このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙く、論理も雑駁で、誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

お知らせ

バラの育種 を仲間と共に学びたい初心者を対象にした オンライン勉強会 を計画中です。

オンライン ミーティングシステム "Zoom" を利用して、月2回(年間20回程度)の開催で、 参加費無料の勉強会です。

内容は「ばらの育種オンライン勉強会」 案内ページ をご覧ください。



2022年4月29日金曜日

バラの育種 2022 1. 花粉の採取

私のバラ栽培の今後の楽しみの一つは、自分が交配したバラを咲かせること。初めて交配に取り組んだ昨年の結果は、300粒播種して80粒が発芽し、早いものは蕾が1㎝ほどに膨らんできました。どのような花が咲くのか、咲かないのか、皆目見当がつきませんが、それを待つ間もなく今年の花が続々と咲き始めたので、2年目の交配をスタートしました。

ホット神崎
 2022年 最初の開花 "ホット神崎"

新品種を作る "育種" が簡単でないことは、先輩の話を聞いたりあるいは紹介記事などを読んだことがあるので、性急に「結果」を求めようとしてはいません。何よりもそのプロセスを楽しみたいと思っています。

昨年の失敗を踏まえ、今年はHTローズをメインにシュラブやフロリバンダも加えて、交配する量を増やす予定です。今後その作業を随時記録していきますが、このブログは「試行錯誤の記録」です。誤った認識も多いだろうし、矛盾した内容や論旨の混乱もあるでしょう。私にとっては、ひとつひとつの失敗と発見が新鮮な驚きです。


花粉の採取 花弁が多い高芯剣弁咲きの場合

HTローズはスッキリと直立する品種が好きなのでそれを「種子親」にし、「花粉親」は "色" を重視したいと思うけれど、育種はそんなに単純なものではないらしい。なので、開花のピークを過ぎた花はとりあえず花粉を採取することにした。これが適切な採取方法かどうか、育種のガイド本を読まないで作業しているので、常に自問しながら進めるしかない。

  • 開花の見頃を2〜3日過ぎた(いわゆるパンクした)ものを選ぶ。コンテストに出品するようなHTローズ品種は多くの花弁で蕊(しべ)が包み込まれており、しかも「自家不和合性」(wikipedia) があるので、慌てる必要はない。昨年はこの「自家不和合性」についての認識が乏しく、『自分の花粉が雌ずい(めしべ))の柱頭に付く前に早く雄ずい(おしべ)を取らなければ』と思い違いをしていた。

  • 4月30日 修正追記:バラ科の場合は "配偶体型" の自家不和合性で、上記 wikipedia によれば、配偶体型自家不和合性には、"リボヌクレアーゼメカニズム" と "S遺伝子座によるS-糖タンパク質メカニズム" があり、もし リボヌクレアーゼメカニズム であれば「花粉管が花柱の約1/3の位置まで達したときに伸長停止が起きる」のだそうだ。これは好ましくないので、やはり自家受粉するのはできるだけ避けるべきだろう。

  • 競技用HTローズの多くは60〜80枚と花弁数が多く、それが幾重にも雄ずいや雌ずいを包み込んでいる。花粉が出る葯(やく)が開裂するのは、コンテスト基準の "花の見頃" よりも数日も遅い時期のようだ。ただし、花弁を取り去ることで光が当たり乾燥状態になると、葯の開裂が早まる。

  • フロリバンダやシュラブは開花する(葯が見え始める)と間を置かずに花粉が出始めるので、開花する直前に花粉を採取する。

  • 花粉を採取するために葯を花糸の部分からハサミで切断している。昨年は花糸をピンセットで挟み取っていたが、それでは葯が痛むと考えこの方法に変更した。

  • 5月2日 追記:雄ずいを採取する作業を続けていると、ハサミやピンセットに花蜜?が付着してベトベトになり作業能率が落ちる。先端をできるだけ清潔にしておくのが良さそう。昨年は、雑菌の繁殖による腐敗かもしれない失敗が多発した。その記録:「バラの交配・5」 それを思い出したので、ハサミやピンセットを1日数回エタノールで殺菌することにした。

花粉親「あけぼの」の場合

「あけぼの」を "種子親" にする予定はないので、"見頃" のピークをすぎた花を花首でカットして作業。

この自撮り動画の再生時間は3分13秒。サイレント。"あけぼの" は、花弁の内側に秘められた、その名の如く曙の空に似た黄色へのグラデーションが綺麗で、作業中思わず手が止まっている:p

