このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

お知らせ

バラの育種 を仲間と共に学びたい初心者を対象にした オンライン勉強会 を計画中です。

オンライン ミーティングシステム "Zoom" を利用して、月2回(年間20回程度)の開催で、 参加費無料の勉強会です。

内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。
11月23日追記:勉強会で使用するテキストに関して重要な変更をしています。



2023年9月28日木曜日

曼珠沙華が咲いて 秋剪定終了

9月27日に曼珠沙華が満開になり、秋の花のための剪定をすべて終了。この期間、雲の多い日が続いたので助かった。

♪ 赤い花なら曼珠沙華 阿蘭陀屋敷に雨が降る 濡れて泣いてるジャガタラお春 ・・
「長崎物語」作詞:梅木三郎


今日27日は最後の品種「ロイヤルハイネス」を剪った。肥培管理が拙く、ほとんどの下葉が落ちた株ばかり。この失敗をどのようにリカバーすればいいだろうか。 なお、肥培管理の問題点とそのリセットについてはページ後半で検討する。

ロイヤルハイネス #373株

2本の幹から4本のステムが立ち、その1本は分枝して5本のステムがある。いずれも1段目の葉を落として貧弱なステム。奥側の長いステム2本を赤矢印で捻枝。

左の青矢印は「腹接ぎ」。シュートが出にくい古枝の下部に同じ品種をデービッド接ぎする。接いだ芽が伸びて開花枝になるが、面白いことに、腹接ぎをした下側からほぼ100%の高率で元気なサイドシュートが出て、接いだステムの勢いを上回る。接ぎ穂よりも必ず下から出るので、根からの養分を優先するからだろう。

ロイヤルハイネス #62株

3本のステムの2本は貧弱で下葉もほとんどない。3段目に少し葉があるのでそれを活かすために捻枝した。右のシュートも上位葉を活かすために3段目のの位置の芽を選んで捻枝した。

カイガラムシ

上左:この株のステムにカイガラムシの幼虫かと思えるものを見つけた。カイガラムシエアゾール|住友化学園芸  を噴霧してティッシュで拭いとったが、成虫は見つけることができなかった。これが "ミカンヒメコナカイガラムシ" なら動き回ることができるので、どこかに潜んでいるはずだ。

スイートポイント

右は#62株の2段目。「剪定する段の中程の良芽で切る」のが剪定の常道だが、注意して見るとこの部分は節間が短い。この場合、1と2の間は8.5㎝、2と3の間は4.5㎝、3と4の間は8.5㎝。剪定では、この2か3の芽のどちらかを残す。これを私の造語で "スイートポイント" と呼んでいる。どちらを残すかはステムを伸ばしたい方向で決める。ちなみに、芽とその上下の芽の角度は、円周の黄金比に則して137.5度。詳細は、2021年10月15日の記事:「真理は美しい」で紹介。

栽培者なら誰でもこのどちらかの芽を選んで剪定するだろうが、なぜここの芽が良芽なのか、なぜこの部分の節間が短いのか、その植物生理学的な詳細は不詳。スイートポイントが無い品種も少なからずある。

これのオリジナルは香川の "ボケたん" さんだが、残念ながらリンクが切れている。ご専門に関する最新データでは、変わらずご活躍のようなので、その世界に専念されているのだろう。

ボケたんさん、いっぱい学ばせていただき、おかげでバラ栽培の世界が広がりました。ありがとうございました。

芽が出る方向=円周の黄金比については、「自然界と黄金比について」|岐阜県教育委員会教育研修課 に詳しい解説がある。

ロイヤルハイネス #372株

これまた見事に下葉がない株。左は2段目で分枝し、その3段目に花が開きかけている。下位葉は無いけど、夏の花にしてはまずまず。 花のあるステムを、切り捨てる茎頂側に五枚葉1節を付けて剪定。分枝した枝は "同化枝" にすべく捻枝。右はまったく下葉がない箇所で捻枝。

今秋は捻枝したステムがこれまでになく多い。肥培管理が拙くバラには可哀想なことをしてしまった。でも、こんな状況でも "それなりの" 花は咲いてくれると思う。そのためには、何をリセットし、今からどうリカバーしたらいいか。

