育が遅いのは歴然としています。この頃の私には「自然農法」への憧れがあり、できるだけ肥料もやらずに育ててみたいと考えていました。しかしポット植えで無施肥ではバラがかわいそうですね。バラ苗生産農家は、例えばこのような肥料をこのように使います。
2011年11月8日の記事 「パワフルアミノ」。このページからのリンクに、プロのバラ苗生産者バラ息さんの鉢上げ後の管理についての情報があります。
デービッド接ぎ90日後 台木カットから50日後(2014年の例:追記)
上の写真は、2014年2月23日に接ぎ木した3ヶ月後の実例です。既にピンチ(適芯)を終えている枝もあります。画像クリックで拡大しますので、台木の切断具合がわかります。
右が2芽ある接ぎ穂の例です。主枝が2本(さらに分かれて3本)出ていますが、1芽の接ぎ穂でもすぐに2番目の芽が出てきますので、2芽ある接ぎ穂が有利かどうかはよくわかりません。でもこの結果からみれば、不利ということはなさそうですね。
なぜ枝を残すのか
「デービッド接ぎ」を初めて知った時、私はその合理性に驚きました。台木の枝を残すのは作業の安全性への配慮だけではありません。台木と接ぎ穂の癒合には「オーキシン」という癒傷(癒合/成長)ホルモンの働きが必要なのですが、このオーキシンは茎頂や新葉、枝の節(ここに芽の原基がある)のあたりで生成され、細胞間を上から下に一方通行で移動(極性移動)します。したがって、台木と接ぎ穂の接合面に至るオーキシンの量は、台木の枝が残っている方が多くなります。
台木と接ぎ穂が癒合するには、植物ホルモンのオーキシンの他に、細胞(カルス)を作る栄養物が必要なのは言うまでもありません。タンパク質、糖質、脂質がその主なものですが、多くを占めるのはタンパク質ですね。挿し木したバラの葉を観察していると、バラはとても賢くて、葉に含まれるタンパク質を分解してアミノ酸に戻し(その結果、葉は枯れる)、それをカルスの生成に充てているのではないか?と思われるような変化をします。
2016年追記:
「ノーベル医学・生理学賞」を受賞された大隅良典教授の研究テーマである「オートファジーの仕組みの解明」、この「自食作用」の一例がこれですね。
『どうしてそんなことがわかるの?』と問われれば笑ってごまかすしかありませんが、カルスの生成に必要な(材料になる)アミノ酸の大部分は台木や接ぎ穂から供給されているのは間違いないでしょう。それらの生化学反応(代謝)を動かすエネルギーATP(アデノシン三リン酸)や「糖」も同様です。そうだとしたら台木に枝葉が残っているほうが有利ですよね。これが枝を残す理由です。
もうひとつの理由は、接ぎ穂を含む株全体の活性です。台木を首の部分で切断する従来の「切接ぎ」は台木に強いストレスを与えます。「切接ぎ」後に保温を必要とすることからもそれは容易に推測できます。それに較べ「デービッド接ぎ」は「切接ぎ」よりはかなり活性が高いと思われます。その実例:「そらのそらごと」の2012年2月19日の記事「雪が降る」の写真中央の畝に植えられているのが、接ぎ木して間もない「デービッド接ぎ」です。この雪の中でもだいじょうぶでした。
2015年追記
下の写真では「デービッド接ぎ」と「切接ぎ」が並べてあります。ブルーのポットが「切接ぎ」で、接ぎロウではなく接ぎ木テープが先端まで巻いてあります。
緑ポットの「デービッド接ぎ」は秋挿し台木を使っています。デービッドさんは実生台木を使うので、実際は台木の枝は(手順を説明した写真に写っているように)もっと大きなボリュームになり、そのぶん株が内包しているエネルギー量が多く、活性も高くなります。
更にこの「秋挿し台木」は、接ぎ木をするこの厳寒期に「葉」が付いています。この葉色は光合成をする能力があるでしょうね。
『デービッド接ぎと切接ぎ、どちらが活着しやすいか一目瞭然』と私は思うのですが、いかがでしょう?
デービッド接ぎの優位性は?