種子親「魅惑」の場合

この「魅惑」は前日に花弁を取り除いているので、雄ずい(葯と花糸)が立ち上がっている。

再生時間は1分50秒。サイレント。自家受粉を避けるため雄ずいを残らず取り除く。

意外に少ない花粉の量

このような方法でこれまでに約30花から雄ずいを採取した。採取した「葯」は品種あるいは株ごとにペトリ皿(シャーレ)に入れ、乾燥するよう保存した。

バラの花粉
  • 保存は、密閉できる容器の底に乾燥剤のシリカゲルを入れ和紙を敷いて、その上にペトリ皿を蓋を開けた状態で並べている。昨年は逆で、『花粉は生きているのだから、乾燥は良くない』と考えた:p

  • 花粉は柱頭に付着すると水分などを受け取り膨らんで、S遺伝子座による配偶体の選別で拒絶されなければ、発芽して花粉管を伸ばす。なので、葯から出た花粉が乾燥するのは問題ではないようだ。

  • ならば、花粉が出る前の葯が乾燥したらどうなるのか? 『乾燥したら葯が開裂して花粉が出る』というのは、後掲の「メルヘンケーニギン」の雄蕊の手を加えていない状態(乾燥しなくても花粉が出ている)とは異なるので、気になる。意図的に乾燥させたものは花粉の量が少ないように思え、私の方法は適当ではないのかもしれない。

    5月8日 修正追記:乾燥剤を使用するなど急激な乾燥をすると、花粉が出る前に葯が干からびたようになり、採取できる花粉の量が少なくなる。ペトリ皿は例えば微生物の培養に使うのだろうか、目的外の空気中の胞子(分生子)が落下して繁殖することを防ぐために蓋をしても、微生物が呼吸する空気の出入りができるように作られているので、日陰で自然乾燥するのが良さそうだ。乾燥剤はすぐに使用を止めた:p

  • 花糸をハサミで切って葯を集める。葯は品種ごとに色や大きさが異なる。採取後1日経過すると花粉が出てくるが、花粉は乳白色か山吹色の極微粒子。花粉の量は品種によって大きく異なる。
    参考:「花粉|国立科学博物館」

  • 私が栽培している品種で比較すれば、花粉の量が多いのはHTの「香具山」や「コンフィダンス」、FLでは「ウィリアム・アダムス」。逆にほとんど花粉が出ない品種も少なからずある。これが "三倍体" の品種なのだろうか? 栽培中の品種やその花数が多いわけではないので、交配の組み合わせが限られてしまうのが残念。
    参考:「三倍体|コトバンク|日本大百科全書」 

高温障害による花粉量の減少

5月8日 追記重要 同じ品種のバラでも花粉の量に個体差があるのに気づいた。「あけぼの」は比較的多く花粉が出る品種だが、中にはほとんど出ない花があって、採取の方法に問題があるのか?と思っていた。調べてみると、「花粉母細胞の減数分裂期前後の時期の高温により、花粉の形成に不全が生じる」ことがあるらしい。情報源:日本植物生理学会|みんなのひろば|植物Q&A|花粉の量

私はハウス栽培なので、管理の手を抜くと春先でも簡単に30度Cを超える。なるほど、これが原因だったのか。

「あけぼの」だけでなく他の品種も、同じ品種・同じ剪定日でも開花が一斉に揃っているわけではない。花粉(葯)の採取は開花順に行ったが、最初の頃に咲いた花は花粉の量が多く、それは「花粉母細胞の減数分裂期」の気温が、遅れて咲いた花よりも比較的低かったとみることができる。開花時期の1週間ほどの差で、すぐそれと気付くほど花粉の量が少なくなった。

『春の二番花を使う交配はうまくいかないことが多い』と聞いたことがあるが、それはこのような理由もあるのだろう。5月10日に最後の花粉採取をする予定なのだが、量(あるいは授精能力)は期待できないかもしれない。やってみなければわからないが、交配に使う春の花はコンテスト期日に合わせた剪定日ではなく、それより1週間は早くして、4月末の開花にするのが良さそうだ。