この内容は次のページ:「リセットの9月, リカバーの10月」に続く


下葉の内容物を分解して栄養分を茎頂へ転流する「オートファジー」がますます進行して、下葉の黄変が更に目立ってきた。 「クロロシスの発生」なんて、バラにかわいそうなことをしてしまったが、3段目には健全な葉が残っているので、なんとか秋の花は咲いてくれるだろう。葉が1枚もないステムからでも元気の良い新芽が伸び始めているのを見ると嬉しくなる。

剪定を始めるまで『今年はうどんこ病も出ていないし、まずまずの出来か』と思っていたが、剪定を終えると、『なんだか、年ごとに栽培が下手になっているんじゃないのか』と思わされる。

バラの生育ステージに合わせた優れたコーティング肥料があるし、それを使えばクロロシスなんか無縁の栽培ができる。
あたりまえに栽培して、あたりまえに美しいバラが咲くというのは、それはそれで とても素晴らしい ことなんだけれど、
しかし "へそ曲がり・そら流" ではない。

あと何年ほどバラの栽培ができるのかわからないが、たぶんこれからもこのような失敗を重ねて右往左往するんだろう。でもそれが楽しいのだ。"花の中に御坐すほとけ" との出会いは、下手な栽培者にもあると信じている。

2023年9月18日月曜日

リコリスの咲く頃に 秋剪定

ツクツクボウシがまだ鳴いていて、今年は秋が来るのが少し遅いようだ。例年なら、畑の隅に「リコリス」が咲く頃には秋の花のための剪定を終えているのだが、今年はリコリスが咲き始めた15日から剪り始めた。

 2021年9月13日 満開を数日過ぎている
 2023年9月17日 今年はまだ満開ではない

「季節が10日ほど遅れている」というのは、この "リコリス" も教えてくている。剪定が早すぎて夏花になるのは避けたい。
特定の日に開花させることを考えなくていいので、きれいに咲く時期に咲いてくれればいい。

 9月15日 剪定スタート前

今秋の HT剪定の方針

  • 開花日を集中させないで、11月中はどれかが咲いているというような、分散して開花するのが望ましい
  • 今秋は季節が遅れていると思うので、剪定時期を昨年よりもさらに遅くする
     昨年のデータ:「2022年 秋のバラ まとめ」(私の環境・栽培方法では、11月中旬の花が綺麗だった)
  • ステム数を多くする必要はない。花数は少なくても、いい花が咲いてほしい
  • 扱いに悩むような弱い枝や古い枝はどんどん切除し、ステム数を減らす
  • 剪定位置より下に健全な五枚葉を8節(葉数計40枚)以上、できるだけ多く確保
  • 下葉が落ち、葉数を確保できないステムは捻枝する
  • 剪定位置の葉は必ず五枚葉
  • 3段目(ステムの伸びが良すぎる場合は2段目)の "スイートポイント" で剪る
  • 芽が伸びる方向やバランスを考慮し、原則的に "内芽" で剪る
  • 強いシュートは "2芽出し" を意識する
  • 必要と状況に応じて、"芽出し処理" (芽出し鋏+ビーエー液剤)と "ナックルカット" を試みる

全株の剪定を記録しておき、いくつかの品種は写真を撮り、開花した花と合わせて検討するためのデータを残しておく。以下はその一部。


フロージン '82

今年は緩効性肥料をメインに「元肥一発方式」を試みたのだが、『緩効性なので、夏まで肥効が続くだろう』と読み違え、肥料不足でベーサルシュートの発生が遅れた。気づいて "パワフルアミノ" を施肥すると、すぐにベーサルシュートが2本出た。

「ベーサルシュートは7月に出るのがベストで、それには肥培管理が重要」と再認識。そんなことは百も承知しているのに、ECメーターも持っているのに、慢心してついつい手抜きをする。怠慢の理由を、記録的な暑さのせいにしておこう:p

 8月16日の状態。適期から1ヶ月遅れ

培土表面の白カビは「パワフルアミノ」由来のもの。シュートの出が1ヶ月遅れたので、ピンチをせずにそのまま伸ばした。低い位置からサイドシュートも出たが、それはもぎ取った。ベーサルシュートは五枚葉12節ほどで結蕾。摘蕾後は放任。

接ぎ穂から出たセンターの枝を基から切除しステム2本仕立てに。捨てる茎頂側に五枚葉を1節つけて剪った。左のステムに五枚葉9節、右には11節。若いステムがどんな花を咲かせるか。

7月に出たベーサルシュートなら、1回はピンチをしてより充実した枝になっているはず。無垢で元気のいい新梢を見ると、九州バラ研究会の先輩方が「切戻し剪定」を試みられた気持ちがわかるような気がする。


