ツクツクボウシがまだ鳴いていて、今年は秋が来るのが少し遅いようだ。例年なら、畑の隅に「リコリス」が咲く頃には秋の花のための剪定を終えているのだが、今年はリコリスが咲き始めた15日から剪り始めた。
2021年9月13日 満開を数日過ぎている
2023年9月17日 今年はまだ満開ではない
「季節が10日ほど遅れている」というのは、この "リコリス" も教えてくている。剪定が早すぎて夏花になるのは避けたい。
特定の日に開花させることを考えなくていいので、きれいに咲く時期に咲いてくれればいい。
9月15日 剪定スタート前
今秋の HT剪定の方針
- 開花日を集中させないで、11月中はどれかが咲いているというような、分散して開花するのが望ましい
- 今秋は季節が遅れていると思うので、剪定時期を昨年よりもさらに遅くする
昨年のデータ:「2022年 秋のバラ まとめ」(私の環境・栽培方法では、11月中旬の花が綺麗だった)
- ステム数を多くする必要はない。花数は少なくても、いい花が咲いてほしい
- 扱いに悩むような弱い枝や古い枝はどんどん切除し、ステム数を減らす
- 剪定位置より下に健全な五枚葉を8節(葉数計40枚)以上、できるだけ多く確保
- 下葉が落ち、葉数を確保できないステムは捻枝する
- 剪定位置の葉は必ず五枚葉
- 3段目(ステムの伸びが良すぎる場合は2段目)の "スイートポイント" で剪る
- 芽が伸びる方向やバランスを考慮し、原則的に "内芽" で剪る
- 強いシュートは "2芽出し" を意識する
- 必要と状況に応じて、"芽出し処理" (芽出し鋏+ビーエー液剤)と "ナックルカット" を試みる
全株の剪定を記録しておき、いくつかの品種は写真を撮り、開花した花と合わせて検討するためのデータを残しておく。以下はその一部。
フロージン '82
今年は緩効性肥料をメインに「元肥一発方式」を試みたのだが、『緩効性なので、夏まで肥効が続くだろう』と読み違え、肥料不足でベーサルシュートの発生が遅れた。気づいて "パワフルアミノ" を施肥すると、すぐにベーサルシュートが2本出た。
「ベーサルシュートは7月に出るのがベストで、それには肥培管理が重要」と再認識。そんなことは百も承知しているのに、ECメーターも持っているのに、慢心してついつい手抜きをする。怠慢の理由を、記録的な暑さのせいにしておこう:p
8月16日の状態。適期から1ヶ月遅れ
培土表面の白カビは「パワフルアミノ」由来のもの。シュートの出が1ヶ月遅れたので、ピンチをせずにそのまま伸ばした。低い位置からサイドシュートも出たが、それはもぎ取った。ベーサルシュートは五枚葉12節ほどで結蕾。摘蕾後は放任。
接ぎ穂から出たセンターの枝を基から切除しステム2本仕立てに。捨てる茎頂側に五枚葉を1節つけて剪った。左のステムに五枚葉9節、右には11節。若いステムがどんな花を咲かせるか。
7月に出たベーサルシュートなら、1回はピンチをしてより充実した枝になっているはず。無垢で元気のいい新梢を見ると、九州バラ研究会の先輩方が「切戻し剪定」を試みられた気持ちがわかるような気がする。
カノープス
これはなんの変哲もない、秋の花のための標準的な剪定。4段目で結蕾しているステムの2段目か3段目のスイートポイント(段の中ほどにある、芽の上下の間隔が狭い部分)で剪っている。
向かって右のステムは2段目で剪った。五枚葉が7節(35枚)しかないが、株が若く健全な葉なので、まぁいいだろう。
薬剤の散布は不定期に月2回程度だが、今のところ例年悩まされている "うどんこ病" が出ていない。病痕がないと剪定もより楽しいし、出ていないからこそ逆に、『これからは真面目に定期散布しよう』という気にもなる:p うどんこ病は今からがシーズン。発生をどう防ごうか。とりあえずは、どこかで越夏しているはずの胞子(分生子)を潰すことか。
