福岡バラ会の9月講習会は「芽接ぎ」(講師の方法は "T芽接ぎ" )が予定されていたが、コロナ禍のためやむなく流会。とても残念だが、準備していた台木に "F芽接ぎ "(フォッケル法=貼り芽接ぎ)をすることにした。
おことわり:私は「スタンダード仕立て」以外の接木は「デービッド接ぎ」か「切接ぎ」をすることが多く、今年の芽接ぎは2〜3本を試しただけ。この記事は自分の方法の再確認のほかに、芽接ぎにチャレンジしているバラ仲間の参考にしてもらうために書きますが、私自身が芽接ぎに習熟しているわけではありません。
F芽接ぎも、師匠のデービッドさんに教えてもらいました。
その詳細は、2015年2月5日の記事;
「挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て」
で、 接木ナイフの使い方など、詳しく紹介しています。
F芽接ぎは切接ぎに比べると安全な方法ですが、下記「安全な作業のために」を必読。怪我をしないことが最優先です。
例えば、上は「芽」を切り取っているシーンですが、右手はナイフを持っているだけです。右手に力を入れて切っているのではなく、左手の親指でナイフの背を押して切り分けています。怪我を避けるにはこのようなポイントを見逃さずに。
重要:安全な作業のために
接木作業が好きなのでいろんな講習会に参加したり、講師を招聘して主催したこともありますが、初心者対象の切接ぎ実習の場合は2%程度の確率で怪我をする人が出るようです。自分が企画する場合は、参加者には1日限りの傷害保険に入ってもらう手続きをします。
怪我をする人(男性が多い)には共通点があって、
- 過去に1〜2回 接木の経験がある
- 自分に自信があり、「接木なんて簡単」と、なめてかかっている
- 人の説明を聞こうとしない
- 力を入れないと切れないような、刃が鈍ったナイフを使っている
「F芽接ぎ」は安全な方法ですが、この記事を読んで「芽接ぎ」を試みる方があれば、必ず冒頭で紹介した「挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て」の、デービッドさんの方法をじっくり見直してください。注目すべき点は、
- ナイフの持ち方(手首の角度、指の位置、力の入れ方)
- 刃を当てる位置 刃が動く方向
- 穂木の持ち方
どの作業段階でも、ナイフの刃先が動く方向に手指はないことを確認
Ⅰ 台木
今回使った台木は挿木苗で、1年半前に挿木して今年1月の切接ぎには細くて使わなかった残り苗が、適当な大きさに育っているものを使用。5号ロングスリット鉢植え。鉢植えのまま芽接ぎする。品種は「ノイバラ」(ロサ・ムルティフローラ)ではなく、たぶん「ツクシイバラ」と⃝⃝のハイブリッド種。
F芽接ぎの場合は台木の品種はなんでもいい(と言ったら語弊があるが)、台木は「ノイバラ」に限られるわけではない。台木と穂木の「親和性」もあるそうで、バラ苗生産者によっては接ぐ品種によって台木を使い分けている。
「T芽接ぎ」の場合は台木の表皮を捲る必要があるので、台木の品種と接木時期は重要。その判断を間違えると表皮が捲れにくくなる。
2年生台木は、接木する部分の幹が硬くなっているのでは?と思いがちだが、そんなことはない。また、挿木苗は節間が長い部分を選んで挿すので、接木作業がやりやすく、実生台木に遜色はないと思う。
重要:台木の枝葉を残す
「切接ぎ」とは異なり、台木の枝葉を切除しないで残す。これは「デービッド接ぎ」と同じ。台木の枝葉を切るのは、芽が赤く膨らんでくる来年1月。今急いで発芽させても、すぐに休眠時期になって育つことはないだろう。
Ⅱ 穂木
今日接いだのはデルバールの「フラゴナール」。この夏にグンと伸びたベーサルシュートの径7mmほどの株元に近い部分を穂木として使用。
この時期は空気が乾燥しており(今日正午ハウス内 RH34%)蒸散量も多いので、採取した穂木の水切れに注意。
バラ息さんの「穂木取り」
もう10年も昔のことになるのか。。福岡県・田主丸のバラ生産者 "バラ息さん" に、メールのやり取りで "T芽接ぎ" の基本的な方法を教えてもらった。彼の穂木の取り方を、彼のブログ「いぶし銀のバラ屋」の2008年09月22日の記事「芽接ぎに使う穂木とは」から引用。ちなみに、バラ息さんのお父さんは「バラの接木名人」と呼ばれる方。
穂木とりのやり方としては、バラの花が七分咲き~八分咲きになったころ、葉を5~6枚くらいついているところからハサミで切ります。切ったら、すぐに水につけて一日置きます。そして、水に浸け置きしていたバラの葉と花首を切り落とします。そこで、芽接ぎ用の穂木完成です。
芽接ぎ用の穂木は出来上がったら、ビニールなどに包めば、芽接ぎの時期が来るまで、約一か月冷蔵庫で保管できます!!!