カノープス

これはなんの変哲もない、秋の花のための標準的な剪定。4段目で結蕾しているステムの2段目か3段目のスイートポイント(段の中ほどにある、芽の上下の間隔が狭い部分)で剪っている。
向かって右のステムは2段目で剪った。五枚葉が7節(35枚)しかないが、株が若く健全な葉なので、まぁいいだろう。

薬剤の散布は不定期に月2回程度だが、今のところ例年悩まされている "うどんこ病" が出ていない。病痕がないと剪定もより楽しいし、出ていないからこそ逆に、『これからは真面目に定期散布しよう』という気にもなる:p うどんこ病は今からがシーズン。発生をどう防ごうか。とりあえずは、どこかで越夏しているはずの胞子(分生子)を潰すことか。


ロージークリスタル

「10号鉢でステム3本」が標準だが、このロージークリスタルは "腹接ぎ" の効果でステムが5本立って、2個のローズヒップが着果している。赤ラインがその位置。着果後はあまり伸びていないので、これが春の一番花が咲いた高さにほぼ相当する。交配しなかったステムは、一番花の倍以上の高さ(目測で2.5M)まで伸びている。

左のステム2本の剪定後の高さは、春一番花の咲いた高さよりも高くなっている。秋の花は剪定位置より80㎝は高く咲くはずで、これでは鑑賞するのにはもちろん、管理作業にも高すぎる。

春の花後の剪定が拙く2段目には良い芽ができず、3段目は徒長気味に伸びた。この辺りが自分の栽培技術の未熟なところ。さらには、今夏のロージークリスタルは黄葉が目立つ。真夏に灌水が不足したのか、微量要素がアンバランスなのか。

 2個のローズヒップを収穫した後は、そのステムを基部から切除し、3本仕立てにする

20日 追記:ハウス内の半数ほどの剪定がすんで、黄色く色づき始めたローズヒップがあちこちに目立つようになってきた。つまり全体的に見れば 春の花の位置より少し低い高さで剪っている ことになる。いずれにしろ、秋の開花の様子を見るには脚立が必要で、中でもこの秋はロージークリスタルとメルヘンケーニギンがやたらと高い。メルヘンは肥料過多による徒長で、品種ごとに違う吸肥力を無視した一律の施肥量とタイミングではダメなことを思い知らされる。

何年経っても成長しない自分を嗤うしかないが、そもそも脚立を必要とするような仕立て方(=バラ栽培についての考え方や方法、価値観)は、おぼろげながらも 自分が探しているものとは違う のではないか。そう思うようになって2年が過ぎた。そろそろ潮時か。 今はハウスの隅に追いやられているデビッド・オースチンやデルバールの花の美しさが目に染み入る。


ジェミニ

左のステムは七枚葉7節で2分枝し、さらに分枝して計3本のステムが立っている。3本目は切除し、2本を分枝点の上の七枚葉5節で剪定した。右のステムも高い位置で2分枝しているが、高すぎるのでその下で剪った。ステムの勢いが強いので、その力を分散させる「2芽出し」も意識している。

ジェミニは7株を栽培中。培養土や用水のpH(水素イオン濃度)のコントロールが不適切で、高いpH(8.0か、それ以上)になり、クロロシス(マグネシウム欠乏症)が発生した。しかしこの "#45株" だけはクロロシスがでず、他とは違う生育を示している。多くが七枚葉で、下葉も落ちていない。大きくて濃い葉色は典型的な 肥料過多 の症状だが、施肥量や、EC(電気伝導度/培土に含まれるイオン濃度の総量。栽培用のECメーターは主に硝酸イオン濃度を反映する)は他の6株と同じはず。どこかで間違えているのだろうが、クロロシスで生育不良の株よりはマシなので、どんな花が咲いてくれるか期待。

9月28日追記

気になってpHとECをチェックし直した。その結果。

  • #45株    pH7.5 EC1448㎲/㎝
  • 6株の平均 pH8.7 EC2350㎲/㎝

pH8.7 なんて、とんでもない数値で、これならクロロシスが出ても当然。水素イオン濃度指数 pH8.5は、pH7.5と比較すると水素イオン濃度は1/10、pH6.5となら1/100。EC1448㎲/㎝はこの環境では標準か、やや低めな値。EC2350㎲/㎝は高すぎる。この異常の原因と対策は、次ページで検討する。