その答えを、バラサークルメンバーや私自身の3年間の接ぎ木結果から判断すると、接ぎ木作業にある程度慣れれば、デービッド接ぎや一般的な切り接ぎ、あるいは芽接ぎの間には、その成功率に特に大きな差は無い ように思えます。 「切接ぎ」や「芽接ぎ」はバラ苗生産者が採用する優れた方法であることは言うまでもありません。
しかし、デービッド接ぎには作業の安全性や接ぎ木株の活性の高さなど、接ぎ木初心者にも優しい優れた特徴があります。特に、挿し木で作った台木を使う場合この効果は大きく、私は「デービッド接ぎ」を知ってからは、あえて「切接ぎ」をしようとは思いません。
「頂芽優勢」とデービッド接ぎ
2015年3月追記:台木の枝を残すデービッド接ぎの場合、気がかりなのは台木が持っている栄養分や根が吸収する肥料分の多くは台木の新芽の伸長に使われて(頂芽優勢)、接ぎ穂は後回しになるのではないか?という疑問です。
2015年はこれを検証すべく、台木の枝を残す「デービッド接ぎ」と、枝をまったく残さない「デービッド式割接ぎ」または「切接ぎ」を、できるだけ同じ条件で各10株計20株で比較栽培しています。まだテスト中なのですが、現段階では両者の新芽の生育程度にほとんど差はありません。後日そのテスト結果を公開する予定ですが、「頂芽優勢」によってデービッド接ぎの接ぎ穂の新芽の伸長に悪影響が出るということはありません。また逆に、デービッド接ぎが一般的な切接ぎやデービッド式割接ぎよりも生育が良いとも言えません。ほぼ同じように新芽を伸ばしています。
2015年11月追記:この結果を「デービッド接ぎ 補遺」にまとめています。
余談 接ぎ木の成功率
「接ぎ木の成功率」は、単に「穂木から芽が出て伸びた」ということではなく、それが大きく成長した段階で判断すべきと思います。それは、台木と接ぎ穂の癒合した部分が小さいと、思わしい成長をしないからです。私の作業でも接ぎ穂から新梢は出ているのだけれど、その後の成長が緩慢なものが幾つかありました。こういうのは「失敗」ですね。
ちなみにプロの接ぎ木(切接ぎ)でも100%の成功率とはいかないようです。私が知っているバラ苗生産農家の大苗生産の場合、真冬に接ぎ木した株はいったんハウス内に仮植えします。それらの株は春になって本圃に定植するのですが、そのときに接がり具合をチェックし、怪しい株は除外して別の畝に植えて生育の様子を見ます。それの畝を見たとき『ああ、プロでも失敗はあるんだな』とちょっと安心・・というか、"親近感"を持ちました(笑)。仮に成功率を98%としても(実際は85~95%程度らしい)、個人のバラ苗農家でも1シーズンに3万本を接ぐのですから、怪しい株は600本にもなります。もし90%なら怪しい株は3000本!ですね。そんなのがいわゆる「B苗」になるんでしょうね。
「成功率90%」というのは「10本に1本は失敗」ということですから驚きますが、失敗というのは「枯れた」ということではありません。バラ苗栽培農家の接ぎ木作業では、「得率(成功率)なんか気にしない、それよりも効率優先」という印象を受けました。なにしろ1本接ぐのに30秒以内ですからね。
私にとって意外だったのは、私たち接ぎ木初心者の「F芽接ぎ」の成功率が悪くない*ことです。私たちのサークルでは、スタンダード台木には芽接ぎをすることが多いのですが、幾つもの嬉しそうな成功事例を聞きました。芽接ぎも比較的安全な接ぎ木の方法ですね。作業もそう難しくはないし、なによりも「心理的な負担が少ない」というのが実感です。バーバラさんも安全で手軽な「芽接ぎ」が好きで、ある時うっかりしてスタンダード台木に芽を天地逆さまに接いでしまいました。どうなったと思います?
*註:ただし地植え台木への「T芽接ぎ(T-budding)」は別で、台木を高畝に植付けても日本式のしゃがみ込んでの作業は高齢者には腰への負担が大きすぎます。「T芽接ぎ」も優れた接ぎ木手法だと思うので、別の方法を考えてみようと思います。
「F芽接ぎ」の成功率が悪くない理由は想像がつきます。芽接ぎの場合は、それに適した「芽」の選択の幅が広いからでしょう。デービッド接ぎや切接ぎでは、穂木の充実度が接ぎ木の成否に大きく影響します。このテーマは以下のページに続きます。
コンテンツ移動のおしらせ
このページにあった「穂木と台木の準備について」は、ページが大きくなりすぎたため移動しました。
新しいページは、2014年11月19日:「穂木と台木の充実度がポイント バラの接ぎ木」です。