秋の花のための剪定で、鋏を入れたい位置に適当な芽が無い場合は「捻枝」するか、あるいは「芽出し鋏」を使う。
方法
- 発芽させたい芽の上2cmから枝先に向かって次の節まで伸縮性のある接木テープ「ニューメデール」を巻く。邪魔なトゲはあらかじめ取り除き、成長中の枝の先端部分はカットしておく
- プライヤーを使って茎の各方向から軽く押し潰す(枝の中の縦の繊維を揉みほぐす感覚)
- 発芽してくる新芽の邪魔にならないように、枝を倒す方向を決めておく
- 芽を保護するように片手で芽のある節の部分を持ち、別の手でテープを巻いた部分を持って、ゆっくり時間をかけて捻り(ねじり)曲げる。折り曲げではない
- 指先で硬いと感じたら、再度プライヤーで潰し直す。もし「プチッ」と繊維が切れる音がしたら、いったん緩めて少し戻し、再度ゆっくり捻り曲げる
- 捻枝箇所より上が水平以下になるよう捻り倒したら、「S環」を使って固定
- 捻枝に失敗すると2〜3日で葉が水落ちして枯れる。元気が良いと枝先が頭を持ち上げ新芽が芽吹くことがあるので、枝先を切除
- 新芽が上の写真程度に成長したら(約2週間後)、新芽の5~7mm上でカット
- プライヤーで潰した位置が芽に近すぎたり捻枝が乱暴な場合は、カットした木口の組織が壊れていてわずかに褐変している。その場合は「トップジンMペースト」などの殺菌癒合剤を塗布
結果
- 成功率80%程度。100%発芽するが、まれに発芽が遅れるものがあるのでー20%。
- 元々が「良い芽」ではない(発芽の準備ができていない)ので、「良い芽」で切る通常の剪定より発芽が遅れるから、コンペティション・ローズの場合は剪定予定日より5日〜1週間ほど前倒して捻枝する。
- 新芽が10cmも伸びれば捻枝した部分から上を切除OK。新葉は赤くても光合成をする。
今日、早咲き品種を除く全ての捻枝を切除した。
芽出し鋏
これは福岡バラ会の研究部長・星隈氏に教えてもらった方法で、私自身はまだ経験が少なく、テスト中。
今年はこれに「ビーエー液剤」を使うことを試した。
目的
- 捻枝が難しい太枝や古枝から発芽させたい(私の目的はこれ。下2項目は熟練栽培者の場合)
- 太い枝から、同じ強さのステム(開花枝)を2本出したい
- 元気が良すぎる枝の剪定位置から出る新芽の伸びを、養分を分散させることで抑制したい
- 発芽させたい芽を選ぶ
- 芽出し鋏は "岡恒" の「発芽促進鋏 メデール」を使用
- 芽の上5〜7mmの位置に鋏を入れる(芽傷をつける)深さは5mmほど。鋏の構造上一定の深さまでしか入らないので、下の事例のように、ビビらず深く切り込む。屋外では強風で折れる危険性があるので添え木が必要かも。
- テストとして、芽の下5〜7mmの位置にも鋏を入れ(写真下右)、傷口に「ビーエー液剤/100倍希釈液」を筆塗りで染み込ませる
- 芽傷を入れる枝が多い場合はタグをつけておくと、発芽の経過を観察しやすい
ビーエー液剤
「ビーエー液剤」 は サイトカイニンと類似の働き(新梢発生促進)を示す植物成長調整剤。
上下2箇所に芽傷を入れた理由:サイトカイニンは根部で生合成され地上部へ移送されるので、芽の上側の位置から入れるだけでは不十分かもと考えたから。
極性移動で上から降りてくるオーキシンと、下から昇ってくるサイトカイニンが、芽の原基がある部分(潜芽)で出会って発芽が促されるという、どうも素人の浅知恵っぽい発想だけどね。笑笑。
成長ホルモンのオーキシンは "癒傷ホルモン"
剪定の切り口や、芽傷、捻枝など、植物体が傷ついた部分には、オーキシンが傷口を塞ぐ働きを誘導する。シュートの発生を促すために芽傷をつけたり捻枝するのは、発芽に必要なオーキシンの濃度を高める合理的な方法。
結果
芽傷は、癒傷ホルモンでもあるオーキシンの働きですぐにカルスが生成されて埋まる。発芽するまでには少し時間がかかり、最初は失敗したかと思ったが、今日の時点で発芽率は70%ほどなので、まずまずの結果か。
しかし、下記「カノープス」の例のように「ビーエー液剤」を使用しなかった株の思わぬ位置に発芽が見られることもあるので、今回のテストだけでは「ビーエー液剤の効果あり」とする十分な根拠はない。
コンテストの会期に合わせるには、通常の剪定予定日より1週間〜10日早く処理するのが良いと思われる。
注意
今回の芽傷や、あるいはベーサルシュートを出すために、枝の木部に達するような深い傷をつけ「ビーエー液剤」を塗布すると、それは導管流に乗って枝全体に拡散する。
その結果、意図していない箇所からも発芽する場合がある。5年ほど前、HTの「手児奈」の枝の全部の節から一斉に芽吹いたことがあって、異様な光景で気持ち悪かった。このような人為的なことは人様にお勧めすることではない。
関連:発芽に関係する植物ホルモン 参考: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
- サイトカイニン (cytokinin) は オーキシン存在下で細胞分裂やシュート形成の誘導効果を示す。主に根で生合成され、導管を通って地上部に輸送される
- オーキシン(auxin)は 植物の成長や癒傷を促す作用があり、主に茎頂や芽の原基がある部分で生合成され、シンプラスト経路で 極性移動(下記動画を参照)する
- ABA(abscisic acid/アブシシン酸)は 植物体のどこででも生合成され、発芽の阻害 や、休眠や生長抑制、気孔の閉鎖など、サイトカイニンやオーキシンの働きを抑制する。これは、悪条件下で発芽する事による損耗を防ぐために重要な機能。通常はこれが「活性型=ON」の状態で無闇な発芽を抑制しており、発芽の条件が揃うと「不活性型=OFF」になるので、サイトカイニンやオーキシンが効果を現し始める
- 参考:「オーキシンの輸送タンパク質」「高校生物」 | 映像授業のTry IT (YouTube動画)
オーキシンの生合成は茎頂分裂組織だけではなく、芽の原基がある部分でも行われる。剪定は「芽の上5〜7mm付近を芽が伸びる方向に沿って斜めに切る」が、これは「癒傷ホルモン」でもあるオーキシンの「極性移動」に合った優れた方法。
栽培者は「極性移動」という言葉を知らなくても、経験からその"事実"を見つけたのがすごい。
DONE:
- 修正剪定 芽かき 切戻し 不要枝の整理
- マグホス液肥 小ハウス(台木など)全株
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