不気味な ミカンヒメコナカイガラムシ

ジェミニなどの数株に "ミカンヒメコナカイガラムシ" を発見。詳細は前のページ:「ローズヒップの収穫 スタート」で紹介。
葉陰になった葉柄の付け根など見えにくい場所に潜んでいるので、剪定作業では "白い粒" を目処に、気になるものはルーペで確認している。いつ頃から発生していたのかは不明だが、少なくとも1回は産卵しているようで、卵のうのカスがあった。蔓延というほど広がらないうちに対処できて "とりあえず" よかった。

ミカンヒメコナカイガラムシ の成虫は体長3〜4㎜。群生しない限り吸汁される量はたかが知れているだろうけど、卵のうのカスがあったローズヒップは肥大しないまま枯れてしまった。より問題だと思うのは、バラ自身が産生する抵抗物質の ファイトアレキシン|Wiki 。それがどの程度の影響があるのかは不明だが、いずれにしろ良いことではない。ハウスの近くに何本か植えている柑橘類が近年は生育不良なので、そこが発生源なのかも調べる必要がある。


あけぼの

春はショボかった "あけぼの" のステムが夏の間にグンと伸びた。『あけぼのは多肥を嫌う』と聞いたことがある。熊本・南関の唐杉先輩に尋ねたところ、『そんなことはない』というお返事が。多肥を嫌うのは開花期(どの品種も同様)で、成長期は施肥量を抑える必要はなさそうだ。

12株栽培している "あけぼの" のルーツは熊本・宇土の福島先生からいただいた枝。今年、唐杉さんから大苗を1株いただいて計13株になった。ステムが曲がりやすいと言われる "あけぼの" だが、唐杉さんのはステムの伸びがいい。最近知ったのだが、福島あけぼの のルーツも 唐杉あけぼの なんだとか(なぜか、思わず苦笑)。唐杉さんによれば、唐杉あけぼの の伸びがいいのは、株の個性もさることながら、「土」の影響が大きいのだそうだ。

私のあけぼのは今夏はステムの伸びはいいが、逆に言えば節間が徒長気味の株が多い。ここら辺りの肥培管理が、『あけぼのの栽培は難しい』と言われる所以か。ECをあまり細かくコントロールするのは『違う』と思い、今年は「元肥一発方式」を試したのだが。。 この "#425あけぼの" は、剪定したい位置より下に葉数がやや少ないので、ステム2本を「捻枝」した。左のステムも同様に五枚葉が4節しかないが、これは、捻枝の有無でどのような違いが出るかを見るための "比較対象" 。

捻枝

新梢を出したい位置より下に葉数が少ない場合は、発芽に必要な養分や植物ホルモンの濃度を上げるために「捻枝」をする。枝の通道組織である道管や篩管は、その名のように菅(パイプ)のような構造。できるだけそれを切断しないようにしたい。

参考:道管と師管の構造が異なる理由 | みんなのひろば | 日本植物生理学会

また、植物体内の水や物質の移動には、道管や篩管の他にも、アポプラスト経路(発芽・成長に必要な植物ホルモン・オーキシンは、この経路を極性移動する)とシンプラスト経路があり、いずれの経路も破壊される組織が少ない方が好ましいので、枝を折るのではなく捻り(ねじり)曲げる。

 捻枝 接木テープの上に見える縦縞はプライヤーの痕跡
方法は、2021年9月23日の記事:「捻枝と芽出し鋏」で紹介
TIPS:引っ張りと突っ張り

捻枝は "折曲げ" とは違い、維管束の繊維状構造が切れていない(折れていない)ので、捻った枝が元に戻ろうとする。 それを "S環" で固定。S環は硬めのステンレス針金で自作。ラジオペンチがあれば簡単に作れる。あらかじめサイズが異なるS環をいくつか作っておけば、作業効率がいい。

狭いハウスでの栽培は「内芽」を選ぶのが剪定の基準。なのでどうしても重なる枝が出てくる。右は、接近し過ぎている枝がお互いに突っ張りあって間隔を拡げるためのもの。S環の両端をもう1回曲げれば、引っ張りと突っ張りの両用が可能。

