このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

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内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。



2015年11月5日木曜日

師匠から学ぶこと

北九州市響灘緑地のグリーンパークバラ園で、2014年11月から1年間、同バラ園・技術顧問の小林博司先生を講師として「初心者向けバラの育て方教室 年間バラ講座 すてきなバラ作り」が開催され、私も参加しました。

この講座は10月が最終回でしたが、多くのメンバーは引き続き「中級者向け講座」へ進まれます。私は健康上の理由などもあり、いったん小林先生の元から離れますが、これは先生の講座を卒業するということではありません。むしろ「ほんとうにだいじなことを学ぶのはこれから」という気がしています。そのためにも、これまで(個人的にも)先生のご指導を受けながら思ったことを振り返ってみます。したがってこの記事は、講座や小林先生の栽培技術を紹介するのが目的ではありません。 師匠から学ぶべき、ほんとうに大事なことはなにか。 それを考えてみます。

グリーンパークバラ園技術顧問 小林博司先生

小林先生の笑顔

グリーンパークバラ園や小林博司先生については主な過去記事を並べておきます。初めてお目にかかったのは4年前 2011年の秋。 その頃は、先生ではなく "小林さん" と呼んでいました。

私の「師匠」

多くの方からバラの栽培を教えていただきましたが、私が最も影響を受けたのは、デービッド・サンダーソンさんです。彼の考えは;

『バラの生育をコントロールしようなどとは思わないで、バラが持っている生命力を信じ、できるだけ自然のままに、あるがままに。  私たち栽培者がすることは、バラが自ら成長していこうとする、それをほんの少しだけ手助けすることです』

というものです。私は野菜を栽培していた頃から自然農法への憧れが強く、バラもオーガニック栽培を目指しています。デービッドさんのこの考えに共感し今も指導を受けています。『福岡でのデービッドさんの一番弟子』と自認していますし、彼も笑って認めてくれています。自称一番弟子なんですが、でもこれまでデービッドさんを「師匠」と意識したことはありません。デービッドさんは私にとって「仲間」あるいは「友人」です。

デービッドさんは、少量ですが化学肥料も使うしバラのオーガニック栽培に拘っているわけではありません。端から見ていると、オーガニック栽培か否かなどというレベルは「超越」しているように思われます。

不肖の弟子

デービッドさんに次いでお話を聞くことが多いのが小林博司先生です。GPバラ園はオーガニック栽培ではありませんし、小林先生のバラ栽培は、デービッドさんや、まだ曖昧ながらも私が目指しているバラ栽培と共通する部分が多いとは言えません。しかし、私は小林先生が大好きで、これまでも単発の講座に参加するだけでなく、講座以外でも個人的に何度かお話を聞きました。ただし、農薬の散布も施肥も、剪定すらも、先生の言われるようにはしないので、そのような者が「弟子」を名乗ることは許されませんし、みなさんのように敬愛の気持ちを込めて「師匠」と呼ぶこともできません。でも私は小林先生を「師匠」として尊敬しています。

この2枚の写真(撮影:バーバラ)は、2013年4月から1年間にわたり粕屋町バラサークルの主催で開講した「環境に優しい オーガニック バラ栽培講座」での小林先生です。私はこの講座の企画・運営担当だったのですが、小林先生には4月の開講記念講演(左:開講記念講演なのでネクタイ姿。礼儀正しい先生の一面が。)と、10月の講座を担当してもらいました。福岡にはバラのオーガニック栽培で有名な先生もいますが、私はあえて小林先生にお願いしました。栽培がオーガニックであるか否かは「方法の問題」に過ぎず、学ぶべきことは ほかにあると考えたからです。

方法とそのベースにある理念は表裏一体のものだから、どのような方法であるかは重要だと考えています。ただしそれは、バラ栽培の考え方の優劣を言っているのではありません。

小林先生は、『バラの栽培は楽しく』ということを繰り返し語られます。

『ここ(GPバラ園)でのバラ栽培を仕事とは思っていません。仕事ではないから、バラの栽培が楽しいから、早朝からこんなに頑張ることができるんです』

前置きが長くなりましたが、以下GPバラ園での「初心者向け年間講座」の様子を振り返りながら、「師匠から学ぶべき、ほんとうに大事なことはなにか」を考えていきます。

バラの栽培は楽しく

指導者としての小林先生の魅力は、「美しい 10月」の10月30日の記事:「小笠原流 バラ栽培の愉しみ」で紹介した小笠原さんも、静かに、しかし確信を持って語られました。小笠原さん曰く;

