接木に関しては、前の記事「2022年 デービッド接ぎの経過 ー3」の続きになり、今回は私のバラです。これは接木後の経過の記録ですが、生育が良いものを選んで掲載しています。生育不良の株は、その原因の考察とともに、後日掲載する予定です。
後半の「挿木」については、バラのスタンダード仕立てを作ることを目標に、その第一段階として 母木の挿木 を紹介しています。
写真撮影日:2月24日
接木
接木をした日 1月7日8日 7週間後
接木をした日 1月14日 6週間後
接木をした日 1月20日 5週間後
挿木
接木作業に並行して、挿木も100本ほどを試みた。その半数は台木の母木を作るためだが、栽培品種もバックアップとテストを兼ねて挿した。挿木の方法 は、2月8日の記事:「バラの 芽接ぎ挿し」の内容とほぼ同じ。
挿し穂の調整 Tips
- 穂木は前日(枝が短ければ数時間前)に切り出し、雑菌の繁殖を抑制して水揚げを促進する「切り花鮮度保持剤」"クリザール フラワーフード"(または類似品)に漬けて十分に水を吸わせる
- 挿し穂基部以外の芽やトゲはそのままにしておく
- 挿し穂は長め(20㎝程度)にして、挿し床は 無菌の用土 を準備
- 発根を促す植物ホルモン「オーキシン」の製剤「オキシベロン®液剤」の2倍希釈液に、挿し穂基部を10秒ほど浸漬してから、深さ3㎝程度に挿す
今年は バラのスタンダード仕立てを作る 一連の作業を継続的に掲載する予定。
スタンダード仕立ての作り方については「挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て」という記事があり、これまでに 45,200回 も閲覧されている。この内容を今一度検証し、より確実にスタンダード仕立てを作れるようにしたい。今回がその1回目で、長尺台木を得るための母木の候補5品種と、長尺枝に接ぐウィーピング(枝垂れ)系のバラ2品種を挿木した。
スタンダード仕立ての "台木" を作る私の方法
- 長尺台木にする品種の「挿木苗」を作る
- 挿木苗を地植えして「母木」にする
- 母木の新芽を伸ばして「主枝」を作る
- 主枝に、ピンチとアーチングでサイドシュートを発生させ、それを「長尺枝」に育てる
- その長尺枝をポットに挿木して「スタンダード台木」にする
5. の長尺枝の挿木は失敗しがち。活着させるコツは「長尺挿し穂の先端に葉を残す」こと。下はバラ仲間とともに作ったその実例。作り始めた頃なので勝手がわからず、先端の葉の量がやや少ない。詳細はその時期になってから具体的に。
この台木は「ノイバラ」ではない。ノイバラは優れた台木には違いないが、背丈を超える長さで、脇枝を切除した痕跡のない(目立たない)綺麗な長尺枝を得るのはそう簡単なことではない。これも、その時期になったら検討する。
台木については、上記「挿し木と芽接ぎで作る バラのスタンダード仕立て」の「スタンダード台木の条件」に記述。
スタンダード台木(母木)−1 挿木をした日 1月6日 50日後
1月6日に挿木して、ようやく発根し始めた。左上のポットから細根が1本見えている。水分不足で挿し穂が枯れるのが嫌で「底面給水」をしているが、水分が過剰だと発根が遅れるようだ。左上の挿し穂の先端が黒っぽく見えているのは「枯れ」ではなく、上の枝葉の "影"。
スタンダード台木(母木)−2 挿木をした日 1月6日 50日後
−1と比較すると葉は少ないが 、より太めの根が出ている。薄い液肥をやり始めた。−1よりも節間が長く、トゲがなく樹肌が滑らかなので、スタンダード台木に適しているかも。
栽培品種
写真:下左の手前側2本は、スタンダード仕立てにするウィーピング品種。品種は、細い枝が数多く出る品種がスタンダードにしたときに見栄えが良いようだが、好みで何でもOK。芽接ぎをする10月までに充実した株になるよう育てる。
下右:接木と挿木の生育ぶりを比較する目的も兼ねた FLの「ベルベット・トワイライト」。右の赤い挿し穂が接木苗と同じ品種。接木苗と挿木苗では、その生育は今年は接木苗が優勢だろうが、来年は同じようになり、10年後は・・。
バラ栽培者の多くは挿木よりも接木を選ぶが、私は挿木苗も捨てたもんじゃないと思っている。 その具体例;
特に、生育旺盛なイングリッシュローズは挿木でも立派な株に育つ。下は David Austin の「メアリーローズ」。幾つものイングリッシュローズの交配親にもなった優れた品種。好きな「シャリファ・アスマ」も「ザ・ダークレディ」もそう。
脱線
