このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2015年11月18日水曜日

作業記録:バラのスタンダード 2016(その1)

バラのスタンダード仕立てを、芽接ぎと挿し木を同時にする「芽接ぎ挿し」で試みる作業記録 2016年版です。
今回はそれを「日録」ふうに(追記形式で)記録していきますが、はたしてどのような展開になるでしょうか。

はじめに 2015年の結果と 現状

今年2月、地植えの長尺台木に芽接ぎしたスタンダード仕立て。3芽接いだはずなのに1つは台芽(右側)が 出ています(笑)。 接いだ白花と台木の紅花の対比がきれいなので、そのまま放任していたらローズヒップができました。画像クリックで拡大。台木と接いだ品種のローズヒップの大きさや形、枝の表皮や トゲの有無も異なっています。

放任したので、接いだ品種の枝が1本だけ異様に伸びています。この枝の先端を止めておけば分枝してもう少しまとまった形になったはずです。

この台木の品種はノイバラではなく、SCL(ショート・クライマー/品種名不明)で、STD(スタンダード仕立ての台木)にするため、ベーサルシュートを意図的に1本だけ残して作ったものです。芽接ぎした部分は私の背丈ほどです。STDにする品種はノイバラに限定する理由はありません。詳しくは下記を参照してください。

2015年の作業とその結果

今年2015年はそれまでとは異なる環境で試み、散々な結果になりました。スタンダード台木の接ぎ木を全部で 14株試みて、そのうちの6株を失敗。メインの「芽接ぎ挿し」は5株試みて3株も失敗。この苦い経験から『次回こそは・・』と思っていたのですが、 「そらの "メメント・モリ"」に書いたように、今年は春から特に体調がすぐれず、台木の準備などがまったくできていません。

それでも再挑戦への気持ちは断ちがたく、今から準備しても可能な「芽接ぎ挿し」を試みます。その内容は今年と同じで大きく変更することはありません。難しい方法 ですが、これは「ガイドではない」のでそれぞれの作業を楽しみながら、「失敗することもあるだろう」と気楽にやっていきます。

*註:私が試みる「芽接ぎ挿し」がスタンダード仕立てを作る合理的な方法であるのかは疑問があります。
今年の結果「成功のツボは "蒸散" バラのスタンダード芽接ぎ挿し」の第3章で それに言及しています。

必要な 準備 は以下の4項目

  1. 台木の準備 台木にする長尺枝をノイバラやツルバラから選び、不要な脇枝を除去しておく
    ただし、先端の枝葉は残す
  2. 穂木の準備 芽接ぎしたい栽培品種の開花枝を選び、充実した枝になるよう肥培管理
  3. ポットと挿し木用土、道具類の準備
  4. 温室の準備 簡易なものでもいいから寒さから台木や芽を守る温室が必要

私の場合、最も大掛かりな準備になるのは「4. 温室の準備」です。ビニールハウスの枠組みは完成しているものの、まだビニールを張っていません。業者は忙しいらしいので間に合わないかも。その場合は 小型の温室を作るなど、何か工夫が必要です。このような状況からスタートします。

「芽接ぎ挿し」の作業時期

これは接ぎたい栽培品種の芽の動き(膨らみ具合)に合わせて決めます。私の環境では、その適期は2ヶ月後の1月中旬から2月上旬で、芽が動き始める前の厳寒期です。

重要:スタンダード台木にする長尺枝は、(原則的に)芽接ぎの作業当日に切ります。事前に切って 長期間水に入れておくのは、穂木(長尺枝)が弱るし、雑菌が繁殖して導管を塞ぐので好ましくありません。

ただし、芽接ぎ作業の前日に切って、カルスの生成を促す植物ホルモン・オーキシンの製剤である「オキシベロン」の水溶液に漬けておくなどの方法はあると思います。挿し木には「メネデール」を使う人が多いようですね。私は水揚げに「三ツ矢サイダー」を試してみるつもり。詳細は後日。

2016年1月3日追記「"三ツ矢サイダー" でスタンダード芽接ぎ挿し」をアップしました。

1 台木の準備

長尺枝のチェック

STD(スタンダード仕立ての台木)として使える枝があるのか調べてみました。ローズヒップが熟しています。ノイバラの株元に置き忘れて2年経った「ディンティベス」の鉢植えが咲いていました。こんな環境なのに。
この場所はまったく手入れをしていないので、野いちごなどのやっかいな雑草が株元を覆っています。