『10年ほどバラの栽培を続けていますが、最初はガイドブックを参考にやっていました。でもそれではうまくいかず、4年ほど前に小林先生の講座を知って参加するようになり、それからは以前とはまるで違う生育をするようになり、きれいな花が咲くようになりました。小林先生は私の師匠です』

講座の受講生でこのように語る人は多いです。その理由は、小笠原さんも言ってありますが、豊富な「実習」があるからです。以下の8枚のスナップは、14年12月の第2回講座で、「鉢増し」実習をしています。受講者の真剣なまなざしと笑顔から、小林先生の講座の雰囲気がわかるかと思います。

鉢増しをする栽培講座の受講者
小林博司先生と講座の受講生

使われる培養土もユニークで、一般的な「赤玉土6:腐植4」のようなものではなく、赤土に粗いウッドチップ(枯れてはいるが未発酵の木片)が混ざっただけのものです。「これで良いのか?」と危ぶみましたが、抽選で私に配られた株「ラベンダー・ドリーム」は、この培養土で大きく育ちました。もっとも、これは修景バラですから「あたりまえ」の結果なのかもしれませんが、みなさんはいかがでしたか?

GPバラ園の基本用土は「赤土」ですね。たぶん響灘緑地一帯がそうなんでしょう。仏メイアン社の圃場のビデオを見たことがありますが、そこも赤土のように見えました。赤土はバラの栽培に適しているのでしょう。受講者から赤土と赤玉土の区別について確認の質問が出ていましたが、先生はそれを区別されてはいないようでした。

GPバラ園の土に関しては、一連の過去記事「グリーンパーク・ショック」をご覧ください。

小林先生の魅力

小林先生の講座の魅力は幾つも挙げることができます。まず何より先生のお人柄と、親しみやすい北九州弁。 先生の講座に参加するようになって私が驚いたのは、その時々の講座で受講生に何をどう伝えればいいか、その判断が適確なことです。私もバラ仲間や高校生(先日は小学3年生)にもバラ栽培の話をすることがありますが、話を聞く人が求めているものを把握し、それをわかりやすく簡潔に(過不足なく)話すのは とても難しいことです。小林先生はそれが的確で、さすがに「講座開催数600回以上」ですね。そのベースにあるのはご自身の経験です。

先生の魅力を考えるとき、もうひとつ重要なポイントと私が思うのは、先生のバラ栽培の経歴です。50年の栽培歴のうち前半の約30年はアマチュアの栽培者でした。50年前、先生が29歳のとき、自宅を新築されたのを契機に、お子さんの情操教育のためにバラ栽培を始められたのだそうですが、50年前はガイドブックや指導者も無く、たいへん苦労して勉強されたようです。その頃はまだ数も少なかったバラ園のゴミ箱に捨ててある肥料や農薬の空き袋の写真を撮って、どういう肥料や農薬が使われているのか勉強したという逸話は、小林先生を師と仰ぐ人はみんな知っているエピソードです。

もうひとつの逸話。蔓延する黒点病の対策がわからず、業を煮やしてバラの栽培を止めすべてのバラを焼き捨てたことも二度。それでもバラへの思いは断ちがたくまた栽培を始める。。(私はこれらの話は5回以上も聞いたでしょうか、話を聞く度に先生が身近に感じられ、元気をもらいます。今は苦しいことでも時が過ぎれば楽しい思い出になるんですね。)

そのような努力でやがてすばらしいバラが咲くようになり、何度もテレビ番組で紹介されたりもしたそうです。響灘緑地にバラ園の計画が持ち上がったとき、それを任せる人物として、小林先生に白羽の矢が。

バラ栽培を「業」とはしないアマチュア出身であることは、現在も『GPバラ園でのバラ栽培を、仕事とは思っていません』ということにつながっています。小林先生を理解する上で、これは大事なポイントだと思います。

プロとアマチュア

アマチュアという言葉には「プロよりも劣る」という響きがあります。私は写真撮影が仕事(プロ)ですが、私が仕事で撮る分野の写真は、どんなに上手なアマチュアでも簡単には撮れないだろうと思います。プロにはそれなりのものの見方や仕事の進め方があるからです。それはどの業種でも同じでしょう。

でも仕事の分野ではなく、「良い写真」という範疇ならどうでしょう?