捻枝して "同化枝" を作る

この "あけぼの#422株" は、幹枝(接ぎ穂から最初に出た芽が伸びたもの)と、そこから左に出ているサイドシュートの伸びが悪い。右の、低い位置から出たベーサル気味のサイドシュートはOK。もっと早い時期にセンターの幹枝を切除すべきだったが、サイドシュートが弱かったので遅れてしまった。
なので、この幹枝を捻枝して、左の弱いサイドシュートと根に光合成産物・フルクトースと脂肪酸やアミノ酸などを供給する同化専用枝 にした。専用枝で作られた糖やアミノ酸などは根や他の枝に転流する。この方法は、切りバラ生産での「アーチング栽培」と同じ発想で、ベンチ栽培むき。地植えではやりづらいかも。・・というか、枝数の多い地植えにアーチングは必要ないよな。

 同化専用枝のアーチング
地際での捻枝は、風に煽られて折れたりしないようにUピンで固定

POINT

葉の働き は、光合成で糖を作るだけではない。葉の細胞質では、根が吸収したチッソ=硝酸イオンを亜硝酸イオンに還元し、亜硝酸イオンは葉緑体の内部でアンモニアに還元される。生成したアンモニアからグルタミンが作られ(窒素同化)、さらにグルタミン酸から各種アミノ酸や脂肪酸などが生合成されていく。DNAに記録された遺伝情報を基に多数のアミノ酸が重合しタンパク質が作られる。生きていくエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)は、光合成(炭酸同化)で作られた糖を酸化(呼吸)することなどによって生じる。

葉はこのような "同化作用" や"呼吸"をするだけではなく、根から吸収した無機塩類や糖、脂質などの "貯蔵" も担当していて、生命の根幹をなすとても重要な機能を担っている。

バラは、剪定で失った葉の量に応じて、糖を生成する炭酸同化だけでなく、グルタミン酸を生成する窒素同化も、貯蔵養分も失う。捻枝して葉数を確保するのは、「芽出し」だけが目的ではなく 株全体の活性をできるだけ維持する ため。

しかし、もし成育期にすべての葉を失ったとしても、やがて再生・復活するのが "植物の生命力" の凄いところ。

どこで剪っても、捻枝なんかしなくても、薔薇は咲く。

・・そうなんだよね。

"自らの力で生きようとしているバラの生命力を信じて、栽培者は ホンのわずかな手助けをすればいい"
ー David B. Sanderson 2012 ー

私の剪定は "手助け" じゃなく、"自分の失敗のリカバーだな" と苦笑しながらも、耳を澄ませば、『ここで剪ってね』とバラがささやいている。それを聞き逃さないように、秋の剪定はこの後も続く。


9月20日追記:修整剪定

剪定位置が、ローズヒップが実っている高さ=春一番花が咲いた高さ よりも高いステムを見直して、修整剪定 をした。

ページ冒頭に書いている方針を意識しながら剪定したが、結果として位置が高くなったステムがあった。"方針" なんかに拘らず見直すと、『もう一段(30〜60㎝)下でもいいんじゃないか?』と思えるものがいくつかあったので、逡巡せずバッサリと剪り捨てた。変更したのは、「剪定位置より下に健全な五枚葉を8節以上」という項目。これに拘らないことで迷いも一緒にふっ切れて、気分がいい。切り下げることで葉数が少なくなるステムは、剪らずに捻枝した。

今日9月20日までに、HTローズ成株の3/4が剪定終了。残りは "ロイヤルハイネス" とか "衣通姫" など、早咲きの数品種のみ。交配で生まれたHTの幼株も半数は剪った。デビッド・オースチンやデルバールなどは "エンドレス剪定" にする。

今日の "秋の彼岸入り" にピタリと合わせて曼珠沙華(彼岸花)が咲き始めた。一昨年2021年の彼岸花の開花は9月11日で、その日に最後の剪定を終了している。その年の福岡バラ会「秋のばら展」の初日は10月22日だったが、その日までにほとんどの花が咲き終えてしまった苦い経験がある。今年は季節が一昨年より約10日遅れで進行しているようだ。剪定終了予定日は、一昨年より2週間、昨年より1週間も遅い9月27日。 では、開花日は?