ここには STD用ハイブリッドと旺盛に伸びるノイバラ(たぶん亜種)の挿し木苗が8株ほど5号ロングポットで並べてありました。それから4年ほど経ったので、根はポットを突き破って土の中まで伸びています。

ローズヒップを収穫して、STDとして使えない細枝を切り捨て、長尺枝の脇枝を切除し先端附近の枝を間引きました。  写真上右:除草・整枝作業前  下:作業後

STDとしてなんとか使えそうな 150cm以上 の長尺枝が12本ほどありました。「蒸散がポイント」という今年の結果から、長尺枝の先端の枝葉は残しておきたいのですが、残っている葉は 多くはありません。

*註:このようにすべての枝を切ってしまうと、もちろん来年の開花はありません。これらの株は「母木」としての役割を終えたので、更新(これらの株は廃棄し、別の若い株を母木に)する予定です。更新する理由は、岐阜大学/園芸学研究室の福井博一教授の「挿し木の基本」をご覧ください。これは必読のテキストです。

重要

スタンダード仕立てを「芽接ぎ挿し」で作る場合は、台木にする長尺枝は今年伸びた 当年枝 を使います。「芽接ぎ」は2〜3年生枝でもいいのですが、「挿し木」はそれでは発根率が落ちるからです。

『ノイバラの長尺枝の挿し木は難しい』との声を聞きますが、それはより長い枝を確保するために、古い枝を選ぶからではないかと推測します。

これは上の写真とは別の、接ぎ木株を養生している畝です。
画面左下の株から右斜め上方向に伸びている4〜5本のベーサルシュートらしきもの。これは「台芽」が伸びた「サッカー」です。除草作業をしたらこれが現れてびっくり(笑)。ご丁寧に支柱が立ててありますが、これは「シュート」と「サッカー」の違いを見落としたバーバラさんの仕業。 でも、そもそも こんなヘタな接ぎ木をしたのは誰だ?(爆)

このサッカーは未熟で細く短い(全長1.5 M)けど、1〜2本は「芽接ぎ挿し」を試してみます。この支柱は 0.9cm X 150cm なので、使える枝の太さはそれ以下です。「芽接ぎ挿し」を成功させるのに重要なのは長さや太さよりも「充実度」なので、今からでも、枝を起こしリン酸やカリ成分の多い即効性肥料を与えたほうがいいのかも? たぶんズボラで「しない」だろうと思いますが。

この株の使い方は2通りあります。ひとつは(ふつうに)長尺枝を切り取って挿し木する方法。もうひとつは、逆に接ぎ木した栽培品種を切り捨てて、根付きの長尺台木にする方法です。これなら、台芽の発生さえ厭わなければ、簡単にスタンダード台木にすることができますね。長尺枝を2本残せば、2品種を芽接ぎできて、遊びとしてはおもしろいかも。

よく見ると株元近くから4本のシュートが出ています。上側の2本は早く出たベーサルシュートで、支柱を立て固定しました。するとそのシュートはそれ以上伸びるのを止め、下から別の新しいシュートが出たのがわかります。「長いシュートにしたければ、固定せずに放任するのがいい」と、ずぼらなそらさんは考えるのでした。

上の写真の右のボーダーには「シュネービッチェン」が10株ほど植えられているのですが、夏草に覆われています。でもここは柔らかい草なので、まだマシなほう。

酷く荒れているのはここ、幅2M X 長さ12M の畝です。ノイバラ3種類とモッコウバラが、全部で10株以上植えてあるのですが、暴れるモッコウバラと高さ 2.5 メートルのセイタカアワダチソウ。作業服や手袋にくっつく嫌な雑草。それらが手の施しようがないほど絡み合っています。

しかし、その中には太い長尺枝もちらほらと見えます。太い2〜3年生枝が「芽接ぎ挿し」に使えるのか試してみたい誘惑に駆られて、このジャングルに挑みます。まるで「開墾」するみたいな作業になりそうだけど。


草刈り機と(場合によっては)チェンソーで片っ端から切り倒し焼き払ってしまえば、さぞスッキリするだろうと思うのですが、それができない理由がもうひとつ。スタンダードではなくふつうの接ぎ木の台木は、その地に自生しているノイバラが最も良いという話を聞いたからです。