卑近な例で恐縮ですが、パートナーのバーバラも写真を撮ります。でも彼女はカメラの操作ができるという程度のアマチュアで、プロではありません。大きなイベントなどカメラマンの数が必要な場合や、男性カメラマンでは仕事がやりにくい場面などに、やむなく応援を頼むことがあります。

良い写真が撮れればそれがポスターなどの印刷物に使われるのですが、採用されることが多いのはプロの私が撮ったものよりもバーバラが撮った写真です。何度かそういうことがありました。

なぜでしょうね? 私の腕が悪いということもあるのかもしれませんが(笑)、私は仕事中にプロとして余計なことを考えてしまいます。例えば、撮影チーム全員がクライアントの意向に添った撮影ができているかとか、全体の撮影がバランス良く進んでいるかなど、そのような仕事上の諸々の雑念です。

バーバラさんはそうではありません。自分がきれいだと思ったものにレンズを向け、私の指示やクライアントの意向など気にもかけず(笑)、撮りたいと思った瞬間にシャッターを押します。前掲の「環境に優しい オーガニック バラ栽培講座」での小林先生の笑顔の写真、私は司会進行だったのでバーバラが撮りましたが、良い写真ですね。
でも、私の指示で何かを撮らなければいけないとき(自分が撮りたいと思わないとき)に彼女が撮った写真は、まさにアマチュア(使い物にならないカットが多い)レベルです。

バラの栽培もこれと似たようなものじゃないでしょうか。「美しい 10月」の30日の項で紹介した小笠原さんの言葉=「美しさに自分が感動できるバラを咲かせる」は、栽培の核心を突いた指摘だと思いますが、それにはアマチュアもプロも区別はありませんね。

小笠原さんからこの話を聞いたとき、私は思わず彼の眼をじっと覗き込んでしまいました。そして、『あ、この人はほんものだ』と思いました。バラ栽培の先輩に対して生意気ですが(笑)

写真表現も小笠原さんのご指摘と同じ。撮影者が感動していないのに、いかにプロのテクニックを弄したとしても、見る人を感動させる写真を撮ることはできません。見た目が「きれい」であることと「感動するほど美しい」ことは同じではありません。美しいものに気づき、それに感動できる柔軟な感性。(繰り返しますが)それにはアマチュアもプロもありません。

師匠を見続ける

この講座の名称は「初心者向け」となっています。初めての方もいますが、多くの受講者は栽培歴数年から、小笠原さんのように10年という方まで様々です。小林先生のバラに憧れて、「小林先生の講座、しかも年間講座だから」ということで参加してある方が多いように見受けられました。

私はこのクラスの級長でもあったので、講座の記録写真を撮ることを管理事務所に申し出ました。もちろんボランティアで、受講者のみなさんの表情が素敵で写真を撮るのが楽しかったからです。でも、『スタッフが撮るからだいじょうぶです』とやんわり断られてしまいました。たぶん、有料講座の受講者に余計な負担をかけるわけにはいかないと思われたのでしょうね。

でもそのおかげで? 講座の記録や紹介の写真ではなく、私が撮りたいものにレンズを向けることができます。私が撮りたいのは、バラ栽培者・小林博司 氏、その人です。

上の3枚は1月の「接ぎ木実習」です。小林先生の接ぎ木方法は『小林スタイル』とも呼ぶべきユニークなもので、たぶん独自に工夫された要素もあるのだと思います。その詳細は、2015年4月に投稿した「バラの接ぎ木 小林流 接ぎ木」で紹介しています。

剪定実習

これは2月の講座での「木立バラの剪定実習」です。実習は概ね次のように進みます。

  1. 教室でのレクチュア。その後バラ園内の花壇に移動
  2. HTやFLの剪定のデモ 受講者全員が理解できるように、解説しながら何株も剪定
  3. 受講者全員がグループ(あるいは一人)で剪定をする
  4. 剪定結果へのアドバイスと修整剪定。 担当以外の受講者もそれを見守る。これも良い勉強になる

『早く帰って、我家のバラの剪定をしよう!』とやる気が出る、そんな実習です。小林先生の講座が人気がある理由がわかりますね。写真で気づきましたか?剪定鋏の2丁使いですね。左手は「左手用剪定鋏」ではないようですが、未確認。

