バラ栽培を始めた頃に、師匠のデービッドさんに「バラの栽培で一番楽しいことは?」と尋ねたら、
『新品種の作出。交配した種が芽生えてくるときのワクワク感!』
それから10年。新品種の作出は単に交配すれば済むものではなく、バラ栽培の全般にわたる知識と技術が必要に思えて、ずいぶん時間がかかってしまいました。
バラの交配に関しては日本ばら会に優れた先達が何人もいて、「ばらだより」にはガイドも掲載されていますが、私はあえてそれを読まないでチャレンジしてみようと思っています。
染色体の倍数性やゲノムなど私にとっては未知の領域ですが、学ぶことがいっぱいありそうで、ときめいています。
最初の難関 「三倍体」
3月の講習会、福岡県農林業総合試験場・巣山講師のお話の中に「三倍体植物は不稔性」というのがありましたね。ご存知のようにバラは複雑な交配を繰り返していて、栽培品種の繁殖は実生ではなく接木や挿木といったクローンなので、どの品種が不稔性であるのかは調べてみないとわかりません。DNAも細切れでグチャグチャになっているんだそうです。
不稔性かどうかはその品種が過去に「交配親」になっているかどうかを調べれば見当がつきますが、私は多品種のバラを持っているのではないので、とりあえず手持ちの品種を試してみようと思っています。
ロージー クリスタル
満開を過ぎた(いわゆるパンクした)状態の花弁を取り除いて、蕊(しべ)の様子を見る。
花粉が入っている「葯」がわずかに茶色がかっている。もう少し濃くなると開裂し、花粉が出る。
ロイヤル ハイネス
花糸が赤いのが印象的。この葯は上のロージー クリスタルより2日ほど若い。
雄蕊(ゆうずい/おしべ)をピンセットで採り、シャーレに入れて2日後。
「葯」が褐変して開裂し、花粉が出ている。
花粉はとても微粒子。量は品種によって異なるようで、全く出ないものもある。それが「三倍体」なんだろうか。
この花粉を綿棒で雌蕊(しずい/めしべ)の柱頭に着ける。
柱頭はわずかに湿り気があって、花粉が着いたのが肉眼でもわかるが、花粉の量は多いほうが安心感がある。
空気が乾燥しているのでハトロン紙の袋をかけた。花粉管が伸び胚珠に到達すると子房が大きくなり始める。受粉に失敗するとやがて子房は枯れる。