国内大手の◯◯バラ園芸の苗は、自社農場で生産する他に全国各地の生産者にも栽培を委託してあるのですが、各地の苗生産者に配られる台木のタネは、全国同一ではなく その生産者の地域で採取された野生のノイバラのタネなんだそうです。

◯◯バラ園芸とは関係ない地元のバラ苗生産者からも「台木専用種を含め何種類か試してみて、接ぎ木に使う台木はこの辺に自生しているノイバラがいい結果が出るようだ」という話を聞いたことがあります。

この薮には、この近辺で集めたノイバラが3種類ほど植えてあり、それらの「台木としての特性」をまだ十分にテストしていないので、今これらを廃棄するのはもったいないからです。もしかしたら、おもしろい特性のあるノイバラがあるかも。例えば上の写真の画面右側に弓なりになった長い枝が見えています。ふつうのノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)ではこのような長い枝にはなりません。

中にはこんなノイバラもあります。これは、それから挿し木で作った台木ですが、このたくましい剛根!

これは「ロサ・ラクサ」との交雑種なのか?笑

このこの名前は?

さらに、茂みの中にはピンクの花が咲くものがあり、僅かですが返り咲きしています。「ロサ・カニナ」か「ロサ・エグランテリア」のようですが、それらとはローズヒップの形が明らかに異なり、これはノイバラそっくりです。自生している場所があるし珍しいものではないのでしょうが、切り捨てるにはもったいない可愛らしさです。こっちを向かせてアップで撮りたいけど、混み合った枝に邪魔されて手が届きません。

花はノイバラよりやや大きく、樹形や枝葉の特徴、ローズピップはノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)と同じです。どなたかこの「ピンクのノイバラ」の名前をご存知であれば、コメント欄で教えていただけませんか。原種のひとつなのか、交配された品種なのか、それとも自然交雑したのか。「枝変わり」ではありません。

このような拘りはつまらないことでしょうが、私はこんなことが楽しいのです。私はやはりガーデナーではなく「百姓」が似合っているみたいで(笑)、こんな「バラ栽培の楽しみ」があっても許されるでしょう。

姿を現したノイバラ

11月25日。枝を確認しながらの作業なので動力機械類は使えず、木みたいに固くなったセイタカアワダチソウや、使えないノイバラの枝を剪定鋏で1本1本切り捨てながら作業を進めました。厚手の革手袋、ヘルメット、地下足袋という勇ましい姿ですが、作業はコーヒーを飲みながらのんびりと。 バーバラさんがノイバラだけを使ったリースを作ると言っているのですが、大量のローズヒップがあるので、その保存が面倒(笑)

ここには2株植えてあります。茶色が前年までの枝、緑色が今年の春に出たベーサルシュート、黄緑色の長いけど細いのが花後に伸びたサイドシュートです。このまま放置して春になったらシュートの先端に複数の花枝が出ます。

長めのサイドシュートがいっぱいあります。これは「放任」したからで、シュートは光を求めて伸び、しかも枝が複雑に絡んでいるので支柱がなくても曲がったり折れたりする事はありません。でもこれらは未熟なので挿し木で育てて1〜2年後にSTDにするのがいいのかな。
今回STDとして使えるのは春に出たベーサルシュートですが、株元に光が届かなかったからかその数が少なく、STDとして状態が良いのは左に見える1〜2本しかありません。さて、どうするか。

冷たい雨が降りだしたので、とりあえず畑から撤退しました。

このこの名前は ツクシイバラ?

11月28日追記:コメント欄に画像が載せられないのでここに置きました。これは「ツクシイバラ」です。

wiki:「ツクシイバラ」

5月下旬、ピークを過ぎての撮影だし天候等の条件も異なるので、この写真では花色の比較はできませんが、葉形や照り葉がノイバラとは異なっています。



7 件のコメント:

G3 さんのコメント...

別荘生活の恩恵かアクティブなご活躍恐れ入ります。
私もスタンダート仕立てをしたく、香椎の浜まで台木を取りに行きました。
残念ながら思ったような太さのステムが見つからず、やむなく細いシュートを
5~6本とってきましたが、今年は接ぎ木は無理かな…という状態です。
狭いベランダでのバラ栽培,そらさんみたいにはいきませんが
来年には香りのあるフロリなど接ぎ木したいなと思います。
いろいろ教えてください。お願いします。

そら みたか さんのコメント...