バラのある暮らしを楽しむ

写真上左と中:GPバラ園・春のバラフェア「バラの展示会」。小林先生を師匠として学び続ける先輩のみなさんや、小林先生の奥様の作品の一部。栽培技術だけではなく、バラを楽しむそのセンスの良さが光ります。

写真上右:クラスメイト・小笠原さんの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。展示期日に開花を合わせるその栽培技術はみごと。栽培場所に合わせて意図的に「立性」に仕立ててあります。

グリーンパーク・ローズ

写真右:
「春のバラフェア」会場で、来場者にバラ栽培のアドバイスをする小林先生。

バラフェアの期間中、多くのみなさんにていねいに話をされます。お疲れにならないか心配するほどです。いや実際に、期間の最後の頃には、お元気な先生でもちょっと背中が丸くなっていました。それほど熱心に対応されます。ここにも先生を理解するポイントがあります。先生は  バラの伝道師  でもあるのですね。

写真左:
「グリーンパーク・ローズ」 作出:小林博司

地域にバラの文化を

バラの伝道師でもあるという小林先生の側面は6月の講座にも見て取れます。下の5枚の写真は、挿し木実習の様子です。挿し木実習では、GPバラ園「秋のバラフェア」で来場者に配られる挿し木苗4,000本の挿し木作業の一部を、私たち受講者もお手伝いさせてもらいます。このバラ苗の無料配布は来場者にとても人気があります。

ここで配られるバラ苗はいずれもPBR(品種作出者の権利)保護期間を過ぎ今なお栽培されているいわゆる「名花」です。この「バラ苗の無料配布」には外部でごく少数ながら批判的な意見があり、それに関連して私の意見を 2012年4月の記事「そらが バラ育成アドバイザー?」に書いています。バラ苗配布の意義については、小林先生と二度ほどじっくり話をしました。私の意見は小林先生に学んだことがベースになっています。

4,000本のバラ苗配布は、業界の利害関係にとらわれない、アマチュア出身の小林先生だから可能なことです。バックに業界の影がないこともこの講座の特徴のひとつです。

小林先生の師匠は?

バラ園に新しく作られた「鈴木省三コレクション」の花壇で、雨も厭わず指導。「鈴木省三コレクション」は "ミスター・ローズ" こと鈴木省三氏が作出したバラを集めたコーナーです。鈴木省三氏の優れたバラを紹介し、その功績をたたえる目的で作られたのでしょう。もしかしたらこれらの品種は、バラ栽培者・小林博司さんの「青春のバラ」でもあったのかもしれませんね。 右の花壇の写真は2015年10月30日の撮影です。

この写真も好きなショットです。先生の愛弟子・川崎さん(水色の作業服姿)の表情がじつにいい。先生の姿を見るそのまなざしに、先生への気持ちが表れています。『立派な後継者も育てられましたね』と言うと、先生は『いや、まだまだ』と謙遜されますが、たぶん先生には私たちに見せない厳しい面もあるのだろうと思います。それは私たちにもなんとなくわかりますよね。自分自身とGPバラ園のバラ管理には厳しい方なんでしょう。

前述のように、先生は独学でバラの栽培を習得され、『小林スタイル』とでも言うべき独自の方法を確立されたのですが、それはたぶん、バラが師匠だったのだろうと思います。

  • 失敗を恐れてはいけない
  • 失敗しなければ覚えない
  • 失敗をむだにしないように記録を残す(これは何度も話されました)

真理は瑣末な事象の中にある

私が写真学生だった頃、その勉強は撮影や現像処理など写真技術の習得と、写真理論(化学・光学)や写真史、表現論などの講義が並行して進められました。中でも重要なのは、自分の作品を作りそれを先生や仲間に批評してもらうことです。そのようにして技術の習得と同時に思考や感性を鍛えながら、自分の世界観や表現方法(いずれもユニークであることが高く評価される)を確かなものにすることを目指していきます。この写真学校からは気鋭の若手写真家の登竜門である「木村伊兵衛賞」やベルリン映画祭のドキュメンタリー部門で受賞するなど、優れた映像作家が輩出します。

卒業して10年後、私はある文化教室で写真の講座を担当していたのですが、そのとき隣の部屋で「生け花教室」が開かれていました。ひとつの生け花に何時間もかける様子を垣間見て『これは自分の眼を鍛える良い方法かも』と思い、その教室に入門しました。