ロージークリスタル
「10号鉢でステム3本」が標準だが、このロージークリスタルは "腹接ぎ" の効果でステムが5本立って、2個のローズヒップが着果している。赤ラインがその位置。着果後はあまり伸びていないので、これが春の一番花が咲いた高さにほぼ相当する。交配しなかったステムは、一番花の倍以上の高さ(目測で2.5M)まで伸びている。
左のステム2本の剪定後の高さは、春一番花の咲いた高さよりも高くなっている。秋の花は剪定位置より80㎝は高く咲くはずで、これでは鑑賞するのにはもちろん、管理作業にも高すぎる。
春の花後の剪定が拙く2段目には良い芽ができず、3段目は徒長気味に伸びた。この辺りが自分の栽培技術の未熟なところ。さらには、今夏のロージークリスタルは黄葉が目立つ。真夏に灌水が不足したのか、微量要素がアンバランスなのか。
2個のローズヒップを収穫した後は、そのステムを基部から切除し、3本仕立てにする
20日 追記:ハウス内の半数ほどの剪定がすんで、黄色く色づき始めたローズヒップがあちこちに目立つようになってきた。つまり全体的に見れば 春の花の位置より少し低い高さで剪っている ことになる。いずれにしろ、秋の開花の様子を見るには脚立が必要で、中でもこの秋はロージークリスタルとメルヘンケーニギンがやたらと高い。メルヘンは肥料過多による徒長で、品種ごとに違う吸肥力を無視した一律の施肥量とタイミングではダメなことを思い知らされる。
何年経っても成長しない自分を嗤うしかないが、そもそも脚立を必要とするような仕立て方(=バラ栽培についての考え方や方法、価値観)は、おぼろげながらも 自分が探しているものとは違う のではないか。そう思うようになって2年が過ぎた。そろそろ潮時か。 今はハウスの隅に追いやられているデビッド・オースチンやデルバールの花の美しさが目に染み入る。
ジェミニ
左のステムは七枚葉7節で2分枝し、さらに分枝して計3本のステムが立っている。3本目は切除し、2本を分枝点の上の七枚葉5節で剪定した。右のステムも高い位置で2分枝しているが、高すぎるのでその下で剪った。ステムの勢いが強いので、その力を分散させる「2芽出し」も意識している。
ジェミニは7株を栽培中。培養土や用水のpH(水素イオン濃度)のコントロールが不適切で、高いpH(8.0か、それ以上)になり、クロロシス(マグネシウム欠乏症)が発生した。しかしこの "#45株" だけはクロロシスがでず、他とは違う生育を示している。多くが七枚葉で、下葉も落ちていない。大きくて濃い葉色は典型的な 肥料過多 の症状だが、施肥量や、EC(電気伝導度/培土に含まれるイオン濃度の総量。栽培用のECメーターは主に硝酸イオン濃度を反映する)は他の6株と同じはず。どこかで間違えているのだろうが、クロロシスで生育不良の株よりはマシなので、どんな花が咲いてくれるか期待。
9月28日追記
気になってpHとECをチェックし直した。その結果。
- #45株 pH7.5 EC1448㎲/㎝
- 6株の平均 pH8.7 EC2350㎲/㎝
pH8.7 なんて、とんでもない数値で、これならクロロシスが出ても当然。水素イオン濃度指数 pH8.5は、pH7.5と比較すると水素イオン濃度は1/10、pH6.5となら1/100。EC1448㎲/㎝はこの環境では標準か、やや低めな値。EC2350㎲/㎝は高すぎる。この異常の原因と対策は、次ページで検討する。
不気味な ミカンヒメコナカイガラムシ
ジェミニなどの数株に "ミカンヒメコナカイガラムシ" を発見。詳細は前のページ:「ローズヒップの収穫 スタート」で紹介。