花粉症に注意

バラの花粉も「花粉症」、またはそれに類似した症状を引き起こすようです。私はスギ花粉などには反応しないのですが、バラの交配作業では、くしゃみ、喉の違和感と咳、目の痒みなどの症状が出ます。なので、マスクとうがい薬、点眼液は必需品です。たぶん作業着にもいっぱい付着しているのでしょう。


自家不和合性

被子植物の半数ほどは「自家受精」を避ける性質=「自家不和合性」を備えているのだそうだ。バラ科では、ノイバラやツクシイバラは自分の花粉で受精できる「自家和合性」だが、栽培品種の多くは「自家不和合性」のようだ。

昨年のテスト結果では、FLの「ウィリアム・アダムス」の自家受粉によってできた種子は、"自家不和合性" に無知だったので『これが発芽しないはずがない』と思っていたのだが、発芽ゼロ。
でも HTの「雪まつり」は、栽培品種の自家受粉としてはかなりの高率で発芽した。備考:ハウス内での栽培なので訪花昆虫はいないし、開花状態の花は放置しないので風媒の可能性も低く、他家受粉したものではないと見ている。

「自家不和合性」という言葉を知らなかったのではないが、『受精しなければ子房が成長せず落果する』と思い込んでいた。逆に言えば、ローズヒップが成長し色づけば、そのタネは発芽するはず・・と。

ウィリアム・アダムス(自然受粉) 発芽率ゼロ

雪まつり(自然受粉) 発芽率38%

詳細は後日レポートの予定。私の例は僅かに過ぎないが、バラの栽培品種の「自家不和合性」に関する遺伝子は安定しているのではないように思える。

5月9日追記:

日本植物生理学会|みんなのひろば|植物Q&A|に「自家不和合性」に関する興味深い記事がある。

ここで紹介されているアブラナ科の植物の自家不和合性は「胞子体型」で、バラの「配偶体型」とは少しだけ様式が異なるが、S遺伝子座が関与する基本的な仕組みは共通。


雌雄異熟と花粉の保存可能期間

種子植物は、同じタイプの配偶体を持つ花粉の発芽と花粉管の伸長を阻害するS遺伝子座の働きの他に、同じ花の雄ずいと雌ずいの成熟するタイミングをずらす「雌雄異熟」の性質を備えているものあるそうだ。これはまず雄ずいが成熟し、花粉が出尽くした頃に遅れて雌ずいが成熟することで、結果的に自家受精を避ける。

バラにもこの雌雄異熟があると聞いた曖昧な記憶がある。もしそうなら、それはどの程度の時間差なのか? 雄ずいの完熟は葯の開裂状態や花粉の出具合で判断できる。雌ずいは「柱頭を触って湿り気があれば成熟したサインと見做していい」とデービッドさんに教えてもらったことがあるが。。

私は、種子親にする花は1日目に満開を数日過ぎて萼が完全に降りた花弁を取り外し、2日目には花弁に抑えられて丸まっていた雄ずいが外側に展開するので、それを確認してから葯を採取し、3日目に授粉をしている。ただし、これは花弁の数が多いHTローズに限られた手順で、しかも試行のレベル。

仮にこれが適切だとしたら、同時に咲いた種子親と花粉親のしべの完熟には3日ほどの差があるので、交配親の組み合わせによっては花粉を適切な状態で保存する必要がある。一般的な保存方法と思える「冷暗所で乾燥状態」で、バラの花粉の寿命はどの程度なのだろうか。

バラには "雌雄異熟" はない

しべが見えるほど開花が進んだ「メルヘンケーニギン」の、雄ずいと雌ずいの状態。葯から花粉が出ているのがわかる。

写真右(画像クリックで拡大表示):花粉は葯の縁から出ている。雌ずいの柱頭がイソギンチャクの触手のような "乳頭状突起" になって、湿り気があり、花粉を待ち受けているように見える。バラは「雌雄同熟」なのだろう。

花粉採取のタイミング

この「メルヘンケーニギン」の状態から花粉採取のタイミングがわかる。花弁が開き僅かに "しべ" が覗き始めたこのタイミングは、雄ずいには花粉が出ているが、まだ花粉はこぼれていない。花粉が落ち始めるとそれが花弁に残るが、これはその直前。雌ずいは柱頭が "乳頭状突起" になっている。

花粉の採取がこの状態より半日も遅れると花粉が落ち始める。しかし、もし2日も前なら雄ずい雌ずいともに "完熟" とは言えないだろうし、採取できる花粉の量は少ない。花芯の胴の部分がたおやかに膨らみ、最も内側の花弁が丸くしべを包んでいる状態が、交配を開始するために花弁を取り除くタイミング。