その流派は伝統と格式があり指導方法も確立しています。そこでの「お稽古」は私にとっては写真学校とはまるで違う意外なものでした。与えられた花材と花器で、決められたとおりにしなければなりません。「自分なりに」という個性の余地のまったくない、まさに「お稽古」です。これは私にはおもしろくない苦行で、それでも2年近くは続けたでしょうか、ついに我慢できなくなって花鋏をカメラに持ち替えました。私と同じ頃に入門したお嬢さんたちは、数十年後の今はすばらしい作品を作る華道家になり、多くのお弟子さんを指導してあります。

日本の伝統文化の中には「道」という言葉がつくものが幾つかあります。生け花は「華道」ですし、その他にも「茶道」や「仏道」あるいは「柔道」というのもありますね。これらに共通するのは「学びは、型から入る」ということです。「長期間、お稽古や修練を続ければ自ずとある境地に達する」という考えでしょう。バラの栽培は?「園芸」という言葉はあるけど「道」とは言いませんね。

小林先生は「バラの栽培は楽しく。楽しくなければやる意味が無いよ」とは言われても、それ以外は栽培技術に関する話と実習で、「観念論」めいたことは口にされません。

講座の最初に先生はこう言われました。

バラの栽培方法についてはいろんな考え方があり、ガイドブックの類もたくさんあるけど、このGPバラ園のようにバラを咲かせたいと思ったら、これから講座で私が話すようにやってみてください。

これは「型から入る」ということです。多くの受講者のみなさんにとってそれは苦行ではないし、むしろ楽しくてしかたがないというのは、なぜでしょう?

昔読んだ「禅」に関する本に、次のような話がありました。
厳しい修行をする禅寺で、多くの修行僧に供する食事のために野菜を育てている人がいました。その人も僧なのですが、下肥を汲んで肥料にするのも彼の役割です。その僧が何を考えていたのかわかりませんが、(文章の前後から)「他の修行僧のために」とか「これが修行だから」というようなことではなさそうです。その禅寺で一番偉い僧が、野菜を育てている僧を「あの方も立派な禅者」と、若い修行僧を諭します。

私は思うのですが、バラ栽培の本質、真理 あるいは 悟り、言葉は何でもいいけれど、小林流に言えば
「バラ栽培の楽しさ」は、長期間の「お稽古」や「修行」をしなければ得られないものではなく、野菜を育てる僧のように、今の私の 日々の小さな出来事や作業の中に既にある のではないか。

「学ぶということはそれに気づくこと」だとしたら。。

師匠の背中

8月の講座で私にとっては印象的なことがありました。講座の後半ではいつものようにバラ園で実習があります。そろそろ講座終了の時刻が近づいたので、教室に戻るため先生を捜しましたが附近には見当たりません。
先生は数名の受講者と一緒に少し離れた場所の地面にかがみ込んで、熱心に除草・中耕作業をしてありました。

それを見たとき、ふと「おやじの背中」という言葉を思い出しました。優れた「師匠」というのは、知識や経験を言葉で語るだけではなく、あるいは技術の指導をするだけではなく、その道の本質(みたいなもの)を、このように背中(別の言葉で言えば、生き方)で示すのではないか。

もちろん、先生にそのような作意などあろうはずがありません。でも(だから)先生と一緒になって作業していた人たちは言葉にはならない充足感を得ただろうと思います。「ほんとうに大事なことは言葉にはならない」と思います。一緒にいることが楽しい、嬉しい。それが「師匠」ですね。

「バラと生きる」ということ

10月の最終講座に撮った先生の笑顔。私たち受講者全員に向けられた先生のまなざし。この写真が撮れて良かった。

黒バラと白バラそして秋の草花のこのアレンジメントは、小林先生の奥様の心づくしだと思います。もの静かな方ですが、毎月の講座にこのようにすてきなバラをさりげなく置いてくださいました。最終講座の今回はいつもよりやや大きくて、『小林先生ご夫妻から私たちへの はなむけ なのかな』と思いました。

先生と奥様のこのようなお心遣いは、私が初めてGPバラ園を訪問した4年前も同じでした。2011年11月の記事「小林さんの笑顔」に書いています。今回だけが特別なのではありません。こういう気持ちで日々を過ごすことができたら。。たぶん「豊かな人生」とはそういう心持ちで暮らすことの中にあるではないかと思います。

9月の講座は入院中のため欠席しました。そこでの経験は そらの「メメント・モリ」 に書いています。
メメント・モリ(memento mori)「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」
年間講座の修了間際に、このような経験をしたことはたぶん少なからぬ影響をもたらしたと思います。

先生がいつも言われる「バラ栽培は楽しく」ということは;

「この世界は美しさにあふれていて、生きることはすばらしい」 

と実感する日々を過ごすことだ と考えるようになりました。 何年か後に、『先生、今年もきれいなバラが咲きました』と言えることが、先生への最高の「ご恩返し」だろうと思っています。



7 件のコメント:

星 さんのコメント...