それはバラに任せよう。 ・・と余裕をかます:p

2023年9月10日日曜日

ローズヒップの収穫 スタート

暑い夏だったが、空の色や雲の流れに秋の気配がある9月7日に、今年最初のローズヒップの収穫をした。これらは4月末から5月初めにかけて交配したもの。収穫時期は10月と思うが、早々と褐変するものがあり、それらの整理を兼ねて、収穫適期を調べるのが今回の作業の主目的。

昨年秋の記録:2022年10月12日 バラの育種 2022 5. 色づき始めたローズヒップ

今年は全部で141の交配を試みたものの、6月までに多くが落果した。その原因はまだよくわかっていない。今の時点で残っているものは1/3の50個ほど。褐変が進んでいる8個を収穫・保存し、現況を記録するとともに、一部は写真を撮った。写真のキャプションは、管理番号 ♀︎種子親 ♂︎花粉親。

順調に生育しているローズヒップ 形や熟度は様々

 3-12 ♀︎雪まつり ♂︎C.ディオール
 3-39 ♀︎ロージーX ♂︎コンフィダンス
 3-45 ♀︎ロージーX ♂︎R.ハイネス
 3-146 ♀︎南の風 ♂︎コンフィダンス
 3-50 ♀︎ジェミニ ♂︎コンフィダンス
 3-85 ♀︎ダイアナ ♂︎1-01-01

3-85の "♂︎1-01-01"(管理番号)は、一昨年の交配で "♀︎ダイアナ" から生まれた、私にとって記念すべき第1号花。それを花粉親にして、いわゆる 戻し交配|Wiki を試そうとしているのだが、 "♂︎1-01-01" が魅力的なので、"奇跡" が起きるのを期待。

9月18日 訂正
今日、"1-01-01" を剪定したときに、"♂︎1-01-01" の交配親は、 "♀︎ロージークリスタル" X "♂︎コンフィダンス" だと気がついた。なので、これは「戻し交配」にはあたらない。こんなんじゃ "奇跡" は無理かもね:p

種子親として優秀な "コルデス・パーフェクタ"

 #223 コルデス・パーフェクタ
 3-90 ♀コルデス・パーフェクタ ♂︎香具山

上左:"コルデス・パーフェクタ" は株姿のバランスが良く強健な品種で、ステムが真っ直ぐに伸びる。種子親としての期待に違わず、受粉した4個すべてが着果した。花粉親は、衣里佳、ロイヤルハイネス、衣通姫、香具山。種子親として優秀かどうかはどんな花が咲くかによるだろうが、これらの交配からどんな花が生まれるのかは、経験が乏しい私には見当がつかない。

交配から生まれるものは「種子親」の影響をより強く受けるのだそうだ。コルデス・パーフェクタのローズヒップは、花粉親の品種にかかわらずやや扁平な形になり、色はまるで違うけどなんとなく "ロサ・ルゴサ"(ハマナス)の雰囲気があるように感じる。コルデス(独)の品種だし、ロサ・ルゴサの遺伝子が入っている可能性はあるだろうと想像するのを楽しんでいる。

上右:「花托」だった部分がオレンジに変色し始めている。これは完熟がまもないことを知らせるサインだろう。

種子親 として着果率が良いのは、他に "雪まつり"  "ロージークリスタル"  "イーハトーブの風" などが目立つ。

これはカイガラムシが "産卵 "した痕跡か?

このローズヒップは大きくならないうちに褐変した。廃棄するために折り取ったら、顎の下側の隠れた部分に白い粘り気のある綿状のものが。成虫は見えないが、たぶんコナカイガラムシが産卵した痕跡か何かだろう。カイガラムシに吸汁されたために大きくなれなかったのかも。これは廃棄処分した。

カイガラムシは風に乗って移動するらしい。この周囲の数株の葉柄の基部に "コナカイガラムシ" の成虫を発見し、カイガラムシエアゾール|住友化学園芸  を噴霧した。噴霧後に成虫の姿が消滅していたから、それなりに効くようだ。卵については効果がわからないので、観察を継続している。

TIPS:エアゾール缶の噴射口に "CURE CRC 5-56" のノズルを差し込むと噴気が拡散せず、ピンポイントで狙い撃ちできる。

参考樹木の害虫「カイガラムシ」是永 龍二|公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会
このサイトの「ミカンヒメコナカイガラムシ」のページ右の写真がこの白いネバネバの正体か。このサイトの「カイガラムシの生態」から一部引用:

(カイガラムシは)分類上は半翅目に属し、糸の様な口吻を葉や茎に差し込み、樹液を吸っています。細い絹糸の様な口吻が堅い幹を通して篩菅まで刺しこまれるのが不思議です。

篩管には光合成で作られた糖等の栄養分が多く、取りすぎて糖尿病にならないようにと考えているのか、種類によってはアブラムシのように甘い汁(蜜滴、甘露、 ハニィーデューなどと呼ばれます)を排泄します。葉や幹についたこの蜜滴にすす病菌が繁殖して、葉や幹が黒く汚れます。