花粉の寿命

5月10日 追記:前述の日本植物生理学会|みんなのひろば|植物Q&A|「老花受粉 方法」によれば、「花粉の寿命は雌しべよりも長い」とされている。バラの雌しべは、開花3〜4日後には乾燥気味になり見た目の勢いを失うので、自然環境下での花粉の保存可能期間はそれより少し長い程度と推測される。実際の交配作業では、採取後5日を経過した花粉は色が白化し、使用する気にはならない。

ツクシイバラ
 雌雄同熟で自家受精する "ツクシイバラ"
 "ツクシイバラ" と 訪花昆虫 "マルハナバチ"

2022年4月26日火曜日

2022年 デービッド接ぎの経過 ー5

2月24日のレポート:「2022年 デービッド接ぎの経過 ー3 2ヶ月後 台木のカット」のその後の経過です。
このページでは、デービッド接ぎの台木の枝葉を残すか否かを考察します。

レポートが遅れましたが、右側の写真は今日から25日前4月1日の生育状態です。これら25株は4月中旬にオーナーのもとへ移動され、現在はさらに大きくなっているそうです。

預かった台木や穂木、培養土などは31株分でした。5株を失敗し、1株は今もお地蔵さん状態です。成功率は80%と低く、その原因については、私の失敗株と併せて別記事で考察する予定です。


デービッド接ぎ  接木をした日 12月25、26日

1 枝を残さないバージョン

バラ 春芳
 春芳 2月24日  ➡︎
バラ 春芳
 春芳 4月1日
バラ モダンアート
 モダンアート 2月24日  ➡︎
バラ モダンアート
 モダンアート 4月1日
バラ 乾杯
 乾杯 2月24日  ➡︎
バラ 乾杯
 乾杯 4月1日
バラ グランブルー
 グランブルー 2月24日  ➡︎
バラ グランブルー
 グランブルー 4月1日

脱線:新苗で "春" に勝負?

これらのHTローズは、今秋のコンテストへの出品を意識した栽培をします。まず、新梢を五枚葉5節でピンチして、花は咲かせず専ら光合成をする「同化枝」にして株の充実を図ります。そして、初夏に出るベーサルシュートをコンテスト用のステムに仕立てていきます。これが「新苗で秋に勝負」です。

でも、秋まで待たなくても「新苗で春に勝負」も可能なんではないか?
出品するには、花首から下のステム長が50㎝以上あるのが好ましく、そこに五枚葉が3節以上(多い方が良い)必要なんですが、脇芽や腋芽、副蕾を掻き取り「一本独鈷」に仕立てれば、その条件は満たすことができます。

出品するためのもう一つの重要なことは、開花をコンテスト当日に合わせることですが、1月中旬に接木し通常のように五枚葉5節でピンチすれば、開花はコンテスト期間よりも1〜3週間ほど遅れます。なので、12月に接ぐか、あるいは五枚葉5節ピンチをしなければ、これもクリアできます。これらの写真はコンテストまで一月以上もある4月1日の撮影なので、これを見ても、開花がコンテストに間に合うかどうかは問題ないことがわかります。

審査員の先生方はなぜかこの「新苗で春に勝負」を嫌われるようです。その理由が分からなかったので、意図的にこの「一本独鈷」を春のコンテストに出品したことがあります。審査員の先生方にもそれとわかるように5号鉢に植えたままで会場に持ち込んで、成株から切り出した花と一緒にして出品し、『どれが新苗の花かわかりますか? どう評価されますか?』と暗に審査員の眼力・見識を私が審査するという、実に生意気な、とんでもない出品者でした。

審査結果は・・。 まぁ、それはここでは書かないでおきましょう。たぶん審査員の方々には「見え見え」だったのだろうと思います。コンテストに出品し始めて間もない頃のことでしたが、「若気の至り」と言うか、私には楽しかった思い出です。

後日、審査員のお一人から聞いたご意見は、『一本独鈷を出品すれば、1本しかないステムが枝元から切られてしまって、その株はもう廃棄するしかない。そんなかわいそうなことをしてはいけない』というものでした。