小林先生、いつも楽しそうにバラの話をされますよね。
あの笑顔が良いですね。「私でも育てられる」「帰ってから手入れをしよう」って思います。

そらさん、たくさんの写真、ありがとうございます。それぞれの、実習を思い出します。
改めて、『バラの栽培は楽しく』の1年間だったと思います。
バラ栽培だけでなく、講座で知り合った人たちとの共有時間が、とても楽しかったです。
本当に「初心者講座」?と思うほど、しっかりした意見を持っている人が多いことに、
タジタジでしたが・・・

7日にすやさんと、グリーンパークで苗の配布を手伝いました。
やはりバラがとてもきれいで、スタッフの方たちのバラへの愛情を改めて感じました。
春は「ローズヒップティの無料提供」秋は「バラ苗の無料配布」とグリーンパークに行くことが、楽しみです。小林先生のバラへの愛情ですね。

「仕事と家事をしながら、無理のない範囲で行う」という免罪符を掲げ、
手抜きと「根拠のない、やってみよう」でバラを育てています。
(小林先生、できの悪い生徒ですみません)
2株だったバラが今では20鉢を超え、病虫害に悩まされましたが、
「葉がすべて落ち、葉のない枝に花だけ咲いた」は免れました。   バンザイ!!!
今は、「うらら」と「ストロベリー・アイス」「ドンファン」「あかり」が咲いてます。
バラを育てるのは楽しく、そのことは小林先生の教えをしっかり受け継いでいます。

「中級者」に行くことに不安がありますが、せっかく知り合った人たちと、一緒に過ごしたくて・・頑張ります。
そらさんは、いったん小林先生の元から離れるとのことですが・・・
これからも「ローズそらシド」での配信を楽しみにしてます。お大事に!!

仲村 さんのコメント...

1年間お疲れ様でした。
私も同じ受講者として参加し、毎回楽しくあっという間の1年間でした。
そらさんのたくさんの写真が、この楽しかった1年間の講習を思い出され、感慨深いです。

初めてバラを育てよう!と思った時に、ひょんなきっかけで出会うことができた小林先生。
先生のバラへの情熱はもとより、先生の人間性に魅力を感じ、
今まで園芸にまったく興味のなかった私だったのに
バラ育ての楽しさにのめり込んだ1年間でした。

世代も所在地もバラバラな人たちとの交流も、
これからの人生の大きな財産の一つになりました。
バラのことをもっと知りたいと思うとともに、まだこの交流を続けたいという思いもあり
私も中級者に申し込みました。

穏やかに、柔らかな雰囲気で、
でも力強くいつも級長としてクラスを引っ張り
大きなカメラ片手に受講されている姿が印象的なそらさんが
いったん離れるというのは、せっかく知り合えた私としては残念ですが
引き続き「ローズそらシド」の配信を楽しみにしています。

最後の講習会の後、広場に誘っていただいた同じ仲間のお茶会にて
少しでしたが初めてゆっくりお話ができて楽しかったです。
お大事にされてください!

そら みたか さんのコメント...

星さん、仲村さん。コメントありがとう。

コメントを頂けると記事の内容が「独りよがり」にならず、ありがたいです。

頂いたコメントを読みながら、あらためて小林先生の講座が私たちにとっていかにすばらしいものであったかを思い返しています。でも師匠から何を学ぶかは私たち次第ですから、受講者のみなさんも素敵 だったんですよね。

記事にも書いたように「ほんとうにだいじなことを学ぶのはこれから」と思うので、そのためにも 私はいったん先生の講座を離れます。これはバラの栽培を中断するということではなく、別の場所で修行することを考えているからです。

先生からは、『いつでも遊びにくるように、戻ってくるように』という嬉しいお言葉を頂いています。 なので、これで「さよなら」ではありません。

現在この記事は「書きかけ」ですが、とりあえず最後まで書いたら、あらためて返信させていただきます。また、私が気づかなかったことや、私とは別の見方もあるでしょうから、そういうコメントも頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

To: 仲村さん 差し支えなければ、仲村さんのブログのURLを書き込んでくださいなせんか。

仲村 さんのコメント...

