このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2012年4月9日月曜日

「バラ苗が枯れたら交換します」は良心的か?

先日、久留米市田主丸のスワ肥料店さんに「パワフルアミノ」を購入しに行ったときに、同じく田主丸のバラ苗栽培農家のハウスを訪問しました。
鹿屋市の「花*薔薇*会」のみなさんが、研修旅行でわざわざ立ち寄られるほどのバラ苗栽培農家さんです。予約もしないまま突然の訪問だったにもかかわらず、お仕事を中断して案内してくださいました。ハウスの中には出荷直前の大きな蕾をつけた新苗がずらり。いずれもみごとな生育ぶりです。

2012年4月3日 そら wrote ;「"癌腫病ショック" そら復活か」;
> しかし、もしそれが事実とすれば、バラ苗生産・販売業界はなんというあきれた業界でしょう。

このような非難とは全く無縁の、優れたバラ栽培農家さんなのでしょう。お人柄にも好感を持ちました。私は(購入した経緯から推測して)ここで生産されたと思えるバラを3株育てています。3年目の春を迎えますが順調に育っています。しかし他方、『じつは、国内で流通しているバラ苗の半数以上は根頭癌腫病に罹患している』という話を、私はそうかもしれないと思っています。

追記:「罹患」とはバラの内外に病原細菌を持っているという意味で発症に至っていないものも含まれます。
バラの根頭癌腫病については、2012年2月20日の「バラの根頭癌腫病 −2」に、追記してまとめています。

『イヤな話をブログに書くのは、もうやめよう』と思うのですが、最後に実例を2つレポートします。

根頭癌腫病が出たバラ苗

これは昨年12月に大苗としてネット通販で購入したバラ苗です。根の部分を見てください。株元から太根が2本出て、すぐ下でトグロを巻いています。これは、その根が成長する時期に小さな浅いポットか、そのような場所に植えられていたからです。太根の大きさからして、たぶん前年の売れ残り苗だろうと思われます。

業界内では、バラ苗に「A苗」と「B苗」という区分があることを最近知りましたが、これは「B苗」にも相当しないクズですね。

苗が届いたとき、枝は写真よりも長かったのですが、たぶんキャンカー(枝枯病)だろうと思われる症状を示しながら枯れ込んできたので、少し切ってあります。他のバラが芽吹いてもこの株は全く動きがありませんでした。暖かくなってやっと芽が出始めたのですが、あまりにもおかしいので掘り起こし、根を洗ってみました。

根頭癌腫病が発症しています。カルスみたいな白い小さな粒が初期の癌腫です。

(画像クリックで拡大します)

この苗の販売店(バラ苗のネット販売で有名)は、「バラ苗が枯れたら交換します」ということで『良心的』なんだそうですが、同時に購入した別の大苗には8mm程度はあったろうかと思える癌腫をえぐり取った痕がありました。癌腫病が発症していることを知りながら、それをえぐり取って販売するバラ苗屋がなんで『良心的』なのか。アタマにきて写真を撮るのも忘れてしまいましたが、これは貴重なサンプルとして栽培中です。

追記:この株は3ヶ月ほどで枯れてしまいました。この『良心的』なバラ苗販売店からはもう二度と購入することはありません。しかしこれはバラの根頭癌腫病を真剣に考えるきっかけになりました。繰り返しになりますが、「バラの根頭癌腫病 −2」を見てください。

蛇足:私は、バラ苗生産者や卸市場関係者、そしてバラ苗販売店にそれぞれ知り合いがいます。取引されるバラ苗の価格も教えてもらって知っていますが、バラ苗が枯れて無料で交換したとしても、それでも利益が出る価格設定になっています。もちろん利幅は減りますが、『交換することが良心的』なのではありません。

スタンダード仕立てのバラに発症した根頭癌腫病

症例−2は、生育不良のスタンダードを原因調査のために預かって、私の所で4ヶ月ほど植えていた株です。これは芽吹く気配が全くなく、暖かくなったら接いだ部分から上が急速に枯れ込んできました。接ぎ木した部分を見てください。これも癌腫病が発症しています。