『若すぎて花に品位がない』というようなご意見が返ってくるんだろうと予想していたので、『かわいそう』という言葉にはちょっと驚きました。

春の "三枚葉地獄" は一本独鈷で回避できる

それ以降コンテストのための「一本独鈷」は作っていませんが、春の「メルヘンケーネギン」や「ミスターコジマ」のように三枚葉地獄を呈する品種は、新苗の一本独鈷で地獄に堕ちるのを回避できるようです。

茎頂分裂組織での三枚葉や五枚葉の原基形成は、新梢(と言うより新芽)がまだ1〜2㎝と短い時点で決まるようだと推測しているのですが、葉原基形成やその後の細胞分裂をコントロールするホメオティック遺伝子などの遺伝子群の働きと、そのときの新芽の生育状態(養分の状態、気温や日照時間などの栽培環境)が、たまたま?うまくマッチするから、きれいな "葉序" になるのでしょう。 言うまでもなくこれは門外漢の推測に過ぎません:p

シュート頂の構造
シュート頂の構造
「シロイヌナズナ」のシュート頂。葉の原基は、シュート頂分裂組織の脇に順次作られていく。スケールは1目盛り10㎛。
「植物の科学」(放送大学教育振興会) 第6章 成長・発生(4) 塚谷裕一(東京大学大学院教授) から転載

三枚葉地獄のない春の「メルヘンケーネギン」や「ミスターコジマ」は、株姿のバランスが良く別品種かと思う趣があります。実証栽培が不十分ですが、「新苗で "春" に勝負」には捨てがたい魅力を感じています。ポイントは『かわいそう』を避けることですが、コンテストに出品しないのならステムを切らないので、問題はなさそうです。

脱線が本論より長くなってしまいました:p 本論に戻ります。


2 枝を残すバージョン  左:台木カット直後 2月24日

バラ ガーデンパーティ
 ガーデンパーティ 2月24日  ➡︎
バラ ガーデンパーティ
 ガーデンパーティ 4月1日
バラ ライラックビューティ
 ライラックビューティ 2月24日  ➡︎
バラ ライラックビューティ
 ライラックビューティ 4月1日
バラ ファーストブラッシュ
 ファーストブラッシュ 2月24日  ➡︎
バラ ファーストブラッシュ
 ファーストブラッシュ 4月1日

台木の枝葉を残すバージョンは、切り落とすバージョンと比較して、発芽初期から新梢の伸びはやや遅かったのですが、でも新梢の太さ(逞しさ)はこちらの方がわずかに優っているような気がします。

台木の枝葉を残せば "お地蔵さん" は出ない

記憶が曖昧なんですが、過去の「枝残しバージョン」でお地蔵さんになった事例を思い出せません。過去のお地蔵さんは、たとえば、2017年3月7日「バラの接ぎ木 孫弟子そらの不覚」でも紹介していますが、台木の枝葉を残さないバージョンです。 また、デービッド接ぎを始めた頃は「枝残しバージョン」だけでしたが、その頃は「お地蔵さん」という現象そのものを知りませんでした。つまりお地蔵さんになる株は無かったと思います。

註: "お地蔵さん" 現象については3月15日の記事:「2022年 デービッド接ぎの経過 ー4 A苗 B苗 お地蔵さん」に書いています。


結論 「台木の枝を残すバージョン」は不要

「台木の枝葉を残しておく方が株の、特に "根" の活性が高い」というのは間違っていないと確信しますが、これらの生育具合の比較からわかるように、接木後にハウス内で養生する今の栽培環境では、デービッド接ぎの "台木の枝を残すバージョン" は不要 と結論づけました。

台木の上部をカットするメリット

  • 接ぎ穂から出る新芽の伸びが、枝残しバージョンよりも早い
  • テーピングが簡単になり、作業時間の短縮と、成功率のアップが期待できる
  • 台木上部の枝を気にすることなく、接ぎ穂の芽の向きを自由に選択できる
  • 台木をカットした部分で、形成層の左右の合致具合を目視で確認しやすく、この効果は大きい
  • 後日に台木をカットする手間が省ける
  • 接木後の養生が狭い場所でも可能で、管理も容易

デービッドさんは既に何年も前から台木の枝は残していませんから、私も今後はデービッド接ぎの台木の上部は切除することにします。台木の枝葉を残せばお地蔵さんは出ない ということは魅力的ですが、お地蔵さんを避ける方策は別に考えることにします。


