この記事は、2021年12月30日「デービッド接ぎを見直す」と、2022年1月10日「デービッド接ぎと 田主丸型 接木小刀」の続編です。
今シーズンは「デービッド接ぎ」の細部を見直したので、その経過を今後も記録していきます。
デービッド接ぎ 5週間後
昨年末の25〜26日に接いだ、福岡バラ会・Nさんの31株のその後の生育状況です。台木や鉢、培土については、2021年12月23日の記事:「台木の鉢上げ」に書いています。
穂木や培土はNさんから提供されました。穂木は事前に採穂され、数日間冷蔵保存されていたものです。培土の組成は一般的なものですが、若干の「マグァンプK」が入れてあるそうです。
方法は「デービッド接ぎ」で、① 台木の枝を残す ② 台木の枝を切り落とす の2バージョンで接木しています。
① 台木の枝を残す
② 台木の枝を切り落とす
「グランブルー」は、芽の上に被さった接木テープの「皺」が邪魔になって、新芽がテープを突き破るのに苦労しているようです。テーピングの際にこのようにならぬよう気をつけるとともに、もしこのようになってしまったら、カッターナイフで邪魔な「皺」に切れ目を入れテープを緩めました。
較べれば「台木の枝を切り落とす」のがやや優勢か
Nさんの31株のうち、10株ほどを枝を残すバージョンで接ぎました。下の写真は同じ穂木から採穂したものですが、枝を残すか残さないか、イマイチ確信が持てなかったので両方を試みました。
面倒なテーピングも、左の写真のように台木の腰の曲がりを利用すれば容易です。
これらの写真は拡大率が揃っていないので、どちらのバージョンが優勢か見分けにくと思いますが、実際は「台木の枝を切り落とす」方が新芽がより大きいようです。枝を残すと、枝にたくさんある新芽に養分が分散されるので、当然の結果かもしれません。
ハウス内のビニールトンネルは、夜間には小さなキャンドルを点灯します。暖房というほどの効果は無いけれど、外気と比較すれば僅かに暖かい環境です。何より「乾いた寒風」に吹き曝されることがないので、このような環境では、台木と接ぎ穂の癒合を促進する植物ホルモン・オーキシンの生合成は問題なさそうです。
でも、だからと言って現時点で台木の首を切ることは早計でしょう。これらがどういう結果になるか、まだわかりません。接ぎ穂の新芽を急いで大きくする必要はないと思っています。例えば、上の写真の「イーハトーブの風」、これが全株の中で最も早く生育している芽ですが、これは接ぎ穂が内包しているエネルギーで生育しているのであって、この後突然生育を停止する危険性が残っています。健全に育つかどうか、今は予断を許さない状況です。
施肥のタイミング
Nさんの台木は掘り上げた翌日にはポットに植え込みました。根が干からびたような台木と較べれば、根の活性は高いと思います。どの時点から施肥を開始するのが適切か、難しいところです。
- 培土に「マグァンプK」が入れてある。これは "水溶性" と "く溶性" のミックス肥料。
- ビニールトンネルは昼間は開放し、天気の良い日はハウスの側面も開放して風通しを良くしているものの、鉢土が乾かないので施肥(灌水)をためらう。
- Nさんのポットは7号菊鉢だが、鉢土が乾かないのは5号ロングスリット鉢も同様。
- 新芽が「お地蔵さん」になる原因はわからないが、そうなるのを防ぐためには、何らかの「活力剤」に効果が期待できるのではないか。
Nさんが用意した肥料は「リキダス」と「ハイグレードバラ」で、ハイポネックスの製品。これまでに「リキダス」を2回と「ハイグレードバラ」を1回、いずれも1000倍希釈で施肥。
バラ苗生産農家 御用達「パワフルアミノ」
私は「リキダス」も使いますが、メインの肥料には「パワフルアミノ」を準備しています。
これを教えてくれたバラ苗生産者のバラ息さんは、3月になってからの施肥ですが、私はもう少し早い時期(本葉が展開し始める2月下旬頃)を予定。
最初の芽は「同化枝」になる
HTの場合、穂木から出るこの芽は花を咲かせる「開花枝」にするのではなく、光合成を担当させてベーサルシュートの発生を促す「同化枝」にします。大事な役割ですが、施肥のタイミングが少しぐらい遅れても、その後の肥培管理で回復できるようです。逆の、早い時期に施肥するメリットやデメリットは、特に意識したことはありません。
イングリッシュローズなどのシュラブは、最初の芽を「開花枝」にすることもできますが、いずれの場合もこの芽が成長した枝は、その後に発生するベーサルシュートよりも生育が劣るので、半年から1年以内にその役割を終え、剪定で切り捨てることになります。
デービッド接ぎ 3週間後
デービッド接ぎ 2週間後
今シーズンの私の接木は約70本です。この数年はコンテストに出品するHTがメインでしたが、今年は、数年間放置されて枯れかけている地植えのイングリッシュローズなどをバックアップしています。日付は接木をした日。
「アンナプルナ」は、Dorieux のエレガントな白の丸弁HT。そのほかの3品種は David Austin。イングリッシュローズは、多くの品種が挿木でもいけるほど生育が旺盛で、接木も容易です。 「アンブリッジ ローズ」は接木後10日ですがまだ芽が動いていません。
接木と挿木
接ぎ穂は穂木の中間部分を使いますが、使い残した枝先側の穂木を挿木しています。
培土は「鹿沼土」単体で、4連結のポットを水を張ったバットに入れる「底面給水式」なので、手間いらず。20日を経過していますが、まだ一度も水を交換していません。バットの水に雑菌が増えると(水が腐ると)それが導管を塞いで挿木の失敗に繋がるのですが、「寒挿し」は低温で雑菌が増えにくいし、「ソフトシリカ・ミリオン」が雑菌の繁殖をある程度抑えてくれるようです。
60本ほど挿木していますが、早い時期に挿したものは既に白根が数センチ伸びています。
下の写真「シェエラザード」は接ぎ穂の新芽よりも挿木の芽の方が大きいですが、これは同じ枝から採穂したもので、挿木したのが芽の動きが早い枝先側だから。
それにしても、穂木が内包しているエネルギー(生命力)には感心させられます。
イングリッシュローズは「挿木」で
『台木が不足しているし、穂木がもったいないから挿木する』という側面もあるけど、私は、ガーデンローズ、中でもイングリッシュローズは、「接木より挿木がベターなのではないか」と思っています。
それには私なりの根拠があるのですが、テーマが異なるので、また別の機会に。