ミカンヒメコナカイガラムシ 発見

9月19日追記:剪定をしているときに、葉陰に成虫を発見。老眼ではぼんやりした白い小さな点にしか見えないが、不気味な姿だ。2本の尻尾のようなものが見えるので、"ミカンヒメコナカイガラムシ" のメスだろう。厄介なことに、メスだけで単為生殖するらしい。

「コナカイガラムシ」の名前の如く周囲に白い粉を撒き散らし、ほとんど動きがない。 "カイガラムシエアゾール"(上記)にノズルを取り付けてピンポイントで直噴。直後に体色が変化。数分後には白い色に戻るが、ピンセットで触ると脆く崩れた。

黒化したヒップ内の種子 未熟、完熟、それとも過熟?

 3-49 ♀ジェミニ ♂︎コンフィダンス
 収穫遅れの種子(胚珠)は赤みが減って黒ずむ

これは8月中に失敗と判断し放置していたもの。未熟なまま枯れたのだろうと思って、廃棄する前にガチガチに硬化しているローズヒップを剪定鋏で切り分けて調べてみると、使えそうな種子がある。昨年は試しにもっと黒化した種子を播種したら、発芽するものもあった。これは種子の大きさも色艶もそんなに悪くはない。たぶんこの多くは発芽すると思う。

 3-84 ♀ダイアナ ♂︎コンフィダンス
 硬い子房の中に種子(胚珠)が40粒以上

これは果柄の一部にまだ黄色味が残っている。萼筒もまだ完全に黒ではない。種子の色も、上の "3-49 ♀ジェミニ" と比較すると赤味が多い。この程度の熟度が適当と思えるので、今年はこれを 収穫時期の目安 にする。

"ダイアナ・プリンセス オブ ウェールス" は、ローズヒップが他の品種よりも一回り大きい。このページの写真はそれぞれ拡大率が異なるので分かりづらい(ダイアナは他よりも小さく見えている)が、粒の大きさ、膨らみ具合、色艶もOK。交配親のこの組み合わせは以前にも試しているので、たぶん30粒は発芽する。フリル弁の、優雅で優しい花が咲く(だろう)と期待。

"ジェミニ" と "ダイアナ" は、種子(胚珠)が子房(萼筒)の中に収まっているが、下の "メルヘンケーニギン" は種子が萼筒の外に飛び出している。このような品種は他にも "ガーデンパーティ"  "衣里佳" など幾つかあり、これらも発芽する。2年前の最初の交配では、「種子(胚珠)は子房の中にできる」と思い込んでいた(アタマが硬い)ので、廃棄した:p

*註:ページ冒頭の "3-39" と "3-45" の ロージークリスタル のように、種子が萼筒の中にできるものと外にできるものと、同じ品種なのに "個体差" がある。この差は花粉親の影響なのだろうか。

 3-70 ♀メルヘンケーニギン ♂︎ロージークリスタル
 これはやや収穫が遅れたかもしれないが、種子の見た目はOK。
 3-73 ♀メルヘンケーニギン ♂︎コンフィダンス
 子房の外に多数の胚珠(種子)が付いている。

左の写真の右奥が今回収穫したもの。萼筒の膨らみがなく、上側にこぼれるほどの種子ができている。同じ株の左側の萼筒の膨らみはふつう。この差は花粉親の違いによるのだろう。

収穫日までに腋芽が15cmほど伸びていて、その下にも腋芽が出ている。ローズヒップが未熟な頃に出る腋芽も少しはあるが、それは見つけしだい掻き取る。熟して養分が不要になると急に腋芽が出始めるようで、それが成熟したサインのひとつ。

 子房の外に約40粒の胚珠(種子)。この2/3は発芽するだろう。

ローズヒップのまま冷蔵保存 と 春化(Vernalization)

今回7日に種子を取り出したものは4株。ローズヒップを果柄で折り取り丸ごと保存したものが4株(以下の2株を含む)。洗ったりせずそのままジップロックに入れて管理タグと一緒に密封し、倉庫にある家庭用冷蔵庫の野菜室で 冷蔵保存 する。種子は、これから4ヶ月間の長い眠りに就く。

この「冷蔵保存」は栽培者によって異なり、収穫した種子をその日のうちに土に播く「採り播き」という方法もあるらしい。その場合、発芽するために必要な 「春化」|Wiki は、土の中で低温を経験することになる。

春化に適した温度は5〜8℃程度、期間は1ヶ月以上。私の場合は、実測値で6.5℃で、期間は4ヶ月。寒さにあわせるだけでなく、「発芽抑制物質」(アブシシン酸 or ジベレリン?)を無効化する措置(私の場合は徹底的な水洗)も必要と思う。9月に「採り播き」する理由はなんだろう?