5月2日追記:その後

並べられた鉢植えバラ

オーナーのNさんから現状の写真が届きました。生育の良い株は奥に並んでいますが、樹高80㎝程になっているそうです。前列左には「お地蔵さん」が鎮座しています。相変わらず黙想しているようですが、その右側の4株はお地蔵さんが動き出した株です。大きくなっているのを拝見できて、嬉しい限り。

Nさんは陽気で元気、そして熱心な栽培者なので、良い環境の中でいっぱい可愛がってもらってたくましく成長するでしょう。秋の花が楽しみです。 Nさん、ありがとう。

2022年4月18日月曜日

バラを撮るなら 動画 だよね

イングリッシュローズの "シャリファ・アスマ" です。

再生時間 2分ほど(サイレント)ですが、風にそよぐだけで、何も起きません。

2022年4月13日水曜日

小林 先生 ありがとうございました

サクラ咲く季節、福岡バラ会の 小林 彰 先生がご永眠されたとの報がありました。

 2016年1月23日

 2016年8月27日 福岡バラ会研究会にて
 同 克明に記録された栽培ノート

2021年10月23日 九州ばら懇話会 コンテスト会場にて   撮影:野田 準二氏(福岡バラ会)

以下の文章は、2021年10月24日の記事:「ばら展最終日 Game Over, それとも」 から、一部の再掲載です。

註:ここに書いた「最後の」というのは、私が福岡バラ会を退会するので先生から直接ご指導を受けるのは最後 という意味です。

恩師の 最後のお諭し

出品花を準備しているバックヤードの水場に審査委員長の小林 彰先生がお見えになって、出品花を "ホット神崎" ではなく予備に持参していた "ロージー クリスタル" に変更するようにとアドバイスがあった。私は迷いつつもどうも納得がいかず、"ホット神崎" を出品した。

小林彰先生は、私が卒業した高校の恩師。直接担任していただいたのではないが、もしそうだったとしたら、60年後の今でもとても顔向けできないほど反抗的で、成績劣悪で素行不良だった私。とうとう最後まで先生の言うことを聞かない生徒で終わってしまった。

私はHTローズ栽培の基本を小林先生から教えていただいたのだけれど、『このようなレベルではとても "卒業" させることはできない』とでもお考えになったのか、退会を考え直すよう強く勧められた。ありがたいことだ。

これまで指導していただいたご恩に対しては、先生の「月々の手入れ」を編集し刊行したこと、それをウェブ・コンテンツとしてページ化 したことで、幾分なりともお返しができたのではと思っている。先生の著作を最も熱心に読んだのは(理解の程度は別として)私だろうという自負はあるが、先生への最大のご恩返しは、『良いバラが咲きましたね』と言っていただけるような花を咲かせることなんだろうけど。。

小林 彰先生は、どちらかと言うと寡黙な指導者。予備の "ロージー クリスタル" が良かったわけでもないのに、変更するようにとのアドバイスは、何を仰りたかったのだろう。

この数年、小林邸バラハウスの管理作業などのために年に4〜5回は訪問し、その都度バラ栽培のお話を伺ったけれど、最も大事なことを私はまだわかっていないような気がする。

でも、それは『教えてもらう』ことではなく、自分で見つけるべきことなんだろう。ひとりでは時間がかかるかもしれないが、バラ栽培を続けていればいつかある日、『あぁ、先生が言われたのはこういうことだったんだな』と気づくことがあるかもしれない。

先生、ありがとうございました。 如何ともしがたい寂しさの中、謹んでご冥福をお祈り致します。

2022年4月5日火曜日

台木用実生苗の鉢上げ

4月2日から5日にかけて、来期の接木に使う台木品種の実生苗の「鉢上げ」をしました。2月14日の播種から約45日後です。 播種の詳細は2月19日の記事:「バラの交配・9 播種」に記録しています。

交配してできたタネの発芽とその鉢上げについては、後日別記事で考察する予定です。


播種

ローズヒップは、12月にたわわに実った枝先を切り、そのままジップロックに入れて2月まで冷蔵庫の野菜室で保存しておいたもの。 ハリのある果皮に包まれた果肉は濃いケチャップみたいで、タネも乾燥していないのが特徴。