スタンダードの接ぎ木部分によくみられるこのブツブツがほんとうに癌腫なのか、別の事例で専門家に質問しました。
答えは即座に「癌腫です」。噫。

病原菌のアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)には、数種類の変異株があって、それらが作る癌腫の形態も異なるのだとか。

発症位置から推測して、たぶん接ぎ木作業で感染したのでしょうね。これはスタンダード仕立てのバラの生産では有名なバラ園で生産された株です。通常価格よりも安かったのでまとめ買いされたのですが、このとき購入された同じ品種5株も同じように生育不良なんだそうです(その1株を実際に見たことがあります)。

台木の根の部分です。ここには癌腫は見られませんが、たぶん既に全身が冒されているんでしょうね。しかしまぁ、なんとお粗末な台木でしょう。この株は4年生程度と思われますから、出荷段階でこうだったのかどうかはわかりませんけど。

バラの根頭癌腫病がやっかいなのは、どこで感染したのか特定するのが難しいことにあります。たぶん多くの栽培者は(私もそうですが)生育不良のバラを見て『自分の栽培方法が悪いから。庭の土が悪いから』と考えるのでしょうね。

「バラ苗が枯れたら交換します」というのは良心的に見えますが、ほんとうにそうでしょうか? これってもしかしたら、『国内で流通しているバラ苗の半数以上は根頭癌腫病に罹患している』という暗黙の事実の上で、設定されているのではありませんか?

『バラ苗が枯れたから交換?(とんでもない)。私どもの苗の品質管理には万全を期しています。なぜ枯れたのか、ご一緒に原因を調べましょう』

と言うはずです。原因を調査することもなく『枯れたら交換すればいいんでしょ』というような業界(業者)は、いずれそう遠くない時期に淘汰されていくと思います。時代(バラ苗生産技術)はその方向に進んでいるようです。

 

気持ち悪い、イヤな話はここまで。今後は「蔓延する癌腫病にどう対応するか」にテーマを変えます。

『そらさんは用心深いから、大げさに言って私たちを脅かしよんしゃーとよ』

苦笑。

4 件のコメント:

箱庭のこぼ さんのコメント...

癌腫病本当に怖いですね(写真で見るとよくわかります)
言い訳ではないのですが、今まで枯れ補償で交換していただく時は(電話かメールで)業者さんにはどういう状況かは詳しく聞かれるし伝えます。枯れるというより、発芽しない時ですね。単純な私は交換してくれると原因は?なんて考えもせず・・・勉強になります。
写真私に関する時は遠慮なく教えてください。私も勉強になりますので、宜しくお願いします。

そら みたか さんのコメント...

バラの根頭癌腫病が恐いのは、土壌を汚染してしまう(罹病株を処分しても土壌中に増えた病原菌が生き続ける)ことにあります。発症し、しかもそれが蔓延すれば、その対策は容易ではありません。個人の場合は庭をごっそり客土するなどということは現実的に無理ですから、癌腫病が出た庭にはもうバラは植えられなくなります。これがいかに深刻な事態か、自分の庭に癌腫病が出た人はよく理解できると思います。

私は初めて癌腫病を見てからのこの一年、幾つかのバラ園や個人のお庭を拝見してきましたが、『これは怪しい』と思うバラを何株か(も)見たことがあります。バラは、一般的な肥培管理をすれば、例えばグリーンパークのバラのように、大きく生き生きと育つはずです。

箱庭のこぼさん個人に関することは、どなたであろうと個人に関することは、ノーコメントとさせていただきます(症例写真と箱庭のこぼさんは関係ありません/これは断言します)が、私が経験したことから少なくとも以下のことは言えます。