「ザ・ダークレディ」は「プロスペロー」との交雑だが、それと同じ組み合わせでも「ザ・ダークレディ」が生まれるとは限らないんだそうだ。「メンデルの法則」のエンドウ豆の例のように単純じゃないのは、例えば花色を決める遺伝子はひとつではないし、しかも幾世代にもわたって交雑を繰り返してきたので、ゲノムが細切れになっているからなんだとか。
それゆえに、全ゲノム解読が終わっているバラは、私が知る限り「ロサ・キネンシス」と「ロサ・ムルティフローラ」の2品種だけ。これらはモダンローズに「四季咲き性」と「房咲き性」をもたらすという、極めて重要な働きをした品種。
品種 | 別名 | 遺伝子数 | ゲノムサイズ | 研究者 |
---|---|---|---|---|
ロサ・キネンシス | オールド ブラッシュ | 36,377 | 5億1500万塩基対 | 註1 |
ロサ・ムルティフローラ | ノイバラ | 67,380 | 7億1000万塩基対 | 註2 |
ホモ・サピエンス | ヒト | 21,306 | 31億塩基対 | 註3 |
- 註1:リヨン高等師範学校 モハメド・ベンダマン氏率いる研究チーム
モダンローズの「四季咲き性」はこれの遺伝子から取り込まれたとされている。和名:庚申バラ。
これは “Nature” 誌 30 April 2018 に紹介されている。私にはチンプンカンプンだけど、ゲノム解読の "雰囲気" は伝わるような気がする。世界初となるバラ全ゲノム解読の対象にこの品種を選んだチームの慧眼に敬服。研究者の関心はまず「香り」、そして「花色」みたいだ。 - 註2:(公)かずさDNA研究所+サントリーGIC(株)+名古屋大学
- 註3:ジョンズ・ホプキンス大学 スティーブン・ザルツバーグ教授ら
(資料作成:2019 by そら)
「庚申バラ」の遺伝子数が「ノイバラ」よりも少なく、ヒトの遺伝子数はバラよりもはるかに少ないことに驚かされる。生命進化の不思議の一つ。ゲノム解読とは直接的な関係はないが、バラの育種の世界はミステリアスで、おもしろそう!
「メアリーローズ」を5本も挿したのは、これを交配親に試すことを密かに目論んでいるのか? 😅
脱線ついでに、「アイスバーグ」もイングリッシュローズの交配親として多くの品種を生み出している。「アイスバーグ」はもちろん挿木で立派に育つし、もしかしたら、接木株より綺麗かもしれない。『花が台木の影響を受けている』(=台木品種の違いによって、花が持つ雰囲気が異なる)という指摘は、熱心な栽培者の間から聞こえてくる。もちろんそれは交雑とは異なって遺伝子レベルの話じゃないけど、でも「接木苗偏重」は、バラ苗販売業界の "策略" かもしれないぞ。 🤭
「メアリーローズ」の挿木
この「メアリーローズ」は12月3日に駄温鉢の周辺に沿って挿木して、80日後の根の状態。厳寒期に挿木する「寒挿し」は、まず発芽し小さな新葉を展開した頃に発根する。現在、幼根がやっと "ルートボール" を形成し始めているが、適期・適作(緑枝挿し・ミスト灌水)なら発根はもっと早いはず。根を伸ばすために底面給水はすでに止めており、発根を確認した今日から規定濃度の倍に薄めた液肥を与え始めた。鉢上げするにはまだ少し早いだろうが、駄温鉢に挿した場合は鉢上げが遅れると根が絡むので油断できない。
「寒挿し」は発根するまでに時間はかかるが、梅雨の時期の「緑枝挿し」にありがちな、雑菌が繁殖して道管を塞ぎ、それで水が揚がらず挿木に失敗というケースは少ない。この「底面給水」も一度も水を交換していないが問題はなかった。ただし、水の腐敗防止に珪酸塩白土の「ソフトシリカ・ミリオン」を20グラムほど投入している。
「底面給水」は、ずっと前にこのブログのコメントで教えていただいた方法。いつ頃のことだったかな、その方のお名前も忘れてしまっていて、ごめんなさい。それ以来挿木は「底面給水」で管理していますよ、ありがとう。もしこれを読まれたら「お久しぶり」のコメントをいただけませんか。
2022年12月9日追記:思い出しました。2014年11月12日の記事「秋にもできるバラの挿し木 栽培品種の秋挿し」に、12月25日にコメントをいただきました ローゼスペコさん です。失礼しました。
鉢の中央の黒っぽい挿し穂は、遅れて挿した「パット・オースチン」。駄温鉢の真ん中に挿すのは好ましくないことや、挿木時期がズレると鉢上げがやりづらくなるのはわかっているのだが、1本のために挿し床を用意するのが面倒で、つい手抜きをしている。:p
鉢上げの時期が近づいたので準備を始めた。挿木苗はまず10X10X12cmのプラ鉢に上げて、計2回の鉢増しを予定。
次の投稿:3月2日の「挿木した台木の鉢上げ」に続く。