『水に浮くタネは発芽しない』という常識は あてはまらない

2月10日にタネを取り出し水洗した。この品種や私の方法に限ったことかもしれないけれど、『水に浮くタネは発芽しない』というのは間違い。果皮や果肉、タネを繋ぐ繊維を取り除いてタネだけを水に入れると、その半数程度は浮く。沈んだタネだけを取り出し、それをまた水に入れると、今度もまた半数は浮く。逆に、浮いたタネを再び水に入れると今度は半数は沈む。

10年もこれをやってきて、「タネが水に浮くか沈むかは発芽には関係ない」と分かっているので、浮くかどうかで選別はせず、流水と汲み換えで3日間水洗した。ちなみに、3日後もタネの浮き沈みは一定しないが、沈む割合がわずかに増える。

水洗の目的は、種皮に含まれる発芽抑制物質「アブシシン酸」(ABA/植物ホルモンの一種)の濃度を下げるため。

発根を調節する植物ホルモンには、ABAの他に発根を促進させるために働く「ジベレリン」があり、好光性種子の発芽には「赤色光」(と遠赤色光)が関係し、光受容体タンパク質として「フィトクロム」が重要な働きをする。発芽は、抑制(アブシシン酸)と促進(ジベレリン)が絡まったかなり複雑な "系"(生理システム)で、光受容体「フィトクロム」が得た情報はDNAに伝わり、発芽の抑制と促進に関連する各種タンパクの遺伝子が転写され発現する。発芽はABAとジベレリンの量のバランスでコントロールされ、単に「水洗することでABAの濃度を下げる」ということだけではないようだ。

参考図書:「植物の科学」 放送大学教育振興会

タネに到達する赤色光(600〜650㎚ 発芽を促進させる)と遠赤色光(700~750㎚ 赤色光よりも地中の深い位置に届き、発芽を抑制する)がジベレリンとABAの量を決定するので、どの程度の深さに播種するのが適当なのかが問題になる。浅いと赤色光が届き発芽しやすくはなるが、台木として使うにはできるだけ「胴」の長い苗を作りたい。そう考えて今回は10㎜の深さに播種した。

写真上右:手前と、中の右半分が台木品種。
中の左半分と奥は交配してできたタネを播いたトレーで、現在は僅かに発芽した(60芽/300粒)幼苗の鉢上げが進行中。発芽時期がかなりバラバラで、今頃になってやっと地表に出てきた芽もある。これは後日レポートする予定。

発芽率90%超

台木品種は260粒を播種し、発芽しなかったのは23穴なので、発芽率は90%を超える。発芽時期に前後2週間ほどの差はあったものの、大半はほぼ一斉に発芽したので、10㎜の深さに播種したのは正解だった。ただしこの深さは品種(タネの大きさ)や保存状態によっても異なるのだろう。

「バラ撒き」するなどの過去の発芽率は50%程度だったので、90%には驚いた。このように多く発芽するのなら、より胴長の苗を得るために、さらに深い位置での播種も試せばよかったと(今は)思う。

播種が浅いと発生する「転び苗」や「皮被り」はまったく無かった。交配してできたタネは台木品種より浅く播種したので、種皮をうまく脱げていないものも少数あった。

接木するのは葉が出ている位置(ここが "クラウン" になる)より下の胚軸。 その部分=「胴」ができるだけ長い苗にするために、発芽確認(フックと、閉じた子葉が地表に出てくる)を見計らって籾殻燻炭を被せる予定だったが、10㎜の深さからの発芽ならそれは不要と判断した。『籾殻燻炭を被せると、発芽が遅れているタネに光が届かなくなる』と考えたのも変更した理由なのだが、これは間違いだと気づいたので、以下に訂正。

4月10日追記:発芽とそのタイミングについて 訂正

  1. 前述の「植物の科学」(放送大学教育振興会)によれば、明所(赤色光を含む)ではフィトクロムは核の中に移動し "PILタンパク質" を分解する。その結果ジベレリンの合成が進み、逆にABAは作られなくなり、暗所で発芽を抑制していたDELLAタンパク質とABIタンパク質が機能しなくなって、発芽が可能になるーーのだそうだ。

    註:これは、植物生理学のモデル植物である "シロイヌナズナ" の場合で、バラの場合は「フィトクロム」「ジベレリン」「ABA」は同じとしても、発芽に関与する各種タンパク質は異なるかもしれない。

    この発芽プロセスがスタートするのに要する時間はどの程度なんだろう? もしかしたら、冷蔵庫内で2ヶ月間の休眠の後、3日間の水洗は30°C程度のぬるま湯を使っており、その間に光も浴びて、既に発芽が可能な状態に近くなっているのではないか。