葉陰になった葉柄の付け根など見えにくい場所に潜んでいるので、剪定作業では "白い粒" を目処に、気になるものはルーペで確認している。いつ頃から発生していたのかは不明だが、少なくとも1回は産卵しているようで、卵のうのカスがあった。蔓延というほど広がらないうちに対処できて "とりあえず" よかった。
ミカンヒメコナカイガラムシ の成虫は体長3〜4㎜。群生しない限り吸汁される量はたかが知れているだろうけど、卵のうのカスがあったローズヒップは肥大しないまま枯れてしまった。より問題だと思うのは、バラ自身が産生する抵抗物質の ファイトアレキシン|Wiki 。それがどの程度の影響があるのかは不明だが、いずれにしろ良いことではない。ハウスの近くに何本か植えている柑橘類が近年は生育不良なので、そこが発生源なのかも調べる必要がある。
あけぼの
春はショボかった "あけぼの" のステムが夏の間にグンと伸びた。『あけぼのは多肥を嫌う』と聞いたことがある。熊本・南関の唐杉先輩に尋ねたところ、『そんなことはない』というお返事が。多肥を嫌うのは開花期(どの品種も同様)で、成長期は施肥量を抑える必要はなさそうだ。
12株栽培している "あけぼの" のルーツは熊本・宇土の福島先生からいただいた枝。今年、唐杉さんから大苗を1株いただいて計13株になった。ステムが曲がりやすいと言われる "あけぼの" だが、唐杉さんのはステムの伸びがいい。最近知ったのだが、福島あけぼの のルーツも 唐杉あけぼの なんだとか(なぜか、思わず苦笑)。唐杉さんによれば、唐杉あけぼの の伸びがいいのは、株の個性もさることながら、「土」の影響が大きいのだそうだ。
私のあけぼのは今夏はステムの伸びはいいが、逆に言えば節間が徒長気味の株が多い。ここら辺りの肥培管理が、『あけぼのの栽培は難しい』と言われる所以か。ECをあまり細かくコントロールするのは『違う』と思い、今年は「元肥一発方式」を試したのだが。。 この "#425あけぼの" は、剪定したい位置より下に葉数がやや少ないので、ステム2本を「捻枝」した。左のステムも同様に五枚葉が4節しかないが、これは、捻枝の有無でどのような違いが出るかを見るための "比較対象" 。
捻枝
新梢を出したい位置より下に葉数が少ない場合は、発芽に必要な養分や植物ホルモンの濃度を上げるために「捻枝」をする。枝の通道組織である道管や篩管は、その名のように菅(パイプ)のような構造。できるだけそれを切断しないようにしたい。
参考:道管と師管の構造が異なる理由 | みんなのひろば | 日本植物生理学会
また、植物体内の水や物質の移動には、道管や篩管の他にも、アポプラスト経路(発芽・成長に必要な植物ホルモン・オーキシンは、この経路を極性移動する)とシンプラスト経路があり、いずれの経路も破壊される組織が少ない方が好ましいので、枝を折るのではなく捻り(ねじり)曲げる。
捻枝 接木テープの上に見える縦縞はプライヤーの痕跡
方法は、2021年9月23日の記事:「捻枝と芽出し鋏」で紹介
TIPS:引っ張りと突っ張り
捻枝は "折曲げ" とは違い、維管束の繊維状構造が切れていない(折れていない)ので、捻った枝が元に戻ろうとする。
それを "S環" で固定。S環は硬めのステンレス針金で自作。ラジオペンチがあれば簡単に作れる。あらかじめサイズが異なるS環をいくつか作っておけば、作業効率がいい。
狭いハウスでの栽培は「内芽」を選ぶのが剪定の基準。なのでどうしても重なる枝が出てくる。右は、接近し過ぎている枝がお互いに突っ張りあって間隔を拡げるためのもの。S環の両端をもう1回曲げれば、引っ張りと突っ張りの両用が可能。
捻枝して "同化枝" を作る
この "あけぼの#422株" は、幹枝(接ぎ穂から最初に出た芽が伸びたもの)と、そこから左に出ているサイドシュートの伸びが悪い。右の、低い位置から出たベーサル気味のサイドシュートはOK。もっと早い時期にセンターの幹枝を切除すべきだったが、サイドシュートが弱かったので遅れてしまった。