そらさん、返信ありがとうございます。

本当にそうですね。
受講者のみなさんも素敵な方ばかりでした。

これからそらさんが色んな修行をして、行き着いたバラ人生がどんなものなのか、どんな風に感じたのか、それをここで拝読させて貰えるのが楽しみです。

私は今回の受講で、バラの楽しさだけではなく、これからどの様に自分の人生を生きるかということについても、勉強になったと感じています。

私はブログしてないんです。拝読するばかりになり、すみません。いつか生活が一段落したら、始めてもいいかなと思っていますが、今はその予定も未定です。

またここだけではなく、GPなのでもお目にかかれることが出来れば嬉しく思います。

そら みたか さんのコメント...

仲村さん。ブログURLの件、ごめんなさい。勘違いしてました。

仲村さん wrote;
> 私は今回の受講で、バラの楽しさだけではなく、これからどの様に自分の人生を生きるかということについても、勉強になったと感じています。

バラの栽培を学ぶということは、単に技術の習得だけではなく、仲村さんのご指摘のようなこともあるのだと思います。

そのためにも、クラスメイトや先生の奥様、講座の先輩のみなさんともっと話ができる機会があれば良かったのにと心残りです。私なりに提案した事もあったのですが、実現できず残念でした。しかし、講座はこれからずっと続くのですから、学ばれる機会もいっぱいあるだろうと思います。

この後予定している項 "Life is beautiful."で、「これからどの様に自分の人生を生きるか」について、今私が思っている事を(ちょっとだけですが)書いてみるつもりです。

そら みたか さんのコメント...

私が『弟子になりたい』と思った人があります。筑後でバラ苗を生産している女性の栽培者(農家)ですが、女手ひとつで年間3万株の大苗を生産してあります。私はバラの「切接ぎ」はこの方の指導を受けました。

公務員のご主人と老齢のお姑さんのお世話をする主婦として、ふたりのお嬢さんの幸せを願う母親として、一日中走り回って仕事をしてあります。実生苗からの台木生産、接ぎ木する新品種の母木の栽培、接ぎ木から大苗になるまでの管理、そして鉢上げから出荷へと、息つく暇も無いほどで、「走り回って仕事」というのは比喩ではなく、ほんとうに圃場の中を走り回ってあります。

天気を心配し、バラの病気の発生を心配し、端から見るととても大変そうなのですが、でも、とても楽しそうで、そして嬉しそうです。 以下の2つの記事にちょっとだけそれを紹介しています。

2012年4月「ノイバラ台木の実生苗作り(プロの場合)−2
2012年5月「バラ 切り接ぎ後

「バラの栽培は楽しく」という小林先生のご指導は、プロ・アマを問わず、普遍的な「本質」みたいなものを指摘してあるのだろうと思っています。その「形」はいろいろ違っていていいのでしょう。

そら みたか さんのコメント...

Life is beautiful. を書き加えたことで、いちおうこのページを書き終えました。

仲村さん wrote;
>これからそらさんが色んな修行をして、行き着いたバラ人生がどんなものなのか、どんな風に感じたのか、それをここで拝読させて貰えるのが楽しみです。

どうぞお手柔らかに(^^; 「行き着いたバラ人生」が、はたしてバラ色であるのか、かなり怪しいです。なんか「野垂れ死」という予感が無くもない(笑)

今週土曜日21日は「中級者向け講座」の開講日ですね。参加できないことを寂しく思っていますので、講座の様子も教えてくださいね。私も偶然その日から新しい「修行」が始まります。初心に戻って頑張るつもりです。そこで学んだことは、差し支えない範囲でレポートする予定です。

お知らせ
22日(日曜日)午前10時から、福岡県粕屋町の「粕屋グリーンセンター」で小山内健さんの講演があります。参加無料 問い合わせ:粕屋グリーンセンター Tel. 092-938-3964

この日は大野耕生さんが平田ナーセリー「八幡西区本城店」ですね。みなさんはそちらかな? 私は、21日(福岡小戸店)と22日は小山内健さんで無理なので、23日に開催される「熊本江津店」まで大野耕生さんの「おっかけ」をします(笑)。