T芽接ぎが一般的な欧州でも、穂木は「開花枝」を使うようだが、今回の私の穂木はまだ結蕾していない未熟な枝の、その1段下の「切るのがちょっともったいない」部分を使用。穂木取りをした昨日はイマイチ気分が乗らず、結果的にバラ息さんのように一日浸け置き(ただし浅水)したことになった。用水には「切り花延命材」を入れておいた。
Ⅲ 道具
- 接木ナイフ
穂木・台木ともに薄く刃を入れるだけなのでカッターナイフでもOK。ただし、刃に塗ってある錆止めオイルを台所用洗剤でよく洗い落としておく。これは失敗のよくある原因。 - 接木テープ
伸縮性のある「ニューメデール」がベストと思うが、欧州の接木職人さんたちは "パッチ" を使って一動作で済ませる。使ったことはないが、大量に接ぐには賢い方法かも。
Ⅳ 手順
「F芽接ぎ」も栽培者によって微妙に手順が異なるようだが、デービッドさんから教えてもらった私の方法。
Ⅳ−1 芽の調整
以下四枚の写真は左が枝先。
① 芽の枝先側7mmくらいから刃を入れる ② 芽の株元側10mmほどで(軸に対し垂直ではなく)斜めにカット。
① ②は「逆順」でもOK
まず ② の位置で穂木を斜めに切断(写真左)するか、または枝の中間までナイフを入れる。
その後に ① のようにナイフを入れ、芽を切り取る。
この方が斜め切りした部分の切断面が綺麗になり、芽も切り取りやすい。
*このように穂木を一刀で綺麗に切るにはナイフの使い方にコツがある。「バラの接ぎ木」の「デービッド接ぎの手順|1 穂木(接ぎ穂)の調整」を参照。
次のステップ=台木のカット中に芽を乾燥させないよう、アルコール分を含まない清潔なウェットティッシュに伏せて置く。唇で挟む人もいる。要は「手早く作業する」こと。
上の写真のように、F芽接ぎの芽の裏側には「木質部」が付いている。ナイフが汚れているとここが汚くなり、活着度も落ちると思う。
T芽接ぎとの相違点
T芽接ぎでは台木の表皮を切り分け捲った部分全面が形成層なので、芽の裏側の木質部は取り除く。その結果、芽は『表皮だけで大丈夫なの?』と心配なほど薄くなる。このことから推測すれば、F芽接ぎの芽の切片も幅に応じた厚みがあれば、ことさら厚く切る必要はないのかも。
「T芽接ぎ」については2021/10/02の「T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.」をご覧ください。
Ⅳ−2 台木を切り込み、芽を差し込む
切り取った芽の大きさに合う幅に台木をカット。台木も枝先から刃を入れ、基部は芽と同様に斜めにカットする。
そこに芽を差し込む。斜め切りしているので貼り付けたようにピタッとくっつくはず。
台木側の切り幅が狭かったら二度切りして幅を合わせることもOK。台木のカット中にためらう(ナイフを止める)と切った面に凸凹ができるので、それもできるだけ平らになるよう修正する。
Ⅳ−3 テーピングと その後の養生
穂木(芽)・台木ともに切り取った幅が同じなら形成層は合致するはず。芽がずれないように指で軽く押さえながら接木テープを巻く。芽の上は1〜2回のみ。
接木テープは「ニューメデール」の25mm幅(ミシン目無)を使っているが、このような鉢植え台木の芽接ぎにはやや幅が広いと感じた。二つ折りにすればやり易いかも。
しばらくの間は半日陰になる場所に置いて、水切れさせないよう養生。バラ苗生産農家の芽接ぎ(T芽接ぎ)は露地。「寒」に会うのは構わない、むしろじっくり癒合させ、年内に発芽させないのがベターかも。
芽接ぎの方法が拙ければ芽の切片が黒くなる。失敗した台木は1月の切接ぎ(デービッド接ぎ)に再使用も可能。
上は、スタンダード仕立てにするために10月に長尺枝の途中にT芽接ぎした事例の、翌年2月初旬の状態。芽接ぎがうまくいけば来年1月にはこのように赤い芽がぷっくり膨らんでくるはず。それを確認してから、芽接ぎした部分から上の枝葉を切除する。
前述のバラ息さんのT芽接ぎの事例;
さて私のF芽接ぎがどうなるか、楽しみ。
2021/10/15 追記;
マッキさんから "貼り芽接ぎのコツ(Tips)" をコメント欄で教えていただきました。 重要なポイントなので、本文中にも引用させていただきます。
TIPS
- 穂木の芽、台木とも斜めにカットし、師匠いわく「アゴ」を作らないと、ピタッとしない
- 秋の芽接ぎは葉柄を少し残して接ぐ
- 2週間後ぐらいで活着していると、葉柄が黄変し、ポロッと落ちる
- 台木の上部を切り飛ばすのは来年の1月か2月。活着したと思って切り飛ばすと、冬を越せない
備考:マッキさんのコメントを読んでいただくとわかるかと思いますが、「師匠」とはブログネーム "boketan" さんのことです。 「boketanの恋華日和」 バラ栽培に関する貴重な情報があります。
葉柄は必要か?
2項目に「秋の芽接ぎは葉柄を少し残して」とあります。貼り芽接ぎをする多くの方がこのように「葉柄を少し残して」と説明されますが、これはなぜでしょう?
写真のように、私の芽接ぎでは葉柄はありません。芽を取る枝には葉柄は既に落ちて無かったのですが、あったとしても取り去っただろうと思います。芽を早く動かすには葉柄を取り去る方がいいからです。「葉柄を残す」というのは、接木テープ「ニューメデール」が登場する前の古いやり方と思い込んでいました。しかし、T芽接ぎをするロータリーホーさんも、わざわざ短い葉柄を残しています*。余計な手間なら省くはずなので、これは何か理由があるのだろうと思い始めました。
*2021/10/02の記事:「T芽接ぎ用ナイフと How to rose budding.」内の2本目のYouTube ビデオ:"Rose budding, how to bud or graft a rose bush." の4:52から始まるシーンでそれがよく見えます。
なぜ葉柄の付け根を残すのか、なぜ「秋は」なのか? 単に「古い方法」ではないのでしょうね。半信半疑ですが、答えは自分で探すことにします。
追記:
この記事は2022年1月27日:「バラの芽接ぎ 台木の首を切る」に続きます。
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