 3-105 ♀イーハトーブの風 ♂︎コンフィダンス
 3-106 ♀イーハトーブの風 ♂︎C.ディオール 

保存中に種子が干からびるのを恐れて水を加えたりしない。湿気があると抗菌ジップロックに入れての冷蔵でもカビが生える。種子は乾燥にはとても強い。ローズヒップは種子を取り出すのにペンチを使うほど硬くなるけど、問題はない。

上右の "3-106 ♀イーハトーブの風" はまだ黒化していないが、この状態でもカッターナイフの刃が立たないほど硬い。でも、畑に植えている原種系の "ツクシイバラ" のローズヒップは、初冬に完熟すると果肉がジャムのように柔らかくなって、それを小鳥が食べて "播種" を手伝う。春の"授粉" はマルハナバチが担当。ツクシイバラは子孫を残すのにヒトの手を必要としない。

花粉親として優秀な "コンフィダンス"

このページの花粉親は "♂︎コンフィダンス" が多いが、これは好きな品種というだけでなく、多量の花粉が得られ、その「花粉稔性」が良いことが関係している。"♂︎コンフィダンス" の遺伝子の影響が強いのか、多くは花弁数の少ない品種が生まれる。また、不思議なことに私の場合は "♀種子親" としては全滅する。

「花粉稔性」についての参考:花粉の高温耐性を強化する|農業電化協会 pdfファイル

私は「教科書」( "方法" についてのガイドブック類)を見ないことにしている。なので失敗も多いのだが、そのデータから "花粉は高温に弱い" ことに気づいた。これは、交配の成功率を上げるには重要なポイントだろう。花粉親として "♂︎コンフィダンス" の結果が良いのは、開花時期が他品種よりも(わずか1週間ほどだが)早いことが関係しているのかも。逆に、ゴールデンウイーク後に咲く品種の花粉は成功率が低い。

別ページで「春一番花の開花を20日遅らせる」ことを考えているが、栽培のメインはむしろ逆方向で、高温に弱い花粉を守るために、来期は開花を無理のない範囲で早めたい。同時に、採取した葯が開裂するまで適温で保管する方法も探したい。

"駄花" なんてあるのかな?

今年の交配はまだ結果が出てはいないが、結果率が昨年よりもかなり改善した。技術的な検討はすべてを収穫した後にするとして、このまま推移してローズヒップを50個収穫できたら、播種数は1500粒を超えるだろう。発芽率を控えめに30%と見込んでも450株になる。とても楽しみだが、管理するスペースをどうしよう?という嬉しい悩み・・も、さることながら、あまり欲張ると体力が保たないぞ。程々にして、なるべく手間のかからない栽培法を工夫しなければ。

甘々の選別を経て現在生育中の交配株は、一昨年に交配したものが73株、昨年のは48株で、計121株。"121品種" と言えなくはないが、実際は似かよったものもあれば、成長に応じて同じ株からちょっと違った印象の花が咲いたりしている。それらは今、夏の花の真っ盛り。どのような品種になるかは、接木することも含めて数年は育ててみないとわからないだろう。これらの株は9月20日頃に剪定し、秋の花を見て選抜するつもりではいるけど、うどんこ病に弱い株以外は捨てられそうにない。

「農薬を使わないと育たないようなバラは、今後は品種の登録を認めない」というEUの方針には賛同。"登録" なんて及びもつかない自分でも、そのようなものを残さないようにしようと思う。でもそれ以外では、そもそも、"駄花" なんてあるのかな?

大量に播種するナーセリーは "育種のテーマ" があって、選択基準も明確なんだろう。交配の手ほどきを受けたデービッドさんから、『大事なのはテーマを決めること』と教えてもらった。そうだろうな。交配して新しいバラ?を咲かせるのは、それだけなら、じつは簡単なこと。"育種" とはそんなことではないだろう。私も自分なりのバラを探したい。それが最大の楽しみ。個性的な花を咲かせる株を選抜し、年明けには30~40株ほどを接木する予定で、台木の手配もした。

これからもバラに生かされる日々が続く。感謝。