なので、この幹枝を捻枝して、左の弱いサイドシュートと根に光合成産物・フルクトースと脂肪酸やアミノ酸などを供給する同化専用枝 にした。専用枝で作られた糖やアミノ酸などは根や他の枝に転流する。この方法は、切りバラ生産での「アーチング栽培」と同じ発想で、ベンチ栽培むき。地植えではやりづらいかも。・・というか、枝数の多い地植えにアーチングは必要ないよな。
同化専用枝のアーチング
地際での捻枝は、風に煽られて折れたりしないようにUピンで固定
POINT:
葉の働き は、光合成で糖を作るだけではない。葉の細胞質では、根が吸収したチッソ=硝酸イオンを亜硝酸イオンに還元し、亜硝酸イオンは葉緑体の内部でアンモニアに還元される。生成したアンモニアからグルタミンが作られ(窒素同化)、さらにグルタミン酸から各種アミノ酸や脂肪酸などが生合成されていく。DNAに記録された遺伝情報を基に多数のアミノ酸が重合しタンパク質が作られる。生きていくエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)は、光合成(炭酸同化)で作られた糖を酸化(呼吸)することなどによって生じる。
葉はこのような "同化作用" や"呼吸"をするだけではなく、根から吸収した無機塩類や糖、脂質などの "貯蔵" も担当していて、生命の根幹をなすとても重要な機能を担っている。
バラは、剪定で失った葉の量に応じて、糖を生成する炭酸同化だけでなく、グルタミン酸を生成する窒素同化も、貯蔵養分も失う。捻枝して葉数を確保するのは、「芽出し」だけが目的ではなく 株全体の活性をできるだけ維持する ため。
*しかし、もし成育期にすべての葉を失ったとしても、やがて再生・復活するのが "植物の生命力" の凄いところ。
どこで剪っても、捻枝なんかしなくても、薔薇は咲く。
・・そうなんだよね。
"自らの力で生きようとしているバラの生命力を信じて、栽培者は ホンのわずかな手助けをすればいい"
ー David B. Sanderson 2012 ー
私の剪定は "手助け" じゃなく、"自分の失敗のリカバーだな" と苦笑しながらも、耳を澄ませば、『ここで剪ってね』とバラがささやいている。それを聞き逃さないように、秋の剪定はこの後も続く。
9月20日追記:修整剪定
剪定位置が、ローズヒップが実っている高さ=春一番花が咲いた高さ よりも高いステムを見直して、修整剪定 をした。
ページ冒頭に書いている方針を意識しながら剪定したが、結果として位置が高くなったステムがあった。"方針" なんかに拘らず見直すと、『もう一段(30〜60㎝)下でもいいんじゃないか?』と思えるものがいくつかあったので、逡巡せずバッサリと剪り捨てた。変更したのは、「剪定位置より下に健全な五枚葉を8節以上」という項目。これに拘らないことで迷いも一緒にふっ切れて、気分がいい。切り下げることで葉数が少なくなるステムは、剪らずに捻枝した。
今日9月20日までに、HTローズ成株の3/4が剪定終了。残りは "ロイヤルハイネス" とか "衣通姫" など、早咲きの数品種のみ。交配で生まれたHTの幼株も半数は剪った。デビッド・オースチンやデルバールなどは "エンドレス剪定" にする。
今日の "秋の彼岸入り" にピタリと合わせて曼珠沙華(彼岸花)が咲き始めた。一昨年2021年の彼岸花の開花は9月11日で、その日に最後の剪定を終了している。その年の福岡バラ会「秋のばら展」の初日は10月22日だったが、その日までにほとんどの花が咲き終えてしまった苦い経験がある。今年は季節が一昨年より約10日遅れで進行しているようだ。剪定終了予定日は、一昨年より2週間、昨年より1週間も遅い9月27日。 では、開花日は?
それはバラに任せよう。 ・・と余裕をかます:p