  2. 発芽が可能になると、幼根が種皮を破って伸び始める。根端分裂組織のコルメラ細胞にはデンプン粒を含むアミロプラストがあり、それが重力を感知して根は重力方向に向く。胚軸の逆側にはシュート頂分裂組織とそれを護るように抱きかかえた子葉があり、下を向く根の動きに伴って必然的に地上部を向く。

  3. 子葉の付け根の少し下の胚軸は植物ホルモン・エチレンの働きで屈曲して"フック"を形成する。フックは、シュート頂分裂組織や子葉が土との摩擦で傷つくのを防ぐ。

  4. 5週目に地上に出たフックは、土との摩擦がなくなり、光を受けることでエチレンの合成量が低下して屈曲が消える。子葉(双葉)が展開し、6週目には本葉(三枚葉)が展開する。

このプロセスの 2.と 3.に要するであろう時間から推察して、地中で胚軸が伸びると思われる播種後3〜4週目で籾殻燻炭を被せて赤色光が届かなくなったとしても、その時点では既に発芽のプロセスは進行中で、それは不可逆的で、発芽の阻害にはならないのでは?

例えば、代表的な好光性種子の"ニンジン"は、タネに水を含ませながら明所で管理して、発根を確認してから土の中に播種する。バラの場合も発芽プロセスは不可逆的であることは簡単なテストで確認できるだろう。来季の小さなテーマが見つかった。

過去のドジな失敗

発芽確認前に籾殻燻炭を被せることで「胴」(胚軸)の長い苗を作る試みは、既に何度か試したことはある。これは畑の畝に播種した2016年のドジな失敗例。

左:播種後2週間ほど経過してから畝の表面に厚さ3㎝ほどに籾殻燻炭を被せると、予想通りモヤシみたいに胚軸(胴)の長い苗ができた(無理に引き抜いたので根は切れている)。ところが。。

右:畝には防虫ネットなどを使って簡易な防風設備をしていたのだが、それを上回る強い風が籾殻燻炭を吹き飛ばして、長い胴が剥き出しになってしまった。手直しするのも面倒で放置していたら、このような結果に。:p
「光屈性」で首は持ち上がったが胚軸の基部側は曲がったままで、しかも縊れている。これでは台木に使えそうもない。

バラ苗生産者はこれを避けるために稲藁を敷く。実例:「ノイバラ台木の実生苗作り(プロの場合)」
万単位の数の苗を作るのならともかく、私のように少量の場合はセルトレーでもOKで、むしろその方が手がかからないことが今回の播種でわかったので、もし10㎜の深さでの播種でも胴の長さが足りなければ、次回は荒風の当たらないハウス内に置いたプラグトレーに籾殻燻炭を被せる方法にしょうと思う。


鉢上げ

本葉(三枚葉)が2〜3葉展開したものを鉢上げした。根長は約5cm。播種に使った200穴のプラグトレーは1穴のサイズが 22㎜ X 22㎜ X 深さ40㎜。これが鉢上げの適切なタイミングだろうと判断した。

根鉢の上側10㎜の培土を取り除くと茎の白い部分が見える。それ(写真下左の緑色のライン)を基準にして、「浅植え」になるよう植え込んだ。今回は例年よりも丁寧に播種・鉢上げしたので、「胴長美人」の台木が育つだろうと期待できる。既にその気配がある(ように思う :p)

鉢上げに使用したビニポットは 4X5X8㎝(容量150㎖)の4連。培養土は挿木苗の鉢上げと同じで、住友林業緑化(株) 育苗用培養土 “土太郎”に、タキイ たねまき培土と鹿沼土の細粒(挿し芽用の土)を加えたもの。

実生苗144株の鉢上げ完了

鉢上げし、薄い液肥を与えたら勢いよく新葉が展開し始めた。すぐに根も伸びるだろうから、もう一回「鉢増し」をして根域制限で側根の数を増やし、その後「地植え」にする予定。一手間かかるが、あまり若い(細い)苗を地植えすると、風で腰が曲がり美人にはならない。HT品種を接ぐのに使いやすい幹の直径7〜8㎜の台木を作るにはやはり地植えだし、株間15㎝の1条植えにするなら長さ20mの畝が必要になる。挿木で作る台木も予定しているので、準備を急がなくては。