自分の庭にバラの根頭癌腫病が発症したとしても、それは栽培者が何か間違ったことをしたからではありません。苗やその土とともに入ってくる病原菌を防ぐことは極めて困難で、かつ非現実的です。例えば粕屋町バラサークルのみなさんのように、各地のバラの花がら摘みや剪定作業に熱心に、しかも永年参加している方は、他所から病原菌を持ち込む(持ち込んだ)危険性はより高くなります。また、バラだけではなくガーデニングに興味があって花苗の交換などを楽しんでいる方も、病原菌が入ってくる危険性はかなり高いでしょうね。

従って、自分の庭のバラに根頭癌腫病が発症しても、それを恥じる必要はありません。しかしその逆に『自分の庭には根頭癌腫病菌はいない』と思うのは早計でしょう。そう言いきるためには全ての株を詳しく調べることが必要です。その結果『自分の庭には根頭癌腫病は発症していない』と言うことは可能でしょうが。

で、今私たちに必要なこと(順不同)は、

根頭癌腫病の病原菌密度や活性度を上げないくふう
病原菌を持ち込まない、持ち出さない配慮
感染しても発症させないバラの管理(それが可能か?)
コガネムシの幼虫(やネマトーダ)対策
汚染された土壌の除菌(減菌)

だろうと思っています。いずれも(私にとっては)困難なテーマですが、できることから始めようと思います。根頭癌腫病を恐れるあまり、楽しいはずのガーデニングが萎縮してはつまりませんから。根頭癌腫病なんかに負けないぞ!

匿名 さんのコメント...

貴重なご意見有難うございます。旦那は(学生時代は微生物を専攻?)「剪定ハサミを煮沸消毒しろ」と良く言います。微生物の大切さや怖さがわかっているのか、手洗いうがいスゴイです(笑)私は横着でイイカゲンですが。
そらさんの畑(庭園)の手入れには旦那ともども感服しています。きっと素晴らしい庭園になりますね。我が箱庭はヒョロヒョロ(私と正反対)ですが、庭に合ったバラを育てたいと思っています。娘からのバラのプレゼントは時期が悪いのでしょうね品素で。土を崩さないように大きな鉢に植え替えましたが大丈夫かな?(この時期の植替えした事ないのでちょっと不安)しばらくは直射日光をさけますね。・・・楽しみです。

そら みたか さんのコメント...

匿名さんwrote;
> 旦那は(学生時代は微生物を専攻?)「剪定ハサミを煮沸消毒しろ」と良く言います。

おお、これも良いアドバイスですね。私たちは剪定バサミの消毒には逆性石鹸の「オスバンS」を使っていますが、それだけで充分なのかちょっと気になっていたところでした。毎日は無理かもしれませんが、できるだけ頻繁に煮沸消毒をします。「ありがとう!」とお伝えください。

バラの植え替えは既に難しい時期になっていますね。先日植えた株もちょっと植え痛みが出ています。台木を採るための母木の移植を20株ほどやり残しているのですが、植え痛みに不安を感じて、ますます遅れています(笑)。

> しばらくは直射日光をさけますね。

なるほど。そうすれば幾らかはダメージを避けられそうですね。今日、親戚のものからバラ苗を数株貰ったので、養成畝に寒冷紗のトンネルを準備します。
癌腫病対策として、今後他所から来る全てのバラ苗を半年から1年間は「養成畝」に植えて様子を見ることにしました。いきなりバラ園に植えてもし癌腫病が出れば、その後処理(癌腫病原菌に汚染された土の処理)は極めて厄介ですからね。

極めて厄介なんですが、病原菌の "アグロバクテリウム ツメファシエンス" の死滅温度は51℃だそうですから、敵の弱点はここでしょうね。
「草焼バーナー」というものがあります。例えば以下のようなものです。
http://www.shinfuji.co.jp/contents/products/doga/index.html
一度だけですがナス科野菜の青枯病原菌のコロニーを焼いたことがあり、これでバラの癌腫病原菌密度が高いと思われる土を(その場所だけスポット的に、ショベルで撹拌しながら)焼こうかと考えています。防御で縮こまるのではなく、攻撃に転じようというわけです。憎っくき病原菌(見えないけれど)を焼き殺すのは快感かも(おお恐/笑)