G3 さん。コメントありがとうございます。

スタンダード仕立ての名人・石井強さんは、ノイバラの若くて細いシュートを、数年かけて太くされるようですね。

岐阜大学・福井教授の「挿し木の基本」には、挿し木にする枝(穂木)は「若い枝=幼若性(juvenility)が重要」と述べてあります。

野生のノイバラの太い枝は自然に曲がっていることが多く、曲がれば脇枝も多いので、スタンダード仕立ての台木に適した枝はほとんど無いですよね。仮に長くて太い2〜3年生枝があっても、それは(福井教授の指摘によれば)発根率が著しく低下していますから、挿し木が難しくなります。

スタンダードを生産している農家はノイバラ台木ではなく、自分で交配したスタンダード専用のハイブリッド種を使います。ノイバラでは長くならないし、太くするまで時間がかかって効率(採算性)が悪いからです。

ハイブリッド種の交配親は(企業秘密なので)教えてくれませんが、私の想像では、片親はクライマー(ツルバラ)です。趣味(遊び)としてのスタンダード作りなら、ツルバラも立派な台木候補になりえますよ。このページの最初の写真がその実例です。これから12月にかけてツルバラの剪定シーズン。太くて長い枝(当年枝であることが重要)をゲットするチャンスかも。

G3 さんwrote;
>来年には香りのあるフロリなど接ぎ木したいなと思います。
いろいろ教えてください。お願いします。

こちらこそ。私も試行錯誤の途上です。どうぞよろしくお願いします。

G-3 さんのコメント...

早速のご教授ありがとうございます。

私もCLのシュートに芽接ぎしてみようかなとも思ったことはあります。
HTも武州やマダムビオレや手児奈など優に250㎝を越してしまう種類も結構あります。
しかしHTの鉢植えではステムを2~3本しか出さないので開花した花を切った後
台木に使うとは考えたこともありませんでした。

いろんな接ぎ木の仕方があるのですね~
勉強になります。 また教えてください。

そら みたか さんのコメント...

なるほど。
・・木立バラはつぎつぎにシュートが出るでしょうから、STDにすると厄介なのかも。ツルバラも出ますが、直立しているので?さほど多くはないようです。ページ冒頭の株では、今まで地際から1本が出ただけでした。

みなさんご存知のように、 CL の挿し木は容易ですから、長尺の挿し穂もそう困難なことではないと思われます。私が知っている範囲では、STD専用ハイブリッドの片親は CL です。そのCLをSTDとしたときの欠点を補うために、もうひとつの品種(たぶん原種系)と交配します。

プロはSTDに厳しい条件(親和性・耐病性・耐久性・台芽の発生・見た目の美しさなど)を要求しますが、私たちアマチュアは失敗を恐れずどんどん試したらいいと思っています。失敗が楽しめるのは、アマの「特権」ですね。笑。

suya さんのコメント...

ピンクのノイバラはツクシイバラでしょうか?

そら みたか さんのコメント...

花弁の色、形、大きさやシベはまさに「ツクシイバラ」ですね。「 花柄や萼に紅色の長い腺毛が密生する」という特徴も似ています。近所の小川の土手に自生していることからしても、「ツクシイバラ」である可能性は大きいですね。

私も「ツクシイバラ」の大株を持っていました。(が、あまりにも大きくなったので切り捨て、今は挿し木苗で育てています)

「ツクシイバラ」との相違点は、まず葉の形と厚さ、そして光沢です。それとステムの腺毛の有無。「ツクシイバラ」はステムにも(花柄よりは少ないけど)僅かに繊毛がありますが、これにはありません。表面はツルッとしていて、花がなければノイバラ(ロサ・ムルティフローラ)そのものといったところです。

これまで「ツクシイバラ」が秋に咲いたことがないのも相違点です。ただこの花は僅かなので「返り咲き」と言えるほどではありません。

コメントありがとう。葉やステムは見間違いかもしれないので、もう一度(今度は近くから)見直してみます。

そら みたか さんのコメント...

STD専用ハイブリッドの「ローズヒップ プレゼント」を終了しました。

申し込みは ゼロ でした。これは私には意外なことでした。この半年間アクセスが最も多かったのは今年2月の:「挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て」でしたので、スタンダード仕立てへのみなさんの関心の高さがわかります。なのでSTD専用種の必要性もあるだろうと考えたのですが。。

自分で長尺台木をタネから育てるというのは「現実的」な話ではないのでしょうね。